任侠ファンタジー(?)小説『光と笑顔の新たな世界』 外伝
〜任侠に絆されて〜


第六部 『交錯編』
第十六話 春樹の為、真子の為

中秋の名月が輝く夜。
春樹と慶造は、縁側に腰を掛け、いつものように煙草を吹かしながら、のんびりと時を過ごしていた。そんな二人を月明かりが照らしている。

「…秋だな…」
「………あぁ…」

短く交わす会話。それっきり二人は何も話さない。
慶造は煙草をもみ消し、新たな一本に火を付けた。ゆっくりと煙を吐き出した後、春樹に目をやり、そっと尋ねる。

「最近、真子の勉強は忙しいのか?」
「そんなことないぞ。ただ、八造くんと過ごす時間が増えただけだ」

慶造の質問に応える春樹の口調は、なんとなく、冷たい。
それもそのはず。春樹でさえ、真子との時間が減っていた。それは、八月の終わり頃から始まっていた。
何かに怯えるような表情をする。そして、八造の側から離れようとしない。春樹が優しく声を掛け続けて、やっと、春樹に近づいてくる。あの日以来続いている慶造との食事では、挨拶をするだけで、何も話さない真子。慶造が話しかけても、子供らしくない口調で短く応える。それでも慶造は、諦めず、真子に優しく話しかけているのだが…。

「もしかして、真子……気付いたのか?」
「何に?」
「関西との争い」
「それは、知ってるだろうな。小島さんと猪熊さんが怪我してるもんな」
「栄三が伝えたのか?」
「読んだんだろ…例の…あれで」
「あの時は、俺も取り乱した。真子が側に居た事を忘れるくらいにな。
 それからか………。俺も……」

そう言ったっきり、慶造は何も話さなくなった。


真子の誕生日から一週間後、関西極道が、阿山組壊滅に乗り出した。その行動は、世間には知られない極小さなものだったが、阿山組系列の組を狙うのではなく、慶造を直接狙ってくる。その慶造を影で守っている修司と隆栄。二人は慶造を身を挺して守っていた為、怪我が絶えない。
二人の行動に怒りを露わにした慶造。

俺の後をついて回るなっ!!

医務室で治療をしていた二人に怒鳴ったと同時に、真子が二人の事を心配して駆けつけた。その時に、慶造の『心の声』を聞いてしまったのだ。

二人を傷つけたこと…あいつら……許さん!

慶造に話しかけようとした真子は、その心の声の闇に恐れ、何も言わずに去ってしまう。その時は、何も気付かなかった慶造。今、こうして春樹とのんびり過ごしている事で、深く考える事が出来たのだった。

「なぁ、慶造」
「ん?」
「俺は手を出せない状態だぞ。……いいのか?」
「厚木に言ってくれ」
「じゃぁ、厚木の方を引っ捕らえる事になるけど、いいのか?」
「その方が、暫く大人しくなって、いいだろ?」
「どっちにしても、俺の立場にとっては、良くないぞ」
「知らん」

短く応えて、慶造は銜え煙草のまま寝転んだ。

「はぁ〜あ。あいつらは何を考えて、今頃、こんな行動をしてるんだろうな」
「お前の動きを止めたいだけだろうな」
「俺…何かしたのか?」
「厚木に任せっきりになってるから、世間の目には、偽りの姿が
 写っているんだよ」
「任せてないんだけどな…。派手な行動は慎めと言ってある。それに、
 反対派には、丁重に……」
「厚木なりの丁重が、あの行動なんだろうな…」
「真北ぁ」
「あん?」
「お前の言葉も悪いんだぞ。あれ程、抑え込んでいたくせに、
 どういう風の吹き回しだ。程々に暴れろとは」
「抑え込み続けると、一回の動きが激しいかと思ってだな……
 回数が増えれば、一回の動きも大人しくなるだろうと、そう考えての
 言葉だったんだが…」
「増えても、動きは同じだ」
「そうだな……失敗だ」

春樹は柱にもたれ掛かって、夜空を見上げ、

「なるようになるって…」

いつもの言葉を発した。

「また、それかよ…」
「駄目か?」
「…いいや、いつものように、なるようになってるって」

慶造は起き上がる。

「しかし、真子の事は…」
「詳しく聞いてみるよ」
「すまんな……今日の言葉は、本当に寂しかったんだからな…」

ふてくされたように慶造が言う。その口調が可笑しかったのか、春樹は、体を揺らしながら笑い出す。

「くっくっく…ほんと、あの時の慶造の表情は、面白かったぞ。
 初めて観たかもなぁ〜」

会議を終えた慶造は、足取り軽く廊下を歩き、そして、庭に降りた。そこには、既に真子が居た。
慶造は、いつものように声を掛ける。

真子、時間があるなら、どこかに出掛けるか? 真北も一緒だぞ。

しかし、真子は、寂しげな表情をしたまま、

勉強があるので、すみません。

そう言って、庭を去っていった。
真子の姿を目で追う慶造。真子は自分の部屋の前で、八造と逢い、慌てふためく八造の腕を掴んで、部屋に入っていった。
慶造は、八造から聞いていた。
この日の真子の勉強は、予定より早く終わったので、午後は時間がある……と。
真子との時間が作れると喜んでいただけに、真子の言葉に衝撃を受けていた。




次の日。
八造と真子は、道場で体を鍛えていた。八造のトレーニングコースに付き合う真子。もちろん、空手の形も習い、八造を相手に動いていた。日に日に上達していく真子に驚く八造だった。

真子が汗を流して風呂場から出てきた所へ、春樹が偶然を装って近づいた。

「真子ちゃん、お疲れ様。午後は勉強の時間かな?」
「いいえ。八造さんは、お父様とお話があるそうなので、
 部屋でくつろぐ予定です」

う〜ん、私に対しても、その口調は…やはり…。

真子の表情が変わる。
自分の言葉が、春樹を傷つけたと思った様子。

「ごめんなさい…まきたん。…私……」

そこまで言っただけで、春樹には真子の言いたいことが解っていた。

「言わなくてもいいよ、真子ちゃん。解ってるから。…聞こえた?」

春樹の言葉に、真子はそっと頷いた。

「以前は、側に居る人の声が聞こえたけど、今は、少し離れた人の
 声も聞こえるの…。はっきりとしたものじゃないけど、…感情が
 伝わってくるの。みんな…ぴりぴりしてる…」
「真子ちゃんは、慶造に何が遭ったのか…」
「知ってる。お父様の世界での事…。お父様、命を狙われてる。
 そうなんでしょう? だから、小島のおじさんも猪熊のおじさんも
 怪我をしたんでしょう? お父様を…守って…」
「真子ちゃん…」

そこまで、知っていたとは…。

「栄三さんからじゃないから…」
「聞こえた?」

真子は頷く。

「だから、私…」
「気を張りつめてるんだね?」
「そうでもしないと………怖くて……。お父様の次は私だと…思うと…」
「真子ちゃんっ!」

真子が言い終わる前に、春樹は真子を力一杯抱きしめた。

「大丈夫だから。真子ちゃんの事は、私が守ると言っただろ?」
「まきたんが…怪我するよ?」
「大丈夫。私は怪我をしたことは無いですよ?」
「本当?」
「えぇ」

春樹は、力強く応える。その言葉は、真子の不安を吹き飛ばした様子。真子が、にっこりと笑った。

「今日は私と過ごしましょうか?」

春樹の明るい声に、

「はい!」

真子は元気よく応えた。


「八造くんと河川敷まで走ってるって聞いたけど、
 八造くんのペースは速いでしょう?」
「私と一緒に走るときは、私に合わせてくれるの。でも、八造さん、
 私のペースは早い方だと言ってるんだよ!」
「楽しい?」
「とても楽しいよ!」

真子の笑顔は輝いていた。

かわいいなぁ〜。

春樹の表情が目一杯弛んだのは、言うまでもなかった。

その頃、八造は、慶造と外出していた。慶造運転の車の中。助手席に座っている八造は、緊張した面持ちだった。

「緊張することないぞ」
「いいえ、その…私が四代目の隣に座るのは…その…」
「気にするな」
「はっ」
「それよりな、修司の怪我…すまなかったと思っている」
「いいえ、それは…」
「猪熊家の仕来りは、俺は反対なんだかなぁ。修司は頑固だから」

慶造の言葉に思わず笑みを浮かべた八造。

「だけど八造くん」
「はい」
「真子の前では、やめてくれないか?」
「体を張ってお守りすることですか?」
「あぁ。真子が哀しむからさ。それでなくても、真子は
 例の能力が関わって、人の心を読んでしまう。まあ、
 八造くんには、その事を考えて、組関係の事は教えていないが、
 今は、そうもいかなくなってしまったんだよ」
「関西勢の攻撃ですか…」

八造が静かに言った。

「そうだ。俺を守って二人とも倒れただろ。怪我で体を動かせないのに
 俺の行く先々で待機してるから、困ってるんだが」
「私には何も出来ません。親父を停めるような事は…。それに、もしも
 四代目が狙われた時に、私が居たら、四代目は私を…」
「それをしたら、俺が修司に怒られるだろが。八造くんには
 無茶をさせたくない。今日は至って安全な所だから、心配しなくていい」
「………それは…」
「真北の秘密。教えてやろうと思ってな」
「真北さんの…秘密……。お嬢様の写真を持ち歩いている事とは
 違う事でしょうか………」
「……あのやろうぅ〜、やはりそうだったか……」
「言わない方が良かったのでしょうか……」

慶造のこめかみがピクピクした事に気付いた八造は、首をすくめてしまった。


慶造が向かった先は、あの有名レストランだった。駐車場に車を止め、レストランへと入っていった。


人目の付きにくい奥の席に案内された二人は、料理長お奨めの料理を食しながら話し込んでいた。慶造を前に緊張している八造。それでも食を運ぶ速さは普段と変わっていない。

「真北が、阿山組に居る経緯は、既に知っているよな」
「はい。元刑事だった真北さんは、阿山組を壊滅させようとしていた
 その矢先に、闘蛇組の放った銃弾に仲間を失って、その時に…」
「その通り。真北は、阿山組に恩義を感じて、今がある」
「はい。刑事を捨て…」
「捨てていないんだよ」
「えっ?」

驚いて顔を上げる八造。

「真北は警視庁黙認の任務…特殊任務に就いている男だ」
「刑事…」
「刑事というよりも、俺達極道に近いものだな。だから俺達、
 阿山組は、暴れていても何も問われない。但し、命まで
 奪うことは許されていない。……それと……???
 どうした、八造くん。深刻な顔をして……」
「……お嬢様が知ったら、真北さん……」

八造の考える事に、慶造は呆れたように笑った。

「いつの間に、真子を真っ先に考えるようになったんだよ。
 この一年で、そこまで変わるもんかなぁ〜」
「あっ、すみません。その…お嬢様は刑事が嫌いなので…」
「真子のその言葉。真北は相当応えたみたいだぞ」

八造は笑っていた。

「………それで、四代目は、お嬢様を真北さんに託そうと
 考えておられるんですね。私は、根っからの極道じゃない
 真北さんだから、それを考えて仰ったのだと思いました。
 ……でも……」

八造は、考え込む。

「刑事でも、危険な世界と変わらないと思いますが…」
「そこなんだよ。真子には、幸せに暮らして欲しい。こんな
 危険な世界からは、離れて欲しいんだよ」
「それは、四代目ご自身もじゃありませんか?」

思いも寄らない八造の言葉に、慶造は驚いた表情を見せた。

「八造くん……」
「親父が酔った時に口にしてました。…四代目を引退させたいと。
 自分の命が惜しいんじゃない。四代目の思いを実現させて、
 早く、この世界から、離れて欲しいと。…昔のような……跡目を
 継ぐ前のような日々を送りたい…。そう口にしてました」

修司………。

慶造は、膝の上で拳を握りしめる。

「確かに、俺の思いは、四代目になる前の暮らしだ…」

遠くを見つめるような眼差しに変わる慶造は、そっと目を瞑った。

「……現実は、そうはいかなかったんだよ。未だに、拳には拳で
 応えることしか出来ない事が多い。時には血を流すこともある。
 それでも俺は、こんな日々を早く終わらせたいんだよ。
 これ以上、哀しむ者を………観たくない…」
「四代目……」

慶造の言葉は、八造の心に突き刺さっていた。

「関西勢が狙っている今……その思いは、遠くに行ってしまったけどな…」

呟くように言った慶造。八造は、その言葉に含まれる哀しみを感じ取っていた。

「八造」
「はっ」
「俺の事より、真北を頼む」
「真北さんを…?」
「真子にとって、一番大切な者だろ?」
「それは四代目……」

それ以上、言葉に出来ない八造。
慶造が醸し出すオーラが、そうさせていた。
誰も寄せ付けない、寄せ付けたくない…そんな雰囲気だった。
慶造が箸を動かす。それと同時に、八造も動かし始めた。
それっきり、デザートを食べ終えるまで何も話さなかった二人。
何も考えず、ただ、ひたすら箸を動かしているだけだった。


レストランから出た二人は、辺りを警戒することなく、駐車場へ足を運ぶ。そして、車に乗り込んだ。

「暫く、走るぞ」
「はっ」

慶造は、エンジンを掛け、アクセルを踏んだ。
車は静かに走り出す。暫く走った所で、慶造が口を開いた。

「真子のことだけどな…」
「はっ」
「特殊能力の事は知ってるよな」
「傷を治す青い光と凶暴な赤い光。その影響で、人の心の声を
 聞いてしまうのかも知れないということです」
「その通りだ。…八造くんは、赤い光を何度か観ているよな」
「はい。真北さんの仰るのは、私の怒りのオーラに恐れるらしいと…」
「今のところは、そうらしいな。…その赤い光の事は気になるんだが、
 …青い光…観たことあるのか?」
「いいえ。天地山で怪我をしたウサギに見せたとお聞きしただけです」
「そうか。…それっきり、見せていないよな」
「私がお嬢様の側に付くようになってからは、一度も観ておりません」
「……無くなったのかな……」

慶造は呟いた。

「それは、解りません…」
「もし、まだ持っているのなら、真子のことだ。真子に逢った初日の
 八造くんの怪我を観たら、すぐに放つだろ?」
「………考えられることです。しかし私は、お嬢様に治療して頂きました。
 それも、普通の…」
「あぁ。……観ていたからな…俺達は」
「えっ?…俺達というのは、……その……親父も……?」

恐る恐る尋ねる八造に、慶造は微笑みで応えていた。
八造の顔から血の気がサァッと引くのが解った。

「それで、親父の目が光ってるんですか……お嬢様との
 接し方に……」
「まぁ、そういうことだな。…俺は反対しないけどな」
「えっ?!」
「もしもの事が あっても、真北が居る事だし…」
「もしもって、四代目っ!!! 私は、そのような感情は…」
「まだ幼くても、何年か経てば、素敵な女性になるだろが」
「そうですけど、私には…その……」
「ん? お前の好みじゃないとでも?」
「今は…妹のように思えて…」
「妹…か」

そう言ったっきり、慶造は口を噤む。
思い出すことがあった。

もし、生きていれば、真子は妹として、慶人と過ごしていたんだろうな…

あの日、最愛の妻を守って命を落とした最愛の息子のことを、慶造は思い出していた。その後の妻の行動と言葉。そして、妻は、その言葉を実行し、この世を去ってしまった。

「八造」
「はっ」
「真子のこと…頼んだぞ。哀しませる事だけはしないでくれ」
「はっ」

深々と頭を下げる八造だった。

車は、山々をちょっぴり真っ赤に染めた場所を走り出した。
季節は秋。紅葉狩りには早い時期だが、慶造は、心を和ませる為に自然が多い場所へと向かっていた。その道こそ、まだ四代目を継ぐ前に、良く足を運んでいた道。そして、その先にあるのは、今は住宅街となってしまったが、少しばかり自然が残っている懐かしい場所だった。
住宅街の一角に、自然を眺めることが出来る展望台が出来ていた。慶造は、そこに車を停め、運転席から降りる。そして、目の前に広がる自然を眺め始めた。
慶造の突然の行動に驚きながら、八造は辺りを警戒する。そのオーラに気付いたのか、慶造は振り返り、

「ここは、安全だから、八造くんも和めよ」

そう言って、再び自然を眺める。

「はっ」

短く応えて、八造は、慶造の後ろに立つ。そんな八造の腕を引っ張り、慶造は自分の隣に立たせた。

「気にしなくていいって。…修司の息子は、俺の息子と同じだからさ」
「四代目……」
「真子の前では本当に気をつけてくれよ。…真子の前では、俺のことは?」
「慶造さんとお呼びしてます」
「それでいい。だから、ここでは…」
「……慶造…さん…」
「そうだ。ほら、ゆっくり眺めて、心を和ませろ」
「ありがとうございます」

一礼する八造を見つめる慶造。

「…その……なんでしょう…か」
「本当に真面目だな…」
「えっ?!」
「くっくっく…気にするな」
「は…はぁ……」

慶造と八造は、並んで景色を眺めていた。
後ろから見れば、父と息子が仲良く並んでいるように見える。

慶人が大きくなったら、このように過ごしていたんだろうな…。

心を和ませているのか、いつも見せることが無い柔らかい表情をしている八造を横目で観ながら、慶造は心を和ませていた。
真子と楽しい時間を過ごすために…。


しかし、その夜。慶造達が恐れていた事が、起こってしまった……。


暗闇の中、真子の部屋が突然真っ赤に光り出す。そして、異様なオーラが辺りに広がり始めた。
そのオーラに反応した春樹と慶造、そして八造は、真子の部屋に駆け込んだ。

ドアを開け、目の前の光景に息を飲む。

真子の体が赤い光に包まれ、左手の爪は鋭く伸び、駆け込んだ三人を睨む眼差しは、背筋が凍る程、恐ろしいものだった。

「真子…」
「真子ちゃん…」
「お嬢様っ!」

同時に真子を呼ぶ三人。
赤い光に包まれる真子は、呼ばれても返事をしない事は解っている。ただ、『許さない』という言葉を発するだけで、その後の行動は、暴れるだけだった。
しかし、この日は違っていた。

「……血……再び流すんだろう?」

地を這うような程、低く、それでいて冷たい感じがする声が聞こえた。そう言った赤い光の真子は、口元を不気味につり上げる。

「楽しみだなぁ……真子の前で、血にまみれる姿を観られる事が…」
「…真子……」

慶造は力が抜けたように、その場に座り込んでしまった。

「…ふっふっふっふ……何を落ち込んでいる。それを望んでいるんだろう?
 私が、それを引き出してやるだけだ。……それとも、また私を閉じこめる
 つもりか? そちらの…刑事さん」
「…なっ!!!」

赤い光の真子は、何もかも見通せるのか、春樹の正体を知っていた。その言葉に驚く春樹は、思わず拳を握りしめていた。

「真子本人は知らないから、安心しなよ……」
「お前は……」
「これだけは、言ってやろう。真子の本当の思いを…な。
 あんたたちは、知らないだろう? 真子は一切、口にしないからねぇ」
「…何を言う? お前は真子ちゃんだろう? まさか…真子ちゃんの中に…?」
「さぁ、そこまでは言えないが、真子は、母の命を奪った奴を
 許そうとは思っていないさ。私が代わりに伝えたんだが…」
「何度か耳にしてる」

春樹の言葉に、不気味に笑みを浮かべた。

「それなら、改めて言う必要は無いな…。…それと、もう一つの光…」
「青い…光…」
「そうだ。あれは、あの日以来、消えたんだよ…」
「あの日…とは?」
「この私が生まれた日と同時にね。入れ替わったという方が良いかな?
 これからは、私が真子の体と心を支配する。…せいぜい真っ赤な血を
 流し合ってくれよ……楽しみにして……っ!!!!」

赤い光の真子は、何かに反応したように身構えた。

「…!!! 八造くんっ!!」

八造が、怒りを露わにして、赤い光の真子に向かって駆け出したのだった。慶造と春樹が同時に呼ぶが、八造の動きは既に赤く光る真子に拳を差し出していた。
八造の拳を赤く光る左手で軽く受け止める赤く光る真子は、そのまま拳を握りしめた。鋭く伸びる爪が、八造の腕に食い込む。しかし、八造は怯むことは無かった。もう一つの拳を振り上げ、赤く光る真子の目をその拳に惹きつけた。目線が移ったと同時に、八造は真子の腹部を蹴り上げた。

「…うっ……」

軽く呻き声を上げたと同時に、真子の体を包み込んでいた赤い光が、スゥッと消えた。
力なく倒れる真子の体を支える八造。

「本当に八造くんのオーラには弱いようだな…」

安堵のため息混じりに春樹が言った。
八造は、腹部を蹴り上げる振りをしただけだった。蹴りに込めた怒りに反応した赤い光の真子は、蹴り上げられたと勘違いした様子。誰もが、ホッと一安心したのか、息を吐いた。

「…真北……。例の術……」
「術を掛けていても、現れただろうがっ。もう無理だ」
「それでも…お願いだよ。…真子の手を染めたくない…。
 だから、掛けてくれよ…今まで以上に強く…」
「あれは、後に何が起こるか解らないんだぞ。…それに……」

芯のように、凶暴な心が更に強くなるかもしれない…。

「それに…なんだよ…」
「術を強くしたら、解けた時が、今以上に激しくなるぞ…。
 それでも……いいのか?」
「……この際…仕方ないだろ? 真子の……為だよ…」

真北…お前の為でもあるんだぞ。

慶造は、凛とした表情で春樹を見つめた。
最愛の娘の恐ろしいまでの姿を目の当たりにして、立てなくなるほど激しく落ち込んでいた男とは思えない程、力強い眼差しを向ける慶造。春樹は、慶造の言いたいことが解っている。しかし…。

「本当に…いいのか?」
「お前が、真子を停める自信があるならな」
「無いから止めておく」
「それでも…………お前に託したときの事を考えたら…」
「慶造! お前…まだ、その考えを…」
「もう、巻き込みたくないんだよっ! お前も真子も。…俺の知っている
 奴らを……こんな血生臭い世界で起こる事に……」
「……慶造……」

慶造の心は変わらない様子。春樹は、暫く慶造を見つめ、大きく息を吐いた。

「…知らないぞ…本当に」
「だから、お前に任せると言ってるんだよ」
「あのなぁ〜」
「真北。本当に…」
「……あぁ、解ったよ。…真子ちゃんの為…お前の為…な」
「…ありがとな…」

小さく言った慶造の声を耳にして、春樹は真子を抱きかかえる。そして、耳元で何かを呟き始めた。その間、八造は左手を伝う血を止める。

「大丈夫か?」

真子に術を掛け終えた春樹が声を掛けた。

「今回は、軽くで済んでます。……しかし、私の拳に恐れなくなったとは…」
「空手を教えるからだろうな」
「えっ?」
「拳を教えたんだろ?」
「はい」
「蹴りは?」
「来週の予定です………あっ」
「本来の真子ちゃんの行動は、全て、あの赤い光の真子ちゃんに
 知られているんだろうな。…そして、真子ちゃんが人の心の声を
 聞いてしまう事は、赤い光の影響だったんだな…。まさか、俺の……!!」

そこまで話した春樹は、慌てて口を噤む。
八造は、春樹の正体を知らないはず……。

「…あぁ、真北」
「な、なんだ?!」
「八造くんには、話したよ。特殊任務に就く男だとな」
「慶造っ!」
「これからの事を考えてのことだって」
「それでも……」

春樹は、何かに集中した後、ゆっくりと八造に振り返る。

「…俺のことは、詮索するなよ…解ったな、八造」

今までに似たことのない春樹の表情に、八造は思わず恐れてしまった。

「はっ」
「忘れておけ」
「しかし…」
「忘れろ」
「はい……」

春樹の脅しに近い眼差しは、八造の記憶を曖昧にさせてしまう程だった。

眼差しでも術を掛けるのか……。

春樹の行動を観察していた慶造は、この日、八造に話した事が無駄になってしまった事を悔いていた。
春樹の為、真子の為に考えた行動だっただけに……。




この夜の術の効力が強かったのか、この日以来、真子の笑顔が更に少なくなってしまった。
それに気付いたのは、落ち葉が舞う季節…冬がやって来る前の時期だった。



(2005.5.10 第六部 第十六話 UP)







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※旧サイトでの外伝・連載期間:2003.10.11〜2007.12.28


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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