任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第四部 『新たな世界』

第十四話 明日は、待ちに待った日!

阿山組本部。
電話が鳴った。若い衆が応対中。

「お待ち下さい」

若い衆は、何処かへ向かって急いで走っていった。直ぐに、純一と戻ってきた。

「お待たせしましたぁ、純一です」
『純一ぃ、元気ぃ?』
「はい。この通りです。今日は、お休み頂きましたので。
 組長もお変わりなく」
『うん。めっさ元気やでぇ』

電話の相手は、真子だった。純一に直接電話を掛けているということは、例の話…?

「はい。わかりました。では、手配しておきます。本部には、
 前日になりますか?」
『そうやね。うちとまさちんとくまはちとむかいんは、一緒に
 行くけど、真北さんとぺんこうは、遅れていくって』
「お忙しいですもんね、お二人も」
『うん。だから、よろしくぅ!』
「はい。組長、お待ちしております!」

純一は、電話を切った。そして、ため息を付いて、自分の部屋へ向かっていった。

「…言えないよな…。きっと、組長、無茶するから…」

純一は、真子がいつもくつろぐ場所に目をやった。
純一が真子に言いたいこと…それは……。



〜回  想〜

純一たち、カラオケハッスル組は、この日もカラオケでハッスル!

「店長、また来ます!」
「おぉ。純ちゃん、真子ちゃんは何時来るんや?」
「四月中旬ですよ。だけど、ここに来られるかは解りませんよ」
「そっか。キャラランドで楽しむだけやっけ。まぁ、また来てやぁ」
「はぁい!」

純一たちは、カラオケDONDONを出てきた。そして、わいわいと騒ぎながら、車に乗り込んでいる時だった。二人の男が、近づいてきた。

「…純一さん、ですよね」
「あん? 何だよ……!!」

純一は、声を掛けてきた人物を見て、驚いた表情をしていた。そんな純一を心配して、若い衆が駆け寄ってくる。

「なんやお前ら」
「純一さん! こいつらは?」
「あぁ、俺の知り合いや。大丈夫だから。お前ら先に帰ってくれ」
「しかし…」
「大丈夫やって。山中さんには、朝になるって伝えてくれ」

純一は、真剣な眼差しで若い衆に伝えた。

「はい」

若い衆は、そう言って、心配しながらも、その場を去っていった。
純一は、若い衆らの車が見えなくなったのを確認した後、声を掛けてきた男達に振り向いた。

「ボン…お元気そうで…」

純一を『ボン』と呼ぶ男ともう一人の男。
それは、千本松組組長荒木の側近・東堂昇竜(とうどうのぼる)と荒木のボディーガードの橘(たちばな)だった。
純一は、気まずそうな表情をして、二人に合図をし、車に乗り、別の場所に移動した。



人気のないところに車が停まった。人が降りる気配はない…。

「テレビ、拝見しましたよ」
「お前らも観てたんか」
「若いもんがね…」
「それで…何?」
「ボンが生きていること、おやっさんにお伝えしたら、戻るようにと…。
 すごく、心配されてました」
「親父…まだ、入ってるんだろ?」
「六月頃、出所されます」
「そう」

純一の返事は素っ気なかった。

「素っ気ない…」

東堂が、呟くように言った。

「わしらが、どれだけ心配していたか…解っておられますか?
 ボンは、阿山組の連中に殺されたと思っていましたからね。
 おやっさん、報復するとおっしゃって、仕掛けたんですわ。
 だけど、反対に、あの阿山真子にやられてしもて…こうなった。
 …ボン、どうして、連絡をくれなかったんですか…」
「俺は、もう、親父とは関係ない。阿山組組員だ」
「ボン…」

東堂は、純一の表情を観て、何かを悟る。

「解りました。今日は、引き取ります。しかし、諦めませんから。
 ボンが、戻るとおっしゃるまで、こうして、ボンの前に現れますよ」
「東堂さん、何度来ても一緒ですよ。私は、帰りません」

純一は、車を降り、ドアを閉めた。東堂は、車の窓を開け、純一に告げる

「それと…わしら、東北を追い出されたんで、こちらに事務所を
 構えてます。…これは、山中たちには、知れてませんから。
 毎日、お伺いします。では」

東堂の乗った車は、去っていった。

「今更…何を考えてるんだよ…」

純一は、去りゆく車をいつまでも見つめていた。

〜回想 終〜



純一は、本部の庭に面した縁側に腰を掛け、一点を見つめていた。

「純一、どうした?」

通りかかった山中が、純一の表情を気にして、声を掛けてきた。

「山中さん…」
「悩み事か?」
「いいえ、ご相談するほどでは…」
「そうか。いつでも、相談に来いよ」
「ありがとうございます」
「それと、組長の旅行の話…。進んでるんか?」
「はい。お聞きした予定通りに、手配しております」
「ガードの方も、徹底的にしとけよ。真北がおるから、安心やけどな」
「はい」

山中は、去っていった。

「…兎に角、組長が来られる日以降まで、引き延ばすようにしないとな…」

純一は、拳を握りしめ、気合いを入れた。





桜が咲き、空気がピンクに染まる時期が、やって来た。

真子達は、旅行の準備をして、玄関に集まっていた。

「ほな、出発!!! 真北さん、ぺんこう、お先ぃ!」
「では、本部で。お気をつけて!」

真子は、思いっきり嬉しそうな表情で、家を出発した。真子に続いてまさちん、くまはち、むかいんが、出発した。

「なんで、お前と一緒なんだよ…」

真北が、ふてくされたように呟く。

「何故でしょうね。組長の作戦ですか?」
「さぁな。…それより、お前…真子ちゃんと何かあるのか?」
「いいえ、何も」

ぺんこうは、静かに応えた。

「なら、ええんやけどな。まさちんなら、許さないけど、お前なら
 何も言わないよ」
「何をおっしゃりたいのか、解りませんね。それより、あなたの方は
 準備できているんですか?」
「大丈夫や。組長が訪れる時間帯に現地に集合するように言ってある」
「そうですか。…組長に知れたら、それこそ、怒られますよ」
「大丈夫だよ」

真北は、ぺんこうに微笑んでいた。

「組長、張り切ってましたよ。おとといまで、調子悪かったのに」
「楽しみがあるときは、病気も吹っ飛ぶさ」
「…まさか、御存知だったとは」
「なんでも知ってるよ。…知っていないと困るからな」
「組長のあの性格、あなたに似たんですね」
「そういうお前もだろ?」
「えぇ」

二人は、玄関に突っ立ったまま、話し込んでいた。

「恐らく、組長が行くことを知っているだろうな。気を引き締めないと」
「それは、あなただけ。私達は、思いっきり楽しみますから」
「そうしとけ。その方が組長に感づかれないからな。…頼んだよ」
「改めて言われなくても」
「そうだったな」

二人は、微笑み合い、それぞれ、別の部屋へと入っていった。





真子は、新幹線の窓から、富士山を見つめていた。これから、楽しい事が始まる。
そう思うと、微笑まずにはいられない真子だった。
まさちんとむかいんは、真子と同じように楽しみにしている様子。しかし、くまはちは、身に付いた性に、楽しむことができない様子。そんなくまはちに、真子は、楽しく話しかけていた。





阿山組本部。
若い衆が、玄関先で話し込んでいた。

「今日、お帰りだよな、組長は」
「そうですよ。でも、この時期にお帰りなるなんて珍しいことですよね。
 この時期って…」
「先代の姐さんが亡くなった時期だよな…」
「組長は、この時期を避けていたよな」
「大学も卒業して、そして、今まで心残りだった事に対しても、
 もう、大丈夫だと聞いたぞ」
「それでか。この時期に…」

のんびりとした雰囲気の中、若い衆が話し込んでいた。

「組長が、東京駅にお着きになりました!!」

少し離れた所から、聞こえてきた言葉に、若い衆の表情が和み始める。

「そろそろだな」
「あぁ」
「あの笑顔を拝見できると思うと、俺、嬉しいよ」
「俺もだよ」

そう言って、若い衆たちは、真子を出迎える準備に入っていた。



本部の門が開き、真子が乗った車が、入ってくる。
若い衆たちは、待ちわびた表情で、真子達を出迎えた。

「お帰りなさいませ!!」





「組長」

本部のくつろぎの場所で少しうたた寝をしていた真子に声を掛けたのは、ぺんこうだった。

「ん? あっ、ぺんこう」
「今、着きました。久しぶりですね、この桜。更に見事に…」

ぺんこうは、桜の木を見上げて、何か、懐かしむ顔をする。

「そっか。ぺんこうも久しぶりに観るんだよね、桜。私もだよ。
 毎年、このように見事なピンクに染まるんだって。
 なんだか、損した気分だなぁ」
「そうですね。私も、長い間、本部に来てませんから。迷いました」
「私が大阪に向かった頃からだもんね」
「えぇ。あっ、木原さんの本ではありませんか」
「そだよぉ。木原さんにもらったのはいいけど、なんだか、読む気が
 起こらなくてね。自分の事だからさぁ」

ぺんこうは、真子の側に置いてある『光と笑顔の新たな世界』の本を手に取り、パラパラとページをめくっていた。

「ちょうどね、ぺんこうが、私の約束を守らなかった頃の話を読んでいたんだよぉ」
「あぁ、ここですね。真北ちさと事件」
「うん。あの頃からだもんね、木原さんが、がらりと変わったのは」
「そうでしたね。あれだけ、組長のことを追っかけ回していたのに、
 あの事件が起きてから、協力的になりましたから」
「木原さんって、私の笑顔に負けたって、言ってるけど、私はそう
 思わないなぁ」
「どうしてですか?」
「真北さんが、絡んでるでしょ? 絶対、真北さん、何かしたって」
「ふふふ。何となく解るような気がしますね」
「やっぱし、そう思う??」
「…絡んでませんよ…」
「うわぁっ! 真北さん!!!!」

噂をすれば、何とやら。真子とぺんこうのところへ真北がそっと近づいてきたのだった。

「桜を観に来たら、組長とぺんこうで、何やら私のことを
 話してるようなので、聞き耳を立てたら…」
「じゃぁ、ほんとのこと、言ってよ!」

真子は、ニヤニヤしていた。

「ひみつです」
「…真北さぁん。ひみつということはやはり、木原さんに…」
「…まぁ、確かに、凄みを利かせてましたけど…。私の本来の仕事までは
 知らないはずですよ。言ってませんから」
「ふ〜ん」
「組長の笑顔に負けたのは、本当ですよ」

真北は、微笑んでいた。

「それと、組長の怖さにもね」

ぺんこうが、付け加えると、

「なに、それ、どういうことよ!!!!!」

真子は、ふくれっ面になっていた。

「微かに聞こえてましたから。組長の怒りの言葉がね」
「えっ?? …私、何か言ってた??」

真子は、とぼけていた。

「覚えてますよ。意識が回復した時、真っ先に頭に浮かんだのは、
 組長のことでしたから」
「私??」
「…怒られる! ってね」
「もぉぉ、ぺんこうぅ!!! 思い出さないでよぉ」
「仕方ないでしょう、覚えているんですからぁ。それに、丁度
 その辺りを読んでおられたんでしょう!」
「そうだけどぉ…」

真子は、突然、何かを思いだしたのか、それまで明るかった雰囲気が一変した。

「組長?」

突然の真子の雰囲気に真北とぺんこうは、驚いた。

「あっ、ごめんごめん。いや、そのね、その……。あの頃の事を
 思い出したから。その…心配だらけだったという事でなくて、
 その後のこと」
「その後のこと?」
「うん。ぺんこうの退院パーティーだよぉ。クラスでやったやつ。
 みんなで教室を滅茶苦茶飾り付けて、ぺんこうの退院を祝ったやん」
「そうでしたね。覚えてますよ。組長が、やっと学校に通い始めて、直ぐでしたから。
 組長が、クラスのみんなに励ましの手紙をもらって、すごく嬉しかったと言った事が
 自分の身にも感じましたから。組長は、学校に通っていてよかったと…私は、
 教師をしていて良かったと思いました。だから、更に、教職に力が入りましたよ」

しみじみと語るぺんこうに、

「うんうん。そうだった、そうだった。ぺんこう、張り切っていたもんね。
 今まで以上にぃ」

真子は、からかうように付け加えた。

「組長、お食事の用意ができました」

まさちんが、やって来た。

「ん? あっ、もうこんな時間やん!」
「真北さんとぺんこうの分も用意してるそうですよ」
「流石、むかいんだな」

真北とぺんこうは、声を揃えて言った。

「しかし、ほんとに、見事な桜ですね」

まさちんは、桜の木を見上げていた。

「でしょ? この時期にね、ここに来ると、どうしても、母を思い出すから、
 やだったんだけど、今は、ほら…ね」
「そうですね」

まさちんは、真子の笑顔を観て、心が和んでいた。

「あぁぁっ! 純一に、チケットもらわな!」

真子が突然思い出したように叫ぶ。

「もうお預かりしておりますよ」
「ほんま?」
「えぇ。純一も同じ事言ってましたよ。なぜ、ホテルに宿泊なのかぁ〜って」
「だから、理子と行った時、安全だったからって何度も言わせんといてや」
「すみません」

…常に、くまはちが居たんだけどなぁ〜。

真北たちは、心の中で呟いた。
真子とまさちんは、桜の木を見上げる。

「懐かしいものを思い出させてくれるんだよね、ここにいると」
「懐かしいもの?」
「…私が、組長になった頃の苦ぁ〜〜い経験をね!」
「あぁ、あの組長が幹部の前で大暴れの頃の。あの日以来、幹部の
 みなさんが組長を観る目が変わってしまいましたからねぇ〜」
「まさちん…言って良いことと悪いことがあるで!!」

真子は、まさちんの腹部目掛けて拳を入れた。

「うぐっ…組長、手加減はいけませんよ…」

…始まったか…。
そうですね…。

真子とまさちんは、必ずと言っても良いほど、殴る蹴る、避ける攻撃する…をやりあってしまう。端で見ている者には、『いつものこと』なのだが、二人を停めるのは、やっぱり嫌……。
真子とまさちんのやり取りを見つめる二人は、軽くため息を吐く。

「私が大暴れだったら、まさちんは、それ以上だと思うけど、ちゃうか?」
「……そうでした、そうでした。私が悪いんです」

まさちんはふくれっ面になっていた。
その表情は、真子が得意とする表情の『ふくれっ面』。真子は、膨れたまさちんの頬を指で突っついた。

「まさちん、食事が冷めるだろぉ!! 早くしろ!」

回廊の窓から、そう叫んでいるのは、片手にお玉を持ったむかいんだった。

「ごめん、むかいん、すぐ行くから! ほら、まさちん、行くよ!」
「あっ、お待ち下さい、組長!!」

真子の後を追い、むかいんと並んで歩く真子にぴったりとくっついて歩くまさちん。

「やれやれ…」

呆れたような安心したような表情をして、真北とぺんこうも食堂へと向かっていく。丁度、くまはちと出会い、真北と何かを話ながら、食堂へ入っていった。




「ごちそうさまぁ〜」
「組長、これからのご予定は?」
「ん? 一日中のんびりしとく。だって、ほら、明日から、遊びまくるでしょ?」
「そうですね」
「だから、まさちんも、ゆっくりしときぃな。ここに居るときくらい、
 自分の時間を作りなさい。…組長命令です」

真子は、にっこり笑顔でまさちんに命令する。

「かしこまりました」

まさちんも、笑顔で応えた。


真子は、いつものくつろぎの場所にやって来る。
右手には、オレンジジュース、左手には、本を持っていた。

「さてと、続き、続き!」

何やら楽しむような表情で、真子は本を広げ、再び読み始めた。



まさちんが、真子のくつろぎの場所にやって来る。何かを手にして近づいてきた。

「組長、お話のものは、これですか?」

まさちんが真子に見せたのは、キャラランドのガイドブック。

「うん、それそれ!!」

そう言って、真子は手にした本をテーブルに置き、

「あのね、あのね…」

まさちんの手にあるガイドブックを素早く取り上げて、広げながら、

「これがね、理子と一緒に乗った海賊船!」

という感じで説明し始めた。
くつろぎの場所の回廊を、ぺんこうとむかいん、そして、くまはちが通りかかる。

「ぺんこう、むかいん、くまはち!!!」
「なんでしょうか」

真子に呼ばれ、手招きされた三人は、庭へと降りてきた。

「あのね、あのね!!」

真子のはしゃぎっぷりは、誰もが驚くほど。
それほど、楽しみにしているのだろう。

「そうそう! 絶対に、これだけは観るからね!」

真子は絶対行きたいところがある様子。ガイドブックの隅から隅まで説明していた。

「昼食は、ここだからね。…むかいん、我慢してね!」
「今回は、私も旅行者ですから、目一杯楽しみます」
「うんうん! くまはちもだよ!何も気にしないでいいから。
 理子と二人で行った時、安全だったもん」
「そうですね。楽しみます」

…いや、くまはちがガードしてたって…。

誰もが口にしたいものの…。

「楽しみだなぁ!!」

嬉しそうな顔で話す真子を見て、何も言えなくなる。
まさちんたちは、何故か、鼓動が早かった。

真北さん、万全だと言ってたよなぁ〜。



夕暮れになり、そして……。


「ごちそうさまぁ。むかいん、おいしかったよ!」

真子は笑顔でむかいんに言った。

「ありがとうございます」

むかいんは、深々と頭を下げた。

「だけど、明日からは、ホテルのご飯だよ。
 むかいん…絶対に厨房に入ったら駄目だよぉ」
「わかっております。私も観光客ですから」
「絶対だよぉ」

真子は、念を押すかのように、むかいんに言う。

「ほな、明日に備えて、部屋に居るぅ。お休み」

真子は、部屋を出ていった。

「お休みって、組長……早いですよ…」

時刻は午後八時半。
食堂に残ったまさちんたちは、顔を見合わせる。

「…ほんとに、理子ちゃんと二人っきりで楽しんだと
 思っておられるんですね、組長は」

まさちんが呟くように言った。

「…くまはちの存在を知っていたけど、知らないふりをしているとか…」

ふと思いついたように語り出すぺんこう。

「組長のことだ…あり得るな…」

真北がため息混じりに言った。そこへ、山中がやって来る。

「…ぺんこう、ちょっと話があるんやけど、…ええか?」
「は、はぁ」

山中の表情と口調で、何かを察したぺんこうは、部屋を出て行った。

「山中さんが、ぺんこうと話をするなんて、めずらしいですね」

まさちんが、不思議そうに言うと、

「そうか? ぺんこうが、来た頃は、よく観られた光景だぞ」

真北が、椅子にふんぞり返って、応えた。

「…そうなんですか。…私が来る前のことは、ほんと、知らないことだらけですよ。
 …あいつ、何も話してくれへんしなぁ。やっぱし、嫌われてるんやろなぁ」
「…何を改めて…。それくらい、わかるやろ」
「…真北さん、ほんまに、俺へのあたりがきついですよ」
「いつもと変わらんけどなぁ」
「いいえ、あの日から、更にきついですよ」
「あの日?」
「…組長が赤い光に支配されて、能力が無くなったというあの日ですよ。
 …組長が赤い光から解放されて、そして、俺らが、意識を回復した…
 その後ですよ…」

真北たちは、何かを思いだしたような、思い出したくないような表情で、まさちんを見つめていた。





ぺんこうは、山中の後ろをついて、本部の奥にある廊下を歩いていく。

「山中さん、この先は、確か…」
「そうだ。組長が五代目を襲名したと同時に閉鎖された場所…。
 隠れ射撃場だ」

山中は、廊下の先の壁を指差した。

「ここを私にどうしろと? あなたも御存知のように、私は…」
「組長が仕掛けた暗号を解いて欲しいんだよ」

山中の言葉で、ぺんこうは、山中の思いを察する。

「…本当に、なさるおつもりなんですね。まさちんから聞いてますよ」
「お前も、教職に就いてなかったら、賛成だろ?」
「私は、銃より、刀ですね」
「…そうだったな。俺と並ぶ程…」
「それ以上、言わないで下さい」

ぺんこうは、山中の言葉を遮るように言った。

「で、どうなんだ?」

ぺんこうは、柱の隠しスイッチの場所に手をやり、柱を少しずらし、そして、じっくりと見つめる。

「どなたかが、解読しようとしてましたね?」
「あぁ。何度やっても無理やった。色々と試したんだけどな、
 パスワードを何度か間違えると、切り替わる仕組みになっているらしい」
「そうですか。なら、簡単ですね」
「は?」
「山中さんが、頼んだ人物って、その道のプロですね?」
「そうだよ。組長にコンピュータ関係を教えたのは、お前だろ。
 だから、プロが必要だと思ってな…」
「私は、コンピュータに関しては教えましたが、このような暗号解読に
 必要な知識は、教えてませんよ。ですから、プロには難しいですね」
「どういうことや?」
「こういうことには、素人ということですよ。ですから…」

ぺんこうは、足下にある機械を手に取り、何かを打ち始めた。
すると……。

スゥ……。

隠し射撃場へと繋がる隠し扉が静かに開いた。

「…開いた…」
「パスワードなんていらないんですよ」
「なんで?」
「素人ですから。では。…あまり、無茶はしないでくださいね、山中さん」
「あぁ。ありがとな」

ぺんこうは、静かにその場を去っていった。
山中は、何年かぶりに観る射撃場の入り口を見つめ、そして、意を決して入っていく。
隠し扉は静かに閉まった……。




ぺんこうは、本部の回廊をゆっくりと懐かしむように歩いていた。
ふと目をやった所で、真子とくまはちが、楽しそうに話していた。真子が、くまはちをからかい、くまはちは、照れたように首を振っていた。真子は、お腹を抱える程、大笑い。

本当に、心のもやが、取れたんですね…

ぺんこうは、安心したように微笑む。

「あとは、俺だけか。…何やってんだ、あいつは」

ぺんこうは、真子とくまはちが楽しく話している場所から、少し離れた所に居る人物を観て、呆れたような表情をして、その人物に近づいていった。

「…何してんねん」
「ぺんこう…何って、組長とくまはちを観てるんや」

それは、まさちんだった。

「別に観ることないやろ」
「…なんかな、二人の雰囲気が、大阪に居る時とちゃうんや」
「そういやそうやな。だけど、昔に良く観られた光景やで。
 あれに、むかいんが加わるくらいやで。ほら、来た」

真子とくまはちの側にむかいんが、やって来た。そして、三人は、仲良く話し始めた。

「組長の笑顔も、一段と違ってるな」

まさちんは、少しふてくされたように言った。

「そうか? いつもと変わらんやろ」
「…山中さん、なんて?」
「例の射撃場や。パスワードわかるかって」
「わかったんか?」
「素人が仕掛けた罠やからな。プロにはわからんやろ」
「なるほどな。プロは難しく考えるもんな」
「あぁ」
「山中さん、張り切るぞ」
「そうだよな。…お前も、無茶はすんなよ」
「ありがとな」

沈黙が続いた。二人は、真子達を見つめていた。真子が、ふと振り向いた。まさちんとぺんこうの姿に気が付いたのか、手招きしている。まさちんとぺんこうは、真子の所へ向かっていった。

「ねぇねぇ、明日なんやけど、乗り物乗るとき、ペアは
 どうする? 今ね、その話してたんやけど」
「乗り物によりますね。確か、二人乗り、三人乗り、四人乗りと
 いくつかに分かれてませんでしたか?」

ぺんこうが、言った。

「そうなんだよぉ。私一人で乗ったら…」
「駄目です」

まさちん、ぺんこう、むかいん、くまはちの四人は、声を揃えて言った。

「何もみんなで一斉に言わなくても…。…じゃぁ、ペアは、
 問題のない、真北さんと私、くまはちとむかいん、そして、
 まさちんとぺんこう…」
「こいつとは、絶対に嫌です」

まさちんとぺんこうは、お互い指を差し、同時に言った。

「…やっぱりなぁ」

真子とむかいん、くまはちが、同時に呟く。

「じゃぁ、まさちんとくまはち、むかいんとぺんこうでいい?」
「はぁ」
「…このペア、危険かなぁ…」
「まだ、安全でしょう」

ぺんこうが、応える。

「三人の場合は…」
「…って、組長、何がなんでも、私達を乗せようとしてませんか?」

まさちんが尋ねた。

「当たり前やん。行くなら、徹底的に回らないとぉ。
 全部回るよぉ。パレードも観るし、最後の花火もぉ」

真子は張り切っている。

「…組長……」

その声に、真子の表情が一変する……。

「た、楽しみだなぁ、まさちん」

ぺんこうが言った。

「そうだよな、くまはち」

まさちんが、くまはちに笑顔を送る。

「早く明日になって欲しいですね、むかいん」

くまはちは、むかいんに振り返った。

「全部回ろうなぁ、ぺんこう」

むかいんも笑顔でぺんこうに言った。

「楽しみですねぇ、はっはっははっっは…はぁあ」

乾いた笑い…。

「…っ!!!……絶対、みんなで、全部、回ってやるぅ!!!」

真子は、どたどたと足を踏み鳴らす。
そんな真子を優しい眼差しで見つめるまさちん、くまはち、ぺんこう、むかいんだった。





早朝。
とある場所に花がそっと置かれ、花を置いた人物が、手を合わせていた。
それは、真子だった。
真子が手を合わせる場所…そこは、約二十年前、母・ちさとが命を落とした場所…。

「さてと。くまはち、公園に行こうか」
「はい」

真子は、立ち上がり、後ろに居たくまはちに微笑み、歩き出した。真子が目指した公園は、その場所からすぐだった。

公園には、まだ、誰も居ない。それを確認した真子とくまはちが、ゆっくりと入ってきた。

「懐かしいですね」

くまはちが、呟くように言った。

「そだね。くまはちと一緒に来たあの日を思い出す…ね」
「そうですね」

くまはちは、何かを思いだしたような表情で真子に微笑んだ。

「あの日…、楽しかったよ。ありがと」
「では、今日も久しぶりに」

くまはちは、ブランコを指差す。真子は、笑顔で頷いた。

「うん」

真子は、ブランコへと駆けだした。そして、腰を掛け、まるで、子供のように揺れ始める。
くまはちは、そんな真子を優しく見守っていた。

「くまはちも、乗ったら?」
「ご遠慮致します」
「楽しいのにぃ」

真子は、更に大きく揺れ始める。そして、飛び降り、

タン!

綺麗に着地した。

「あの時は、こんなこと出来なかったね。初めて乗ったブランコだったもん」

真子は、憂いの目でブランコを見つめていた。
恐らく、真子の目には、ブランコに乗る幼い自分とその自分の背中を優しく押すちさとの姿が映っているのだろう。目が少し潤み始めた。
くまはちは真子の目を、そっと塞ぐ。

「…組長」
「ん?」
「ちさとさんも、喜んでおられますよ。…やっと、
 組長に花を贈っていただいたんですから。そして、今、
 同じように、ここで、楽しんでおられることでしょう」
「くまはち…」

真子は、自分の目を塞ぐくまはちの腕を優しく握りしめ、そっと見上げる。
真子独特の笑顔が、くまはちに向けられていた。

「ありがとう」
「お礼は、先程…」
「何度も言っていいでしょ? それより、そろそろ戻らないと、みんな起きるね」
「そうですね。まさちんなんか、組長を捜しているかもしれませんよ」
「また、こっそりと出掛けたと思われてるかなぁ」
「真北さんとぺんこうには、伝えてありますから、まさちんだけでしょう」
「そだね。まさちんの慌てた顔を観よう!!」
「楽しみですね」

真子は、くまはちの手を引いて、公園を出ていった。

「ねぇ、くまはち」
「はい」
「今日と明日と明後日。仕事忘れて、思いっきり楽しんでね」
「お言葉に甘えさせていただきます」

くまはちの表情は、真子を守る時とはうって変わって、素敵に輝いていた。
流石、二枚目…。
見慣れているはずの真子は、一瞬ドキッとした。

「…あ、あかん…くまはち、声掛けられても、返事したらあかんで」
「なぜですか?」
「…なんとなく…」

真子は、言葉を濁していた。
見知らぬ女性が、何か言ってくるかも…。(ナンパ…?)

真子とくまはちは、本部の門をくぐっていった。

「…やっぱしなぁ……」

くぐった途端、呟き項垂れる真子。

「何時になったら、落ち着くんや、あいつは…」
「無理だろうね」
「えぇ」

本部内では、まさちんが、真子を探して走り回っていた。
真子の姿を見た途端、安心したような表情で、駆け寄ってきて、真子に少し怒り出す。真子は、慣れたような感じで、まさちんに返事をしていた。


それから一時間後。
真子達を乗せた車が二台、本部から、出ていった。
行き先は、もちろん……!!!!



(2006.4.14 第四部 第十四話 UP)



Next story (第四部 第十五話)



組員サイド任侠物語〜「第四部 新たな世界」 TOPへ

組員サイド任侠物語 TOPへ

任侠ファンタジー(?)小説「光と笑顔の新たな世界」TOP


※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


Copyright(c)/Dream Dochan tono〜どちゃん!著者〜All Rights Reserved.