任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第五部 『心と絆』

第二十話 心和む笑顔に、永遠の別れが訪れる

清々しい朝を迎えた橋総合病院。
真子は、愛用の病室に移された。ベッドに寝かされた真子は、橋の手で、素早く抑制される。

「あ、あの、橋先生?」

付き添って来たまさちんとぺんこうが、同時に言う。

「こうでもせな、この傷で、真子ちゃんは、あいつんとこ行こうと
 するやろが。それくらい、言わんでも、解るやろが!」
「は、はぁ……まぁ」

まさちんとぺんこうは、同時に項垂れる。

「ったく、お前ら、息ぴったりやな」

橋は、真子に優しく布団を掛け、病室を出ていった。
まさちんとぺんこうは、同時に真子の側に椅子を置き、座る。

「お前、仕事は? 講習期間が残ってへんかったか?」
「…行けるわけないやろ…。封印解いたんやからな。…どんな面して、
 生徒達の前に立てっつーんだよ…」
「…そうやな…。悪かった」
「なんで、お前が謝る?」
「組長のボディーガードだからな」

真剣な眼差しで、ぺんこうを見るまさちん。

「組長を守るために、俺も…俺の生活も守る…ってことか…。
 ……あほ…」

ぺんこうは、優しい眼差しで、まさちんを見る。

「あとは、組長の傷が治るのと、真北さんの意識が戻るのを待つだけか」

まさちんが、ため息混じりに言った。

「ライ…どこに行ったんだろうな」
「かなりの傷や。…それも、組長の能力で付けられたものやろ。
 能力同士は、反発するということは、いくら傷を治す力があっても、
 無理だろう?」
「それは、考えられるけどな…」

ぺんこうは、自分が浴びせた一太刀を思い出す。
ぺんこうは、ゆっくりと頭を抱えた。

「ぺんこう?」
「…すまん…。俺自身も…どうかしてるよな。むかいんの気持ちが
 解るよ…。…組長、目を覚ましたら、俺を怒るやろな」
「そうやな。自分の体の事は、すぅぅっかり忘れてな」
「だな」

二人は、微笑み合っていた。そして、ぺんこうは、席を立つ。

「俺は、あの人んとこに居るよ。組長と同じくらい心配だからな」
「あぁ。何か遭ったら、すぐに教えてくれよ」

ぺんこうは、後ろ手に手を振りながら、真子の病室を出ていった。

「もう、フラフラやな」

身も心も…。

まさちんは、大きく息を吐きながら、真子を見つめる。

「これ以上、血を流さないように、せんとな…」

まさちんの目線は、真子の左肩、左腕へと移動する。
脳裏に過ぎる真子の傷跡。腕、肩、胸部から胸部にかけて、突き刺さった柵…そして、裸体…。
まさちんは、耳まで真っ赤になっていた。

「だから、俺、何を考えてるんだよ…」

自分の頭をぼかぼかと叩くまさちん。
そんな様子を廊下で伺っていたえいぞうと健。

「何やっとんや、あいつ」

えいぞうが呆れたように言う。

「組長…大丈夫なんよな、兄貴」
「だから、いつもの病室に移ったんやろが」
「そうやけど…。傷、ひどかったやろ…俺、あんな姿、見たのは初めてや。
 いくら傷の治りが早い組長でも、あの傷は…」

えいぞうは、健の頭をおもむろになで始める。嫌がる健。

「な、なんやねん、兄貴ぃ〜。俺、ガキちゃうねんどぉ」
「ええやろ。お前が泣きそうやからや」
「泣かへんって」
「そうかぁ?」

えいぞうは、優しく微笑んでいた。




ぺんこうは、未だに意識が戻らない真北を見つめていた。

「組長と同じくらい、心配…か。…どうなんだろうな、俺。
 今は、組長よりも、あなたの事が、心配ですよ。…このまま、
 逝ってしまうような気がして…。…そんなことは、許しませんよ…」

ぺんこうは、真北の手に手を伸ばす。
握り合う二人の手には、未だに血が付いていた。

「赤色…さらに、嫌いになりましたよ。もう、見たくもありませんね…」

ぺんこうは、真北の手を握りしめたまま、ベッドに俯せになる。そして、真北の顔を見つめていた。




橋総合病院の駐車場を一台の車が、走ってくる。その車は、玄関の前に急停車した。
静かにドアが開く。
車から降りてくる足。それは、真っ赤になっていた。
運転していた男が、車から降り立つ。足下に、血が滴り落ちた。
その姿を見ていた医者と看護婦が、慌てて玄関から出てきた。駆け寄る医者と看護婦を押しのけて、玄関を入っていく男…。
しっかりとした足取りで、奥へと入っていった。
ふらつき、血を吐く。
顔を上げた。
その男こそ、真っ赤な目をしたライだった。

「真子…。どこですか…いつもの……病室ですか…」

呟くライは、再び、歩き出す。



真子の病室の前のソファに座っていたえいぞうと健は、何かただならぬ気配を肌に感じ、その方向に目をやった。
廊下の突き当たりに、真っ赤な何かが光り始める。
えいぞうと健は立ち上がり、真子の病室のドアの前に立ちはだかる。
赤い光が強くなった。
廊下の角から現れた姿…それは、途轍もなく強い赤い光を発するライだった。
周りの患者や看護婦の姿は、目に入っていないのか、真っ直ぐ真子の病室に向かって歩いてくる。

「あいつ…生きていたのか…」

えいぞうは、呟くと同時にライの雰囲気に負けじと、恐ろしい雰囲気を醸し出す。
それにつられる健も、いつもとは、全く違う雰囲気を醸し出した。
えいぞうと変わらない程の凶暴な雰囲気…。

「真子は…そこですか? …迎えに来ました」

ライが言う。

「まさちん、組長から、離れるな!!」

えいぞうが、病室内に聞こえるように叫ぶ。

「野郎ぅ〜!!」
「健!!」

健が、ライに立ち向かう。
ライは、更に強い赤い光を発した。そして、体から、閃光が発せられ、健の体に突き刺さる。

「!!!!!!!」

一瞬の出来事だった。
えいぞうが、叫ぶよりも先に、健の体から、吹き出した真っ赤な血は、辺りを染めた。真子の居る病室のドアまでも真っ赤に染めていた。
えいぞうの目の前で、ばったりと倒れる健。
えいぞうは、健に駆け寄り、手を差し出す。
ライの発する閃光は、そのまま、えいぞうを襲った。
健に差し出した両腕に、無数の切り傷が付き、血が噴き出す。
健が、目を覚ました。

「兄貴…」
「…フッ…心配させんな。…ここは、病院や。幸い、橋先生もおる。
 急患もおらんし、暇してるやろうからな…」
「そうやな…」

健は体を起こし、そして、えいぞうと息を揃えて、ライに向かって走り出し、同時に拳を差し出した。
その拳は、ライの体に当たらず、跳ね返される。
ライの体を包む赤い光が、ガードをしているようだった。
えいぞうと健は、再び立ち上がり、ライの進行を阻む。

その時だった。

真子が病室から、出てきた。

「組長…!」

真子の気配に気を取られたえいぞうと健は、真子の姿を見て驚いたのか、身動き一つしなかった。

本能と、赤い光が……一体化…?

真子を追いかけるように、病室から飛び出してきた、まさちんに気付き、えいぞうが、鋭い眼光を向けた。

「あほ…出すなと…」
「組長!!!」

まさちんは、えいぞうを無視して、走り出した。
まさちんの突然の行動に驚いたえいぞうは、まさちんが、走り出した方向を見つめた。


真子の姿が…ない…。
ライも居ない…。


まさちんに言おうとしたときに聞こえたガラスの割れる音…。
えいぞうは、まさちんの行動を見つめていた。
まさちんは、割れた窓ガラスから、下を見下ろしている。
えいぞうと健も、傷を圧してまで、立ち上がり、まさちんと同じように下を見下ろした。

バァァァンッ!!!!!!

激しい物音が聞こえた。
なんと、真子がライの首に左腕を掛けて、一緒に飛び降りたのだった。
地面に叩きつけられた真子とライは、ぴくりとも動かない。

「組長ぉぉっ!!!!!」

まさちんは、絶叫に近いくらいの声で叫び、その場を走り出した。




「…!!!!!!」

まさちんの叫び声に反応したのは、真北の病室に居たぺんこうだった。
ゆっくりとドアを開け、辺りの様子を伺う。
何やら騒がしい。
その中の何かの気配に集中するぺんこう。

「組長!!」

ぺんこうは、真子のただならぬ気を感じ取ったのか、その気が強く発せられる場所へ向かって走り出した。

「…ライ…?」

走りながらも、別の気配も感じ取るぺんこう。
それは、湖で自分の一太刀を浴び、倒れたにも関わらず、甦ったライの気配…。

『組長、そいつは、俺に任せて下さいっ!!』

ぺんこうの想いは、真子に届くのか…?





病院の裏口から、外に出たまさちんは、真子の病室の下辺りの場所を目指して走り出す。

「組長、そいつは、俺に…俺の手で…」

まさちんは、呟きながら走っていた。





橋の事務室。
橋は、本当に暇らしい。
真北と真子のカルテを手にとって、ただ、眺めていた。

「お前が、戻らないと、真子ちゃんを抑制したまんまやないけ…。
 早く目を覚ませよぉ。…そっちの世界より、こっちやろが…」

ぼぉぉぉっとしている様子。
ふと我に返った橋は、外の騒がしさに気が付いた。

「なんやぁ?」

立ち上がり、窓際に寄ろうとした時だった。
事務室のドアが勢い良く開いた。

「橋先生、事件が…!!!」

看護婦のただならぬ表情に、橋は、すぐに事態を把握した。

「怪我人は?」
「それが、真子ちゃんの病室の前で、えいぞうさんと健ちゃんが…そして、
 真子ちゃんは…五階から…赤く光る男と飛び降りたそうです!!」
「なにぃ!!!!!」

橋の驚きと怒りが入り交じったような声は、事務室内のガラスを響かせた。
橋は、急いで出ていく。看護婦も、橋を追いかけるように走り出す。

「えいぞうと健は?」
「かなりの出血をしています。なのに、まさちんさんを追いかけて…」
「まさちんは、無事なのか?」
「はい」
「真子ちゃんが落ちた場所は?」
「愛用の病室の下です」
「そこか!!!」

橋と看護婦が、真子が居るだろう場所に目をやったときだった。
目を覆いたくなるほどの途轍もない強い青い光が、窓ガラスを通して、辺り一面を照らした。

ドン!!

何か塊が、壁に当たった音が、病院に響き渡る。
橋は、目を開けた。
橋総合病院に居る患者や看護婦、見舞客、そして、医者達が、一つの場所を見つめていた。
見つめながら、ゆっくりとその場所に足を進めていく周りの人々。橋も、ゆっくりと歩き出した。

…まさか…。

橋は、歩みを停め、一点を見つめた。


一人の男が、力無くだらりとした女性を腕に抱えて、病院内へ入ってきた。
男の腕に居る女性の両手からは、血が滴り落ちている。
女性を抱える男を追いかけて病院内へ入ってきた別の男が、その肩に手を掛けて、壁に押しつけた。
橋の視界は、周りの人たちに遮られる。
二人の男は、言い争っているようだった。

橋は、ゆっくりと人だかりの後ろに立つ。

言い争っているのは、まさちんとぺんこうだった。
橋は、二人の腕の中で、死んだように真っ青になっている女性を見つめる。
それは、真子だった。

「ストレッチャーを用意。すぐに入る」
「はい」

橋は、隣に立つ看護婦にそう告げて、踵を返し、両手を力一杯握りしめて歩き出した。





えいぞうと健は、真子が飛び降りた場所に立っていた。そして、一点を見つめていた。
そこには、目を見開いたまま、気を失っているライが横たわっていた。
ライの額は、丸い穴が空いたような感じで焼けただれていた。口からは、血を流している。
ライが倒れている場所から、直線上にある壁には、ライの額と同じ大きさの穴が空いていた。
そこからは、微かに煙が立ち上がっていた。

「…これが…真の力…なのか…。あの能力の…」

えいぞうが呟く。

「兄貴……。組長…は…、まさか…死…?」
「そんなことはない!!!」

えいぞうの悲痛な叫び声が、辺りに響いていた。

「ライは…死んだのか?」

静かに尋ねる健。
えいぞうは、ゆっくりとライに近寄り、脈を取る。
微かに感じられる脈。

「…生きている…。誰か呼べ」
「嫌だ。このまま、こいつには、ここで…」
「あほんだら。組長も、こいつも死んでない。それに、こいつに俺らが
 手を下したら、組長に怒られるだろ…」
「…解ったよ…」
「ったく、お前の方が、怒ると質悪いな」

走り出した健を見つめるえいぞうの眼差しは、とても優しかった。
ちらりとライを見下ろすえいぞう。
健には、そう言ったものの、一番その想いが強いのは、えいぞうだった。
えいぞうは、足を少し掲げ、そのまま、横たわるライの腹部を思いっきり踏みつける。
ライの口から、血が噴き出した。





橋と看護婦は、ストレッチャーを押して走っていた。

まさちんとぺんこうは、力無くだらりとしている真子を抱きしめ、震える声で、呼びかけていた。

「……組長…組長……組長………?」

真子の右手と左手の平には、焼けたような丸い痕が付いていた。そこからは、溢れるように血が、こぼれ、床を真っ赤に染めていく…。

組長、目を覚まして下さい…。
笑顔…見せて下さいよ……組長…!!!

二人の熱い思いは、通じるのか…?!



(2006.8.30 第五部 第二十話 UP)



物語は、完結編 極道のまほろば 〜心和む笑顔へと繋がります。



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
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※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
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