任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第四部 『新たな世界』
第四部は、この第二十九話より、大人の世界の話が含まれます。
お子ちゃまには、まだ早いですよぉ〜!!


第二十九話 熱い魂

桜のマンションの一室。
真子とぺんこうは、目の前での光景に手を伸ばした。
桜が、日本刀を自分の体に突き刺し、横に引こうとした。
真子とぺんこうは、その腕をがっちりと留めた。

「桜姐さんっ!! 何を!」

真子が叫ぶ。

「離しぃ……もう……うち……」
「あんたは、まだ、解らないのかっ!」

ぺんこうが叫んだ。
その瞬間、ぺんこうの体の奥から、何かが目覚めた。
ぺんこうの手が震え始める。

「ぺんこう?」

真子が静かに呼んだ。その声に、ふと我に返るぺんこう。

「…組長、私が抑えておきますから、何か固定するものを…」
「解った」

真子は、ベッドのシーツをたくしあげ、それを細長くした。
ぺんこうは、桜の腕を掴み、日本刀から手を離させる。
日本刀は、桜の体を突き抜けていた。真子が、その日本刀を固定しようと桜の体にシーツを巻き始めた。
その瞬間、桜がぺんこうの手を払いのけ、真子を押し退けて、再び日本刀に手を掛けた。

「やめろっ!!」

ぺんこうが叫ぶ。
しかし、桜は、日本刀を自分の体から引き抜き、自分の首筋に当てた…が、

「桜姐さん、もう……」

真子の右腕が、桜の首筋と日本刀の間にあった。

「…ご……うぐっ…」

五代目…と口に出来ずに、桜は大量の血を吐いた。
日本刀が床に落ちる。

「桜…姐…さん…??」

桜は体を丸くして、激しく震えだした。
桜の周りには、血の海が広がっている。
真子が右手を差し出した。しかし、

「…組長! 能力は……それより、手当ての方が!」

ぺんこうは、止血を試みる。しかし、血は止まることを知らないように、溢れ出してくる。

「兎に角、橋先生のところに…」

そう言って、ぺんこうは、桜の体を抱きかかえた。
真子は、桜の体の血を止めるかのように手を当てていた。
上手い具合にエレベータが五階に止まっていた。それに素早く乗り込み、そして、地下駐車場へと降りていく。
車をエレベータの前に停めた事が、この時は幸いした。
桜と真子を後部座席に乗せ、ぺんこうは車を発車させた。
アクセルを踏み込むぺんこう。
赤信号も気にせずに、対向車線の車を上手い具合に避けていく。
ルームミラーで後部座席をちらりと観た。
真子が、止血をし続けている。

「組長、これを」

ぺんこうは、助手席に置いているタオルを真子に手渡した。

「これじゃ…足りないよ」

真子が呟くように言いながら受け取った。

「組長の腕です」

ぺんこうに言われて自分の傷に気付いたのか、真子はタオルを腕に巻いた。

「…止まらないよ…」
「能力は、決して…」
「……傷があるから……無理…」

真子の言葉で、ぺんこうは少し安心する。しかし、ぺんこう自身の体の震えは止まっていなかった。

このままでは……。

ぺんこうは、思い出したように何処かへ連絡を入れる。

『橋総合病院です』
「緊急事態です。橋先生お願いします」

直ぐに橋に繋がった。

『…ぺんこうか?』
「すみません。桜さんが自分で腹部に日本刀を突き刺してしまい…」
『容態は?』
「大量に血を吐いてます。血は止まりません」
『あとどれくらい掛かる?』
「目の前に建物が見えてますので、すぐです」
『解った。急患入り口に付けろ。準備する』

そう言って、電話が切れた。それと同時に目の前に、橋総合病院の建物が見えてくる。ぺんこうは、更にアクセルを踏んだ。



橋総合病院の急患入り口前に、車が急停車した。
運転席のドアと後部座席のドアが同時に開き、運転席からはぺんこうが素早く降り、後ろのドアに駆け寄った。そして、桜の体を抱きかかえ、車から降ろした。直ぐ後に、真子が降りてくる。
桜は、力無く両手を垂らし、口元と両手を真っ赤に染めていた。口元から血が流れ出たまま。
入り口に駆け込んだ三人は、廊下の向こうからストレッチャーを押して駆けてくる平野医師と看護婦に桜を託す。ストレッチャーの乗せられ、運ばれていく桜を見届けた真子とぺんこうは、立ち止まり、息を整えた。

「組長の傷も……」
「私は、軽いものだから…」
「しかし……」

それ以上、言葉にならず、ぺんこうは自分の手を見つめた。
その手は、血でどす黒く汚れ、激しく震えていた。




橋の事務室。
ぺんこうは、ドア付近に立ったまま、真子の治療を見つめていた。
真子の右腕の傷を縫合している橋は、優しく声を掛けていた。

「傷は浅いけど、暫くは安静な」
「ありがとうございます。…桜姐さんは…?」
「未だ、わからん。でも、二人が助けた命や。任せときぃ」
「うん…。この傷が無かったら…」

真子の脳裏には、桜が日本刀を桜自身の体に突き刺し、横に引き始める姿が過ぎっていた。真子とぺんこうが、その桜の腕をがっちりと留めたことで、桜の体は引き裂かれなかったものの、出血は止めることが出来なかった。

「そうやって、能力使おうとするんやからぁ」
「でも…」

真子は、落ち込んでいた。
桜の行動が理解できない。

なぜ…。

真子は目を瞑る。

自分の命を絶とうとするなんて…。

ぺんこうは、真子の表情を見つめていた。
真子が何を思い、そして、悔やんでいるのか。それが解っていた。
ふと、目眩に襲われたぺんこうは、自分の何かに恐れ、事務室のドアをそっと開けて、静かに出て行った。

何も………考えられない…。
なぜ…だ?
俺……何を……望んでいる?

足が赴くまま、ぺんこうは歩き出した。


ドアの閉まる音で我に返った真子は顔を上げた。
そこに居たはずのぺんこうの姿がない。

「ぺんこう! …先生、桜姐さんのこと、お願いします!!」

真子は、そう告げて、ぺんこうを追って事務室を出ていった。

「真子ちゃん!!」

橋の呼び止める声が、事務室に響いた。




ぺんこうは、俯き加減に、急ぎ足で外に向かっていた。

「ぺんこう!」

真子が追いつき、腕を掴んで、ぺんこうの歩みを停めた。

「どこ行くん?」

ぺんこうは、何も応えない。
真子が、ぺんこうの顔を覗き込んだ。

!!!

ぺんこうの頬を涙が伝っていた。

「すみません…俺…の…せい…」
「ったく、もぉ。ぺんこうも自分を責める癖、治さなな」

真子は、明るく言って、ぺんこうの涙を優しく拭う。ぺんこうは、いたたまれなくなったのか、真子を力一杯抱きしめた。

俺……どうすれば…。
抑えられない…。
奥に眠る……ものを……。
このまま、組長をかっさらって…何処かへ行きたいっ!

ぺんこうの心の声は、真子に読まれていた。

「ぺんこう……連れてってよ。どこまでも…」
「組長…」

声が震えた。

例え冗談でも、真子が他人に抱かれる姿は見たくなかったぺんこう。
自分を守って、怪我をさせてしまった。
自分の目覚めた感情を抑えてくれた。
しかし…自分が保てない…。

ぺんこうは、真子の手を引っ張り、車に向かって歩き出した。助手席へ真子を乗せ、自分は運転席へ座った後、車を急発進させた。
後ろの座席は、病院関係者の手によって、綺麗に清掃されている事に気付いたのは、かなり走ってからだった。

「ぺんこうの気が済むまで、とことん付き合うよ」

真子は、静かにぺんこうに言った。
ぺんこうは、ただひたすら、車を走らせるだけだった。




「出ていった?!」

橋から連絡を受けて、橋総合病院へ駆けつけた真北は、真子とぺんこうの様子を聞かされて驚いていたように声を挙げた。

「で、何処に?」
「さぁ」
「さぁって、とぼけるなよ、橋ぃ!!!」
「一体、何が遭ったんや?」

橋が、反対に真北へ尋ねた。

「誰も事の真相は知らんみたいや。組長は、桜さんと一晩一緒に居ると言って
 桜さんの車に乗ったんだと。その後、ぺんこうが、血相を変えて、まさちんに
 突っかかって、桜さんのマンションの場所を訊いたらしくてな。その後、
 猛スピードで都内を走ってたんだと。そして、今、ここ」
「…まさかと思うけど、ぺんこうの眠っていた血が呼び起こされて、
 桜さんを斬りつけて、それを、留めに入った真子ちゃんが怪我したとか…」

橋の言葉には関西弁が消えていた。

「そんなこと……あり得ない……あれは…閉じこめている」
「目を覚ますきっかけがあるだろが」
「……なんだよ…」
「真子ちゃん」
「それは…あり得るが…でも、今回は…」

真北の眉間にしわが寄る。

「あの抗争の時だって、真子ちゃんが関わってたんだろ?」
「……あぁ……そうだったな…」

真北は、ポケットに手を突っ込んで、口を尖らせながら、窓際に歩み寄った。

「で、桜さんは?」
「一命、取り留めたよ」
「話、できるのか?」
「まだ、やな」
「そうか…」

真北は、窓の外を見つめた。真北が見つめる方向。
そこには、山がある。
その山道を走る車。
山の頂上に着いた車は、展望駐車場に入ってきた。山の上から眺められる街の景色。その景色が良く見えるところに車は停まった。

「綺麗…だね」

その車には、真子とぺんこうが乗っていた。真子が、優しく語りかける。しかし、ぺんこうは、景色も観ず、ハンドルを持つ自分の手を見つめ、思い詰めていた。

体に流れる血が…沸騰したまま…。

ぺんこうの息は荒かった。ハンドルを持つ手は震えている。その震えを止めようとハンドルを握りしめるぺんこう。その手には、洗いきれなかった、真子と桜の血が少しだけ付いていた。

「くそっ!!!」

ぺんこうは、ハンドルに頭を思いっきりぶつけた。

「ぺんこう!」

真子は、そんなぺんこうの頭を抱き寄せる。

「無茶したら、駄目だよ」
「おさまらない…体の血が、沸騰したまま…あの感情が…おさまらない…。
 おさめられないんですよ…組長…。なぜ…ですか…なぜ、あんなことを…」
「ぺんこうが、苦しそうだったから」
「私…が…ですか?」
「昔の…ぺんこうを見てるようで…。私の前に初めて現れた時の…ぺんこうを…」
「組長…」

真子は、そっとぺんこうの頭を解放した。

「桜姐さん、ぺんこうが断り続けてもしつこく迫ってくるはずだもん。
 断るたびに、ぺんこうの何かが目覚めていきそうで…。私、それが、
 怖かった…。だから、桜姐さんに、やめるよう説得した。なのに、
 桜姐さん、諦めなかった。…だったら、うちと寝るか?……そうしたら
 ぺんこうには、絶対に手を出さない…。一番良い方法…そう思った。
 でも、結局、最悪な方へ行っちゃったね。…ごめん…」
「…私は男ですよ。誘われ続けて、断り続ける自信、ありませんよ。
 まさちんやくまはちのように、簡単に抱けるような人間じゃないんですよ。
 その相手が、桜さんなら…。尚更…」

ぺんこうは、ハンドルに両肘を付いて、頭を抱え込んでしまった。

「過去は、消せません…無かったことには、できません…。
 …俺の歩んできた道…間違っていたんですか…?」

ぺんこうは、ちらりと真子を見た。真子は、思い詰めたような表情をして、座席にドカッともたれかかった。

「あの頃の…感情が、目覚めたんなら…遂げればいい。
 あの時は、解らなかったけど、今なら、解るよ…。
 あの時の感情…それが、何なのか…」

真子は一点を見つめたまま語り始めた。

「…あの頃の感情なら、私も……」

そう言うと、真子は、そっと目を閉じ、

「私は、あの頃から、そのつもりだから…。山本先生」
静かに言った。
ぺんこうは、真子の言葉に意味を理解できた。

本来なら、そのつもりだった。
しかし、今は…。
でも……。
そう考えているはずなのに、体は意志とは反対に動いていた。
ゆっくりと体を起こし、真子の方へ体を動かしたぺんこうは、真子を見つめる。
助手席側の窓に手を突いて、真子にゆっくりと顔を近づけ、唇を寄せた…。




橋総合病院に、水木が血相を変えて駆けつけた。
『水木 桜』
病室へ飛び込む水木。そこには、西田が桜に寄り添うように座っていた。水木を見て振り返る西田。

「兄貴…」
「容態は?」
「…安定してます…」
「そうか…よかった…」
「…姐さん…うわごとばかり言うんですよ…。堪忍な…堪忍な…って。
 一体、何が遭ったんですか? 時々、五代目と呟きます、…緑…とも…。
 そして、俺の腕を気にしてます…」
「俺にも…わからんのや…。目ぇ覚ましてから、聞くしかないな…。
 …大丈夫か?」

水木は、西田の不安そうな表情を見て、声を掛けた。

「俺は、大丈夫ですから」
「そうか…」

水木は、優しく西田の頭を撫でていた。

「桜…」

病室の外では、真北が、中の様子を伺うように立っていた。そして、ゆっくりとその場を去っていく。





ぺんこうの車が、山道を降り、都会へ向かって走っていた。

『ここでは、なんですから…今夜は付き合ってもらいますよ』

ぺんこうは、真子に唇を寄せた後、優しく呟いた。
助手席の真子は、ただ、一点を見つめたまま、じっとしていた。
街の中を走る車は、高級ホテルの駐車場へ入っていく。



ぺんこうは、フロントでキーを受け取り、真子の肩を抱きながら、エレベータホールへ、そして、エレベータに乗って、最上階まで上がっていった。
ホテルの一室へ入ってきた真子とぺんこう。
ぺんこうは、ドアを閉め、チェーンを掛けた途端、真子を抱きかかえ、部屋の中央にあるベッドにそっと寝かせた。
真子の上に四つん這いになるぺんこうは、静かに尋ねる。

「…本当に…よろしいんですか?」
「とことん、付き合うって言ったでしょ?」

真子は、微笑んでいた。

「約束は…?」
「……反古」

ぺんこうは、呆れたように、笑い出した。

「はっはっっは。…好きですね、反古するの」
「約束と、気持ちは別だもん」

真子は、少しふくれっ面になる。

「…その感情が、眠るまで……いいから…」

真子は、甘く優しい声で、ぺんこうに言う。

「………!!!!」

真子の頬を優しく撫で、見つめるぺんこうは、真子に唇をそっと寄せた。

ぺんこうの手が、部屋の灯りを消す為、スイッチへとスッと伸びる……。
暗くなった部屋の床に、服がするりと落ちる音が聞こえ始めた。




「くそっ!」

そう言って、真北は、携帯電話の電源を切った。
橋総合病院の外で、真北は壁にもたれて座り込み、何処かへ連絡を入れ続けていた。
長く呼び出しても相手は出ない。
それでも、真北は連絡を入れ続ける。

『留守番メッセージサービスへおつなぎします』

「…芯、何処にいる? 組長と…一緒なのか? 連絡くれ」

電源を切る真北は、頭を抱え込んで俯いた。





微かな息づかいが聞こえる暗がりの部屋。床に散乱している服の内側では、何かが光っている…。

「…どうしたら…いいの?」

真子が言った。
その声には少し緊張感がある。
真子は、身に付けていた物を全て剥かれて、体を強ばらせていた。
話には聞いていた。
しかし、実際、それを行うのは初めてで…。

「…何もしないで…身を任せるんですよ…」

優しく応えたのは、真子の体温を直接肌で感じているぺんこうだった。応えた後、真子の耳元に息をそっと吹きかけた。

「…う…うん……あん……」

真子の声に、ぺんこうは、クスッと笑った。そして、

チュッ!

暗い部屋に短く聞こえた…。

ぺんこうの柔らかい唇が、真子の唇から顎へ、そして、喉元へとゆっくりと移動していく。
そんなぺんこうの行動は初めてで、真子は戸惑っていた。

「あの…ね…ぺんこう…」
「はい?」
「その……」

真子の胸元に顔を埋めているぺんこうは、動きを止めた。

「…何ですか?」

吐息混じりに尋ねるぺんこう。

「…優しく…して…ね…」
「ん?」
「だって…ほら…その……」

少し戸惑ったような感じで言う真子。
ぺんこうは、敢えて何も応えなかった。
真子の体が、ピクッと反応した。

「…!!……」

無意識に真子の手は、ぺんこうの右肩を掴んでいた。
その肩の先にあるだろう手が、ゆっくりと真子の体を沿うように下へと動いていく…。
真子は、太股にぺんこうの手を感じた。その手が優しく動いているのが解った。
今まで経験したことのない感覚が、体を走り続けている。
真子は、少しずつ、体に力を入れていく。
ぺんこうは、真子の太股に当てた手で、真子の脚をゆっくりと開いた…。
ぺんこうの体が、真子の脚と脚の間に滑り込む。
少し下に体を引きずられた真子は、この先に起こる出来事を予測したのか、更に体に力を入れた。
ふと耳元に何かを感じた。

「力…抜いて…」

その声に、ゆっくりと力を抜く真子。
その途端、体を突き抜ける衝撃を感じ、

「…ん…ん!! …ぺんこぅ……あぅ!!!」

真子の体が反り、シーツをグッと掴んでいた。その途端、体は上下に動き始めた。
何かを探るかのように手を動かすと、何かを掴んだ。
それは、ぺんこうの腕。力が入っているのか、筋肉が固かった。それに気付いたものの、真子はどうすればいいのか解らない。掴んだ腕を力一杯握りしめた真子。体の動きが、少しずつ激しくなっていく。
息をしたくても、できない。
体中の血液が、沸騰しているのか、熱く感じた真子は、気が遠のいていった…。




「はぁはぁ……はぁ……ふぅ〜……」

息を整えたぺんこうは、真子の隣に倒れるように寝転んだ。そして、力無く横たわる真子を抱き寄せ、布団をかぶる。
真子は、気を失っていた。

「…真……子……」

ぺんこうは、そっと呟いた。
初めて口にする真子の名前。
少し違和感を感じるぺんこうだった。
胸元に、真子の息を感じるぺんこうは、今までの生活を振り返っていた。

初めは、あの人を困らせる為に、この世界へ踏み込んだ。
そして、あの人が狂乱するであろう出来事を企てていた。
大切な者を奪う…。
しかし、そんな思いは、とっくに消え失せていた。
消え失せているはずだった。

「まさか…目覚めてしまうとは…」

腕の中にいる真子に目線を移す。暗がりに目が慣れているのか、真子の顔が少し確認できた。
目元が濡れていた。
ぺんこうは、そっとそれを拭う。

「どうか…してるよ、…俺……」

抑えられなかった…。

あの日、耳にこびりついた言葉がある。
それは、真子のこれからの事。

もし、その感情が思いが実現したら、お前は、どうする?
その覚悟を持つなら、思いを達成してもいい。
あいつの困った顔、見物だろ?

ぺんこうは、これからの事をふと考え、ため息をついた。




橋総合病院の外では、真北が、電話をかけ続けていた。
まさかの思いが、頭を過ぎる。

本当に……俺を困らせるつもりなのかよ…芯っ!

グッと握りしめた拳に、一滴の滴が落ちた。




真子が、ぺんこうに背を向ける感じで寝返りを打った。その弾みで、肩が布団から出てしまう。
ぺんこうの手が、真子の肩に触れる。
少し冷えていた。
ぺんこうは、布団を頭近くまで引っ張り上げ、真子の体を、まだ火照っている自分の体で温めた。

「…ん? …眠っちゃった?」

真子が、呟いた。

「そのようですね」

ぺんこうが、優しく応えた。

「どれくらい?」
「少しだけですよ」

真子は、ぺんこうへ振り向いた。

「ぺんこうの顔が見たい…」

ぺんこうの体が動き、手探りで何かを探し始めた。
暗い部屋の一カ所に、ほのかな灯りが付いた。
ぺんこうは、真子から少し距離を置いて、寝転んだ。

「……体中の力が…抜けたみたい…」

真子の声には、力が無かった。

「初めては…そうですよ…」
「…どう?」

真子の尋ねる意味が理解できないぺんこうは、そっと真子に目線を移した。

「お休みになられますか?」
「…何時?」
「十一時ですね」
「まだ、十一時なんだ…。あのことから、かなり時間が経った気がするのに」
「…大丈夫ですか?」
「何が?」
「その……です…」

何かを誤魔化すような言い方が気になるのか、真子は、ぺんこうを見つめていた。
ぺんこうは、真子から目を反らすような感じで真上を向いて、目を瞑る。

「…やっちゃった…」

ぼそっと呟くぺんこう。そんなぺんこうの言葉に、真子はくすくすと笑い出した。

「…笑わないでくださいよぉ」

そう言いながら、真子の上に覆い被さるぺんこう。
真子は、キャッキャとはしゃぎながら、ぺんこうの胸元に軽く拳を連打する。
ぺんこうは、真子の両手首を掴み、真子にそっと口づけをした…。

「大人に…なったんですね」
「私、もうすぐ25になるんやで」
「一緒にお風呂に入っていた頃を思い出しましたよ」
「やだなぁ、もぉ。その頃と比べた?」
「えぇ」
「あほぉ」

そう言った真子は、力を取り戻したのか、寝技で、ぺんこうを押し倒し、上に乗っかった。真子の長い髪が、ぺんこうの顔に掛かる。ぺんこうは、その髪をそっと真子の後ろに持っていった

「あの時は、思いとどまったのに、今日は、どしたん?」
「ですから、昔の感情が目覚めて、赴くまま…」
「昔の感情って、そういうことだったんだ、やっぱり」
「やっぱりって…」
「あの人から、奪ってやる…」
「わちゃぁ〜」

ぺんこうは、参ったという表情で、大の字に腕を広げた。

「一体、どこまで、私の感情を知っているんですかぁ」
「全部…」

真子は、そう言って、にっこりと笑っていた。

「ったく、悪い子ですねぇ〜」

ぺんこうは、真子を隣に押し倒し、自分は俯いて、寝転ぶ。
ぺんこうの右腕は、真子の胸の膨らみに乗りかかり、手は、真子の肩を抱いていた。
指先で、真子の耳をいじる。

「こしょばいぃ〜」

ぺんこうは、笑いを堪えるかのように、真子とは反対の方へ向く。
ふとベッドの下に目をやったぺんこうは、自分の服の内側で何かが光っていることに気が付き、左手を伸ばし、服の内側から携帯電話を手に取った。

『真北 伝言』

携帯電話の画面に表示されていた。電源を押し、メッセージに耳を傾けるぺんこうは、フッと笑った。

「誰から?」

真子が、尋ねた。

「真北さん。何処に居るんだ…ってさ。行方探してますよ。どうします?」

真子は、ムクッと起き上がり、ぺんこうが手にしている電話を取り上げ、電源を切り、遠くへ放り投げた。

「組長?」
「外からの連絡はシャットアウトぉ」
「わかりました」

真子は、ぺんこうの首に手を回し、ぺんこうの体に身を寄せる。

「まだ、戻ってへんなぁ」
「なぜ?」
「まだ、あの頃の目…してるから…」
「はぁ〜〜……」

ぺんこうは、大きく息を吐く。

「…もう、戻れないの?」

真子は、真剣な眼差しで尋ねる。ぺんこうは、真子を見つめた。
真子の目は寂しそうにしている…。

「戻れませんね…」
「えっ?」
「昨日までの二人には…」
「…ぺ……」

真子が言葉を発するよりも先に、ぺんこうは、自分の唇で、真子の口を塞いでいた。
真子は、ゆっくりと目を瞑る。
唇を離したぺんこうは、慈しむように、真子の頬を撫でた。その手は、唇、顎、喉元へと徐々に動いていく。
真子を包むラインに優しく触れていくぺんこうは、真子の胸に顔を埋めた。
真子は、ぺんこうの背中に手を回していた。その手に力が入っていく。
ぺんこうの肌に爪が立てられる…。
ぺんこうは、巧みに真子をうつ伏せにした。
真子の背中に唇を寄せるぺんこう。
真子は、ちらりと振り返る。

「ぺ…ん…こう?」

ぺんこうは、目だけで、真子を見つめる。

「色んな方法がありますから…」
「えっ?」

ぺんこうの呟きは真子の耳には、届いていなかった。
ぺんこうは、真子に発言の余裕を与えない程、真子を後ろから抱きしめ、責めていく…。
二人の体は、濡れていった…。

「…は…うぅん………!!!!!」

シーツを握りしめる真子の体が激しく動き始めた………。



(2006.5.3 第四部 第二十九話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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