任侠ファンタジー(?)小説『光と笑顔の新たな世界』 外伝
〜任侠に絆されて〜


第六部 『交錯編』
第二十四話 そして、その日がやって来た。

阿山組本部の門番が、目の前にやって来た芯の前に立ち、制止する。

「お前、末端の組員を殴りまくる緑やな…?」
「…緑? …俺の呼び方か? …それよりさぁ…」

芯が何かを伝えようとした時だった。

「何をしているっ」

その声は、勝司だった。阿山組の末端組織の連中を倒しまくる緑男がやって来たと聞いた勝司は、直ぐに門へとやって来た。そして、噂を耳にしていたことで、思わず凄みを利かせたが、目の前に居る緑は、想像していたより、穏やかな雰囲気だった。

「これ、あんたっとこの組員やろ? いつもの通りに相手をしていたら、
 …手加減忘れて、つい…。気絶したまま目を覚まさないんだよ」

芯が、背負っている男を観て、

「お前が、こいつを?」

勝司の雰囲気が一変した。

「兎に角、どうしたら、いいのかな。あんたに渡していいのか?」

勝司は何も言わずに、芯を上から下までじっくりと観察し、そして、言った。

「…中まで運んでもらおうかな」
「あぁ。案内してくれよ」

勝司の案内で、芯は、本部の建物に入っていった。門の前に集まった組員達は、芯から遠ざかるかのように、後ずさりする。そして、芯の姿は、玄関へと消えていった。

「どういうことだよ。山中さん、緑を許さないって言ったよな」
「四代目から命令があったみたいだよ。連れてこいって…」
「えっ、でも、止めろって、言われてなかったっけ」
「あれは、緑から来たから、大丈夫じゃないのか?」
「あ、あぁ…」



芯に背負われた組員は、阿山組内にある医務室に連れてこられた。そっとベッドに寝かしつけた後、芯は勝司の案内で、とある部屋へ入っていった。

「座れ」

芯は、素直に従い、部屋の中央に座った。勝司が、芯の前に腰を下ろし、そして、芯を睨んでいた。芯は、何も言わず、勝司をじっと見つめているだけだった。

「…こいつが、緑と称されている男か。まだ若いじゃないか」

そう言って部屋に入ってきたのは、慶造だった。

「四代目!」

勝司がそう言って、立ち上がり、一礼していた。芯は、勝司の見つめる先に目線を移した。
そこには、慶造が立っていた。

「…お前に尋ねたい事がある。…名前は?」
「…あんたに言うほどの名前ではないよ。しかし、俺はあんたのことを
 知っている。阿山組四代目組長、阿山慶造。…だから、俺は、
 名乗らなければ…失礼だよな…。山本芯だ。訳あって、あんたの
 末端組織を締め上げているがな…」

芯は、慶造の前で怯むことなく、話していた。

「ほほぉう。肝が据わってるんだな。この本部に通されて、そして、
 この山中の威嚇に負けず、俺の前で、そんな口をたたけるくらいの
 男は、二人目だな」
「二人目??」

慶造の言葉に首を傾げる芯だったが、慶造は、強引に話を進めていった。

「さて、本題に入る」

そう言って、慶造は、芯の前に腰を下ろした。

「お前のことは、調べてある。教育大学の一回生。教師を目指して
 いるんだよな…なのに、暴れ回るのは、よくないだろう?」

芯の顔が曇った。

なぜ、そこまで知っている…?

「一体、何をしたいんだ?」
「…一般市民に迷惑を掛けているんだよ。それも、脅しながらな…。
 それが、許せないだけだ。少しでも迷惑を掛けたやくざは…
 許せない…。だから、あんたもこれ以上、迷惑をかけるようなら
 俺…何するか、わからないぜ…?」

芯は、慶造を睨んでいた。しかし、慶造は、微笑むだけだった。

「…助かってるんだよ。本当はな…。お礼を言いたいくらいだ」
「なに?!」
「ほんと、困り果てててな。末端の者まで目を配ってられないんだよ。
 一般市民に迷惑を掛けない…。それは、俺の望みだ。しかしな、
 そのことを理解してくれる奴は少ないんだ。やくざというだけで、
 世間に嫌われる。はみ出し者は、みんな、それを妬んで、そして
 かたぎさんに迷惑を掛けてしまう…。威嚇して、自分の力を
 誇示したいんだ…。そんなことをしても、無意味なんだけどな…。
 俺の力不足なんだよ…」
「だからと言って、放っておくなんて、上に立つ者がすることか?」
「山本、お前が倒した奴らは、みんな、ケジメをつけさせている」
「はぁ?! …どうりで、仕返しがこないわけだ。…ふっふっふ。
 あっはっはっは!! これは、驚いた。俺が考えていた男とは
 全く正反対だな。…申し訳なかった。俺は、阿山慶造は、
 一般市民に迷惑を掛けても、平気な奴なんだと思っていた。
 違っていたんだな。…それを一番哀しむ男だったとは…」

芯の言葉に、慶造は驚きながらも、話を進めていた。

「…俺よりも、もっと哀しむ者がいるんだよ…。俺の娘だ」
「娘?」

芯は、レストラン前で見かけた女の子の事を思い出した。

「母を亡くしてから、ここ数年、笑顔を見せないんだよ…。
 感情を失ったようでな…。ところで、君は、家庭教師を
 したことがあるか?」
「ありますよ。家庭教師に、塾の講師…」
「…その…頼まれてくれないか? 娘の家庭教師…」
「はぁ?!」

突然の言葉に、芯は、突拍子も無い声を張り上げる。

「この世界、いつ命を狙われてしまうのか、わからないだろ。
 娘を学校に通わせたいんだがな…周りに危険が及ぶだろ。
 それを考えて、あまり外に出さないようにしているんだよ。
 しかし、教育は必要だろ。先日まで、家庭教師をしてくれた
 男が居るんだけどな、この四月から急に忙しくなってな…。
 家庭教師を捜していたところなんだよ。頼まれてくれ」
「…考えさせてください。お返事は、明日にでも…」

芯は、何か思うことがあるのか、きっぱりと断らなかった。




高級料亭・笹川。

「向井くん、次は、野菜切っておいてくれるか?」
「かしこまりました!」

高級料亭・笹川の厨房では、新しく入った料理人・向井涼が先輩料理人の指示を受けながら、修行をしていた。向井の仕事は本当に下っ端が行うような事ばかりだが、向井は愚痴一つ零さずに、難なくこなしていく。
その様子を厨房の片隅で、下ごしらえをしている笹崎が伺っていた。


洗い場で食器類を洗い終えた向井は、濡れた手を拭き、一息付いた。

「慣れたか?」

笹崎が声を掛けてきた。

「笹崎さん。お疲れ様です。少しずつ、慣れてきました」
「あまり根を詰めると、体に悪いぞ。休憩も立派な料理人としての
 修行の一つだよ」
「ありがとうございます。でも、私は、もっともっと腕を磨きたいので、
 少しの時間でも修行に励みます」
「倒れたら、それこそ慶造さんに怒られますよ」
「…そうですね…」
「お茶でも飲みますか?」

温かな微笑みで、笹崎が言った。



笹崎の部屋に通された向井は、差し出されたお茶を一口飲む。

「おいしいですね」
「真北さんが五月蠅くて、慶造さんまで影響されたんですよ。
 そのお陰で、お茶を煎れるのが上手くなりましたよ」
「私も、そうなりたいです。そして、色々な料理を作れるように
 なりたい。…笹崎さん」
「ん?」
「私…見込みがあるんでしょうか…」

笹崎は、自分が煎れたお茶をゆっくりと一口飲み、向井を見つめた。
向井は、笹崎を前に、緊張している様子。ちょっぴり落ち着きが無く、そわそわしていた。

「正座…苦手か?」
「…すみません。私、あまり行儀良く無くて…それで…」
「そう固くならなくていいんですよ」
「しかし…」
「この料亭に居る者たちは、みんな、私の息子みたいなもんだから、
 私の事を、父親のように慕って欲しいんだが…駄目か?」
「…笹崎さん…」
「……向井君」
「はい」
「私…今言いましたよね…」
「あっ……。でも、私は未だ…」
「恐れ多いとでも?」

向井は、コクッと頷いた。
その時、部屋の外から声が聞こえてきた。

『おやっさん、慶造さんが来られました』
「ここに」
『はっ』

慶造が部屋に入ってくる。

「おや、向井くん。どうだ? 笹崎さん、厳しいだろぉ〜?」
「親分。お世話になっております。厳しくても私は平気です」
「それなら、安心だ。ちょっぴり気になってたからね」

慶造は、いつもの場所に座る。それと同時に慶造がお茶を差し出した。

「ご相談事は、何ですか?」
「…やはり解りましたか…」

二人の会話から、向井は何かを悟る。

「あの…私は、これで…」
「ん?」

慶造と笹崎が同時に言う。

「込み入ったお話は…その…」
「大丈夫ですよ。向井くんの意見も聞きたいんでね」

優しく微笑みながら、慶造が言った。

「は、はぁ…」

ちょっぴり困ったような表情をしながら、湯飲みに手を伸ばす。

「山本芯…という名前…御存知ですか?」

笹崎は、芯の素性を知っている。
春樹の弟だと…。
しかし、その事は、慶造は知らない。そう思っている為、

「いいえ。…飛鳥から聞いたんだけど、相当な暴れん坊なんでしょう?」
「はぁ…まぁ。……飛鳥のとこの守宮(もりみや)を倒してしまう程の
 腕力、そして、素早さ。…格闘技が得意だという話なんだが…」

慶造は、お茶を一口飲む。

「真子の家庭教師兼世話係として雇おうと思ってるんだが、
 もしかすると、真子に悪影響があるかもしれない…と思うと、
 おいていて良いのか…。向井くんと同じ歳なんですよ」
「……山本芯……聞いた名前なんですけど………。……あっ!」

向井は、声を挙げた。

「ん??」
「あのレストランで、お客として来ていた高校生ですよ。
 すごく真面目で、とても優しい感じの高校生でした」
「…ふ〜ん、なるほど。それなら安心ですね」

本当に安心したような雰囲気で、慶造が応えた。

「笹崎さんが息子のように思っている向井君の言葉を
 信じてるから。それに、向井くんは、人を見る目があるようだし」

お茶を飲み干す慶造は、立ち上がる。

「あれ? それだけですか?」

笹崎が寂しそうに尋ねた。

「えぇ。明後日、真北が帰ってきますから、その準備ですよ」
「必要ないと思いますよ。…それにしても、今回は長かったですね。
 週に三日の予定のはずでしょう?」
「あいつは、何にでも張り切るから、大変ですよ」
「それは、真北家の血筋ですね」

慶造は微笑み、

「阿山家の血筋も大変だけど、笹崎家の血筋も…でしょう?」

そう言いながら立ち上がった。

「それでは、失礼します」
「あまり無理しては駄目ですよ。今日は、外出禁止です!」
「いつまでも厳しいですね。かしこまりましたぁ。
 向井くん、ゆっくり休憩してから、修行すること」
「はっ。ありがとうございます」

慶造は部屋を出て行った。

暫く沈黙が続く。向井がお茶を飲み干し、テーブルに湯飲みをゆっくり置いた。笹崎の部屋に飾っている写真に気付き、それを見つめた。

「お尋ねしてもよろしいですか?」
「いいよ」

新たなお茶を煎れ、向井の湯飲みに注ぐ笹崎。

「そのお写真ですが…親分さんですよね。集合写真だけでなく、
 笹崎さんの若い頃と思われる写真に、一緒に写っているのは…」
「慶造さんですよ。…既に気付いていると思いますが、私は、
 元極道の人間です。そして、慶造さんのお世話係でした」

笹崎の言葉を聞いても、向井は驚きもしなかった。

「やはり…お気づきでしたか」
「はい。…その小指を観た時に。…それは、調理中に落としたと
 先輩は仰っておりましたが、調理中の怪我は、…そのように
 落とすことは御座いません。それに、慶造親分と親しくお話する
 雰囲気が、どことなく違っておりました。慶造親分が笹崎さんを
 観るときの眼差しも違います。…常にお互いが心配し合っている
 そんな雰囲気なんです。それで、私なりに考えたので…」

話し続ける向井だが、聞いてはいけない事かもしれないと思ったのか、徐々に声が小さくなっていった。
しかし、笹崎は、向井の話を止めることなく、途轍もなく優しい眼差しで、一言も漏らさないようにと、耳を傾けていた。

「慶造さんが向井くんを信じるという気持ちが解りますよ。
 観察力がありますね。初対面の人にも、そうですか?」
「料理人を目指すと決めた時から、身に付いたようです。
 だけど、真子お嬢様だけは、気持ちが掴めません」
「それは、難しい事ですよ。父親である慶造さんでも出来ない事ですから」
「そうですか…」

向井は、湯飲みを両手で包み込み、何かを考え始めた。
その間、笹崎はジッと見つめていた。

「でも、私は…」

向井がこの時に告げた言葉は、笹崎との絆を深める事になった。




芯は、深刻な面持ちで、自宅へと帰ってきた。
すでに、翔と航が帰っているのか、灯りが付いていた。

「お帰りぃ」

いつもと違う雰囲気で部屋に入った芯を、いつもと変わらない雰囲気で迎える翔は、心配そうに、芯に近づいた。

「…芯……まさか、お前……」
「あぁ…。阿山組の人を……」
「……芯………」

翔は、芯が、とうとう、人を殺めてしまったと思ったらしい。
心配そうに芯の腕を掴んだ手が震えていた。

「あれほど…気をつけろって……」
「……翔……? お前、勘違いしてる」
「ほへ?!」
「阿山組の人を倒してしまってな……気を失ったままだったから
 本部に……」
「……兄さん、居たのか?」

航が勢いよく尋ねたが、芯は首を横に振った。

「……でも、居るはずだ。恐らく、どこかに出掛けてたんだろう。
 ………だから、決めた」
「決めた?」
「阿山慶造の娘の家庭教師やる」
「……新たな仕事かぁ……って、えぇえええっ!!!」

芯の突然の言葉に、大声を張り上げた、二人だった。




慶造が、向井を料亭の女将に紹介してから一週間が経った。
向井は、時々、争いもするが、一生懸命、料理を作っていた。料理を作る時の向井の表情は、とても優しく、料理を作るのが本当に楽しいかのような感じだった。

「ほぉ〜。期待していたよりも、凄腕か」
「そうなのよぉ。慶造さんも、いい子を紹介してくれるんですからぁ。
 日本料理が中心だから、一度は断ったでしょ。だけどね、
 涼ちゃんの意見で、中華も洋食も、あらゆる料理を
 お客様にお出しできるのよぉ」

料亭の女将は、凄く嬉しそうな表情をして、慶造に話していた。慶造と女将は、少し離れた所から、料亭で働く向井の姿を見つめていた。

「ほんとに料理を作ってる最中の表情、変わるんだな。普段話している時は、
 滅茶苦茶怖い面してるだろ」
「そうね。でも、涼ちゃん、良い子だから。それに慶造さんに言われた事。
 ちゃんと守ってるわよ。怒りを覚えても、それを表に出さず、堪えろって」
「やっぱり、俺の見込んだ通り、根性あるな」

慶造は、微笑んでいた。

「慶造さん」
「はい?」
「その微笑みで、真子お嬢様にお話してあげたら、どうですか?」

慶造の表情が、組長面に変わる。

「…努力はしてるけど、なんでだろな。出来ないよ。それに、真子は、
 あの日以来、俺を避けている」
「…笑顔…どうですか?」
「真北と八造だけだ」
「そうですか…。…涼ちゃんの料理で、笑顔が戻らないかしら?」
「なればいいな」

慶造は、物思いにふける。

「じゃぁ、向井に、よろしくな。例のこと、待ってると伝えてくれよ」
「かしこまりました」

慶造は、そう言って、料亭を静かに出ていった。本部に戻った慶造は、庭で、八造と遊んでいる真子を見つめていた。
その表情には、少し笑顔が現れている。

「笑顔…か。」

静かに呟く慶造は、悩む顔で本部の回廊を歩いていった。




阿山組本部。
慶造の前に、芯は座っていた。

「宜しくお願い致します」

深々と頭を下げ、家庭教師を引き受けた。

「こちらこそ、宜しく頼む。真子の部屋に案内させる。
 あとは、山本に任せる」
「はい」
「栄三、居るか?」
『こちらにぃ』

軽い口調で、栄三がやって来た。

「今日から、真子の家庭教師をする山本だ」
「山本です」
「……って、四代目…この男……」

栄三が言いたいことは、慶造は解っている。言葉を発しないようにと、眼差しで栄三を射る。

「真子に紹介してくれ」
「かしこまりましたぁ〜。山本先生、こちらですよ」
「お願いします」

栄三に連れられて、芯は立ち上がり、丁寧に挨拶をしてから部屋を出て行った。

「礼儀正しいなぁ〜。真北と、えらい違いや」

フッと笑いながら姿勢を崩し、たばこに火を付けた。



「栄三さん、お嬢様の勉強の進み具合は、どうなのですか?」
「う〜ん、俺は知らないなぁ。一応、教科書あるみたいだから、
 それ観てみたら?」
「そうですね…」

そう言ったっきり、芯は口を尖らせながら、深く考え込んでいた。
ちらりと振り返る栄三は、芯の表情を見て、どことなく、誰かを感じていた。

それにしても、四代目。
この男を呼んで、何をするつもりやろぉ。

そう思いながら、栄三は、真子の部屋をノックする。

『はい』
「栄三です。新しい家庭教師を連れてきました」

ドアが静かに開く。そして、真子が出てきた。
栄三の後ろに居る芯を見た途端、真子は、不機嫌な表情になる。

「また…ですか…」

そう言った。

「仕方ないでしょう。みんな次々と辞めていくんですからぁ」
「この方も……?」
「さぁ、それは、どうでしょう」
「初めまして。阿山真子です。宜しくお願いします」

真子は深々と頭を下げた。

「山本芯と申します。今日から、お嬢様の家庭教師として、
 こちらに来ることになりました」
「じゃぁ、私はこれで。山本先生、よろしくぅ」

そう言って、栄三は去って行く。真子は、軽く溜息を付いて、

「どうぞ」

芯を招き入れた。真子の部屋に先に入った芯は、部屋の中を見て、驚いた。
猫グッズだらけ。家具やカーテンまで、猫柄。
そんな驚く芯を見つめ、ドアを閉める時、真子は廊下に目をやった。
栄三が、親指を立てて、何かを合図した。
真子は、その合図に頷き、そして、ドアを閉めた。芯は、机の上にある教科書を見て、首を傾げる。

あれ? 七歳だよな。これって、早くないか?

真子の机にある教科書には、小学五年生と書かれていた。

「お嬢様、どこまで習いましたか?」
「ここまで進んでます」

教科書の真ん中辺りを広げた真子。

「そうですか。前の家庭教師の方は、どのように教えていましたか?」
「時間があるときに、教えて頂きました」
「解りました。では、時間を決めて、順番に進めていきましょう。
 今日は、私が初めてお逢いするので、どの程度なのかを
 見極めたいと思います。問題を作りますから、答えてください」
「はいっ!」

真子は机に着き、教科書を取り出した。芯は、真子の右横に立ち、準備を始める。

「あっ…」

真子は突然立ち上がり、少し離れた所にあった椅子を持ってきて、芯に差し出した。

「どうぞ」
「ありがとう」

芯は腰を掛け、真子が座ると同時に、勉強を始めた。



その頃、春樹は、本来の仕事が山場を迎えていた。

真子ちゃん、元気にしてるかなぁ。

仕事をしていても、心は常に、真子に飛ばしていた。



(2014.11.25 第六部 第二十四話 改訂版 UP)







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※旧サイトでの外伝・連載期間:2003.10.11〜2007.12.28


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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