任侠ファンタジー(?)小説『光と笑顔の新たな世界』 外伝
〜任侠に絆されて〜


第三部 『心の失調編』
第九-h話 新たな道へ

春樹が最後の派出所勤務を終えた明け方。先程まで、話し込んでいた街の人や夜の街を遊ぶ人たちが帰り、すっかり静かになった派出所内を見渡していた。ふと、外に目をやると、新聞配達をする人が通っていく。春樹に元気よく挨拶をし、新聞を配っていく。

「おはようございます。今日も朝早くにご苦労様です」
「真北さんも、お疲れ様でした。確か、今日まででしたよね」
「えぇ、先程まで、みなさんとお話をしていて、仕事をしていたのか
 してないのか、さっぱりでしたよ。まぁ、何事も無かったから、
 良かったんですけどね」
「それも、真北さんのお陰ですよ。真北さんが来られる前は、それは、
 本当に、この時間でも暴れていた者が居ましたからね」
「これからも、この状態が続きますよ」
「ありがとうございました。では、これで」
「はい。私の方こそ、お世話になりました」
「これからも、頑張ってください」
「ありがとうございます」

笑顔で見送る春樹は、出勤してきた広瀬の姿を見て、深々と頭を下げ、挨拶をする。

「おはようございます。…そして、お世話になりました」
「ったく、あんな仕事を自ら選ぶとはな」
「これからは、もっともっと街の人の為に…」
「真北」

広瀬は、春樹の言葉を遮るように呼んだ。

「はい」
「決して、俺のような事をするな。俺の二の舞は…絶対に…」
「心得てます」

力強い春樹の言葉に、広瀬は安心する。

「…まぁ、何か遭ったら、いつでも戻って来いよ。…待ってるからな」
「ありがとうございます」
「帰るのか?」
「そうですね。自分のロッカーを片づけたら」
「そっか。…本当に、いいのか、送別会」
「ええ。この街から離れる訳じゃありませんし。いつでも逢えますから」

名残惜しくなりますから…。

「そうだな」
「はい。…広瀬先輩も、無茶なさらないで下さいね」
「お前ほどじゃないからな」

広瀬の言葉に、春樹は微笑んでいた。


奥にある部屋のロッカーの片づけを終え、扉を閉める春樹。そして、一点を見つめる。

もう、心和ませる日々は、来ないんだろうな…。
唯一の和める場所は……。

ロッカーの扉に貼っていた家族の写真をそっと外す。
それは、桜の木の下で、満面の笑みを浮かべる父の良樹、そして、母の春奈、弟の芯が写っているもの。

これ以上、失いたくない…。

楽しい日々は、あの日、奪われた。
今では、笑顔で過ごしているが、それぞれの心には、何か寂しいものが潜んでいる。
父が殺され、母の体は弱り、そして、最愛の弟の体と心は、未だに健全とは言えない。
春樹は、意を決して歩き出し、部屋の扉を開けた。

パン!! パン!!!

突然の大きな物音に春樹は身構えた。
しかし…。
自分の頭の上に降り注ぐ、細い紙テープと火薬の匂い。

「お疲れさまぁ!! そして、行ってらっしゃい!」

その声は、街の人々の声。誰もが笑顔で春樹を見つめ、そして、手にクラッカーを持っていた。

「みなさん……」
「やっぱりさぁ、見送りたいから」
「出勤前に真北さんの笑顔が見たいもん」
「元気付けに声も聞きたいし」
「怒られたいもん」

街の誰もが、春樹にたくさん声を掛ける。明け方まで話していた人も居た。
何もいらない。
春樹は、プレゼントを断っていた。みなさんの心だけで…そう言っていたが…。

「ほら、真北」

少し遅れて出勤してきた樋上が、大きな花束を差し出す。

「樋上先輩……」

春樹は、そっと受け取った。

「俺からもだ。…まぁ、みんなの代表な」

広瀬が、照れを隠しながら、春樹に花束を手渡した。

「……ありがとうございます…。そして、本当に、お世話に…なりました」

春樹の声は震えていた。

「…あれ、泣いてる?」

広瀬がからかうように言った。

「泣いてませんよっ!」

強がるように応えた春樹は、二つの花束を片手に持ち、そして、広瀬と樋上に向かって敬礼をした。
二人は、それに応えるように、敬礼をする。

「真北春樹…、行ってきます!!」
「行ってこいっ!」

春樹は、手を下ろし、そして歩き出す。
どこからともなく拍手が起こる。
その拍手の中、春樹は自宅に向かって歩き出した。少し歩き、歩みを停め、春樹は振り返る。そして、輝く笑顔で元気よく言った。

「みなさん、お気を付けて、行ってらっしゃい!」

春樹の声に、誰もが反応する。

「行ってきます!」

そう言って、街の人たちは、それぞれの道に向かって歩き出した。
人々を見送った春樹は、安心したような表情をして、歩き出す。
春樹を見送る二人に後ろ手を振って……。

「…ったく、いつまでも生意気な奴だな」

広瀬が呟いた。

「それが、真北だからな」

樋上が、応える。

「そうだな」
「寂しくなるよな…」
「あぁ。…でも、次の新人は、真北のようにいかんだろな」
「なにせ、本当に『ひよっこ』だからなぁ」
「そうだな。まぁ、そこがかわいいところだけどな」
「真北ほど、手は焼かないだろうな」
「あぁ、…ほんとうに困った奴だったな。こりゃぁ、警視庁も大変だろうな」
「お前ほどと違うって」
「ほっとけ」

そんな話をしながら、広瀬と樋上は仕事を始めた。



春樹は、自宅の前を歩いていた。玄関の扉が開き、芯が元気よく飛び出してきた。

「お兄ちゃん!!」
「芯」
「お帰り! お疲れ様でした」
「ただいま」

春樹は、自分に抱きつく芯の頭を撫でていた。

「すごぉい花束大きいね」
「先輩からもらったんだ。がんばって行ってこいって言われたよ」
「僕からもお礼、言っておくね」
「あぁ。……って、芯、早起きだな」
「だって、お兄ちゃんを迎えたかったんだもん」
「そうか、ありがとな」
「早く! お母さんも待ってるから」
「学校は?」
「まだ大丈夫。一緒に朝ご飯食べたいんだもん」
「そうだな。お兄ちゃん、お腹空いた」
「しっかり食べて、休んでね」
「あぁ。ありがと」

春樹は、芯と一緒に自宅へと入っていった。



芯は、ランドセルを背負って、元気に登校する。

「行ってきます!!」
「気を付けろよ。行ってらっしゃい」
「うん!」

芯は、走っていく。その足取りに、喜びを感じた春樹は、芯の姿が見えなくなるまで見送っていた。

リビングのソファに座り、新聞に目を通す。その目の前に、お茶が差し出された。

「ありがとうございます」
「お疲れさん。明後日からかい?」
「えぇ」

春奈は、春樹の向かいに座る。

「まぁ、いきなり現場は無理でしょうから、デスクワークですね」
「先輩刑事に付いていく事になるわよ」
「使いっ走りでしょうね」
「それは、どうだか…。春樹が配属される部署は、そうじゃないところだからねぇ」
「お袋ぉ、それは、どういうことですか?」
「使いっ走りよりも、こき使うという言葉が合ってるって事」
「まぁ、動きっぱなしって事ですね。私の性に合ってますよ」
「苦労するだろうなぁ」
「覚悟出来てますよ」
「違う。春樹じゃなくて、先輩方。あんたのような後輩を持つと、
 本当に、苦労するんだからねぇ〜」
「あの…お袋ぉ〜。何を言うかと思ったら…」
「想像出来るだけに…ね」
「はぁ…気を付けます」

春樹は、お茶を飲む。そして、とある記事に目を停めた。

「そうだ…橋から、その後を聞いてないや…」
「例の事件?」
「えぇ。医学に詳しい者の犯行だと…」
「その事なら、これから、思う存分、自分で動けるでしょう? あまり
 橋くんを巻き込まないように」
「解ってます。さてと。お昼頃まで、寝ますから」
「お疲れさん。芯が帰るまで寝てなさい。疲れが溜まってるでしょう?」
「えぇ。…それだと、体内時計が狂いますよ」
「これから、もっと狂うでしょうが」
「そうでした。…では、お休みなさいませ」
「お休み」

春樹は、リビングを出て行った。
春樹の湯飲みをお盆に乗せ、キッチンへ向かう春奈。食器を洗い、そして、片づける。洗濯籠を手に持って、洗濯を始めた。
静かに回る洗濯機を見つめる春奈。

春樹……本当に、その覚悟なんだね…。

いつの間にか、涙で景色がにじんでいた。



(2004.4.28 第三部 第九話 続き H UP)



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※旧サイトでの外伝・連載期間:2003.10.11〜2007.12.28


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