任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第四部 『新たな世界』

第十一話 迫る……桜色…?

真子の自宅・リビング。
真子は、AYAMAの試作品に夢中。ソファーをテレビ画面に向け、資料を膝の上に置き、画面を見つめ、そして、資料に何かを書き込んでいた。
眉間にしわを寄せる真子。

「むむむむむ…」

真子は、うなっている。

「くくくぅ〜〜……ぷはぁ。…う〜ん」

真子は、頭をポリポリと掻いていた。そんな真子を気にしながら、ぺんこうは仕事を進めていたが、真子が悩み始めた事で、仕事を中断し、真子に近づいていった。

「組長、どこですか?」
「あん?…いいよぉ、自分でするからぁ」

真子が、そう言っても、ぺんこうは、既に資料に目を移していた。そして、画面を見て、何かひらめいたのか、真子の後ろから手を回し、真子が持つコントローラーを真子の手を包むように握り、操作を始めた。

「恐らく、こうでしょう」

ぺんこうは、難なくその画面をクリアーした。

「すごぉい。ぺんこう、ほんと、何でも出来るんやぁ。なんで?
 これって、難しいやん」
「慣れですよぉ。時々、クラブの連中とゲームセンターに行ったり
 テレビゲームしてますからぁ。…あっ…」

ぺんこうは、ゆっくりと目を反らす。真子が、ぺんこうを見上げるように睨んでいた。

「…不良教師…」
「不良じゃありませんよ」

ぺんこうは、微笑んで、真子の頭を撫でていた。

「ったくぅ。そうやって誤魔化すんやからぁ」

真子は、ふくれっ面。

「どうせ、私は、不良教師ですよ」

ぺんこうも真子の真似をして、ふくれっ面になった。

「って、こんなことしてられないって。先に進まないとぉ。
 ぺ・ん・こ・う〜」
「……解りましたよぉ。では、交代してくださいますか?」

ぺんこうは、真子のうるうるとした目を見て、真子の心が解り、そう言った。

「交代って、私、出来ないよぉ」
「出来ますよ。在学中、時々お手伝いしてくださったでしょう?」
「…それと同じなん?」
「そうですよ」

ぺんこうは、真子と話ながら、真子からコントローラーを受け取り、席を替わる。
ぺんこうは、資料をみながら、試作品を楽しみ始め、真子は、ぺんこうの仕事の続きを始めた。

「ねぇ、まさちんたちは、未だ帰らないん?」
「今日は帰らないでしょうね。恐らく、誰かが荒れてるでしょうから」
「むかいんが、怒らなければいいんだけどね」
「えぇ」
「…って、ぺんこうが、夢中になってるし…」
「夢中に、なりますよ、これは。また、みんな喜びますね」

ぺんこうは、少年のような表情をしていた。

「あかんわぁ」

真子は、呆れたように、そう呟いて、ぺんこうの仕事を続けた。





「…だから、言わんこっちゃない!!!!」

むかいんの声に、ドスが利いていた。

「悪かったな」

まさちんは、ふくれっ面に、真っ赤な顔。どうやら、アルコールで、気を紛らそうとしたようだった。
慣れないアルコール(?)に酔ってしまったまさちん。千鳥足のまさちんをしっかりと両脇で支えるくまはちとむかいん。くまはちの車の後ろの座席に、放り込まれたまさちんは、そのまま、横になって寝入ってしまった。

「むかいん、悪いな」
「ええって。こうなると思っとったからな」

そう言いながら、くまはちは運転席に、むかいんは助手席に乗り込み、車を発車させた。

「しっかし、くまはちが、先に…なぁ」

むかいんは、少し照れたような感じで、くまはちに言った。

「あの日なぁ、組長とまさちんが、二人で寝入ってしまった後な、
 桜姐さんに、呼ばれて、飲み比べやぁ言うてな。朝から飲んで
 たんや。そしたら、桜姐さんの手癖がね…。堪忍なぁって言われながら、
 いつの間にか、俺が、服脱がされててな。俺は、水木さんに悪いからと
 断ったんやけどな、水木さんの許しが出てる言われてな…だ」
「水木さんも、何を考えて…」
「どうやら、命の恩人と言うことらしいで」
「なんで?」
「撫川一家の件だよ」
「えらい、昔のことやな」

くまはちは、苦笑いしていた。

「あの時は、姐さん自身もすごく心配していたらしいよ。
 そのお礼にと言われたんだよ」
「お礼って言われて、抱く奴があるか!」
「…あのなぁ、むかいんも姐さんの手にかかれば、同じやで。
 絶対に、断ることできへんぞ。逃げられへんで」
「なのに、まさちんは…」
「あの時は、寝入ってしまったって、姐さんが悔やんどった」
「…諦めてないんだなぁ」
「そうや。いつか…! って、言ってたからなぁ」

くまはちは、ルームミラーで、後ろの座席で寝入るまさちんを見つめた。むかいんは、振り返って、まさちんを見つめる。

「…どこが、ええんやろ、桜姐さん」

むかいんが、静かに言った。

「さぁなぁ」

くまはちは、首を傾げていた。
そして、車は、自宅に向かって走っていく。時計は、午前0時を表示していた。





豪邸では、用意されたベッドに、真北が潜り込んでいた。枕元の電気を付け、手帳を広げ、

「お休みなさいませ」

にっこりと笑って、手帳を閉じ、電気を消した。





真子の自宅・リビング。
まだ、灯りが付いていた…ぺんこうが、AYAMAの試作品に燃えていた。

バン! ドタドタドタ…。

『まさちぃん、部屋までがんばれよぉ』
『うるせぇ!』
『じゃぁ、ここで寝ろ!』
『嫌だぁ。くまはちぃ、聞こえたでぇ。お前なぁ』
『寝てたんちゃうんかい!』

玄関先での、騒ぎ…。
どうやら、まさちん、くまはち、そして、むかいんが帰ってきたようだった。

「ありゃ、酔ってるな…」

画面を見つめるぺんこうは、呟いた。それでも、気にせずに、試作品をしている。
…これをしなければいけない、当の本人は…??
就寝時間となった十一時には、部屋に戻り、すっかり寝入っていた。

「ぺんこう、何してんだ?…って、AYAMAの試作品を
 ぺんこうがしてるんか?」

リビングの灯りが気になったくまはちが、ドアを開けて、中の様子を伺った。

「ん? まぁな」

ぺんこうは、ほんとうに夢中…。

「お前、明日あるやろ。後は、俺がやろか?」
「ん? もう少しやから、ええで」
「そう言うなよ」

くまはちは、そう言いながら、ぺんこうの隣に座り込み、画面を見入っていた。

『くまはちぃ〜、まさちんをほったらかすなよぉ』

むかいんが、叫んでいた。

「ほっとけって。自分で何とかするやろ」
「そう言ってもなぁ、寝てるぞぉ」

リビングへやって来たむかいん。

「これ、掛けとけ」

くまはちは、リビングに備えてある毛布をむかいんに渡した。むかいんは、渋々受け取って、廊下で寝入っているまさちんにそっと掛け、リビングへと戻っていった。

リビングでは、むかいんも加わって、AYAMAの試作品を楽しんでいた。
男三人。この光景、以前にも見たことが…。



「なるほどなぁ。お前もやるなぁ」
「もう、これ以上、話したないで。何も訊くなよ」
「わかってるって」

ぺんこうは、くまはちと桜の秘密を聞いてしまった。

「闇に葬るってかぁ」

そう言って、AYAMAの試作品のエンドロールを見つめる男達。
外は、白々と明るくなり始めていた。
ドタバタと慌てふためくのは、教師・山本と料理長・向井。
朝早くに出勤する二人は、本当に、次の日の事を考えていなかったようで…。

「眠い…」

玄関先で寝入るまさちんをまたいで、二人は、出勤した…。





「ふわぁ〜。………!!! ふぎゃん!!!」

ドタッ!!

「いったぁい、何よぉ、こんなとこに…って、まさちん?!」

寝起きの真子は、玄関先で寝入っているまさちんにつまづいてこけてしまった。

「組長!! 大丈夫ですか??」

リビングのドアを開けて、慌てて飛び出したくまはち。

「うん。…なんで、こんなとこで?」
「夕べ、遅かったんですよ。それと、例の会議のことで、
 こいつ、ふてくされて、思いっきり飲んでしまいまして…。
 運ぶの面倒だったので、ここで…」
「ったくぅ、体壊すよぉ、まさちん、まさちぃぃぃん!!! きゃっ!」

寝ぼけているまさちんは、自分の体を揺さぶる真子を思いっきり抱きしめ、床に押し倒してしまった。
突然押し倒された真子は、驚くばかり…。
それを見ていたくまはちは、この状況をどうすればいいのか、悩んでしまった。

「ま、まさちん??」
「ん?……く、く、くくうくくくくく組長!!!!!!」

まさちんは、自分が抱きしめる相手を確認した途端、思いっきり驚き、飛び起きた。
真子は、何がなんだかさっぱりわからないという表情。

「す、すみません……なんか、体が…ガチガチ…」
「そりゃぁ、一晩、そこで寝てたらなぁ」

くまはちは、少し放心状態の真子に手を差し延べながら、まさちんに言った。

「ありがと」

真子は、立ち上がった時に、くまはちに言った。
まさちんも立ち上がろうとしたが…。

「…頭…いてぇ〜」
「やっぱりなぁ」

まさちんの言葉に、真子とくまはちは、同時に呟き、呆れていた。



「はい」

真子は、二日酔いに効く飲み物をまさちんに差し出した。

「ありがとうございます…」
「むかいん秘伝だからね。で、何か遭ったん?」
「……会議ですよぉ」

まさちんは、飲み干した途端、思い出したような感じで、真子に言った。

「嫌だよぉ。出席するのはぁ」
「ったく、何時になったら、出席するとおっしゃってくれるんですか!
 学生を卒業したら…って言ったっきりじゃありませんかぁ。
 ちっとは、こっちの身にもなってください!」

真子は、まさちんが言い終わった途端、まさちんの頭を両手で挟み、シェイク……。

「く、み、ちょぉぉん〜、やめてぇ〜!!!」

真子が手を離した途端、まさちんは、目を回したのか、頭が本当に、シェイクされたのか、そのまま、横たわってしまった。

「まさちん!!」
「くまはち、ほっときぃ。…他に何か遭ったんやろ。それだけで、
 ここまでなるとは、考えられないからね」
「桜姐さんが、絡んでます」
「くまはちぃ!」

まさちんは、くまはちの言葉を遮るように、叫んだが…ひ弱な声だった。

「言ってみぃ〜」

真子は、再び、まさちんの頭を両手で挟んだ。まさちんは、真子の次に出る行動が予測できたのか、真子の両腕を掴み、自分の頭から引き離した。

「言えません」
「言って…みぃ〜〜」
「言え…ま、せ…ん!」

真子は、まさちんの頭を挟もうと、まさちんは、真子の手を引き離そうとお互いが力を入れていた。

「くむむむむ…」

同じように、うなっている二人を、じっと見つめるのは、くまはち。

「…で、今日の予定は?」
「はへ?!」

真子とまさちんは、くまはちの突然の質問に突拍子もない声で返事をした。

「まさちん、予定は?」
「AYAMAの試作品はどうでしたか?」
「昨夜、ぺんこうに引き継ぎましたぁ」
「ぺんこうから、夜中に引き継ぎまして、終了です」
「…また、二人で徹夜?」
「むかいんも入れて三人です」
「はふぅ〜。やっぱし、私には向いてないのかなぁ、この仕事」

真子は、まさちんから手を離した。

「組長?」
「あん??」

まさちんは、真子の表情が急に変わったことを気にして、声を掛けた。

「だって、一人で、エンディングまで行ったのって、少ないもん」
「このタイプも組長が苦手とするものでしたよ」

くまはちは、資料とソフトを真子に渡した。

「ありがと」

真子は、資料に目を通しながら、まさちんに声を掛ける。

「まさちん、調子は?」
「少し悪いです」
「ほな、今日は、家に居ときぃ。休暇な。くまはちと行動するから」
「大丈夫ですから」
「駄目。ほな、用意するから、くまはち、待っててね」
「はい」

真子は、そう告げて、リビングを出ていった。まさちんとくまはちは、真子を見送った後、お互い顔を見合わせる。

「悪いな」

まさちんが、恐縮そうに言った。

「かまへんって。AYAMAの仕事やったら、俺の方やろ」
「まぁな。一日、家に居るから。あんまし無茶するなよ。
 …で、真北さんは?」
「急用で、出ていったらしいよ。そのまま、泊まりになって、出勤だと
 思うよ。あの人も忙しいからなぁ。ちょいと派手にやりすぎてるしね」
「そうやな。かなり、圧力かけられそうやな」
「まぁ、しゃぁないやろ。これが、俺らの世界やしな」
「そのことで、会議でも言われたわい」
「反対派はおらんやろ?」
「そうでもないで。数は少ないけどな」

真子が二階から降りてきて、リビングのドアを開け、顔を覗かせた。

「くまはち、行こ」
「はい。ほな、まさちん、お大事に」
「組長、無理しないで下さいよ」
「真北さんに逢ったら、怒られるかもしれへんで。まさちんこそ、
 気ぃつけやぁ。行ってきます!」
「行ってらっしゃいませ」

まさちんは、リビングから真子とくまはちを見送っていた。玄関のドアが閉まった音を確認したまさちんは、そのまま、毛布にくるまって、ソファに横たわり、寝入ってしまう。
まさちんにしては、珍しい行動。
かなり飲んでいた様子……。





真子は、くまはちが運転する車の助手席に座り、資料に目を通していた。

「組長、酔いますよ」
「大丈夫だよぉ。まさちん程ちゃうし」

真子は、微笑んでいた。

「一体、どんだけ飲んだんよぉ。くまはちと合わせてたとか?」
「私より、飲んでましたよ」
「ほんま?」

真子は、驚いたようにくまはちを見る。

「えぇ」

くまはちは、ウインカーを左に出して、左折。AYビルの地下駐車場へと入っていった。

「あっ。水木さんに連絡するの、忘れてた。くまはち、貸して」

真子は、階段を上りながら、くまはちに手を差し出した。くまはちは、慣れた手つきで懐から携帯電話を取りだし、真子に手渡す。

「もしもしぃ、真子でぇす!」
『組長ぉ、驚かさないでください』
「ごめんごめん」
『体調は、もう、よろしいのですか?』

水木の声は、とても温かかった。

「ありがとう。大丈夫だよ。それでね、水木さん」
『AYAMAの仕事ですか?』
「うん。急で悪いけど、今日来れる?」
『特に、急ぎのものは、ございませんので、大丈夫です。
 すぐにお伺いいたします』
「はぁい。十時、大丈夫?」
『はい。…あっ、組長、まさちんは?』
「休暇。昨日の会議で、かなり疲れたみたいだから、休むように
 言ったんだけど、何か用事?」
『いいえ、またにします』
「ふ〜ん。ほな、待ってるでぇ」

真子は、電話をしながら、受付に自然と足が向いていたようで、電話を切った途端、受付の明美と話し始めた。

「あの…組長……。…駄目だ…」

くまはちの呼びかけに応えない程、話に夢中の真子だった。




朝十時。
真子とくまはちは、AYAMAの事務所で、試作品についての会議を始めていた。そこへ、水木が遅れてやって来た。

「すみません、遅れました」
「気にしない気にしない! それより、水木さんは、これ、
 どう思うん? 私は、結構難しく思ったんだけどなぁ」
「そうですか? 簡単にクリアできそうだと思いましたが…」
「…やっぱり、私だけなん???」

真子は、ちょっとふくれっ面になっていた…。





ブルルルル……、ブルルルルル…。

携帯電話が震え出す。どうやら、ソファで眠りこけていたまさちんの携帯の様子…。まさちんは、ガバッと起き上がり、懐から電話を取りだし、応対した。

「もしゅもしゅ?」

開口一番、声は、ふにゃふにゃ…。

『何やぁ、まさちん。おもろいなぁ。寝とったんか?』
「あ、あ、あ、姐さん!!!」

電話の相手は、桜だった。

「どうして、番号を御存知なんですか!」

まさちんは、慌てふためく…。

『あん人に聞いたんや。今日、休みなんやろ』
「…そうですが…どうして、それまで、御存知なんですか…」
『五代目に聞いたぁ。まぁ、聞いたんは、あん人やけどなぁ』

水木が真子と電話をしていた時、まさちんの事を尋ねたのは、どうやら、後ろで桜が尋ねるように促したようで…。

「…何か、ご用ですか?」
『冷たいなぁ。うちの気持ち知っとる癖に』
「存じているからこそですよ」
『そんなん言わんと、今日、付き合ってくれへんかぁ』
「今日ですか…。それは…」
『家の前におるんやけど』
「へっ?!??」

まさちんは、慌てて立ち上がり、リビングのカーテンを開けた。
そこは、道路に面している窓。
家の前の道路には、高級車が一台停まり、その車の側に桜が立って、電話を片手に手を振っていた。

「どうして、ここを…」
『松本に訊いた』
「あのね…」
『はよ出ておいでや。待ってるで』

桜は電話を切ったのか、持っていた電話を運転手に渡し、リビングの方を見つめていた。
まさちんは、苦笑いをしながら、カーテンを閉めた。
暫くして、まさちんが、家から出てきた。玄関の鍵を閉めている時に、桜が、まさちんに歩み寄ってきた。
まさちんは、慌てて振り返る。

「そんなに慌てんでもええやん。何もせぇへんで、ここでは」
「姐さぁん。付き合うって、その…」
「うちに任せてぇな。でも、まさちんの車でやで。あいつには、
 帰ってもらうから」

そう言って、桜は、自分が乗ってきた車の運転手に去るように手を振っていた。運転手は、戸惑いながらも、一礼して、車に乗り、去っていく。
まさちんは、渋々、駐車場へと桜を案内し、車の後部座席のドアを開けた。しかし、桜は、助手席のドアを開け、素早く乗り込んだ。

「……はふぅ〜」

なぜか、まさちんは、ため息を付いて、運転席に座る。
エンジンを掛けた。

「姐さん、どちらまで?」
「取りあえず、山に向かってんかぁ」
「はい」

車は、真子の自宅を出ていった。

車の中は、しばらくの間、沈黙が漂っていた。

「山のどちらですか?」
「山頂のマンション」
「…帰らせていただいてよろしいですか?」
「あかん。今日は、一日付き合いやぁ」

桜は、色っぽくまさちんに迫ってくる。

「あの、姐さん…」
「ええやん。二人っきりで話をしたいだけやねん。それに…」
「それに?」
「…着いてからのお楽しみや」
「はぁ…」

まさちんは、なぜか、困った表情になる。
まさちんが、山頂のマンションと聞いた途端、帰りたがったのには、訳があった。
まさちんは、桜に見つめられながら、山頂のマンションへと車を走らせていた。マンションの駐車場に入っていく車。

「なんで、知ってるん? この場所」
「組関係の事は、120%知っていないと、組長に怒られますから」
「ほな、あと二つ知ってるんやぁ。うちの個人マンション」
「この山頂の他、海近くと、街の中ですよね。場所も知ってます」
「そうかいな。流石やな。ほな、来てんか」

桜はそう言って、車を降りた。まさちんも、桜に促されるような感じで車を降り、桜の後を付いていく。その足取りは、少し重かった。


エレベータが到着した。中からは、桜とまさちんが降りてきた。そして、『815 桜』と表札が掛かっているドアの鍵を開け、中へ入っていった。

「あがってんかぁ」

桜は、コートを脱いで、ソファに掛けた。そして、部屋の暖房のスイッチを入れ、奥の部屋へと姿が消えた。まさちんは、玄関に突っ立ったまま。桜は、素早く着替えて出てくる。

「何突っ立ってん? はよ上がりぃや」
「いえ、その…」

桜は、まさちんの腕を強引に引っ張った。まさちんは、靴を急いで脱いで、上がる。

「姐さん、言っときますが、私は…」
「うちは、そのつもりやで。五代目に休みをもろたんやったら、
 今日は、まさちんの時間やろ。うちに遠慮してたんは、五代目が
 側におったからやろ? くまはっちゃんから聞いたで」
「あんのやろぉ〜」

まさちんは、怒りを覚えた様子。

「ですが、私は……姐さん…!!」

桜は、まさちんをソファに強引に座らせた。

「何、飲む?」
「車なので、アップルジュースを…」
「泊まりやで」
「姐さん!!」
「かまへんやん」

桜は、棚からグラスを二つ、そして、ウイスキーを手にして、まさちんの隣に腰を掛けた。
グラスにウイスキーが注がれた。桜は、それを一気の飲み干し、新たに注いだ。そんな桜の仕草に何かを感じたまさちん。

「姐さん、何か遭ったんですか?」

桜は、三杯目を飲んでいた。

「姐さん、あまり飲んでは体に…」
「ええねん」
「姐さん」
「まさちんも飲みやぁ」

桜は、まさちんにグラスを差し出した。まさちんは、そっと受け取り、一口飲む。

「私、昨夜飲み過ぎまして…これ以上は…」
「迎酒や」

桜は、何故か荒れていた。

「姐さん…」

ガン。

桜は、グラスを勢い良くテーブルに置いた。そして、そのまま、まさちんの首に腕を回して、しがみついてくる。

「あん人…好きな人がおるみたいやねん…。最近、他の女に
 手ぇ出してへんかったんや…。うちもくまはっちゃんの後は、誰にも
 手ぇ出してへんねんで…。あん人の愛を思いっきり感じたからなぁ。
 そやけど、最近…おかしいねん。時々、上の空や…」
「何か、心配事があるのでは?」
「そうや思って、尋ねたんやけどな…隠し事や…」
「だからって、また、他の男に手を出しては、水木さんが怒りますよ」
「もぉええって…。だから、まさちん…お願いや…」

まさちんは、桜の腕を優しく掴み、自分からそっと引き離す。
桜は、寂しそうな表情をしていた。
その表情は、初めて見る表情だった。いつも真子の前では、明るい桜。
なのに、一体…。

「姐さん。本当に申し訳ありませんが、お気持ちにお応えできません」
「…ごめんな…。解っとることやねんけどな…。なんか、まさちんに
 逢いたくなったんや。あれから、遊びに来てくれへんかったやろ…?」
「はぁ。色々とありましたから…」

まさちんは、グラスに手を伸ばす。

「お話でしたら、お聞き致します」

まさちんは、優しく微笑んだ。桜は、その微笑みに心臓が高鳴る。

「優しいな…。その優しさは、五代目だけにやないんやな」

桜は、まさちんを見つめていた。

「私は、普通ですよ」

まさちんは、ウイスキーを飲み干した。そして、自分で新たに注いだ。そのまさちんの行為に驚いた桜。

「まさちん、弱いって、嘘なんやな」

まさちんは、ただ、微笑んでいるだけだった。

「他に、色々と秘めてそうやなぁ。益々、裸にしたいわ」

まさちんは、ゆっくりと桜に目線を移し、じっと見つめた。
その目は、今まで見ていたまさちんではなく、女性を口説くような男の目をしていた。まさちんに見つめられた桜は、何も言えず、ただ、じっとまさちんを見つめるだけ…。

「…お話…は?」
「…あかん…ここでは、話できへん…」
「どうなっても、知りませんよ」
「悪い男やな」
「どうとでも、おっしゃってください」

まさちんは、桜の顎に手を掛け、唇を寄せた。

「酔っとるんか?」
「酔ってませんよ。…これが、本当の俺ですから」
「五代目…騙しとんのかいな…」
「毎日、側に居るんですよ。抑えるという方が、無理ですから…。
 こうでもしておかないと…」

まさちんは、桜をソファにそっと押し倒し、服に手を掛けた…。
桜は、まさちんに身を任せた……!!!!!





AYビル・真子の事務所。
真子と水木が、ソファに座って、何かを語り合っている様子。

「しっかし、水木さんが、この方面に向いてるって、わかんなかった。
 本当は、好きなんちゃうん?」
「この家業で、なかったら、進んでた道でしょうね」
「ふふふ」

真子は、笑っていた。

「組長、何が可笑しいんですか?」
「普通の水木さんを想像できない」
「そりゃぁ、こんな容姿ですからね」

水木は微笑んでいた。そして、真剣な眼差しで真子を見つめた。

「ん? 何?」
「あっ、いえ…その、あの日の姿を思い出してしまいまして…」
「ほんと、あれっきりやでぇ。桜姐さんに言っといてやぁ」
「無理ですよ。桜、次はどんな服にしようかって張り切ってますから」
「もぉ〜。私には、似合わないって」

真子は、ふくれっ面になっている…。

「素敵でしたよ」

水木の雰囲気が変わった。

「あ、ありがと」
「また、来て下さいね。お待ちしております」
「そだね。春過ぎかな」
「そう言えば、みんなで、キャラクターランドに行かれるとか」
「そうだよぉ。楽しみにしてるんだ」

真子は嬉しそうに微笑みながら、言った。

「まさちん達には似合いませんね」
「でしょぉ。みんな、そう思ってるね。私もだけど!」

真子は、にっこりと笑った。

「はふぅ〜〜……」
「水木さん? そんなに落ち込む程、変??」

水木が突然、ため息を付いて、俯いた事に焦る真子。

「…あかん…」
「気分、悪いん? 急に来るように言ったから?? 大丈夫?」

真子が心配そうに声を掛けるが、

「…くまはち…まだですか…?」

水木は、何かを我慢している様子。一体、何を…???

「…解ってるんです…解ってるんですが…これだけは…!!」
「み、み、水木さん?!????!!!!!!!」

突然の水木の行動に、我を忘れるほど驚く真子。
なんと、水木が、急に立ち上がり、壁に向かって歩き出し、自分の頭をぶつけたのだった。

「水木さぁん!?」

水木の行動に慌てて駆け寄る真子。そして、水木に手を差し延べた時だった……!



(2006.4.11 第四部 第十一話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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