第五部 『受け継がれる意志編』
第十一話 お互いの想い
桜が咲く季節。毎年、阿山組の庭にも、素敵に咲いている桜。 しかし…
この年、咲く様子が、全くない。
「おかしいなぁ〜。毎年咲いていたのにな」
庭の手入れをしながら、修司が呟いた。
「どうした、桜の木。今年は、元気が無いのか? それとも…」
何かの気配を感じ、修司は振り返った。
「慶造!」
「庭木に話しかける姿…いつ観ても、修司に見えないな」
「ほっとけっ」
照れたように言う修司。慶造は桜の木を見つめた。
「桜……咲かなかったのか? 珍しいな」
「あぁ………って、お前、退院は五月だと…」
驚いたように修司が言う。
「美穂ちゃんが、なぜか、ずっと許可くれなくてな」
「俺が頼んでいた」
「なぜだよ、修司」
「真北さんの事で、お前が無茶しそうだからだ」
「落ち着いたんだろ?」
「まぁ、何とかな」
そう言って、慶造は、修司の手伝いを始めようと、道具に手を伸ばす。
「何とか落ち着いたということは、誰が無茶をした?」
「勝司が…」
その言葉で慶造は、庭を去っていき、勝司の部屋に顔を出す。 部屋には人の気配を感じない。 勝司の部屋の隣にある北野の部屋。慶造はドアをノックして、部屋に入っていった。
「四代目っ!!!」
いきなり入ってきた慶造の驚き立ち上がり、深々と頭を下げる北野。
「退院、おめでとう御座います!!」
「山中は?」
「山中さんは、真北さんと共に行動なさっております」
「……何か遭ったのか?」
「その………山中さん…怒りを停められずに…」
「まさか…」
「真北さんに停められたんですが、真北さんの制止を振り切って…」
「……今は警視庁か…」
「はい…」
「誰も報告せんと……ったく……。真北の差し金か?」
「…はい……」
恐縮そうに返事をする北野。
「ありがと」
短く言って、慶造は北野の部屋を出て行った。
「ひゃぁ〜〜」
緊張の糸が切れたように、座り込む北野。
それ以上に、真北さんが暴れたとは、言えないよな……。
項垂れる北野だった。
北野の部屋から出た慶造は、その足で、ちさとの部屋に向かっていく。ちさとの部屋からは、ちさとの声が聞こえていた。真子が笑う声に心を和ませる慶造は、ドアをノックする。
『はい』
「俺」
短く応えた慶造は、ドアが開くのを待っていた。 ドアが開き、ちさとが顔を出すと同時に、足下に真子がしがみつく。
「パパぁ!! おかえりっ! おかえりっ!! けが、なおったの?」
「ただいま、真子ぉ。怪我は、すぅっかり治ったぞぉ。
真子は元気にしてたか?」
慶造は真子を抱き上げ、頬ずりをする。
「はい!! ママもげんき!」
その言葉に慶造は、ちさとを見つめた。 ちさとは安心したように微笑んでいる。
「お帰りなさい、あなた」
「心配掛けたな」
「美穂さんが、大事を取ってくれただけですよ」
「そうだと思った」
慶造は真子を見つめる。
「ママと何を話してたんだ、真子。楽しそうに笑っていたけど…」
「パパもきく?」
「あぁ。俺も聞きたいっ」
そう言いながら、慶造はちさとの部屋に入っていった。
本来なら、桜吹雪が楽しめる時期だが、今年は寂しく…。
医務室。
ちさとがベッドに横たわっていた。美穂は深刻な表情で、カルテを見つめる。
「美穂さん…やはり…」
「えぇ。二ヶ月になるわ…」
ちさとは、そっと体を起こし、足を床に降ろした。
「おめでとう!」
明るい声で美穂が言う。
「…ありがとう……でも…」
「まだ、困ってるの? 二人居ても大丈夫でしょぉ」
「そうだけど……大切な者が増えるのは…もう…」
「もしかして、堕胎するつもり?」
そっと尋ねる美穂に、ちさとは頷いた。
「どうして? 折角授かった命を、簡単に奪うつもり?
あれ程、命を大切にしようとしてる人が、自分の体に
宿った命を簡単に……」
「解ってるけど……怒られちゃう…」
「誰に?」
「慶造さんに」
「どうして? 喜ぶでしょぉ〜。慶造君、子供大好きなんだから…」
そこまで言って、美穂は何かに気が付いた。
「二ヶ月……って、ちさとちゃん………」
「…………どうしよう…」
美穂は、それ以上、何も言えなくなった。
翌朝。
ちさとは、真子が眠っているのを確認し、部屋を出て行った。廊下で待機していた栄三に、真子の事を頼み、そして、慶造の部屋に入っていく。
「どうした、ちさと。こんなに早くに……」
深刻な表情で、慶造を見つめるちさと。
「何か遭ったのか?」
静かに尋ねる慶造に、ちさとは、そっと告げた。
「……その……月のものが、来なくて……」
「月のもの?」
慶造は考え込み、そして、気付いた。
「妊娠?」
「………はい」
慶造の低い声に、ちさとは、そっと応えた。
「二ヶ月になるそうです」
ちさとの言葉に、何かを感じた慶造は、沸き立つ思いをグッと堪える。
「二ヶ月? ………誰だ? 相手は…誰だ?」
ちさとは、何も言わない。慶造は、ちさとを見つめる。
「俺じゃないのは、確かだ……組員か? …まさか……竜次に…?
…もしかして……栄三じゃないだろうな………ちさと……」
慶造が醸し出すオーラが変わっていく。
「…………一度だけ………真北さん……と」
慶造は、拳を握りしめた。 その拳に気付いたちさとは、体を硬直させ、覚悟を決めた。 しかし…。
「ちさと」
「はい」
「……………真北には、伝えてるのか?」
ちさとは、首を横に振った。
「修司ぃ〜〜っ!! 真北を呼べっ!」
慶造の怒鳴り声が、本部に響き渡った…。
春樹は、慶造の部屋にやって来る。 ノックもせずに、
「入るぞぉ…で、なんや?」
そう言いながら入って行った。だが、慶造は座ったまま何も言わず、春樹を睨んでいるだけだった。春樹は、慶造の前に腰を下ろす。
「……慶造、どうした?」
「二ヶ月になる」
慶造が静かに口を開いた。
「……あぁ、そうだな。黒崎の動きは大人しくなった。
だけどな、静かな時こそ、警戒が……」
「ちさとがな…」
「ん? ちさとさんに何があった?」
「お前の気持ちを知りたいんだが…」
「俺の気持ち?」
「あぁ。これからのことだ」
春樹には、慶造の言葉の意味を理解できない。今まで、散々、今後の事を話しているにも関わらず、今更、何を言ってるのだろうかと。
「…これだけの情報では、ピンと来ないんだな、真北は」
「だから、何が言いたいんだよ」
「……ちさとのことを、どう思ってる?」
慶造は静かに尋ねた。
「真子ちゃんも含めて、お前に頼まれてるだろが。
普通の暮らしに戻してやりたい。だから、世話を…」
「あぁ。ちさとと真子の世話を頼んでるよな。俺は思わなかったが、
真北は違うんだな。世話の中に、男と女の関係が含まれてるとは
知らなかったんだが……」
慶造の声には抑揚が無かった。その時、春樹は思い出す。
あの日……。
慶造の言葉にあった、『二ヶ月』と『これからのこと』。それらを思い出して、初めて気付く……慶造が言いたいこと、そして、突然呼び出した意味に!
「まさか……!!!」
慶造が突然立ち上がり、春樹の頬をぶん殴った。
「!!!!」
倒れる春樹の胸ぐらを掴み上げ、春樹を殴打する慶造の目には、哀しみと怒りが入り交じっている。一つ一つの拳から、慶造の思いが伝わってきた。 春樹は、自分が行った事に対して、何も言わず、ただ、慶造に殴られ続けるだけだった。 慶造の拳が、春樹の腹部に突き刺さる。 春樹は、その場に崩れ落ち、口から血を流した。
「俺は、そんなつもりで、お前に任しているんじゃないっ!!」
慶造は、春樹の胸ぐらを掴み上げ、睨み付けた。春樹は目を逸らす。
「ちさとを抱いた? 腹の子の親はお前だと? 許さねぇぞ…」
慶造は、春樹の腹部に蹴りを入れた。
「ぐはっ…」
春樹は血を吐いた。 慶造は、春樹を睨んでいる。 春樹は、口元を真っ赤に染めながら、慶造を見つめていた。 慶造の拳が震え、春樹に振り下ろされた。 全く抵抗しない春樹。慶造は容赦なく春樹を攻撃し続ける。 慶造の蹴りが、春樹の腹部に決まる。その勢いは途轍もなく強く、春樹は床を滑るように転がり、壁に背中を強打した。
「なんで、抵抗しないんだよ…真北…」
呟くように慶造が言った。春樹は、ゆっくりと体を起こしながら、慶造を見つめ、そして、応える。
「殴られて…当たり前の事だからな…。抵抗なんか…できないよ…。
お前の気持ち…知ってるだけにな…」
「真北……」
慶造は、項垂れて、座り込んでしまった。
「慶造?」
「…いっそのこと、俺から、ちさとを奪ってくれよ…。
連れ去ってくれ…。真子と…一緒に…」
慶造の目から、涙が一滴、落ちる。
「…ちさとと真子には、これ以上、この世界に関わるような場所に
…いて欲しくないんだよ…。だから…だから、俺から…二人を奪ってくれ」
「しかし…」
「お前が、ちさとのことを愛してるのは知っている。同時に真子も…な。
だから、ちさとの妊娠を聞いたときは、チャンスだと思った。だから、
こうして、お前を殴って…お前の反撃を待っているのに…なせだよ…」
慶造は、春樹を見つめる。 慶造の目の奥には、揺るぎない想いが秘められている。そう感じた春樹は、壁にもたれながら、慶造に言った。
「謝っても許してもらえることじゃないだろ? 俺がお前の立場だったら
…例え、そのつもりでも、愛する者を抱いた男は許せないからな」
「だったら、なぜ、ちさとを…」
「気持ちと体が、別行動。とうとう抑えられずに、抱いてしまったぁ〜」
軽い口調で言った春樹に、慶造は、呆れたように、
「…馬鹿野郎…こんな時にも、冗談を…」
と、そこまで言った時だった。春樹の様子が、変わっていく事に気付いた。
「って、お前なぁ、自分が振るった鉄拳くらい、覚えておけ
……冗談でも言わな…気を…失うよ…」
「真北?!」
春樹は、呟いたまま気を失ってしまった。
ポタ……。
「!!!!! 誰かっ!! 医者を呼べっ!! 早くしろぉっ!!!」
春樹の口から滴り落ちる血を見た慶造は、慌てたように叫んでいた。 慶造の声に反応して、修司が駆けつける。
「慶造!! お前……………真北さん!! 慶造、何をしたっ!」
「訳は後で話す。兎に角、急いでくれっ!!!」
修司は、ゆっくりと春樹を抱きかかえ、部屋から運び出した。
道病院の一室。 春樹は、痛々しいまでの姿でベッドに横たわっていた。その傍らには、慶造とちさとが、見守るように立っていた。
「全治一週間…か…。……作戦…失敗か…」
慶造が呟く。
「あなた…ごめんなさい…。手続き…しておきます…」
「…しなくていい。これからの事を考えると…お前は、
真北と生きていく方がいいんだよ」
「でも…」
「気にするな。俺は、俺の生きる世界を全うするだけだからな。
…ちさとを巻き込んで…悪いと思っている。許してくれ」
「あなた…。それは、言わない約束ですよ?」
「約束してるけど、常に、ここに引っかかっている事だよ」
「あなた……」
ちさとは、慶造にもたれかかる。ちさとの肩を抱きながら、慶造は優しく語る。
「俺より先に、真北と出逢っていたらよかったな。お前は、
あんな哀しい思いをしなくて、済んだはずだよ…」
ちさとは、そっと慶造を抱きしめた。
「あなたが好きなの…。だけど、真北さんも好き…。私って、悪い女だわ…」
「ほんとだな…。そして、…俺もだ」
選べない……。
慶造とちさとは、抱き合っていた。 寝たふりをしている春樹は、二人の雰囲気を感じ、いたたまれなかった。
俺が一番…悪い男だな……。
春樹の心の声は、誰にも聞かれる事は無かった。
慶造は、射撃場で銃を構えていた。 何かを忘れるかのように、引き金を引き続ける。 射撃場のドアの外には、修司と隆栄、そして、勝司が立っていた。 慶造の思いが解るだけに、誰も、慶造に何も言えず、ただ、ドアの外で待機してるだけだった。そこへ、桂守がやって来る。
「……緊急ですか?」
隆栄が尋ねると、桂守が、頷いた。
「黒崎の動きが活発化してます。飛鳥さんたちが抑えてますが
恐らく、難しいかと…」
「俺が行く」
隆栄の表情が、更に深刻になった。
「猪熊、お前は…」
「小島、その体じゃ無理だろがっ! それに、慶造からも言われてるっ」
「…ったく、人の心配より、自分の心配しておけって」
ドアの向こうに居る人物に向かって、隆栄が吐き捨てるように言った。
「山中、慶造を頼む」
「はっ」
修司と隆栄は、桂守と一緒に、射撃場を出て行った。 一人残された勝司は、ドアの向こうの気配に集中する。 慶造は引き金を引く事を止める気配を見せない。
「ちきしょうっ!!!」
慶造は、怒り任せに銃を地面に叩き付けた。銃は、壊れた。 慶造は、壊れた銃をジッと見つめる。
俺の心も…簡単に壊れるかもしれない…。
慶造は、何かの気配を感じ、ドア付近に目をやった。
「山中…」
「四代目。そろそろ時間です」
「知るかっ……。修司と隆栄は?」
慶造が落ち着きを無くしている事を悟る勝司は、何も応えなかった。しかし、慶造のオーラをこのままにさせておくわけにはいかない。勝司は、慶造に掛ける言葉を必死で探していた。そして、思い出す。
「真子お嬢様がお待ちですよ」
慶造にも効果がある薬『真子の事』。 慶造を取り巻く、異様なオーラが消えた。
「……山中…お前は、どうする?」
「私は、四代目にお仕えする身です」
「ちさとに冷たく当たっても……いいかな…」
「それは…」
「ちさとの涙を、もう、見たくない。俺を失った時を考えると、
俺は……真北に託したいんだよ…ちさとも、真子も……。
腹の子の父は真北だ。……生まれてくる子にまで、
血塗られた世界で、生きて欲しくない……俺の…本音だ」
慶造の声は震えていた。 顔を上げ、勝司を見つめるその目から、涙が溢れ、頬を伝っていた。
「勝司…お前も解るだろ? …山中さんが、どれだけ願っていたのか…。
ちさとの幸せを、どれだけ願っていたのか、解るだろ!」
「…はい。沢村さんが生きておられた頃に届いた手紙に書いてました。
その時からです。…ちさとさんが手紙を下さる前からです。父の跡を
継いで、ちさとさんを幸せにする…そう誓ったのは…だから、私は…」
「…俺の考え……間違ってないよな?」
「好きだからこそ、冷たく手放す。…これも、優しさだと…思います」
「……だから、今日は………一人にしておいてくれ」
「外で待機しております」
勝司は一礼して、ドアを開ける。
「勝司」
「はい」
慶造に呼ばれ、振り返る勝司。
「俺に…付いて来てくれるよな」
「はっ」
「無茶はするなよ」
「心得ております。この身は、あなたの為に」
「…いつも……ありがとな」
慶造は微笑んだ。 しかし、その微笑みの奥に隠される激しい哀しみを感じていた。勝司は、深々と頭を下げて、そして、射撃場を出て行った。 静かにドアが閉まる。 慶造は、新たな銃を手に取り、そして、的を狙って撃ち始める。 自分の思いを、心の奥にしまうかのように……。
春樹は、病室の窓から、外を見つめていた。 病院の庭にある桜の木は、見事な桜吹雪を見せていた。
今年は、咲かなかったもんなぁ。 真子ちゃん、哀しんでるかな…。 寂しがってるかな〜。
そう思いながら、空を見上げる春樹。 病室のドアが開いた事すら気付いていなかった。ドア付近に立ちどまる慶造は、一緒に来た修司に廊下で待つように告げ、春樹の側に歩み寄った。
「……そこまで、無防備になるのか?」
突然の声に驚き、春樹は振り返る。
「………慶造………」
「傷……悪化するぞ」
「いいんだよ。…それとも、俺を殺しに来たか?」
「…殺ってもいいのか?」
ちょっぴりふざけたような言い方をして、慶造は春樹の隣に歩み寄り、同じように外を眺めた。
「さっき、聞いてきた。あと一週間…掛かるんだってな」
「思ったよりも酷かったそうだ」
「そりゃなぁ〜」
そう言って笑う慶造は、話し続けた。
「ちさとは産むつもりだぞ」
慶造の言葉が、春樹の心に突き刺さる。
「慶造…」
「退院までに決めろ。真子と一緒に阿山組を出て行くか、
ちさとと真子を連れて、阿山組を出て行くか…」
ちらりと春樹を見て、慶造はフッと笑う。
「極道の掟だ。姐に手を付けた男は、落とし前をつける…。
だが、てめぇの指もらっても、俺は嬉しくも何ともねぇからなぁ〜」
「別に…俺は、それでも構わんぞ。何なら、この命…奪えよ」
「………哀しむ者が居る奴の命は…奪えないって…
知ってるだろ?」
軽い口調で言う慶造に、春樹は何も言えなくなり、目を伏せた。
「本当の事…言えよ。そうやって、俺に冷たく当たって、
俺が何かをするとでも思ってるのか? それとも…」
「……ねぇんだよ……」
「なんだ?」
「てめぇが意見を述べる権利は、無ぇんだよ」
「慶造……」
「………以前から、思っていた事だ。…真子は、真北に一番
懐いている。…そして、真子には、普通の暮らしをして欲しい。
これは、俺だけじゃない。ちさとの思いでもあるんだ」
「あぁ。だから、なるべく、組員と接する事のないようにと育ててきた」
「真北…お前は刑事だ」
「まぁ、一応な」
「俺達、極道とは、相容れない立場だ。だから、俺も、ちさとも
真子をお前に託して…」
「待てや…慶造。…子供には、父と母が必要だと言っただろ?
何を勝手に決めてんだよっ」
「お前の意見は聞かない。…そう言ったよなぁ」
慶造が冷たく言い放つ。
「…いいな、真北。どちらかに決めろ。…一週間後、回答を
待ってる。…それまで、無茶するなよ」
その言葉に、優しさを感じる春樹は、ただ、慶造を見つめるだけだった。
「真子が心配するからなぁ〜。じゃぁな」
慶造は、春樹の病室を出て行った。
「……って、おい、慶造!!」
静かにドアが閉まった。
「…ちっ……いきなり、なんだよ……」
春樹はベッドに戻り、布団に潜り込む。先程耳にした慶造の言葉を、頭の中で繰り返していた。
どちらか一つ…。 どっちも真子ちゃんを俺に託すことじゃないのか??? 慶造、お前は、それでいいのか?
(2005.1.9 第十一話 改訂版2014.11.21 UP)
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