任侠ファンタジー(?)小説『光と笑顔の新たな世界』 外伝
〜任侠に絆されて〜


第五部 『受け継がれる意志編』
第六話 大切な春が散る

春。桜がちらほらと咲き、かなり温かくなってきた日々。
春樹と真子は、庭で遊んでいた。真子が三輪車に乗って、走り回っている。真子は、春樹に向かって三輪車で走っていく。しかし、春樹は……。

「……まきたん?」

真子が近づいてきても、なぜか、ボォッとしていた。真子に呼ばれて、我に返ったように返事をする春樹。

「ん? 真子ちゃん、どうした?」
「まきたん、つかれた?」
「どうして?」

真子に尋ねながら、春樹は真子を抱きかかえる。

「まきたん、ぼっとしてた」
「あぁ〜ごめん、ごめん。ちょっと考え事をしてた…」
「おしごと? いそがしいなら、まこ……」
「真子ちゃんと遊ぶ約束してただろぉ〜」

春樹は、真子の額に自分の額をぴったりと付け、ぐりぐりと真子の頭を押すような感じで頭を動かしていた。

「おそとに、いきたいな…」
「河川敷?」
「……だめ?」

真子は、うるうるとした眼差しで春樹を見つめる。

う〜ん、連れて行くっ!!

真子のその眼差しに弱い春樹は、即答する。

「行こうか!」
「はい!」

真子が喜びの表情に変わる。



慶造の部屋。
慶造と勝司が、座卓で書類整理をしていた。そこへ、春樹がやって来る。

「よぉ、慶造」
「…あん? 駄目だ」

春樹の口調で何が言いたいのかが解る慶造は、春樹が言う前に断っている。

「あぁのぉなぁ〜」
「真北も手伝え」

書類整理が大嫌いな慶造。もちろん、春樹もだが…。

「真子ちゃんが、外に行きたがってるから、出掛けるぞ」

慶造の言葉を無視して話し続ける。

「あのなぁ〜。今の時期、解ってるんだろ?」
「まぁなぁ〜。黒崎組の活動が活発化。姐さんも無事に出産。
 更に活気づいている…んだよなぁ。それが、何か?」
「……末端の組の跳ねっ返りが、これを機に狙ってくるぞ」
「大丈夫だって」
「……修司を連れて行け」
「駄目だ。真子ちゃんと二人っきりぃ〜」

そう言って、春樹は慶造の部屋を出て行く。

「…あんにゃろぉ〜」

こめかみをピクピクさせながら立ち上がり、部屋を出て行った。


廊下を歩いていく春樹を追いかけて、肩を掴む慶造。

「待てっ!」
「なんだよぉ〜。お前も行くか?」
「そうじゃなくて……」

春樹の言葉に肩に力を落とした慶造。

「せめて、行き先くらい教えろ。お前の事だ。誰かを付けても
 すぐに撒くだろが。もしもの事を考えてだな…」
「大丈夫だって。安心しろ。それより、早くハンコ押して、
 提出しないと、これ以上は延期させないからなぁ〜」
「本来なら、真北の仕事だろがっ! 任務絡みで、それで…」
「慶造」
「なんだよ」
「何のために、俺が五日間。真子ちゃんに逢わないで、
 ほとんど寝ずに動いていたと思ってるんだ? それくらいしても
 いいだろが」

春樹の言葉に、返す言葉が出てこない慶造。

「じゃぁ、行ってきまぁす! 帰りは夜なぁ。夕食も外ぉ〜」

後ろ手を振って去っていく春樹。

「って、こらっ。真北っ!!!」

春樹の姿は廊下を曲がって、ちさとの部屋のある方へと消えていった。

「…………山中っ!! 猪熊を呼べっ!」

慶造の声が響き渡った。




はぁ〜。今日は無理だったか…。

河川敷の側にある駐車場に車を停めた春樹は、少し離れた場所に停まった車を見て、項垂れた。

「まきたん、おりていい?」

助手席に座る真子がシートベルトを外しながら、わくわくした表情で春樹に尋ねる。

「まだ、駄目ぇ〜」

そう言って、春樹は車から降り、助手席に回る。ドアを開け、真子に手を伸ばして抱きかかえる。

「あるくぅ〜」
「あの階段を昇っていくんだけどなぁ〜」
「まこ、かいだんのぼるもん!」
「解りましたぁ」

春樹は真子を地面に下ろし、手を繋いで歩き始めた。
河川敷の階段を昇っていく二人を見守るように、修司が車から見つめていた。

毎度同じ手は喰いませんよ、真北さん。

真子と春樹が堤防の上に着いたのを確認した修司は、ゆっくりと車から降り、辺りを警戒し始める。
そのオーラは、春樹に伝わっている…。

ったく、のんびり出来ないだろがぁ〜。

春樹は、手を引っ張られた。

「は、はい」
「まきたん、かわのちかくに、いきたい」
「歩く?」
「はい!」

元気よく返事をした真子に負けたのか、春樹は真子の手を引いて、川に向かって歩いていった。
川の近くでは、釣りを楽しんでいる人が居た。真子は、珍しいのか、じっと見つめている。春樹は辺りを警戒しながらも、真子を見つめている。

…一人、二人………。一気に七人か…。
猪熊さん…更に強化してるし〜。

肌で感じる危険なオーラ。しかし、それは、直ぐに消える。
二人が楽しめるように、心が和むようにと、修司がたった一人で、二人をガードする。


真子と春樹は、土手に腰を掛け、沈む夕日を眺めていた。

「まっかだね、おおきいね!」

真子が感動している。

「そろそろ暗くなるよ」
「おゆうしょくは?」
「外で食べるけど、何が食べたい?」
「まきたん!」
「わ、私を?!」
「……ん? あっ、ちがったぁ。まきたんが、たべたいものぉ!」
「………私が食べたいのは、真子ちゃんだぞぉ〜がお〜っ!」

春樹は、真子の顔を両手で挟み、食べようとする。

「キャッキャ! かいじゅぅ〜まきたぁん!!」
「がおぉ〜」

我を忘れている春樹だった………。

「では、行きますよぉ」
「はい! …どこにいくの?」
「それは、着いてからの楽しみにぃ〜」

真子を抱きかかえて、駐車場へと向かう春樹。

今度こそ、撒いてやる…。

なぜか、やる気満々……。



修司は、何処かへ連絡をする。

『どうした?』
「見失った」

受話器を通して、ため息が聞こえてくる。

『後はいい。戻ってこい。ありがとな、修司』
「いいや、探す。…やはり狙われてる」
『真子か? 真北か?』
「恐らく、真北さんの腕を知らない連中だろう。お嬢様を誘拐して
 お前の命を狙おうとしてる」
『そんな連中、放っておけ。黒崎の命令じゃないのなら、黒崎が
 手を打ってくるはずだ。だから、帰ってこい』
「解ったよ。…でも、お嬢様の前では、真北さん…手を出しませんよ?」
『後はいい』

慶造の言葉で、何かを察する修司。

「じゃぁ、俺は自宅に戻る」
『あぁ。ありがとな』

修司は、電源を切り、車に乗り込む。そして、去っていった。
修司の車が停まっていた近くの路地では、五人の男が気を失って、折り重なるように倒れていた。



「まきたん、おいしいね!」
「そうだろぉ〜。お奨めの店だからねぇ〜」
「これ……オムライスっていうの?」
「そうだよ」
「ささおじさん、つくれるの?」
「笹崎さんは、何でも作る事できるよぉ」
「こんど、たのむぅ!」
「ちさとさんも作れると思うけどなぁ」
「…そっか。まきたんは?」
「できますよ」
「それなら、どうして、ここなの?」
「今日は、真子ちゃんと二人っきりになりたかったんだぞぉ。
 はい、あぁ〜ん」
「あぁ〜〜ん」

パクッ。
春樹が差し出したオムライスを頬張る真子。もぐもぐと食べる姿が、とてもかわいい。春樹の表情が弛んでいる…。

「まきたん」
「はい?」
「あしたは、まきたんがつくって!」
「いいですよぉ〜。作りましょう!」
「やったぁ!」

真子は喜んでいた。
その表情が春樹の心を躍らせる。


会計を済ませ、外に出た春樹。空に浮かぶ月が細くなっていた。

「まきたん、ほそいよ」

真子が指を差す。

「本当だね、細いぃ〜」
「オムライスだね」
「…似てるよなぁ」

駐車場に向かって歩いている時だった。
人の足音を耳にして、春樹は振り返る。そこには、二人の男が立っていた。

「やっぱりそうだ」

一人の男が春樹に声を掛けてきた。
春樹は首を傾げる。

「あの…どなたですか?」
「真北ぁ〜。お前、生きていたんだな。噂は聞いていたぞ!
 安心した! 俺だよ、俺。広瀬だよ」
「広瀬?」

親しげに話しかける男を見て、真子は怯えていた。春樹の足にしがみつく。

「すみません、どなたかとお間違いだと思います」
「そちらのお嬢ちゃんは…」

広瀬は、真子の目線にしゃがみ込み、優しい眼差しを向けていた。

「お嬢ちゃん、名前は?」

真子は、春樹の後ろに身を隠してしまう。

「やれやれ。嫌われたなぁ」

そう言って広瀬は立ち上がり、春樹を見つめる。

「その窓から見えていたからさぁ。覚えてないのか?」
「すみません…」
「噂は、本当なんだな」
「噂?」
「真北は大怪我で記憶を失っている…とな」
「俺が記憶を?」

広瀬と言った男は、春樹の耳元に近づく。

「今は、阿山組と手を組んでるんだろ? …何を企んでるんだ?」

春樹の表情が強ばる。

「広瀬さん、…あんた…」

広瀬は、懐に隠すようにして、手帳を見せる。
それは、特殊任務の証。

「鈴本さんから、話を勧められてね。それで」
「じゃあ、俺の事も?」
「全て聞いてる。もしもの事があったら、真北を頼むとも…ね」
「………だから、ここで?」
「それは偶然。ある組織を追ってやって来たら、お前の姿を
 見掛けてね。それで、仕事を終えて待っていた」
「…すみません。俺には過去はありませんから。その…」
「伝えたかっただけだよ、俺の立場をね」
「ということは……」
「お前の事件が遭ってから、お前の敵を…そう思って、
 昔に戻っただけだ」
「樋上先輩は?」
「刑事に戻ったよ」
「じゃぁ、今はお二人とも離ればなれですか?」
「仕事上では離れても、心では繋がっているけどね」
「そうでしたか…」

春樹は、足下の真子を見る。真子は震えていた。

「真子ちゃん」

春樹は、真子を抱きかかえる。真子は、春樹にしがみつき、顔を埋めた。

「このお嬢ちゃんが」
「未来の光だよ」
「なるほどね」

広瀬は、少し離れた所を見つめる。そこには、別の刑事が立って、一礼していた。

「ちっ、事件か…。じゃぁ、真北。またなぁ」
「あまり、私の前に姿を現さないで欲しいですね」
「なぜだ?」
「過去を失った男ですよ」
「フッ…そうだったな。では、これで」

広瀬は、もう一人の男と一緒に去っていった。

「真子ちゃん、大丈夫だよ?」
「……まきたん…」
「ん?」
「まきたんの……しってるひと?」
「いいえ。道を聞いてきただけですよ」
「みらいのひかり…って?」
「かわいいってこと。真子ちゃんの事がかわいいってさ」
「かわいいの?」
「私にとっては、もう、誰にも触れさせたくない程ですよ」

真子は難しい顔をする。

「まこ…わかんない…」

そりゃ、そっか……。

「さぁて。帰ろうっか」
「うん!」

春樹の言葉に、元気よく返事をする真子。

「ねぇ、まきたん」
「はい」
「あしたは、おしごと?」
「暫くは、お休みですよ」
「いつまで?」
「一週間」
「じゃぁね、あのね、…ずっとオムライス!」
「解りましたぁ」

春樹は、真子を助手席に座らせて、素早く運転席に乗り込んだ。
アクセルを踏み、その場を急いで去っていく。

ドッサァ〜……。

二人の男が同時に上から落ちてきた。直後に一人の男が風と共に姿を現した。

「ったく…。あの男……広瀬と言ってたなぁ。…要注意だな」

それは、桂守だった。
真子と春樹を見失った時を考えて、隆栄が指示を出していた様子。
慶造、修司、そして、隆栄の阿山トリオでは、太刀打ち出来ない春樹の行動。しかし、桂守だけは、春樹より一歩上を行く男。その素早さは、尋常ではないことは、春樹も知っている。

まさか、桂守さんに付けられていたとはな…。

本部に戻った春樹は、真子をちさとに託し、自分の部屋に戻る。服を脱ぎ、楽な格好でソファに座り、煙草に火を付けながら、春樹は呟いた。
ソファに寝転び、天井を見つめる。

オムライス…か。……芯も好きだったよなぁ。

ごろりと寝返りを打つ春樹。

俺、真子ちゃんを通して、芯を見てるのかもな…。
それにしても、広瀬さんにばれるとは…。
変装も必要って事かな。

再び仰向けになる春樹。

やっぱり、あの店はまずかったか…。

この日、春樹が真子を連れて行った店は、その昔、弟の芯と良く行った店だった。あの辺りは、言わば春樹の古巣。育った地域。

そりゃぁ、俺の顔…知ってる者も多いわなぁ。
あの店の主人が代替わりしてて良かったよ…。

春樹は、煙草を吸い終わり、部屋着を身につけてから部屋を出て行った。
廊下を歩いていると、足音がパタパタと聞こえてきた。

「まきたぁん、おふろぉ〜」

真子が着替えを持って駆けてくる。

「今迎えに行こうと思ったのになぁ〜」

そう言って、真子を抱きかかえる春樹。

「真北さん」
「あっ、ちさとさん」
「そうやって、真子を抱きかかえる癖……やめてください」
「いいじゃありませんかぁ。ねぇ、真子ちゃん」
「真子に抱き癖がつきますから」
「約束してるもんねぇ〜、真子ちゃん」
「はい! まきたんだけ!! おふろ、おふろ!!」

真子は張り切っている。

「真北さん……真子に何か…言いました?」
「いいえ。一緒にお風呂に入ろうと言っただけですよ」
「それなら、真子の張り切りっぷりは…一体……」
「久しぶりだからでしょうね」
「そう言えば、半年ほど一緒に入ってませんね…」
「まぁ、色々とありましたから」

怪我が絶えず、真子と風呂に入ると、傷の事を聞かれる為……。
春樹は苦笑いしていた。

「では、行ってきます」
「長湯は駄目ですよ」
「わかってまぁす!」
「はい!」

春樹と真子は、元気に返事をして、お風呂へ向かって行く。

「ほんと、真北さんは……」

真子の前では、雰囲気が変わるんだから…。

春樹に抱きかかえられて、はしゃいでいる真子を見つめながら、ちさとは優しく微笑んでいた。廊下を曲がる時、春樹はちらりと目線を送ってくる。

長湯になるかもぉ〜。

その目は、そう語っていた。

知らないわよぉ〜。慶造さんが怒ってもっ。

ちさとは、部屋へ入っていった。



風呂場からは、賑やかな笑い声が聞こえてきた。少し離れた廊下には、慶造と隆栄、そして、修司が立っていた。

「そりゃ、知り合いにも会うだろな。でも、記憶を失っている事に
 なってるだろ? 気にする事ないんじゃないか?」

慶造が呟いた。

「それでも、今日のように、真北さんの知り合いが近づいてきたら
 それこそ、真北さんの正体がばれて…」
「その方がいいかもな」
「阿山?」
「……これからの事を考えるとな……」
「黒崎のことか?」

修司の問いかけに、慶造は頷いた。

「真子とちさとを危険な目に遭わせたくないからさ」
「慶造…」

暗い雰囲気が漂う。

ガッ!

「!! って、こら、小島っ!」

漂った雰囲気を壊すかのように、隆栄が慶造の肩に腕を回していた。

「もっと、俺達を頼れよぉ〜阿山ぁ〜。昔っからの悪い癖だぞ」
「うるさいっ」
「一人で、しょいこむなって」
「……これ以上、小島や桂守さんには、頼れないだろ?」
「頼ってくれていいんだよ」
「あまり、お前に負担を掛けたくない…」
「栄三も居るだろ?」
「………いい加減さが増すから……嫌だ…」

慶造の言葉に、隆栄は肩の力を落とす。

「ひどぉ〜」

慶造は笑っていた。

「もっと頼るよ…」
「……それで、本当に考えてるのか?」

修司が尋ねる。

「あの雰囲気……俺には作れない。…真子には……」

風呂場のドアが開き、真子が出てきた。

『真子ちゃん、髪の毛乾かしてからぁ!!』
「やだぁ!」

そう言って駆けてくる真子は、慶造達に気が付いた。

「パパ! いのくまおじさんとこじまおじさんも! どうしたの?
 おふろに、はいりにきたの?」
「真子、髪の毛を乾かさないと、風邪を引くよ」
「かわいたもん!」

その時、風呂場の方から、バスタオルが飛んできた。上手い具合に受け取った慶造は、真子を捕まえて、髪の毛を拭き始めた。

「あぁん、パパぁ〜」
「駄目」

真子はふくれっ面になっていた。

「真北は?」
「もうすぐくる」

真子が応えると同時に春樹が出てきた。

「逃げられた…。真子ちゃん、すばしっこいよ…」

春樹は苦笑い。

「真子に逃げられたんじゃぁ、真北もまだまだだなぁ」
「うるさいっ」

慶造は真子の髪の毛を拭き上げた。

「はい、おしまい。真子、髪の毛は伸ばすのか?」
「うん! まきたんが、のばしたほうが、いいっていったもん!」
「ほぉ〜。どうしてだろうなぁ〜」
「あのね、パパ。ここがはねるんだって」

真子は、自分の頭を指さしていた。

「癖っ毛があるんだよ」
「それは知ってるけどよ……」

慶造は、春樹を見上げる。

お前、自分の好みにしていこうとしてるだろ…。

その目は、そう語っている。春樹は、あらぬ方向を見つめていた。

「まこ、へやにもどる!」
「一人で大丈夫か?」
「はい! パパ、まきたん、いのくまおじさん、こじまおじさん。
 おやすみなさい」

真子は、ぺこりと頭を下げる。

「おやすみ」

慶造たちは、声を揃えて返事をした。真子は、パタパタと駆けて行く。廊下を曲がるとき、真子は振り返って、手を振っていた。
ほのぼのとした雰囲気に、慶造達は心を和ませていた。

「…で、慶造は何をしに来たんだ? 俺に用事…じゃなさそうだな」
「用事だよ。夕食の後の事だ」
「あぁ、あれか。…俺が派出所勤務の時の先輩。まさか、鈴本さんから
 話を受けて、特殊任務に就いているとは知らなかったよ」
「向こうの世界でも、連絡はあるだろうが」
「特殊任務に関しては、同種の仕事以外は、秘密になってる。
 俺の事を知ってる人物は限られているからさ。…恐らく、
 俺の身の上を知って、無茶をしそうだったんだろうな」
「鈴本さんの気持ち…か」
「あぁ。……それと…慶造」
「ん?」
「真子ちゃんとのデートに、誰かを付けるのは、止めてくれないか?」
「お前が、きちんと報告してくれるなら、止めてやる」
「報告してるだろが」
「真子との事は、報告してないことが、たっぷりあるだろが」
「俺が任されてるのに?」
「俺が頼んでるんだろが」
「…あのなぁ〜」
「あのなぁ〜…は、俺の台詞だっ」

そして、二人は睨み合う……が、

「……もう、運ばないぞ…」

修司の低ぅ〜〜い声が、二人の怒りを抑え込む。

「猪熊の勝ちっ……うごっ……。…阿山ぁ〜、そこは…」

隆栄の言葉に、慶造の拳が飛んでくる。しかし、拳が突き刺さった所は、後遺症が酷い傷の所…。あまりの痛さに座り込む隆栄。

「す、すまん、小島っ!! 大丈夫か? …って、そこ、感覚…」
「戻ってるんだ………って」
「美穂ちゃん……」
「自宅…」
「栄三…」
「夜遊び……」

沈黙が続く中…。

「俺が診る」

隆栄と慶造のやり取りを聞いていた春樹が言葉を発し、隆栄に肩を貸す。

「そっか。医学の心得、多少あったっけ」
「お前も来いっ」

慶造の腕もしっかりと掴んで、春樹は医務室へ向かって歩いていく。

やれやれ……。

唯一真面目な修司が、呆れた表情をしながら、三人の後を追っていった。





桜吹雪が舞う夕暮れ。
春樹は、とある一軒の家の近くに居た。男子高校生が駆け足で帰ってくる。

「ただいま!」

元気な声で家に入って行ったのは、芯だった。芯は、着替えもせずに、家から出てくる。その後ろから、出てきたのは、芯の母・春奈だった。

「芯! 待ちなさいって。ったく〜…宿題は?」
「学校でやったから、いいの! 行ってきます!」

呆れたような表情で見つめる春奈は、春樹の目線に気が付いたのか、振り返る。

春樹…。ちゃんと元気だからね。

春奈は、一礼して、家へ入って行った。

お袋……あまり、無理は…。

春樹は知っていた。
春奈は退院したが、もう、先が無いとのこと。次倒れたときは、覚悟を…。医者から、そう聞いた春樹は、母の姿を見ようと、その昔、何度も足を運んだ事のある場所へとやって来た。
春樹の側に高級車が停まった。
スゥッと窓が開き、乗っている男が声を掛ける。

「真北ぁ、真子が待ってる」
「あぁ」

短く応えた春樹は、家に向かって深々と頭を下げて、車に乗り込んだ。
静かに去って行く高級車を家の窓から、見つめる春奈。

「あの子を…見守って下さい……あなた…」

春奈の目から涙が溢れ、一滴落ちる。

うっうっ……。

いつの間にか、声を挙げて泣いている春奈。



それから、一ヶ月後。
雨が激しく降る日に、春奈は、この世を去った。



(2004.12.15 第五部 第話 改訂版2014.11.21 UP)







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※旧サイトでの外伝・連載期間:2003.10.11〜2007.12.28


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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