任侠ファンタジー(?)小説『光と笑顔の新たな世界』 外伝
〜任侠に絆されて〜


最終部 『任侠に絆されて』
任侠に絆されて (1)

この年も、不思議な事が起こった。
いつもなら、素敵な姿を見せるのに、この年も、咲かなかった桜……。



まさちんに見送られ、真子は校舎へと駆けていく。
クラスメイトと挨拶を交わして、校舎へ入っていった。
まさちんは、そんな真子を優しく見つめ、運転席へと乗り込み、去っていく。



真子とクラスメイトは靴を履き替えて、教室へ向かって歩いていく。

「あっ、そうそう! みっちゃんがね、この間、話していた初等部の
 教師の写真を手に入れたんだって」
「すごいね。誰かが撮影したの?」
「みっちゃん」
「自分で??」
「お父さんからカメラを借りて、休み時間になったら、
 もう、必死で追いかけていたんだって!」
「教師に見つからなかったの?」
「教師の方が観念して、写真を撮らせてくれたんだって。
 その時に、目一杯お話したって、凄く喜んでたよぉ」

真子とクラスメイトは階段を昇っていく。

「……だからね、覚悟…しておいた方がいいかもよぉ」
「…覚悟?」
「うん。きっと…」

教室のドアを開けた途端…。

「阿山さぁん! 観て、観て、観てぇ!!」

みっちゃんと呼ばれるクラスメイトが、凄く元気な声を張り上げて駆け寄ってくる。

「これ、これ!」
「……凄いでしょ…」

一緒に歩いてきたクラスメイトが、真子の耳元で、そっと呟く。

「…た、確かに……」

真子は思わず苦笑い。

「この間、話した先生の写真を撮ったの! もう、一生懸命
 追いかけてたらね、先生が、『仕方ないですね』って
 写真を撮らしてくれたの!!」
「良かったですね」
「これこれ!」

と、みっちゃんが写真を見せようとした時だった。

「朝から、五月蠅いわねぇ」

麗奈が、スゥッと立ち上がり、真子達の方を睨んできた。

「ご、ごめんなさい」
「静かにしなさいよ。もうすぐ授業が始まるわよ」

そう言って、プイッとそっぽを向いて、麗奈は友人と話し始めた。
予鈴が鳴った。

「麗奈さんが居ない時に、見せるね!」
「う、うん」

みっちゃんは、自分の席に着く。
真子も席に着いて、荷物を置いた。そして、一時間目の用意を始めた。
授業が始まり、生徒達は集中する。
真子も教師の話に耳を傾けていた。
ふと、真子は思い出した。

何処かで耳にしたような、話だったなぁ…。

先程、クラスメイトとみっちゃんが話していた内容を、ほんの数日前に耳にした記憶がある真子。どこで耳にしたのかと、深く考え込んでいた。
そして、授業終了のチャイムが鳴った。教師が教室を出て行ったのと同時に、みっちゃんが真子の側にやって来た。

「これなの!」

いきなり声を出して、真子に写真を見せた。
真子は、びっくりしながらも、みっちゃんが差し出した写真を手に取った。

「カメラ目線になって下さったの!」

みっちゃんの口調は、恋する乙女。
しかし、真子には、さっぱり解らず…。取り敢えず、写真に目をやった。

えっ??????

写真の教師を観て、真子は目を見開いた。

「カッコイイでしょぉ〜。山本芯って、名前なんだよぉ」
「は、はぁ……」

そういや、時々異様な目線を感じるって、電話で…。
もしかして、この…。

真子は、みっちゃんを見つめた。
どうやら、教師と話した内容を語っている様子。

「でもね、お母さんも言ってたんだけど、…山本先生って」
「えっ? 山本先生が…どうしたの?」
「この眼差し……」
「眼差し?」
「…教師に見えないなぁって」
「えっ!」

みっちゃんの言葉に、真子の心拍は高くなる。
まさか、ばれた…??

「流石、格闘技マスターって言われるくらいだよね!
 どんな時でも鋭い眼差し! そこがまた、素敵だよぉ!」
「は、はぁ……」

ばれてない…でも……。

その後、真子は放課後まで考え込んでいた。



芯は、いつものように、真子が帰宅する時間に合わせて、駐車場が見える廊下を歩いていた。

あらら、お嬢様っ! 考えながら歩くのはぁ……。

芯が見つめる先。そこには、駐車場に向かって歩く真子の姿がある。放課後になっても何やら考え込んでいる真子は、考えながらも、駐車場に向かって歩いていた。


真子の姿に気付き、車から降りた……が、真子はそのまま、通り過ぎていく。

「お嬢様っ」

その声に、ハッとした真子は歩みを停め振り返った。

「どうされたんですか?」
「それは、私の台詞だけど………明後日って言ったのに…。
 …くまはち、もしかして……また、怒らせちゃった?」
「はぁ、すみません……張り切りすぎて、帰れと言われました…」

そこには、くまはちが立っていた。

「私よりも、お嬢様です。…もしかして、クラスで何か…」
「……くまはち、寄って欲しい所があるんだけど、駄目かな…」
「駄目ですよ、お嬢様」

そう言って、車から降りてきたのは、フロントガラス越しに、廊下の窓から見つめる芯と睨み合っていた政樹だった。芯に指を刺され、真子が悩んでいると知った政樹は、八造と話し込む真子に厳しい言葉を…。
言った途端に、脛を蹴られた政樹。

「…っ!! お嬢様!」
「ケチっ。まさちんのケチっ! まさちんには頼んでないもん。
 それよりもぉぉぉ……」

ちょっぴり怒った口調で、真子は突然、校舎の窓に目をやった。

居ない……。

真子が目をやった窓こそ、芯が居た場所。
芯は、真子の目線が向く直前にしゃがみ込み、姿を隠していた。

「二人に…話があるんだけどなぁ…」
「な、なんでございましょう…」

思わず、たじろぐ二人だった。




八造の車が商店街の駐車場に停まる。そして、真子と八造が降りてきた。
もう一人、政樹の姿は無かった。
なぜなら、学校の駐車場での政樹の一言が、真子の怒りにちょっぴり触れてしまい、一度、家に帰った後、着替えを済ませてから、政樹を置いて、八造と真子の二人だけで商店街へとやって来たのだった。
車の中で、真子は一通り、自分の思いを八造に伝えた。八造が真子の質問に応えた時に、駐車場へと入った。そして……、

「その質問は難しいですね…」

八造が深刻な表情で応える。

「サングラスを常に変えてる、くまはちなら安心なんだけど…」
「!!! 御存知だったんですか!! お嬢様の前では掛けたことは
 ございませんよ…」
「車の窓から見えてるけど」
「あぁ…あ……すみません……」
「だからぁ、そのね、鋭い眼差しを抑えることが出来る眼鏡はぁ」
「眼鏡を掛けると優しくなるとは限りませんよ」
「さっき応えたのは、くまはちなのにぃ」
「すみませんっ!! でも、それは、本人に聞いた方がよろしいですよ」
「駄目!それは、駄目!! …だって……内緒なんでしょう?」
「えぇ」
「それだったら、逢うこと出来ないし、電話でも…無理だもん」

ちょっぴり寂しげな表情をする真子に、八造は優しい眼差しを向け、そっと頭を撫でた。

「すみませんでした。実は、私も思っていた事なんですよ。
 でも、見慣れた表情なので、それが普通と思ってました。
 一般市民は、違うんですね」
「……お話聞くまで、気付かなかったの…。見せてもらったお写真ね、
 本当に、鋭い眼差しだった……」
「あれが、普通だと思いますが…」
「ぺんこうにとっては、普通だろうけど…。みんなに怖がられてたら
 どうしよう……」

真子は悩んでいる様子。

「取り敢えず、私の行き付けの店でよろしいですか?」
「お願いします」
「あっ、いや、その……は、はぁ…」

真子が深々と頭を下げてお願いするものだから、たじろいでしまった。




眼鏡屋。
店に入った途端、店長が顔を見せた。

「いらっしゃいませ。本日は、どういった商品をご要り用でしょうか?」
「今日はお嬢様の希望で、眼鏡を」
「お嬢様……???」
「初めまして。本日はお世話になります」

深々と頭を下げて挨拶をする真子に、店長は思わず腰が退けてしまった。

「お客様、そのような態度は困ります!!」
「えっ???」

真子は驚いたように顔を上げ、八造を見上げた。
八造は優しく微笑んでいるだけだった。

「後で呼びますので、それまでは、声を掛けないでください」
「かしこまりました」

八造の言葉に丁寧に応え、店長は奥へと戻っていった。

「取り敢えず、ここから検討いたしましょう」

入り口近くの棚の前に立ち、八造が言った。

「……すごくたくさんあるんだね。……参ったなぁ…」
「お嬢様の想像力で、決めて下さい」
「難しいよぉ。どれも似合いそうだもん。くまはちが選んでよぉ」
「私がですか??」
「一番センスあるのは、くまはちだからさぁ。…まさちんは無理だもん」
「………だから、おいてきたんですか?」

八造に言われて、真子はコクッと頷いた。



二人は一通り棚に並ぶ商品を見終え、一番最初に見た棚に戻ってきた。

「お嬢様、どれにしますか?」
「えっと……これと、これと、…これ…かなぁ」

真子は陳列棚から商品を三つ手に取った。その商品を見た途端、八造は、

確かに、似合うよな、これらは。

声にしなかったが、そう思った。
八造も、真子が選んだ三つの眼鏡は、芯に似合いそうだと思っていた。
真子のセンスに、驚きながらも、冷静に対応する。

「お嬢様」
「はい」
「形は、これで良いと思うのですが、その……」
「駄目?」
「…色は、ちょっと…」

八造が困っているのは、真子が選んだ色。
芯は緑色が好き。だが、真子が選んだ緑は、原色そのものであり、いくらなんでも、その色は……。

「だって…緑が好きだから、これ…」
「仕事で使うんですよ? これでは、プライベイトになります」
「……でも…」
「そうですね…」

八造は暫し考え込み、そして、店長を呼んだ。

「お待たせいたしました」
「この三つなのですが、他の色は御座いますか?」
「店頭にある色のみでございます」
「いつものように、特注が可能ですか?」
「可能ですが、場合によっては、お時間が掛かります」
「見た目は黒だけど、光の加減で緑色に見えるように
 できますか?」
「えぇ」
「それでしたら、この三つとも、その色でお願いします」
「かしこまりました。取り敢えず、色見本がございますので
 ご覧くださいませ」

店長は、色見本と書かれた棚から一冊のファイルを手に取った。
ファイルの表紙には、『緑系』と書かれていた。表紙を広げると、緑色の色々な見本が、そこに貼られていた。それを観た真子は、驚いたように目を見開き、

「この中から色を選んでいい??」

爛々と輝く眼差しで店長に尋ねていた。

「は、はいっ!」

真子の眼差しに心拍が高くなったのか、店長の返事は裏返っていた。

この男はぁぁっ!

八造の表情が怒りに……。

うごっ……。

真子の肘鉄が、見えない早さで八造の鳩尾に突き刺さった。

「すみません…」

真子の耳元で、そっと応える八造だった。



「ありがとうございました」

店長に見送られ、真子と八造は眼鏡屋を出てきた。
外はすっかり、暗くなっていた。
八造の手には一つの紙袋が。
それこそ…。

「お嬢様、ありがとうございました」
「それは、私の台詞でしょぉ。ありがとう、くまはち」

真子がニッコリ微笑んだ。

「それも、使ってね」
「はい。お嬢様をお迎えに行く日には、必ず」

八造の手にある紙袋。その中には、真子が選んだ八造のサングラスが入っていた。

「一週間と仰ったのに、五日で出来るって…すごいね!」
「出来上がる頃は、戻ってきますので、私が取りに参ります」
「むかいんにお願いしておくけど………」
「お嬢様…」
「はい」
「……私じゃ無理だと……?」
「そうじゃなくて、だって…予定よりも遅くなるかもしれないし
 忙しくなるかもしれないでしょう? 日帰りも大変でしょう?」
「大丈夫ですよ、お嬢様。私は予定通りに…」
「………今日、帰ってきたのに?」

真子の言葉に、八造、返す言葉が出てこない………。

「無理しなくていいのに」
「そうですね。もしもの事がありますから、むかいんに
 お願いしておきましょう」
「うん!」

真子は嬉しそうに返事をする。

「では、帰りますよ」
「はい! 遅くなって、ごめんなさい」
「むかいんには伝えていましたので、大丈夫ですよ」
「………くまはち」
「はい」
「…もしかして……」
「想像してました」

八造が応えた途端、真子はふくれっ面になる。そして…、

「もうっ!」

プイッとそっぽを向いて、真子は早足で駐車場へと向かっていく。

「あっ、待って下さい!!」

慌てて真子を追いかけていく、八造だった。





八造は、大阪の仕事へと向かった日。向井は食料品の買い出しの時に眼鏡屋へ足を運ぶ。向井に続いて、政樹も入っていった。
もちろん、政樹は運転手。

「こちらになります」

店長が紙袋を四つ手渡した。

「…四つ??」

向井が尋ねる。

「はい。猪熊様には、いつも感謝しております」
「いいえ、いつも無理な注文ばかりで、恐縮しております」
「お陰様で技術の腕も上がっております」
「そう言われると、返す言葉がございません。では、また」
「お待ちしております。本日は有難う御座いました」

丁寧に店長に見送られて、向井と政樹は店を出た。
向井は、真子から聞いていた数と違う数の袋を手渡され、首を傾げていた。
取り敢えず、中を見る。
三つの袋には、緑系の眼鏡ケースが入っているが、一つだけ、青系の眼鏡ケースだった。
メタル調の青。

「ほい、これ」

向井は、青系の眼鏡ケースが入っている袋を政樹に渡した。

「ん? あぁ、すまん」

政樹は訳が解らないまま、手に取った。

「多分、まさちんの」
「俺?? ぺんこうさんの眼鏡じゃなかったのか?」
「この三つが、そうだけど、それだけ種類が違う」

そう言われて、政樹も袋の中を確かめる。

「確かに……。…聞いてたのか?」
「いいや。俺は何も聞いてない。三つ…って言われたんだけど…」
「お嬢様に…聞いてみるよ」
「よろしく」
「じゃぁ、ぺんこうさんのマンションに向かうよ」
「あぁ」

駐車場へ戻った二人は、一路、芯のマンションへと向かっていった。



芯のマンションで夕食準備を終え、そして、テーブルの上に袋を三つ置き、側に猫柄の封筒を置いて、向井と政樹はマンションを後にした。
政樹は向井を本部へ送った後、真子を迎えに車を走らせる。
車が到着すると同時に、真子の姿が現れた。
毎回、絶妙なタイミングで真子を迎えに来る政樹。
それは、意識しているわけでもなく……。

「お疲れ様でした、お嬢様」
「ただいまぁ」

真子は助手席に乗り込んだ。
何やら楽しみにしているような表情で、真子は政樹を見つめた。
その表情から、政樹は悟った。そして、

「ちゃんと届けておりますよ。手紙もおいてきました」
「うん。ありがとっ」
「それと、これ……私の…ですか?」

政樹は後部座席の下に置いていた袋を真子に見せた。

「すごぉい! 内緒にしてたのに、解ったの???」
「むかいんから、もらいました」
「中…見た?」
「はい。サングラス…」
「きっと、似合うと思うよ! 日差しが強くなってくるから
 ちょうど良いと思ったの! 使ってね!」
「ありがとうございます」

お礼を言った政樹は、ふと、何かに気が付いた。

「あの……これの代金は…」
「くまはちから」
「くまはちさんにお礼…」
「大丈夫だよ。私がたくさんお礼言ったから」
「私からも申し上げた方が…」

後々、怖いですから…。

と言いたいが、言えない。

「言わなくても良いの!」

真子が強引に言うものだから、

「かしこまりました…っ!」

政樹は、いつもの口調で応えてしまう。…と、真子から肘鉄。

「帰ろ!」
「はい。寄り道はしませんからね」
「解ってるもん」

真子がふくれっ面になる。
それを気にしながら、政樹はアクセルを踏んだ。
車は校門を出ていった。

本日も、無事。

桂守の姿が、真子が乗る車を追うように過ぎ去っていく。




芯の車がマンションに到着。
駐車場に停めた後、部屋に向かってエレベータに乗った。
鍵を開け、入っていく。
いつもの通り、夕食の準備は終わっていた。後は温めるだけ。
電気を付けると、いつもと違う光景が、テーブルの上にあった。

ん???

紙袋が三つ。その側には、猫柄の封筒が置いてある。不思議に思いながら、封を切った。
手紙を広げると、更にかわいい猫柄の便箋に、見慣れた綺麗な文字が、規則正しく並んでいた。

『お帰り、ぺんこう! 今日もお疲れ様でした。
 突然のことで、驚いてると思いますが、
 お仕事の時に使って下さい。
 更に素敵な教師になると思います。
 真子』

「………どういう事なんだ?? …仕事で…って、これ、眼鏡…だよな」

紙袋に入っているのは、眼鏡ケース。だからこそ、それが何か解る。
一つを手にし、そっと開けた。
そこには、黒縁の眼鏡が入っていた。

「黒? …いや、緑?」

光の加減で、ちょっぴり色が変わることに気付き、芯は眼鏡を傾け始めた。
レンズの向こうの景色は歪んでいない。

度は…入ってないんだな……ということは、伊達??

芯は、眼鏡を掛けてみた。
茶箪笥に写る自分の姿が、ちょっぴり違って見えたため、洗面所へを足を運ぶ。

まるで別人だなぁ。

芯はサングラスを掛けたことはあっても、伊達眼鏡を掛けたことは無かった。
見慣れた自分の顔ではない。
凄く真面目で、まるで、教師……。

教師????

芯は首を傾げながら、洗面所を出てきた。そして、残りの二つも手にとって、洗面所で眼鏡を掛けてみる。
どれも、自分に似合っている。
お腹が鳴った。
芯は取り敢えず、眼鏡をケースに収め、手を洗い、うがいをする。そして、洗面所を出て行った。

「いただきます」

向井が用意した夕食を温めて、箸を運び始めた。


その日の夜は、猫電話の予定ではない。
だけど、電話を掛けたい。
その衝動を抑え、自分の事を始める芯。ふと、目に飛び込んできた眼鏡ケース。芯は、それを並べて目を瞑り、一つを手に取った。そして、鞄の中へとしまいこむ。
その手が、停まる。

何が…目的なんだろ…。

芯は悩み出す……。




取り敢えず、眼鏡を掛けて職場に向かった芯は、職員室へと入っていく。すれ違う生徒や教師が、不思議な眼差しを向けてきた。挨拶を交わすときの笑顔も、いつもと違い、誰もが明るかった。周りの大きな変化に、いつもの行動を忘れてしまった。

あっ、お嬢様……。

時計を見ると、真子が登校する時間は、とっくに過ぎていた。

元気に登校したのかな…。

気になりながらも、朝のチャイムが鳴った為、準備を整えて、教室へと向かっていった。


その日の昼休み。
真子の行動を把握している芯は、中等部の図書室へと向かう。
中等部の玄関を通り、生徒達の集中下足室を通り過ぎる。そして、図書室への曲がり角へ来た時だった。

「!!!」
「きゃっ!」

女生徒と出会い頭にぶつかってしまった。
女生徒が尻餅を突いた。

「ごめん! 大丈夫で……す……………!!!!」
「ごめんなさい。前を見てなかっ…………似合ってるぅ〜」
「お、お、お嬢様っ!!」

尻餅を突いた女生徒が、自分を見上げながら微笑んでいた。
もちろん、その女生徒こそ、真子だった。

「あっ、その………わっ!」

思わず、自分の顔を両手で覆った芯。

「阿山さん、大丈夫??? …あっ、山本先生ぃ〜、また
 保健室での仕事ですかぁ?」
「道原さんっ!!! って、あの……その」

なぜか焦る芯は、真子の側に居るもう一人の女生徒に、更に驚いていた。

「あっ、眼鏡掛けてる!! 先生、目が悪かったんですか?」
「いや、そうじゃないんですが……変…ですか??」

芯は慌てて、眼鏡を外した。

「外さない方が、先生みたいなのにぃ」

みっちゃんが言うと、

「…私は教師なんですが…その……」
「阿山さん、この先生が、山本先生! 私のあこがれの先生だよ!」
「そうですね。お写真の顔ですから…でも、眼鏡を掛けてる方が
 教師って感じで、益々素敵ですね」

腰をさすりながら、真子はみっちゃんに応えた。

「ねぇ、どうして、眼鏡を掛けてたんですか?」

みっちゃんが、興味津々に尋ねてくる。

「お世話になっている方のご令嬢からの贈り物です」
「感謝の気持ちなのかなぁ。…眼鏡、似合ってますよ、先生!」

みっちゃんが嬉しそうに言った。

「ありがとうございます」

そう言って、芯は眼鏡を掛け、そっと真子に目線を送った。
真子は嬉しそうな笑みを浮かべている。……しかし……。

「どこか痛めましたか?」
「腰が……」

真子が応えるよりも先に、芯が真子を抱きかかえた。

「兎に角、保健室に!!」

芯は、保健室に向かって早足になる。

「あっ! 先生っ!!」
「道原さんは、先に教室に戻ってて下さい。五時限目の先生に
 事情を説明して、阿山さんは早退するとお伝えください!
 お願いします」
「はぁい。阿山さん、お大事にぃ……うらやましいなぁ……」

本当に、うらやましそうな表情をして、教室へと向かっていく、みっちゃんだった。


保健室のドアを開け、

「失礼します!! ……って、先生居ない……」

保健室の先生は、不在。

「不在って、札になってたでしょぉ……もぉ」

ベッドに俯せに寝かしつけられながら、真子が言った。

「すみません、お嬢様。……強く打ち付けましたか?」
「解らない…体勢が悪かったかも……」
「ここ、痛みますか?」
「痛い……」
「失礼します」

そう言って、真子の服をめくる。
ちょっぴり赤くなっていた。

「強く打ち付けたみたいですね。湿布を貼っておきます」
「ごめん……」

芯は、棚にある湿布薬を取り、真子の腰に貼り付けた。

「………驚かないんですか?」

芯が、真子の態度に驚きながら、そっと尋ねた。

「みっちゃんから、写真を見せてもらって、不思議に思ったの。
 どうして、ぺんこうの写真があるのか…って。…問いただしたら
 ここの初等部で働いてるって………」

真子は痛みを我慢しながら起き上がり、ベッドに座り、芯を見上げた。

「驚かないんじゃなくて、怒ってるのっ!」
「…すみません。…お教えすると……私が甘えてしまいそうで…」
「それは、私の台詞っ!」
「すみません。騙すつもりは御座いませんでした。でも、お嬢様は
 どこで働いているのか…尋ねなかったんですよ?」
「………そうだった……それでも……」

そこまで言って、真子は、何かを思い出した。

「もしかして、時々……」
「いいえ」

真子の言葉を遮るかのように、芯は直ぐに応えた。
知られてはいけない行動がある。
それは、自分のための行動。だからこそ…。

「な、なんでしょうか…」

芯は、少し不安げな表情になる。
真子は微笑んでいたのだった。

「似合ってる。良かったぁ」
「!! そうでした。どうして、眼鏡なんですか?」

芯が思い出したように、真子に尋ねた。

「みっちゃんがね、教師なんだけど、教師に見えないって
 言ってたの。だからね、くまはちに相談したら、眼鏡を掛けたら
 鋭い眼光も穏やかに見えるんじゃないかなぁって応えたから、
 一緒に買いに行ったの」
「仕事に使うって、意味が解りました」
「うん。良かった。大成功!」

真子は嬉しそうに、そう言った。

「ありがとうございます」

芯もにこやかに応える。

「あっ!!! ぺんこう、五時間目の授業……」
「初等部は、今日は午前で終わりです」
「そうだった。………だからって、仕事…」
「終えてからの行動です」
「保健室でのお手伝い?」
「……どなたからですか…?」
「みっちゃん」
「そうですか…」

項垂れる芯。

「歩けそうですか?」
「無理かも知れない」
「暫く、ここで休んでおいた方がいいかな…」
「お送りしますよ」
「でも、それは……」
「大丈夫です。慶造さんに説明をしなければ、なりませんから」

保健室のドアが開いた。そこには、みっちゃんが立っていた。

「阿山さん、どうですか?」
「軽い打ち身だけど、腰なので、きちんと検査をしないと
 いけないので、やはり、早退させます」
「そう思って、荷物持ってきた」
「ありがとう、みっちゃん」
「あっ、でも、先生………阿山さんは…」

ちょっぴり言いにくそうに、みっちゃんが口にする。

「存じてますよ。怪我をさせたことは、きちんと御家族の方に
 説明しないといけませんので」
「………先生……」

心配そうに、みっちゃんが言うと、

「覚悟してますから」

芯は、にこやかに応えた。

「御心配なく。道原さんは教室に戻ってくださいね」
「……阿山さん……」
「大丈夫。私から、お父様に伝えるから」
「………うん……。気をつけてね…」
「ありがとう、みっちゃん」

真子の笑顔に、みっちゃんは安心したのか、深々と頭を下げて、保健室を出て行った。

「…ぺんこう、本当に…」
「大丈夫ですよ、慣れてます」

自信たっぷりに応える芯に、真子は何も言えなくなった。
ひょいと抱えられる真子。

「わっ、ぺんこう、あの! そのっ!」
「…お嬢様…変わりないんですね…」
「うるさいっ!」

真子は、ふくれっ面。その表情に、ちょっぴり笑い出す芯だった。


芯は、真子を自分の車に乗せ、そして、学校を後にした。
向かう先は……。




阿山組本部。
見慣れた車を目にした門番は、素早く門を開けた。

「……って、ぺんこう先生っ!!」

目の前を通り過ぎた車の運転手は、芯。
見慣れた車だけど、通してはならない人物を通してしまった門番は、慌てて門を閉め、その場に立ちつくしてしまった。
玄関先に停まった車に驚き、誰もが側に寄ってきた。
来るはずのない人物が運転席から降りてきた。そして、助手席に周りドアを開け、真子を抱きかかえた。

「お嬢様っ! まさか……」

組員達の一部は、芯の勤め先を知っている。真子にもしもの時があった場合は…。

「慶造さんは、ご在宅か?」
「はっ。連絡します」

返事をした組員が、直ぐに奥へと入っていった。

「お嬢様の荷物、お願いします」
「はい」

声を掛けられた若い衆が、後部座席にある真子の荷物を手に取った。

「…ぺんこう…」

真子が不安げに芯を呼ぶ。

「大丈夫ですよ。私が付いてますから」

優しく応えて、玄関で靴を脱いだ時だった。
芯の眼差しが急に変化する。そして、踵を返す感じで、廊下を歩き出した。

「こるるぁ、ぺんこう。誰の許可で、敷居を跨いだ?」

そう怒鳴ったのは、春樹だった。そんな声を無視するかのように芯は、ずかずかと歩き出す。

「あの、その……ぺんこう……真北さんが…」
「関係ありませんよ」

冷たく応える。

「大いに関係あるやろがっ!」

その声に、芯は歩みを停め、振り返る。
その勢いで、真子の足は遠心力が掛かって、壁にぶつかった。

「あなたこそ、どうして、ここに居るんですかっ! くまはちと
 一緒に行動してるんじゃなかったんですかっ!」
「それは、既に終わってるっ」

そう言いながら、春樹は芯の腕に居る真子を取り上げた。

「真子ちゃん、何が遭った? まさか……」
「足……打った…」
「足?!」
「えっ?! 足?!?!?」

春樹と芯が同時に声を挙げる。

「足も痛めたんですか?」

芯が言うと、

「……ぺんこうが振り返った時に、壁にぶつけただけだ」

慶造の声がした。

「!! すみませんっ!! 気付きませんでした!!!!」

芯は、春樹の腕から真子を奪い取る。

「あの、その……ぺんこう…」
「美穂さんは、こちらですか?」
「今月いっぱいは、医務室だ」

慶造が応えると同時に、芯は歩き出す。

「待てや、ぺんこうっ!」

春樹は芯を追いかけていった。

「はぁぁあ……あの二人は……」

項垂れる慶造は、真子の荷物に気付き、

「地島に渡せ」
「はっ。失礼します」

若い衆は早足で慶造の側を通りすぎ、政樹の部屋へと向かっていった。

「二人を止める奴は居らんやろが…」

この日、八造は大阪に、向井は隣の料亭に居る。
渋々、重い足を運ぶ慶造だった。




政樹は、部屋でくつろいでいた。
真子を迎えに行く時間まで、まだ余裕がある。
向井の買い出しは午前中の終えていた。
突然、本部内のオーラが変化した事に、気を集中させる。何やら、騒がしくなった。気になった政樹は、部屋を出ようと立ち上がると、ドアがノックされた。

「はい」
『地島さん、お嬢様のお荷物をお預かりしております』
「はぁ?」

若い衆の言葉に驚き、慌ててドアを開けた。

「何が遭った? お嬢様に、何か遭ったのか?」
「そこまでは詳しくお聞きしておりませんが、ぺんこう先生が
 お嬢様をお連れになって、今、医務室に居られます」
「まさか、校内で…」
「お嬢様は元気でしたし、ぺんこう先生も焦った様子は…。
 あっ、でも、真北さんと一悶着…」
「それは、いつもの事やろがっ!」

そう言って、政樹は真子の荷物を受け取った。

「ありがとな」
「失礼します」

若い衆は、政樹に一礼して、持ち場へと素早く戻っていった。
政樹は、真子の荷物を真子の部屋に置き、その足で、医務室に向かっていった。

「組長っ!」

医務室の前には、慶造と春樹の姿があった。
政樹に呼ばれ、慶造は振り返る。

「大事ないから、心配するな」

政樹の表情は、よっぽど不安げだったのだろう。慶造の言葉に、ホッと胸をなで下ろした政樹だった。

「一体、何が遭ったのですか?」
「良いタイミングで、真子とぶつかったそうだ」
「…ぺんこうが…ですか?」
「あぁ」
「……ということは……」
「ぺんこうの勤務先がばれた」

慶造の代わりに、春樹が応えた。
その口調こそ、ちょっぴり怒っている。

「そうですか……」

良かった、俺の口から漏れたとばれなくて…。

思わず胸をなで下ろす政樹。

「………それよりも真北」
「あん?」

慶造に呼ばれた時の返事も怒っている。

「ぺんこうに何が遭った? なぜ…眼鏡を掛けてる?」

慶造が春樹に尋ねたが、

「それは、俺の台詞だ。……なんで、眼鏡なんか…」

春樹も知らない事。

「あの…それは……」

政樹が静かに語り出した。



(2007.7.5 最終部 任侠に絆されて (1) 改訂版2014.12.23 UP)







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※旧サイトでの外伝・連載期間:2003.10.11〜2007.12.28


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