任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第四部 『新たな世界』

第一話 新たな世界の第一歩?

AYビル・会議室。
今、幹部会が開かれていた…。
誰もが真剣な眼差しで、話し合っていた。ところが、それは、真子の一言で一変する。
誰もが、気まずそうに俯き加減になり、真子と目を合わそうとしなかった。

「…本当に、これからは、気を付けてくださいね。川原さん、藤さん」
「はい…」
「はい」

川原と藤は、少し元気がなかった。

「お二人が、私が五代目になる前、不仲だったということは、知ってます。
 だけど、襲名後に、そんな雰囲気は、感じられなかったので
 大丈夫だと思っていたんですよ…。これと同じ事は、水木さん、須藤さん
 お二人にも言えますが…。どうなんですか?」
「私達は、大丈夫ですよ。のぅ、水木」
「えぇ。組長、ご安心を」
「うん。ありがと」

真子は、そう言った後、目の前の書類に目線を落とし、暫く何も言わなかった。幹部達は、次こそ、例の暴れた件で、真子が…と考えていた。
しかし、それは外れた。

「水木さん。会議が終わったら、AYAMAの件でお話があります。
 お時間いただけますか?」
「えぇ。本日は、そのつもりですから」
「後で、よろしく。それと、谷川さん」
「はい」
「新たな企画、検討いただけましたか?」
「はい。色々と検討した結果ですが、やはり、著作権が絡みますね。
 ですから、難しいです。製造業に掛け合う方が、手っ取り早いと
 思いますので、今、そちらに当たってます」
「わかった。中間報告でもいいから、一度、提出してね」
「明日には、提出致します」
「須藤さん、本屋ですけど、専門書、更に増えましたか?」
「はい。もっと細かく分類して、探索中です」
「自費出版の方も目を向けてね」
「心得てます」
「うん。安心した。…松本さん、変わりない?」
「そうですね。変わったと言えば、一戸建てよりもマンションを
 望む声が増えたくらいです。あとは、何年でも安心して暮らせる
 家を望む声も。建築資材の購入が厳しくなってきましたね。
 環境問題がうるさいですから」
「そうだよね…。今までのしっぺ返しを喰らってるからね…。
 何か、お手伝いすること、ありますか?」
「今のところは、大丈夫です。ありがとうございます」
「川原さんと藤さんは、末端組織の方の一掃をお願いします」
「進行中です」

川原と藤は、声を揃えて言った。
再び、沈黙が続いた。
今度こそ、真子の怒りが…?

「他に、何か、ありますか?」

真子の質問に、誰も応えなかった。真子は、一人一人の目を見て、そしてにっこりと笑った。

「お疲れさまでした。今日はこれで終わります。では、水木さん」
「はい。かしこまりました」

真子は、机の書類を一つにまとめながら言った。

「お昼からでいいですか?」
「はい」
「一時に、AYAMA社に来て下さい。駿河さんには、私から伝えておきます。
 では、後ほどね!」

真子は、そう言って、会議室を出ていく。まさちんは、真子を追うように会議室を出ていった。

「…組長、何も言わなかったな…」

須藤が、言った。

「そうだよな…。既に御存知だろうに…」

谷川が、会議室を片づけながら、ため息を吐く。

「…本当に、大丈夫なのか?」

幹部達、誰もが、何故か、心配していた。



真子は、事務所に戻っていた。そして、AYAMAのファイルを手に取りながら、

「…本当に何もないんだね」

側にいるまさちんに静かに尋ねた。

「はい。平穏無事でしたから」
「…私は、そっちよりも、AYAMAの方が気になってしゃぁないねん。
 まさか、こんな方向に進んでいたなんてね…。やっぱり、水木さんや
 くまはちのような血の気の多い人物に頼んだのが、あかんかったね…」

真子は、落ち込んだ表情になる。

「組長……申し訳ございません…」

まさちんは、思わず口にしてしまった。

「なんで、まさちんが謝るん? 私の力不足だったんだから…。
 …だけど、今のは、篠本さんの件に対してだったら、ほんとに、怒るよ…」

真子は、まさちんをジロリと見つめた。

やはり、怒っている…。度が越えたから…何も言わないのか…?

まさちんは、真子の表情でそれを察していた。
そして、とうとう、まさちん自身が抑えきれずに、真子に言ってしまった。

「組長、思っていることを、おっしゃって下さい。そうでないと…」
「…殴られたい? 蹴られたい? まさちん達が行ったこと、わかってるよ。
 だけど、誰も報告しないってことは、私に知られたくないって事でしょう?
 知られたら怒られること わかってるのに、それをしたのは、何か訳が
 あるからでしょ?…もう、子供じゃないんだから…訳があるから報告しない…。
 だったら、こっちも無理して訊かない…」

真子の語りには、怒りを抑えているのが解るくらい、刺々しい。聞いているまさちんの方が、痛々しい表情に変わっていた。

「私の考え、知っていて、行ったんでしょ? だから、これ以上は、何も言わないよ」
「いっそのこと…怒りをぶつけてください…その方が、楽です…」
「…楽…させるものか…!」

真子の本音だった。
怒りをぶつけない時の方が、怖いときがある。
それを身に染み込ませることが、真子の魂胆…。
まさちんや、幹部達は、見事、真子の手中に転がされていた。




午後十二時五十分。

「まさちんは、来なくていいから」

真子は、そう告げて、AYAMA社へ脚を向けて、事務所を出ていった。まさちんは、自分の事務室で項垂れていた。
その時、内線が鳴った。

「はい…。……はい?」

不機嫌な感じで電話に出たまさちんの声が、驚いたような声に上擦る。
まさちんは、受話器を置いた後、慌てて事務所を出ていった。




AYAMA社・応接室
真子は、駿河と睨み合っていた。

「あれだけ言ったでしょう?」
「わかってますよ。しかし、真子ちゃんが、休養中は、くまはちさんか
 水木さんの意見を尊重して、そして、進行しただけですよ。
 水木さんに報告したとき、あっさりとOKが出たので、疑問には
 思ってましたけど、やっぱり、水木さんの意見だけだったんですね!」

その二人に更に睨まれる水木。

「私は、一般ウケすると考えての行動ですよ!」
「一般ウケしても、こんな危険なものをぉ!!!!!
 組関係で話していることは、こちらでも実行してくださいよ!」

真子の怒鳴り声は、応接室の外にまで聞こえていた。他の社員は、真子の声が聞こえた途端、一斉に応接室の方を見、心配そうな表情になる。

「で、現在はどうなってるの!」
「こちらは、七月にゲームセンターに設置されます。そして、
 こちらは、それを元に作ったRPGです」
「…ったく…。今からじゃ、中止は無理だね。…だけど、このRPGは
 まだ、試作段階だよね。駿河さん、取りあえず、私が見てから、
 結果を報告します。…そのゲームセンターの分は、ここにあるん?」
「はい。試作室に…」



『レディー…ゴー!』

そのかけ声と共に、機械の前に立っている真子は、手にしたガンで、画面に向かって次々と何かを撃っていった。

『プレー続行です…』

高得点の為、更にゲームの難易度が高くなって、ゲームは続いた。

『ゲーム終了。コングラッチュレイショォン!』

ゲームは、最終まで到達した。

「…最高得点…」

駿河が呟く。

「真子ちゃん、さまになりすぎ…」

八太が、真子の姿に魅了されたのか、眼差しが輝いていた。

「…こんなんが、楽しい?」
「充分楽しいですよ」
「私は、嫌だな…。敵を撃っていくんでしょ? たまに出てくる
 味方まで撃ってしまいそうになるし…。そんなの嫌だな」
「そんなこと言って…。組長は、全く味方を撃ってませんよ。
 …俺たちよりも、凄腕ですね。実戦では…。…すみません…」

水木は、言葉を濁した。真子が思いっきり怖い目つきで睨んでいたからだった。

「真子ちゃん。私達は、このような経験は皆無なんですよ。
 ですから、せめて、ゲームだけでも体験できたら…そう思って
 これを進めたんです。撃ったときの感覚は、水木さんからの
 ご意見です」
「なるほど…それで、実際に撃った感覚が伝わったんだね…」
「…って、真子ちゃん、撃ったことあるの?」

駿河は、真子の言葉に驚いた表情をした。
銃嫌いの真子のことは、水木やまさちん、くまはちから、嫌と言うほど聞かされているため、AYAMAの社員は、みんな、知っていた。しかし、真子が実際に銃を撃ったということは、思いもしなかったようだった。

「一度だけね。…襲名直後に、本部にあった射撃場を閉鎖するときにね。
 あの時、なんで、自分がそんな行動を取ったのか、未だに解らないけど」

少し暗い表情をした真子は、フッと息を吐き、

「…まぁ、仕方ないか…。で、これなんだけど、各ゲームセンターの
 データーがまとめて観れるようにできる?」
「まぁ、できないこともないですが…。なぜ?」
「対戦してる気分が味わえるかなぁって思って…」
「では、その方向で進めます」
「急に悪いね。よろしく。RPGは、来週にでも報告するから。
 それでいい? あまり良い方に考えないでね」
「…はい」

少し落ち込んだ様子に駿河と八太。その傍らでは、水木が、まだ、呆然としていた。

「…水木さん、どしたん?」

あまりにもボォッとしている水木に気が付いた真子が、声を掛けた。

「組長の姿に、魅了されました…」

真子は、照れたように微笑んだ。

「禁止を命令してる本人が、こんなんじゃ、駄目だね」

真子は、かわいらしく舌を出して、試作室を出ていった。水木も後を追うように出て行く。



「組長……」

水木が静かに呼ぶ。

「なぁに?」

真子は、軽く返事をした。

「その……」
「何も言わない、聞かない。それで、いいんじゃない?」

真子は、意地悪そうな表情をして、水木に言った。水木は、困った顔で、真子を見つめていた。




まさちんの事務室。
女性の声が聞こえていた。

「もぉ! 五代目が退院したら、すぐに遊びに来るって約束したやろぉ」
「すみません…。組長には、何も言ってませんので…。それに、今は
 色々とやることがありすぎまして…」
「一段落ついたら、来てやぁ」
「わかっております。桜姐さん」

まさちんの言う通り、その女性は、まさちんの事ばかり話して、もしかしたら、まさちんと何かあるのでは?と噂されている水木の妻・桜だった。
桜は、ソファに腰を掛けて、珈琲を飲んでいた。

「約束やでぇ〜。で、うちの人は?」
「組長とAYAMAで話し合いです」
「そうなんや。…しっかし、五代目も無茶なことするねぇ。
 あの人に、AYAMAの仕事させるなんて。どやされてなければ
 ええねんけど。…なんか、戦闘もののゲーム、作ったらしいやん。
 うちは、やめときぃ言うたんやけどね」
「かなり長引いてますから、恐らく、その事で、もめているかもしれませんね」
「あの人、女には、弱いからね。…で、まさちん、考えてくれたん?」
「水木さんを敵に回したくありませんから」
「大丈夫やって、何度も言ってるやろぉ。それとも、うち、魅力ない?」

まさちんは、桜を見つめた。
その目は、真子に向けているものとは、全く違い、女性を口説く男の眼差し…。

「私には、もったいないくらいの女性ですから」

まさちんは、微笑んでいた。

「ありがと。そやけど、うちは、いつでもかまへんで」
「ですから、姐さん…」
「五代目を抱くなんて、全く考えてへんやろ。不満になれへんか?
 噂やと、女に手が早いんやろ?」
「それは、かなり昔の…若かった頃の話ですよ。無茶ばかりしてた…」
「今は、どうなんよ!」
「姐さん……」

まさちんは、桜の肩に手を掛けて、ソファに押し倒した。
突然のまさちんの行動に、桜は、少し驚いたのか、体が強張ったが、それは、すぐに緩んだ。

「…姐さんの…悪い癖ですよ」

甘くて低い声で、まさちんが言う。

「まさちん……」

桜は、まさちんの背中に手を回し、抱きつき、まさちんの肩越しに話しかけた。

「あの人は、怒らへんよ…。あの人だって、色んな女と寝てるしね」
「だからといって、若い組員と次々と寝てどうするんですか」
「ええねんって…」
「私は、よくありませんよ…。放して下さい…」
「いやや…。鍵は閉めとるから…。それに、暫く、五代目…来ぇへんやろ?」

桜のその言葉に、まさちんは、何かを抑えられないのか、桜の肩に再び手を掛けて、ソファに押しつけた。
桜は、抵抗しなかった。
まさちんは、桜の頬を優しく一撫でして、その手で、桜の唇に触れた。

「次に…抱く女性は、もう決まってますから…。それまで、私は、
 その女性をお守りしなければ、ならないのですよ。ですから…」
「!!!!」

桜の目は、見開かれた。
まさちんの唇が、桜の唇に、すごく優しく触れていた。
想像以上のまさちんの優しい口づけに、桜は、それ以上、何も出来なかった。
まさちんの唇が、ゆっくりと離れた。

「申し訳ありません…期待に応えられない男で…」

そう言って、まさちんは、桜の背中にそっと手を回して、桜を抱き起こす。
桜は、放心状態だった。
まさちんは、桜に背を向けて、デスクに向かって歩いていく。そして、仕事の続きを始めた。
桜は、自分の唇に手を当てて、目を瞑る。そして、静かに言った。

「まさちん…。あんた、自分を隠してるんやな…」

まさちんは、その言葉に振り返り、そして、微笑んでいた。

「姐さんと先に出会っていたら、わかりませんけどね」
「ふふふ…魅力的な男や。五代目にはもったいないな…」
「そんなことありませんよ」
「…あんたには、負けたわ…」

桜は立ち上がり、服を整え、まさちんに近づいていく。

「姐さん?…!!!!」

今度は、まさちんの目が見開かれていた。

「お礼や」

桜は、まさちんに口づけをした後、そう言った。そして、再び、まさちんに抱きつき、首筋にキスをした。

「ふふふ…。さてと、帰ろっかな。あの人とむかいんのとこで、
 食事する約束やねん。まさちんのとこにおるって言ったんやけど、
 まだなんかなぁ〜。これ以上、ここにおったら、うちの理性が
 ぶっ飛ぶわぁ。先にむかいんのとこ行ったって言うといてな」

そう言って、桜は事務所の鍵を開けた。ドアノブに手を掛けたときに振り返る。

「そや。…暫く、消えへんやろな。ほなな!」

桜は、自分の首に手を当てて、消えない物をまさちんにアピールした。そして、微笑みながら、まさちんの事務所を出ていった。

「消えない…って?!」

まさちんは、ドアが閉まったと同時に、鏡の前に立った。

「桜…姐さぁ〜ん……」

まさちんの首筋には、くっきりと桜の付けたキスマークが残っていた…。
慌ててこするまさちん。
…消えるわけがない…。



桜が、まさちんの事務室を出た頃、真子と水木は、会議室に居た。
真子は、深刻な表情で目を瞑っていた。そんな真子を真剣な眼差しで見つめる水木。

「まさちんも言ってた。だけどね…怒る気にならないよ。
 呆れたっていうか…。そんなにも黙っていたいなんてね…」

真子は、ゆっくりと目を開け、水木を睨んでいた。

「…思いっきり怒鳴られた方が、まだ、ましですよ…組長」
「怒鳴らないよ。みんなから、報告を受けるまで…怒らないから」

真子は、スッと立ち上がった。そして、ドアに向かって歩き出した時だった。

「組長!」

常に冷静な水木に珍しい行動だった。
真子の歩みを停めるように、水木が、ドアの前に立ちはだかり、ドアにへばりつくように両手を広げていた。

「AYAMAの件…悪いと思っています。まさちんもくまはちも
 組長の事を考えて、駿河の意見に反対していたこと、知ってました。
 しかし、駿河の真剣な言葉に、私は、負けてしまいました」

水木は、両手を下ろす。

「だから…薦めてよかったと思ってます」

水木は、力強く言った。

「なぜ?」

真子は、怪訝そうな表情で水木を見つめる。

「組長は、この世界…任侠の世界で生きている時が、一番、魅力的です。
 昨年夏、店の近くでの戦闘姿、そして、先程の銃を構える姿…。
 我々は、魅了されましたよ」
「水木さん? …あなたには…そんな風に…言われたくないな…」

真子は、俯いていた。そして、いきなり、水木の胸ぐらを掴みあげた。

「そうやって、私を怒らそうとしても、無理ですよ」

水木を睨み付け、ドアの前から離すように水木を引っ張り、手を離した。
水木は、勢い余って、尻餅を突く。
真子は、冷たい眼差しで水木を見下ろし、そして、会議室を出ていった。

「くそっ…無駄だったか。静かな方が、ほんまに怖いですよ…」

水木は、その場に座り込んだまま、動かなかった。




まさちんの事務室。
まさちんは、デスクに両肘を付いて、額に両手を当てて悩んでいた。

「…組長?」

まさちんは、真子の事務室から音が聞こえた事に反応し、急いで真子の事務室に向かっていった。

「失礼します」

まさちんは、真子の事務室に入っていった。真子は、ちょうど、奥の仮眠室のドアを開けた所だった。

「二時間寝るから」
「かしこまりました」

真子がドアを閉めるまで、頭を下げたままのまさちんは、暫く動かなかった。


真子は、靴も脱がずに、ベッドに倒れるように寝転んだ。そして、直ぐに寝息を立てて、眠り始める。
まさちんは、静かに仮眠室に入り、真子の靴を脱がし、寝やすい体勢に動かして布団を掛けた。

「次に抱く女性…か…。俺も大胆な事を言ったもんだよな…。
 真北さんに、ばれなきゃええけど…」

まさちんは、そっと真子の頭を撫でた。
その手が、ピタッと止まった。
真子の額の傷跡。
まさちんは、真子の前髪で、その傷をそっと隠した。
しばらく、真子を見つめるまさちんは、何かを思いだしたのか、優しく微笑んでいた。

「大きくなりましたね…組長」

真子は寝返りを打った。そして、

「まさちんの…あほぉ〜〜……。殴って…やるから…な…」

寝言…。

「やっぱし…怒ってる…。やはり…まだまだ、子供ですね…」

まさちんは、真子の寝言に笑いを堪えながら、仮眠室を出ていった。静かにドアを閉めるまさちんは、安心したような表情をして、真子の事務室を出ていった。
首筋を気にしながら……。





真子の自宅。
リビングで、何やら小さな物を手に持って、真剣な表情でそれを見つめていた。
指先は、細かに動いている。時々、連打している。
真子が手に持っているもの。それは、駿河が水木と二人で決めた試作品。

その名も『ニューワールド』

新たな世界。それは、真子が任侠界に与えたもの、命の大切さ、親分のために生きる…そういうものだった。しかし、このゲームは、全く正反対の内容となっていた。
仲間を敵の陣地に送り込み、殺戮を繰り返す。しかも、あらゆる薬を使って、力を増強し、仲間が武器となって、敵を倒していくという内容。
真子は、ゲームが進むたびに、嫌な表情をしていた。
何度も何度も、初めから確認するようにゲームをしていた。そして、何度目かで、何かに気が付いた。

「これじゃぁ、普通の人には、解らないよ…」

真子は、ゲームをソファの上に放り投げ、寝転んだ。

「あほ…らし…」

呟くように言った真子は、そのまま、目を瞑って寝入ってしまった……。



「組長…寝てる…」

真子の様子が気になり、リビングを覗き込んだまさちんは、真子の寝入る姿を見て、優しく微笑んでいた。そして、真子に近づいた。

「組長、寝るのでしたら、お部屋に戻って下さい。
 真北さんに怒られますよ……?」

まさちんは、真子を起こすように声を掛けたが、真子は起きる気配を見せない。仕方なく、真子を抱きかかえようとした時だった。
真子の側に転がっているゲーム機に気付き、手に取る。
その画面には、

『これが、ニューワールドです』

そう表示されていた。まさちんは、じっくり画面を眺める。

「命を大切に…? こんな画面、知らないぞ…」

どうやら、真子が眠っていた間、まさちんもこの試作品をしていた様子。真子が、まさちんの気配に気が付いたのか、目を覚ました。

「お帰りぃ」
「組長……私は、部屋に居ましたけど…」
「…ん? …そっか」
「その…この画面なんですが…」
「あぁ、それ。何度も繰り返してやってみて、やっと気が付いた場面。
 そんなの、解らないよ…。誰も気が付かないって。だから、これは、
 ボツだね。駿河さんには悪いけど」
「私、気が付きませんでした。…一体、どうやって?」
「自分で探しぃ〜。私は、言わへん! …へっくしょん」
「組長!」

まさちんは、真子のくしゃみに慌てたように、手を差し出す。

「大丈夫だって。くしゃみしただけだから。…真北さん、帰ってきた?」

真子は、時計を見て、まさちんに尋ねた。

「まだです」
「あっそ。なら、いいや」
「何か相談したことが? 私でよろしければ…」
「まさちんのことなんだから、まさちんに相談できないでしょ」
「そうですね。……って、…!! く、組長、私のこととは…?」
「ん? …お休みぃ」

真子は、まさちんの質問に応えず、無表情で手を振ってリビングを出ていった。

「あ、あの、く、組長?!」

まさちんは、真子の後ろ姿に手を差し伸べているだけだった。
ドアは、冷たく閉まった……。

「一体、何を…?」

気になるまさちん。
しかし、それを尋ねることは……できない……。




真夜中。
真北は、いつものように、真子の寝顔を見に、部屋を覗き込んだ。

「真北さん…」
「組長、起こしてしまいましたか…すみません…はい?」

真子は、手招きしていた。
真北は、その手に誘われるように部屋へそっと入っていく…と同時に、まさちんの部屋のドアが開いた。
まさちんは、先程の真子の言動が気になり、真北が来るだろう時間を見計らって、起きていたのだった。
思った通り、真北は、真子の寝顔を覗きに来、そして、真子に誘われるように部屋へ入っていった。
まさちんは、忍び足で、真子の部屋の前に立った。



真北は、真子の側に立っていた。

「あのね、真北さん。まさちんの事で相談が…」
「なんですか?」
「その…大人の世界の事は、未だによくわからないんだけどね、
 まさちん…桜姐さんと何か遭ったんじゃないかな…と思って…」

真子は、凄く心配した表情をしていた。
それは、恋人の浮気発覚で悩む人の表情に近かった。
真北は、真子の心情を悟ったのか、安心したような表情で、真子を見つめ、そして、真子の目線に合わすようにしゃがみ込む。

「何か…とは?」
「その…水木さんが、怒るかもしれないような事…。
 まさちんの首筋に…あざがあるんだ…。それって…」
「率直に言うと、桜さんが、まさちんと浮気した…ということですか?」


廊下のまさちんは、話し声が聞こえていたのか、気まずい表情になる。


真子は、静かに頷いた。

「そうかもしれない…と思って…。どうしたら、いい?」

それは、意外な言葉だった。
真子の口から、発せられるとは、真北自身、思ってもいなかったようだ。

「どうしたらとは…? それは、水木が、怒るということですか?」
「うん…。だって、水木さんって、桜姐さんの事、すごく大切にしてる…
 そんな雰囲気なんだもん…。私だって、まさちんのことも大切だけど、
 誰かが、嫌な思いをするような…そんな行動は…駄目だと思う。
 だけど、感情は、どうすることもできないよね…ましてや男と女の…」

真子は、困った表情をして、腕を組んで悩んでいた。

「意外…です…」

真北は、驚いた表情で真子を見つめていた。真子は、真北の言葉に反応して、真北を見た。

「何が?」
「組長が、そのようなお話をするとは…」
「えっ? そなの? …でも、やっぱり、心配だもん…。だって、ほら、
 まさちんって、女性に手が早いって言うやん…気になって…。
 以前、水木さんちに泊まった時に、何か遭ったんだと思う。
 私がアルコールに弱って、寝入った時に…」
「ふふふ…」
「真北さん、笑い事とちゃうよぉ。私、真剣なんだからぁ」
「すみません。なんだか、あまりにも意外な事なので…だけど、組長、
 組長が、ご心配なさることでは、ありませんよ」
「どうして?」
「桜さん自身、誰彼かまわず、手を出すという噂ですから」
「はぁ?!」

真子は驚いたように、声を張り上げる。

「…まさちんに、何か変わった様子ありますか?」
「ないよ。いつもと変わらない」
「それでしたら、何もありませんよ。まさちんは、隠し事が
 一番苦手ですからね。それも、組長に毒されてからは」
「…真北さぁん、それって、なんだか、嫌みに聞こえるぅ」

真子は、ふくれっ面になっていた。

「まさちんには、何か決心があると思いますよ。ですから…」

真北は、話し相手が、真子だということを忘れていた。思わず口にしそうになった、

最近は、抱いてないでしょう…。

という言葉。
真子は、真北が何かを誤魔化すかのように、口を噤んだことには、気が付いていなかった。

「心配事が消えたのなら、お休みになりますか?」

真子の眠そうな眼差しを見て、真北は優しく声を掛ける。

「何もないんだったら、それでいいんだけどなぁ。ふわぁ〜」

真子は、欠伸をして、目をこすっていた。

「寝るぅ…」

真子は、布団に潜った。真子の手は、真北の服を掴んでいた。

「他に、何か?」

真子は、何を寂しがっているのか?
真北は、真子の仕草で、そう思った。しかし、真子は、首を横に振って、真北に優しく話しかけた。

「寝顔…堪能してもらおうと思ってね…お休みぃ」
「は、はぁ…お休みなさいませ」

真子は、眠りについた。
すやすやと眠る真子の寝顔を見つめ、嬉しそうに微笑む真北は、そっと真子の手から自分の服を離し、真子の手を布団の中に入れ、頭を一撫でしてから、部屋を出ていった。

「……!! びっくりした…。…聞いてたな?」

廊下のまさちんには、気付いていなかった様子。

「はい。組長の言葉が気になりまして…」
「言葉?」
「私の事で、真北さんに相談したいという言葉を残して、
 部屋に戻りましたので、すごく気になりまして…」
「自業自得やろ。で、何も無かったんやろ?」
「はい」
「…しかし、俺の考えは変わってないからな。解ってるやろな…」

真北は、『解ってるやろな』の部分にドスを利かせて、まさちんに言った。

「充分解っておりますから」
「なら、何も言わへん。仕事終わったんやったら早く寝ろ」
「はい。お休みなさいませ」

真北は、部屋に向かって歩き出したが、何かを思いだしたのか、振り返った。

「あぁ、あのな、篠本とさつまのこと、お前の考えで、おうてたから。
 だから、俺は何も言わないぞ。…報告だけは、組長にしとけよ」
「それは…組長、静かに怒ってますので…まだ、何とも…」
「…ははは。組長、呼吸、置きすぎやな」

真北は、意味ありげにそう言って、部屋へ入っていった。

「呼吸?!」

まさちんには、ちんぷんかんぷん……。



(2006.4.1 第四部 第一話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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