任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第四部 『新たな世界』

第十五話 真北家の家族旅行・初日の午前

シャレトルンホテル。
ホテルの玄関に、高級車が二台到着した。ホテルのドアボーイが、ドアを開け、丁寧に迎える。

「お疲れさまです」
「ありがとうございます」

車を降りるなり、深々と頭を下げたのは、車に乗っていた真子だった。

「入りますよぉ」

まさちんが、真子に声を掛ける。

「は、はい。…お世話になります」

真子は、再び深々と……。
そんな真子の襟首を掴んで、ホテルへと入っていくまさちん。その二人に続いて、真北、ぺんこう、むかいん、そして、くまはちが、入っていった。
時は、朝の九時。
ホテルのチェックインの時間ではなかったが、宿泊予約をしているため、荷物だけは、預かってもらえた。
真子は、旅行鞄の中から、小さめの鞄を取りだし、ランドへ行く準備を始めた。
まさちんは、ホテルの人と、何かを話している様子。
真北は、ホテルのロビーに居る人々を一人一人確認するように見つめ始める。真北の目線を感じたカップルが、一礼した。
真北は、慌てたように、しかめっ面をする。
一礼したカップルこそ、リストに上げた人物…もちろん、私服の刑事だった。
真北は、ちらりと真子を見た。
真子は、鞄のチャックを閉めたところだった。

「準備できましたか?」

真北が、真子に声を掛ける。

「うん。この方がね、動きやすいんだよ。…って、むかいん!」
「あっ、はい!!」
「ったくぅ」

むかいんは、ホテルにある料理店の何かを確認しようと、真子達から徐々に離れていた。真子に呼び止められて、慌てて駆け戻ってくるむかいんに、真子は、ふくれっ面。

「すみません…」
「くまはちぃ…」

くまはちの身に付いた性……。真剣な眼差しで、ロビーの人物を一人一人チェックしていた。
真子は、むかいんとくまはちに、念を押すように何かを告げていた。二人は、真子の言葉に頭を下げるばかり…。

「ったく、これでは、組長が、楽しめませんね」

真子達の様子を眺めていたぺんこうが、真北に言った。

「そうだろうなぁ。まぁ、あの二人は仕方ないけどな」
「それより、周りには、一体どれだけの人物が居るんですか?
 あの人も、あの二人も、あのご家族も…そして、あの人達と
 あの団体さん…。他にもですね…」

ランドマニアっぽい男、若い女性二人、十歳くらいの男の子とその両親、大学生風の男性が二人とその彼女らしき女性が二人、そして、おじさんとおばさんが十人ほど居る団体、その他にも…たくさんの人がロビーに居た。

「…普通の人々なんだけどなぁ…、やっぱし、お前には解るんか…」
「格好では、解りませんが、目、ですよ、目。常に警戒していますよ。
 あれでは、組長にばれてしまいます」
「組長が、気が付かないほど、楽しませるのが、お前らの役目だろう」
「あのね…」

ぺんこうは、呆れたように項垂れる。

「ぺんこう、真北さん、行くよぉ!」
「はい」

真北とぺんこうは、真子に呼ばれて、返事をして、歩き出した。
真子達が歩き出して、ワンテンポ置いた後、先程のカップルが、真子達と同じ場所へ向かって歩き出す。もちろん、ぺんこうが気が付いたランドマニアっぽい男、若い女性二人、十歳くらいの男の子とその両親、大学生風の男性が二人とその彼女らしき女性が二人、そして、おじさんとおばさんが十人ほど居る団体も、同じように動き出している。
真子達は、ホテルの送迎バスに乗り、いざ、キャラクターランドへ!!!



キャラクターランドの入り口には、既に、たくさんの人が開園時間を待ちわびていた。真子達も、列の後ろに並び、開園を待っていた。
真子は、ガイドブックを広げて、ぺんこうやむかいんに、またまた説明をし始める。
くまはちは…周りを警戒していた。
真北は、並んで待つことを(わざと)嫌って、ぶらぶらと歩き回っていた。真北の足が向かう場所。それは、例の一般市民を装った刑事達の側。何気ない雰囲気で、それぞれに声を掛けていく。
まさちんが、チケットを交換して、真子達の所へ走ってきた。

「ありがとぉ。ね、ね、まさちん」
「はい」

まさちんは、チケットをぺんこう、むかいん、くまはちとそれぞれに手渡しながら、真子に応対していた。

「入場したら、一番初めに、ここに行くからね。人気のところだから、
 めっさ並ぶから。…待つの、嫌やろ? くまはち」
「は、はぁ」
「…ったくぅ。くまはち?」
「す、すみません…」
「くまはち、大丈夫だって」
「真北さん…」

真北が、列に戻ってきていた。まさちんから、チケットを受け取り、懐にしまい込みながら、くまはちに、

「俺らの周りには、例の者たちが、付くようになっている」

そっと告げた。

「…それでですか…。先程、ホテルで見かけた人物と同じ人物が
 周りに、それも、私達を隠すような感じで囲んでいる…」
「…ぺんこうは、こいつらの雰囲気に気が付いたぞ」
「その雰囲気だからこそ、警戒していたんですよ…。真北さん関係の
 人たちと解っていたなら、警戒しないんですけどね」
「だから、思う存分楽しめよ。…親父さんからも、許しが出てるからな」
「ありがとうございます」

二人の会話は、真子達には聞こえていなかった。


開園時間が近づいてきたのか、キャラクターが、門の向こうに現れた。お客達は、元気に手を振ってくれるキャラクターを見て、興奮気味。歓声が上がっていた。真子も、気になったのか、背伸びをしながら、キャラクターを観ていた。

「見えますか?」
「ちらぁっとだけ。まぁ、中に入ったら、側でじっくりと観れるけどね。
 …って、あのね…まさちん、私、これでも二十四歳だけど…」
「わかってます」

まさちんは、真子の両脇を抱えようと手を伸ばしていた。

「ねぇ、ねぇ、アヒルのキャラクター居る?」
「ですから、こうした方が、見えるでしょ」
「ったくぅ〜」

まさちんは、真子の両脇を抱え、高く掲げた。
他の人より、頭一つ分高くなった真子は、しっかりとキャラクター達を見ることができた。真子は、アヒルのキャラクターを見つけたのか、手を振っていた。アヒルは、真子に手を振り返す。

「手、振ってくれたぁ!!」

真子は、無邪気にはしゃいでいた。

「まさちん、もういいよぉ、ありがと」

まさちんは、真子に言われて、真子を地面に下ろした。

「ったく、いつまでも、子供やなぁ……!!! って、お前なぁ、
 こんな狭いとこで、すんなよ!」
「うるせぇ!」
「二人ともぉ!!!」

ぺんこうの言葉に、反応したまさちんは、人混みの中でぺんこうに蹴りを入れた。ぺんこうは、まさちんの蹴りを予測していたのか、素早く抑える。
そして、もちろん、そんな二人にひじ鉄するのは、真子だった。


開園時間となった。
ゲートをくぐったお客たちは、いち早く、キャラクターの所へ駆け寄ったり、 待ち時間の多そうな場所へ目指して走り出したり…。入り口のところで写真を撮ったり、既にお土産屋へと入っていたり…。
真子はというと、先程のアヒルのキャラクターの側に駆け寄っていた。

「ねぇねぇ、写真撮ってぇ〜!!」
「はい」

むかいんが、カメラを手に、真子とアヒルのキャラクターのツーショット写真を撮った。真子は、アヒルに抱きついていた。

「堪能しましたか?」
「うん。ほな、いこかぁ」

真子は、張り切って一番初めに予定していた所へ目指して歩き出す。もちろん、真子がアヒルのキャラクターと戯れていた時も、予定の場所へ歩き出した時も、カップル、ランドマニアっぽい男、若い女性二人、十歳くらいの男の子とその両親、大学生風の男性が二人とその彼女らしき女性が二人、そして、おじさんとおばさんが十人ほど居る団体も、ゾロゾロと付いてきていた。
そんな異様な周りに気が付いているのかいないのか、真子は、一番初めに予定していた場所へ到着した。既にたくさんの人が並んでいた。
『10分待ち』

「10分かぁ。ま、短い方だね。ここはねぇ、3Dの画像を楽しめる
 ところなんだよぉ。もぉ、目の前に、現れるんだからぁ。驚くでぇ」

真子は、嬉しそうにまさちん達に話していた。
そして、待っていた人たちが、入り口で、特製眼鏡を受け取り、中へと入っていく。
真子は、出口の近くに腰を掛けた。真子を挟むように右にまさちん、左にくまはち、むかいんとぺんこうは、真子の前の席に腰を掛け、真子の後ろには、真北が座った。そんな真子達を囲むように、むかいんの隣に、ランドマニアっぽい男が、ぺんこうの隣には、若い女性二人、十歳くらいの男の子とその両親は、くまはちの隣、大学生風の男性二人とその彼女らしき女性二人は、真北の隣に座った。そして、おじさんとおばさんが十人ほど居る団体は、入り口付近に固まって座っていた。
場内が暗くなって、イベントが始まった……。




「おもろかったぁ〜、くまはちが」
「思わず…構えてしまいましたよ…」

どうやら、目の前に迫ってきた映像に、くまはちは、反応して、戦闘態勢に入るところだったようだ…。

「楽しかったでしょ?」
「えぇ。次は、どこですか?」
「えっとね…宇宙旅行」

真子は、出口のすぐ側にある建物を指差していた。

「暗闇の中を駆け抜けるジェットコースターってとこかな。
 凄く綺麗なんだよぉ」

真子は、そう言いながら、その建物へ向かって歩き出す。建物に通じるエスカレーターにくまはちが、先に乗った。続いて真子、まさちん、むかいん、ぺんこう、真北。それから、カップル、若い女性二人、大学生風の男性と女性の四人組が、続いて乗ってきた。
案内のおねぇちゃんに言われるまま、乗り物に乗り、いざ、出発!
緑色の閃光に引き込まれるように進む乗り物。そして……!!




「頭がもげるかと思いましたよ…」

そう言ったのは、くまはちだった。

「いくら、暗闇で見えないとは言え、あんな鉄骨だらけのところを
 猛スピードで駆け抜けるのは、恐ろしいですよ」
「…やっぱり、夜目も利くんだね、くまはちも…」
「も…って、御存知だったんですね?」
「そだよ。理子と来た時、めっさ怖かったもん。その恐怖、私だけじゃ
 もったいないでしょ?」
「もったいないことありませんよ」

真子とくまはちは、愉快に話ながら、外へ出てきた。
出口付近のお店の前に、おじさんとおばさんの団体が、たむろしていた。

「次は?」
「あれ!」

ぺんこうの質問に、嬉しそうに指を差す真子。
そこは、色々なキャラクターの住まいがある『トントンタウン』。
しかし、そこは、かなりの待ち時間を要する為、真子たちは、建物を観てるだけだった。そして、真子達が、次に向かう場所は、世界の館だった。
世界の国々を楽しめるこの館。
わくわくしている真子とは全く違い、まさちんたちは、少し、戸惑う感じで入っていった。

こればかりは、似合わないやろ…。

それぞれが、思っていた。
そんなまさちんたちとは、正反対に、ランドマニアっぽい男、若い女性二人、十歳くらいの男の子とその両親、大学生風の男性が二人とその彼女らしき女性が二人、そして、おじさんとおばさんが十人ほど居る団体は、わいわいと騒ぎながら、入っていった。




「次は、ゴーストマンションだよ! ここがまた、おもろいでぇ」

真子は、にやりと笑いながら列の後ろに並んだ。もちろん例の団体さんも…。
入り口を入ると、そこは、不気味な部屋。どこからともなく聞こえてくる声に耳を傾ける真子たち。その中で真北だけは違っていた。例の団体さんに、

「…後ろをついて回ってるだけだと、仕事にならんやろ!」

ボソッと呟いた。

「すみません…。この部屋を出る時に、前に行きます」

そう言ったのは、大学生風の男性と女性のカルテット。言ったとおり、部屋を出るとき、真子達を脇から抜くように歩き出し、真子の前にやって来た。真子は、そんな事は全く気にせず、むかいんとぺんこうと並んで歩いていた。くまはちとまさちんが、周りを見渡しながら、真子の後を付いていく。まさちんは、小声で、後ろを歩く真北に尋ねる。

「他に、誰が?」
「こいつらは、同じホテルに泊まる奴らだよ。他のものは、ゲートの
 辺りから、反対方向に回っている。これから組長が向かうところで
 警戒中だよ」
「ったく、楽しんでいるのか、いないのか…」
「俺は、楽しんでいるさ」

真北は、微笑んでいた。そして、真子、むかいん、ぺんこうの三人と真北、まさちん、くまはちの三人に分かれて、乗り物に乗った。




出口付近に、少しガラの悪そうな男達が、五人、たむろしていた。建物から出てきた真子達をちらりと見る男達。それに反応したのは、くまはちだった。真子は、全く気にせずに、通り過ぎていた。男達の目線は、真子をとらえていた。

「…あいつら…」

くまはちは、呟いて、雰囲気を変えた。しかし、それは、直ぐに、楽しむくまはちに変わる。
真北を見て、一礼する男達の姿で素性を把握し、警戒を解いた。真北は、男達に、軽く手を挙げて、真子達の後を追って歩いていった。

「真北さん、あいつらもですか?」
「あぁ。一般市民の姿だけだと、なんとなく怪しいだろ?」
「ああいう方が、かえって怪しいですよ。頭下げなかったら、
 私、向かってましたよ」
「くまはちぃ〜」

真北は、困ったような表情で、くまはちを観て、ため息を付く。

「その雰囲気、この三日間は、捨てろって…。あいつらを
 見習えよなぁ〜」

真北は、顎で、むかいんとぺんこう、そして、まさちんを差した。三人は、真子に感化されたように、楽しくはしゃいでいた。

「…やはり、俺には、向いてませんね…」
「そんなこと、ないぞ。ほら」

真子が振り返って、手招きしていた。なかなか近づかない真北とくまはちに業の煮やしたのか、歩み寄ってくる。そして、真北の手を引っ張って、かわいらしい建物に向かって歩いていった。

「あ、あの、その、そこは、私には……」

なぜか、戸惑う真北。

「ここは、二人乗りなの。ペアメンバーは、既に決まってるから!」
「そう言われましても、おい、まさちん!」
「私は、くまはちとですよ」

まさちんは、くまはちの手を両手に包み込むように握りしめた。

「だったら、むかいん!!」
「私は、ぺんこうとペアです」

むかいんとぺんこうは、腕を組んで、なぜかポーズをとっていた。

「さよか…」

真北は、四人の行動に、呆れたのか、項垂れて、首を振る。

「真北さんも、楽しんでよね」

真子は、真北の顔を覗き込むようにして、微笑んだ。

「そうですね。では、参りましょうか」

真北は、腕を真子に差し出した。

「うん」

真子は、嬉しそうに微笑み、真北と腕を組み、入り口へ向かって歩いていった。
まるで、恋人同士のように…。

ランドマニアっぽい男、若い女性二人、十歳くらいの男の子とその両親、大学生風の男性が二人とその彼女らしき女性が二人、そして、おじさんとおばさんが十人ほど居る団体、それぞれが、真北の意外な一面を観て、驚いたような表情をしていた。しかし、それは直ぐに、優しい表情へと変わった。
真子と真北の雰囲気が、あまりにも、温かかったのだった。

心が、和む…。



その後、真子は、ペアになる乗り物ばかり乗っていた。その間、真子は、凄く嬉しそうな表情をしていた。それは、みんなで楽しもうと言っていた時の嬉しそうな表情とは、違っていた…。

幼い頃に、もっと、こうして楽しい時間を過ごせばよかったな…。
あの事件さえ、なければ…。恐らく、こうして……。

「真北さん、どしたん?」

トロッココースターを乗り終え、出口に向かって歩いている時、真子は、真北の哀しそうな表情に気が付き、声を掛けた。

「真北さん…。…だから、今、こうして楽しい時間を過ごしてるんだよ!
 真北さんも、もっともっと、楽しんでよね!」

真子は、真北と腕を組み、優しく微笑んでいた。

「…真子ちゃん…」
「真北さんが、ハメを外すとこ、観たいもん!」
「そういうことですか…。では、お言葉に甘えて…!!」

真北は、真子を抱きかかえ、突然走り出す。

「うわぁ、真北さん!!」

真北と真子の雰囲気に少し嫉妬を覚えているまさちんとぺんこうは、突然走り出す真北を追いかけた。もちろん、例の団体さんも…。

真北は、見事に、まさちんたちを撒いた。人通りも少なく、真子と二人っきりになった真北は、ベンチに真子を座らせる。

「急にどしたの?」
「二人っきりになりたくてね」

真北は、真子に微笑んでいた。それは、いつも見せる真北の優しさ溢れる微笑みではなく、恋人に見せるような特別な微笑みだった。

「真北…さん?」

真子は、戸惑いを見せた。

「えぇ、アイスぅ〜。アイスは、どうですかぁ〜」

アイス売りの声が側を通っていた。真北は、そのアイス売りに目をやった。

ガックゥ〜。

真北は、肩の力を落とす。

「アイス、どうですか?」
「バニラがいい!」
「わかりました。お兄さん、バニラ二つね」
「まいどありぃ」

真北は、アイス売りに近づき、アイスを受け取った。

「ったく、お前まで、来てるとはな…原…。仕事は?」
「これですよ」

アイス売りになっているのは、なんと、原だった。見事に変装している為、真子は全く気が付かなかったが、見慣れている真北は、気が付いた。

「おねぇちゃん、恋人と楽しんでる?」
「えっ? …はい。楽しいですよ!」

真子は、アイス売り・原の言葉に、元気良く返事をした。

「300円です。ありがとうございましたぁ。アイスぅ〜アイスぅ!」

アイス売りは、真北からお金を受け取った途端、仕事に戻る。
真北は、去っていくアイス売り・原の後ろ姿を見届けながら、真子にアイスを手渡した。

「ありがと。おいしそうだね」

真子は、アイスの袋を開け、一口頬張った。真北も同じように頬張る。

「おいしぃ!!!」

真北と真子は、同時に叫んでいた。

「真北さん」
「はい」
「…あのことが遭ったからこそ、今があるんだと思うよ。だから…、
 これからは、哀しいことは考えないでね」
「…真子ちゃん……」
「ごめんなさい…読んじゃって…」
「気になさらないでください」
「うん」

二人は微笑み合い、アイスを食べていた。
その頃……。

「アイスぅ〜。アイスぅ〜」

アイス売り・原が、真子達からかなり離れた場所に来ていた。そこは、なぜか、騒がしかった。たくさんの人が、キョロキョロとして、誰かを捜している様子…。その中に、まさちん、ぺんこう、くまはち、むかいんの四人も含まれていた。その四人が、ふと、アイス売りに目をやった。

「組長と真北さんは、何処!?」

四人は、同時にアイス売りに尋ねてくる。

「は、はぁ?」

アイス売りは、とぼけたが、四人の言葉に、正直に応えるしかなかった。

「…原さぁん…。知ってるんでしょう?」
「ば、ばれた?!」
「すぐに解りますよ。で、見かけたんでしょう?」
「あちらの、人通りの少ない場所です。…って、あのね…」

原が言い終わるよりも先に、走り出す四人…と、例の団体さん。

建物の角を曲がろうとした時だった。先頭を走っていたまさちんが、歩みを停めた。

「ぐわぁ!! 急に停まるなぁ!!」

まさちんに続いて走っていたくまはち、むかいん、ぺんこうが、それぞれ、ぶつかってきた。そんな四人に続いて駆けてきた団体さんは、何事もなかったような感じで、辺りに散らばった。

「まさちん、どうした?」

ぺんこうが、尋ねた。

「…くまはち、むかいん、ぺんこうを連れて、去れ!」
「…OK」
「ぺんこう、悪い!」

くまはちとむかいんは、まさちんに言われるがまま、ぺんこうの腕を抱きかかえるようにして、その場を去っていった。

「な、な、なんやねん!!!」

ぺんこうの声が、遠ざかっていった。
まさちんが見つめる先。
それは、誰も寄せ付けないような雰囲気を醸し出す恋人同士の真子と真北だった。アイスを頬張ろうとした真北は、真子に邪魔されて、頬にアイスを付けてしまった。それを優しく指で拭う真子は、指に付いたアイスを口に運んでいた。
二人は、微笑み合っていた。


「…近づきにくいな」

そんな二人を見つめるまさちんは、フッと笑って、その場をそっと去っていった。



「今頃、探し回ってるやろね」
「そうですね。これ、食べ終わったら、戻りましょうか」
「…どうやって見つけるん?」
「私達が見つかりますよ」
「そっか。じゃぁ、ゆっくりと食べようっと」
「意地悪ぅ」
「それは、真北さんの方!」
「いいや、組長の方です」
「真北さん!」
「組長です!」

二人は、そんなやりとりをしながら、アイスを食べ終わった。




ぺんこうは、ふてくされて、座っていた。そんなぺんこうを見下ろすかのように見つめるむかいんとくまはち。そこへ、まさちんがやって来た。

「まぁぁさぁぁちぃぃぃんっ!!」

ぺんこうは、まさちんを観た途端、立ち上がり、胸ぐらを掴み上げる。

「一体、何を観たんだ? あ?」
「そうやってお前が怒ると思ってだなぁ」
「何も知らない方が、怒るわい!!」

ぺんこうは、まさちんに蹴りを入れた。まさちんは、それを受け止め、ぺんこうを後ろ手にする。

「俺らは、俺らで楽しもうやぁ」
「…組長が、心配や!!」

ぺんこうは、腕を返し、反対に、まさちんを後ろ手にした。

「真北さんが、一緒やったら、安心やろが」
「それが、一番心配なんや!」

まさちんは、腕を返し、ぺんこうの手をはねのけた。
二人は、にらみ合う……。

ガシュ!ガシュ!

「てめぇら、ええかげんに…せぇよぉ」

むかいんが、まさちんとぺんこうの胸ぐらを掴みあげ、怒り混じりの声で言った。

「す、すみません!!! 仲良くします!」

まさちんとぺんこうは、お互い引きつった笑顔で、むかいんに言った。
むかいんは、二人から手を離し、ため息を付く。
そんなやりとりをカップル、ランドマニアっぽい男、若い女性二人、十歳くらいの男の子とその両親、大学生風の男性が二人とその彼女らしき女性が二人、そして、おじさんとおばさんが十人ほど居る団体は、修羅場となるのかとハラハラドキドキしながら、観ていた。

「そんなことより、そろそろいこや」

くまはちが、その場の雰囲気を切り替えるかのように言った。

「そうやな。いこか。アイスも食べ終わったころやろ」

まさちんの言葉に、ぺんこう達は、真子と真北の居る場所目指して歩き出す。親子の家族、大学生風の男女カルテットが、まさちんたちを追うように歩き出した。




まさちんたちの向こうから、真子と真北が腕を組んで歩いてきた。真子は、指を差していた。

「急にどちらに行かれたんですかぁ。ったくぅ」

まさちんが、ふてくされたように尋ねる。

「ごめんごめん。ちょっと遊びたかったんだもん。ね、真北さん」
「私は、遊び疲れてしまいました」
「それより、次は、どちらに?」

くまはちが、真子に尋ねた。

「…ご飯!!」

真子は、叫ぶように言った。

「では、ホテルへ戻りましょうか」

真北が、周りに聞こえるような声で言った。

「あのね、あのね、再入場のスタンプをここに押してもらえるねんで。
 ヒヤッとして、気持ちいいでぇ」

真子は、ぺんこう達に、話ながら、ゲートへと向かって行った。

「二時間くらいしてから、戻ってくるよ。それまで、みんなに
 楽しむように伝えてくれるかな」
「はい。ありがとうございます」

真北は、ランドマニアっぽい男の人に、さりげなく話しかけ、何事もなかったかのように、真子達の後を追っていった。
男は、周りの刑事達に、真北の言葉を伝えていた。

「二時間休憩」

それぞれは、あちこちに散らばっていった。





真子達は、シャレトルンホテルへと戻ってきた。ロビーで預けていた荷物を受け取り、まさちんは、チェックインをする。ホテルマンに案内されながら、エレベーターホールへ向かっていった。

「お客様は、確か、以前、こちらにお泊まりになられましたよね?」
「あー! あの時のお兄さん」
「お元気そうで」

ホテルマンと真子は、まるで、知り合いのように話し始めた。

「また、何かやらかしたんですか?」

まさちんが、真子に尋ねた。

「確か、一緒に来られた女の子が、大変だったんですよね」
「そうそう。理子って言うんだけどね、理子が、ロビーで思いっきり
 こけたし、その時に、財布も落として、お金ばらまいた」

真子の話に、くまはちは、思い出したのか、吹き出して笑っていた。

「所持金を一円単位まで、きっちりと言われて、探し回りましたから」
「覚えておられたんですね…。その節は、お世話になりました」
「いえいえ。再び、宿泊していただきまして、こちらこそ、
 ありがとうございます。んー、今回は、大勢ですね。
 ご家族ですか?」
「はい。父と兄たちです」

真子は、笑顔で応えた。そして、エレベータはスペシャルルームのある最上階に到着した。ホテルマンに案内されて、真子達は、スペシャルルームへ入っていく。

「…………普通の部屋でええのに…純一はぁ」

真子は、ため息を付いた。
スペシャルルーム。
そこは、名前の如く、特別な部屋。かなり広く、一軒の家かと思えるほど。男五人と女一人が二泊三日するには、もったいないくらいの部屋だった。
ホテルマンは、荷物を部屋の隅に置き、そして、一礼して、部屋を出ていった。
真子は、部屋を探検するような感じで、バスルームや、寝室を覗き込んでいた。
ベッドは三つ。
ということは……。

「…取り合いやね」

真子は呟いた。真子と一緒に探検していたまさちんが、

「二人で一つってことですね」

普通に応えた。

「…そだね」

真子は、何も考えずにまさちんに相づちを打つ。

……って、あれ?
六人……って、一人は組長…女性だよな…。
ん???? ということは、
真子と一緒に寝るのは…誰???

考え込むまさちんだが、当の本人・真子は、その事に気付いていない様子。それどころか、

「荷物も置いたし、ご飯行こうよぉ」

真子は、だだっ子のように、真北たちに訴えている。

「行きましょう」

真北の言葉と同時に、真子達は、部屋を出て、ホテル内にあるレストラン街へと降りていった。



(2006.4.15 第四部 第十五話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
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 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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