任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第四部 『新たな世界』

第七話 問答無用!

まさちん運転の車の中。
まさちんは、少し怒った表情をしている。

「ですから、組長、私は平気だと…」
「うるさい!! 見てるこっちが、ハラハラするでしょ!」

まさちん以上に、真子の方が怒っていた。

「ご覧になってたんですか?」
「…聞いてたこっちが、ハラハラに言い換えるよ!ったく!」

二人は車の中で言い合っている。

「兎に角、このまま、病院へ行きます」
「大丈夫だって。平気や言うたやろぉ」
「能力を使った後は、必ず体力が劣るんですよ!!」
「だから、倒れてないやろ。大丈夫やって」
「いいえ、行きます。そして、橋先生にお灸を…!!!!!」

キィィィィッ!!

まさちんは、急ブレーキを踏んだ。
車は、停まった。

「どしたん?…って、まさちん、これって…」
「道をふさぐ…。相手を追い込むには、いい方法ですね」
「それも、前後左右。まんべんなく…だよねぇ〜」
「そうですねぇ」

緊張感のないような会話をしている真子とまさちん。
二人の会話にもあるように、まさちんが、急ブレーキを踏んだのは、目の前の十字路にワゴン車が停車しているのに気が付いたから。
もちろん、ワゴン車が停車した途端、まさちんの車の後ろにも、別の車が停まっていた。
前にも行けない、後ろにも下がれない…。身動きが取れない状態に陥ってしまった…。
突然、銃声が響き渡った。銃弾が、雨のようにまさちんの車に降り注いでいた。

「防弾仕様だから、安心!」

まさちんが、ルームミラーで真子を見ながら言った。

「しかし、ご丁寧に、マニュアル通りって感じで…」

真子は、半ば呆れ返っていた。
しかし、事態は、暢気にしている場合では無くなってしまった。

「まさちん…」
「はい」
「あれって、防弾ガラスは、跳ね返したっけ?」
「……いいえ…。組長、逃げて下さい!!!」

まさちんは、叫ぶと同時に、ドアロックを解除。そして、真子とまさちんは、車を飛び出し身を伏せた。

ヒューーーーーードン!

真子とまさちんの乗っていた車は、大音響と共に炎上した…。
炎に照らされる真子とまさちんは、顔を上げた。そんな二人を囲むように男達が、現れた。

カチャ…、カチャカチャカチャ…。

「先程は、どうも、地島さん」
「…おやおや…。額の怪我が痛そうですね、玉置さぁん」

まさちんと真子は、お互い背を向けて立ち上がった。そんな二人を囲む男達は、銃を向けている。

「地島さんこそ、お腹の傷…、痛みませんか?」
「…痛さを知らないんでね。大丈夫ですよ」
「で、そちらの方が、組長さんですか?」
「…俺の…スケだよ。さっきの茶店で待ち合わせしてたの」
「…にしては、後ろの席に座らせて…」

そう言った玉置は、懐から何かを取りだした。
それは、一枚の写真。その写真に写る人物とまさちんの背中にいる真子を見比べていた。

「ほほぉ〜。この写真よりも、素敵な女性になっているんだな…」

玉置は、真子に手を伸ばした …が、その手を掴まれた。

「!!!!」

玉置の腕を掴んだまさちんは、囲む男達に銃口を突きつけられた。

「…流石のあんたでも、これでは逃げられないだろ?」
「…俺…言ったよな…。指一本触れると…どうなるかって…」
「覚えてるさ。だが、それは、時と場合によりけり…だろ?
 さて、組長さん…。初めまして。龍光一門の玉置と申します」
「…知ってるよ…。で、宣戦布告した途端、これ…ですか?
 茶店から、付けてましたか? それとも、帰路を御存知だった?」
「両方ですね。地島から、聞きましたか?」
「親分さんと、話し合いですか…。地島、返答しませんでしたか?
 断る…と」
「…こういう状況でも…ですか?」

玉置は、まさちんの頭に銃口を突きつける。

「そうすると、私が折れるとでも?」
「えぇ。阿山真子は、命を大切にする人だ。それが、例えボディーガードでも」

真子は、何も応えなかった。その時だった。
まさちんの右手が、真子の左手を掴んだ。
その手は、力強く握りしめられている。

『ご安心を…』

まさちんの心が、聞こえてきた…。

「…解ったよ。案内してくれるかな。…私の車、あぁなので」

真子が指を差す。
車は、ごうごうと燃えていた。

「…早くしないと、そろそろ来るよ」
「そうだな…。こっちだ」

玉置達は、真子とまさちんに銃を突きつけて、ワゴン車まで、押すような感じで動き出した。そして、二人に目隠しをし、ワゴン車に押し込んだ。

バン!

ワゴン車はドアが閉まると同時に燃えさかる車をその場に残して、去っていった。




野次馬が集まり、騒がしい場所の中心では、現場検証が始まっていた。

「車のナンバー、解りました」

原が、手帳に書かれた数字を見せた。

「…やられたか…」

ポケットに手を突っ込み、口を尖らせた男…真北。

「恐らく、ロケットランチャーじゃないかという事ですが…。
 それと…人の気配はありません」
「当たり前や。そんな簡単にやられる二人じゃないからな。
 …くそ…。相手は、解ってる…まさちんの奴、こんな状況でも
 …残していくんだからな…」

真北が見下ろす地面。そこは、真子とまさちんが、爆発寸前の車から飛び出し、身を伏せた所。

『ryu』

という文字が、微かに掘られていた。

「…龍光一門をしらみつぶしに、探れ」

真北は、原に告げた。

「はっ」

原は、そう言って、何処かへ連絡を入れていた。

…無茶…すんなよ…まさちん…、…真子ちゃん…!!

真北は、唇を噛みしめた…。





真子とまさちんを乗せた車は、一路、ある組織の建物へ向かって走っていた。そして空き地に入っていく。空き地には、建物が一つ建っていた。地下に駐車場があるのか、ワゴン車は、地下へと潜っていった。

「降りろ」

真子とまさちんは、玉置に促され、ワゴン車を降りた。車の中で、真子とまさちんは、何もできないように後ろ手に縛られていた。二人は、両腕を掴まれ、建物内へ連れられていった。



「入れ」

真子とまさちんは、とある部屋へ押し込まれ、そこで、やっと目隠しが外された。

「これは、外してくれないのか?」

まさちんは、普通に尋ねた。

「外してやりたいがなぁ、あんたら、馬鹿力だからなぁ…無理だ」
「…せめて、組長だけは、外してくれないかなぁ」
「それも無理だね」
「さよか…」
「…こんな状況でも、軽い口がたたけるんだな。どうなるか、想像つかないだろ?」
「つかないね…」

奥の部屋から、一人の男が出てきた。
その男は、龍光一門の親分・龍光だった。ゆっくりと歩いて、部屋の中央に置いてあるソファにドカッと腰を下ろし、真子とまさちんを上から下までじっくりと眺めていた。

「ふっ…。あんたが、阿山真子か…。…大人になったな…」
「…私を、御存知ですか」
「あぁ。幼い頃だ…まだ、阿山ちさとが健在の頃だ」
「そんな昔と今を比べられると…どう応えていいのか、解らないですよ」
「ふっ…。それもそうだよな。それにしても、まさか、五代目を
 襲名するとは、考えてもいなかったな…。山中かと思ったんだが。
 この世界を嫌っているのに、なぜだ?」
「今更、応える気は、ないな…」

シュッ!

「!!!!」

コン!

真子が立っている場所の真後ろの壁にナイフが突き刺さっていた。
何かが飛んでくる気配を感じた真子は、咄嗟に体を横に動かした。
真子の目線は、龍光に向けられていた。龍光の右手が、何かを投げたような感じで、前に突き出されている。

「流石、素早いな。まさか、避けるとは思わなかったよ」
「…避けるのが…普通だろ?」

真子は、凛としてスキをみせていない。

「話が見えないな、龍光。手短にできないか?」

まさちんが、ドスを利かせて言った。

「そうだな。なら、二人っきりで話をさせろ」
「駄目だ」
「親分同士の話し合いだ」
「信用できない」
「…あんたは、ボディーガードだろ、地島ぁ。お前が口を挟む事では
 ないだろ? 何様だ? あ?」
「五代目代行だ」
「…そうだったなぁ。しかし、俺は、阿山真子と話をしたい。
 …今までの俺達の方針を変えたいんでね…。どうだい? 阿山真子」
「…二人っきりで?」
「…あぁ」
「あと一人ずつ、駄目か?」
「駄目だな」

龍光は、ゆっくりと真子を見上げた。真子は、目線を龍光から、まさちんに移す。
まさちんは、首を横に振っていた。
しかし、真子は、まさちんを見つめ、そして、

「わかった」

静かに応えた。

「組長!」
「物わかりがいいな。おい」
「はっ」

龍光は、玉置や他の組員に、部屋から出るよう指示をした。玉置は、部屋に残ろうと抵抗するまさちんの腕を掴んで、引っ張った。

「玉置」
「はい」
「その男は、丁寧に扱えよ」
「御意」

玉置は、一礼し、部屋を出ていった。
沈黙が続いた。

「さてと…。話というのはだな…」

そう言いながら、龍光は立ち上がり、真子へと歩み寄っていった。

「俺と組まないか?」
「…組む?」
「一門の稼ぎ、知っているよな」
「薬、銃器類の横流し…密売…だったかな?」
「ふっ…流石、長年、阿山組を仕切っているだけあるな…」
「…私より、地島の方が、詳しいと思うけどな…。しかし、阿山組の
 方針くらいは、御存知ですよね?」
「銃器類を禁止。薬の御法度は、昔っからだったよなぁ」
「だったら、組むことなど、考えられないはずだが…」
「…あぁ」

龍光は、真子の肩に手を置いた。

「だがなぁ…。他の親分さんが、納得するような状況に持っていく
 ことくらいは…できるんだよ…」

龍光の真子を見る目が、変わっていった…。
真子は、少し恐怖を感じ、龍光から、徐々に距離を取るかのように、足を動かしていた。

「…話し合いが終わったなら…、帰らせていただこうかなぁ」

真子は、苦笑いをした。

「まだ…終わってないなぁ。…これからだよ」

龍光は、真子の耳元でささやいた。

「あららぁ……なぁにかなぁ…」

真子は、とぼけたような口調で応えた。

「光田! 河元! 準備だ」
「へい!」

片手に木刀を持った光田と黒い箱を持った河元が、奥の部屋から出てきた。二人は、警戒する真子に歩み寄る。
光田が、木刀を真子の腕に素早く通し、近くのソファにうつ伏せにした。いつもなら、抵抗する真子だが、この時は違っていた。
抵抗しようと力を入れるが、全く入らなかったのだ。

…しまった…こんな時に…影響が…。

えいぞうの店で、まさちんに能力を使った時の影響が、今頃出たようだった。
それまで、平気だと思っていた真子。まさか、後から出てくるとは、考えもしなかったようだ…。

「抵抗しないのか…。なら、今でも良かったな」

龍光は、うつ伏せになっている真子の横に腰を下ろし、真子の髪の毛をいじり始める。真子は、顔を上げ、龍光を睨んでいた。

「…何が目的だ?」
「…あんただ、阿山真子。あんたを手に入れれば、日本を制したと
 いっても、過言じゃないさ…」
「決裂だよ」
「それは、あんたの気持ちだろ?…体は、どうだか、解らないだろう?」
「…なに?!」
「…女は体を使え…この世界じゃ、当たり前のことだろう?」

龍光は、懐から、一枚の写真を取りだし、真子に見せた。

「これは!」
「水木んとこでの、あんたの姿…魅力的だったなぁ。それを見て、
 俺は、この計画を立てたのさ」

その写真には、水木邸での真子の大人っぽく色っぽい服を着ていた時の姿が写っていた。

「この服の…中身を見てみたい…」

龍光は、真子の襟元を一撫でする。

「部屋の準備は?」
「出来ております」

そう応えて、持っていた黒い箱を龍光に差し出す河元。龍光は、箱を開け、中から注射器を取りだした。ゆっくりと真子の袖をめくっていく。

「高純度の麻薬だ。高いぞ…。そして、効き目も高級品。
 お気に召したら、これ次第で、たくさん売ってもいいでぇ」
「…や、やめろ!!」

真子は、自分の腕に、注射針が刺さる瞬間を目の当たりにした。
見開かれる目…。それは、次第に緩やかになっていった……。
光田が、真子の腕から木刀を抜き、真子の縄を解く。真子の腕は、力無く真子の背中から滑り落ちた。

「連れて行け。俺は、準備が出来次第、直ぐ行く」
「はっ」

光田が、真子の右腕を、河元が真子の左腕をそれぞれ掴みあげ、ソファから引きずり下ろした。

「あぁ、あの男も連れてくるように、玉置に伝えておけ。
 たっぷりと見せてやりたいからなぁ。ふっふっふ」

光田と河元に、引きずらる真子をなめ回すような目つきで見つめる龍光は、奥の部屋へ戻っていった。



光田が、別室のドアをノックし、中へ顔を入れた。

「玉置さん、親分は、準備しております。その男を連れて
 くるようにとおっしゃっておりました」
「あぁ。わかったよ」

光田は、一礼して、ドアを閉めた。

「しかし、どうやったら、その傷が瞬時に消えるんだ?」

玉置は、とある場所に目をやった。そこには、まさちんが、地面に抑えつけられるように伏せていた。

「…企業秘密だと言ったろ? …それより、準備とは何だよ。
 龍光は、組長と話し合っているんじゃないのか?」
「話し合いだよぉ。その前準備さ」
「前、準備?」
「さぁて、お前も連れてってやろう。楽しめや」

玉置は、そう言って、まさちんを立たせ、部屋を出ていった。



龍光の体は、シャワーを浴びたのか、少し濡れたような感じで光っていた。そして、その体に、バスローブを羽織った。



まさちんは、後ろ手に縛られたまま、ある一室に連れられてきた。
そこには、モニターやビデオデッキ、音声の機器がたくさん置いてあった。

「そろそろやなぁ」

玉置は、にやりと笑って、一点を見つめていた。まさちんも、玉置の見つめる先に目をやった。

「組長!」

ガラスの向こうに、更に一室。そこは、中央にベッドが置かれ、そのベッドの上には、真子が力無く横たわっていた。まさちんは、玉置の腕を振りきって、ガラスに体当たりした。

「暴れるな」

まさちんは再び玉置に抑えつけられた。まさちんは、睨み付ける。

「組長に何をする気だ」
「見て、わからんか?」

玉置は、顎でガラスの向こうを指した。まさちんは、ガラスの向こうをじっくりと見つめる。
中央のベッドの他、そのベッドの周りには、たくさんのカメラが設置されていた。
カメラ、モニター、ビデオデッキ…それらから、想像できること…。

「てめぇら、まさか…!」
「その、まさかだよ。確か…阿山真子は、二十三歳だよな。
 五代目を襲名した頃は、まだ、ガキだと思っていたけどなぁ、
 二十三歳と言えば、女として、いい年頃だよなぁ」
「…てめぇらの裏の仕事…たしか…」
「薬に、裏ビデオ。あんたら、阿山組が絶対に手を付けないところで、
 稼がせていただいてるさ。もちろん、武器の横流しに密売もだ。
 さてと。そろそろ親分が来る頃だなぁ」
「組長が、大人しくしてると思うか…?」
「思わないね。だから、先手を打たせてもらったさ。阿山真子の表情を
 よく見てみろ」

まさちんの髪を引っ張り、強引にガラスに顔面を突きつける玉置。
まさちんは、真子を見た。
目がうつろになっている…。視線が定まっていない…。

「薬を…?」
「流石だなぁ、地島。観察力が鋭いね」
「くそ……」

まさちんは、玉置の手を振り払うように体を大きく動かし、そして、ガラスを背にする形で、座り込み、俯いてしまった。

「はっはっは。大切な者が、抱かれる姿を見たくないってか。
 親分の到着だ。おい、スイッチ入れろ。カメラを回せ」

まさちんの脳裏に何かが過ぎった。

「…やめて…くれ…」

まさちんは、呟くように言った。

「もう、遅いさ。親分は、準備に入った。服を脱いでいる…」

まさちんは、玉置の声が聞こえないように、自分の膝の間に頭を埋めるような感じで丸くなっていた。

「親分が、ベッドに乗った。またがったぞ…。流石の阿山真子も
 薬の影響で、大人しいな。それじゃぁ、おもしろくないだろう」
「いいや、大人しい方が、いいかもな。他の組に送りつけるには、
 その方が、説得力がある。阿山真子が体を許す男を敵に回すなとな」
「それも、そうだな。はっはっはっは」

別の男が、言った。

「はっはっっは。親分は、本当に頭が切れる人ですね。おい、地島ぁ、
 実況中継してやろうか? てめぇも、まだ、手を付けてないんだろ。
 見てたら解るぜ。この世界で生きているにも関わらず、男に抱かれた
 事がないんだろ? それほどまで、大切に守られる阿山真子を
 親分は、手に入れたがっていたからなぁ。阿山真子の耳元に
 親分の顔が近づいた…。ほら、見ろよ」

玉置は、地島の腕を掴んで、立たせ、顔をガラスの向こうの二人に向けさせた。まさちんは、そっと目を開け、真子を見た。真子の顔が、こっちに向いていた。

『ま…さ……ち……ん……ぶ…じ?』

真子の口が、そう動いていた。まさちんは、真子に応えるかのように軽く頷く。
真子の口元が、少し微笑んだ。

…えっ?!

まさちんは、驚き、ガラスに更に近づき、真子を見た。そして、急に振り返り、モニターの一つを見つめた。まさちんの目は、真子の顔をアップにとらえているモニターで止まった。

「ま、まさか…」

画面の真子の顔。
少し微笑んだと思われた口元は、不気味につり上がっているだけだった。軽く目を瞑り、目を開けた時だった。

「…あか……」
「ん? 地島、どうした。あかんと言いたいんか? そらそうやろなぁ。
 敵対する組の親分に、体を許すなんて、自分の親分としても、
 あかんよな……!!!!!」

その時だった。
ガラスの向こうから、絶叫にも近い声が、聞こえてきた。まさちんの周りにいる男達は、突然のことに、驚き、ガラスにへばりつくような感じで、ガラスの向こうを凝視していた。
まさちんは、背後に異様な気配を感じた。しかし、振り返ることは出来なかった。
目の前のモニターに映る真子の姿……、それは…。



龍光が、真子の耳元に顔を近づけ、首筋をなめ回していた。真子の目は、ガラスの方を向いていた。顎が微かに動く。

「ん? 感じるのか? あ?」

龍光は、真子の顎に手を掛け、自分の顔の方へ向けさせた。真子は、目を瞑っていた。

「目、開けろ…。これからが、お楽しみだ…くっくっく…」

真子の目が、ゆっくりと開かれた。

「…な、なに???」

驚く龍光の体は、宙を舞っていた。
目の前に居た真子が、遠くに感じた。
その真子は、左手を自分の方へ差し出していた。

…赤く光っている……。

背中に衝撃を感じた龍光は、自分が飛ばされた事に気が付いた。天井に背中をぶつけ、そのまま、真下のベッドに落ちていく…。

「ぐわぁ!!!!!!」

バン!!

落ちた瞬間、次は、ベッドの足下の壁に背中から思いっきりぶつかった。
龍光は、顔を上げた。
目の前に二本、女性の足が見えた。その足を伝うように徐々に上へと目線を移す龍光。
左手が見えた。
…真っ赤に光っている。そして、その女性の顔を見た。
不気味に微笑んでいる。
目は、赤く光っていた……。



ブチッ!

まさちんは、両手を縛っていた縄をぶち切った。そして、立ち上がり、ガラスの向こうの様子を見た、その時だった。

「!!!!!」

まさちんは、素早く真横に跳び、身を伏せた。その瞬間…。

グワッッシャァァァァァン!! パリパリパリ…パラパラパラ……
ドッシャァァァン!!!!!

「うぅ……」
「ぐぅ……」

まさちんは、顔を上げた。
辺りは、真っ赤に染まっている…。
男達の血だ…。
男達の体には、割れたガラスの破片が、無数突き刺さっていた。その中には、ガラスの向こうに居たはずの龍光も含まれている。
窓枠に、人の気配を感じた。

「やはり…赤い…光……」

まさちんは、呟いた。
なんと真子は、赤い光に支配されてしまったのだった。薬で自分を失い、自由が利かない体を、閉じこめたはずの赤い光が、再び現れ、体を支配された…。
まさちんが、呟いた『あか…』。
それは、モニターで確認した、真子の目…。不気味につり上がった口元…。
背筋も凍るようなあの感覚…。
しかし、事態は、考えている場合ではなかった。
窓枠に現れた赤く光る真子は、血だらけの男達を一人一人掴みあげ、気を失うまで、殴る…蹴る…。
まさちんは、その光景を見つめるだけだった。そんなまさちんの服を掴む玉置。
その手は、血で染まっていた。

「あんたの…親分だろ…。なんとか…しろよ…」

まさちんは、冷たい目線を玉置に送った。その目に恐怖を覚える玉置。

「てめぇが、起こした事だろ。てめぇでなんとかしな…」

まさちんは、玉置の顔面に蹴りを入れた。

「ぐぉっ!!」

玉置は、真子の足下に転がった。

ガツッ!

真子の足が、玉置の頭を踏みつけた音だった。
次の瞬間、真子の目線は、機械類に埋もれた龍光に向けられた。龍光は恐怖のあまり、真子の姿を見た途端、床を這うように逃げようとしたが、

「ひぃぃぃ!!」

龍光は、髪の毛を掴みあげられた。
その龍光の腹部を容赦なく蹴り上げる赤く光る真子。
腹部に刺さっていたガラスの破片が、真子が蹴るたびに、龍光の体の中へと入っていく…。
蹴り上げられ、仰向けになった龍光の腹部を思いっきり踏みつける赤く光る真子。
その表情は、殺しを楽しむかのようだった。
龍光は、口から、血を吹き出して、気を失った。

赤く光る真子の標的は、まさちんに移された。

…あんたか…
「…やはり、来たのか…。解っていたことなのにな…」
…今回は、真子の強い意志だ…
「組長の…意志?」
こうでもしなきゃ、あんたが、暴れると思ったんだろうな。
「俺が…?」
あぁ。…久しぶりに暴れるって、すっきりするねぇ〜
「…組長は、どうした?」
真子? さぁなぁ。さてと、このまま、もうひと暴れするか…

そう言って、赤く光る真子は、部屋を出ていった。
部屋の外では、たくさんのうめき声、悲鳴、銃声が飛び交っていた。激しい物音も聞こえてくる…。

まさちんは、目を瞑って、何かに絶えているような表情をして、入り口に背を向けたまま、その場に立ちつくしていた。

辺りが静かになった。

まさちんは、背後に気配を感じ、振り返る。
そこには、真っ赤な真子が立っていた。
両手の赤、体の赤、そして、顔の赤…。それは、赤い光の赤なのか、血の赤なのか…。まさちんには、解らなかった。

「まさちん……」
「組長?!」

真子は、まさちんに飛びついた。

「無事だと解って…安心した…」

真子は、元に戻っていた。

「組長…、申し訳ございませんでした…」

まさちんは、真子を力強く抱きしめた。

「組長、赤い光の奴が……」
「…解ってる…何も…聞かないで…」
「……はい……」

まさちんは、それ以上何も言わなかった。そして、ふと、部屋のモニターに目をやった。

「…まさか……」

まさちんは、先程の…赤い光の真子の姿が一部始終、録画されていた事に気が付いた。


薬の効き目がまだ、抜けきっていない様子の真子をその場に座らせ、モニターやビデオデッキ、編集機器など、部屋にあるものを全て、ベッドのある部屋へ放り投げるまさちん。ビデオテープも放り投げた。そして、床に横たわる男達を部屋の外へ連れ出した。その際、玉置の懐から、何かを取りだした。
部屋の隅に置いてあった灯油缶を手に取り、中が入っていることを確認したまさちんは、そのまま、ベッドのある部屋へ放り投げた。部屋中に灯油の臭いが漂い始める。

「まさちん。何を…?」

力無く尋ねる真子に、まさちんは、ただ、微笑むだけだった。そして、真子に自分の上着を羽織らせ、抱きかかえる。
先程、玉置のポケットから、拝借したライターの火を付け、そのまま放り投げた。

ボワッ!

ベッドのあった部屋は瞬く間に炎に包まれた。
まさちんは、それを確認した後、部屋を出て、ドアを閉めた。
ドアの隙間から、煙が黙々と出てきた。

まさちんは、そんなことは気にせずに、真子を抱きかかえたまま、その場を去っていった。



まさちんが、建物から出てきた。外は、既に真っ暗になっていた。

「まさちん…眠い…」
「組長、解毒剤を探すの…忘れてました」
「ん? 大丈夫…さっき見つけて、もう打った…。その影響かな? 睡魔が……」
「組長…」
「…気にするな…。こんなことは、もう、ないから…。今回だけ…。
 あいつに…頼るしか…できなかった、私の力不足…。だから…、
 まさちんは、関係ないから…。…まさちん……」
「はい」

真子は、まさちんを見上げ、そして、微笑んだ。

「ありがと…」

真子は、そのまま寝入ってしまった。

「組長…」

真子を抱きかかえたまさちんの横を猛スピードで駆け抜けるパトカーと消防車。そんなことは、全く気にせず、まさちんは、歩いていた。

「…って、ここ、何処だよ…」

途方に暮れるまさちんだった……。





まさちんは、人気のない公園の水道まで歩いてきた。そして、真子をベンチに座らせ、ハンカチを水で濡らし、真子の頬や手に付いている血を丁寧にふき取っていく。
真子が目を覚ました。

「組長、気分はどうですか?」
「嫌な夢を見たと思ったんだけど…夢じゃなかったんだね…」

真子は、まだ、血がふき取れていない左手を見つめながら、呟いた。
まさちんは、素早く真子の左手を拭き始める。

「…忘れてました…青い光の後には、赤い光が現れること…」
「まさちんが、無事で…よかった」

真子は、目の前にしゃがみ込むまさちんの首にしがみつくように腕を回し、まさちんの耳元で、何か呟く。
まさちんは、驚いたような表情をして、手に持っているハンカチを落としてしまった。

「何も、驚くことないやん…」
「…組長、言っていいことと、悪いこと…ありますよ…」
「…そだね…どうか…してるね、私。まだ、薬が、抜けてないね…」

真子は、まさちんから離れ、背もたれにもたれかかり、空を仰いだ。

「……ここ…どこ?」
「…それが、さっぱり……」

まさちんは、ハンカチを洗いながら、首を傾げていた。
その時だった。
土を踏む音が、近づいてきた。
まさちんは、警戒し、音の方を振り返った。

「くまはち……!!! …なんだよ!、いきなりぃ!」
「…俺の、怒り…や」

くまはちは、まさちんを見た途端、殴りかかっていた。まさちんは、もちろん、ちゃんとよけている…。

「組長、ご無事…とはいえないようですが…」
「ちょっとね…」

そう言って微笑む真子を見て、くまはちは何かに気が付いたのか、突然、真子の腕を取り、袖をまくった。
真子の腕には、黒いあざが二つ…。

「…まさちん…てめぇ…」

くまはちは、拳を振り上げたが、阻止された。

「…これは、私が悪いんだから…」

真子が、くまはちの腕を掴んでいたのだった。

「しかし、組長、このあざは、高純度の…」
「大丈夫だから。解毒剤…打ち込んだから…」
「それでも、暫く、体調に…」
「くまはち、着替え…積んであるかなぁ」
「はい」
「それと、…直ぐに、駅に…」

真子は、俯き加減で、くまはちに言った。

「わかりました。…真北さんには、どのように?」
「いつものことで…」
「すごく、心配なさってますよ」
「うん、わかってる…。まさちん…頼んでいい?」

真子は、少しうつろな目でまさちんに訴える。

「覚悟は、しておりますから。…それより、くまはち、どうして、
 ここが、わかった?」
「お前の携帯を頼った」
「電源切ってるのに?」
「中身だよ」

くまはちは意味ありげに微笑むと、まさちんは中身の意味が解らないのか、首を傾げていた。




くまはちの車の中。
着替えを済ませた真子は、眠っていた。

「組長を無事にお送りしたら、すぐに戻って来いよ」
「あぁ。ありがとな」

まさちんは、真子の体を自分の上着で包み込み、真子を抱きかかえて車から降りてきた。
真子が目を覚ます。

「着いた?」
「はい」

まさちんは、優しく微笑んだ。

「くまはち……」

それ以上、声にならない真子。しかし、くまはちには、解る。
真子が何を言いたいのか、そして、何を思い、心配しているのかが…。

「解っております。お気をつけて」

力強く応えたくまはちを見て、真子は、安心したような眼差しになる。

「行きますよ」

まさちんは、真子に優しく声を掛け、そして、真子を支えながら、改札へ向かって歩いていく。
真子の姿が見えなくなるまで、見送ったくまはちは、サングラスを掛け、車に乗って、去っていった……。


真子とまさちんが向かった先は……。



(2006.4.7 第四部 第七話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


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