任侠ファンタジー(?)小説・光と笑顔の新たな世界 むかいん・番外編2-1


笑顔の料理人の変化

炎が命………。


笑顔の料理人は、今日も料理を食する人々の笑顔の為にと、厨房で調理に励んでいた。
炒め物を手早く皿に盛る。

「25番、よろしく!」
「はい!」

笑顔の料理人の声に負けないくらい、元気な声で返事をし、料理をお盆に乗せて運ぶ店員。
笑顔の料理人は、次の料理に取りかかる。


炎は命。


火力に負けないくらいの勢いで、笑顔の料理人は、調理に励む。



「お疲れ様でした」
「お先に失礼します」
「おう、お疲れさん」

次の日の下ごしらえを終えた料理人達が帰宅する中、笑顔の料理人は、まだ、仕事をしていた。

「料理長、後は私が行いますから、早く帰らないと…」
「いいや、これは、俺の仕事だから、気にしなくてええって」
「怒られますよ、真子ちゃんに」
「仕事をほっとく方が怒られる…」
「……そうでした……」
「それにしても、コンロ、そろそろ買い直した方が…」
「そうですね。私たちよりも働いてますからねぇ、これ」
「炎……勢いが足りなくなってきたよな…」
「まぁ、そう感じるんですが、それは…」
「ん?」
「…いいえ、何も……」

料理人は、それ以上、何も言えなかった。

料理長の勢いが、増してるなんて事……。

「では、お言葉に甘えて、今日は、これで」
「おう、お疲れさん」
「お疲れ様でした。では、明後日」
「ゆっくり休んでくれよぉ、気をつけて」
「ありがとうございます」

深々と頭を下げて、料理人は去っていく。
厨房には、笑顔の料理人=むかいんが一人となってしまった。

「う〜ん」

腕を組んで、一点を見つめる。

「やっぱし、なんか、足りへんよなぁ〜」

ふぅっと、長く息を吐き、気を取り直して、手を動かし始めた。
まな板を叩く音が、リズミカルに響き渡る。
火を付ける音が静かに聞こえ、炒め物の音が軽快に聞こえてきた。




休日。
ここは、真子の自宅。
この日、キッチンで悩む男が一人居た。

「あがぁ……駄目だぁ」

天を仰ぐように顔を上げ、雄叫びを??

キッチンのドアが開き、真子が入ってきた。

「むかいぃん、喉乾いたぁ」

その声に素早く反応し、

「すぐに」

先程とは全く違った雰囲気で、むかいんは、真子の飲物を用意し始める。
その間、真子は椅子に腰を掛け、キッチンに目をやった。
そこには、むかいんの新作がお皿に盛られていた。

「新作?」
「えぇ」

短く応えて、冷蔵庫のドアを閉め、真子にオレンジジュースを差し出した。

「ありがと…」

真子は口にコップを運びながら、目は新作に向けられている。

「ふぅ…」

むかいんが珍しくため息を吐いた。

「……何か足りないね…」

真子が静かに言った。

「えぇ…何か足りないんですよ…」
「食して…いい?」
「はい…」

むかいんは、真子に新作の皿を差し出した。
真子は箸を手に、料理を口に運ぶ。

「…味は、変わらないけど……」
「そうなんですよ…でも、何かが足りなくて…」
「……なんだろう……」
「う〜ん…」

むかいんと真子は、同じように腕を組み、料理を見つめて悩み始めた。

「……取り敢えず、もう一回…」

真子が言った。

「そうですね」
「これ、どうする?」
「くまはちぃ〜」

真子の声が自宅に響いた途端、くまはちがキッチンに顔を出す。

「はやっ!」
「組長が中々上がってこないので、様子を……」

くまはちは、慌てて口を噤んだ。
真子が、睨んでいる………。

「……私が休みの時は、休みぃ言うてるやろぉっ!!」
「す、す、すみませんっ!!!!!!」

深々と頭を下げる、くまはちだった。



くまはちは、お皿に盛られた料理を一口、口に運ぶ。
暫く味わった後、眉間にしわを寄せた。
むかいんが、新たに料理を作った。その様子を見つめ、そして、今、食したのだが…、

「………何か足りませんね…」

真子も一口頬張っていた。

「そうやろ…何か、足りへんねん。でも、味は変わらないやろ…」
「えぇ」

真子と話ながら、くまはちは料理をたいらげる。

「……はやっ……」
「!!! すみませんっ! お腹空いてまして……」

恐縮そうに言う、くまはちは、むかいんを見つめた。
むかいんは、腕を組んで悩んでいる。

「もう一回…する?」
「そうですね……」

気を取り直して、またまた調理に取りかかる、むかいん。
くまはちと真子は、むかいんの仕草を一つ一つ見逃さないように、見つめて…というより、凝視していた。
コンロの火を付け、フライパンを温める。そして、油を小さじ一杯、そして、炒め物を始めた。
その瞬間、くまはちの表情が曇る。

「どしたん?」

真子が静かに尋ねた。

「いつもの音じゃない……」

くまはちが応えると、

「そうなんだよ。最近、炎の勢いが気になってな…」

炒め物をしながら、むかいんが応えた。

「……火力…???」

くまはちと真子が同時に口にする。
炒め物は、皿に盛られた。



「そっか…火力か…」

むかいんが、片付けをしながら、そう言った。

「コンロ……この家になってから、変えてなかったっけ…」

真子は、食後のデザートを食しながら、言った。

「そうですね。むかいんの手入れが良いから、長持ちしますし…」
「そうだよね。……どうする?」
「どうするって…何でしょう??」

真子の質問に、くまはちは、首を傾げた。

「買い直す?」
「松本に、聞いてみます」
「松本さんって、それも大丈夫なん? 建設関係だけちゃうん?」
「建設関係には、こちらの方面も含まれてますよ。必要ですから」
「そっか、家の一部だもんね。もしかして、これも…?」
「キッチンは、私の意見が通ってますよ」

むかいんが応えた。

「それなら、やっぱり、古くなったんだね…」
「長年、持ちそうだったのですが…」
「そりゃぁ、毎日、働いてるもんなぁ」
「そうですよね」
「では、早速!」
「はっ」

真子の言葉には、素早く応え、行動に移す、くまはち。自宅の電話で、松本に連絡を入れた。

「えぇ、早めにお願いします」

そう言って受話器を置き、真子とむかいんに振り返る。

「すぐに持ってくるそうです」
「…松本さん…今日はお休みとちゃうん?」
「松本の仕事には、休みはございませんよ」
「そっか。休日に忙しくなるんだっけ……あれ?」

真子は何かを思い出した。

「そういや、他の物件で忙しいって……」
「あっ、その…その事は、絶対に…触れないであげてください」

何かを知っているのか、くまはちが慌てて、真子に言う。

「まさか……」

真子は、嫌な予感が……。




くまはちが連絡を入れてから、三十分もしないうちに、松本が、真子の自宅へとやって来た。
たくさんのカタログを、テーブルの上に広げていく。その一つ一つを丁寧に、細かく説明していった。

「……それで、松本さんのお薦めは?」

真子が尋ねると、松本は既に答えを用意していたのか、優しく微笑んだ後、

「こちらです。今、一押しだそうですよ。火力もばっちり、
 調整も出来て、更には安全、そして、節約もできます」
「ふ〜ん」

真子はカタログに見入っていた。

「むかいんは、どれにする?」
「そうですね……私にシンクロする火力で…」

むかいんも、真子が見ているカタログに見入っている。

「他は?」

くまはちが、尋ねる。

「このコンロの火力で足りなくなったのなら、もう、これしか
 お奨めするものが、ありませんよ」
「IH……か…。これって、表面に傷は付かないんですか?
 まぁ、むかいんが使う器具は、鉄がほとんどだから、
 熱も伝わるだろうけど、炎が命と、常に口にしてる料理人が
 炎が見えないなら、やりにくいんじゃないのか? …それよりも
 フライパン…丸い底だと、熱が伝わりにくいんじゃ?
 これ専用の器具も、一緒に販売してるんか?」

くまはちの口から、延々と言葉が出てくる。
それには、真子だけでなく、むかいん、松本も、驚いていた。

「くまはち………」
「はい? …あっ、すみません。IHの構造上、気になる点が
 多すぎまして…。やはり、調理には炎が見えてないと
 それに、音も必要でしょうし…」
「でも、カタログ見てたら、炎と変わらないくらいの火力みたいだけど…」

真子が思わず口にする。

「そうですが、かなり制限されそうですよ」
「…くまはちって、本当に、あらゆる方面に詳しいよね…。これも
 知っとったん?」
「近年の、新たなものですから」
「物理…得意だったっけ?」

真子が尋ねる。

「くまはちは、オールマイティーですよ、組長。唯一苦手なのは
 ジッとしてることですからねぇ」
「そうだった。なんでもこなすから……」

そこまで言って、真子は口を噤んだ。

「…あの、組長…」
「ん?」
「なんでもこなすから…の続きは…」
「頼れるよぉ」

にっこり微笑んで、そう言った。

誤魔化した…。

真子が言おうとした事が解っているのか、むかいんは、考え事をしてるフリをして、口に手を当て、笑いを堪えていた。

なんでもこなすから、私も自然と覚えてしまうんだもん。

真子が常に口にしていることだった。
時々、真子の口から専門用語が出ることがある。そして、あまり知られていない国の言葉も、真子は知っている。学校で学ぶことのない分野も知っている。もちろん、むかいんの専門である料理に関しても詳しかった。なので、むかいんや松本は、

なぜ、そこまで詳しいんですか!!

思わず尋ねてしまう。
その答えが………。


くまはちから直接教わった訳ではない。ただ、くまはちの口から出る言葉で解らないことがあれば、とある人物に尋ねるだけ。その時に、とても詳しく、時には、くまはちが独学している内容まで教える人物。だからこそ、真子まで知識が豊富になっていくのだが、そのことは、くまはち自身には知られていなかった。

「むかいん、どうする? 俺は、奨めないんだけどなぁ」

くまはちは、別のカタログを手にして、中身を確認しながら、尋ねると、

「今のコンロよりも火力が強いのは、もう、無いんでしょう?」
「そうですね、このIH以外は、難しいでしょう」
「新たな挑戦…ですね…これは…」

むかいんは、腕を組んで考え込む。

「そういや、お店のことでも、悩んでなかったっけ?」

真子が言うと、

「えぇ、同じような……って、組長、なんで御存知なんですか!!」

店のことまで知ってることに、むかいんが驚いた。

「自宅で悩むってことは、そうかなぁと思って。確か、同じものだったし…」
「そこまで、御存知だったんですか……」

むかいんは、驚きっぱなしだった。

「お店も同じようにする?」
「う〜ん、そうですね…。自宅で使ってみてから、店の方を考えます」
「それなら、すぐにでも、購入する?」
「それは、真北さんに相談してからでないと駄目ですよ」
「くまはちぃ〜。キッチンのことは、むかいんの判断で充分でしょぉ。
 真北さんの許可は要らないの!」
「それでも、金銭的なことは…」
「それも大丈夫でしょぉ」
「あの…組長、お言葉ですが……見積もりを取ってからの方が…」

松本が、そっと言う。

「……そんなに、高価なものなん?」

松本が直ぐに進行しない事には、何かがある。
真子は、それを知っていた。
松本が見積もりを…と言うことは、それはそれは、想像以上の価格でもある。

「普通のコンロよりは、ちょっとばかり…」
「松本さぁん。もしかして、一番高い物を奨めたんちゃうやろねぇ…」

真子が思わず威嚇する。

「いや、その……今のコンロも、かなり高価なものでして…」

そんな真子には、思わず尻込みしてしまう。

「そうだったん?」

真子の目線は、むかいんに移った。

「………すみませんっ!!!!!」
「別に怒ってないんだけどなぁ。高性能のものは、価格も高くなるのは
 解ってることだもん。…ということで、松本さん」
「はっ。しっかりと勉強した結果を明日にでも、お渡しいたします」
「よろしく!」

って、組長、決めるのは、むかいんじゃ……。

くまはちは、口にしたい言葉を、グッと飲み込んだ。

「…あっ……ごめん、むかいん。…私が強引に決めちゃった…」

くまはちが言わなくても、真子は気付いた。

「いいえ、ありがとうございます。組長が選ぶもの、そして、
 松本さんがお奨めするものには、間違いが御座いませんから」
「本当に、ええんか? むかいん」

やはり、気になるのか、くまはちが念を押すように尋ねた。

「火力がどれくらいのものなのか、今以上のものなら
 これしかないだろ? いいんだよ」

むかいんの言葉に、くまはちは、仕方ないという表情を浮かべていた。

「では、宜しくお願いします」

むかいんは、深々と頭を下げて、そう言った。




その日の夜、真子は真北に昼間のことを伝えていた。
その側で、AYAMAの試作品をするぺんこうは、耳を傾けている。まさちんは、自分の部屋で資料をまとめながら、くまはちから、話を聞いていた。
話の中心になっている、むかいんは、新たに購入使用している製品のカタログを、隅々まで読んでいた。



「それで、真子ちゃんは、どう思う?」

真北が優しく尋ねると、

「むかいんに任せたいんだけど、駄目?」
「真子ちゃんが、そう思うなら、それで構いませんよ。
 私は反対しません。それに、キッチンのことは、
 むかいんに任せてあるんでしょう?」
「そうなんだけどね…何か…吹っ切れなくて…」
「珍しいですね…」
「そうでしょう? いつもなら、周りが停めるのも聞かずに
 張り切って、走り去っていくのに…」

真子の言葉で、リビングに沈黙が…。

「……真子ちゃん」
「はい」
「……吹っ切れないのは……」
「むかいん」
「……私は、てっきり、真子ちゃんかと…」
「……あれ??? 真北さん、解ってると思ってたのにぃ」
「まぁ、真子ちゃんも、いつもの調子じゃないみたいなので、
 気になっているんですけどねぇ」

そう言って、真北は、真子の額に手を当てる。

「ちょっと高いですよ。…ちゃんと、休んでいたんですか?」
「まとめるものがあったので……ごめんなさい…」
「ったく〜」

真北が真子の頭を撫でようと手を伸ばした時だった。

「組長、終わりましたよぉ」

絶妙なタイミングで声を掛ける、ぺんこう。もちろん、真子は、その声に反応して、ぺんこうの側に近寄った。

空振り……。

真子に伸ばした真北の手は、空を切るだけだった。

「この辺りを、もう少し検討なさった方がよろしいですね」
「やっぱり、ぺんこうも思った?」
「組長も、思われてましたか…流石です」

ぺんこうは、にっこりと微笑んだ。
その微笑みに負けじと、真子も微笑むが……。

「真子ちゃん、後は、ぺんこうに任せて、今日は、もう寝なさい」

ひょいと真子を抱きかかえ、真北は、ぺんこうに目をやった。
挑発的な眼差し。
ぺんこうに怒りのオーラが現れる。

「ぺんこう、ごめん〜。お願いします」

しかし、真子の優しい言葉で、そのオーラは、直ぐに納まり、

「細かく書いておきますね。その後は、くまはちに渡しておきます」
「いつもありがとう。お休みぃ」
「お疲れさまです、お休みなさい」

優しく微笑み、ぺんこうは、真子を見送った。

はぁああ……。ったく…あの人はぁっ!

沸き立つ怒りをグッと堪え、ぺんこうは、AYAMAの試作品の資料に細かく書き込み始めた。



真子の部屋。
ベッドに寝かしつけられた真子は、ちょっぴり膨れっ面になっていた。

「いいじゃありませんかぁ、たまにはぁ〜」

真北が言った。

「まだ、何も言ってないのにぃ!」
「言わなくても解りますよ。その方が、あいつの為ですから」
「……まだ、怒ってるんだ」
「さぁ、それは、解りませんねぇ。むかいんにお願いしましょうか?」
「少し休めば大丈夫だもん」
「でも、明日に備えておきますよ」
「お願いします」
「では、お休みなさいませ、お姫様」
「もぉ〜また、それを言うぅ〜」

更に膨れっ面になる真子の頭を、真北は撫でまくる。

「私にとっては、いつまでも、お姫様ですよ」
「ありがとぉ。お休みなさぁい」

真北は、つい、癖で…真子の頬に、チュッ……。
真子の部屋の電気を消し、真北は、そっと部屋を出て行った。そこには、くまはちが待機していた。

「微熱だから、大丈夫」

真北が言うと、

「取り敢えず、むかいんに頼んでおきましたので」
「あぁ、ありがと。…ところで、くまはちは反対なのか?」
「色々と制限がありますので、むかいんが使いこなせるか…」
「…大丈夫やろ。むかいんは、何でも使いこなすし」
「リズムも狂うと思いますよ」
「くまはちぃ」

廊下での会話が聞こえていたのか、珍しくむかいんが顔を出してきた。

「やってみな、解らんやろがぁ」
「そんなよれよれな声で、訴えるなっ。早く寝ろっ」

むかいんの就寝時間が迫っている。

「組長、微熱出てるんですよね。材料が…」
「それなら、俺が調達しとくから」

くまはちが、そっと言って、むかいんを部屋に押し込んだ。

『すまん〜』

ドアの向こうで、むかいんの声が小さくなっていった。

「おいおいおいぃ。相当滅入ってるやないかぁ」
「思うように作れなかったので、かなり……」
「そりゃぁ、影響するわなぁ」
「えぇ…すみません」

見た目では解らないが、むかいんは、相当、落ち込んでいるらしい。
それが、真子へと伝わってしまったものだから、何やら、いつもよりも、質が悪く……。
真北の大きく長い溜め息に、くまはちは、たじたじ…。



見積もりは、次の日に、直接、真北の手に渡っていた。
真北自身も詳しくないのだが、思っていたよりも高額なことに、驚いていた。

「まだ、出始めた所なので…」

恐縮そうに松本が言う。

「それは、解るけどなぁ。……この金額しか、払わん」
「…!!! って、真北さん、それだと、ほとんど…」
「文句…あるんか?」

真北が凄みを利かせる。しかし、そこは、松本。
負けないっ!

「無理です! これが、ギリギリのラインなんです!!」
「駄目だなぁ」
「むかいんは、どうなんですか?」

松本は尋ねる相手を変えた。

「私が払いますから…」

……って、どれだけ、貯めてるんや、むかいんはぁ…。

見積もりの金額を目にしても驚かないむかいんに、真北と松本は、驚いていた。

「では、明後日納入で、よろしいですか?」
「お願いします」

むかいんの言葉に、何か引っかかる物がある。
それが何なのか、真北も松本も解らなかった。
気になりながらも、その日がやって来た。



何やら輝く物が、リビングに静かに置かれた。そして、愛着のある物が、取り外され、そこへ、輝く物が設置される。
その一部始終をむかいんは、しっかりと目に納めていた。
前の日の夜、お別れがてらに、しっかりと磨き上げた。
今まで有難うという、感謝の気持ちをたくさん、たくさん込めて…。

「有難う御座いましたぁ」
「お疲れ様でした」

業者を見送り、むかいんはキッチンへと戻ってくる。
この日、むかいんは休暇を取っていた。
使い慣れるまで時間が掛かるかもしれない。

「ようしっ!」

気合いを入れて、むかいんは、調理の準備をする。

「えっと…火力は…」

最大にする。
今まで使っていた物とは勝手が違うが、炒め物の音は、同じだった。
色々と試しながら、調理をしていく………。

なるほどね…。

来たその日のうちに、むかいんは、使い慣れてしまった。



それは、突然やってくる。



むかいんの店の厨房では、この日も、なんとなく、雰囲気が違っていた。
仕上がる料理は、いつもと変わらないのだが……。

グオッ!!!!!

何やら、以前よりも、厨房が赤く輝き方が強い。

「8番出来た」

料理を皿に盛り、カウンターへと持って行く、むかいん。
直ぐに新たな料理を作り始めた。



「お先に失礼します」
「お疲れぇ。明日もよろしく」
「はっ」
「失礼します」

三人の料理人は、仕事を終えて、厨房に顔を出し、むかいんに挨拶をして去っていく。
笑顔で見送る、むかいんではあるが……。



三人の料理人は、エレベータで一階まで降りた。その後すぐに、奥にある最上階へ通じるエレベータホールへと向かっていった。
そこで待機しているのは、須藤組組員の一人。
警備を装ってはいるものの、ビル関係者なら誰もが知っている立場であり…。

「あの…」

料理人が、そっと声を掛ける。

「お疲れ様ですっ!」

組員は、料理人とは顔見知りでもある。もちろん、店の常連客であるため、料理人も躊躇いもなく声を掛けるのだが、この時は、なんとなく、遠慮がちで……。

「…??? どうされましたか?」

組員は気になり、そっと尋ねた。

「あの…………」

小さな声で料理人の一人が、何かを言った。




三十八階にエレベータが到着した。
そこから降りてきたのは、三人の料理人だった。

「お疲れ様です。組長は、まだ、会議中ですが、それでも
 よろしいんでしょうか?」

三十八階のエレベータホールで待機している別の須藤組組員が話しかけた。
一階に居る組員から連絡をもらっていた。

「はい……すみません」

恐縮そうに料理人が首を縮める。

「会議が終わるまで、事務所でお待ちになりますか?」
「いいえ、その……こちらで…」
「いや、その…それでは、私が困ります……」
「しかし、みなさんにご迷惑を…」
「大丈夫です。迷惑なんて…」
「…でも…」

と、やり取りをしている間に、廊下の奥が騒がしくなった。
会議が終わったらしい。
須藤と水木の争う声が響き渡っていた。

「………親分…また……」

組員は苦笑い。

「ご案内致します」

そう言って、組員は三人の料理人を連れて歩き出した。

「おう、どうした」

いち早く、須藤が気付く。

「組長を訪ねて、来られました」
「もうすぐ、会議室から出てくるで」

と言った矢先、真子とまさちんが、会議室から出てきて、そこには絶対に見せないはずの姿があることに気付き、

「むかいんに、何か遭った?!」

驚いたように、声を挙げた。

「あの…その……遭ったことは、遭ったというか…その…」

言いにくそうに口を閉じ、真子をジッと見つめる三人。

「…な、な、…???」
「………真子さん……」

かなり深刻そうに、真子を呼ぶ。

「は、は……い…」

思わず、たじたじになる真子。

「助けてくださいっ!!!!!!!!!」

料理人たちは、真子にすがるような眼差しを向けてきた。

「えっ? …へっ?!????」

料理人達に、いや、むかいんに、何が遭ったのか!!!



(2015.11.16 UP 改訂版2016.5.22. UP)



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※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
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※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
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 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。



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