任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第四部 『新たな世界』

第九話 お似合いですか?

阿山組本部。
年末恒例の忘年会の準備で慌ただしい屋敷内。若い衆が、うろうろとしていた。

「…組長、まだ、戻られないのかなぁ」
「今年は、更に盛り上がる内容を考えたのになぁ」
「お盆だって、直ぐに大阪へ行ってしまったもんなぁ」
「純一さんも忙しくなったみたいやしな。どうするのかな」
「…カラオケなぁ〜」
「純一さんなら、絶対、行く! って言うだろうなぁ」
「…まさちんさんも、一緒かな…」
「そうじゃないと、山中さんに怒られるだろ?」

若い衆が、そんな会話をしながら、準備をしていた。

「そこ!! 話ばかりしてないで、さっさと終わらせろ!
 組長が、そろそろ戻られるぞ」
「はい!!」

北野が、話をしている方に気が集中して、手の方が疎かになっている若い衆を怒鳴りつけていた。北野の言葉に、てきぱきと動き出す若い衆だった。


そして、真子の乗った車が、本部の門をくぐり、玄関に横付けされた。ドアが開いて、真子とまさちんが、降りてきた。

「ったくぅ!!」

真子は、車から降りるなり、まさちんに蹴りを入れていた。まさちんは、その蹴りを見事に受け止め、真子に拳を向けていた。真子は、それを避け、まさちんの脇腹を掴み、こしょぱした。

「く、組長!!」

真子は、勝利のポーズをした。

「…あっ…」

真子とまさちんは、同時に声を挙げた。玄関先に若い衆が迎えに出ていることに全く気が付いていなかったようで…。若い衆は、二人のやり取りをみて、唖然と口を開け、礼をすることを忘れているようだった。

「ただいま」
「お帰りなさいませ!!」

真子は、まさちんの腕を強引に引っ張って、屋敷の中へ入っていった。

「組長?」

いつもなら、若い衆の出迎えを嫌がるはずなのに、この日の真子は、違っていた。
真子の心の何かが変化した…??

まさちんは、自分を引っ張る真子の後ろ姿を見つめながら、そう思っていた。

「純一は?」

真子は、廊下ですれ違った組員に尋ねた。

「お店の方です」
「何時になるか、聞いてる?」
「いつもよりは、遅くなるようです」
「忙しいか、年末だし」
「はい。失礼します」

組員は、真子とまさちんにそれぞれ、一礼して、去っていった。

「組長、純一に何が告げることあるんですか? まさか、例の…」
「その後、何もないのか心配で…」
「大丈夫でしょう。何か遭ったら直ぐに連絡するようにあの後、
 きつく言ってありますから」
「ありがと、まさちん。…山中さん」

神出鬼没の山中さん、登場。

「お疲れさまです。真北さんは、明日になるようです。くまはちと一緒に」
「まった、いらん事に首を突っ込んでるんちゃうん? ありがと」
「まさちん、あとで、話がある」
「はい」
「部屋まで一人で大丈夫だから、今、行っておいで。ほななぁ」

真子は、少し微笑みながら自分の部屋へ向かった。

「…組長に、何が遭った?」
「龍光一門のことですか? それとも、今の雰囲気ですか?」
「…両方だ」
「龍光の一件は、お伝えしてある通りです。私の誤算で、組長にも
 危機が及ぶところだったんです。そして、今の雰囲気は、私にもさっぱり…」
「出迎えも、礼入れも、嫌がっていたろ」
「えぇ」
「やっと本腰を入れる気になったのかな…」
「いつもと変わらないんですが…。あっ…もしかしたら、純一の件で…」
「純一か…。まさか、公共の場に知れ渡るとは、思わなかったよ。
 俺も、散々言っていたんだがな…。まぁ、組長を狙っていた頃の雰囲気と
 今の雰囲気は全く違っているからな…。大丈夫かとは思っているんだが…」
「…その後、千本松組の情報、入ってきましたか?」
「荒木の出所が近いとか…」
「そうですか…」
「そっちは、任せておけ。まさちんの方が大変だろ? 龍光一門の件は、
 まだ、片づいてないらしいしな」
「えぇ。ナンバー2が、おりますから」
「気ぃつけろよ。厚木ん時みたいなことに、ならんようにな」
「肝に銘じております。…それと、例の件…どうですか?」
「未だに解読できてないんだよ。困ったもんだ」
「そうですか」
「ま、先に進んだら、連絡するから」
「はい。お願いします」

二人の会話にもあるように、例の射撃場は、未だに、閉鎖されたまんまのようだった。


真子は、自分の部屋のソファに腰を掛け、ため息をついていた。

「…まだ…残ってるのか…あの感覚…」

真子は、両手を見つめていた。脳裏には、血でベットリとしていた時の感覚が過ぎっていた。赤い光に支配された時の記憶が残っているのだった。
まさには、嘘をついていた。
真子は、ソファに寝ころび、そのまま、寝入ってしまった…。


「組長」

まさちんが、ノックをして真子の部屋へ入ってきた。真子がソファで寝入っている事に直ぐ気が付き、そっと近づき、真子の顔を覗き込んだ。
真子の頬に、一筋涙が流れていた。

「…組長…まさか、記憶が?」

まさちんは、真子の気持ちを悟ったのか、そっと真子を抱きかかえ、ベッドに寝かしつけた。布団を掛けた時、真子が目を覚ました。

「まさちん…。話終わったん?」
「えぇ。お疲れでしたか?」
「少しね…まだ、残ってるみたい…」

真子は、布団から両手を出し、天井に掲げた。

「組長、御無理なさらないで下さい」
「無理はしてないんだけどね…」

まさちんは、ベッドに腰を掛け、優しい眼差しを真子に向けた。その目は、何か言いたそうな感じだった。

「何?」
「嘘は、いけませんよ、組長」
「何が?」
「能力…赤い光…記憶…あるのでは?」
「まさちん……」

真子は、まさちんの言葉に観念したのか、そっと起きあがり、俯き加減で口を開いた。

「その通りだよ…。この手が、真っ赤に染まった時の事…記憶にある…。
 あいつらの血なのか、…赤い光なのか…。どっちかわからない
 そんな感じだった…。あんなこと…平気で行った自分が…許せない…」

真子は、両手を力強く握りしめた。
真子の拳は、小刻みに震えていた。

「あれは、組長の意志ではなかったのですから」

真子は、首を横に振った。

「自分の…意志だよ…。本能なのかな…。あんなことが、これからも
 続くんだったら、私、いつかきっと…本能と赤い光が、同調して、
 平気で…!!!」
「大丈夫ですよ」

真子の言葉を遮るかのように、まさちんは、自分の胸に真子の顔を隠すように力強く抱きしめた。

「これ以上、組長の手が、血で染まらないよう、私がお守りします。
 もし、組長が恐れていることに陥ったら、私が、この体を張ってでも
 阻止致します…ですから、…ご安心ください」
「まさち…ん…」
「組長は、平気で、そのような事をする方ではありませんから…。
 私と…違って…」

まさちんの声は、震えていた。

「まさちん…泣いてる?」
「いいえ…」
「声…震えてるよ…」
「そうですか…?」
「うん…」

二人は、暫くそのまま、動かなかった。


純一が、仕事から帰ってきた。

「お疲れさまです。純一さん、組長がお待ちしておりましたよ」

下足番が、川原と一緒に帰ってきた純一に言った。

「…怒ってたか?」
「少しばかり…」
「困ったなぁ」

純一は、苦笑いをしながら、川原に目をやった。

「大丈夫やろ。何もないんやから」
「そうだけどな…」
「それより、明日は、忘年会やろ。余興は?」
「今年も自慢の喉をならすよ!」
「目一杯盛り上げたら、組長も喜ぶだろうよ」
「だよな」
「あぁ」

純一と川原は、そんな会話をしながら、自分の部屋へ入っていった。純一は、着替えた後、真子の部屋へ歩いていった。
ドアをノックする純一。

『はぁい』
「純一です」

ドアに向かって歩いてくる足音が聞こえていた。ドアがゆっくりと開いた。

「お帰りぃ〜お疲れっ! いつもより二時間遅いんだね。お店、忙しいんだ」

時刻は、夜の九時を回っていた。

「お休み前に、申し訳ありません」
「気にしない気にしない。それより…さぁ…」
「大丈夫ですよ。あの後は、何もありませんから」
「うん…それが一番心配だったんだ…。安心した。それとね、
 純一なら、詳しいかなぁと思ったんだけど…」
「何でしょう」

真子は、純一の耳元で何やらこそこそと話をしていた。隣の部屋にいるまさちんは、真子と純一の会話に耳を傾けていたが、突然、声がしなくなったことで、気になったのか、ドアを開けた。

「ま、まさちんさん!!」
「何してんだよ」

まさちんは、怒気をはらませて、純一に言った。

「何、怒ってるんよぉ。純一に、大切な話があるんやからぁ。純一、こっち」

真子は、純一の腕を引っ張って、自分の部屋へ入っていった。

「組長?!」

まさちんは、慌てたように、真子の部屋の前に駆け寄った。
鍵が掛かる音が、冷たく響く…。


「組長、何も、内緒にすることは…」
「こうでもしないと、真北さんに筒抜けやん。で、どう?」
「まぁ、チケットを入手することは、簡単ですが…」
「何? 何か問題あるん?」
「その…組長が、行かれることに問題が…」
「なんで?」
「今、敵対する組の動きが激しいとか…」
「大丈夫だって。だから、まさちんもくまはちもむかいんも真北さんも
 そして、ぺんこうも一緒にぃ〜なんだからぁ」
「あんな人混みの中に…それこそ、誰が狙っているか解りませんよ!」
「普通を装えば、大丈夫でしょ?」
「ですけどぉ…」
「純一も一緒に行く?」
「私は、興味ありませんから…」
「そっか…」

真子は、少しふくれっ面。

「解りました。では、大人六枚ということで…。日帰りですか?」
「二泊三日。オフィシャルホテルに泊まるんだって。結構楽しかったもん」
「組長ぅ〜」
「…部屋、どうしようっか…」
「組長、その言葉が出るということは、既に決まっているんですね…」
「そだよ」
「解りました。ホテルも予約しておきます。…部屋割りは?」
「何も考えてないや…。みんな一緒で、いいよ」
「あの、その…組長、男五人の中に、女性が一人って…その…」
「大丈夫だって。いつものことでしょ?」
「そ、そうですが……」

純一は、真子の周りの人物の真子に対する気持ちを知っているようで、何故か、焦っていた。

「…あっ、いつにするか決めてないや」
「まさちんさん達に、要相談ですね」
「ちぇっ。結局、ばれるんか…。しゃぁないね。じゃぁ、みんなに
 相談して、日にち決まったら、よろしくってことで…」
「かしこまりました」
「じゃあ、お休みぃ」

純一は、鍵を開け、ドアを開けた。

「お休みなさいませ」

そして、真子の部屋を出ていった。
廊下には、まさちんが、純一を睨み付けるような格好で、道をふさいで立っていた。

「まさちんさん…」
「…何を話してたんだよ」
「組長の旅行の話ですよ」
「旅行? 天地山にか?」
「いいえ、キャラクターランドですよ」
「へっ?!??? まさか、組長、あの話、本気に考えているとか…」
「みなさんのご都合の良い日を訊くとおっしゃってましたから」
「…一大事やないか…。ホテルに泊まるとか言ってたろ?」
「はいぃ」
「…って、こうしちゃいられん!!」

まさちんは、何やら慌てた様子。部屋に戻り、何処かへ連絡を入れていた…。


大晦日。
阿山組本部は、毎年恒例の忘年会で盛り上がっていた。真子は、若い衆たちの余興に大喜び。涙を流すほど、笑っていた。そんな真子を見守りながら、真北とまさちん、そして、くまはちは、深刻な表情で、何かを話している様子…。

「…本気だったのか…」

真北が呟いた。

「純一にチケットの話をするくらいですから…」

まさちんが、純一から聞いたことを思い出しながら、真北に告げた。

「くまはち、安心できるのか?」

真北が、くまはちに尋ねた。

「理子ちゃんとの旅行の時は、本当に、何事もなかったのですが、
 時期が時期だけに、今は、避けるべきです」
「…何も今とは、言ってないだろ」
「組長は、都合のいい日を尋ねるとおっしゃってましたから、
 少し先に延ばすようにすれば、よろしいかと…」

まさちんが、ちらりと真子を観ながら、真北に言った。

「いつ、片づく?」
「…ナンバー4が出てきそうな雰囲気ですから…」
「って、いつの間に、ナンバー4なんだよ」
「ほんの五日の間に…」
「くまはち、お前、やりすぎ…」
「半分は真北さんですよ…!! いてっ!」

くまはちの腹部に真北の拳が入っていた…。

「真北さぁん…」

呆れたような表情で、真北を見つめるまさちん。真北の拳が、まさちんの目の前に飛んできた。
まさちんは、手の平で受け止めた。

「次々と現れるからなぁ」

くまはちは、先のことを考えている様子。

「…今は、寒いですし…、二月三月は、卒業シーズンで混みそうですし…。
 これは、四月頃ですね。それまでには、落ち着かせます」

くまはちは、真剣な眼差しで真北に言った。

「そうか…」

真北は、短く応えただけだった。

「真北さん、ぺんこうが、忙しいかと…」
「あいつは、いらんやろ」
「真北さん!」

まさちんとくまはちは、声を揃えて言った。

「組長の中には、ぺんこうも含まれてますよ」
「四月って、一番忙しいだろうが!」
「ぺんこうに訊いてみないとわからないでしょう!」
「訊かんでも、わかるやろ」
「何も、邪険にしなくても!!」
「なにぃ〜?!」

真北は、声を揃えて反論する二人の胸ぐらを掴みあげた。

「真北さん、何してんの?」

真子が、真北達の様子を見て、首を傾げながら尋ねてきた。

「まった、悪さしたんでしょぉ、まさちんもくまはちもぉ」
「してませんよぉ」

まさちんが、ふてくされたような感じで真子に言った。

「なら、いいんだけどぉ。真北さん、お話が…」

真子は、少し、言いにくそうな感じで真北に言った。

「はい?」

真北は、突き放すかのように二人から手を離し、真子を見つめた。

「あのね…。その…」
「キャラクターランドのお話ですか?」
「なんで、知ってるん? まさちんから?」
「はい」

真子は、まさちんをギッと睨んだ。まさちんは、反抗的な感じで、真子をにらみ返した。

ドカっ!

真子の蹴りが、まさちんの腹部に…。

「うぐ…組長…」
「自業自得…」

真北とくまはちが、同時に言った。

「前ね、話してたでしょ。みんなで行こうって。都合のいい日、
 行きたいなぁと思って…」
「構いませんよ。しかし、今は、駄目ですから」
「うん…解ってる。まだ、片づいてないでしょ、くまはち」
「はい…?!」

なぜ、組長にばれてる…?!

くまはちだけでなく、真北、まさちんも、そう思っていた。

「今は、寒いし…その後は、卒業シーズンで、混んでそうだから…、
 …そうだ! 四月の中頃ってどう? かなり、空いてるかも!」
「四月中頃…ですか…」

真北、まさちん、くまはちは、それぞれ、思うことがあるのか、考え込んでいた。

「その後は、ゴールデンだよ…。…駄目…?」

真子は、こびるような表情で、真北を見つめていた。
もちろん、真北は、真子のこの目に弱い…。いつもなら、弾き返すのに…弱くなっていた…。

「わかりました。行きましょう」
「ほんと!? やった! じゃぁ、むかいんとぺんこうの休みを取らないと!!
 二人とも、忙しいからねぇ。善は急げ! これが終わったら、直ぐに連絡する!!」

真子は、張り切っていた。
そして、再び、余興に目を向け、楽しんでいた。

「真北さん、よろしいんですか?」

まさちんは、心配そうに尋ねた。

「くまはち、早急に片づけような…」
「はい」
「…組長の、あんな嬉しい顔を見たら、断れないだろ」

真北は、真子を見つめていた。

「…そうですね」

まさちんとくまはちも、真子を見つめていた。
真子は、いつもよりも更に素敵な笑顔で、嬉しそうな表情をしていた。三人の目線に気が付いたのか、真子は、振り返り、とびっきりの笑顔を向けていた。
それにつられるかのように、微笑む三人は、複雑な気持ちだった。

人混みの中、命を狙われたら…。
他の客にまで危険が及んだら…。
どこまで、守りきれるのか……。

それよりも、一番心配なのは、

『自分たちには、似合わない場所じゃねぇかよ……』

「はふぅ〜」

大きなため息をつく、真北、まさちん、そして、くまはちだった。




笑心寺。
御先祖様に新年のご挨拶をしに訪れる家族が、たっくさん。その中に、真子達も含まれていた。以前は、黒服の男達が寺の周りを囲み、誰も入らないようにしていたが、真子の意向から、すっかり、それを禁止し、笑心寺に来る人数を減らしていた。

『阿山家』

墓前で手を合わす真子。そんな真子を少し離れた所で見守る真北とまさちん、くまはち、そして、山中、北野。真子が、何かを語りかけているのか、じっと墓を見つめていた。そして、ひっこりと笑って、真北達の居る方向へ歩いてきた。

「お待たせぇ〜」
「私達も、手を合わせてきますので」
「うん。住職と話してるから」

真北の言葉に、真子はそう応え、新年の挨拶で頭を下げている住職の所へ、まさちんと歩いていった。
一方、真北と山中は、墓へ歩いていった。くまはちと北野は、その場にとどまり、墓前へ向かう二人を見守っていた。

「…ちさとさんの話、聞いたか?」

山中が、少し照れたような感じで、真北に尋ねた。

「聞いたよ」
「そうか…」

二人は、墓を見つめた。

「何処かで、俺達の事、観ているんだろうな…」

山中が、呟くように言った。

「あぁ。いつも、肌に感じるよ。あの…温かい雰囲気をね…」

真北は、俯き加減に言った。

「今でも、真北…お前のことを心配してるんだろうな」
「…山中…」

真北は、山中を見つめた。山中は、フッと笑っていた。
そして、二人は手を合わせていた。

「組長のくつろぎの場所にある桜。毎年綺麗に咲いてるぞ。
 組長、今年こそ観ると張り切っているようだからな…。
 キャラクターランドに行くのは、その時期にするだろうな」
「桜…か」
「…水木の姐さんとまさちんの間に、何かあるのか?」

真北は、ずっこけそうになった。

「なんで、お前まで知っている…」
「この世界じゃ、まさちんのことは、かなり有名だろ。そして、あの水木だぞ。
 その姐さんだって、有名だろ…。その二人の噂くらい、すぐに広まるぞ」
「俺もよく解らん…。あの桜さんが、まさちんに迫るなんてなぁ。
 何処がええんか…?」
「真北は、初めっから、悪い印象を持っているから、わからんのやろ。
 組長が、短期間で笑顔を見せた人物…それを考えたら、
 まさちんの良さを理解できるのと違うか?」
「理解…したないな…」
「…何か別の感情が、含まれてそうだな。……何も言わないって」

真北は、静かに山中を睨んでいた。

「いつ、真子ちゃんに手を出すかと思うとな、気が気でないんだよ」
「先代の大切な娘だからな…」
「あぁ。…いつも、悪いな…嫌な役目ばかり。真子ちゃんも解ってる
 はずなんだけどな…」
「仕方ないさ。あの日…約束したからな…」

二人は歩みを停めた。

「俺は、親代わり…恋人代わり…。お前は、敵対心むき出しで…」

真北と山中は、微笑み合っていた。

「真子ちゃんの前では、父親らしさを見せなかったわりには、
 俺達の前では、思いっきり父親らしい姿だったからなぁ。
 親バカ…、慶造にぴったりの言葉だったよな」
「組長は、御存知なのか?」
「知らないだろうな」

真北と山中は、少し離れた所で住職と笑顔で語り合っている真子を見つめていた。

「ほんと、ちさとさんに似てきたんだよな…」

真北は、照れたような表情をして、目を反らした。

「一緒に暮らしていると、お前の方が、手を出しそうやな」
「あぁ。一番、危険な男…かもな」
「ぺんこうに、どやされるなよ」
「そうだよな」

真北は、歩き出した。そんな真北の後ろを追いかけるように山中も歩き出した。くまはちと北野と合流し、真子の所へと歩き出す。真子は、真北達に気が付き、手を振っていた。

「では、住職、今年も宜しくお願いいたします」

真子は、住職に深々と頭を下げていた。

「こちらこそ。素敵な笑顔を見せに、来て下さいね」
「はい」

そして、真子達は、笑心寺を後にした……。


本部に帰ってきた真子は、案の定、たいくつそうに、屋敷内をうろうろとしていた。まさちんは、真子を追いかけるように、歩き回っている…。

「組長!!!」

純一が、真子の姿を探していたのか、見つけた途端、駆け寄ってきた。

「ん?」

純一の手の形を観て、真子は、大きく頷いた。

「まさちん、くまはちは?」
「部屋です…って、くまはちも、連れていくおつもりですか?」
「たまには、ええやん! 早く!」
「はい」

まさちんは、急いで、くまはちの部屋へ駆けていった。



カラオケ・DONDONの前に、高級車やスポーツカーが次々と到着した。その車から降りてくるのは、もちろん、真子達、阿山組組員だった。あまり派手ではない格好なので、他のお客は、全く気にとめていない様子…。

「真子ちゃん、らっしゃい! 今年もよろしく!」
「店長、今日も大勢ですみません!」
「いつもの部屋、用意できてるよ」
「ありがとうございます!」

純一達、若い衆が、部屋へ入っていった。店長は、見慣れない顔を見つけたのか、真子に尋ねた。

「そちらの方は…?」
「くまはちと言って、私の大切な人の一人だよ。滅多に遊びに
 来ないから、初顔でしょぉ。よろしくね!」
「猪熊です。宜しくお願いいたします」

くまはちは、丁寧に挨拶をした。

「…かっこいいなぁ。…ここで、働かないか?」
「私は、接客業、苦手ですから…すみません…」
「ほな、行こかぁ」

真子は、くまはちの腕を引っ張って、部屋へ入っていった。その後ろから、まさちんも付いていった。
部屋は、すでに、唄で盛り上がっていた。その様子を見て、くまはちは、部屋を出ようときびすを返した。

「くまはちぃ」
「やはり、私は…」
「駄目ぇ」
「苦手なんです…。それに、親父に怒られますから…」
「私から、言っておくからぁ」
「しかし…」

煮え切らない様子のくまはち。

「今日くらいええやろ」

まさちんが、くまはちの肩に手を掛けて、入り口からかなり離れた場所に腰を掛けた。くまはちは、落ち着かない様子。真子は、そんなくまはちを観て、カラオケの本を手に取り、くまはちに差し出した。

「くまはち、唄いなさい」
「…組長ぅ〜」
「ったくぅ。楽しい事くらい、知ってるでしょ?…それに、昔…、
 唄ってくれたやん。お願い」

真子は、くまはちに哀願。くまはちは、そんな真子を観て、本を手にとって、ページをめくり始めた。真子は、まさちんとは反対側に腰を掛け、くまはちがめくる手を止めた場所を見つめていた。

「くまはちも、外国語?」
「私、あまり唄を聴かないので…。まさちんが、部屋で聴いている曲
 くらいなら、唄えるかと…」
「曲名わかるんか?」

まさちんが、尋ねた。

「この辺やろ?」
「あぁ…」

なんで、歌手名を知っているんだ…?

「虎石や竜見に教えてもらったからな…。時々口ずさんでいると
 誰それの曲ですねってね。…ったく、お前なぁ、ほんまに、
 音、小さくして、聴いてくれよな」

くまはちは、なぜかふてくされていた。

「周りに影響与えすぎ」

そう言いながら、くまはちは、唄おうと思っている曲名を指差していた。真子は、その曲をリクエスト。そして、自分も、曲をリクエスト。その次は、まさちん…。
くまはちが、リクエストした曲が、始まった。

「くまはちさんの唄、初めて聴く!!」
「いえぇい!!」

若い衆が、更に盛り上がった。そして、くまはちは、少し照れながら、歌い始めた。

若い衆の目が、見開かれている…。
あまつさえ、指を差している者も居る…。
まさちんは、驚いた表情を隠せない…。
真子は、感動したように、目を潤ませている…。

くまはちが、歌い終わった。
部屋には、盛大な拍手と歓声が響き渡っていた。

「すごい…」
「うますぎる…」
「感動した…」

それぞれが、口々に呟いていた。次に唄う者が、退くほど、くまはちの唄は、凄く上手かった。純一よりも、まさちんよりも…。

「唄って、すっきりした?」

真子は、くまはちに微笑んでいた。くまはちは、まだ、照れているのか、耳が真っ赤になっていた。

「…はい…」
「もっと唄う?」
「やめときます…。それより組長の唄を聴きたいです」

くまはちは、本当にすっきりしたのか、素敵な笑顔を真子に向けていた。
そして、真子の番が来た。

「待ってましたぁ!!」

若い衆は、真子の唄を楽しみにしているのか、わくわくした表情をしていた。
真子が、歌い始めた。
透き通った声、心にしみ渡る声…。
部屋の誰もが、うっとりとしていた。
またしても、盛大な拍手が響き渡った。

「…組長…」

くまはちは、そう言ったっきり、何も言わなくなった。

「くまはち、どしたの?」
「感動しました」
「ありがと。まさちんの番だよぉ」

そして、まさちんの唄。いつものように、部屋を盛り上げるくらい、ノリノリ…。

「…我を忘れてるな、まさちんの奴」
「歌い出したら、停まらないから…」
「組長が、毎回楽しみにしておられるの…すごくわかりました」
「これからも、一緒に楽しむ?」
「いいえ、私は、今日だけで、充分です」
「くまはちぃ、毎日、楽しく生きてる?」
「えぇ。あいつが、組長をお守りすることを生き甲斐に感じているように、
 私は、組長の為に、動くことが、生き甲斐ですから。…組長の笑顔の為に…」
「くまはち…。ありがと。だけどね、くまはちにも、楽しく過ごして
 欲しいんだ…。危険なことばかり、しているからさぁ…」
「ありがとうございます」

真子は、くまはちをじっと見つめ、何かを悟ったような表情をした。

「わかったよ。だから、今日は、思いっきり楽しんでよね、くまはち」
「はい」

くまはちは、真子が差し出したカラオケの本を受け取り、曲を探し始めた。

盛り上がる中、真子は、純一と隣に並んで、若い衆と賑やかに騒ぎ始めていた。唄う奴は、唄う。喰う奴は、喰う。寝る奴は寝る…。そんな中、くまはちとまさちんは、部屋の隅で、何か深刻な話を始めたようだった。

「しかし、くまはちって、色んな事を身につけてるんやな」
「独学な」
「唄、上手いな」
「お前のおかげかな」
「楽しいやろ?」
「…まぁな。でも、今日だけかな。あとは、気を引き締めないと…。
 もう…組長の手を血で染めたくないからな」
「俺もだ」

まさちんは、テーブルの上のおつまみに手を伸ばし、口に放り込んだ。

「今度こそ、赤い光の組長を停めて見せる…。あの時…、
 龍光の事件の時は、なぜか、停めることができなかったんだよ。
 停めようと思えば、できたはずなのに…な」

くまはちが、珍しく、おつまみに手を伸ばし、口に放り込んだ。

「心の何処かで、頼っていたかもしれないってことか」
「あぁ。あの驚異的な力は、お前でも、太刀打ちできないだろうな」
「相手が組長なら、例え、赤い光に支配されて、組長自身が
 我を失っていても、俺は、手を出せないよ」
「俺もだ。…でも、停めることは、出来るさ」

まさちんは、自分の両手を見つめていた。自分の腕の中で、赤い光から解放された時の真子の姿を思い出しているようだった。

「龍光一門…どこまで、向かってくるんだろうな」

まさちんは、呟いた。

「解らない。恐らく、こっちが根を上げるのを待っているんだろうな」
「上げるわけないのにな…。暴れることが好きな奴が相手だからな…」

くまはちは、まさちんの言葉に、フッと笑った。

「そういうまさちんこそ、暴れたいんだろ?」
「……まぁな…。しかし、約束してるからな。俺は、無理だな」

まさちんは、おつまみに手を伸ばし、俯き加減に言った。

「無茶はするなよ。組長が、哀しむ…」

くまはちも、おつまみに手を伸ばして、まさちんを見つめて、応えた。

「解ってるって。そう言うお前こそ、気を付けろよ」
「あぁ」

二人は、同時に手に持っているおつまみを口に入れた。

「…キャラクターランドって、楽しいんか?」

まさちんの質問は唐突だった。

「尋ねる相手が間違ってるよ」
「そっか…」
「でもな、組長を観ていたら、楽しそうだったよ」
「なるほどな…」

まさちんは、時計を見た。時刻は夜の八時を指していた。

「組長、そろそろ帰る支度を……そんな目をしても駄目ですよ。
 ……そんな表情をしても、あきまへん!…って組長!!!
 投げてはいけませんよ!!」

真子は、こびるような目をし、そして、ふくれっ面、その後は、怒り任せに、おしぼりを投げ始めていた。

「くまはちは、左、俺は右。ええな」
「組長、仕方ありません。失礼します!」

真子は、左腕をくまはちに、右腕をまさちんに抱きかかえられ、そして、後ろ向きで、部屋を連れ出された。

「やだぁ、もっと楽しむぅ〜!!!」
「真北さんに許された時間は八時までですから!!」
「いやだぁ、純一ぃ〜みんなぁ!!! 助けてよぉ!」

真子に助けを求められた純一達は、連れ去られる真子を、ただ、見送るように手を振っているだけだった。誰もが、真北を恐れていた。

「あとは、お前らで盛り上がれぇ〜。金は払っておくから」
「ありがとうございます!!」

まさちんは、部屋を出るときに、言い残していた。
そして、真子は、車に乗せられ、カラオケ・DONDONを後にした。


後ろの座席の真子は、ふくれっ面。
ルームミラーで、真子の表情を確認するまさちん。ちらりと振り返るくまはち。真子は、そっぽを向いた。

「組長、体調のこともお考えください。未だに本調子ではないんでしょう?
 隠しても駄目ですから。元気なように見せても、私達には解りますから」

まさちんの言葉に、真子は、更にふくれっ面に…。

「キャラクターランド、楽しみにしています。それまでに、体調を
 戻しておかないと、それこそ、真北さんに中止と言われますよ」

くまはちは、優しく真子に語りかけた。真子のふくれっ面が、無くなった。

「そだね。体調を戻しておかないとね。ありがと、くまはち」
「いいえ。…組長、今日は楽しかったです。ありがとうございました」
「よかった。キャラクターランドでも、目一杯楽しんでよね、くまはち」
「は、はい」

くまはちは、少し戸惑った感じで返事をした。そんなくまはちの雰囲気を感じたまさちんは、吹き出すように笑い出した。

「笑うな、まさちん!」

くまはちは、ドスを利かせて言った。

「笑うな言われても、無理や。…似合わへんで、くまはちには」
「そういうお前こそな」
「…やっぱり、似合わないかなぁ…みんな…」

真子が呟くように言った。どうやら、真子も思っていることのようだった。言った手前、退くことができなくなってしまったような真子は、腕を組んで、考え込んでしまう。

「あ、あの、組長???」

まさちんとくまはちは、同時に言った。

「……ま、いいかぁ。でね、でね、くまはちぃ」

真子は、そう言って、話を切り替えた。
楽しい雰囲気の中、車は、夜道を阿山組本部へ向かって走っていた。
純一達若い衆は、オールナイトでカラオケを楽しんで、真子達が起きる頃、本部へと帰ってきたのだった。



(2006.4.9 第四部 第九話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


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