任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第四部 『新たな世界』

第二話 隠れた真実

AYビル。
真子は、AYAMA社で、『ニューワールド』の結果を駿河に報告した。駿河は、凄く落ち込んだ様子で、真子の手から、報告書とゲーム機を受け取った。

「だけど、駿河さん、ありがとう」
「はい?」
「私の伝えたいこと、解っていたんだね。でもね、これじゃあ、
 誰にも伝わらないよ。私だって、何度もやってから、見つけたんだもん。
 だから、これは、ボツ」
「解りました…。ということで、次の試作が出来ましたので…」

駿河は、横に置いていた包みと書類を同時に手渡した。真子は、包みを開けて、中を覗き込む。

「えっ!!! 嬉しいぃ〜ありがとう、駿河さん」
「退院祝いです。みんなから」

包まれていたものは、猫グッズ。
真子は、嬉しい表情でその猫を見つめていた。

「噂には聞いてましたけど、ほんと、真子ちゃん、好きなんですね、
 猫グッズ」
「うん!!!」

まるで、好きなおもちゃを買い与えられた子供のような表情で、駿河に返事をした。

かわいい…。

駿河は、真子の嬉しそうな表情を見て、そう思った。

「その…グッズもいいんですが…試作も……」
「あっ! ごめんなさい…。来週には、結果を出します」
「どちらかというと、くまはちさんに向いているかと…」
「そなの?なら、くまはちに頼もうっと。くまはちって、
 ほんと、何でも出来るんだからぁ。すごいよね」
「真子ちゃんに、そう言ってもらえると、くまはちさん、
 喜んでますよ。何かと言えば、くまはちさんの口からは
 真子ちゃんのことしか出てきませんからね」
「ったく、くまはちったらぁ…」

真子は、照れていた。
その噂のくまはちは…。

AYビルの一階にある喫茶店。
くまはちが入ってきた。そして、誰かを捜しているような表情で、辺りを見渡し、そして、その人物を見つけたのか、くまはちは、歩み寄っていった。

「(アルファー。どうした、ここまで来て…)」
「(くまはち…。悪いな…隠密で…)」

それは、海外出張時に意気投合した黒崎の側近・アルファーだった。少しやつれた表情でくまはちを見つめていた。

「(何か、遭ったんだな…)」
「(あぁ。…少しやばいことが起こってな…。例の組織の事、
  調べれば調べるほど、厄介なことになっていったんだよ。
  それで、電話じゃなんだから、こうして、直接…)」
「(よく、出て来れたな)」
「(観光を装って、やって来たんだよ。そして、黒崎さんから
  ここのビルの事も聞いていたから、直ぐに来ることができたよ。
  たどたどしい日本語を使ってね)」
「(…そうだったのか…わざわざ、ありがとな)」

アルファーは、くまはちの姿を見た途端、少し落ち着きを取り戻したのか、くつろいだ姿勢に変わった。

「(ほんと、日本は安全なんだな)」
「(あぁ。そうさ。でもな、俺達の生きている世界は、そうでもないさ。
  その中でも、組長は、生きている。そして、新たな世界を築こうと、
  がんばっている。命の大切さ…さ)」

くまはちは、微笑んでいた。

「(ここでのくまはちの雰囲気は、違うんだな。なんていうか…
  優しさが、伝わってくるよ)」

アルファーは、くまはちの微笑みに応えるかのように、はにかんだ表情をしていた。

「(やくざな顔をしていたら、それこそ、怒られるぞ)」
「(そう言うことか)」

アルファーは、目の前の珈琲に手を伸ばした。その手には、包帯が巻かれていた。それを見逃すはずのないくまはち。

「(どうした?)」

アルファーは、くまはちの目線に気が付いた。

「(あぁ、これか。いつものことだよ)」
「(…あんまり、無茶するなよ。…俺が、哀しいよ)」
「(ありがとう、くまはち)」

くまはちの心が、アルファーに通じたのか、アルファーは、柔らかい表情をして、くまはちを見つめていた。そして、深刻な話を始めた。



一方、同じAYビルでは、重苦しいオーラが立ちこめる場所があった。
まさちんは、真子が、AYAMA社に向かったと同時に、須藤事務所に顔を出していた。そこには、既に、水木達、関西幹部が勢揃い。例の篠本の件に関与していない松本は居なかったが…。

「静かに怒るなんてな…」
「俺らは、こう、かぁーーっと怒って頂く方があっている…」
「怒りを露わにしていただきたいよ…」
「しかし、その怒りは…想像以上やろな…」
「えいぞうよりも…か?」

須藤、水木、谷川、藤、そして、川原が、それぞれ嘆くような感じで言った。そして…、

「はふぅ〜〜…まさちん…」

同時に大きなため息を付き、まさちんを見た。

「私だって、困ってますよ。私と話している時は、いつもと変わらない
 雰囲気なんですから…。…どうしますか? 告白しますか?」
「そうなると、まさちん、お前が、標的やないか? ええんか?」

水木が心配そうに尋ねると、

「…それが、約束でしたよね? みなさん」

まさちんは、力強く応えていた。

「あぁ」
「では、まとめますか。水木さん、お願いしてよろしいですか?」
「そやな」

水木を筆頭に、まさちんと幹部は、須藤の事務所の奥にあるコンピュータ室へ入っていった。そして、深刻な表情でパソコンの画面を見つめ、それぞれが、意見を述べていた……。

まさちんが、書類を持って、須藤の事務所を出てきた。そして、真子の事務所のドアを開けた……。




真子は、事務室に戻っていた。デスクの上の書類をまとめ、そして、パソコンのスイッチを入れた。健の極秘情報ページを閲覧している時だった。
まさちんが、須藤の事務所から、戻ってきた。

「組長、至急、目を通していただきたい書類があります」
「ん…」

真子は、パソコン画面のページを切り替えた。そして、まさちんに手を差し延べて、書類を受け取った。

「…何これ…」

真子の眼差しが、一瞬で変わる。そして、まさちんをギッと睨んだ。
まさちんは、覚悟を決めているのか、目を瞑っていた。

「みんなで話し合って、出た結論が、これ? こういう方法なら
 私が怒らないとでも?…それとも、みんなの期待に応えてあげようか?
 ねぇ、まさちん。こういうことは、真っ先に報告するのが
 私に対しての敬意ってもんじゃないのかなぁ。やっぱり、みんな、
 私が、五代目をしていること、反対なの?…どうなの!!!!」

真子は、持っていた書類をまさちんに投げつけた。真子の行動を予測していたのか、まさちんは、目を瞑ったまま、何も言わなかった。

「応えてあげようか?」

真子は、ゆっくり立ち上がり、そして、まさちんの横に歩み寄った。
まさちんは、身構えた。
真子は、まさちんの胸ぐらを掴み、自分に引き寄せる。そして、まさちんの腹部を蹴り上げた。

「うぐ……」

まさちんの想像を遙かに超える威力だったのか、流石のまさちんも、うめき声を上げて、その場に跪いた。それでも真子は、まさちんから手を離していない。真子は、跪くまさちんの胸ぐらを掴みあげ、そして、何度も何度も、腹部に蹴りを入れていた。
まさちんは、打たれるまま、全く抵抗をしない。
まさちんの口元に、血が滲み始めた。
すると真子は、まさちんから手を離す。
まさちんは、腹部を押さえて、うずくまっていた。
そんなまさちんに蹴りを入れようと脚を挙げた時だった。

「組長!!!!」

それは、真子の事務所の外で、様子を伺っていた須藤や水木達幹部だった。須藤と水木が、まさちんから引き離すように、真子の腕を掴んでいた。しかし、真子は、その腕を振り払って、事務所に流れ込むように入ってきた水木をはじめに、他の幹部達を次々と蹴り始めた。
一巡して、再び、水木に目をやったときだった。

「…組長…。怒りは、私だけに…」

まさちんが、水木の前に、やってきた。

「まさちん…」

真子の拳が震えていた。

「どうして、どうしてだよ!! 私は、誰だ? どうして…」

真子は、叫びながら、まさちんを殴っていた。殴って、殴って、殴って……。
その腕を抱え込むように、止めたのは、くまはちだった。

「組長、どうされたんですか? 組長が、こんなことをして…」
「くまはち…くまはちもだよ…どうして、私に黙って……」

真子は、くまはちの腕を振り払うように、自分の腕を抜き、くまはちを睨んだ。くまはちは、真子を哀しい目で見つめていた。

「…そうだよ…結局、こういう方法でしか、説得できないよ…」

真子は、くまはちの言いたいことが解ったのか、頬に一筋、涙が伝っていた。
その時だった。
真子に蹴りを喰らって、床に座り込んでいる幹部達、そして、既に立つ体力もないまさちんが、何かの気配に反応するように、顔を上げ、入り口付近に目をやった。
そこには、アルファーが立っていた。

「誰だ、てめぇ…」

まさちんは、ドスを利かせて、呟くように言った。

「あ、ああ、こいつは、アルファーと言って、俺の友人だ」

くまはちが、まさちんの問いかけに応えるように言った。

「(くまはち、俺、出直そうか?)」

アルファーは、真子の行動の一片を見ていた様子。少し気まずそうな表情をしていた。

「…くまはちの…お友達って、海外の人?」
「はい。アルファーです」

真子は、くまはちの表情で、アルファーとの関係を悟ったのか、頬の涙を拭って、一呼吸置いて振り返る。
真子独特の笑顔が、そこにあった。
アルファーは、少し、恐怖を感じた。
先程とは、うって変わって、全く正反対の表情、雰囲気の真子。
しかし、この笑顔は……。

「(お前の言うことが、解るよ)」

アルファーは、微笑んでいた。くまはちも、それに応えるように微笑んでいた。
警戒をしていたまさちん達は、警戒を緩めた途端、再び、その場にうずくまった……。




「すみません…えらいとこを見せてしまって…」

真子は恐縮そうに、アルファーの前に座り、俯き加減になっていた。
真子の言葉を訳すくまはち。
少し間があってから、アルファーが、くまはちに何かを言った。
くまはちは、笑っていた。そして、真子に訳そうと口を開いた途端、アルファーが、くまはちの口を塞いだ。

「(伝えるな!!!)」

くまはちは、そんなアルファーの手を振りほどいて、そして、笑いながら言った。

「(大丈夫だよ。起爆剤は言ってないから)
 組長、アルファーが、驚いたそうですよ。体格のごつい男たちを
 いとも簡単に、倒していたので。この場に居て良いのかと
 思ったそうですよ」
「ごめん…。真北さんには、二呼吸置くように言われてたんだけど、
 駄目だった…。私…まだまだだね」

真子は、落ち込んでいた。
アルファーが何かを言った。

「トップなら、当たり前のことですよ。とアルファーが言ってますよ」
「(ありがと)」

真子は、アルファーの国の言葉でお礼を言った。
それには、くまはちだけでなく、アルファーも驚いていた。

「組長、言語…」
「お礼の言葉くらいはわかるよ」
「いいえ、その、アルファーの国の言葉は、あまり世間には知れてませんよ」
「…ま、気にしない気にしない! それより、アルファーさん、観光でこちらに?」
「近くに来たから、ビルに寄ったそうです。そして、組長を一目見たいと…。
 すみません、勝手に連れてきて…」
「くまはち公認なら、安心だから。良く来てくれました。歓迎しますよ。
 そうだ。これから、食事でもどうですか?」

くまはちは、真子の言葉を全て訳して、アルファーに伝えていた。

「(組長自慢のコックの店だよ。俺も薦めるよ。どうだよ、息抜きに)」
「(俺だけ、そんなことは、してられないよ…)」
「(…観光で来たんだろ。だったら、そう振る舞うのが当たり前だろ)」
「(そうだよな…。わかった。そうするよ)」

真子は、二人の会話を嬉しそうな表情で聞いていた。そんな真子の表情が気になったアルファーは、くまはちに言った。

「なぜ、嬉しそうな表情なのかと聞いてますが…。私もそう思います。
 先程のことがあったというのに…」
「あれは、あれ。もう、ほっとくことにしたから。…嬉しいもん」

くまはちは、真子の嬉しい原因が何かわからない様子。

「(くまはちが、活き活きしてるから。じゃぁ、行きましょう!)」

真子は、アルファーを見つめて言った。アルファーは、真子につられるように立ち上がり、そして、真子の後を追った。

「で、ですから、組長、どうして、言葉を!!」
「気にするなって言ったやろぉ。もぉ」
「授業には含まれてなかったはずですよ!」
「独学ぅ〜!!」

そして、三人は、エレベータに乗って、むかいんの店に向かっていった。その様子をまさちんたちは、別室で伺っていた。

「まさちん〜」
「…停めに入るからですよ」

幹部達が、真子に蹴られた箇所をさすりながら、まさちんを睨んでいた。

「止めに入らな、お前、気絶してたやろ…」

須藤が言った。

「俺は、それを望んでいたのにな…」

水木の言葉は、まさちんと桜の間にあった出来事を知っているのか、少し嫌味が含まれている。

「組長、手加減してましたから…」

まさちんは、受話器を手に取った。そして、ある番号を押した。

「水木ぃ〜、お前、個人的感情が、含まれとるな…」
「当たり前や。何もないにしても、桜が別の男に気を許したのが
 許せんだけや…。須藤、お前はどうやねん…」
「俺は、あいつ、一筋やからな。お前みたいに、他の女に手ぇ出してへんで…」
「お前なぁ……」

須藤と水木のにらみ合いをよそに、まさちんは、電話の相手に、詳しく説明していた。そして、再び別のところに電話を掛けた。

「…むかいん…悪いな。俺たち、今から、橋先生のとこ行くから。
 くまはちに、組長のこと、頼むと伝言しててくれ」
『とうとう怒りを喰らったか。わかったよ、伝えておくよ。
 大丈夫か? 誰が、運転するんや?』
「須藤さんとこに頼むよ」
『はいよぉ。お大事に』

まさちんは、受話器を置いて、須藤を見た。
水木と須藤は、静かに言い争っている。

「須藤さん…、よしのとみなみに、運転頼んでいいですか?」
「かまへんで。俺ら、無理やもんな。まさちん、歩けるか?」
「できれば…いいえ、できなくても、肩を貸して欲しいな…」
「だから、止めて正解やったやろ」
「よろしく…」

まさちんは、それっきり無言になった。そして、まさちんたち、真子に蹴りを喰らった幹部達は、揃って車に乗り、橋総合病院へ向かっていった。



AYビル・むかいんの店特別室。
まさちんたちが、橋総合病院へ向かっている頃、真子とくまはち、そして、アルファーは、にこやかにむかいんの店でランチタイム!
真子の笑顔で心を和ませているアルファー。むかいんの料理も加わって、穏やかな時を過ごしていた。

真子、くまはち、そして、すごく満足げな表情をしているアルファーは、デザートを食べていた。
真子と一緒の時は、いつもなら、緊張した感じで、あまり食べないくまはち。この時だけは違っていた。思いっきり食べ、そして、アルファーと語り合い…。
真子は、いつもと違うくまはちを嬉しそうな表情で、見つめていた。

「(ごちそうさまぁ。おいしかったよ。すごいな、くまはち)」
「(何が?)」
「(こんなおいしい料理、初めてだよ。心が和むよ。今まで生きてきた
  世界が、馬鹿らしくなってきたよ。…真子さん、ありがとう)」

くまはちが訳した言葉で、真子は思いっきり微笑み、アルファーに言った。

「(そう言っていただくと、むかいんも嬉しいでしょう)」
「ですから、組長、言語は、どうして…」
「そんなに驚かなくてもいいやんかぁ。独学やから」
「他にどの国を?」
「くまはちと同じ…かな?」
「…そうですか…。さてと。
 (アルファー、これから、どうする?)」
「(ん? …あぁ、ホテルに戻るよ。明日、朝早くに帰国さ)」
「(そうか。ありがとな。次、来るときは、もっとゆっくりしろよ。
  歓迎するからさ)」
「(そうするよ)」

そう言って、アルファーは、立ち上がり、服を整えた。

「くまはち、送ってあげたら?」
「しかし、組長、お一人に…」
「戻ってくるでしょ? それまで、私は、事務所に居るから。
 久しぶりに逢ったんでしょ? もっと積もる話もあるんじゃない?」
「そうですね…では、お言葉に甘えてよろしいですか?」
「うん。アルファーさん、また、来て下さいね」
「(寂しくなったら、その笑顔を見に来ます。そうだ)」

アルファーは、懐から小型のカメラを取りだした。
そして、真子に言った。

「(一緒にお願いします)」
「いいよ。むかいん!!」

厨房のむかいんは、真子の声が聞こえたのか、急いで特別室へやって来た。

「はい、組長」
「カメラマン…」
「……かしこまりました…」


「た・ち・つ・て・と・な…」
「にぃ〜!!!」

カシャッ。



真子は、エレベータに乗る、くまはちとアルファーに笑顔で手を振っていた。

「さてと」

嬉しさ満面の真子は、別のエレベータで、三十八階の事務所へ向かっていった。



AYビル・地下駐車場。
くまはちの車に乗り込むアルファー。

「(素敵な女性だな。素敵な相手も居るのか?)」
「(いいや、居ないさ。真北さんが許さない)」
「(そうなのか。真北さんの娘でもあるんだったな。それにしても
  真北さんや、くまはちが、真子さんの事を語る時の表情の
  意味がわかったよ。俺だって、顔が緩んでいたからね)」
「(惚れると、真北さんから、鉄拳をもらうぞ)」
「(もらった奴、居るのか?)」
「(組員は、全員な)」

くまはちは、にやりと笑っていた。

「(そういうくまはち、お前もか?)」
「(秘密だ)」
「(…なるほどな)」

そして、二人は、楽しそうに語り合いながら、ホテルを後にした。



真子は、事務所に戻った。少し寂しさを感じている真子は、ソファに腰を掛け、まさちんたちとの一悶着を思い出しているのか、頭を抱えて俯いてしまった。

「あほやな…私も…まさちんも…」

ため息を付いて、ソファに横になった。





橋総合病院・橋の診察室。
橋は、無言のまま、まさちんを治療中。
既に治療が済んだ水木達は、部屋の隅にあるソファに腰を掛け、心配そうにまさちんを見つめていた。

全治三週間。

大事を取って、二日間の入院と、橋は伝えた。
真子愛用の病室のベッドに寝かされたまさちん。麻酔が効いているのか、熟睡していた。病室の隅にたむろしている水木達に、まさちんの様子を診終えた橋が、静かに声を掛けた。

「まさちんから、話は聞いているけどな…。あほやなぁ」

橋は、呆れ返っていた。

「そう言われても…報告したまでですよ」

水木が力無く言った。

「報告のタイミングが悪かったんやな…」

須藤は、ものすごく反省した様子だった。
須藤の言葉に、他の幹部も納得したのか、頷いていた。その様子に橋は、大きく息を吐く。

「はぁぁぁぁ〜〜。まさちんにあそこまでするくらい怒りが頂点に
 達したのか。いつものじゃれ合いなら、まさちんは、防御したり
 攻撃に出たりするのにな…。全く無抵抗のままだったんだろ?」

橋の言葉には関西弁が含まれていない……。
まさちんの容態は、本当に悪いようだった。

「何もそこまで、体を張ることないやろ…。真子ちゃんも真子ちゃんや。
 …どないすんねん」
「それを、考えているところです…」

水木達は、いつになく、真剣な表情。本当に考えている様子。
その様子を見て、橋は更に呆れたのか、首を振って、ドアノブに手を掛け、

「お前ら、ほんまに、変わったな…。こんな行動は当たり前の世界やろ?
 真子ちゃんが、お前らの何かを変えたんだな…。いいのか、悪いのか…」

橋は静かに病室を出ていった。

「…俺ら、変わったか?」

須藤が呟くように言った。それに対して、誰も解らないのか、ただ、首を傾げるだけだった。
その間も、まさちんは、熟睡中……。




少し鼻歌混じりで、AYビル三十八階に到着したくまはち。
軽い足取りで、真子の事務所に入っていった。

「失礼します。組長、お待たせいたしました……って…、組長??」

真子は、寝入っていた。

「…あれだけ、暴れれば、お疲れでしょう」

くまはちは、優しく手を差し延べて、真子を抱きかかえ、奥の仮眠室へ連れていった。
真子を寝かしつけたくまはちは、仮眠室から出てきて、真子の事務所で仕事を始める。
ところが、真子が直ぐに仮眠室から出てきた。

「ごめん、くまはち。寝てたんだね、私。ありがと」
「もう少しお休み下さい」
「ん? 大丈夫だよぉ。…アルファーさん、何を伝えに来たの?」
「えっ? 観光ですよ」
「向こうの国でも、かなりのやり手じゃないん? あの雰囲気は、
 相当な場を踏まないと醸し出せないでしょ? 何かあったの?
 …真北さん、関係?」

真子の言葉は、当たっていた。しかし、くまはちは、敢えて応えようとはしない。
これ以上、真子に心配を掛けたくない…。

「…組長、あまり深く考えないで下さい。確かに、脚を運んで
 重要な事を伝えに来ました。しかし、ここへは、組長に逢いに
 来たそうですよ。その、笑顔を拝見するために」
「真北さん、私のこと、たっくさん、語ってたんやろ? ったくぅ」

真子は、ふくれっ面になりながらも、嬉しそうな表情をしていた。

「今日は、全て終了したから、帰ろっか。時間も遅いし」
「そうですね。では、支度を致します」

くまはちは、部屋の片づけを始めた。
真子は、帰る準備をして、くまはちに合図を送った。そして、二人は、事務所を後にした。


ビルの受付で、いつものように足止めを食らう。その間、くまはちは、少し離れた所に立っていた。

「では、また明日ね!」
「お疲れさま、真子ちゃん」

真子は、笑顔で受付嬢・ひとみに手を振って、くまはちに近づいた。
帰ろうと一歩踏み出した時、

「くまはちさん、お電話です」

明美が、くまはちに伝えた。

「組長、すみません。少しお待ち下さい」
「先に車に行ってるから」
「はい」

そう言って、真子は地下駐車場に、くまはちは受付の電話へ歩み寄った。




真子が、地下駐車場に降り立った。そして、きょろきょろとしながら、歩いているときだった。
目の前にキラリと光る何かが、横切り、両腕を掴まれ、壁に押しつけられていた。

「っつー。何だよぉ」

真子は、後ろの人物に目をやった。

「お前は……!!!」




くまはちは、首を傾げながら、受話器を置いた。

「何だったんですか?」
「AYAMA社の事だってさ。それにしても、訳が分からない…!!!」

くまはちは、何かを感じたのか、突然走り出す。その仕草に、警備員の山崎も反応して、くまはちの後を追った。




「はぁ、はぁ…はぁ……」

真子は、右腕を押さえて、その場にしゃがみ込んでいた。
押さえる指の間から、血が滴り落ちている。
目の前に立ちはだかる人物を見上げる真子。
その人物の脚が、真子の右腕を壁に押し当てるように踏みつけていた。あまりの痛さに、真子は、その脚を握りしめる。しかし、その人物は、更にジリジリと脚で、壁に押しつけてくる。
靴の裏から、真子の血が滴り落ち始めた。
更に別の人物が、痛さで顔が歪む真子の髪の毛を掴みあげた。

「初めから、こうすれば、良かったんやな」
「ほんまに、無防備やな、ビルの中では」
「お前ら…、なぜ、ビルに…?」
「一般市民を装えば、簡単に入れたわけや、のぉ、糸山ぁ」
「あぁ、そうや、なぁ、荒川ぁ〜」

真子を襲う二人の男。
それは、元阿山組系のさつま組組員、荒川と糸山だった。真子を斬りつけ、壁に押しつけているのは、糸山、そして、髪を掴みあげているのは、荒川だった。
その時、地下駐車場に足音が響き渡った。

「来たか…。おい」
「あぁ」

二人は、お互い合図をして、荒川が座り込む真子の口を塞ぎ、首筋にナイフの刃を突きつけた。
不気味につり上がった口元。何かを楽しもうとしているのが解る。
ナイフの刃をゆっくりと引いていく。
真子の首筋に、赤く細い線が走り、そこから、血が滲み出した。

!!!!

それは、一瞬だった。
真子が、素早く二人に蹴りを入れた。二人は、突然のことで、体勢が取れず、しりもちを付く。

「…私を抑えるなら、脚にしな!」

真子は、そう言って、二人の顔面に強烈な蹴りを入れた。

カランカラン…!

荒川が持っていたナイフが、地面に落ちた。それは、かなり小さな音だったが、真子を探していたくまはちは、反応した。
そして、音の聞こえた方へ駆けだして行く…。



(2006.4.2 第四部 第二話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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