任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第四部 『新たな世界』

第十八話 真北家の家族旅行・二日目

シャーーーー……キュッキュッキュ。

シャワールームのドアが開き、真子が出てきた。
髪を拭きながら、ソファのある部屋へと足を運ぶと…、

「おはようございます」
「おはよぉ。よく眠った?」
「は、はぁ、まぁ」

それは、むかいんだった。むかいんは、真子の姿を見て、少し照れたように顔を背けていた。

「あっ、ごめん…。珍しく、私が一番に起きたと思ったから…」

真子は、Tシャツに短パン姿だった。

「組長、その姿、そろそろ止めた方がよろしいかと…」

ぺんこうも起きていた。

「なんでぇ」
「…ほんとに、襲いますよ」

真剣な眼差しで、ぺんこうが見つめる。

「…やってみぃ」

真子は、笑っていた。
すると、ぺんこうが、真子をソファに押し倒した。

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ!!!!」

真子の目は見開かれた。ぺんこうは、ソファに置きっぱなしになっていた真子の服を手渡す。真子は、驚きながらも、素直に受け取った。

「ったく。焦るくらいなら、そんなこと、おっしゃらないでください」
「ぷーー」

真子は、ふくれっ面。

「で、くまはちは?」
「朝のトレーニングへ」
「まさちんは?」
「朝食の予約を」
「電話でできるやん。…って、私がシャワールームに入った時は、
 みんな寝てたやん」
「組長が起きた気配で、目が覚めたんですよぉ」

むかいんが応えた。

「…あら、そぉ」
「しかし、真北さんは、まだ、寝てますよ」

ぺんこうが、言った。
真北は、本当に疲れていたのか、まだ、眠っていた。
実は、真子と一緒に眠っていた為、熟睡できなかった様子…。真子が起きてから、ぺんこうに声を掛けられたものの、まだ、眠ると返事をしていた。
なんだかんだと言って、真北とぺんこうも、阿吽の呼吸…。

まさちんが、戻ってきた。

「お帰りぃ」

真子が、笑顔で迎えた。

「組長、調子はどうですか?」

まさちんは、開口一番に真子に尋ねる。
真子は、サムズアップをして、笑顔で応えた。

「安心しました。フロントで、湿布をしこたまもらってきたんですが、
 貼り替えますか?」
「うん。まさちん、よろしく。背中は、貼りにくいやん」

真子は、ソファに横になった。しかし、まさちんは、手に持っている湿布をぺんこうに渡す。その行動に含まれている意味は解る。

「…あのなぁ」

ぺんこうは、そう言いながら、真子の服をめくり、湿布を背中に貼り付けた。

「ひんやりぃ」
「腫れもひきましたし、もう、大丈夫でしょう」
「うん。魔法の手のお陰だよ。…いて!! ぺんこう!!!」

ぺんこうは、真子の一言に反応して、背中を軽く突っついた。

「…夕べ、起きてたやろぉ」

真子は、そう言って起きあがり、ぺんこうに突っかかっていった…が、ぺんこうは、真子の攻撃を素早く避け、真子をソファに押さえつけた。

「組長の負けです」
「まだまだぁ」

その時だった。まさちんが、真子とぺんこうに近づき、ぺんこうの首に腕を掛け、後ろにひっくり返すように引っ張り上げた。

「お前なぁ〜」
「お前もいつも、してるやろぉ」
「組長は、怪我人だろ! 押さえ込む奴があるか!」
「放せって!」

ぺんこうは、まさちんの腕を掴み、じりじりと握りしめ、ひじ鉄。まさちんの腹部に入ったぺんこうのひじ鉄は、かなりきつかったのか、まさちんは、ぺんこうから、腕を放してしまった。それが合図となって、二人は、蹴り合いを始めた。
むかいんは慌てて、真子を安全な場所へ避難させた。

「もう、私は停めませんからね」
「しばらく、見てようよ」
「そうですね」

真子とむかいんは、微笑み合って、蹴り合う二人を見ていた。

「夕べは仲良く一緒に寝てたのになぁ」

真子が呟いた。その言葉に、蹴り合いが停まり、二人は、真子に目線を移した。

「な、何よぉ」
「好きで、寝たんじゃありませんよ!!」

まさちんとぺんこうの声は揃っていた。

「…ほら…息もぴったり…」

真子の呟きに、反応し、睨む合う二人。

「あのなぁ!!」

二人は、またまた同じように叫び、蹴ろうと足を上げた。

「考えも一緒」
「…くぅぅぅ〜〜!!」

バッ!!!!

二人は、お互いの胸ぐらを掴みあげ、引き寄せた。額を付き合わせて睨み合う……。お互いの目から、火花が散る…そんな予感……。

ドカッ!!!ドサッ!!

「ええかげんにせぇよぉ。お前らぁ〜」
「ま、ま、ま、真北さん!?!!!」
「ゆっくり寝てられへんわい」

寝室から出てきた真北が、睨み合う二人に蹴りを入れ、その蹴りの勢いで、二人は、飛ばされ、床に転がった。

「…額付き合わせて、何するつもりや? やるんやったら、
 寝室行って来い」
「はぁ…」
「はぁって、お前ら、本気かい!」

真北の言葉に、思いっきり首を横に振るまさちんとぺんこう。そんなやり取りを見ていたむかいんは、大爆笑。真子自身、今一よく解っていないのか、首を傾げているだけだった。

「ただいま。……って、何?!??」

トレーニングから戻ってきたくまはちは、部屋の異様な雰囲気を感じ、驚いた様子……。

「お帰りぃ、くまはち」

真子が、笑顔で迎えた。





二日目のキャラクターランド。
この日は、あちこちで行われているショーや、パレードを全部見る予定。そんなに走り回ることはないだろう…と、たかをくくっている男達。

「まずは、これ!!!」

海賊船のパビリオン近くで行われる予定の人魚ショー。開演時間は、まだなのに、既に、お客がベンチに座っている。真子は、どこに座ろうかとキョロキョロと見渡していた。

「あの辺りでどうですか?」

真北が指を差し、巧みにその場所へ真子を連れていく。
真子が腰を下ろした辺り。そこは、既に、私服刑事たちが、護衛の為に場所を取っていた所。真子は、それに気が付いているのかいないのか、真北に言われるまま、その場所に座った。


「…昨日より、増えてへんか?」
「そりゃ、そうやろ」
「ってことは、これから廻るとこ、全て、こんな感じか?」
「かもなぁ」

まさちんとぺんこうが、周りに聞こえないように話していた。
そして、ショーが始まった……。




ショーの会場入り口の近くで、人だかりができていた。
その人だかりは、塊のまま、何処かへ移動していく……。




ショーが終わり、真子は、まさちんと並んで、次の場所へ目指して歩いていた。

「綺麗だったねぇ、人魚」
「あの鱗が、また、きらきらして、素敵でした」
「一つ欲しいね」
「グッズで売ってるんじゃありませんか?」
「お店入ったら、一緒に探してやぁ」
「はぁ」

困った表情をするまさちん。

「次は、どれですか?」
「あれ!!」

真子が指を差したところ。ショー開演時間よりも早めに席を取って座っている人たちが居た。
…どうみても、私服刑事……。
真子が、入ろうと一歩踏み出した時だった。
三十人ほど集まった人たちが、真子の目の前を横切っていく。

「な、何?!」

真子は、驚いて、その場に立ちつくす…。
人だかりが去っていった。

「…なんだったん?」
「さ、さぁ」
「ま、いいかぁ。入るよぉ」
「はい」

真子が先頭切って入っていった。真北たちは、去っていった人だかりをちらりと観る。
中心部に、男が三人、口と目を塞がれて、後ろ手にされた感じで、人だかりに連れられていた。

「真北さん…」
「あん?」
「…昨日より、増えてませんか? 敵も、例の人たちも」
「ん? 気のせいやろ」

真北は、とぼけた様子。

絶対に、増えている……。

まさちんたちは、確信しながら、真子を囲むように席に着いた。
そして、二つ目のショーが始まった!



二十人ほどの人だかりが、真子達の歩く後ろの方を去っていく。



「そろそろ、パレードやん!!」

真子は、道の端々に座り込む人々を観て、パレードを思い出したように口にした。

「観る場所決まってるんやけど…もう、遅いかなぁ。…って、空いてる…」

真子が指を差した場所。そこは、パレードのフロートが、ちょうど曲がる所。正面と横と一辺に観ることが出来る、素敵な場所だった。
以前、来たときは、人に押されながら観ていた場所。しかし、何故か、今日は空いている…。
よく見ると、その周りは、カップル、ランドマニアの男、おじさんとおばさんの団体(20人ほどに増えている)、大学生風カルテット、そして、少しガラの悪そうな男五人、その他、真夜中にホテルのロビーに集まってきた男女で埋め尽くされていた。
まさちんたちは、周りの人々を観て、あんぐり…。

「そろそろ先頭が、来そうですよ」

真北が声を掛けた。

「そだね。行こう!」

真子は、急いで目指す場所に駆けていく。

「失礼しますぅ〜」

真子は、そう言って、私服刑事達の間を通って、一番前へやって来た。
真子の右にぺんこう、その横は、むかいん、そして、真子の左にまさちん、真後ろには、くまはちと真北が自然と並ぶ。

「来たよ!!」

真子は、爛々と輝く目で、パレードを見ていた。
色とりどりの人々が、華麗に踊り、キャラクター達も、並ぶお客にたっぷりと手を振っていた。真子のお気に入り、アヒルのキャラクターもかわいくおしりをフリフリ。真子は、大喜びで、隣で観ているまさちんをばしばしと叩いてしまう。

「ちょ、ちょっと、く……」

まさちんは口を塞がれる。
口を塞ぐ後ろの人物=真北に目をやると、

禁句っ!

目で訴えられた。

す、すみません…

目で応えたまさちん。
その時だった。
同じように真子の後ろからパレードを見つめていたくまはちが、列から、スゥッと離れた。

「…くまはち?」

真北が、くまはちの行動に驚き、声を掛けた。しかし、くまはちは、何かに集中している様子。そのまま、何処かへ去っていった。

「停めろ」
「はっ」

真北は、隣にいた少しガラの悪そうな男達に声を掛ける。男達は、くまはちを追いかけた。真北は、目で、くまはちを追いかけていた。


パレードを観ている真子達と反対側に居る客の中に、パレードではなく、じっと一点を見つめる男が三人。六つの目は、真子を捕らえていた。
真子は、パレードに夢中。
パレードのフロートが途切れた時だった。
男達は、懐に手を入れ、不気味に口元をつり上げた。

まさちんとぺんこうが、真子を隠すように、前へ出てきた。
真子は、そんな二人の腕を引っ張り、前へ出る。

「邪魔ぁ〜」

真子は、そう呟いて、去っていくフロートから目線を別の所へ移した。
男達は、真子と目が合った。
真子は、にっこりと笑い男達に指を差している。
一瞬、怯む男達。真子の指が、男達の背後を差していた。
男達は、何がなんだかわからない表情をしたその時だった。

「!!!!!!」

男達は、いきなり口と目を塞がれ、腹部と後頭部に衝撃を受けた。
気を失った男達は、少しガラの悪そうな五人組に連行されていった。
次のフロートが、真子達の前に来たとき、くまはちが、そっと真子の後ろに立った。

「くまはち、手加減したらなあかんやろぉ」

真子は、パレードを観ながら、くまはちにそっと言った。

「すみません…」
「ありがと」

真子は、ちらりと振り返って、くまはちに微笑んだ。そして、再び、パレードを楽しみ始めた。

「気付いていたんですね…」

くまはちが、真北にそっと呟く。

「向こうにも、おるんやから、お前が動くことないやろ」
「しかし…」
「安心しろ」

真北は、くまはちに呟いて、周りに合わせるように、パレードを楽しんでいた。



そして、パレードが終わった。
道の端々に居た人たちが、ばらけていく。その中に、二十人くらいの人だかりと三十人くらいの人だかりが、別々の所に出来ていた。その人だかりは、直ぐに、別の場所へと移動していく。

「楽しかったぁ。ね、すごいでしょ!!」

真子は爛々と輝く目で、ぺんこうたちに語りかけていた。

「楽しかったですよ。夜も楽しみですね」
「めっさ綺麗やでぇ。ネオンぎらぎら!」
「ミナミの街みたいですか?」

ドカッ!!

「あほぉ。一緒にすんなぁ!!!」

真子が、まさちんに蹴りを入れる。

「ほな、次行こか!」
「ご飯…」

くまはちが、ボソッと言った。

「一働きしたら、腹減ったかぁ?」
「はぁ、まぁ……」

真子の言葉に、くまはちは、あらぬ方向を観ていた。

「ほな、一度ホテル戻るん?」
「そうですね。お昼も予約してきましたから」

まさちんが、応えた。

「夜も?」
「えぇ」

真子達は、ゲートに向かって歩いていく。

「夜は、ランド内で食べようやぁ」
「えっ?!」
「だって、花火観られへんで。それに、夜のパレードも」
「そうですか? では、ランド内のレストランに予約入れておきます。
 むかいん、どこがええか?」
「…ここ」

ゲートから続くアーケードの中にあるレストラン街。高級レストランを指差すむかいん。どうやら、ガイドブックを観ていた時に、目を付けていた様子。

「わかりました。予約してきます」

まさちんは、その足でレストランへ入っていった。外で待っている真子達。

「むかいん、なんで、ここなん?」
「料理学校時代の奴が、働いてるんですよ」
「だったら、むかいんが、予約した方がええんちゃうん?」
「奴は覚えてませんよ。こんな私のことなんか。ただ、あいつの
 腕前を覚えていますから、安心できるんですよ」
「まさかと思うけど、ホテルの方も?」
「はぁ、まぁ」

むかいんは、照れたように俯いた。
まさちんが出てきた。

「午後六時半の予約取れました。食べ終わった頃に、パレードが
 始まるそうですよ。ここからなら、ちょうど正面で観ること
 できるそうです」
「…またぁ、店員さんに、何言った?」

まさちんに疑いの眼で尋ねる真子。

「いつもの手…でしょう」

むかいんが、真子の耳元でそっと言った。

「なるほどねぇ〜」
「むかいん、何を言った?」
「秘密や」
「むかいぃぃぃん!!!!!」

まさちんは、むかいんの肩に手を掛けた。

「あっ、まさちん、駄目!!」

ドカッ!

真子が停める声は、間に合わなかった。

「なんでやねん…」
「あっ、す、すまん!!! まさちん!!!大丈夫かぁ!!!」

むかいんは、肩に手を掛けられると、条件反射で、その手の持ち主に、チョップをしてしまうようで…。
そんなむかいんのことを知らないまさちんは、油断していた為、腹部に思いっきりむかいんから頂いた。
むかいんが、慌ててまさちんに近寄るが、まさちんは腹部を押さえて、座り込んでいた。

「かなりきつかったやろな」

ぺんこうが、呟いた。

「歩けるかな、まさちんの奴は」

くまはちが、笑いを堪えながら言った。

「…まだ、健在ってことか」

真北は、昔を思い出しながら、しみじみと言う。

「暢気にしてる場合やないやろぉ!!! まさちん、大丈夫!?」

暢気に話す三人とは違い、真子は、慌ててまさちんの前にしゃがみ込む。

「ご心配なく…、なんとか、大丈夫ですから…」

まさちんは、真子に微笑んでいた。

「むかいんもぉ、気ぃ付けな、あかんやろぉ」
「すみません…条件反射で…つい…」

真子とむかいんに支えられるように歩き出すまさちん、そして、三人を見つめる真北、ぺんこう、くまはちは、周りを私服刑事に囲まれながら、再入場スタンプを押してもらい、ゲートを出て、送迎バスでシャレトルンホテルへと帰っていった。
こうして、ちょっぴり危険な(?)真北家家族旅行・二日目の午前は過ぎていった。




シャレトルンホテル・スペシャルルーム!!
まさちんは、上半身裸でソファに寝転んでいた。腹部には、白い四角い物が貼られていた。

「…調子はどうや?」

むかいんが、部屋に入ってきた。

「…食欲出ない…」
「すまん…」
「気にするな…。俺がお前を知らんかっただけや。…それにしても、
 滅茶苦茶強かったぞぉ」

まさちんは、体を起こしながら、むかいんに言った。

「午後、どうするんや?」
「組長は?」
「今、デザート食べているところだよ。二時にロビーって言ってたよ」
「あと三十分あるんやな…。もう暫く横になってたら、大丈夫や」
「一緒に居てやるよ」
「ありがと」

まさちんとむかいんは微笑み合い、まさちんは、そのままソファに横になる。むかいんが、まさちんの向かいのソファに腰を掛けた。

「…相当な暴れん坊だったって?」
「まさちんには、負けるよ」
「真北さんや、先代が手を妬く程…か。俺は、むかいんの事、詳しく
 知らんからなぁ。俺が知っているむかいんは、笑顔を絶やさない
 料理人だからな」

むかいんは、照れたような感じで、まさちんを観ていた。

「その通りやで」
「笑顔の裏に、何を隠してるんだよ」
「色んなもの」
「…組長をだましてないか?」
「お前と一緒にすんな」

むかいんは、まさちんを睨む…。

「こわ…」

暫く沈黙が続いた。

「むかいん」
「ん?」
「桜姐さんに、狙われてへんか?」
「大丈夫や。彼女おるって言ったら、やめとくわ。って言われた」
「そやなぁ。おるもんなぁ」

まさちんは、起き上がった。

「組長じゃないけど、聞いたときは、驚いたで」
「っつーても、あまり一緒に出歩かないよ。店に来た時に、話すくらいかな。
 …これでも、恋人同士って言うんやろか…」
「さぁなぁ」
「そういうお前は、姐さんとの、その後は?」
「内緒や」
「それより、組長の周りの人間、みんなに手を付けるっつーてたけど、
 ぺんこうや真北さんにも…か?」
「そのつもりやろな。時々口にしてるよ」
「やばいよな…って、お前、時々口にって、その後も…?!???」
「っ!!!」

まさちんは、やばいっ! という表情をして、むかいんから目を反らした。
むかいんは、怪しい目つきでまさちんを観ている…。

「そ、そろそろ、ロビーに行こか、むかいん」

その場の雰囲気を変えるかのように言って立ち上がる、まさちんは、ソファに掛けてあったシャツを手に取り、身につけた。




午後一時五十分。
真子、ぺんこう、くまはちは、ロビーにある小さな噴水の側で、水の噴き出し方を観て、何かを話していた。真北は、ホテルの人と、深刻な話をしている様子。そこへ、まさちんとむかいんがやって来た。真子がまさちんの姿に気が付いて、手を振りながら駆け寄ってきた。

「どう?」
「大丈夫ですよ。ご心配お掛けしました」

まさちんは、安心した表情で頷く真子に、優しく微笑んでいた。

「午後はね、二つのショーを観た後、夜ご飯まで時間が空くんだけど、
 また、パビリオンに入ろうって話していたんだ。まさちん、もう一回
 入りたいとこ、ある?」
「トロッコと宇宙と写真のところですね」
「なるほど…」
「それと、ゴーストマンション」
「OK!! みんな一緒ねぇ」
「はぁ」

真子の言葉に、頷くぺんこう達。そんな真子達の側には、ランドマニアっぽい男が、柱にもたれかかるように立っていた。

「では、出発ぅ!!」

そう言って、ホテルを出ていった真子達。
真子達を見送ったランドマニアっぽい男は、胸元に隠されるように付けている小型無線機で、真子が廻ろうと予定しているパビリオンを告げていた。






阿山組本部。
山中が、暗がりの部屋にいた。

「まだか?」
「もう少しです」

誰かの声が部屋に響いた途端、部屋の灯りが付いた。
眩しそうに目をしかめる山中。灯りに慣れてきた頃、辺りを見渡した。
そこは、隠れ射撃場だった。
山中に駆け寄る北野。

「あの時のままなんですね」
「そうだな。…また、お世話になる所だ。手入れをした後、始めるぞ」
「はっ」

山中は、とある場所にふと目をやった。
そこには、人型の的が上から吊されていた。
的のチェックポイントは、全てど真ん中に命中している。
それは、この射撃場を閉鎖した日、真子が初めて銃を持ち、初めて撃ったにも関わらず、全弾命中した的。
山中は、何かを考えてそして、ボソッと呟いた。

「…全ては、あなたの為です…」

目を瞑り、一礼する山中の決心は固かった。





キャラクターランド・ショーの行われる舞台近く。
二十人くらいの人だかりが、何かもめながら、去っていく。その直後、真子達が、やって来た。
真子は、まだ、腹部の打撲が完治していないまさちんをからかいながら、歩いていた。まさちんも、負けじと真子の背中を突つこうと手を差し延べる。しかし、それは、ぺんこうに直ぐに阻止され、蹴りを入れられ…。
こんなところでも、阿山トリオは、ふざけ合う…。
真北は、大きなため息を付いていた。
そんな真子達の後ろを、先程とは、別の二十人くらいの人だかりが過ぎていった。

「初めて見るショーなんだけどなぁ」

真子は、椅子に腰を掛け、ガイドブックを広げながら呟いていた。真子の横から、同じようにガイドブックを覗き込むぺんこうが、指を差す。

「これが終わった頃に、別のパレードがあるようですよ」
「ほんとだぁ。…観ても、大丈夫かな…」

真子は、ちらりと後ろにいる真北を見た。
真北は、周りの様子をうかがっているのか、真子の目線には、気が付いていない。
真北が見つめる先。そこは、三十人ほどの人だかりが、真子を見つめるように立っている男三人にそっと近づいて、取り囲み、去っていく様子が。人だかりが去った所には、立っていた男三人の姿は、無くなっていた。どうやら、人だかりに飲み込まれた模様。
ふと、真北は、真子に目線を移した。

「あっ、は、何でしょう?」
「…もしかして、真北さん」
「はい?」

…組長に、ばれた…?

真北は、そう思ったのか、声が上擦っていた。

「暇なん? ショー観るん、たいくつ?」
「いいえ、そんなことはありませんよ」
「だって、ボォッとしてた」
「そうですか?」
「うん」
「人が多くなってきたなぁと思って、周りを観ていただけですよ。
 それより、何か?」
「うん、あのね、これが終わったら、別のパレードがあるみたいだからね、
 それを観たいなぁっと思ってるんだけど、駄目?」
「大丈夫ですよ。思う存分、楽しんで下さい。場所は、先程の所ですか?」
「別のところ」
「何処、でしょうか…」

真北は、少し不安を覚えた。

「ショーが終わってからの、お楽しみ」
「は、はぁ。解りました」

真子は、何か企んだような笑みを浮かべながら、前を向く。真北は、困ったように頭を掻き、懐に忍ばせているガイドブックを取りだし、真子にばれないような位置で、パレードの道順を指でたどっていた。真北の後ろに立っている大学生風カルテットの一人が、真北に声を掛ける。

「この位置から、想像しますと、時間的に余裕もありませんから、
 この近くだと思います。そちらに、配備させておきましょうか?」
「いいや、しなくていい。組長、何か企んでいる様子だから、先に行動をすると
 厄介なことになりかねん。素早く動けるように、指示しててくれ」
「はっ」

真北に声を掛けた男は、自然な感じで、その場を去っていった。真子達からかなり離れた場所で、服の襟元に隠している小型無線機で、真北の言葉を的確に伝えていた。
その男の向かいから、二十人くらいの人だかりが、近寄って、去っていった。




キャラクターランド・人気のない恐らく関係者しか知らない感じの裏口。
2トンのトレーラーが、去っていった。と同時に、別のトレーラーが入ってくる。そのトレーラーは、ある男の前で停まった。

「またかよぉ…」

呆れたように呟く男。その男の見つめる先には、二十人の人だかりが、ランドから出てきた。

「原さん、あと二組あります」

人だかりの先頭に居た人物が、男に声を掛けた。本当に呆れている男・原。

「一体、どれだけが潜んでるんやぁ。これで、12組やろ」

原は、懐から紙を取りだし、ペンでチェックを入れた。そして、何かを数えていた。

「まだ、三分の一やないかぁ。どいつもこいつも、三人一組に
 なって、真子ちゃんを狙うとはなぁ。…っつー……」

原は、脇腹を押さえていた。

「大丈夫ですか?」
「あぁ、なんとかね…。悪いな。また頼むよ」
「解っております」

男は、そう言って、再び人だかりに戻り、ランド内へ入っていった。
トレーラーには、後ろ手に縛られ、目隠しと猿ぐつわをされた男が三人、乗せられていた。暴れる様子が観られないということは、気を失っている感じ…。

「…ったく…」

原は、姿勢を正して、次の人だかりがランドから出てくる様子を観ていた。

原が、なぜ、脇腹を押さえているのか…。
それは、昨夜十一時過ぎ、シャレトルンホテルの裏口で、ホテル内で真子を襲った三人組を連行中、いきなり、脇腹を蹴られたのだった。
蹴ったのは、怒りの形相・真北…。
真北の行動は、真北が何も言わなくても解っていた。
蹴られても仕方がない…。
原はそう思っていたが…真北の口から出た言葉…。

『今日の100倍は召集しろ。そして、明日は、輩を絶対に組長の
 前に出すな。出る前に、連行しろ。それも、周りにばれないようにな』

という無茶な命令だった。

トレーラーは、三台目。
この日、連行される輩は、全て、龍光一門の組員達。

『三人一組で、阿山真子の命を取れ。取った組が、これからの
 一門を仕切ることとする』

終了直前に発令された命令を組員達は、実行している様子。
龍光一門のトップは、既に居ないはずなのに、何故、そのような命令が発令されたのか…。真北達が心配しているのは、そこだった。裏で、誰が糸を引いているのか…。




ショーが終わり、終わる頃に始まるパレードを観るため、真子は歩き出した。大学生風の男が言ったように、ショーの舞台から直ぐの場所で立ち止まる真子とぺんこうたち。フロートは、まだ、来ていないが、陣取るように、座り込むお客達。
真子たちの両隣、道の向こう側、全てが、私服刑事たちで埋め尽くされていた。

真子への狙いを付けるスキを、全く与えないような雰囲気。

そんな雰囲気を知っているのかいないのか。真子は、フロートの先頭が来た途端、思いっきりはしゃぎまくっていた。
そのパレードこそ、真子の好きなキャラクター・アヒルが、メインのパレードだった。
手が千切れんばかりに振っている真子に、応えるアヒルキャラ。おしりまで振って、サービス満点。
真子の顔が嬉しさで緩んでいるのが、端から見ても解った。



(2006.4.18 第四部 第十八話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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