任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第四部 『新たな世界』

第十六話 真北家の家族旅行・初日の午後

昼食後。
真子達は、再入場のスタンプを見せて、再び、キャラクターランドへと入っていった。

「次は、こっち回りねぇ」
「どれを観るんですか?」

ぺんこうが、真子に尋ねた。

「海賊船に乗るのぉ。すんごいよぉ。まるで生きているような感じの
 人たちが、唄ったり、踊ったり、ご飯食べたりするんだからぁ」
「楽しみですね」
「驚いたらあかんでぇ〜」

そして、真子達は、海賊船に乗った……。




真子達が、出口に姿を現した。ぺんこうは、首を傾げている。

「生きたような人たちが、唄ったり、踊ったりは、わかりますが…、
 ご飯は……。あれは、お店じゃなかったんですか?」
「えっ? だって、ちゃんとテーブルがあって、お客が居て、そんで
 食事を運んできてたやん」
「…あれは、ほんものの料理店ですよ」
「…ほんと?」

真子は、後ろを歩いているくまはちたちに振り返り、声を掛ける。

「料理店でしたよ」

くまはちたちは、声を揃えて応えた。真子は、首をすくめて、

「リアルだなぁって思った……」

照れたように言った。
ぺんこうたちは、そんな真子を観て、微笑んでいた。

「次は、どれですか?」

むかいんが、話を切り替えるかのように、真子に尋ねる。

「…お城ぉ」

真子は、ランド中央にそびえ立つお城を指差していた。

「あっ、私は、パスします」

真北が、突然言った。

「えっ、どうしてぇ」
「先程、食べ過ぎたようで、苦しくて。ですから、出口付近のベンチで
 座ってます」

真北は、誤魔化していた。

「そんなこと言って、ほんとは、もう、疲れたんとちゃうん?」
「少し……」
「ったくぅ。まさちん、ぺんこう、くまはち、むかいん…どう?」
「まだまだ、大丈夫ですよ」

まさちんは、にっこりと笑って応えた。

「楽しみですよ」

お城を見上げながら笑顔で応える、ぺんこう。

「…大丈夫ですよね?」

くまはちは、何かを警戒した様子。

「どんな感じなんですか?」

むかいんは、わくわくした表情で真子に尋ねた。

「入ってからのお楽しみぃ!! ほな、真北さん、行ってきます!」
「無茶はしないでくださいね」

真北は、真子達を見送って、別の場所へ向かって歩き出した。

「なんだよぉ。ったく」

真北は、池を眺める男性に声を掛けた。

「すみません。情報が入りましたので」

真北が、パスと言ったのは、この男が、真北の前に姿を現し、軽く会釈し、

『緊急です』

と口を動かしたの事に気が付いたからだった。

「こちらに来られていることが、知れ渡っている様子です。
 それぞれが、動き出したとの情報が入りました」
「そうか」

真北は、短く返事をし、ポケットに手を突っ込んで口を尖らせた。そして、池の中を泳ぐ本物のアヒルの群を見つめ、呟いた。

「阻止…できへんか?」
「……やってみます」

男は、そう言って、真北に一礼し、去っていった。真北と男の様子に気が付いたのか、私服刑事たちが、真北に走り寄ってきた。

「真北さん、何か…」
「ん? あぁ、今のところは、大丈夫だから。…ゆっくり楽しんだか?」

真北は、微笑んでいた。

「ありがとうございます。仕事がてら、色々と楽しんでおります」
「お嬢さんも、楽しそうで」
「今のところ、異常はありません」
「取りあえず、あちこちにばらけて、見張っております」

ランドマニア、女性二人、少しガラの悪そうな五人組、大学生風カルテットが、それぞれ、真北に伝えていた。

「…頼んだぞ」
「はっ」

真北に一礼した後、それぞれの行動に移っていく。
真北は、てくてくと歩き出し、お城の出口付近で、真子達を待っていた。





「剣さばきは、ぺんこうが一番だよね」
「さぁ、どうでしょう。長いこと持ってませんから」
「まさちん、観たことないでしょ? ぺんこうの姿」
「そうですね。まぁ、派手な服は観ましたけど」
「あぁ、あの時ぃ、むかいんに停められたっていう日?」
「えぇ」
「すごいんだからねぇ、ぺんこう」
「未だ、覚えておられるんですね」
「目に焼き付いてるもん。山中さんとの勝負。実はね、あの時、
 ぺんこうの姿を思い出しながら、勝負したんだぁ」

真子は、剣を持つ仕草をして、一太刀振り下ろした。

「みんなを驚かしてしもたけどね」
「ほんと、あの時は、ひやひやしましたよぉ」

まさちんが、思い出したような表情で真子に言った。
真子達が話している剣の話。
それは、お城のイベントの最後の方で、繰り広げられたシーンを観て、真子が、ぺんこうの昔の姿を思い出した。そのまま、話が弾み、真子と山中の勝負の話へと進んでいた。
真子と山中の勝負。
それは、真子のためを思い、組員一同が、真子に内緒で、真子をこの世界から引き離そうと、無茶な行動に出た時の話。
そんな話をしながら、出口にやって来た真子達は、出口付近でたいくつそうに座り込んで、辺りを見渡している真北に近づいた。真子は、真北の目線に合わせるようにしゃがみ込む。

「お待たせ」
「楽しかったですか?」
「うん。ぺんこうの、剣さばきの話もしてたんだ」
「剣?」

真北は、ぺんこうを睨み上げた。

「ちゃうちゃう。話だけだって。これのね、最後に出てくるシーンを
 観て、思い出しただけなんだよ」
「そうですか。私は、また、てっきり……」
「しませんよ」

ぺんこうは、真北の言葉を遮るように、少しドスを利かせて言った。

「次は、どちらに?」

くまはちが、異様な雰囲気を変えるように真子に尋ねる。

「水関係を全て回るよぉ!」
「…濡れる……」

真子の言葉に、くまはちが、呟くように言った。

「だぁいじょうぶだって。びしょ濡れにはならないから。ちびぃっとだけ
 水が掛かるくらいだから」
「…なら、大丈夫ですね…」
「ったくぅ、乱れるのん、嫌がるんだからぁ、くまはちはぁ」

真子は、くまはちをからかうように言い、先頭きって、水関係の乗り物のある場所へ目指して歩き出した。




「私が、ここ!! って言ったら、みんな、ポーズ取ってね」

真子が、乗り物に座った時、まさちんたちに言った。

「何があるんですか?」
「写真だよ。落ちる瞬間を撮られるからね」
「は、はぁ…」

もちろん、真子達六人が、同じ乗り物に乗り、出発。
この乗り物。
以前、理子と来た時に、何度も乗ったものだから、真子は、みんなに案内をしていた。
そして……。

ガァーーーーー

「ここ!!」
「ニッ!」

パシャッ! ザッザァン!…………ピチョ…。



真子は、写真館の前に駆け寄った。そして、自分が映っている画面を見て、指を差し、笑っていた。

「みんな変な顔ぉ!! すみません、85番を6枚」
「ありがとうございます。2分ほどお待ち下さいませ」

店員は、現像を始めた。

「1枚でよろしいかと…」
「あかんあかん。一人一枚持ってるの。こんな表情、滅多にないやん。
 向こう行っときぃ」

真子は、まさちんたちを写真館から離れるように促した。真子は、写真館のカウンターの前で、店員さんの仕事をじっと見つめていた。待っている間も、他の客の見事な表情をとらえた画像が、現れていた。

「お待たせ致しました。消費税込みで4800円です」
「はぁい」

真子は、財布を出し、お札を差し出した。

「200円のおつりと写真です。ありがとうございました」
「また、来ます!」
「お待ちしております」

真子は、店員と笑顔で挨拶を交わし、まさちん達のところへ走っていった。

「お待たせぇ」
「組長ぅ、支払いは、私が…!!!! うがっ! ほげっ……っ!!」

まさちんが、真子から、蹴りをもらう。しかし、真子だけでなく、真北、ぺんこう、くまはちからも、蹴りや拳を体にもらっていた…。

「禁句や言うたやろ!!」

真北、ぺんこうが、声を抑えるように怒鳴る。

「す、すみません…」
「ったく。取りあえず、私が持っておくね。部屋に戻ったら、
 渡すからね。まさちん、たまには、私が払ってもええやん」
「は、はぁ…まぁ。ありがとうございます」

恐縮したように、まさちんは応えた。

「ほな、次行くでぇ!」
「どれですか?」
「再び、トロッココースター! 次は、ペアを替える!」

真子は、張り切っていた。そんな真子につられるように、張り切るまさちん達は、トロッココースターの入り口に向かって歩いていく。

真北とぺんこうが、言った『禁句』とは、人混みの中で、真子のことを『組長』と呼ばないことだった。




「いえぇい!!!!」

真子とむかいん、くまはちとまさちんがペアになって、トロッココースターに乗っていた。その二人を見つめるのは、真北とぺんこう。二人は乗らずに、別の場所で真子達を見ていた。二人の側を通り過ぎた時、真子は、手を振っていた。真北とぺんこうは、真子に手を振り返す。

「…ったく後ろの二人、つまらなそうやなぁ」

真北が、呟くように言った。

「ただ、疲れてるだけでしょう」
「という、お前は、乗らんでも、よかったんか?」
「あなたと二人並んで乗っても、おもしろくないでしょう?」
「乗らんでも、二人っきりやで」
「それは、そうと、朝は、組長と二人っきりで、何を?」
「気になるんか?」

真北は、にやにやと笑っていた。

「やな笑い…」

ぺんこうは、真北を睨む。

「恋人同士に文句あるんかぁ?」
「親子関係は?」
「さぁ、どうなったんかな」
「…ハメ、外しすぎですよ」
「お前こそ、真面目が抜けてないなぁ」
「それが、私ですから」

ぺんこうは怪しげに微笑み、そして、出口にやって来た真子達の姿を観て、歩き出した。

「ペア、替えましょう」

ぺんこうが、言った。
真子は、ぺんこうの言葉に含まれる気持ちを悟ったのか、大きく頷いた。

「うん。次は、ぺんこうと私でね。宇宙旅行!」
「ま、またですか??」

くまはちが、言った。

「ほとんど廻ったから、乗りたい人だけっつーのでどう?」
「そうですね。お前ら、疲れたんやろ?」

ぺんこうは、まさちんとくまはちに言う。
その言葉には、裏がある…。

「疲れてる様子だから、私と、二人でってどうですか?」

ぺんこうは、真子だけに話しかけた。

「そだね、そうしようっか。むかいんは?」
「私も休憩します。待つだけでくたびれてしまいましたから」
「ほな、各自、自由行動ってどう? 私は、ぺんこうと廻るね」
「どうぞ」

まさちんとくまはちは、同時に応えた。

「ほな、いこ!」
「はいぃ〜」

ぺんこうは、少し離れたところに居る真北をちらりと見て、そして、真子と腕を組んで去っていった。
残された四人。

「何する?」

まさちんが、呟く。

「さぁ、なぁ」

くまはちが、言った。

「くまはち、以前来た時、ええなぁと思ったとこないんか?」

むかいんが、真子から預かったガイドブックを手に取りながら、尋ねた。

「今まで廻ったとこ全部やな」

くまはちは、むかいんから、ガイドブックを取り上げ、広げた。

「ここで、休もうか」

くまはちが、指差した所。そこは、お城前の広場だった。

「そうやな。真北さんも、どうですか?」

むかいんが、後ろに居る真北に声を掛けた。

「ん? 俺はいいや。見回りしとくよ」

少しふてくされたように言う真北。そんな真北を見つめる三人は、真北の心境がわかったのか、それ以上何も言わなかった。

「では」

そう言って、まさちん、くまはち、むかいんの野郎三人と真北は、別行動に移った。三人が、歩いていく姿を見送った真北は、周りを見渡した。あちこちに、私服の刑事が点在している。

「もしかしたら、今日の客のほとんどが…。まさかなぁ」

真北は、呟きながら、真子とぺんこうが向かった宇宙旅行のコースターの場所へ向かって歩き出した。
やはり、気になるらしい…。




真子とぺんこうは、入り口のエスカレーターを登っていた。
二人は、まるで、恋人同士…。
そんな二人の姿を見つめる目があったことに、この時は、誰も気が付かなかった…。





「何度乗っても、楽しいやろぉ?」

二度目の宇宙旅行コースターを乗り終え、出口に向かって歩いている真子が、一緒に乗ったぺんこうに、爛々と輝く目で話していた。

「くまはちが言うのも解りますよ。ほんとに鉄骨が見えました」
「そこがまた、恐怖をそそるんだよぉ」
「あのね…」

真子とぺんこうが、出口から出てきた。

「次は、どこへ?」
「ぺんこうは、どれがいい?」
「う〜ん。少し休憩を」
「さっき真北さんと休んでたのにぃ。もう、あかんの?」
「乗り物ばかりでしたから」
「もしかして、弱い?」

真子は、心配そうにぺんこうに尋ねた。

「これでも、体は弱い方でしたから」
「…そうでした……」

真子とぺんこうは、微笑み合っていた……が……。

「!!!!」

その表情が一変する。
二人に近づく男が三人。その手には、銃が握りしめられていた。

「ちょっと来てもらおうかなぁ、阿山真子さん」

にこやかな表情で、真子にそっと告げた男達。そして、顎で、

歩け。

と指示をする。そして、真子の廻りに居る他の客に気付かれないようにと、男達は、客を装って、真子に何かを尋ねる感じで、真子とぺんこうを半ば押すような感じで、人通りの少ない場所へ歩いていった。





くまはちとまさちん、そして、むかいんは、お城の前にある広場のベンチに腰を掛けて、ランド内の客を見渡していた。

「家族やカップルか…」

むかいんが、呟く。

「どうしたん?」

まさちんが、尋ねた。

「いや、客層を見てたんや。友達同士っつーのも多いけどな、
 家族やカップルが目立つなぁって、思ってさ」
「見てるとこちゃうなぁ。流石、接客業」
「まさちんは、何見てたんや?」
「女」
「おいおい…」

そんな話をしている男三人に、近づく女性三人。
OL風の仲良し三人組。有給休暇を取って、遊びに来ているようだった。

「すみません、写真撮ってくださいませんか?」

眼鏡を掛けた女性が、声を掛けてきた。

「いいですよ」

そう言って立ち上がったのは、むかいんだった。その眼鏡の女性からカメラを受け取った。

「何処をバックにしますか?」
「あれ」
「はぁい、並んで下さいね」

笑顔で応対するむかいん。その光景を見ているまさちんとくまはち。

「ほんまに、接客業に向いてるやっちゃなぁ」

まさちんが、言った。

「そうやな、ぴったりや」

写真を取り終えたむかいんは、笑顔でカメラを女性に返す。

「あの、もしよろしければ、一緒に、廻りませんか?」

すらりと背の高い女性が、ベンチに座るくまはちに声を掛けた。

「は?」

くまはちは、睨むように返事をした。そんなくまはちの視界を遮るように、まさちんが、立ち上がり、女性達に微笑み返す。

「折角のお誘い、嬉しいんですが、私達は、ここで、一緒に来ている
 三人を待っているんですよ」
「三人…?」
「えぇ。あなたたちと出逢う方が先だったら、お応えするのですが、
 申し訳ありません」
「あっ、いいえ、その、こちらこそ、すみませんでした。
 ありがとうございました」
「お気をつけて」

まさちんは、去っていく女性達を素敵な笑顔で見送り、振り返った。

「……助かったな、あの娘たち」

呆れたような表情で、まさちんを見るむかいんとくまはちは、同時に呟いた。

「流石、女には、手が早いまさちんや…」

くまはちが、付け加える。

「お前みたいに、誰彼かまわず睨んでいたら、ほんまに
 嫌われるぞぉ、女に」

まさちんが、嫌味ったらしく口にした。

「俺は、かまへん。組長に仕える身、だからな」
「そうかいな」

まさちんとむかいんは、同時に呟いた。

「…!!!!」

突然、何かに反応して、三人は、立ち上がる。そして、一点を見つめ、その場所へ駆けだした。
三人が駆けだした方向。そこには、宇宙旅行コースターのある所……。





ガシュ!ガシュ! ガシュ! …ドサッバサッ……。

「ふぅ〜」

パチパチパチパチ!!!

真子は、拍手を送っていた。拍手を送られる人物。それは、服を整え、何かを見下ろすぺんこうだった。拍手に振り返ったぺんこうは、ため息を付く。

「あの、組長、拍手するほどのものでは…」
「するよぉ。流石、格闘技マスターぺんこう!!すごいすごい!!
 あっという間だったよぉ。私、瞬きするのやめたくらいだったぁ。
 ほんと、すごいすごい!!」

いつまでも、拍手をする真子と何かを移動させたぺんこう。
そんな二人が居る場所は、建物と建物の隙間の人気が全くない所。そして、ぺんこうが、移動させた何か…それは、銃を向けていた男達三人だった。壁に寄りかかるように座り、気を失っていた。それぞれの腹部の辺りには、靴の跡がくっきり。

「さて、行きましょうか」

慣れた感じで、ぺんこうが言う。

「いいの?」

真子は、三人を指差していた。

「そのうち、気が付くでしょう。ま、夜くらいだと思いますから、
 体を冷やさなければいいんですがね」
「ふ〜ん。しっかし、凄いなぁ」
「感心される程ではありませんよ」
「ずっと狙ってたんかなぁ。まさちんたちから私が離れるのを
 待っていたとか」
「一緒に居るのが、私だから、警戒しなかったんでしょうね」
「だろうね。恐らく、リストにないんだよ。教師だから」
「…教師かぁ?」

真子の言葉に返答するのは、まさちんだった。

「まさちん、くまはちに、むかいんまで、どしたん?」

真子は、人通りの多いところに出てきた途端、声を掛けられ、それが、まさちんだったということに、驚いた様子。

「いや、その、気を感じまして…」

まさちんが、呟くように言った。

「もしかして、…の?」

真子は、ぺんこうに指を差す。もちろん、まさちん達は、頷いた。

「…かなり殺していたんですけど…」

ちょっぴり恐縮そうに、ぺんこうが言う。

「ほんの一瞬だけどな」

くまはちが、言った。

「…ま、それは、いいとして、何処か行きましょうか」

ぺんこうは、自分たちの側に集まり始めた私服刑事達に気が付き、真子の目を何とか誤魔化そうと、視界から外すように、真子を別の場所に連れていった。

「喉乾いたぁ。騒ぎすぎたかな?」
「では、ドリンクタイムということで」

むかいんは、喫茶店っぽいところを指差した。

「賛成!!!」

真子は、むかいんの手を引っ張って、走り出す。ぺんこう、まさちん、くまはちは、のんびりと歩いて真子とむかいんを追いかける。

「ったく、まさか…なぁ。油断してたんか?」

くまはちが、ぺんこうに尋ねる。

「いいや、人通りの少ないところでないと、俺が怒られるからな」

ぺんこうは、建物の影に身を潜める人物に目をやった。
それは、真北だった。
…睨んでいる……。

「何処に居た?」

ぺんこうは、まさちんに短く尋ねた。

「お城の前」
「あんなところで、感じるんか?」
「っつーか、お前、めっさ強かったぞ」
「…蹴りに、込めてしまったよ。だから、一発」
「なるほどなぁ」
「駆けつけるの早すぎ」
「俊足だからな」

まさちんとくまはちは、同時に応えた。そして、先程の場所をちらりと振り返った。気を失っている男達三人は、私服刑事たちに、連行されていく。

「…あいつら、だけじゃないな…」

くまはちが、何かに集中したような感じで言った。

「まぁな。…ばれてるってことか」

まさちんが、先に喫茶店に入っていった真子とむかいんを見つめながら静かに言った。

「警戒しながら、その素振りを見せないように…いつも以上に
 体力がいるよな…」

ぺんこうは、ため息混じりにそう言った。

「そうだよな。…ほら、急ぐぞぉ」
「あぁ」

真子が、メニューボードの前に立って、手招きをしているのに気付き、二人は駆け出した。

「お待たせしました」

真子に声を掛ける。

「飲むんは、いつもどおりなん?」
「そうですね」
「ホットコーヒー二つ、ホットレモンティー一つ、アップルジュース一つと
 オレンジジュース一つ、お願いします」
「かしこまりましたぁ。全部で……」

財布を取り出す真子に声を掛けるまさちん。

「ですから、組ち……!!!! うぐっ……」

再び、蹴りと拳を体にお見舞いされていた。
周りに居た他の客が、一瞬、息を飲んだのが、わかった。もちろん、真子からお札を受け取ろうと手を伸ばしていたレジ係も……。

「あっ、気にしないでください。はい」
「は、はぁ。ありがとうございます……」

既にカウンターに向かっていたむかいんが、カウンターの向こうで働く人たちをじっと見つめていた。

「お待たせしましたぁ」

トレーに乗せられた飲み物を確認して、むかいんが手に取り、テーブルへ。
そこで、五人は、何も話さず、ただ、のんびりと時間を過ごす。

「なんか、疲れてへんか?」

真子が、沈黙を破るように言った。

「元気ですよ」

まさちん、ぺんこう、くまはち、むかいんは、ハキハキと応える。

「そろそろ夕方だね。今日は、疲れたから、ホテルに戻ろうか」
「夜のパレードや、花火は、ご覧にならないのですか?」

くまはちが、何が知っているような口振りで真子に尋ねる。そんなくまはちのスネを蹴るまさちんとぺんこう。くまはちは、少し慌てたような表情になった。

「明日の予定だもん。今日は、パビリオンを見て回るつもりだったから。
 全部廻ったでしょ? そだ。お土産屋さんにも、行かないとね。
 ランド内でしか、販売してないものもあるから」
「猫グッズはありませんよ」

ぺんこうが、言った。

「アヒルグッズだよぉ。あのプリティーなおしりが、たまらん!!」

真子は、にんまりと微笑む。

「あっ」

突然、真子の表情が変わった。

「な、なんですか?!」
「真北さん、何処?」
「…そのうち、逢いますよ」

ぺんこうが、ふてくされた感じで言った。

「ホテルに戻るって、連絡入れなぁ」
「はい」

くまはちが、懐から、携帯電話を取りだした。しかし、その手を掴まれる。それは、真子だった。

「ええわ。そこにおる」

真子が目をやる先。歩いてこっちに向かって来る真北の姿があった。手を振る真子。それに応えるかのように、笑顔で手を振り返す真北。

「…歳、考えろって…」

ぺんこうは、更にふてくされ、そっぽを向いた。

「ったく…」

むかいん、くまはち、まさちんが、ぺんこうの仕草に、少し呆れたような感じで呟いた。



真北は、ガラスの向こうで待っていた。

「お待たせ!」
「何か遭ったんですか?」

真北は、解っていながらも、真子に尋ねる。

「なんで?」
「ぺんこうと二人っきりのはずが、こいつらが揃ってるので」
「みんな向かう場所は一緒だったんだもん。ね」
「は、はぁいぃ〜」

真子の言葉に、煮え切らないように返事をするまさちんたち。

先程の一件、真北さんには、ばれてるんですが…。

誰もが、そう思っていた。

「みんな、疲れたみたいだからね、そろそろホテルに帰ろっか」
「そうですね。私も、あちこち歩き回って疲れました」
「確か、温泉もあったよね。そこで、ゆっくりしときぃ。ほな、行こ!」

真子の言葉に、真北たちは素直に頷き、そして、ゲートに向かって歩き出した。
真北は、近くに居た、ランドマニア男の側を通り過ぎるときに、さりげなく声を掛ける。男は、一礼して、走り去っていった。



ゲートを出てきた真子達。

「楽しかったねぇ〜。しかし、このメンバーやっぱし異様に思えたんだけど……」
「大丈夫ですよ」

真子とぺんこうが話していた。

「何を話してるんだよ、こそこそと」

ぺんこうと真子の間に割り込むように、まさちんがやって来る。

「うるさいなぁ。これからの事を話しているんだよ!」

邪険に扱うぺんこうに、

「何ぃ〜?!」

やっぱり、まさちんが……。

「やる気か?」

もちろん、ぺんこうも…。
睨み合う二人。

「もぉ〜〜っ!!!! 二人とも、何回も何回も言わせないでよ!」

その二人を引き離そうとする真子。
そんな三人を少し遅れて歩いているくまはちとむかいん、真北が、見つめていた。

「あれは、一生、納まりませんね」
「そうだなぁ」
「血ぃ見る前に、停めたれよ、むかいん」
「もう、嫌ですよ」
「あの二人を停められるのは、むかいんだけだよ」

その時だった。

「!!!!!!!」

真子達は、周りの空気が重々しいことを肌で感じ、警戒した。

「またですか……」

真子は、呆れたように、目線を移す。
そこには、銃を向けて立ちつくす男達。先程の男とは、また別の者だった。
しかし、その連中は、すぐさま取り抑えられた。

「えっ? えっ?!」

驚きを隠せない真子。
男達を取り抑える人たちは、真子がランド内のパビリオンを廻っていた時に、よく見かけたガラの悪そうな男達五人、ランドマニア、大学生風カルテット、そして、真子達を守るように囲むおじさんとおばさん達、女性二人、家族連れ、カップル……。

「そう言えば、ずっと居たよなぁ…ったくぅ、真北さんはぁ〜。
 手を回してたんだね?」
「当たり前ですよ」

真北は、誇らしげに応えた。真子はふてくされたが、まぁ、仕方ないかという表情になる。そして、真子は、周りの人たちに、深々と頭を下げ、送迎バスに乗り込んだ。

「…みんな、知ってたんでしょ?」

バスの中で、隣に座ったぺんこうに、真子は呟いた。

「えぇ」
「だから、あの時、直ぐに去ったんだね」
「そうですよ」
「みなさん…仕事してたんだね。悪いことしちゃったかな」
「仕事しながら、楽しんでおられると思いますよ」

ぺんこうの言葉で、真子は顔を上げ、ぺんこうを見る。
ぺんこうは、優しい眼差しをして、真子に微笑んでいた。
真子は、ぺんこうの手を握りしめ、

「ありがと…」

そっと呟いた。

「…明日も、楽しみましょう」

ぺんこうの優しさが握りしめる手から伝わった真子は、たくさん頷いて、窓の外に目をやった。
その目は、潤んでいた。



(2006.4.16 第四部 第十六話 UP)



Next story (第四部 第十七話)



組員サイド任侠物語〜「第四部 新たな世界」 TOPへ

組員サイド任侠物語 TOPへ

任侠ファンタジー(?)小説「光と笑顔の新たな世界」TOP


※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


Copyright(c)/Dream Dochan tono〜どちゃん!著者〜All Rights Reserved.