任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第四部 『新たな世界』

第十三話 隠し事

「なにぃ〜!!!!! 水木、なんで停めんかったんや!!」
『まさちんの素早さは、よく御存知でしょう!! 無理でしたよ』
「…兎に角、追いかける。お前らは、じっとしとけや」

真北は、怒り心頭…。

「真北さん、まさかと思うけど…」
「組長…、急ぎます。くまはち、まさちんを探せ」
「はい」

真北が居る所。それは、車の中。
くまはちと行動を共にしていた真北は、真子とまさちんから連絡をもらったくまはちと一緒に、AYビルへとやって来た。真子は、真北の姿を見た途端、健からの情報を真北に伝えた。その瞬間、それぞれが、まさちんの次の行動を予測した。

「これ以上、厄介なことになると、私は、フォローできませんよ」
「…解ってるよ…。だから、急ぐんやろがぁ、くまはちぃ!」
「…行き先は…恐らくライトドラゴンのビルです」

くまはちは、真北の車に装備されているナビゲーション画面を見つめていた。青く点滅するものが、猛スピードで動いている。

「早く!!」

真子達が乗る車は、更にスピードを上げた。その間、真北は、終始、何処かと連絡を取っていた。
一体、何処に…?





『ライトドラゴン』
玄関にでかでかと書かれている五階建てのビルの前に、車が一台停まった。
静かに窓が開き、中からまさちんがビルを見上げる。

「…これで、終わりやな…」

玄関先で警備にあたっている組員達を睨み付けるまさちん。組員達は、まさちんの姿を見た途端、それぞれが、銃を片手に、外へ出てきた。
まさちんは、車の窓を閉め、バックさせる。

キュルキュルキュル!!!

タイヤのきしむ音が聞こえてきた。

「うわぁ!!!!」

咄嗟に避ける組員達。
まさちんは、車を加速し、猛スピードで、ビルの玄関に突っ込んでいった!!!

グワッシャァァァァァン!!!!!!
キキキキィーーー!

突然、突っ込んできた車に驚く玄関先に居た人たち。
どの顔も、一般市民とは、言い難い表情…同業者…龍光一門の組員達だった。
車のドアが、ゆっくりと開き、まさちんが降りてきた。

「…ちょいとやりすぎたかな?」

まさちんは、にやりと笑みを零し、そして、後部座席のドアを開け、上半身を中へ入れた。

カチャカチャ!

まさちんに銃口を向ける組員達。しかし、まさちんの次の行動で、組員達の表情が一変する…。

「よっこらせっと。…これでも、それを向ける気かぁ?」

何やら楽しげな表情で振り返った、まさちん。

「!!!!!」

ロケットランチャーを手に取り、肩に担いだまさちんを観て、組員達は、一斉に、後ずさりを始めた。

「ちゃうちゃう。撃たへんって。返しに来ただけや」

まさちんは、受付に向けて、床を滑らすように持っている武器を放り投げた。

「でぇ、俺に用事があるんやろ? これ以上手を出すなと言ったらしいが、
 それは、こっちの台詞やなぁ。誰や? これを持って来た奴は。それに、
 水木組に何を仕掛けるつもりなのかなぁって…ね」
「…地島ぁ、えらいことしてくれたなぁ…」

そう言って、奥から出てきたのは、龍光一門のナンバー7と言われる男・獅子島(ししじま)だった。

「自分の女、襲われて、怒り心頭って、面やなぁ。はっはっは」
「…俺より、水木やな」

まさちんは、静かに言った。

「そやから、先手打たせてもうたんやけど、これが、ここにあるってことは、
 あいつ、失敗したんやなぁ」
「…生きてるかな…」

まさちんは、あらぬ方向を見つめていた。

「で、俺に用事は? …わざわざ、出向いてきたんだけどなぁ」

獅子島を睨み上げるまさちん。

「言わんでも解っとるやろぉ。お前と猪熊、そして、真北が、
 ほんの数ヶ月の間に行ってきた、数々の問題」
「最初に仕掛けたのは、あんたらだろう?」
「まぁなぁ。親分の思いを遂げたかったんやけどなぁ。
 まさか、あそこで火災が起こるとは、思いもしなかったよ。
 どうしてかなぁ。一緒に居たはずの、あんたらは、無傷で
 こうして元気に過ごしているというのにね。あの後からだなぁ。
 あんたらが、無謀な行為をしているのは。何故かなぁ」
「そっちこそ、言わんでも解ってるんじゃないのかなぁ。ま、無理もないかぁ。
 仕掛けられる前に、ことごとく、阻止してるんでねぇ」

獅子島とまさちんの会話には、全く緊張感がなかった。
それこそ、これから起こる出来事の前兆…。

「で、たった一人で、何をしようと? いくらあんたでも、この銃口の
 数からは、逃げられないだろう? なぁ、地島ぁ」

まさちんは、玄関に居る組員達に銃口を向けられていた。

「全部で32人ね…。それでは、無理だなぁ。俺には当たらない」
「なら、これでは、どうやぁ?」

獅子島は、床に転がる武器を手に取り、まさちんに向けた。

「ふっ…。武器も扱ったことないようだなぁ。重さも解らないとはね…」
「な、なにぃ?」

まさちんは、武器から、弾を抜いていた。

「くそ! やれ!!」

獅子島のかけ声と共に、銃声が響き渡った。




「銃声!?」

ビルの前に到着した真子達は、銃声に反応した。
真子は、車が停まる前に飛び降りる。
真北もタイミング良く真子を追うように飛び降り、真子を抱きかかえた。

「真北さん!」
「危険です!!」
「しかし……!!!!」

銃声は、停まることを知らないかのように、響き渡っていた。

「周りをよく見て下さい」

真北は、真子の耳元で静かに告げる。

「えっ?」

真子は、気を取り直して、ビルの周りを見渡した。
人気がない…。
そして、建物や物陰に、3人単位で銃を片手にした人たちが身を潜めている…。

「まさかと思うけど…」
「そうですよ。だけど、まさちんは、誤算でしたね…。この状況を
 どう対処すればいいか…そっちが問題です」
「…連絡くらいしてくれても、ええやんか…まさちん、どうなるん?」
「それは、これからのお楽しみですね」
「あのねぇ〜!!!!」

身を潜めていた人たちが一斉に動き出し、ビルの中へなだれ込んで行った。

「私達も、行きましょう」
「うん」

真北、真子、そして、くまはちは、ビルの中へ入っていった。




ビル内は、銃を手にしていた組員達が、身を潜めていた人物たちに次々と取り押さえられていく様子があった。真北とくまはちに挟まれた感じで突っ立っている真子は、その場に居る人たちを一人一人、確認していた。

「まさちんは?」

その中には、まさちんの姿が無い。真子は、焦りを見せた。
真北は、仲間の一人に尋ねたが、その人は、首を横に振るだけだった。

「まさか…拉致…?」

その時だった。

ズキューン!!!

上の階で銃声が響き渡った。

「…上??」

真子と真北は、顔を見合わせ、そして、同時に叫んだ。

「…まさちん!!!!」

真子達は、銃声の聞こえた階へ駆けだした。

まさちん、無事で居て…!!
真子の心臓は、高鳴っていた…。




三階にあるトレーニングルーム。
そこに二人の男が、恐ろしいまでの雰囲気を醸し出し、向かい合って立っていた。
一人の男は、片手に銃を持っている…。
それは、龍光一門ナンバー7の獅子島だった。
銃を向ける先に立ちつくす男・阿山組の地島…まさちんだった。まさちんは、右頬に、かすり傷、左手は、中指を伝うように血が滴り落ちていた。

「何発、受けた?」
「まだ、7発かな」
「お前の反射神経には、恐れ入ったよ。素手で、あの銃弾の嵐の中、
 立ち向かうとはなぁ。…親分の屋敷での火災…、身動き取れない程
 親分達を打ちのめしたのは、お前だったんだな…」
「…まぁな」
「左肩、上腕部に弾喰らったら、動かねぇよなぁ」

まさちんの口元が不気味につり上がった。

「それは…どうかな…」

ズダーン!



「…三階!!」

階段を上っていた真子が叫んだ。そして、歩みを早めた。

「組長、先に行かないでください!!」
「悠長なこと、言ってらんないよ!!」

真子は、真北の言葉を無視して、どんどん階段を上がっていく……。

「組長!!!」
「なに!」
「行き過ぎです」
「へっ? …はよ言うてやぁ!!」

真子は、勢い余って、三階を通り過ぎていた。
くまはちに呼び止められ、ふてくされた感じで降りてきた。そして、三階の廊下にやって来た…。




まさちんは、前のめりの体勢から、再び体を起こし、獅子島を睨み上げる。

ズダーン!

まさちんの右大腿部に銃弾が、命中し、血が噴き出した。
まさちんは、再び、体勢を整えた。

ズダーン…、バリーン! パラパラパラパラ……。

まさちんは、銃弾を避けた。
その瞬間、真後ろの鏡に当たり、鏡が木っ端微塵になり、辺りに散らばった。

「何処、狙ってるんだ?あ?」

まさちんは、ゆっくりと獅子島に歩み寄っていく。
獅子島は、まさちんの醸し出す雰囲気に、姿に恐れていた。
左腕に銃弾、腹部に命中した銃弾は、貫通している…、そして、右大腿部にも銃弾を受け、血が噴き出している…なのに、平気な顔で歩いている…。

「噂通り…いや、それ以上に、痛さを知らない男なんだな…」

まさちんは、左手で獅子島が向ける銃を掴み、ねじ曲げた。

「いててて!!」

ドカッ! ドカッ!

まさちんの蹴りが、獅子島の腹部と顔面に炸裂。獅子島は、そのまま後ろに倒れた。まさちんは、獅子島の側にあるバーベルを片手で持ち上げた。

「龍光一門も、終わりやな…」
「ふん。まだまだや…。俺ら以外にも、あんたらの意見に反対する
 組織は、まだ、あるぜ…。覚悟しとけよ…」

まさちんの目は、野獣のような雰囲気を醸し出す。そして、手にしたバーベルを獅子島目掛けて、振り下ろした。

ガシュ!

血みどろの獅子島を見下ろすまさちん。そして、ゆっくりと振り返り、歩き出した。
獅子島の右手が微かに動いていた。そして、動き辛い体を必死で動かし、側に落ちている銃に手を伸ばし、掴んだ。
まさちんは、その気配に振り返る。
銃口が、自分の頭部に向けられていた。

「まさちん!!」

その声を耳にしたと同時に、自分の視界が低くなっていた。
自分を押し倒し、心配そうに見つめる人物に気付く。

「組長…」
「あほぉ…無茶しすぎや…」
「すみません…」

目の前の人物が真子だと解った途端、いつものまさちんに戻っていた。

真子がまさちんを探して廊下を歩いている時、ガラスの割れる音に気が付き、音のする方へと駆けてきたのだった。そして、まさちんに向けられている銃口に気が付き、まさちんを押し倒すように守っていた。
真子の下に居るまさちんは、ゆっくりと体を起こす。
真子は、唇を噛みしめ、息を整えた。

青い光が、二人を包み込んだ…。

「…組長……」

足音が聞こえてきた。

「組長! まさちん、ご無事ですか!」

くまはちが、駆け込んでくる。少し遅れて真北が入ってきた。

「なんとか、無事だったよ。…気が張りつめてたのかな…。
 なんか疲れた…」

真子は、くまはちと真北に背を向けたまま、そう言った。
まさちんは、真子の言いたいことを察したのか、真子を抱きかかえて立ち上がり、真北を見つめ、静かに言った。

「真北さん、ご心配を…」
「ほんまや。で、その赤いものは?」

真北は、まさちんの左手の血に気が付き、尋ねた。

「獅子島の返り血です」
「…やりすぎや。で、銃声が聞こえてたけど、どうなったんや?」
「あいつ、下手っぴですよ。全弾、外れました」
「後は、俺に任せて、俺の車で帰れ」
「真北さんは…?」
「玄関に突っ込んだお前の車で帰宅するよ。ほら、行け!」

真子を抱えたまさちんと、くまはちは、真北に促されるようにその場を去っていった。

「橋んとこ、連れてけよ!」
「はい!!」

去る三人の後ろ姿に語りかけた。

「…ったく、いつまで、隠してるつもりなんやろなぁ、組長は」

真北は、バーベルの下敷きになっている獅子島に目をやった。

「50キロか…。死ぬほどには、至らんやろ」

真北は、バーベルを軽々と持ち上げ、遠くの放り投げた。そして、獅子島の容態を診る。暫くして入ってきた警察達に、指示を出し、獅子島を担架に乗せるように伝えた後、その場を去っていった。
野次馬の間をすり抜けるように、くまはち運転の真北の車が、ライトドラゴンビルから遠ざかっていった。




後部座席には真子が、まさちんの膝枕で寝転んでいた。

「組長、使わないようにと言われていたでしょう! 
 私は、あれくらいでは、くたばりませんから」
「噴き出てたよぉ」
「平気ですよ」

ガツ!

真子の拳が、まさちんの腹部に入っていた。

「…元気なんですね…」
「銃弾、留まってるんやな…」

真子の能力では、銃弾を取り出すまでは、いかないようだった。
銃弾が体内に留まっていると思われる箇所からは、微かに血が滲んでいた。真子は、まさちんの左手を手に取った。
その手は、血でどす黒くなっている。
真子は、心配したような、安心したような表情でその手を見つめていた。

「もう、終わりやで。これ以上、血は見たくないからな…」

真子は、まさちんを見上げるように睨んでくる。

「ご心配をお掛けいたしました」
「…少し…寝る。…目が覚めたら……いつもの…病…室…だね…」
「えぇ」

真子は、眠ってしまった。

「ありがとうございます」

まさちんは、優しい眼差しで真子を見つめ、そっと頭を撫でる。
くまはちは、ルームミラーで、二人の様子を見ていた。





橋総合病院・橋の事務室。
橋は、この日、緊急に入った5つの外科手術を終え、事務室へと戻ってきた。

「悪いな。遅くなって」
「こっちこそ」

事務室では、真北とくまはちが待っていた。

「忙しいのに、悪かったな。割り込んで」
「気にすんな。ま、診断書通り、大丈夫や。まさちんの方もな」
「あぁ」

真北は、言いにくそうな表情をして、俯いていた。

「だから、真子ちゃんの体力は、落ち着いてるって。いつものことやろ。
 能力つこたあとは、体力劣るって」
「あぁ。だけどなぁ……あっ!」

真北は、何かに気が付いた。

「真北さん、御存知だったんですか!!!」

くまはちが、同室していることに気が付くのが遅かった…。
真北が、真子の能力が、消えていないということを知っていると、くまはちにばれた瞬間だった。

「橋ぃ〜!!」
「落ち着けって。そうや、くまはち。真北も知ってる。あの能力が
 あれだけで、消えるとは、思ってないからな」
「黒崎さんに逢いに行ったのは、組長の体力が劣っていたのを調べる
 為ではなく、本当に能力のことを調べに行ってたんですね…。
 その辺り、全く考えておりませんでしたよ…。真北さんが御存知
 だったということを…」
「組長から、打ち明けてくれることを待ってるんだよ。いつまでも
 子供じゃないからな」
「組長は、真北さんにはばれてないと思ってますよ…まさちんも…」
「だから、くまはち…」
「はい…ひっ!」

真北は、恐ろしいまでの雰囲気でくまはちに顔を近づけていた。

「このことは、秘密やで…。…解ったな…」
「は、はいぃ!!」
「よし。…で?」

真北は、橋に向き直った。

「今日一日、入院な。まさちんは、大丈夫やろ。普段通りに
 過ごしても。その変わり、通院や。既に伝えてるから。
 それより、お前はええんか? 仕事」
「大丈夫や。終わってる」

真北は、凄く安心した表情で橋に言った。
その時、急患到着のランプが点滅する。

「悪いぃ、仕事やぁ」
「お前なぁ、立て続けは、あかんやろ」
「大丈夫や。一日20件、簡単な手術は、出来るからな」
「倒れるなよぉ」
「解ってるって」

そう言って、事務室を出ていく橋を、真北とくまはちは、呆れたような表情で見送っていた。

真子愛用の病室。
熟睡している真子をまさちんが、優しく見守っていた。

組長……。





大阪では、珍しく雪が降っていた。シンシンと降る雪は、街の中を真っ白に染めていく。
真子は、ぺんこうの部屋の窓から、外の様子を眺めていた。
ぺんこうは、生徒達の成績表を付けているのか、少し真剣な眼差しをしていた。

「もうすぐ三月なのにね」
「まぁ、こんな時もありますよ。体調は?」
「万全」

真子は、振り返り、デスクワークをするぺんこうを見つめていた。

「何か、手伝おうか?」
「今回は、大丈夫ですよ。ありがとうございます」

真子は、ベッドに腰を掛け、足をプラプラさせた後、大の字に寝転んだ。

「組長、襲いますよ」
「…いいよぉ」
「では、お言葉に甘えて」

ぺんこうは、立ち上がり、真子の隣に寝転んだ。

「仕事はぁ?」
「終わりました」
「お疲れさまぁ」

真子は、右手の側にあるぺんこうの頭を撫で始める。

「本当に、襲いますよぉ」
「どうぞぉ」
「…組長…」

真子は、少し慌てた様子のぺんこうに微笑んでいた。


真子は、うつ伏せに、ぺんこうは、真子の隣に上向きになって寝転んでから、かなりの時間が経っていた。

「この家に、二人っきりですから、誰にも解りませんね…」
「そうだね。でも…その気…無い癖にぃ」
「組長こそ」
「ふふふ」

真子は、笑っていた。

「どうされました?」
「なんかさぁ、ぺんこうに何もかも教わってるって
 みんなに内緒なんだもんなぁ〜」
「私も悪い教師ですね」
「だね。私も、知らん顔してるけどねぇ〜。心苦しいなぁ」

真子は、ぺんこうと見つめ合っていた。

「約束でしたから」

ぺんこうは、何かを思い出したように言った。

「ぺんこうは、どうなん?」
「どうと言いますと…。まさちんやくまはちのようにってことですか?」
「うん」
「何もありませんよ」
「ふ〜ん。…久しぶりに…どう?」
「組長、それは、出来ませんよ。約束には、まだ、条件が揃ってませんから」
「…そうだね。大丈夫なん?」
「教職に没頭してますから」

ぺんこうは、真子の頭を撫で、

「感謝しております」

優しい声で言った。

「ぺんこうぅ、その言葉は、もういいって」
「いいえ、いつでも、どこでも、言いますよ」
「ったくぅ〜。子供扱いするんやからぁ」

真子は、照れたような表情をした後、ぺんこうの首に腕を回し、抱きついた。

「組長。駄目ですよ」
「…寝技…」
「格闘技は、私の方が専門ですよぉ」

ぺんこうは、そう言いながら、真子の寝技を素早く返していた。

「負けへんでぇ〜」
「私こそぉ」

二人は、ベッドの上で格闘技……。

「…よぉ、ぺんこう、組長は……」
「あ……」

ぺんこうの部屋のドアを開け、ベッドの上でじゃれ合う姿を見てしまったのは、真子の体調を気にして、仕事を早めに切り上げ、家に帰ってきたむかいんだった。
ぺんこうの部屋で声がするので、何も考えずにドアを開けた様子。二人の姿を見て、唖然としていた…。
そんなむかいんを見た二人も、唖然…。

「…すまん……」

むかいんは、短く告げるとすぐに、ぺんこうの部屋を出ていった。

「あっ、むかいん!!」

真子の呼び止めも空しく…。

「勘違いしてるかも…」
「大丈夫でしょう…」
「昔と違って、今は…」
「…そうですね…」

真子とぺんこうは、ベッドから下り、部屋を出ていった。



むかいんは、台所で夕食の用意を始めていた。

「むっかいん!」

真子とぺんこうが、台所へ顔を覗かせた。

「組長、駄目ですよ。昔と違うんですから。端から見たら、
 本当に、勘違いされますよ。特に、まさちんが見たら…」
「ほら、組長、大丈夫だったでしょう?」

ぺんこうが言った。

「ほんとだね」
「あのようなじゃれ合いは、組長が、ぺんこうに笑顔を見せ始めた頃に
 しょっちゅう見られた光景ですから。当時、食事の用意が出来たことを告げに
 組長の部屋へ伺った時、毎日のように見てましたけど、久しぶりに
 それも、組長の容姿を考えると、……慣れているにも関わらず、
 どうすれば、いいのか、戸惑ってしまいましたよぉ」

むかいんは、本当にあの場を、どう切り抜ければいいのか、迷っていたようだった。

「ごめん…。…でも、むかいんで、よかったね、ぺんこう」
「善し悪しの問題ではありませんよ!」

むかいんは、包丁片手に振り返り、真子に言った。

「むかいん、それ、怖すぎ!」
「あっ、いや、その、…すみません……。ぺんこうも気ぃつけな、
 真北さんに知られたら…」
「解ってるって。ということで、組長、誤解も解けましたので、続きを…」
「そだね。むかいん、今日も真北さん、帰らないからね」
「解ってますよ。くまはちとまさちんは、遅くなるそうですから。
 お二人で、楽しんで下さい。三十分後には、出来上がります」
「はぁい。ほなねぇ〜」

真子とぺんこうは、二人仲良く台所を出ていき、ぺんこうの部屋へ入って、再び…??

「…ったく、どいつもこいつも…」

何故か、ふてくされているむかいんだった。



むかいんが、再び、ぺんこうの部屋のドアを開けると、ぺんこうは、デスクに向かって仕事をしていた。
真子の姿が……。

「ぺんこう、組長は?」
「そこ」

ぺんこうが、軽く差した所。そこは、ベッド。布団が膨らんでいた。

「寝入ったんか?」
「寝た」
「…ご飯…持って来ようか?」
「いいや、下に行くよ」

ぺんこうは、そう言って、ベッドで眠る真子に近づき、布団を掛けなおして、むかいんと部屋を出ていった。



「ぺんこう、組長が疲れるまでじゃれ合うことないやろ」
「久しぶりやったからな。俺の方が疲れたで」
「あのまま、寝入ってしまったら、真北さんにばれた時に…」
「後で部屋に連れていくよ」
「ったくぅ」
「心配すんなって」

ぺんこうとむかいんは、静かに夕食を取り始めた。



むかいんが、後かたづけを始めた頃、ぺんこうは、部屋へ戻ってきていた。そして、未だ眠る真子の側に腰を下ろし、優しい眼差しで真子を見つめていた。

「ったく、組長は…。こうなると解ってたから、いいと申したのに…」

ぺんこうは、真子を毛布に包むようにして、抱きかかえ、部屋を出ていった。
ぺんこうのベッドの上にある布団がめくれ、真子が寝転んでいた場所には、真子の服が、放置されていた。


真子の部屋。
真子にパジャマを着せたぺんこうは、真子をベッドに運び、布団を掛ける。

「ん…ぺんこう…」

真子が目を覚ました。

「組長、食事はどうしますか?」
「いらないぃ〜。ぺんこうは?」
「もう済ませました」
「そっか…」

少し色っぽい声で応えた真子は、ぺんこうの服を掴み、自分に引き寄せた。

「組長、桜さんから、何を教えてもらったんですか?」
「…何も教わってへんよ」
「それにしては…」
「みんなに感化されたんかなぁ」
「そうかもしれませんね。…私もですが…」
「ほんと、二人だけの秘密だね」
「そうですね」

二人は意味ありげに微笑み合っていた。そして、ぺんこうは、真子の部屋を出ていった。
真子とぺんこうの秘密。
それは、一体……。





真夜中。
真子の自宅は、寝静まっていた。そこに帰ってきたのは、まさちんとくまはち。
二人は静かに鍵を開け、家へ上がり、そのまま自分の部屋へ入っていった。
同室のむかいんは、熟睡中。
まさちんは、着替えもせずに、少し遠慮がちに机の電気をつけ、阿山組日誌を書き始めた。
くまはちは、服を着替えて、部屋を出ていった。暫くして、シャワーの音が聞こえてきた。まさちんは、日誌を付け終わった後、着替え、くまはちと入れ替わるように、シャワーを浴び、そして、リビングでくつろいでいた。

「終わったな…」

まさちんが、呟いた。

「やっとな」

くまはちは、安堵のため息と共に呟いた。

「気が抜けるよなぁ、くまはち」
「まぁな。でも、組長を守ることに関しては気が抜けないよ」
「あぁ。解ってるよ」

沈黙が続くリビング。そのリビングのドアが静かに開く。まさちんとくまはちは同時に振り返った。

「お帰りぃ」

真子が、そこに立っていた。

「組長。まだ、夜中ですよ」
「目ぇ覚めたから、何か飲み物と思って降りてきたら、ここの
 電気がついてたから。…仕事、終わったん?」
「はい。全て、片づきました」
「ありがと。そや、お疲れさまを記念して、良いことしたるぅ」
「良いこと??」
「二人とも、ソファに寝転びぃ」
「はぁ…」

まさちんとくまはちは、真子に言われるまま、ソファに寝転んだ。

「さっきね、ぺんこうに教わったんだぁ」
「…!!! 組長!!! 駄目ですよ。それも、二人に…」

まさちんとくまはちは、真子の言葉に驚いたように飛び起きた。

「だ・め! まさちんからねぇ〜」

真子は、そう言って、巧みにまさちんをソファに寝転ばせた。そして、まさちんの服を強引に脱がせる。

「く、く、く、組長!!!!」

寝転ぶまさちんにまたがる真子。くまはちは、何故か目を覆ってしまう。

「うっ!! …その…くみちょ…そ、そこは…」
「ごめん。痛かった??」
「もう少し…左を…」
「こう?」
「はい…」

真子は、まさちんにマッサージを行っていた。

「疲れのツボに効くって。次は、くまはちね」
「私は、大丈夫ですから」
「駄目だよぉ。もう少しだからね」
「は、はぁ」
「組長」
「はい」
「ぺんこうに、教わったんですか?」

まさちんは、少し振り向きながら、真子に尋ねた。真子は、まさちんの頭を真っ直ぐにして、マッサージを続ける。

「そだよ」
「これだけですか?」
「ん? どして?」
「…なんとなく…」
「何言ってるん」
「すみません…」
「はい終わりぃ。くまはち、横になってやぁ」
「はぁ…」

真子は、くまはちにもマッサージを始めた。くまはちと笑顔で話ながらマッサージをする真子を見つめるまさちんは、なぜか複雑な表情をしていた。

ぺんこうの奴…まさか…なぁ…。



(2006.4.13 第四部 第十三話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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