任侠ファンタジー(?)小説『光と笑顔の新たな世界』 外伝
〜任侠に絆されて〜


第四部 『絆編』
第十九話 狙われる春樹

一面真っ白な天地山のふもとにある街。
そこには、天地組の組事務所があった。
組員が出迎える。天地とまさ、そして、京介、登の四人が事務所から出てきた。

「行ってらっしゃいませ!!」

組員達の大きな声が辺りに響く。

「!!!」

まさの姿が急に消えた。天地は、ちらりと左を見る。
そこには、銃やドスを片手に走ってくる八人の男の姿があった。

「天地! 覚悟せぇやっ!!!」

天地は、怯みもせず、男達を見つめているだけだった。京介と登は、懐に手を入れ、警戒している。

一人の男が銃口を天地に向けた時だった。

「なっ…!!!!」

銃を持つ手が、急に軽くなった男は、目の前に振ってきた塊と真っ赤な水に驚き、声も出なくなる。
腕を切り落とされ、自分の体内に流れる血が吹き出た瞬間。
自分の状況を把握すると同時に、呻き声を耳にし、何かが倒れる鈍い音も聞こえてくる。
男が倒れながら、目にしたもの。
それは、まさの後ろ姿だった。
袖に素早く何かが納められる。そして、服を整えて、天地に歩み寄っていく、まさ。

「…ったく、狙うなら、遠くから駆けてくるなって。こっちが
 構える余裕を与えない。それが鉄則だろが」
「青虎ですね」

まさが、静かに告げる。

「しかしまぁ、次から次へと……まだ諦めてないのか」
「恐らく、近くにアジトを構えたんでしょうね。…抑えますか?」
「気にする事はない」
「はっ」

まさの返事を聞いて、天地は組員に指示を出す。

「お返ししておけ」
「御意」

組員は素早く行動に出る。
まさが斬りつけた男達を素早く移動させ、その場を掃除する。
その間に天地たちは車に乗り、出掛けていった。


「登、間に合うのか?」

運転をしている登に声を掛ける天地。

「えぇ。地山親分は、時間に五月蠅いので、余裕を持って
 出掛けております」
「何の話か聞いてるのか?」
「これからの事としか、お聞きしてません」
「なんとなく、想像が付くよな。…俺の思いを悟られたかな…」

フッと笑いながら窓の外を見る天地。

「まさぁ」
「はい」
「お前なら、地山の話…賛成するか?」
「今は未だ、賛成できません。阿山組の動きが更に激しくなりつつあります。
 それに、噂ですが、姐さんが身籠もったそうです」
「…なに…?」
「…親分」
「なんだ」
「狙うのは、阿山慶造だけですね」
「あれは、事故だと言っただろ」
「姐さんを狙うのは…」
「血筋を絶やすのが、一番良いやり方だろが」
「しかし…」
「まさ」
「はい」
「先程のような行動は、自然と起こすのに、そういう話になると
 退くんだな。育て方…間違えたか?」
「……いいえ…その……」
「敵には容赦ないのが、お前だろ。それに…」

天地は口を噤む。

「親分…?」

車は、天地組の隣町にある地山一家の屋敷前に到着する。門が開くと同時に、車は中へ入っていった。

その様子を一人の男が伺っていた。
同じく東北地方に組を構える鳥居という男。慶造から頼まれ、地山一家と天地組の様子を逐一連絡するように言われていた。何か起こった時、すぐ対応出来るよう、慶造は春樹に内緒で準備していた。





小島家の長男・小島栄三が、電車を降りてきた。改札を出て、とある街へ向かって歩き出す。
その街こそ、お笑いの世界が多い街だった。すれ違う人々は、みな、なんとなくお笑い好きの雰囲気が漂う。その中を平気な顔をして、栄三は歩いていた。
向かう先は……。


「ほら、健、はよしぃや」
「はい!」

師匠らしき男性に言われ、素早く動く健の姿がそこにあった。

「お持ち致しました」
「はいよ。ありがとさん。ほな、後はいつものように頼んだで」
「かしこまりました!!!」

元気に返事をする健は、その場を去り、少し離れた所に居る霧原と何か別の事を始める。二人の様子を優しく見つめるのは、師匠らしき男性。

「ほんま、健ちゃんと霧原ちゃん、がんばるよなぁ。嫌な顔をせんと
 何でも簡単にこなしていくよなぁ。…で、どうなん?」
「素質あるで。もう少し修行すれば、頂点に立てるで」
「ほぉ。お前に言われるくらいなら、期待出来るよな」
「俺ら、窮地に陥らなければいいけどな」
「って、それほどかいっ!」

二人のやり取りに、栄三は微笑んでいた。再び、健の様子を見る栄三。元気に動く健を見て、栄三は何も言わず、そっと去っていく。

少し歩いた時だった。
栄三は背後に感じた気配に振り返り、攻撃態勢に入る。

「…って、霧原さぁん」
「相変わらずですね、栄三さん」
「そうやって、背後に忍び寄ってたら、いつかきっと倒されますよ」
「大丈夫ですよ」

にっこり笑う霧原だった。

「よろしいんですか?」
「えぇ。師匠が舞台に出ている時は、時間がありますので、
 健ちゃんが一人でやってます。それに、私は自宅に戻って
 夕飯の用意がありますからね」
「霧原さんの料理ですかぁ?」
「何ですかっ、これでも、私は上手い方ですよ!!」

そして、栄三と霧原は歩き出す。

「その後、お変わりありませんか?」
「えぇ。親父の奴、相変わらず動き回って情報集めてますよ。
 四代目の為だと言ってね」
「例の男は?」
「真北さん?」
「えぇ」
「例の任務関係で動きが活発になりましたからねぇ」
「そうでしょうね」
「御存知でした?」

栄三が尋ねる。

「特殊任務?」
「はい」
「…それは、かなり昔から続いてますね。恐らく、私が知ってる
 規律よりも、激しい動きに対応できる状態になってるでしょうね」
「…よぉく御存知で」
「まさかと思いますが…」
「真北さん…四代目の動きに対応出来るように変更しまくってる
 らしいんですよ。だから、しょっちゅう本部を出て行ってるよ」
「やくざ泣かせの刑事が、その任務に就いて…先が恐いですね」
「真北さんのお陰で、親父の肩の荷が下りたんですよ。ある意味
 感謝しなければ、ならないですよね」
「えぇ。私もこうして、表に出る事ができましたから」

そう言いながらも、少し寂しさを感じる栄三は、霧原に、そっと尋ねる。

「何か、気になる事でも、あるんですか?」
「…栄三さんには、参ります。本当に人の心が読めるみたいですね」
「何となくですよぉ。……で、健、元気にやってるんですね。本当に
 一つも連絡よこさんと」
「舞台に出るまで、連絡しないつもりですよ。栄三さんこそ、
 どうされたんですか?」
「近くに用事があったからね」
「…おやぁ? ここは、誰にも言ってませんよ」
「調べれば解る事ですからね。うちの情報網は世界一ですからぁ」
「そうでしたね。…で、これから、どこに? ここは、敵地ですよ」
「まぁね」
「お手伝いしましょうか?」
「遠慮しますぅ」
「栄三さぁん」
「大丈夫ですって。今は、代替わりで周りを見る余裕なんて無いやろ」
「まぁ、そうでしょうが…」

駅まで歩いてきた二人。
霧原は栄三を見送りに来ていた。

「本当に、お逢いにならなくてもよろしいんですか?」
「いいよ。俺に逢ったら、あいつ…甘えるだろ」
「そうですね。いつも、栄三さんの後ろばかり付いて回って…」
「健が聞いたら怒りますよ」
「いいんじゃありませんか、ここには居ませんから」
「あいつ、地獄耳だぞ」
「…あっ…」
「まぁいいか」

二人は笑い出す。そして、栄三は改札を通り、ホームへと向かっていった。
栄三が電車に乗るまで見送る霧原。
その目は、何かを始める時のもの…。
踵を返し、歩き出した時だった。

「…どぉこ行くんですかぁ、霧原ぁ」
「……っっ、健…ちゃん」
「兄貴の気配を感じたから、見送るように頼んだのは俺だけど
 兄貴の仕事にまで、手を貸せとは言ってないけどなぁ」
「あっ…はぁ、……すみません…」
「師匠、これから宴会だって。今日は良いって言われたからさ」
「そうですか」
「…で、兄貴の手助けでも?」
「何を調べに来たのかは、教えて下さらなかったんですが、
 こちらの情勢を調べに来たことくらいは、解ります。なので…」
「霧原」
「はい」
「お前は、俺と一緒に勘当されてるんだよ。解ってるん?」
「解ってます」
「もう、戻るな。そう言われたんだよ?」
「それでも、こちらに来た時くらいは…」
「兄貴が嫌がるから、いいって」
「…健ちゃん…」
「それよりさぁ、霧原ぁ」
「はい」
「飯ぃ」
「すぐに!」
「ちゃうちゃう。久しぶりに食べに行こうよぉ」
「そうですね。では、あのお店に!」
「うん!」

とびっきりの笑顔で健が応えた。


栄三は、敵地を視察した後、何事もなく、無事に帰路に就いた。
この日、栄三が入手した情報は、組関係だけでなく、弟の健の事も加わっていた。

阿山組本部に着いたのは、夜遅くだった。帰ってきた足で慶造の部屋へとやって来る。

「遅くに申し訳御座いません」
「気にするな。日帰りで疲れただろ。今日はここでゆっくりしていけ」

慶造が優しく声を掛ける。

「お袋、こちらですか?」
「すまんな、いつも」
「姐さんの具合は…」
「良くなったり悪くなったり…繰り返しだな」

心配そうな口調で慶造が言った。

「やはり、あのことが…」
「真北が居るから、安心しろと言ってあるんだけどな…」
「その…真北さんは?」
「また徹夜になりそうだとさ」

軽い口調に変わる慶造。その口調で、この日に起こした出来事に気付く栄三。

「四代目ぇ、やりすぎです」
「いいんだって。それより…」
「はい。すみません、報告します…」
「健ちゃんは?」
「…はぁ?!」

慶造の言葉に首を傾げる栄三。敵地の報告を尋ねられたと思った栄三は、突拍子もない声を挙げてしまう。

「…健ちゃんの居る場所教えたのは、俺だろが」
「それは、真北さんからの情報でしょう!!」
「そうだけどな、栄三が気にしてると思ってだな。…絶対、小島に
 言わない約束で教えてやったろが。だから、どうだったんだよ。
 会いに行ったんだろ?」
「柱の影から、姿を見ただけですよ。霧原とは、少し話しましたけど、
 その…師匠である方が、誉めてました。素質があると…」
「楽しみだろ?」
「えぇ。…でも、親父が何というか…」
「その時になれば、解るって」
「そうですね。元気でした。あいつのことだから、落ち込んでるかと
 思ってましたけど、目一杯楽しんでます。早くテレビに映る姿を
 見てみたいです」
「俺もだ」
「四代目…」
「さてと。…で、敵地はどうだった?」
「思っていた通り……」

栄三は、事細かく報告していた。
たった一日で調べ上げた事。
それは、桂守以上に細かい為、聞いている慶造も驚いていた。

小島よりも上だな…。

フッと浮かんだ笑みは、これからの事を期待していた。



朝。
春樹が帰宅する。

「お疲れ様です」
「おはよ」

少し眠そうな目をしながら、玄関を通っていく。
道場から聞こえてくる声に、春樹は耳を傾ける。

今日もやってるな…。

道場の様子をちらりと見て、春樹は自分の部屋へ向かって歩いていく。

「……栄三ちゃん」

春樹が、栄三の姿を見て、声を掛ける。

「おはようございます」
「おはよぉ。お疲れさん。慶造から聞いたけど、一日で調べ上げたって?」
「序の口ですよ」
「俺も頼もうかなぁ」

軽い口調で言う真北。

「かまいませんよ」
「…口は堅い方か?」
「時と場合によりますよ」
「なるほどな…で、帰るのか?」
「えぇ。親父が待ってますからね。動けないんで、苛立ってる時が
 多いんですよ」
「そりゃ、そうだろうな。解るだけにな」
「はい」
「桂守さんのリハビリは天下一品なのに、何してるんだか…」

春樹は、口を尖らせながら、ポケットに手を突っ込んだ。

「親父、あれでも運動音痴ですよ」
「…………知らんかった…。それなら、俺は、滅茶苦茶運動音痴だな」
「それは、ないでしょぉ〜。…その…四代目から聞いたんですけど、
 また徹夜ですか?」
「ちょっとな。あまり…そのことには触れるな。やっと怒りが治まったとこだ」
「すみません。では、私はこれで」
「おう、気を付けてな」

栄三は去っていく。
春樹は、庭を見つめながら歩いていた。
慶造の部屋から慶造と修司が出てくる。
春樹は、歩みを停め、思わず睨み上げてしまう。

「……なんか、ちくちくと突き刺さるものが…」

慶造が呟く。

「気のせいだと思うよ」

修司が応えた。

「お二人さぁん、早起きですなぁ」
「ま、真北こそ、早いお帰りでぇ」

そんな会話が続いた後、乾いた笑いに包まれる廊下……。

シュッ!!!!

「っっ!!! やめれ!」

慶造の頭の上を、春樹の蹴りが目にも留まらぬ勢いで通り過ぎた。

「どこに行く?」
「散歩だ」
「こぉんな朝早くに…か?」
「…あぁ」
「あまり、派手に動くな」

やんわりと春樹が言う。

「すまんな。今日は気を付ける」
「これからも気を付ける…と言うのが、当たり前だろ!!!!」
「解ったって!!!」

春樹は、息を整え、その場の雰囲気を変えるような口調で、慶造に尋ねる。

「ちさとさんの具合は?」
「昨日の今日だ。まだ、医務室だな」
「そうか…」
「真北」
「ん?」
「今日の予定は?」
「休み」
「それなら、ちさとを頼んでいいか?」
「構わないが…。本当に…」
「解ってるって!」

後ろ手を振りながら慶造は去っていく。修司は、一礼した後、慶造を追いかけていった。

ったく…。

春樹は、自分の部屋へと入っていった。





ちさとは、医療室で眠っていた。そこへ、春樹がそっと入って来る。
ちさとの様子を診ていた美穂が、春樹に気が付き、そっと声を掛けてきた。

「あら、真北さん。最近、ご無沙汰ね!」
「……美穂さん……そんな言い方だと、誤解を招きますよ!!」
「いいじゃない、別に。ま、あの時のような事態は、最近起きてないですからね」
「そうですね。それより、ちさとさんは、どうですか?」
「この時期の妊婦なら、仕方ない事ですよ。でも、もうじき落ち着くはずよ」

ちさとが、目を覚ます。春樹が居ることに驚いていた。

「真北さん…」
「具合が良くないと聞きましたので。その、何かの役に立てればと思いまして…」
「大丈夫です。ご心配をお掛けして…」
「そうですか。…その、順調のようで…」
「えぇ。…すごく、楽しみにしてますわ」

ちさとは、少し膨らんだ腹部を優しくさすっていた。春樹は、少し照れたような顔でちさとを見つめ、ちさとも照れたように微笑んでいた。

「なんだか、お二人さん、不思議な雰囲気がぁ」
「…!!! 美穂さん!!」

春樹とちさとは、同時に叫んだ。

「息もぴったり…」
「あのね…。ちさとさん」
「はい」
「今日、調子が良さそうなら、散歩…どうですか?」
「庭ですか?」
「そうですね」
「…う〜ん、美穂さん、外出…いいかしら?」

爛々と輝く目をして、ちさとが尋ねる。

「お二人では駄目だと思いますよぉ」
「山中さん、時間あるかしら…。…お話してみようかなぁ。」
「道場に居ましたよ」

道場から聞こえていた声の中に、山中の声を聞き取っていた春樹。

「やっぱり、真北さんって、耳が優れてますね!」
「ほへ?!??」

きょとんとする春樹だった。




勝司運転の車の後部座席には、春樹とちさとが座っていた。ちょっぴり眠たそうな目をしている春樹を心配する、ちさと。

「本当に、よろしいんですか?」
「大丈夫ですよ。張り込みの時なんて、寝ないのが当たり前でしたから」
「そうなんですか…。刑事さんも大変ですね」
「休む時間も無かったような…」
「それは、真北さんが、張り切りすぎるからじゃありませんか?」
「そんなことは、ありませんよ」

春樹は微笑んだ。

「早く、平和が訪れて欲しいですよ」
「そうですね。でも、真北さんなら、やり遂げるでしょう?」

ニコッと笑いながら、春樹に尋ねるちさとだった。

「はぁ…まぁ…」

誤魔化すように頭を掻く春樹。
車は、本部から車で十分程走った所にある河川敷にやって来る。そして、駐車場に車を停めた。
春樹とちさと、そして、勝司は、同時に車から降り、階段を昇っていった。
堤防の上に立った三人は、そこから見える景色を眺めていた。

「流石に、この時期は、人が少ないですね」
「ちさとさん、この場所…誰から?」
「剛一くんと八造くんから。ここを走るそうですよ」
「体を鍛える為…ですか。…すごい距離を走ってるんですね」
「それだけ、体力が居るんでしょうね! …う〜ん!!!!」

ちさとは、背伸びをした。

「梅の香りがする」
「そろそろ咲く時期でしょう」
「春…か。そういえば、真北さんの名前にも春が付いてますね」
「母の名前からですよ」
「山中さんは?」
「覚えてません」
「そっか」
「ちさとさんは?」
「母がどうしても付けたいって、だだこねたらしいの」
「どんな意味が?」
「聞いた事…なかったな」

ちょっぴり寂しさを感じる笑みに、春樹は、それ以上何も聞かなかった。
春樹は、辺りを見渡した。
犬の散歩をしている人、ジョギングをする人、ただ歩いているだけの人。土手に腰を下ろして、辺りの様子を眺めている人…。色々な人が居た。

「少し…歩きますか?」

ちさとが声を掛けてきた。

「そうですね」

優しく応える春樹は、ちさとと並んで歩き出す。

「真北さん」
「はい」
「もう、慣れました?」
「本部の雰囲気ですか?」
「それもあります。…その…任務の方です」
「まだ、把握しきれない所がありますが、今まで以上に
 やりがいがありますね。これからも頑張りますよ」
「あまり、危険な事は、なさらないでね。…心配ですから」
「ありがとうございます。ちさとさんこそ、私の心配よりも、
 お腹の子の事…考えてくださいね」
「大丈夫ですよぉ。美穂さんや笹崎さんが、体の事を考えて下さるので
 心強いですよ」
「それなら、安心ですね」
「えぇ」

微笑み合う二人。
暫く、何も話さず歩き続ける。
背後から迫る気配に、春樹は振り返る。
一列に並んでジョギングをする五人の男性が、近づいてくる。
春樹は、道を空ける為に、ちさとの後ろに回り、歩いていた。
ジョギングの人が、側を通り過ぎようとした瞬間だった。

「!!!!」
「真北さん!!」

春樹は、ジョギングしている五人の男性のうち、真ん中を走る男性の腕を掴んでいた。その男性の手には、ドスが握りしめられ、ドスの刃先は、ちさとに向けられていた。

「山中、ちさとさんを連れて車に戻れっ!」

叫びながら、春樹は、ドスを握る男性の腹部に拳を入れ、土手の下へ放り投げた。
それが合図となったのか、残りの四人は、懐から銃やドスを取り出し、春樹やちさと、そして、勝司を襲い始めた。

行く手を阻まれたちさとと勝司。二人の男が、ドスを片手に、睨み付けている。
動けば、相手も動く…そんな雰囲気だった。
一人の男が、動く。

「!!!!」

ちさとに向けられたドスを持つ手を掴み、力を込める勝司。男は、ドスを落とした。その男の後頭部に、春樹の蹴りが炸裂する。
着地した春樹の足は、目にも留まらぬ速さで、次の男に向けられた。
男は、バック転しながら、春樹の蹴りを避ける。
その身のこなしから、春樹は敵の素性に気付く。

闘蛇組……。

バック転した男は、素早く体勢を整え、銃口を春樹に向けた。
春樹は、ちさとの姿を隠すように前に立ちはだかる。

「助けられた恩返し…本当のようだな」

相手は、春樹の『噂』を信じている様子。それを悟った春樹は、相手の話に合わせる。

「…どういうことだ?」
「フッ…。本当に記憶喪失になったようだな、真北刑事よぉ」
「…刑事?」
「まぁいいや。ここで、お前らを仕留めればいいんだからな。
 本部から出てきた車を付けて正解だ。まさか、姐さんが
 乗っていたとはなぁ。あんたを傷つければ、阿山の怒りを買う。
 そうすれば、この世界も、再び真っ赤に染まるって魂胆さ…」
「なんのことだか、解らんが、敵ということは、間違いないようだな」

春樹の目つきが変わる。

「記憶を失っても、その目は健在か…驚きだね」

男は口元を不気味につり上げる。そして、引き金に指がかかった。

「…!!!!!!!!」
「山中っ、早くしろっ!」

男の手を抑えて、春樹が叫ぶ。
勝司は、行く手を阻む男に向かって拳を炸裂する。土手を転がっている男を見届けながら、ちさとを守るようにして、勝司は走り出した。

「真北さん!!」

ちさとが振り返る。
春樹の背中から、真っ赤な細い物が飛び出す瞬間を目の当たりにする。
春樹は、右横に居る男の顔面に肘鉄を食らわせる。
真後ろに倒れていく男の腹部に、春樹の蹴りが突き刺さり、男は、宙を舞った。その体が地面に落ち、土手を転がり落ちていった。

「姐さん、早く!」
「…駄目…! 山中さん、真北さんを…」

ちさとの言葉で勝司は、振り返る。
春樹に声を掛けた男が、春樹に銃口を向けて、引き金を引いた。
春樹の体が弾む。
それでも春樹は、ちさとと勝司の姿を男の視野から遮るように立っていた。

「姐さんを無事な場所へ連れて行くように言われたんです。
 その後に向かいますから。だから!!!!」

春樹の居る場所に向かって、土手を駆け上がる大勢の男が居た。そのうちの何人かが、ちさとと勝司の姿に気付き、向かってくる。
春樹が、男達の姿に気付いたのか、目の前にいる男に素早く蹴りを見舞い、男を気絶させた。その男の手にある銃を取り上げ、ちさとと勝司に向かう男に弾を放った。

「山中!!」

春樹の怒鳴る声を耳にした勝司は、ちさとをそっと抱きかかえ、車に向かって走り出す。
春樹は、銃弾を撃ちつくし、その銃を放り投げながら、男達に向かって走っていく。
土手の高さを利用して、男に飛びつき引き倒す春樹は、転がりながらも男に攻撃を加えていた。
素早く体を起こし、男達を次々と倒していく。

勝司は、ちさとを車に乗せた。ドアを閉め、鍵を掛けると戦闘態勢に入る。
車の中では、ちさとが勝司の姿を見つめていた。
向かっていた男達を、春樹が、たった一人で倒していく。勝司は、春樹の様子を見つめていた。
再び、春樹の体が軽く弾む。
その瞬間、春樹のオーラが変化した。

…うそ…だろ……。

勝司の目に留まらぬ速さ。一瞬のうちに男達が倒れていた。
春樹の体は、どんどん真っ赤に染まっていく……。



(2004.8.15 第四部 第十九話 UP)



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※旧サイトでの外伝・連載期間:2003.10.11〜2007.12.28


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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