任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第四部 『新たな世界』

第二十五話 願掛けの赤い印

大型連休が終わり、遊び疲れたからなのか、だらだらした感じで、世間が動き始めた。
もちろん、真子も、疲れ切っていた。
まさちんの言うことも聞かず、組関係の仕事をしっぱなし。
この日も幹部会が開かれていた。

「…まさちぃん、夜くらい、寝かせてあげろよぉ」
「なんや、まさちん、とうとう手を付けたんか? 怒られるぞぉ、真北にぃ」

水木と須藤がふざけたような口調で言いながら、見つめる先に、幹部会中に、すっかり寝入ってしまった真子の姿があった。

「…あのね、水木さん、勘違いされそうな言い方やめてくださいよ。
 そして、須藤さんも、そのまま真に受けないでください!!」
「…なんや、ちゃうんか」

須藤は、呆れたように言った。

「あのねぇ〜」
「それより、どうするんや。組長、お疲れやったら、何も…」

谷川が言った途端、真子がむくっと起き上がる。

「疲れてないよぉ〜。まさちんが、寝かせてくれへんかっただけやもん」
「くぅくぅ…くっ…組長っ!!!!」

まさちんは、滅茶苦茶慌てて立ち上がり、その弾みで、椅子につまづき、思いっきりこけてしまった。
それには、幹部達も大爆笑。

「ぐわっはっはっはっは!! まさちん、おもろすぎや」
「組長も、何を言うのかと思ったら…!!」

須藤と水木が言った。真子は、まさちんに手を差し伸べながら、微笑んでいた。

「何もそこまで、驚くことないやんか」
「いてて…。組長、おふざけもほどほどにしないと、みなさん本気にしますよぉ」
「冗談やって解ってるって」

真子が言った。

「そうやで。わかるって。のぅ、水木」
「まぁな」

幹部会に思えない幹部会。しかし、真子は本当に疲れているので、幹部達に一言告げて、会議室を去っていく。もちろん、事務所の奥の仮眠室で眠り始めた。


「ったく、組長は」

まさちんが、会議室へ戻ってきた。

「ほんまに、まさちんは、組長の前では、態度が変わるんやな。
 桜と寝るくらいやったら、そんな話は平気やろ」
「平気じゃありませんよ」
「組長に、何か遭ったのか?」

水木は静かに尋ねる。

「いいえ、何も」
「桜がな、組長の雰囲気が変わったって…。何かこう、大人を感じるんやとさ」
「そうやよな。確かに、以前は子供っぽい雰囲気になっとったけど、最近、
 それもキャラクターランドから帰ってきてからや。昔の雰囲気や。
 子供やのに、子供っぽくない…大人の俺ら顔負けの雰囲気…それに戻っとる」

須藤が、腕を組みながら言う。

「…それは…。組長の意志ですよ」
「意志?」
「俺達を惑わせないようにと子供っぽく振る舞っていたそうです」
「…はん、なるほどなぁ。まさちん、お前、女に手が早いもんな。
 それでか。組長、気を使ってたんか。…お前、悪いやっちゃなぁ」
「なんで、私が悪いんですか!!!」
「桜にも手を付けた」
「あのねぇ、水木さん!!」
「そう言う水木は、組長おらんかったら、まさちんに手ぇつけるとこやったやろ」
「なんや、須藤、俺のすることに、文句あるんか?」
「桜さんが寝た男に手を出すお前の悪い癖。ええかげんにしとけよ」
「ほっとけや」
「それで、そっち方面に走る男が多くなっとるやないか!」
「じゃかましぃわい!!そもそもなぁ…」

須藤と水木の言い合いが始まった。

「…また、ですかぁ」
「ったく」
「ほっとこや」
「そうですね」

川原、藤、谷川、そして、まさちんが、須藤と水木の言い合いを見ているだけだった。




その頃、寝屋里高校の近くでは…。

一台の高級車が、高校から少し離れた所に停まっていた。窓が少し開いている。そこから、寝屋里高校を伺うような感じで、鋭い目線が注がれていた。

「あいつですか?」
「そうや」
「…ほんとに、ええんですか?」
「まぁなぁ」

窓からの景色には、高校の職員室が見えている。職員室の窓には、ぺんこうが、笑顔で誰かと話している様子が見えていた。そして、ブラインドが降ろされた。



放課後。
生徒達がひっきりなしに下校していた。その様子をじっと見つめている高級車の人たち。生徒が途切れ途切れになった頃、ぺんこうが女生徒と話ながら、門から出てきた。

「おい」
「へい」

高級車から、男が二人降り、ぺんこうにゆっくりと近づいていく。

「…山本先生ですね」
「はい、そうですが、何か?」
「…ちょいと…お付き合い願えませんか?」

男は、懐に手を入れた。もう一人の男は、ぺんこうの後ろに立ち、背中に何かを突きつけた。

「せ、先生…」
「悪いなぁ。一緒に帰れなくて」

ぺんこうは、生徒に微笑み、

「気ぃつけて帰れよぉ」
「さ、さようなら……」

女生徒は男達が気になるのか、振り返りながら、去っていく。

「こっちやで、せ・ん・せ・い」

ぺんこうは、男達に言われるまま、歩き出した。
校門から少し離れたところに停まっている車にやって来た時だった。

「うごっ!」
「ほげっ!!」

男達は、その場にしゃがみ込んだ。クッと挙げた顔、その口元から血が流れていた。

「…ったく、一般市民を誘拐して何するつもりなんや?」

ぺんこうは、二人の男を見下ろし、そして、服を整え、その場から去ろうと一歩踏み出した。

「ちょいと待ちぃや、ぺ・ん・こ・う・さん」
「…あん?」

その声にゆっくりと振り返るぺんこう。高級車から降りてきたのは、なんと、桜だった。

「さ、桜…さん…?」

ぺんこうは、目を見開いて驚いていた。



「桜さん、人が悪いですよ。こんなことが、組長にばれたら、怒られますよ」
「解っとるよ。こうでもせんかったら、ぺんこうに逢えへんやろ?」

高級車の後ろの席に桜と隣り合わせて乗っているぺんこう。運転席と助手席には、先程、ぺんこうを連れ去ろうとした男達が座っていた。

「しかし、強いな」
「何がですか?」
「こいつらを一瞬で倒すなんてなぁ。かなり強者やで」
「必死だったんですから。…それで、ご用は?」
「わかっとる癖にぃ」

桜は、ぺんこうの膝に手をそっと置いた。その手は、ゆっくりと太股へ移動する。…そして、内股へと優しく動いていった。

「桜さん、冗談も、程々になさってください。組長に…
 何か言われませんでしたか?」
「ぺんこうは、一般市民や…言われた」

桜は、ぺんこうの耳元に顔を近づる。

「そやけど……。なぁ…」
「…組長が怒りますよ」

桜の挑発に動じないぺんこう。それでも、桜は諦めない。

「わかっとる」
「それに……」
「ん?」
「俺を…まさちんと一緒にしないで下さい…ね」

ドスの利いた声でゆっくりと言って、桜を睨み付けるぺんこう。

「えっ…?」

桜は、ぺんこうの鋭い眼差しに驚き、素早く離れた。

「停めてください」

ぺんこうが、運転手に告げると、

「は、はい」

車が、路肩に停まった。
ぺんこうは、ドアを開け、車を降りる。ドアを閉める時、車の中を覗き込み、

「あまり、一般市民を驚かさないで下さいね」

ぺんこうは、微笑んで、ドアを閉めた。そして、歩き出す。

「姐さん…、あいつ、しめてきます!」

助手席に座っている男が、怒りを抑えながら言った。

「…やめとき…」

桜の声は、震えていた。

「姐さん?」
「帰るで」
「へい」

運転手はアクセルを踏んだ。
桜は、窓の外を流れる景気を見ながら、

「ぺんこう…か。ええ男や…」

そう呟いた。

「みとりぃやぁ、絶対に……。そやけど、
 あの目…どっかで……」

桜は、何かを思い出すような表情に変わる。

「海、向かってんか」
「へい」
「あんたら、今日はとことん付きおうてや」
「へい」

車は、桜の海のプライベートマンションへ向かって走っていた。





ぺんこうが、項垂れて帰ってきた。

「お帰りぃ〜。…ぺんこう、どしたん?」

真子が明るく迎えに出た。

「…あっ、組長…ただ今帰りました」
「お疲れさま。…どうしたん? 学校で何か遭った?」
「ん…いいえ、別に…」
「なら、ええねんけど…。悩み事、相談してや」
「ありがとうございます。今のところは、大丈夫ですから」
「うん、何か遭ったら、ほんとに、相談してよ、ねっ!」

真子は、微笑んでいた。そんな真子を見たぺんこうは、悩み事が吹き飛んだのか、優しく微笑み、真子の頭を撫で、二階へ上がっていった。
真子は、ぺんこうを見届けてから、リビングへ入っていった。

「どうでした?」

まさちんが真子に尋ねた。

「……何も言わなかった」

真子は寂しげに応えた。
実は、夕暮れ、寝屋里高校の校長から、ぺんこうが拉致されたようだと、連絡があり、真子は、それを気にしていたのだった。無事に(?)帰ってきたことで、安心していたが、ぺんこうの表情から、何かを察していた。

「自分で解決するつもりですよ、恐らく」
「…だけど…」
「組長に、負担かけたくないんですよ」
「…かけてくれても…いいのにな」

真子が呟く。

「それより、組長、例の会議、どうされるおつもりですか?
 須藤さんも、水木さんも、散々おっしゃってましたけど…」
「あぁ、その日、定期検診入ったから。まさちん、悪いねぇ〜」
「組長ぅ〜!!!」
「と、言うことやから、よろしくね」

真子は、笑顔でそう言って、リビングを出ていった。

「あっ、組長!!!」

ドアは、冷たく閉まった…。





「組長、ほんまに、今回も不参加ですか?」

くまはち運転の車でAYビルへ向かう真子。

「うん。だから、その日は、くまはち、よろしくね」
「いつになったら、参加されるんですか?」

助手席のまさちんが、後ろの席の真子に振り返りながら真子に尋ねる。

「まさちんが居るから、ええやん」
「組長ぅ〜」

キキキキィッ!!!!

車は急ブレーキと共に停まった。

「…なんやぁ?」

まさちんは、目の前に停まるトラックを見て、言った。と同時に車の後ろにぴったりと別の車が停まる。

「…まさちぃん、くまはちぃ〜」
「はいぃ?」
「これって、もしかして、追い込まれたって言うのかなぁ」
「逃げ場を失いましたねぇ〜」

まさちんが、にやりと笑いながら言った。

「さぁて、どうしましょうかぁ?」

くまはちが、サングラスを外しながら、呟いた。
前のトラックと後ろの車から、白に近い銀色の髪をした男達が降り、真子の乗る車に近寄ってきた。

「組長、動かないでくださいね」

くまはちとまさちんは、そう言って、素早く車を降りた。
真子は、呆れたような表情で、ゆったりと座り直す。
車の外では、銃声、人を殴る音、骨の折れる音、血が飛び散る音など、格闘しているのが、はっきりとわかる音が聞こえていた。
走る足音が聞こえた。
トラックと後ろの車に急いで乗り込む銀髪の男達。二発の銃声と共にトラックと車は急発進した。
辺りが静かになったと同時に、真子は、ゆっくりとドアを開け、車から降りた。

「まさちん、くまはち!!!」
「組長!」

まさちんは、腕を押さえながら、振り返った。押さえる指の間からは、真っ赤な物がしたたり落ち、その腕は、力無く、だらりとしていた。

「まさか…」
「大丈夫ですよ」
「狙いは、私だったの?」
「くまはちでしたよ」
「…くまはちは?!」

まさちんが、見つめる先。そこには、腹部に手を当てて、壁に手を突きながら、立ち上がるくまはちが居た。

ボタボタボタ……。

くまはちが、立った途端、足下に血が滴り落ちた。

「くまはち!!!」
「…組長…!!!」

くまはちは、近づく真子の姿に気付く前に、青い光に包まれていた。

「組長!」

真子とくまはちに近づくまさちんも、青い光に包まれてしまった。
二人の傷は、青い光に吸い込まれるような感じで消えていく。
そして、青い光が、消えた。

「組長、だから…」
「だからは、私の言葉や!! ったく、無茶しすぎ! で、くまはち、
 こないだの一件と関わってるんか?」
「それは、私にも、わかりません…。ただ、狙いをつけられたのは、
 私だけでしたから…。関わってると思います」
「…ったく、誰だよ。くまはちを怒らせるなんて…。ちっ」

真子は、怒りを抑えるかのように、舌打ちをした。

「…それは、組長を怒らせるの間違いかと…!! いてっ!」
「まさちん、言い過ぎ」

真子の蹴りがまさちんの足に入っていた。

「…兎に角、去るよ。来たみたいだから」
「はい」

真子の合図で、くまはちとまさちんたちは、車に乗り、その場を去っていった。
パトカーが現場に到着。
現場に残されているのは、あちこちに飛び散った血痕、弾痕、争った形跡…。



その日の夕刻。橋総合病院の橋の事務室に一本の電話が入った。

「…いいや、何もないで。今日は至って、暇や」
『そうか…。現場の状況からだと、襲われたみたいでな。血痕もあったし、
 分析から、二人のものと解ってるんだけどなぁ』
「来ないっつーことは、襲われたのも、嘘なんちゃうか?」
『それは、ないはずや。かなりの深手を負ってるはずやで』
「まぁ、あさって検査に来るから、その時に尋ねたる」
『よろしくな。…俺は、何も言わんから』
「安心しとけ」

橋は電話を切った。

「真北の奴、相当慌ててるな…。まさか、例の組織が関わってるのか…?」

橋は、椅子の背もたれに思いっきりもたれかかり、ため息を付いた。

「最近、ため息付きっぱなしや…。俺も…歳かな…」

橋が呟く言葉と同じものを言う人物がもう一人…。
真北は署のデスクに座り、大きなため息を付いていた。

「ため息ばかりだよ…。ったく…歳の証拠やなぁ」

真北は、報告書に目を通していた。

「銀髪…か」

ゆっくりと目を瞑る真北は、口を尖らせた。





高級車が次々ととある場所へ入っていく。その中からは、ドスの利いた声が聞こえてくる……。

「うぃっす」

黒服の男達が、礼入れをする中、高級車から、強面の男達やきりっとした姐さんが降り、建物へ入っていった。暫くして、一台の車が到着した。その車から降りてきたのは、まさちんだった。

「はふぅ〜」

ため息を付きながら、服を整え、建物へ向かって歩いていく。男達の礼入れの中、建物へ入り、奥の部屋目指して、堂々と歩いていくまさちん。そのまさちんを睨み付ける男が二人居た。

「…おい、阿山組、また欠席かぁ?」

松宮組組長・松宮が、呆れたように口を開いた。

「今回から出席や言うてなかったか?」

松宮の問いかけに応えるように言ったのは、南川組組長・南川。

「終わってから…やな」
「あぁ」

そんな二人の目の前をまさちんは、一礼して通り過ぎていく。

「…ったくぅ、また、睨まれてるよ…。組長ぅ〜」

まさちんの嘆きは、真子に届くのか…?

真子は、くまはちと一緒に、橋総合病院へやって来た。橋は、緊急手術が入り、仕事中。真子とくまはちは、いつもの検診なので、先に始めていた。




「えぇ、では、会議を始めます。今回の出席者は……」

いつもの顔ぶれ。
それぞれは、慣れたように挨拶を始めた。まさちんも、他の親分衆に負けず劣らず、堂々たる態度で挨拶をする。
そして、会議は始まった…。





橋総合病院。
橋は、緊急手術を終え、事務室へ戻ってきた。

「お疲れさまですぅ」
「おぅ。真子ちゃん、悪かったなぁ」
「仕事を頑張る橋先生は、素敵ですから、何時間待たされても平気ですよ」

真子は、にっこりと笑って応えた。

「そうかぁ、そう言われると、嬉しいでぇ〜。で、結果の用紙もらって
 きたんやけどなぁ〜」
「はい」

真子は、にっこりと笑ったまま…。

「真子ちゃん、問題なしや」

橋は、結果用紙を見つめたまま、静かに言った。

「…ねぇ、もう、検診はしなくてもいいんとちゃうかなぁ。…橋先生ぇ〜」

真子が、甘えるような声で言うと、

「…いつ使こた?」

橋が少し低めの声で尋ねてきた。

「あっ…」

真子は、上目遣いで橋を見た。
橋は、口を『への字』にして、赤いペンで印を付けた後、真子に用紙を見せた。
橋が赤丸をつけたところは、血液検査結果の数値だった。異常に高い数値になっている…。
それは、あの青い光を使った時に現れる数値だった。

「…やはり、真北の言うとおりやったんやな。3日前、襲われたやろ?
 …なんで隠してる。それに、使わへん約束やったやろ?」
「…真北さんの手を煩わしたくなかった…」
「はぁ〜〜……まさちんか、くまはちか?」
「…二人とも……」

真子は、恐縮そうに言った。

「真北は、真子ちゃんが襲われたらしいとしか言わなかったんやけど、
 怪我もなく無事だったみたいやから、安心しとったみたいやけど、
 …あかんやろ。真北には、内緒やねんやから。怪我は、俺に任せとけよ。
 治療は真北に内緒にしとったるから」

真子は、橋の言葉に不満があるのか、話を聞きながら、ふくれっ面になっていく…。

「いやや。橋先生、真北さんとツーツーやし。内緒やいうても、
 絶対に遠回しに言うやん」
「……」

図星…。

橋は、何も言わず、カルテを書いて、検査結果用紙に添付し、真子に手渡した。真子は、鞄に用紙を入れながら、後ろに居るくまはちに声を掛けた。

「帰ろっか。先生、ありがと」
「気ぃつけてな。次は、一ヶ月後ぉ」
「どうなるか、わからへんでぇ〜」

真子は、後ろ手に手を振りながら、橋の事務室を出ていった。くまはちは、橋に一礼して、真子を追った。

「ったくぅ、組長はぁ」

そう言いながら、奥の部屋から出てきた真北。

「お前も暇なやっちゃなぁ。電話した途端、直ぐに飛んでくるかぁ?」
「気になるやろ、組長が、お前に何を言うか…」
「二人やって」
「わかっとるわい。分析結果は二人だからな。何処をやられたんやろ」
「すっかり傷は消えてるから、わからんなぁ。二人に直接訊いたらええやん」
「教えてくれると思うかぁ?」
「思わんな」

橋は、真子に渡したカルテと検査結果の原本を真北に見せた。
真北は、じっくりと眺め、安心したような表情をした。

「ありがとな」
「礼を言うな。お前と俺の仲やろが。それより、大丈夫なんか?
 その、例の…」
「わからん…。報復の話は出ていたらしいからな…」
「先手を打つつもりやろ?」
「出方を見てからや」

真北の眼差しは、『刑事』になっていた。

「はよ、どっちかに就けよな」
「あん?」
「なんでもない」

急患のランプが点灯。

「悪いなぁ」
「無理すんなよぉ」
「お前こそな」

真北と橋は、一緒に事務所を出、そして、お互い別の方向へ向かって歩いていった。




くまはち運転の車の中。

「まさちん、恐らく嘆きますよ」
「あっ、今日は、例の会議かぁ。忘れてた」
「…組長、次こそは、顔を出してくださいね。大切な会議なんですから」
「だから、私より、まさちんの方がぴったしや言うてるのになぁ。
 やっぱし、出な、あかん?」

頷くくまはちを見て、真子はふくれっ面になっていた。



まさちん運転の車が、高速道路を猛スピードで走っていた。運転の荒いこと荒いこと…。

「ったく、毎回毎回、毎回毎回ぃ〜〜!!!!」

まさちんは、怒りの形相。車は、高速道路を下り、AYビル地下駐車場へ入っていった。
車から降りたまさちんは、ため息を付いて、エレベータホールへ向かって歩き出した。直接38階へ向かうまさちん。
真子の事務所に寄る…誰も居ない…。
須藤事務所に寄る…居るわけない…。
AYAMA社へ顔を出す…真子は居ない……。
むかいんの店に顔を出したまさちんは、厨房で若いコック達の指導をしているむかいんと目が合った。

「組長来てるか?」

疲れた表情でむかいんに尋ねるまさちん。

「どうしたんだよ、疲れてるな? 組長は検診だろ?」
「…そっか…くまはちと一緒か…」
「…大丈夫かぁ?今夜は疲れが取れる食事にするよ」
「あぁ、悪いな。よろしく」

まさちんは、むかいんに背を向けた。

「…って、検診終わって、家に戻ってる時間だと思うで、まさちん!!」

まさちんは、後ろ手に手を挙げて、むかいんに応えた。そして、地下駐車場へ向かって歩いていった。

「…どうしたもんかな…」

まさちんは、運転席に座り、ハンドルに額を付けて、目を瞑った。
本当に疲れている様子……。
手が、ゆっくりとキーに伸び、エンジンを掛けた。
そして、車を発車させるまさちんは、シートベルトをしながら、駐車場出口から出ていった。




真子の自宅・真子の部屋。
『千本松組・荒木組長出所』

「…そういう時期か…。何もなかったらええんやけどなぁ。
 …純一…どうするかな…。…ふぅ〜」

真子は、画面をじっくりと眺め、そして、別のページにアクセスした。そこは、健が管理する極秘のページ。健の似顔絵がにっこりと笑っているボタンをクリック。

『組長ぅ〜。今日は自宅からですね!! いつか遊びに行きますよぉ』

「…健のあほ…」

呆れたように項垂れる真子。そして、続きに書かれている内容に目を通していた。



真子の自宅前に車が到着した。真北が帰宅。駐車場へ入れ、車から降りたと同時に、更に一台の車が到着した。

「おぅ。お疲れ!」

真北は、車の運転手に挨拶をすると、

「…っとに、疲れましたよ。真北さんからも言ってください。
 会議に出席するように…って」

ふてくされたように応えるまさちん。

「知らんわい。自分で説得しろ」

真北は、笑いながら言った。

「…あのなぁ、三日前、何が遭った?」
「へっ?!」

車を駐車場に入れ、下りてきたまさちんに尋ねる真北。

「とぼけんでもええで。解ってるんや」
「確かに、襲われましたけど、威嚇したら、逃げましたよ」
「…そうか…」

真北は、それ以上何も訊かなかった。

くまはちに訊くか…。

そして、二人は、玄関へ向かって歩き出した。



「お帰りぃ〜」

真子が、降りてきた。

「ただいま、帰りました。…組長…。後でお話があります…。長くなりますけど…」

まさちんは真剣な表情で真子に言った。真子は、どんな話なのか、予測していた。
恐らく、やくざ会議…。

「組長、まさちんの後で私もお話が」

真北も言った。

「…二人、よく似た話でしょ? …私に関わる事とちゃうん?
 …会議と…荒木の話でしょ」

真子は、そう言ってリビングに入っていった。

先を越されたか…。

まさちんと真北は、それぞれ思った。そして、真子を追うように、リビングへ入っていった。



リビングでは、真子、真北、まさちん、そして、くまはちが、深刻な顔をして、ソファに座っていた。
むかいんが、テーブルに飲み物をそっと差し出した。

「むかいん、ありがと。で、真北さん。どうなの?」

深刻な表情で、真子が真北に話しかけると同時に、むかいんは静かにリビングを出て行った。

「監視の話だと、報復だのなんだのという話をしていたらしいのですよ。
 ですから、落ち着いた頃に、組長を狙う可能性が高いんです」

真北は、出所した荒木の今後の行動を予想して、真子の身の安全を確保しようとしていた。真子も、予想していたのか、真北の話に対して、冷静に耳を傾けていた。

「ありがとう、真北さん。私も気を付けるから。決して無理はしないでね。
 それと、くまはちをこき使わないように。こないだみたいなことが遭ったら、
 今度こそ、本当に、口利かないよ!」
「それは、嫌ですよ」

真子と真北は、微笑み合っていた。

「くまはちも、無茶したら、あかんよ」
「心得てます」

真子は、くまはちに微笑んだ。

「…で、まさちん、会議は?」
「いつも通りです。親分衆に、愚痴をだらだら言われましたよ。
 いつになったら、参加するんや、今回は参加や言ってたはずだ…とかね…。
 次に会議は、三ヶ月後です。八月の末あたりを予定しているそうです。
 恐らく、今回よりも、参加者が増えると思いますので、今度こそ、
 出席してください」
「そんなん言われても、私が、今更出ても、何言われるか、
 わかってるだけに、嫌やな。いつも通りでええやん」

真子は、少し怒り混じりで言った後、立ち上がり、リビングを出ていった。

「組長!! それじゃぁ、困るんですよ…。組長、今度こそ出席していただかないと…」

まさちんは項垂れた。

「まさちん、組長も解ってるんだよ。だけどな、その会議…
 強面のおじさんばっかりやろ?」

くまはちがまさちんに尋ねた。

「あぁ」
「それなら、なおさら、嫌がるやろ」
「そ、それもそうだな。…だけどなぁ、次は、そうはいかないんだよ。
 …更に集まるんだよ。だから、今度こそ、組長に参加してもらわないと、
 全国のやくざを敵に回すことになりかねないからぁ。…ふぅ〜。困ったなぁ。
 真北さぁん」
「なんでんかんでん、俺に振るな! いい加減、お前が解決せぇよ」
「俺の言葉よりも、真北さんの言葉の方が効き目あるんですからぁ。
 それに、その会議は……」
「…ぺんこうに頼めば? あいつの言葉の方が、俺より効き目あるぞ」

まさちんの言葉を遮るかのように、真北が言った途端、

「絶対に嫌です」

まさちんは、力強く応えた。
その為、話が逸れていく……。

「ったく。じゃぁ、まさちんんが、頑張るしかないな」

真北は、笑いながら言った。

「笑い事じゃないですよぉ!!」

本当に困っているまさちんだった。



真子は部屋のベッドに寝転んでいた。

『組長、お風呂用意できましたぁ』
「はぁい」

階下からくまはちの声が聞こえてきた。真子は、直ぐに部屋を出る。

「あの後、ずっと嘆いてましたよ」

廊下に立って真子を待っていたくまはちが、微笑みながら真子に言った。

「だと思った。…ほんとに嫌なんだもん。次の会議も、検査を入れよう」
「私は、反対ですよ。次こそ…」
「やだもぉん」
「組長ぅ〜〜!!」

真子は、お風呂場へ入っていった。

真子は、湯につかり、何かを考え込んでいた。しかし、結論が出ないのか、突然、湯の中に潜った。


タンクトップに短パン姿で鏡の前に立ち、髪を拭きあげた真子は、風呂場を出て、頭にタオルを巻きながらリビングへ入っていく。リビングでは、まさちんとぺんこうが、険悪なムードでテレビを観ていた。

「あっ、お帰り、ぺんこう。遅かったね」
「ただいま…って、組長、湯上がりにその格好はやめてくださいと
 いつも申しているでしょう…」
「ええやんか、別にぃ〜」

真子は、冷蔵庫から、牛乳を取り出し、飲み干した。

「知りませんよ、突然…てなことになっても」

ぺんこうが、真子をじっと見つめて言うと、真子も負けじとぺんこうを見つめてくる。
見つめ合う二人。
沈黙が続いた。
その沈黙を破るかのように、真子が微笑んだ。

「大丈夫だって」
「…負けました。…ところで、今日、徳田に逢いましたよ」
「元気にしてた?」
「相変わらずってとこでしたよ。組長のことを話していたら、
 久しぶりにみんなで逢いたいという話になりましたよ」
「ほんとだね。逢いたいね。みんな元気にしてるだろうね」
「と、いうことで、八月の第一日曜ですよ」
「はぁ?」
「組長の都合のよろしい日ということでしたのでもう、決まりました」
「何それ。じゃぁ、私は、もう参加になっているわけ??」
「えぇ。私もですけど」
「…なんで、私の予定を知ってるんよぉ」

真子は、ふくれっ面。

「はぁい。予定にいれとくねぇ。ふふふ。楽しみだなぁ。初めての同窓会だよ」
「そうですね。私も楽しみですよ」

真子とぺんこうの会話を聞いていないような素振りでしっかりと聞き耳を立てていたまさちんは、ちらっと二人を観た。
楽しそうに話す二人を見つめる表情は、嫉妬した雰囲気が混じっていた。

八月の第一日曜か…。

まさちんは、真子のスケジュールにその事を書き込む。そして、スケジュール帳のページをめくっていった。
八月末のページには、例の会議の事が書かれていた。

「絶対に…参加してもらいますよぉ〜」

願を掛けるかのように、赤ペンでグリグリと印をするまさちんだった。



(2006.4.27 第四部 第二十五話 UP)



Next story (第四部 第二十六話)



組員サイド任侠物語〜「第四部 新たな世界」 TOPへ

組員サイド任侠物語 TOPへ

任侠ファンタジー(?)小説「光と笑顔の新たな世界」TOP


※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


Copyright(c)/Dream Dochan tono〜どちゃん!著者〜All Rights Reserved.