笑い専門は笑顔に弱い
色とりどり、たくさんの花が並ぶ花屋の前に、一人の男がやって来た。 男は、迷いもせず店の奥に入り、店員に告げた。 「やっほぉん! いつものん、たぁっぷりよろしくぅ〜ん!」 そう言って、おしりをフリフリ……。店員は、男の声に応えるように笑顔を向ける。 「ちゃぁんと御用意してますよ! 今日のリボンはどうする?」 「う〜ん、やっぱし、…これ…」 男は、ポケットから巧みに何かを取り出した。 猫のキャラクターが印刷されたリボンだった。 「もぉ〜! リクエストに応えるように、これだけ入手したのにぃ」 店員は、大きめの箱を抱え、男の前に差し出した。箱の中には、たくさんのリボンの筒が入っていた。色々な種類のリボンだが、どのリボンも猫柄…。男は、箱の中を眺め、そして言った。 「ほな、これも巻いてんか」 「おおきに!」 嬉しそうな声を張り上げて、店員は準備に取りかかる。 真っ赤な薔薇をたくさん束にして、少しばかりのかすみ草を加えてから、包装を始める。男から預かった猫のキャラクターのリボンを巻き、箱の中から取り出された猫柄のリボンも付けた。 「明日も仕入れておいた方がいいかな?」 「そうやな! ほな、いつも通りに、先払いしとくわ」 そう言って、男は財布の中から数枚の一万円札を取り出し、店員に渡した。 「いつもより多いって」 店員が応えるが、男は、薔薇の花束を片手に持ち、既に店を出ていた。 「リボン代ぃ〜」 軽い口調で応えた男は、そのまま車に乗り込み、店を去っていった。 「あっ、ちょっと、健ちゃぁん!! …ったくぅ〜。いっつも行動は早いんだからっ」 諦めたように言う店員は、新たな客が来たことで営業スマイルへと変化する。 「いらっしゃいませ!」 真っ赤な薔薇の花束を助手席に置いて、鼻歌交じりに運転しているのは、その昔、お笑いの世界で頂点を極めた途端、急に姿を消した・小島健(こじまけん)という男だった。 車は赤信号で停まる。 健は、助手席に置いた花束に目をやった。 今日も素敵な笑顔に逢えるかな…。 そう考えるだけで、自然と笑みがこぼれていた。 でも、あの日の笑顔が一番、俺の心を射止めたもんなぁ。 青信号になり、健はアクセルを踏んだ。向かう先は、愛しの『あのひと』が居る場所。健は連日、その場所へ真っ赤な薔薇の花束を持って、通っていた。 この日、ふと思い出した。 遠いあの日の事を……………。 阿山組四代目が健在の頃、健はお笑い界から極道界へと生きる世界を変えた。 父親から勘当された手前、父親の元では動けない。血の繋がった兄を『兄貴』と慕いながら、組員として過ごしていた。修行としての下足番・門番から始まり、知力・体力を身につけて、徐々に格を上げていく。その世界では当たり前の事だが、根を上げてしまう者達が多かったのもあり、修行の厳しさには何故か慣れていた健は、直ぐに格を上げていた。 しかし、それは自分が望む物では無い。 自分は何をしたかったのか。それを考えると、周りの声すら耳に入らない。 一人佇む事が多かった。 そんな姿が、『愛しのあのひと』の目に止まったのか、あのひとは、優しく声を掛けてきた。 自分の眼差しに恐れながらも、優しく声を掛けてくるあのひとは、徐々に自分との時間を増やしていった。 だけど、俺……。 健の車の中に、メロディーが鳴り響く。 車に搭載している電話が鳴っていた。健は、ハンドルの横に付いているボタンを押した。 「はいなぁ」 『健、いつになる?』 スピーカーから聞こえてくる嫌な声…。 愛しのあのひとのボディーガードとして有名な男・猪熊八造。通称・くまはちという男だった。 「それは解らん。…くまはちは……兄貴んとこかよ…」 『予定より早く終わったんでな、次の資料を…と思ったけど、 ……用意してへんのか?』 「今持ってるんやけど…」 『戻って来い』 「やなこった。それやったら、組長の病室に向かえって」 『俺より遅れるなよ。逢う前にもらうで』 「解ってるって。飛ばすなよぉ」 『…………じゃかましぃ……』 地を這うような声が聞こえた途端、音声は途切れた。 健は大きく息を吐いて、項垂れる。 ったく…俺のせい、ちゃうやん…。 くまはちが、健に対して冷たい態度を取るようになったのは、健が、愛しのあのひとに、抱いた心を知られた頃。 あのひとと二人っきりで居ると、動悸が激しくなり、沸き立つ感情を抑えきれなくなる。それをグッと抑える為に、あのひとと接する事を、わざと避けていた。 それをくまはちに問いただされ、そして、自分の気持ちを打ち明けた。その後から、少しずつ、冷たい態度になっていく。 恐らく、『危険人物』として認識されてしまったのだろう。 流石、最強のボディーガード……。 健の運転する車が、橋総合病院に到着した。駐車場のいつもの場所に車を停めたと同時に、隣に急停車する高級車に気付く。健はため息を吐きながら、後部座席に置いてある書類を手に取り、その高級車に乗る男に、窓越しに手渡した。 「早すぎや、くまはち」 「これでも遅いやろが。…これで全部か?」 「いいや、あと二割が報告待ち」 「あのなぁ〜」 「急かすなって」 そう言いながら、助手席の花束を抱えて、車から降りてくる。 「ったく、組長の病室を花束で埋めるなよ」 優しく言うくまはちは、サングラスを掛け、口元を少しつり上げた後、窓を閉める。そして、去っていった。 健は軽く手を振って見送っていた。 「さてと」 気を取り直して、病院の建物を見上げる。 目が留まった、その場所こそ、愛しのあのひとが入院している病室だった。窓から少し見える真っ赤な薔薇。それを見つめ、そして、歩き出す。 今日も驚くかなぁ。 そう。あの日、生きてきた中で一番驚かされた日でもあり、一番嬉しかった日でもあった。 今の自分の人生を決定した時でもある。 頂点まで達したお笑い界。名残惜しくないのか?と言われれば嘘になる。 名残惜しかった。 だけど、自分にとって大切な兄が、とある事件の後、無茶な行動に出そうだったので、それを停める為にも、お笑い界から、きっぱりと足を洗い、極道界へと戻ってきた。 時々、無性に戻りたくなる。 あのまま、お笑い界に居た方が、幸せだったかもしれない。 そう思うと、居ても経っても居られなくなり、自然と体が動いてしまう。 足が勝手に、別世界へと向かってしまう。 華やかに見えるお笑い界。 戻りたい。 そんな時だった。 「阿山組の者だな…」 不気味な程の声を耳にした。振り返ると、そこには、極道面をした男が銃口を自分に向けて立っていた。 「それが、どうした?」 そう応えた途端、男は引き金を引いた。 咄嗟に避けたものの、男が放つ銃弾は、容赦なく自分を襲ってきた。 しまったっ!! そう思った時は、遅かった。 あまりの痛さに地面に蹲り、吸えない息を必死で吸っていた。 呼吸の仕方を忘れる程、自分が傷ついている事に気付いたのは、耳慣れた声をした時だった。 健!! ゆっくり息を吸え! 落ち着けっ!! あ……兄貴……。 怒りと哀しみが混じった兄の顔が、目に飛び込んできた。何か言おうと思ったが、声が出ない。 記憶にあるのは、そこまでだった。 目を覚ますと、そこは、味気のない殺風景な部屋。少し固いベッドに寝かされ、腕には点滴が施されていた。体中に痛みが走る。 「健、痛いのか?」 声の聞こえた方に目をやると、そこには、すごくやつれた兄が居た。何かを言いたいが、口に呼吸を助ける管が通っている事に気付く。自分は、そっと頷いた。 兄は直ぐにナースコールを押した。 どうやら、自分は狙われたらしい。 特に目立つような行動はしていなかったが、敵状を調べている時に、縄張りに踏み込んでしまった様子。 未だ迷っていたお笑いの世界を見つめに行ったときに……。 敵に気付くのが遅かった。 その縄張りこそ、敵に容赦ない攻撃を加える組織が牛耳る所。 迂闊だった。 呼吸の管も取れ、少しばかり話せるようになった時だった。 病室のドアがノックされた。 そっと目をやると、カラス越しに見える真っ赤な物に、思わず警戒してしまった。 ま、まさか……。 再び、敵の攻撃かと思った時、か細い声が、ドア越しに聞こえてきた。 『まだ、お話できないのかな…』 『栄三からは、話が出来るとお聞きしたのですが…』 『寝てるのかな…起きること…出来ないのかな……』 その声は震えていた。 『お嬢様!! 泣かないで下さい!! 恐らく、眠ってるのだと思います。 だから、それだけをそっと置いて、後で栄三にでも言っておきましょう』 『…そうする……』 声が聞こえてから、暫くしてドアが静かに開いた。 思わず寝たふりをしてしまう。 静かな足音が近づいてきた。 「眠ってるね」 「はい」 「…怪我……痛そうだね」 「そうですね」 「まだ…入院だよね」 「美穂さんは、そうおっしゃってました」 「ひどかったんだ…」 またまた震える声に、思わず目を覚まして、声を掛けてしまった。 「…大丈夫です!! 俺は、大丈夫ですから、お嬢様!! だから、泣かないで下さい!」 突然の俺の声に驚いたのか、目の前に居る愛しの人は、目を丸くしていた。 その時、目に飛び込んだのは、愛しの人がしっかりと抱きかかえている真っ赤な物だった。 「健さん…」 「健と呼んで下さい」 「びっくりした……起こしてしまったんですね…すみません」 「いいえ、起きてました…。…その……」 「あっ、その……これ……お見舞い」 「ほへ?!?!??」 「健……さんが喜ぶかと思って…」 愛しの人は、ちょっぴり照れたように言った後、ゆっくりと差し出した。 それは、真っ赤な薔薇の花束だった。 束を結ぶ所には、かわいい猫のキャラクターが印刷されているリボンが付いていた。 「俺…に……?」 突然の事に、何がなんだか解らないまま、俺は、愛しの人に尋ねていた。 愛しの人は、コクッと頷いた。 ちょっぴり起きづらかったが、体を起こし、俺は、それを受け取った。 「ありがとうございます」 「その…起きても大丈夫なのですか?」 愛しの人は、年相応の口調とは違い、丁寧に尋ねてくる。 「傷はそれ程、重くないそうですよ」 「…良かった」 ホッと胸をなで下ろした愛しの人。その時の表情は、傷の痛みを忘れさせてしまうほど、穏やかで、そして、温かく……。 「栄三さんから聞いたときは、すごく心配だったの…」 「兄貴に聞いたんですか?」 「その……あの……」 照れたように、耳まで真っ赤になる愛しの人。そして、一緒に病室へ入ってきた男の後ろに身を隠した。 「栄三がお嬢様に負けたんだよ」 「兄貴が?」 まぁ、そりゃぁ、兄貴も、愛しの人にメロメロだからなぁ。 「でも、本当に良かった」 男の後ろから、ちらりと覗き込む、その仕草に心臓が高鳴った。 自分が理性を抑えられなくなる笑顔だったのだ。 「……そろそろ帰るぞ。…慶造さんには、内緒なんだから」 「って、それは、やばいだろがっ!」 「真北さんには、言ってある」 「それでも、やばいって!」 思わず焦る。 「お嬢様、そろそろ帰りましょう」 男が声を掛けた。しかし、愛しの人は、首を横に振った。 「お嬢様?」 「明日も……」 自分には聞こえなかったが、男には聞こえていた様子。 「明日は、美穂さんと一緒に来ましょうね」 男が優しく声を掛けると、愛しの人の笑顔は一段と輝いた。 「うん!」 一緒に来た男が、薔薇の花束を花瓶に入れた後、愛しの人は、素敵な笑顔と共に去っていった。 暫く余韻に浸っていた時、再び病室のドアが開いた。 「どぉうぅ〜、調子はぁ??」 それは、この病院に勤める母の美穂だった。 「ん〜、程々…」 「…!!! あらら、これは? いつの間に彼女が出来たんよぉ!! 母に紹介しなさい!」 「って、お袋っ! それは、真子お嬢様から」 「……真子ちゃんから?!?!???」 美穂は驚いたように目を見開いていた。そして、直ぐに、何かに気付いたように頷く。 「何一人で納得してんねん!」 「昨日ね、真子お嬢様に質問されたんよ」 「ん?」 「美穂さんは、何をもらったら一番嬉しい?…ってね」 「ん??」 「真っ赤な薔薇の花束…って応えたんだわ…」 「…ん…?!??」 「…まさか、お嬢様自身の質問とは思わなかったわ…」 「って、お袋、どういうことなんや?」 「…その…」 どうやら、お袋は、父から間接的に質問されたと思ったらしい。 「まさか、その相手が健だとは…驚いた……」 「でも、どうして、お嬢様は、俺なんかに…」 「健の怪我。誰よりも心配してるんよ、お嬢様が。…健の怪我を知ったのは 栄三の暗い表情が原因なんだけどね…」 「兄貴、それ程まで落ち込んでたんか…」 「それは………」 お袋は、それ以上口にしなかったが、言いたいことは解っていた。 気を失う前に観た兄貴の表情こそ、俺がお笑い界から足を洗った時に見た表情と全く同じだったから。 これ以上、大切なものを失いたくない。 兄貴が、そっと呟いた事を想いだした。 次の日、愛しの人は、お袋と一緒にやって来た。 小さな体には抱えきれないほどの花束を持っていた。 次の日も、その次の日も、それは続いた。 病室は、真っ赤な薔薇の園が出来る程の花で埋め尽くされた。 日に日に増えていく花に、俺は心を和ませていた。 花束に付いているかわいい猫のキャラクターのリボンは、ベッドにくくりつけていた。それも日に日に増えていく。 動ける程に回復しても、その『花束攻撃』は続いていた。 「兄貴ぃ」 「ん?」 「お嬢様を停めてくれよぉ」 「…嫌なんか?」 ギロリと睨む兄に、思わずたじたじになる俺。 「いいや…嬉しいけど……これ以上は飾れないよぉ」 「気にするなって。お袋の同僚や後輩に退院のお礼で渡せばええやろ?」 「嫌やぁ、俺がお嬢様にもらったのにぃ〜、そんなん嫌やぁ〜」 「…健…退院したら、持って帰るつもりか?」 「あかんのん?」 「車に乗らん」 「……そっか……」 腕を組んで暫く考え込む。 そして、閃いたのは……。 殺風景な病院の庭に、薔薇の花壇を作った。 根付くとは思わなかった。それが、愛しの人の愛の強さなのか、定かで無いけれど…。 病室のドアをノックする。 『はぁい』 「健です」 『いいよぉ、どうぞ』 その声と同時にドアを開けると、そこには、愛しの人の笑顔が輝いていた。 「お待たせぇ〜っ!!」 そう言って、おしりをフリフリすると、愛しの人は、喜んだように声を挙げて笑い出す。 それは、いつもの光景。俺の鼓動が高鳴る寸前の事。 「今日もお持ちしましたよ!」 愛しの人へ、真っ赤な薔薇の花束を渡す。 「ありがとぉ。…わぁっ!! この猫って、新しいんちゃうん?」 「そうですよぉ。そして、こっちは、俺お手製のリボンです! 気に入って頂けましたか?」 「うんうん! ありがとう! 嬉しいぃ! これでまた、元気になるってこった!」 「喜んで頂けて、そして、元気の源になって、光栄です」 「ね、ねぇ、健」 「はいなぁ!」 「面白い話ある? たいくつしてたのぉ〜」 「たっぷり御用意しておりますよぉ。どれからいきましょう?」 「あまり傷に響かない程度かな」 「では、こちらに」 そう言って、健は懐から小型のパソコンを手に取り、真子の前に差し出した。 真子は、薔薇の花束を抱えたまま、小型のパソコン画面を覗き込む。 『裏情報・極秘』 画面の中央に現れた。 健は車をバックさせて、家の駐車場に停めた。エンジンを切り、車から降りてくる。駐車場の側にあるドアを開けて、家の中へと入っていった。 「おっかえりぃん」 そう言って待っていたのは、兄の栄三だった。 「飯は、店にあるでぇ」 喫茶店の経営もしている栄三は、この日の売り上げの計算中。 「ん…ありがと」 軽く返事をして、店に通じるドアを開けて、そこに置いてある食事を持って部屋に戻る。 「組長に伝えたんやろ?」 銜え煙草で栄三が尋ねる。 「まぁ、九割な」 「後は、自分でするんか?」 そう言って、栄三が上目遣いで健を観た。健は、何かを考えながら、料理を口に運んでいる。そんな時は、何に対しても、あやふやな返事しかしない。 栄三は、フッと笑みを浮かべて、再び売り上げの計算に入った。 「なぁ、兄貴」 「あん?」 「なんで、あの時、お嬢様は俺に花束を持ってきたんかな…」 健の口調で、何を考え、いつの頃の話をしているのかが解る栄三は、素っ気ない雰囲気で応えた。 「そりゃぁ、健の事が好きなんやろ?」 「?!?!??」 目を見開く健に、栄三は微笑む。 「まぁ、それ以上に、俺のことが好きなんやけどぉ〜」 「あぁにぃきぃ〜ぃ?」 「俺の表情で健の事を知ったんやで? 俺の事が気になるから 尋ねてきたんやろ?」 「……もぉえぇ〜」 ふてくされたように言った健は、残りの料理を素早く口に放り込み、空の食器を店に持って行く。そして、洗い始めた。 ったく、兄貴は、誤魔化すんやからっ。 あの日、愛しの人と一緒に来た八造に聞いた事。 そりゃぁ、もう、笑顔を忘れるくらい、暗いんやで。 お嬢様だけでなく、俺も心配やった。 健は死ぬかもしれない…そう考えたんだから、 お嬢様が心配するのも当たり前やろ。 『健〜、食材確認しとってやぁ。忘れとった』 「明日、朝一に買いに行くから」 『ありがとっ! よろしく!』 冷蔵庫のドアを開けると、そこには、小さな箱が納めてあった。 不思議に思いながら、箱を観察する健。 猫柄の包装紙に、猫柄のリボン。 それを観ただけで、誰からの贈り物なのかが解る。 そっと手に取り、冷蔵庫から取り出すと、猫模様のメモが付いていた。 ん??? メモを裏返すと、優しい文字が並んでいた。 お誕生日おめでとう! いつも素敵なお花、ありがとう! 嬉しいし、心が和むよ! 健、あんまり無理したら、あかんよぉ〜。 心配する人が居るからね! 真子より 包装紙をそっと剥がし、箱を開けると、そこには、猫の飾り物が入っていた。 光を感知して、動くものらしい。その飾り物の横には、写真を入れる事が出来るのか、丸い場所があった。スイッチを入れると、猫は首を振り始める。 まるで、愛しの人が、何かを尋ねる時に首を傾げる仕草のように。 猫の表情と愛しの人の表情が重なる。 組長…またしても完敗です!! 部屋の電気を消し、布団に潜る健。 兄の栄三は既に眠っていた。 ふぅ〜わぁ〜〜。 欠伸をして、寝返りを打つ。 明日は、もっと素敵な笑顔に逢えるかな……。 健の笑いで、更に輝く笑顔を楽しみに、遠い昔を思い出しながら、深い眠りに落ちていく。 (2015.11.16 UP 改訂版2016.5.22. 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