任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第四部 『新たな世界』

第十二話 まさちん、(色んな意味で) 大暴れっ!

真北は、警視正の孫娘と一緒に庭を散歩していた。優しく話しかける真北に、孫娘は終始嬉しそうに微笑んでいる。そんな二人を見つめる警視正とその娘。

「真北さんの仕事っぷりって、どんな感じなんですか?」

娘が父の警視正に尋ねた。

「あれと同じと思うなよ」
「お父さんより、怖い?」
「そうやな。俺が怖いと思うくらいだよ。だから、あまり近づかない方が
 いいかもな」
「でも、あの子にとっては、違うみたいね」
「子供には、優しすぎるからなぁ、真北は」
「その、噂の娘さんにもでしょうね」
「厳しいとこもあるだろうな。家業が家業だけに」
「やくざ…でしたよね」
「そう見えないけどな」
「今日は?」
「お互い、休暇取った」
「では。ゆっくり出来るのですね」
「たまには、ええやろ。真北もな。…明日からは、更に厄介な
 仕事をすることになるからな…」
「無茶しないでくださいね」
「真北にも、言ってやってくれ」
「お父さんから、どうぞ。…照れ屋なんだから」

娘は、父の顔を見て、微笑んでいた。

「うるさい」
「はいはい」

娘は、にっこりと笑って、真北の所へ歩み寄った。そして、三人、仲むつまじく遊び始めた。

「…ったく、俺よりも、家族やな…」

警視正は、困ったように、頭を掻いていた。





AYビル・真子の事務室。
水木は、壁に両手をついて、手を伸ばし跪いていた。その水木の下には、なんと真子がしゃがみ込み、水木を見上げていた。
水木は、唇を噛みしめ、何かを耐えている様子…。

「水木…さん…?」
「すみません…俺が、どうかしてますね…」
「…そだね…。…何か、遭った?」

真子は、ゆっくりと立ち上がり、水木の両手をそっと掴み、壁から離した。水木は、その場に座り込んでしまう。暫く考え込んだような水木は、静かに言った。

「桜…ですよ…」
「桜姐さんと…何か遭ったんですか?」

水木は、ゆっくりと立ち上がり、ドカッとソファに座ったあと、項垂れてしまった。
真子は、水木の前に座り、じっと見つめる。
水木は、真子の目線を感じたのか、ちらりと真子に目をやった。

「すみません…」
「何が?」
「組長に、このようなお話をすると…真北さんが…」
「大人の世界の話でしょ?」

真子は、あっけらかんとした表情で言った。

「組長…」
「かまへんでぇ〜。私、わからへんけど、水木さんが落ち着くなら
 話してくれへんかなぁ。…私、これでも、五代目…一応、みんなの親!」
「ありがとうございます…」
「で?」

水木は、静かに語り始めた。

「冗談だったんですよ。桜にね…、そんなに寝たいんやったら、
 組長の周りみんなに手を付けたらどうやって…」
「はぁ?」
「まさちんに迫ってることは、御存知ですよね」
「うん。かなり、噂が広まってるようだけど…」
「桜が、あの日、くまはちと何かあったということは?」

真子は、首を思いっきり横に振った。

「私と撫川一家の件は?」
「後で知ったのは、くまはちが、水木さんをガードしたってことだけ。
 それは、くまはちを問いただしたんだけどね。あれでも、くまはちは、
 私には弱いからねぇ」
「桜…、まさちんと親密な関係になれないって、なぜか悔やんでまして…。
 そして、あの日、組長とまさちんが、ソファで寝入ってしまった後、
 くまはちと二人で飲んで、桜の奴…」
「…それで、あの時、くまはちの表情が、違ってたんだ…」
「飲んでるだけやと思ってたんですわ。まさか…」
「まさかですよ…くまはちには、そんな雰囲気感じてなかった…」

真子の方が驚いた様子。

「くまはちも男ってことですよ」
「なるほどぉ。私の知らないとこで、色々ありそうだね」
「えぇ。これ以上は言えませんよ。桜の手癖の悪さは御存知ですか?」
「誰彼構わず手を付ける…って、聞いたけど…」
「その通りなんですわ。私は言えた義理やないんですけどね、
 私だって、色々と女性に手を付けてますから…。それに
 対抗するように、桜も、若い衆に手を付けてますからね」
「で、今更悩むことって…」
「…桜が、最近、俺を避けるんです…」
「そう言えば、あれからお逢いしてませんね。何か変わったことでも?」
「…俺が、気移りしてしまったんですよ」
「気移り? その、他の女性に手を出す事とは、全く別に??」
「浮気…ってことですよ。それが、本気になりつつあります…」
「水木さんに思われる女性って、一体、どんな方なんだろなぁ。
 桜姐さんに、恨まれそうだね」

真子は、水木の目線に気が付き、その眼差しに、少し戸惑いを感じた。

「まさか……」

真子は、自分を指差した。
水木は、頷く。

「だから、私、どうかしてるんですよ…。真北さんも、まさちんも
 ぺんこうも、それを抑えることできるなんて…出来た人間や…」

水木は、頭を抱え込んでしまった。

「……って、ちょぉぉっと待ったぁ〜!!!! 今の言葉って…。
 どういうことなん???」
「はっ…しまった…!」

いくら悩み事を相談していたからといって、気を許して、禁句を言ってしまった水木。
慌てて口を抑えても、後の祭り。
真子の両手が、水木の胸ぐらに延びてきた…。

「抑えるって、みんな、私をそんな目で見てるん? 水木さぁん!」
「そ、それは、知らないんですが…。その…」
「!!!!」

水木は、真子の手を掴み、自分に引き寄せ、巧みに真子を抱きかかえた。

「み、み、水木さん、あの、その…ね…」

真子は、ぴくりとも動かない。水木は、真子を自分の隣に座らせた。真子の頭の後ろに手を回し、ゆっくりと自分に引き寄せる…その瞬間だった。

「いくら、あんたでも、許せないな…」

真子に回した手を思いっきり掴みあげられた水木は、掴みあげる人物に目をやった。

「くまはち…」

くまはちは、怒りの形相。今にも水木に殴りかかりそうな雰囲気だった。

「確かに、私は桜姐さんと寝ましたよ。しかし、それに対して
 あんたが、組長に手を出すのは…関係ないやろ?」

ガサッ! ドン!!

くまはちは、水木の胸ぐらを掴みあげ、真子から引き離すように、引き寄せ、壁に押しつけた。

「くまはち!」

真子が叫ぶ。

「…気が済むまで…殴れ…その方が、俺も…」

水木は、くまはちの耳元で呟いた。
くまはちの拳が握りしめられた。

ガツッ!! パラパラパラ…。

くまはちの拳は、水木の頬をかすめ、後ろの壁にめり込んでいた。
くまはちは拳を壁から抜いた。そして、水木に顔を近づけた。

「一体、どうされたんですか? 水木さんらしくない。
 そんなに、俺の行為が気にくわないんなら、俺に
 その気持ちをぶつけてくださいよ…組長に、手を出すのは、
 私だけでなく、真北さんまでも巻き込みますよ…」

くまはちは、水木に呟いた。

「そんなこと、思ってない…。これは、俺の心の問題や」

水木は、くまはちを見つめ、深刻な表情で、静かに言った。

「…組長を…女性として、みてしまっている…」
「水木さん…」
「気が付いたら…な…」
「はふぅ〜。これは、秘密なんですが…術ですよ」
「術?」
「真北さんの…ね。ですから、真北さんに相談された方がよろしいですよ」
「殴られるのか?」
「…秘密にしておきますから」
「すまん…」

くまはちは、真子に振り返った。

「あっ、組長…?!」

真子は、怒っている…。

「…くまはちぃ〜、壁!」

真子は、指を差した。くまはちが、拳をぶつけた所は、へこんでいた。

「す、すみません!!!!」

慌てて、手を当てて、へこみを治そうとしても、治るわけがない…。そんな滑稽なくまはちの姿に、真子と水木は、笑い出してしまう。

「松本、呼びますよ」

水木は、微笑みながら、松本に連絡を入れていた。

「よかったぁ。いつもの水木さんだぁ」
「何もされませんでしたか?」
「大丈夫だよ」
「驚きましたよ…。水木夫妻は、一体何を考えておられるのか…」

くまはちは、困った表情をしていた。

「それより、二人で何を話してたん?」
「男の秘密ですよ」
「…やっぱし、私には、そういう系統の話しは、駄目だね。
 さっぱりわかんないや。…どうしたの、水木さん」

青い顔をして、電話を切った水木。

「…桜の奴…とうとう…」
「えっ?!」





桜のマンション。
シャワー室から水が流れる音が聞こえていた。ベッドの上には、桜の彫り物をしている女性がうつぶせで、寝転んでいる。
水の音が停まった。
ドアが開き、ガウンを羽織った男性が出て、ベッドにそっと腰を掛けた。

「まさちん、今日は、泊まっていきぃや。一晩中なぁ」

うつ伏せになっている女性が、静かに言った。

「桜姐さん……ほんとに、よろしいんですか?」
「ええよぉ。何かを忘れるくらいまで、抱いてやぁ」

桜は、体を起こし、まさちんのガウンの胸ぐらを引き寄せ、抱きついた。まさちんは、そのまま、桜を押し倒し、見つめる。

「あんたが、五代目を抱いてもええ男か、うちが、確かめたるわ」
「そういうことですか…」

まさちんは、呟いた途端、自分を抱きしめる桜の腕を掴み、ベッドに押しつけ、そして、桜の首筋に顔を埋める。
桜の目は、そっと閉じられた。





「落ち着いて下さい!!!!」
「早く!!!!」
「ですから、組長!!!」

真子は、水木から、とんでもないことを聞いて、くまはちと水木の腕を引っ張って、AYビルの駐車場へと駆けてきた。くまはちは、真子に促されながら、車を発車させた。

「なんで、私まで!!!」

気が付いたら同乗していた水木が叫ぶ。

「桜姐さんを停められるのは、水木さんだけやんかぁ!
 くまはちぃ、早く!!!」
「これ以上は、無理です。捕まります!!」
「そんなもん、振り切れ!」
「無茶です!!!」

大騒ぎの車の中。
真子が水木から聞いた事。
それは、松本が電話口で言った
『桜さんが、組長の自宅の場所を尋ねてきたけど、何かあるのか?』
ということ。
水木は、その言葉でピンときた。真子は、その言葉ではピンとこなかったが、水木の青ざめた表情で、何かを察したのだった。
自宅に急行。

「まさちん!!!!」

真子は叫びながら、家に飛び込んでいった。
玄関を開けたが、まさちんの靴は無い。あるのは、見慣れた靴…真北の靴だけだった。

「組長、お帰りなさい…どうされました?」

車の音が自宅前で停まったことで、誰かが帰ってきたと解った真北は、玄関に迎えに出てきたが、真子が、叫びながら駆け込んできたことと、真子と一緒に居る人物を見て、何が起こったのか、理解したのか、

「誰も居ませんでしたよ」

真北は焦る真子に冷静に言った。

「…じゃぁ、まさちんは、何処? …水木さん、桜姐さんのマンション、
 三つの内、何処に行きそうかわかる?」
「…街は、騒ぎたいとき…、海は、楽しむ時ですから…」
「山!!」

真子、くまはち、水木は、同時に叫んだ。そして、急いでくまはちの車に乗り込み、出発。

「何を慌ててるんだか…。いつものことやろが…。ま、組長に手を
 出していないから、何も言わないけどなぁ」

真北は、暢気にかまえていた。
真子達が乗った車は、一路、山頂のマンションへ向かって走っていた。

「水木さん、ボロンボロンにしてええからね…」
「それは、見てからですね」
「…静かに怒ってる…」
「…なんで、怒ってるんやろ。俺、許してたのにな…」

水木は呟いた。

「怒って当たり前でしょ!!! くまはち、急げぇ〜!!!」

車は更にスピードを上げた。





まさちんは上半身裸で、ベッドの上で少しだけ、体を起こしていた。まさちんの腰辺りには、桜がしがみつくように寄り添っていた。

「まさちんの体って、彫り物ないんやなぁ」
「組長が、嫌がりますから。それに、私は、彫り物をする程の
 勇気がありませんので」
「よう言うわぁ、痛さも知らん癖にぃ」

桜は、まさちんの肩に手を掛け、まさちんを見上げた。
まさちんは、少しだけ目線を落とし、そして、微笑む。

「合格ですか?」
「そうやなぁ、合格やぁ。久しぶりに燃えたわぁ。くまはっちゃん以来かな。
 で、いつ、ものにするつもりや?」
「俺を惑わすくらい魅力的になった頃ですね」
「生意気言うてぇ。…なぁ、この傷は、どうしたん?」

桜は、まさちんの腹部にある弾痕が気になったのか、弾痕の周りを優しくさすっていた。

「AYビルで撃たれた時のものですね。同じ箇所に三発喰らったので
 それだけは、どうしても消えないと橋先生が…」
「…これとこれは? かなり古そうやなぁ」

右肩と胸の傷跡を指差した。

「私が、組長を利用して、先代を亡き者にしようとしたこと、
 御存知ですよね」
「ちらぁっと聞いた」
「その時、撃たれそうになった組長を守った…その傷跡ですね」

まさちんは、少し寂しげな表情をしていた。

「よう覚えとるなぁ」
「忘れたくても、忘れられませんから…。私が敵対する組の者だと
 知っていながらも、私を改心させようと…組長は、あの笑顔の下に
 別の顔を隠していたんですよ。私の為に…。そんな組長の優しさ
 そして、強さには、参りました」
「そん時かぁ。五代目についていこうと決めたんは」
「えぇ」

まさちんは、再び布団に潜り込み、そして、桜と顔を付き合わせ、微笑んだ。

「桜姐さんは、何故、組長に?」
「まさちんと二人で大阪に来た日あったやろ、お忍びで」
「ありましたね」
「そん時や。あん人が、五代目に惚れた」

まさちんの表情が少し曇る。

「ちゃうちゃう。女としてやあらへんで。組長としてや」

桜は、笑いながら言った。

「西田に見せたという、ドスさばき。そして、あの笑顔。
 何か、でっかいものを秘めているってね。うちは、反対
 やったんやで。極道嫌いの子供が、跡継ぎするような
 組織は、つぶれる思てね。だけど、違った」
「思っていた以上の力を持っていましたよ」
「そや。ついていって正解や」

桜は、まさちんの上に乗っかかった。

「そんな五代目をものにする男って、誰やろな」
「絶対に出ない話ですね」
「真北さん、おるもんなぁ。…真北さんも違うん? 五代目は、
 恋人やぁ言うてたで」
「そうなんですよ。ほんとに、真北さんは得体が知れない人ですよ。
 組長を自分の娘のようにかわいがっているのに、自分の恋人の
 ような感じで見守っているんですから」
「甘いようで厳しそうやな」
「問題は、真北さんより、ぺんこうですね」
「ぺんこうって、確か、学校の先生やっけ。うち、よう知らんわ」
「そうでしょうね。組関係から、離れてますから…って姐さん…」
「そろそろ…ええやろぉ。次は、うちからや…」
「姐…さ……ん……」

桜は、まさちんの体に唇を寄せ……。




くまはちの車が、山頂のマンションに到着。駐車場に車を停めた。そして、三人は、駐車場内にある一台の車を凝視…。

「ビンゴ…」

同時に呟いた三人は、815号室へ向かって駆けていった。



『815 桜』

水木は、鍵を取りだし、鍵穴に差し込んだ。


「…!!! 誰か来た…」

まさちんの胸に顔を埋めていた桜は、玄関の鍵が開く音に反応し、ベッドの横に隠してあるドスに手を伸ばした。

『さくらぁ!!!!!!』
『まさちぃぃぃん!!!!!』

ドアが開いたと同時に、叫び声。

「組長?!」

まさちんは、飛び起きた。
寝室のドアが勢い良く開いた!!!

「さくら!」
「まさちん!!」

水木と真子は、叫びながら、寝室に飛び込んできた。

「組長!!!」

寝室の二人の様子を一瞬で把握したくまはちは、真子の目を覆って、寝室から連れ出し、ドアを閉めた。
ドアの向こう、寝室では、何やら騒がしい様子…。
水木と桜の言い合いが始まっているようだった。

「くまはち…」
「はい」

くまはちは、真子の目を覆っている手を離した。

「…私には、毒…?」
「大人の世界ですから」
「私には、まだ、早いってこと?」
「あれは、二人の問題ですから、私達が口を出すことは…」

寝室のドアが静かに開いた。
寝室から出てきたのは、男物のガウンを羽織った桜だった。

「桜姐さん…」
「あら、五代目も一緒やったん? …なら、あん人を停めな…」

桜は、意味ありげな言葉を残して、再び寝室へ戻っていった。
再び、寝室が騒がしくなった……。
真子とくまはちは、寝室で起こっているだろう出来事が、全く解らず、きょとんとしていた。




ソファに腰を掛ける真子とくまはち、そして、水木とまさちんに、飲み物が差し出された。差し出したのは、ガウンを羽織ったままの桜だった。

「一晩中のつもりやったのにな。…すっかり元のまさちんや」
「桜!」
「なんで、来たんよぉ」
「…まだ、言うんか?」
「そうや。いつまでも言うたる」

桜は、すねている…。

「水木さん、姐さんに隠さず、話してください」

まさちんが、少しドスを利かせて水木に言い放った。

「お前が、そう言える立場か?」

まさちんとくまはちは、あらぬ方向を見ていた。

「わかったよぉ。ったく…。桜、俺が悪かった。それに、俺の気移りの
 相手は……だよ」

水木は、まさちんに解らないように、目で桜に言った。水木の目線の先は、真子に向けられていた。

「そうやったん?」
「怒らへんのか?」
「そうやったら、うちは、何も言わへんわ。そやけど、あんたは、
 絶対に、無理やな。うちの場合は、大丈夫やけど」

意味ありげに言った桜は、いつもの明るい姿に戻っていた。

「五代目ぇ、堪忍なぁ。先に頂いたわ」
「頂く…?」
「…ほんま、そっち方面、あかんな…。まさちん、教えてやりぃ」
「できません!!」
「何? 何を教えてくれるん?なぁ、まさちん」
「出来ません!! 何もありません!!!!」

焦ったように叫ぶまさちん。それでも、無邪気(?)な真子は、まさちんに尋ねまくっていた……。

「組長、解ってるんちゃうんか?」

水木が、こっそりくまはちに尋ねた。

「どうでしょうか…」
「うちが、教える!」

なぜか、嬉しそうな表情をしている桜が言った。

「やめてくれ!」
「止めて下さい!」

水木とくまはちは、同時に叫んだ。





その日の夜・真子の自宅。
真北は、自分の部屋で、のんびりとしていた。(手帳を広げて、にやにやしている…。)
まさちんは、阿山組日誌を開き、腕を組んで見つめていた。
くまはちは、筋力増強中。腕立て伏せを終え、腹筋を始めた。
むかいんは、未だ、帰っていない様子。
そして…。
真子は、リビングで、ぺんこうと話し込んでいた。再び、AYAMAの試作品を検討中。

「組長も、人が悪いですよ」
「ええやん。その方が、安心できるやろ」
「ったく…。……その現場、見てみたかったですね」

ぺんこうは、真子の隣に座り込み、同じように試作品を見つめていた。時々、真子の手を覆うようにコントローラーを握り、操作をしている。

「くまはちに目を覆われたから、よく観れなかったけど、寝室では
 かなり、すごいことになってたんとちゃうかなぁ」
「…水木さんに襲われなくて、よかったですね」
「…私?」
「いいえ。まさちんですよ」
「えっ?! なんで?」
「あのご夫妻…両刀との噂ですから」
「…って……!!!!」

真子は、俯いて、真っ赤になっていた…。そんな真子の頭を優しく撫でるぺんこう。

「ったく、こんな話まで、教えてるって知ったら、みんなは
 度肝を抜かれて、腰を抜かすでしょうね」
「話…だけだけどね…。…やっぱり、私には、無理ぃ…」
「まだまだ、子供ですね」

真子は、軽く頷いた。
ぺんこう先生、一体、真子には、何処まで教えているんですかぁ〜?





AYビル・真子の事務室。
真子は、わき目もふらず、組関係の仕事に精を出している…。
まさちんは、隣の自分の事務室で、真子に言われた他の用事を行っていた。少し鼻歌混じりのまさちん。
ここ数日、上機嫌の様子…。
桜さんとの…が、そうさせている???

『まさちん!ちょぉ来てやぁ』
「はい、すぐに」

まさちんは、隣の真子の事務室へ向かって、出ていった。

「出来たよぉ。あと、宜しくぅ」
「はい」

まさちんの姿を見た途端、手に持っていた書類を押しつける。

「うちは、AYAMAに居るからね」

何となく、冷たい雰囲気の真子は、そう言って事務室を出ていった。

「はぁ…」

きょとんとしているまさちん。ふと我に返って、真子から受け取った書類に目を通して、いくつかに振り分け、その一部を持って、須藤組組事務所に入っていった。

「ういっす」
「須藤さんは?」
「奥です。お呼びします」

よしのが、まさちんの姿を見た途端、直ぐに応対した。
須藤が出てきた。

「お待たせしました。組長のサインいただきましたので…。
 なんですか?」

須藤は、にやけていた。

「危なかったんやってなぁ」
「何がですか?」
「水木…」
「あ、あれ…ですか…。桜姐さんが来なければ、本当に…ね。
 …でぇ、こちらです」

まさちんは、話を切り替えるように、須藤へ書類を渡した。書類に目を通しながら、まさちんに言う。

「女に手が早いって、ほんまやってんな。なのに、組長には…」
「それ以上、何も言わないでくださいね」

まさちんは、テーブルの上の小さな箱に手を伸ばした。

「おっと、まさちん、これは、お預けや」

須藤が、タイミングよく箱を取り上げる。

「なんで?」
「組長命令」
「へ?!」
「組長、御存知やったで、ここで吸ってるってな」
「いつ?」
「お前が桜さんと親密になった次の日。バツやなぁ。お気の毒に」
「須藤さんが黙ってたら、わからないでしょ?」
「組長の気持ちが、ようわかるからなぁ。お前が悪い」

須藤が冷たく言う。

「悪いことしてないですよ」
「充分や。…組長、静かに怒ってるで」
「…それで、冷たい…。はふぅ〜」
「はっはっはっは!!!」

須藤は、まさちんの落ち込んだ表情を見て、大爆笑。

「笑わんといてくださいよぉ」
「悪い悪い。…組長が、一平と、そうなったら、どう思う?」
「怒るかもしれないな…」
「そういうことや」

須藤は、微笑んでいた。

「…ってことは……、組長は…? …それはないはずですよ…」
「知らぬは、本人ばかりかな…。サンキュ。会議は、いつや?」
「暫くありませんね。組長、AYAMAの仕事を張り切ってますから」
「で、お前ら、ほんまに行くんか? そのキャなんたらランドってとこに」
「組長、楽しみにしてますから」

まさちんは、微笑みながら、立ち上がり、服を整えた。

「一平にもお土産を買って来られたんだよ。今でも大切に持ってるで。
 組長、思いっきり楽しんでたらしいやんか」
「くまはちに聞きましたよ」
「…大丈夫なんか?」
「それまでには、片づけますから」
「俺達、動かんでもええんか?」
「俺とくまはち、そして、真北さんで、なんとか。それに、あまり派手に
 動くと、後々、大変ですからね。組長も怒りますから」
「無茶だけはすんなよ」
「ありがとうございます。では、失礼します」

まさちんは、須藤事務所を出ていった。

時計を見ると、ちょうどお昼時。
まさちんの足は、AYAMAの事務所へと向かっていた。



AYAMA社。
真子の笑い声が、廊下まで聞こえていた。

「そうやねんで〜。…って、まさちん」

真子は、AYAMA社のドアを開けた途端、ちょうどドアノブに手を差し出していたまさちんとぶつかるところだった。。

「お昼と思いまして…」
「うん。今、みんなでむかいんとこ行こうって言ってたとこ。まさちんも?」
「よろしいんですか?」
「同じとこ行くんやから、ええやん。特別室予約したし」
「はぁ」

真子は、エレベータホールへ向かって歩き出した。
真子と一緒に歩くのは、駿河と八太。その三人の後を追うように歩くまさちんは、真子の後ろ姿を見つめた。

組長、冷たかったのにな…。AYAMAの仕事で戻った??

まさちんは、そう思いながら、真子達と一緒にエレベータに乗った。
むかいんの店で食事を取っている間も、終始笑っている真子。
まさちんは、ホッと一安心していた。いつもと変わらないだろう…っと……。
しかし…。



「まさちん、帰るで」
「少々お待ち下さい」
「はよしぃや」
「すみません」

事務所に戻った真子は、やはり冷たかった。
少しふくれっ面の真子が帰り支度をしている時だった。まさちんの携帯電話が鳴った。

「もしもし」

まさちんは、素早く応対する。

「…何? ほんとか? …あぁ。直ぐに…っと…それはできないな…。
 むかいんとこに寄ってから、向かうよ。ありがとな」

まさちんは、電源を切り、電話を懐にしまいこむ。

「何か、あったん?」
「いいえ、何も…」
「急用なんとちゃうん?」
「…はぁ、まぁ…」
「そんなら、くまはち呼ぶから、いいよぉ。行っておいで」
「…組長、なんだか…冷たいですよ…」

ふてくされたように、まさちんが言うと、

「えっ? そうなん? 普通や思ってたけど…」

あっけらかんと真子が応えた。

「って、無意識なんですか???」
「自覚…ないよ…。ごめん…」
「あっ、いいえ、その、すみません…」

まさちんは、真子の意外な言葉に対して、素直に謝ってしまう。

「それより、急がなくてもええん?」
「あっ、申し訳ございません。くまはちに連絡取りますから、
 それまでは、須藤さんにお願いしておきます」
「大丈夫だよ。くまはちには、私から連絡しとくから」

真子は、笑顔でまさちんに言った。
そんな真子を観たまさちんは、少し安心したものの、真子の単独行動のことが、ふと、頭に過ぎったのか、真剣な眼差しで真子に言う。

「…絶対に、お一人にはならないでくださいね!!」
「わかってるよぉ。早く行きぃ!!」
「失礼します」

まさちんは、慌てたように真子の事務室を出ていった。真子は、デスクに座り、一息ついた後、くまはちに連絡を入れ、そして、パソコンのスイッチを入れた。
画面に、緊急の表示がある。

「どしたんやろ」

真子は、クリックした。

「……なんで、そうなってるんや? …まさちんが慌てたのは、これか…」

真子は、ため息を付き、背もたれにもたれかかった。

「厄介なこと、せんかったらええねんけどな…」

真子の表情が曇った。





まさちんは、車を飛ばして、橋総合病院の駐車場へ入ってきた。そして、受付で何かを尋ねた後、素早く何処かへ向かって走っていく。

『水木 桜』

まさちんは、その病室のドアを勢い良く開けた。

「姐さん!!」
「なんやぁ、まさちん、慌ててぇ」
「姐さんが襲われたと耳にしまして…」

病室には、桜と若い衆が二人居た。
桜は、ベッドに座り、まさちんに一礼する若い衆から、林檎を一欠片受け取った。もう一人の若い衆は、ドア付近へと移動する。

「大丈夫やで。ちょいと車ぶつけられて、銃弾撃ち込まれただけや。
 怪我は大したことあらへん。恐らく、忠告ってとこやろな」
「姐さぁん。そう簡単に言わんといてくださいよ」
「まさちんは、関係あらへんで。これは、水木組に対することやろ」
「それでも…」
「五代目には、言わんといてや」

桜は、あっけらかんとした感じで、そう告げて、林檎を頬張った。

「相手は?」
「そやから、ええって言っとるやん。それより、いち早く駆けつけて
 くれるなんて、まさちん、うちに、惚れたんやろ? 嬉しいなぁ。
 うちは、まさちんに惚れとるでぇ。ほな、今から…」
「あ、あ、あああ姐さん!!!!」

桜は、服を脱ぐような仕草をして、まさちんをからかっている様子…。そんなまさちんを見る若い衆は、笑いを堪えていた。

「あんまり、長居しとったら、五代目に怒られるか、あん人にやられるか
 どっちかやで。うちは、大丈夫やから。ありがとな」

桜は、にっこりと笑っていた。

「安心しました。では、失礼します」
「気ぃつけやぁ」

まさちんは、桜の病室を出ていった。まさちんを追うように、ドア付近に立っていた若い衆が、走ってきた。

「まさちんさん」
「あん? …お前やろ、連絡くれたんは。…相手…解ってるんか?」

まさちんを追ってきた若い衆は、額と頬にガーゼが貼られていた。

「顔は、解らなかったんですが、…相手は、恐らく龍光一門だと思います。
 これ以上、手を出すなと地島に伝えろと告げて、去っていきましたから」
「…俺との仲は、そこまで広まってるっつーことか。…姐さんに…
 悪いことしてしまったな…。巻き込むつもりは…なかったんだがな…。
 お前も、これだけか?」

まさちんの声には怒りが込められている。

「まさちんさん…」

若い衆の声は、少し震えていた。

「はふぅ〜。ま、無事やったから、よかったよ」

まさちんは、若い衆に優しく微笑み、頭を軽く撫でていた。

「片っ端から、お礼やな…。…姐さんには、何も言うなよ」
「まさちんさん!!!」

若い衆が呼び止めようとしたが、まさちんは、去っていった。焦りの表情を見せる若い衆は、急いで、何処かへ連絡を入れた。
その相手は……。



水木が、電話の電源を切り、拳をテーブルに叩きつけた。
ここは、水木組組事務所。
水木は、桜を襲った奴らの情報を収集しているところだった。そこへ、桜に付いている若い衆から、連絡を受けた。

「兄貴、どうされました?」

西田が、拳をぶつける水木に尋ねた。

「あほが、まさちんに伝えてしもた」
「…そら、一大事や…」
「組長には、伝えてないらしいから、大丈夫やけどな…。おい、急げよ」
「御意」

西田達は、あちこちに連絡を入れ、情報を収集し始める。


その頃、まさちんは、車を猛スピードで走らせ、何処かへ向かっていた。




水木組組事務所の近くに一台の黒塗りの車が停まった。運転席から一人の男が降りてきた。ゆっくりと水木組組事務所を見つめ、そして、車の後ろに回り、トランクを開け、ごそごそとし始めた。



「どうや?」
「恐らく、龍光一門だと思います」
「…ったく、何を考えて…」

水木は、立ち上がり、窓に歩み寄った。そして、ふと外に目をやった。

「おい、なんや、あれ…」

水木が見下ろす所。
そこには、ロケットランチャーを肩に担ぎ、窓に向けている男が不気味に微笑んでいた。
今にも発射されるかと思われた時だった。
その男に向かって車が一台走ってきた。

ガン!!!!

男は、車に跳ね飛ばされ、武器は、地面に転がった。
車から人が降り、跳ね飛ばした男に向かって、ゆっくりと歩み寄っていく。

「まさちんやないか。やばぁ、あれは…。お前ら、
 表へ急げ!! まさちんを停めろ!!!」
「へい!」

水木の言葉で、組員達は、一斉に外へ向かった。



「ええ根性しとんのぉ。街ん中でぶっ放そうとするとはなぁ〜」

まさちんは、跳ね飛ばした男の胸ぐらを掴みあげた。男は、かなり飛ばされたにもかかわらず、軽傷で済んでいた…が……。



「まさちんさん!!!」
「あん?」

まさちんは、服を整えながら、声に振り返った。

「…早すぎる…」

組事務所から駆けだした組員達は、まさちんの足下に転がる男を見下ろして、呟いた。
水木に言われて、駆けだしてから、ほんの7秒。軽傷のはずである車に飛ばされた男は……
血だらけ、手足は、見慣れない方向に曲がり、地面に横たわっていた。

「まさちん、何か用事か?」

最後に事務所から出てきた水木が、地面に転がっているロケットランチャーに手を伸ばすまさちんに、言った。

「言わなくても、お解りでしょう?」

ロケットランチャーを手に取ったまさちんは、ゆっくりと振り返りながら、水木に応えた。

「怖すぎや、まさちん。やめとけ」
「ちゃぁんと、お礼は、しないとね…」

まさちんは、不気味に微笑んで、手にしたロケットランチャーを車に詰め込み、車を発車させた。

「あ、あかん!!! 真北さんに連絡せぇ!」
「へい!」

慌てふためく水木とその組員達。

「あほが…」

まさちんが去っていった方を見つめ、水木が呟いた。



(2006.4.12 第四部 第十二話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


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