任侠ファンタジー(?)小説『光と笑顔の新たな世界』 外伝
〜任侠に絆されて〜


第五部 『受け継がれる意志編』
第十二話 決意の崩壊

無言のまま、車の後部座席に座る慶造。運転席に回った修司は、直ぐに車を発車させた。

暫く走った所で、慶造が口を開く。

「猪熊、黒崎の行動は、どうなった?」
「今朝お伝えした通り、末端の組は抑えておりますが、
 今回の行動は、黒崎四代目自身の命令と耳に入っております。
 このまま何も起こらなければいいのですが、動くとなると…」
「黒崎自身が出てくる……か」

慶造の言葉に、寂しさを感じた修司は、ルームミラーで、慶造の表情を確認する。
窓の外を見つめる目が、潤んでいるように見えた。

「…慶造」
「なんだよ」
「無理…するなよ」
「してない」
「………お前は、俺が守ってやる。それが、俺の生き方だ。
 俺に生きろと言うのなら、お前は死ねないぞ。解ってるよな?」
「…あぁ、解ってる。……俺が先か、黒崎が先か……共倒れか…」
「さぁ、どうだろな。俺は、お前を守るだけだぞ」
「解ってるよ…聞き飽きた」
「それなら、もう言わん。……途中、寄るか?」

心を和ませる場所へ行った方が良いと修司は考えたが…。

「いや、いい。真っ直ぐ帰らないと、心配する連中が居るからさ」
「かしこまりました、四代目」

修司の言葉遣いが敬う形に変わることで、慶造の心も四代目へと変化する。
窓の外を流れる景色を眺める慶造。

これで、いいよな……ちさと……。

慶造の心は、既に決まっていた。
たった一人で、血塗られた世界を生きていく。
もう、大切な者を巻き込まない為に、終止符を打つっ!

握りしめる拳に、更に力が籠もる。




春樹の入院を知った真子は、たった一人、桜の木の下に立ち、枝だけの木を見上げていた。

「真子、何してる?」

庭の側を通りかかった慶造が、真子に気付き声を掛ける。

「パパ…。さくらのはな……さかないの?」

慶造は、真子の側に立ち、同じように見上げた。

「そうだな。…珍しい事もあるんだな。今年はお休みしたかったのかもな」
「おやすみ? ずっと、たってるから、つかれたのかな?」

真子の言葉に、慶造の心は和んでいた。

「パパ」
「ん? どうした、真子」

慶造は真子を抱きかかえる。

「こうえん、いきたい」
「公園は、真北か栄三と一緒じゃないと駄目と言っただろ?」
「どうして?」
「お外は危ないから」
「どうして、あぶないの?」
「真北が居ないから」
「まきたん……いつ、たいいん?」
「あと三日我慢出来るかな?」
「みっか? でも、まきたん、げんきじゃないんでしょ?」
「そうだなぁ〜。だから、公園は、まだ先になるかな。ここじゃ嫌か?」
「すべるのないもん」
「小島に頼んで、造ってもらおうか?」
「うん!!」

慶造の言葉に、真子は喜びを見せる。先程まで寂しそうにしていた真子は、寂しさを忘れたように、慶造と話していた。そんな二人を見つめていた、ちさとは、唇を噛みしめて、自分の部屋に入っていった。


その日の夜。
慶造は、縁側に腰を掛け、空に浮かぶ月を見つめていた。
吐き出す煙に目を細め、そして、俯く。

…まだ、決心が鈍るよな……。

目を瞑ると、瞼の裏に、真子の屈託のない笑顔が浮かんでくる。
足音に気付き、慶造は目を開けて振り返る。

「ちさと」
「真子、嬉しそうに眠ってますよ」
「そうか、良かったよ」
「お隣、よろしいですか?」
「ん? あ、あぁ」

慶造は、慌てて煙草をもみ消し、ちさとに座布団を譲る。
慶造の隣に座ったちさとは、慶造の肩にもたれかかった。

「あなた…」
「ん?」
「本当に……ごめんなさい」
「真北の強引さに負けたのか?」

ちさとは、首を横に振る。

「真北さん…弟さんが生きてるって…」
「…失う者は居ない…居なくなった…が、あいつの口癖だぞ。
 それに、家族は闘蛇組に殺られたと、悔しい程に言い切ってる…」
「あの日…極道を相手にするから、家族と縁を切ったそうです。
 もしもの事を…家族に対する攻撃を考えて…」
「あの……馬鹿が…」

慶造は、項垂れる。

「弟さんに、今の立場を打ち明けられずにいるそうです。
 それで、あの日……珍しい時期に雪が積もったあの日、
 ここで、真子に物語を語っていた。その時に、弟さんの事を
 思い出したそうで。……とても、寂しそうだったから、私…
 悩み事を打ち明けてもらおうと、優しく声を掛けたの。
 打ち明けてくれた…その時の真北さんを見たら、私……」

慶造の胸に顔を埋めるちさと。慶造は、ちさとを抱きしめる。

「あんな男に、そこまで優しくすること…無いだろが」
「…いつの間にか…好きになっていたみたい……」
「いつか…そう思っていた。……ちさと」
「はい」
「真北が好きなら、一緒に暮らせ。これ以上、お前を……!!!」

ちさとは、それ以上、慶造に言葉を発して欲しくないのか、慶造の唇を自分の唇で塞いだ。
それは、とても優しく、そして、何かを吸い取られるような感じだった。

「慶造さんが好きなの…。一番…この世で失いたくない…。
 ここに来た時から、私の心は決まってる…この世界で…
 極道の世界で生きていく……そう決めたから…」
「沢村のおじさんの想いを…貫くため……だろ?」
「…あなた、どうして………」

ちさとは、心の奥に秘めた想いを、慶造に知られていた事に驚いていた。
父の思い。
それは、心和む穏やかな日々を送る事。血塗られた世界で生きる男達にも、命の大切さを知ってもらう事。
そして、自分が知った哀しい想いを他の人にさせないように…。
その為に、多少の無理をしてでも、生きていく。どの世界で生きても、人としての思いは、同じはず。
父が自分のために、敢えて抜け出した世界に飛び込んだちさと。
そんな思いを誰にも悟られないように、四代目の姐として、生きてきた。
父の思いを達成したい。
自分の思いを誰にもさせたくない…息子を失った哀しみを…。
なのに世界は変わらない。
力が足りない……。

「…言っただろ? ちさとと同じ思いだって……俺も……」

慶造が優しく声を掛ける。

「もう、誰も失いたくない、命を粗末にさせない…。だから、
 だから俺は、四代目として…」
「私の力も必要でしょう? だから、あなたに付いていきます」

慶造の言葉を遮るように、ちさとが言った。

「真子は…」
「真北さんに」
「ちさと、それじゃ……」
「だって…あなた一人じゃ、とても心配だもん」

明るく言ったちさとの笑顔が、月よりも輝いていた。

ちさと……。

慶造は、ちさとを力一杯抱きしめる。

「あ、あなた?! ちょ、ちょっと!!! どうしたの!!」
「うるさいっ」

短く応える慶造。

「調子はいいのか?」
「えぇ」
「元気な子を産みますよ。…そして…………」
「…あぁ、…そうだな……」

ちさとと慶造は、お互い顔を見合わせて、微笑み合う。そして、月明かりの下、これからのことを、おもしろ可笑しく語り合っていた。




木々がたくさんある自然公園。子供達がはしゃぎ、それを親達が優しく見守っている。その中に、ちさとと真子の姿があった。真子は、滑り台に上り、そして、滑り降りた。他の子供達と一緒に、滑り台で遊ぶ真子を、ちさとは優しく見守っていた。

真北さん……。

ふと考える春樹のこと。そして、昨夜の慶造との話……。



誰かを探すかのように、本部内を駆け回る栄三は、玄関で見かけた組員に声を掛けた。

「姐さんは?」
「二人で大丈夫だと仰って、真子お嬢様と公園に行きました」

その言葉を聞いた途端、栄三は、項垂れた。

「あほか。それでも、付いていけや」
「姐さんに…睨まれましたので…」
「ったく…。それでなくても…。あぁ、もう、行くぞ」

そう言って、栄三は、組員と若い衆と一緒に、公園へ向かって走って行った。



滑り台の上から、真子がちさとに手を振った。しかし、ちさとは、何かを考えているのか、真子の仕草に気付いていない。
真子は、滑り台から下り、ちさとに近づいていった。それでも、真子には気付かない。

「ママ?」

真子に呼ばれて、我に返るちさと。

「なぁに?」
「だいじょうぶ?」

真子は、ちさとの体調を気遣った。真子には、まだ知られていない事だが、ちさとが、いつもと違う様子であることは、真子自身、気付いていた。

「真子、帰ろうっか。パパ心配してるだろうから」
「うん」

そして、ちさとと真子は、公園を出て行った。

「ママ、たのしかったね。また、いきたいな」
「また、行こうね。真子ちゃん」
「つぎは、あのゆれてたのが、いいな」
「揺れていたの……あぁ、ブランコね」
「ブランコ?」
「そう。ブランコ。明日、乗ろうね」
「うん!」

元気に返事をする真子だった。

誰かが走る足音が、近付いてきた。それに気が付かずに楽しく話しながら、ちさとと真子は、帰路に着いていた。



公園に着いた栄三達は、公園を見渡したが、そこには、ちさとと真子の姿は無かった。

「帰ったか…」

短く言った栄三の雰囲気に、組員達が疑問を抱く。

「栄三さん、どうされました?」
「…ん? あっ、すまん。黒崎が動いていると、情報が入ってな…」
「…まさか…」

その時、車が急停車した音が、微かに聞こえた。
栄三達は、その音の方に目をやり、そして、走り出す。



ちさとと真子が仲良く歩く目の前に、車が停まった。
ちさとは、真子を守るかのように、立ちはだかり、警戒した。
車からは、徹治と竜次が下りてきた。

「黒崎さん。びっくりさせないでよ。どうしたの?」

親しげに話すちさとだったが、徹治の雰囲気は、ちさとが知っている雰囲気では無かった。
敵対する組に対する、威嚇のオーラが漂っている。
ちさとは、再び警戒し、徹治を見つめていた。

「長年、その立場に居ると、やはり、自然と出るんだな、ちさとちゃん」

徹治が、静かに言った。

「まさか、あの人の命を狙う為に、私と真子を利用しようと…」
「……利用……か…。その手もあるよな…だが、その前に……」

ちさとにしか聞こえない程、小さな声で言った徹治は、懐から素早銃を取り出し、真子に向け、引き金を引いた!!



銃声が、響き渡った。


栄三達の耳にも銃声が聞こえていた。

「!!! こっちだっ!!!」



ちさとは、咄嗟に真子を守った。
真子は、突然の出来事に、何が起こったのか解らないという表情で、ちさとを観ていた。

「ママ…?」

先程まで笑顔だった、ちさとの表情が、苦痛で歪んでいた。
初めて観る表情に、真子は震え出す。
手に触れる生温かい物。
それに目をやると、真っ赤に染まっていた。
それが何か知っている真子は、流れ出る所へと手を持って行く。
その手を掴まれた。

ちさとが、真子に、何かを優しく言い、首を横に振った。

『姐さんっ!!』

栄三の声が、曲がり角から聞こえてきた。その途端、徹治と竜次は、車に乗り込み、ちさとと真子を見つめながら、素早く去って行った。

「ママ……ママ…?」

真子は、ちさとの体から流れる真っ赤な物を止めようと、噴き出す所を握りしめていた。

「!!!! 姐さんっ!!!」

栄三の姿が、曲がり角から現れた。そして、ちさとと真子の姿を観て、駆け寄り、ちさとを抱きかかえる。

「しっかりして下さい! ちさとさんっ!!」

ちさとの体を握りしめる手に気付き、栄三は、その手を伝うように、目線を移した。

「お嬢様……」

真っ赤に染まったちさとを見つめる真子の眼差しを見て、栄三は、それ以上、言葉が出てこなかった。
真子をそっと抱きかかえ、その目を覆った。そして、真子に怪我は無いかと、確かめる。一緒に駆けつけた組員が、ちさとの傷口を押さえ、止血を試みた。

「…栄三ちゃん……真子……は?」
「大丈夫です。怪我はありません」
「良かった……」

力無く言ったちさとは、いつもと変わらない笑みを浮かべた。

「ちさとさん、直ぐに…」

組員達が、ちさとを抱きかかえ、そして、本部へと向かって走り出す。

「ママ……また…いこう…ね……。ママ……」

栄三に目を塞がれたままの真子は、そう呟いていた。
真子を抱きかかえる栄三の腕に、力がこもった。



「美穂さんっ!!!」

本部に、響き渡る声と怒号。突然慌ただしくなる。
玄関に駆けつけた美穂は、組員が抱きかかえるちさとの姿を見て、

「ちさとちゃんっ!!!!!」

叫んでしまう。

「止血を試みましたが、止まりませんっ!」
「早く奥に。慶造くんは?」
「もうすぐ、戻られます」
「戻ったら、伝えて。……栄三っ! 真子ちゃんは?」

組員達のすぐ後ろに居た栄三に気付き、栄三の腕の中の真子の姿も見て、美穂の表情が一変した。

「お嬢様は無事です」
「解った。真子ちゃんをお願い」

栄三は、頷くだけだった。



美穂と医療担当の組員が、ちさとの治療に当たる。

「銃弾……一体、どれだけ撃ち込んだのよっ!!」

ちさとの傷口は、銃弾で出来た傷口だと直ぐに判った。しかし、体中に、数え切れない程、付いていた。美穂は、傷一つ一つを素早く確認し、出血の酷い所の治療を始めた。しかし、血は止まらない。組員は、輸血の準備を始め、美穂は、ちさとの体にメスを入れ、傷ついた動脈の縫合を始めようと試みた。
だが……。



慶造と修司が本部に戻ってきた。
車が門をくぐると同時に、門番が車に駆け寄り、慶造に伝えた。

「なに…?」

慶造は、車から飛び降り、医務室へと駆けて行く。


「ちさとっ!!!」

慶造が医務室へ入ると、美穂が、ちさとの体に、そっと布団を掛けていた。そして、慶造に振り向きもせずに、

「ごめん……」

静かに言った。

「……ちさと…」

慶造は、ちさとに駆け寄り、そして、手を取った。
その手は、綺麗だった。

「…美穂ちゃん…冗談だろ? ちさとの手…綺麗じゃないかよ。
 温もりもある……。なのに……なんだよ…ごめんって…」

美穂は何も言わなかった。

「ちさと? 起きろよ」

目を瞑ったままのちさとに、慶造は語りかける。

「…真北に、伝えてきたよ。これからどうするのかって。
 あいつの事だ。…お前を選ぶだろう……だからさ、ちさと…。
 三人で……過ごしてくれよ。…俺の事は、気に……しないで…さ…」

慶造の呼びかけに、ちさとは、反応しない。

「……ちさと……」

呼ぶ声は、震えていた。




阿山組本部の前に、タクシーが停まった。そのタクシーから、春樹が勢いよく飛び出し、門をくぐっていった。その脚は、迷うこと無く医務室へ向かっていた。
医務室のドアを勢いよく開けた春樹は、ベッドに横たわるちさとを見て、愕然とした。

「…真北……」

慶造は、それ以上、何も言えなかった。
重い足取りでベッドに近づく春樹は、穏やかな表情で目を瞑るちさちに優しく語りかけた。

「ちさとさん……結論出ましたよ。…俺と一緒に、来て下さい。
 ちさとさん………」

春樹は、ちさとの手を握りしめる。そして、そのまま、泣き崩れてしまった。
ちさとの手から温もりを感じる。
もう、力は残っていないと思われた、ちさとの手が、春樹の手を握り返した。

「ちさとさん…?」

『泣かないで下さい。みっともないわよ。真北さん。
 真子とあの人をお願いします。真北さん……ありがとう』

ちさとの手が、力無くだらりと落ちた。美穂が直ぐにちさとを診る。

臨終を告げた………。

「ちさとさんっ!!!」

春樹の絶叫に近い声が、本部内に響き渡った。

「うわぁ〜〜〜っ!! うわぁああっ!!」

そして、狂ったように、叫び出す。

「真北っ! 真北っ!!! ったく!」

慶造は、真北の首筋に手刀を入れ、気絶させた。

「これでも刑事かよ…。山中っ」
「はい」

医務室の外で待機していた、勝司が入ってくる。

「部屋に連れて行け」
「はっ」

勝司は、春樹を背負い、医務室を出て行った。

「慶造くん……連絡してくるから…」

そう言って、美穂は医務室を出て行った。
医務室には、慶造と、たった今、息を引き取ったばかりのちさとの二人だけになった。
ちさとを見つめる慶造は、ちさとの体に残る血の跡に気付く。医務室にあるタオルを水で濡らし、ちさとの体を拭き始めた。
美穂が手術を試みた跡が残っていた。そこは、綺麗に縫合されている。その傷跡を優しく拭く慶造。

「…先に逝ってしまうとは…な……。ちさと……お前が…」

慶造は、ちさとに手を伸ばし、力一杯抱きしめ、

ちさと……。

声を殺して泣いていた。





医務室から出てきた慶造は、少し離れたところで俯いている美穂に気付き、声を掛けた。

「…頼んでいいか?」
「…うん…」

美穂は、医務室へと入っていく。静かにドアが閉まった。
慶造は、俯き加減で真子の部屋へ向かっていった。

真子は部屋で眠っていた。

「四代目…」

真子の側に居た栄三が、立ち上がり、深々と頭を下げた。

「…真子は無事だったんだな」
「はい…すんません…」
「この世界で生きてる限り、仕方の無いことだ。
 俺のせいだな……。…相手は黒崎か?」
「はい」
「……真子と真北を、暫く頼んでいいか?」
「…はっ」
「誰も、出すなよ」

静かに言って、慶造は真子の部屋を出て行った。そして、真北の部屋の前へとやって来る。そこでは、勝司が待機していた。慶造の姿を見るなり、一礼する。

「様子は?」
「まだ、気が付いてません」
「ありがとな」

そう言って、慶造は真北の部屋へ入っていった。

「…けい……ぞう……」

慶造の気配で、真北が目を覚ました。

「大丈夫か?」

慶造が声を掛ける。

「すまなかった…取り乱して…」
「解ってる」

取り乱す理由は慶造にも解る。
二つの命を失っただけに…。

「これ以上…命を失うことは、したくない…」

春樹は、流れ出しそうな涙を隠すかのように、腕で目を覆った。

「相手は…黒崎…か?」

震える声で春樹が尋ねる。

「あぁ」

慶造は、素っ気なく応えた。

「真子ちゃんは無事なんだな」
「眠ってるよ」
「そうか……。…慶造…悪い。一人にしてくれ」
「あぁ。…明日…静かに見送るよ」
「……あぁ」

慶造は、静かに部屋を出て行った。
真北は、腕を体の横に置き、天井を見つめていた。



ひっそりと静まりかえる阿山組本部。
誰もが、突然の出来事に、何も出来ずに居た。動くことも出来ず……。
そんな中、一人の男は動いていた。


上着を羽織り、自分の部屋を出て行った慶造は、無表情で車に乗り込んだ。

「…四代目?」

駐車場で常に待機している組員は、エンジンの音を耳にして、振り返る。運転席に座る慶造に気付いて、駆け寄った。

「四代目、どちらへ行かれるんですか? 私が……?!?!??」

慶造は、組員を無視して、アクセルを踏んだ。車は急発進をして、本部の門に向かって走っていく。
激しいクラクションを聞いて、門番は勢い良く門を開けた。

「……ほへっ?! 四代目?!」

通り過ぎた車の運転手の姿を見て、門番が呟く。

「馬鹿がっ!! なんで、門を開けたっ!!」

慶造を追いかけてきた組員が怒鳴りつける。

「四代目…お一人で?」
「…今は、門を開けるなと、猪熊さんが言ってただろがっ!」
「すんません!!」
「追いかけろっ!!」
「って、間に合いません!」

組員と門番の顔色が変わる。サァァッと血が引いていくのが解った。

「猪熊さぁん!!!!!」

組員の叫び声が響く本部を後にした慶造は、猛スピードで何処かに向かっていた。アクセルを全開に踏み込み、そして、急ハンドルを切る。

急停車した場所。
そこは…………


『黒崎組組事務所』

慶造は、車をゆっくりと降り、そして、組事務所の建物を見上げた。



(2014.11.21 第十一話 UP)







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※旧サイトでの外伝・連載期間:2003.10.11〜2007.12.28


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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