任侠ファンタジー(?)小説・光と笑顔の新たな世界 短編 その6-2


一騒動(2)

紅葉が眩しい程の晴天の日。
一組の男女が、旅館から出てきた。

「行ってらっしゃいませ」

従業員に見送られ、二人は歩き出す。
道の両側をびっしりと紅葉が埋め尽くしていた。それを見上げながら、楽しく語って歩いていく二人こそ、真子と真北だった。




「結局、どこもハズレかよ」

まさちんは、シャワーを浴びて汗を流すくまはちに、ドア越しに話しかけていた。

『あぁ。真北さんとも連絡が取れないのが気になる』
「俺も何度か連絡を入れたけど、空振りや」

水が止まり、ドアが開く。

「ぺんこうに連絡は?」
「入れてない。組長だけでなく、真北さんとも連絡が
 取れないとなると、仕事に支障出るやろ」
「そうやな」

くまはちは体の水分を拭き上げ、服を着る。
まさちんとリビングへ入った途端、電話が鳴った。

「もっしぃ」

まさちんが応対する。

『組長は?』

電話の相手は慌てたように尋ねてきた。

「ん?」
『組長が登校してない。まさか、倒れたんじゃないだろな』

静かに尋ねてくる相手こそ、ぺんこう。
その口調で解る。怒りを抑えているということが……。

「すまん。お前に怒られる前に休ませた」

まさちんの代わりに、くまはちが応えた。

『…くまはちの判断か?』
「あぁ」
『解った。明日は休みだから、充分、休養させてあげてくれよ。
 本当に、無茶が続いていたからな。…ありがとな、くまはち』
「いや、礼には及ばん。お前も無茶するなよ」
『あぁ』

電話は切れた。
ゆっくりと受話器を置いた、くまはちは、ちらりとまさちんを見た。
ふくれっ面…。

「お前に任せたら、短く終わらんやろが。時間を無駄にしたくない」

くまはちの言葉に、まさちんは、カチン…。

「悪かったなっ」
「兎に角、今日も片っ端から探すぞ。お前は真北さんへの
 連絡を頼む」
「あぁ」

くまはちは、出て行った。

「………落ち着かんやっちゃなぁ…」

落ち着いている場合じゃないのに、まさちんは、思わず口にした。




真子と真北は、温泉街から少し離れた紅葉が美しい場所ばかりを歩いていた。
所々にある源泉の場所で、楽しく語り合う。

「秋の天地山、行ったことあるん?」

真子が尋ねてきた。

「秋は行ったことありませんねぇ」

嘘を付く。
ほぼ一ヶ月に一度は訪れている事は、真子には内緒。もちろん、秋にも行った事がある。

「秋も美しいかなぁ」
「夏の緑から考えると、美しいでしょうね」
「行ってみたいなぁ」
「…学校ですよ」
「…………今日も学校なのに、強引に休ませたのは…誰?」
「あっ、いや……その…」

返す言葉が無いというのは、こういうことを言うのだろう。
真北は、言葉を探すが見つからず、

「あちらにも、綺麗な景色がありますよぉ」

話を誤魔化した。




ぺんこうは、授業を終えて職員室に戻ってくる。
ふと、昨日のことを思い出した。

確か、真北さん…。

真子の帰りを追いかけるように、特殊任務の車が走っていた。
ぺんこうは、携帯電話で真北に連絡を入れる。
呼び出し中。
呼び出し中。

………出ない。

出る気配が無いまま、留守番サービスへと繋がった。
ぺんこうは、電源を切った。

いつもなら、直ぐに出るはずなのに…。

携帯電話を見つめながら、ぺんこうは口を尖らせた。
再度、連絡を試みる。
呼び出し中。
呼び出し中。
……またしても、出る気配が無く、留守番サービスへと繋がる。

何か遭ったのかな…。

心配ながらも、チャイムが鳴った為、教師の表情に戻る。そして、授業の用意をして、職員室を出て行った。


ぺんこうが掛けた電話の相手は…。

「いいのかなぁ、ぺんこうさんからなんだけど…」

原は、真北に預かった電話を手に自宅に居た。
あまりにも頻繁に掛かってくるものだから、勝手に操作をして、留守番サービスへと繋げていたのだった。

「まぁ、いいかぁ。予定では明後日までだしぃ」

そう呟いて、布団に潜った原だった。




お昼時。
真子と真北は、ちょっぴり有名なお店で昼食を取っていた。
店の混雑も気に留めず、二人は楽しく語り合っている。
周りから見ると、少し歳の離れた恋人同士に見える。いや、親子にも見えるのだが、誰もこの二人が、『やくざの組長』と『敏腕刑事』だとは、気付かない。二人の雰囲気が、そうさせているのもあるのだろう。

「次は、何処に行きますか?」

デザートを食べている真子に尋ねる真北。

「他にも素敵な場所があるの?」

食後のお茶に手を伸ばす真北に尋ねた真子は、ふと窓の外に見えた景色が気になり、

「あれは、どう?」

指を差した。
真北は振り返る………が、

「……えっと………。そうですね、そう…しましょう……か」

真子への返事は、ちょっぴり震えていた。



ロープウェイの乗り場に来た真子と真北は、他の客と一緒に、ロープウェイを待っていた。
真子は周りの景色を眺めていた。
真北も同じように眺めている。
ロープウェイが到着した。

「来たよぉ」

真子が嬉しそうに言う。

「そ、そうですね」

真子への返事が震えている真北は、何かを決意したような表情をして、一歩踏み出した。
ロープウェイに乗る。
ドアが閉まり、出発のベルが鳴った。
ゆっくりと動きだし、頂上へ向かっていくロープウェイ。
下に見える景色が、突然、遠ざかった。
真北は、ギュッと目を瞑り、手すりを握りしめた。
真子は下に広がる紅葉を堪能するかのように、窓に額を付けて、見つめていた。
その時だった。
真北が、周りに気付かれない程の素早い動きで、真子の側に寄ってきた男の腹部に拳を見舞った。
男は上手い具合に椅子に腰を掛け、気を失った。
その手には、ナイフが握りしめられていた。

……誰だ? ここに居るのは知られていないはずだがなぁ。

片目を開けて、気を失った男を見る真北だが、男の周りに見えた外の景色に、身震いした。

「ねぇ、真北さん」

そう言って振り返る真子は、真北の表情に気が付いた。

あちゃぁ、忘れてた…。

真子は窓から動き、ロープウェイの中央へと真北を引っ張ってきた。

「ま、真子ちゃん?」

真北は、ふと目を開けた。

「ごめんなさい。…忘れてた…」
「いいんですよ、気にしないでください」
「それに、こんな閉塞した場所だと…」

気付いていた?!

先程の出来事に真子が気付いていたと、真北は思った。

「途中で停まった時、真北さんが大変だよね…」

ところが、思ったことと違った言葉が返ってきた。
真北は拍子抜けする。
その時、ロープウェイが頂上へと到着した。
他の乗客と一緒に降りる真子と真北。
係員が、ロープウェイの座席に座ったままの男性に気付き、声を掛ける。ところが、その男の手に光るナイフを見つけ、慌てて警備員を呼んだ。
それに気付いていたのは、最後に降りた乗客と真北だけだった。
怖いながらも、真子を守ることだけは、身についている為、自然に任せた真北は、真子に腕を組まれて、我に返った。

「…真北さんは、ここで待ってる? あの辺りなら、誰も…」
「大丈夫ですよ。展望台といっても、下が無い訳じゃ…」
「無いみたい」

真子に言われて、展望台を見ると、言われた通りに、展望台の下は、何もない。

「で、で、でも、大丈夫ですよ」
「声が震えてるし……」
「それでは、真子ちゃんが守ってくださいますか?」

真北が突然言った。
その言葉に驚いた表情を見せた真子だが、それは、笑顔に代わり、

「うん! 私が居るから、大丈夫!」

真北の腕をしっかりと抱え込み、展望台に向かって歩き出した。
他の観光客に紛れ込み、同じように周りの景色を眺める真子と真北。

「…天地山とどっちが綺麗?」

真子が尋ねる。

「そうですね…」

真子ちゃんが一番、綺麗だよ。

と口にしそうになった真北は、言葉をグッと飲み込んだ。

「まささん、紅葉の事は教えてくれないよね。…どうしてかなぁ」
「そうですね……」

真北は知っていた。
まさには苦手な物があることを。
まさ自身、赤い色が苦手だった。
確かに紅葉は美しい。しかし、その赤から連想されるものがある。
大切な物を、その手で奪った時の赤。
それは、未だに忘れられない出来事だと、その時期が来る度に、まさから聞いていた。

「独り占めしたいんでしょう」
「この冬、お願いしてみようっと」

無邪気に言う真子を見て、真北は何も言えなくなった。

真子ちゃんには、ちゃんと応えるだろうな。
心配させるような事は、まさは、絶対にしないから…。

フッと浮かぶ笑み。
真子は、真北が和んだ事を悟った。

「先程、何か言いたかったんですか? 真子ちゃん」

ロープウェイで名前を呼ばれたことに気付いていた真北。

「お世話になってる旅館が見えたから…その…」
「帰りに観ましょうか」
「…いいの?」
「ん?」
「凄く……高かったけど…」
「……大丈夫ですよ、真子ちゃんが守ってくれるんでしょう?」
「そうだけど、本当に大丈夫?」
「えぇ」
「…本当?」
「………たぶん……」

急に自信なさげに応える真北。
それには、真子は笑い出す。

「…何も笑うこと…ないでしょぉ」

真北はふくれっ面になった。

「ごめんなさい」

真子が素直に謝った。

「疲れましたか?」
「大丈夫。何か飲む?」

真子の目線の先に、喫茶店があった。
誰もがそこで、休憩を取っている。

「そうですね。暫く、頂上で堪能しましょう」
「心拍、まだ、高いでしょ?」
「その通りです」

苦笑いしながらも、

半分は真子ちゃんのせいですけどねぇ。

「では、行きましょう」

落ち着いたのか、真北が真子を引っ張っていく。そして、喫茶店へ入っていった。
喫茶店の窓からも、紅葉の美しさを眺めることが出来る。
その日、日が傾く頃まで、喫茶店で過ごした真子と真北。
夕暮れが、更に紅葉を美しくさせる。
真子が側に居るからか、真子に守ってもらっているからなのか、ロープウェイで降りる時は、真北は目を瞑ることなく、真子に言われた旅館を二人で眺めていた。



「食事は七時頃にお願いします」

そう伝えて、真子と真北は、旅館の大浴場へと足を運ぶ。
湯上がり姿で一緒に部屋に戻っていく二人。

「真子ちゃんと一緒に飲むのは、まだ先ですね」
「あと一年だね。早いなぁ」
「そうですね。慶造と一緒で、飲んだら倒れるでしょうねぇ」
「あれ? 真北さんって、お父様と飲んだことあるの?」
「まぁ、時々ですけどね。慶造は、酒にも弱かった」
「酒にも…って、他にもあったの?」

真子が尋ねると、真北は指を差していた。その指先は、真子に向いている…。

「私…??」
「えぇ。どれだけ心配していたか…」

真北は、ちらりと真子を見た。
真子は、ちょっぴり暗い表情をしていた。

「…夕食は、どんな料理になるのかなぁ」

素早く話を切り替える真北は、ふと、思い出した。

「あっ、むかいん…怒ってそう……」
「みんなに内緒なの?」
「え、えぇ、まぁ……」
「むかいん、拗ねてるかも……。むかいんにだけは連絡…」
「それをすると、むかいんは、店をほっぽり出して、ここに
 来てしまいますよ」
「そっか。……ねぇ、真北さん」
「はい」
「一体、何に怒ってるの?」
「えっ?」

真子の質問に、真北の頬が少し引きつった。
部屋の鍵を開け、部屋へと入っていく。

「真北さん、私のことは良く知ってるのに、真北さん自身のことは
 内緒なの? …そんなの……ずるいな…」

部屋に入った真子は、入り口で足を止め、真北にそっと言った。

「この旅行は、真子ちゃんの羽休めのためですよ。
 だから、何も応えません」

真北の口調で、何が起こったのか把握した真子は、

「そうだったんだ。ごめんなさい、真北さん」
「気になさらずに」
「だから、連絡しないんだね」
「その通りです。思いっきり反省してもらいますよ」

誰かの口真似をする真北に、真子は思わず笑い出す。

「…そんなに、面白いですか?」

この日、何度も真子に笑われている真北は、思わず口にした。

「うん。真北さん、本当に羽休めしてるんだもん」
「真子ちゃんに言われましたからね」
「じゃぁ、今夜も!!」

真子の張り切りように、思わず警戒する真北だった。




真子の自宅。
むかいんが、テーブルに料理を並べていた。
食器の置き方で解る。

不機嫌……………………。

「いただきます」

静かに言って、箸を運ぶ大食らいの男二人・まさちんとくまはち。
一緒にテーブルに座るむかいんを気にしながら、いつものように、がっついていた。

「…勝手に、しろ」

まさちんの茶碗が空になったことに気付いたむかいんが、ぶっきらぼうに言う。

「そうします…」

恐縮そうに応えて、まさちんはおかわりをする。
くまはちも、そっと二杯目を…。

「今日は、これだけやからな」

冷たく言い放つむかいんに、

「かしこまりました」

まさちんとくまはちは、ハキハキと返事をした。




真子は露天風呂に寝転んでいた。
その横にある部屋から通じる縁側に、真北は腰を掛けて、酒を飲んでいた。

「あまり飲まないでよぉ」

湯舟の中から、真子が言うと、ほろ酔い気分の真北は笑顔を見せる。

「飲みますか?」

真北が勧める…………。

「いいの?」

知っていて、真子が尋ねる。

「えぇ」

真北が真子にお猪口を差し出し、酒を注ぐ。
真子は、そっと口を近づけて、チビッと口に含んだ。
真子の表情が、ちょっぴり歪む。

「苦いぃ〜」

アルコール度数は、かなり高めの酒。
アルコールを口にしたことのない真子にとっては、とても苦い代物だった。
真子からお猪口を返してもらった真北は、お猪口に残った酒を飲み干した。

「まだまだですね」

そう言いながら、新たに酒を注ぐ真北に、真子はただ、微笑むだけだった。

「真北さんも浸かろうよぉ」
「酒の後は、駄目ですよ」
「昨日のこと、気にしてるやろぉ」

真子は、真北に向かってお湯を掛けた。お湯は真北の前で地面に跳ねた。

「悪戯っ子」

真北が呟く。

「真北さんに似たんだもぉん」

真子が笑いながら応える。

ん????

真北は何かに気が付いた。

「…!!! 真子ちゃん、一口含んだだけでしょうっ!!」

真子の目は、すごくうつろになっていた。
真北は急いで部屋へ戻り、露天風呂へとやって来た。浴衣の裾を捲り上げ、湯の中を進む。そして、真子を抱きかかえた。

「らいじょほぶぅん」
「ろれつが………」

真子を抱きかかえながら、項垂れる真北。
真子の体の水分を拭き上げ、乾いたバスタオルを体に巻き、その上から浴衣を着せる。そして、部屋に用意された布団へと真子を運んできた。

「離して下さい…」
「…やだ」
「…真子ちゃん、離してくださいね」
「………。やだぁぁ」
「……本当に、質悪いですね……慶造そっくりです」
「いいやろぉ。お父様の娘らもぉん…」
「真子ちゃぁぁん……」
「離しゃにゃいもん」

そう言って、真子は真北の首に腕を巻き付け、真北から離れようとしない。
真北は、真子にしがみつかれたまま立ち上がり、縁側に置いたままの酒を持ってくる。そして、扉を閉め、カーテンを閉める。それでも、真子は真北にしがみついたまま…。

「真子ちゃん、本当に…」
「離しませんよ」

真北の口調を真似て、真子が言うと、真北は思わず笑い出す。

「ったく…」

酒をテーブルに置き、真子を布団に寝かしつけ、真北はそのまま一緒に寝転んだ。

「まきたぁん……」

真子が体に巻き付いてくる。

「ちょ、ちょ、ちょっと、真子ちゃん!! それだと私が眠れません!」
「いいのぉ、寝なくてもぉ」
「今日は緊張しっぱなしで、昨日よりも疲れてるんですから、
 その…今日くらいは、ゆっくり寝かしてください……お願いします」

真北の訴えに、真子の動きが停まった。

離してもらえる???

「駄目ぇ……」

そう言った途端、更に真子がしがみついてきた。

……真子ちゃん……あの……。

真子の寝息が聞こえてきた。
流石に寝付きは早い。
少し弛んだ真子の腕から、真北は抜け出した。
真子が眠る布団の側に座り込み、息を整える。
テーブルに置いたお猪口に酒を注ぎ、一気に飲み干した。

危なかった…。

真子にしがみつかれた時、理性が吹き飛ぶところだった。
徐々に大人へと近づく真子と、二人っきりで居ることは、真北にとって、本当に危険なこと。
だけど、真子の側には、常に他の男達が居る。
他の男達に言っている手前、自分が行うのは、本当に……。
最後の一滴まで飲み干した。

真北は真子が眠る布団の隣に敷かれている布団に潜る。

ちょっぴり飲み過ぎたかな…。

真子に勧められて酒を注文し、真子の前で飲む。そんなことは初めてだった。

知られたら、喧嘩だな、こりゃ…。

そう思いながら、深い眠りに就く真北だった。




「一体…どこに…」

くまはちとまさちんは、自宅リビングで大きく息を吐いた。
取り敢えず、考えをまとめる。
真子の行き先が解らない。
真北と連絡が取れない。
最近の状況から考えると、二人が同時に狙われた可能性がある。
狙われたのなら、自分たちにも影響があるはず。
だが、何も起こっていない。

くまはちが、ソファにもたれかかり、天を仰ぐ。

「まさちん」
「ん?」
「お前のせい…ちゃうか」
「俺…??」

まさちんは腕を組み、深く考え込む。

そう言えば、前日まで、激しく動き回っていた。
敵対する組に容赦ない攻撃を加えていた。
真北の怒りに触れた。
真子には内緒にしてある。

「俺のせい……なのか?」

まさちんは首を傾げた。

「俺はお前の行動まで制御できへんからな。どこまで激しく
 動いていたのかは把握してへんけど、真北さんの怒りに触れた
 というだけで、何となく、想像はできる」
「だから、悪かったと言っただろ」
「聞き飽きた」
「真北さんにも言われた。…ええやろが。俺だってなぁ、
 ……腹立ってるんやからなっ」

まさちんの言葉と同時に、くまはちは姿勢を正し、項垂れる。

「ほんま、どこやねん…えいぞうと健の行方も解らんとなると
 誰にも頼られへんな…」

くまはちが珍しく消極的。

「こればかりは、周りに知られると厄介やし…」

呟くまさちん。
そして、二人は同時にため息を付いた。


二人は考えつかないらしい。
行き先の解らない真子と、連絡が取れない真北が同じ所に居る…ということを。
真子が行方不明だということを、真北に伝えなければならない。しかし、その真北と連絡が取れない状態。その考えが固定されている為、どうしても、どぉぉぉしても、二人が一緒にいる、それも、真北の策略で…ということまで、頭が回っていなかった。

「取り敢えず、一からやり直すか…」

くまはちが言った。

「そうやな。組長の足取りからや。…明日、ぺんこうに聞くとするか」
「明日で間に合えば、ええけどな…」
「あぁ」

二人は本能で、真子が無事だということを嗅ぎ取っていた。
だからこそ、こうして、忙しそうで忙しくない雰囲気で過ごしていた。
真子に何かがあれば、二人は本能で嗅ぎつけて、駆けていく。
そんな二人が、空回りばかりしているのは、一体、なぜなのか…。




ぺんこうは、自宅に戻っても、真北の携帯に連絡を入れていた。
何度入れたのか解らない程の回数。
しかし、毎回、留守番サービスに繋がるだけだった。
自宅に戻って初めて、真子の自宅に連絡をする。
相手が出た…のは良いが、何やら、受話器を奪い合う感じだった。

「………お前らなぁ…」
『ぺんこうか』
「俺じゃ悪いんか?」
『いや、そうじゃなくて…』
「組長の様子が心配でな、その後、どうや?」

受話器の向こうが静かになる。
何やら、こそこそと話している雰囲気が…。

「……お前ら、何か隠してるやろ」

ぺんこうのドスの利いた声……。とうとう電話の相手のくまはちは口を割った。

『すまん、ぺんこう。実は、組長が昨日から行方不明でな…。
 お前のことを考えて、嘘を言った…すまんかった』

ぺんこうは、何も言えなくなった。

『…今、まさちんと話していたんだが、昨日の組長に、
 何か変わった事なかったか?』
「至って元気だったぞ」
『組長の足取りやけど…』
「いつもの時間に帰宅した。…でもな、校門を出た組長を
 追いかけるかのように、特殊任務の車が走っていたんだが…」
『…真北さんか?』
「気になったから、今日は何度も連絡してるんやけど、
 連絡が付かん…なんでやろ。…何もなければいいんやけど…」

ぺんこうの声は、とても心配げだった。

『大丈夫や。組長は無事やし、真北さんも無事。便りがないのは
 よいことやろ。だから、お前が気にすること……』

そこまで言って、くまはちは何も話さなくなる。
受話器の向こうで、まさちんが、くまはちに呼びかけているが、くまはちは何も反応しない様子。

「くまはち、どうした?」
『特殊任務の人に聞けば、解るんちゃうか?』

くまはちの口調が変わった。

「そりゃそうやろうけど、真北さんが動くときは、俺に必ず
 連絡してくるで。今回は無いんやけど…」
『そっか。……でも、気になる』
「くまはち、行くんやったら、俺も連れて行けっ!」
『あほか。ぺんこうは仕事やろが』
「明日は休みや」
『明日まで待て…言うんか?』
「当たり前や。向こうはもう、勤務時間終わってる」
『それでもな…』
「組長も真北さんも無事なんだろ。だったら焦ることないやないかっ」

ぺんこうの口調が荒っぽい。それは、受話器の向こうのくまはち、そして、くまはちから離れた所にいるまさちんにまで伝わるほどのもの。くまはちは、焦ったように、ぺんこうに言った。

「解った解った、明日、一緒に行くから、朝早くに来いっ」
『あぁ。そうする。お前ら、しっかり休んでおけよ』

ぺんこうのオーラが落ち着いた。
くまはちは胸をなで下ろしながら、

「ぺんこうもな」

そう応えて受話器を置いた。

「くまはち、ぺんこうも行くんか?」
「その方が、ぺんこうも安心するんやろ」
「もし、今回の事件に組が絡んでいたら?」
「その時は、お前がぺんこうを守れよ」
「……嫌だな、それ…」
「ぺんこうの本能が目を覚ましたら、どうなる?」

くまはちが尋ねる。

「組長が怒る」

まさちんは即答した。

「俺がぺんこうを守ったら、お前は何をする?」
「…暴れる……」
「また、真北さんの怒りに触れるやろが。だからや」
「…そっか」

妙に説得力のあるくまはちの言葉に、まさちんは納得した。

「ほな、明日の朝に備えて、寝るで」

いつになく、早寝になる二人。
想像できた。
明日来る予定の男は、恐らく……。



想像通り、朝日が昇る前に、真子の自宅へやって来たぺんこうは、

「ほら、行くで」

寝ぼけ眼のまさちんと、トレーニング帰りのくまはち、そして、出勤予定だったむかいんの三人を強引に車に乗せ、真北が勤める特殊任務のあるビルへと向かって車を走らせた。



(2007.5.24 UP / 改訂版2017.3.11)



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