任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第四部 『新たな世界』
大人の世界の話が含まれます。
お子ちゃまには、まだ早いですよぉ〜!!


第三十話 ほんの少しの逃避行

高級ホテルの最上階にある一室。
そこでは、熱い時間が流れていた。
真子とぺんこうが、俯せになったまま、布団の中で動こうとしなかった。ぺんこうの腕の下に居る真子は、ぺんこうとは、反対側の方を見つめていた。

「組長?」

声を掛けたが、真子は返事をしない。ぺんこうは、真子が眠ってしまったと思ったのか、肩に優しく布団を掛けた。
その手を掴まれるぺんこう。真子がぺんこうの方に振り返った。

「さっき…何て言った…の?」
「何も言ってませんよ」

ぺんこうは、誤魔化した。

「今の…は?」
「何がでしょう?」

ぺんこうは、とぼけてみせる。
そんなぺんこうに気が付いた真子は、ぺんこうの胸に顔を埋め、そして、そっと唇を寄せた。
ぺんこうの体が、ピクッとなった。

「へへへへへ!」
「…なぁにするんですか!!」

真子は、ぺんこうの腕の中から、見上げていた。
ぺんこうは優しく微笑む。
そんなぺんこうの表情の変化を楽しむかのように、真子は、ぺんこうの体を触りまくっていた。
その手は、腹部の辺りで止まる。

「…ぺんこう…この傷…」
「学校前の…ですね」
「…残ってたんだ…」

真子の声は、哀しそうだった。

脳裏に過ぎる、血で染まるぺんこうの姿…。

そんな真子を力強く抱きしめるぺんこう。

「これがあるから、今、こうしていられるんですよ…」
「…ありがとう…」

真子は、ぺんこうの背中に手を回し、力一杯抱きついた。
今まで、抱き合っても、肌に直接感じることが無かった体温。
それが、こんなに温かくて、心地よいものだとは、真子は知らなかった。
真子の心に流れ込む、ぺんこうの感情。
いつも感じるものとは、違っていた。

真子は、ぺんこうを見つめた。

「…なんでしょう……ん?!!!」

真子から唇が寄せられる。

「…少し…眠って…いい…かな…」
「えぇ」

真子は、ぺんこうの返事を聞く前に、目を瞑り、寝息を立てていた。

「ったく、組長は…」

優しく微笑み、真子の額に軽くキスをするぺんこう。
真子は、ぺんこうの腕の中で、気持ちよさそうに眠っていた。




ぺんこうは、少し体を動かした。その動きで、真子が目を覚ます。

「すみません、起こしてしまいましたか…」
「どこ、行くん?」
「どこにも行きませんよ」
「…うん…」

真子は、ぺんこうのしがみつくように手を動かした。
真子の体温を肌で感じるぺんこうは、沸き立つ衝動を抑えていた。

初めての時に、これ以上は……。

「…とことん付き合う…言ったでしょぉ〜」

真子は、寝ぼけながらも、ぺんこうに言った。

「私が、限界ですよ」
「あうぅ〜」

ガブッ!

真子は、ぺんこうの左肩に噛みついた。

「……ったくぅ。組長が、こうだとは思いませんでしたよぉ。
 それとも、寝ぼけてますか?」

ぺんこうは、優しく微笑みながら、真子を仰向けにした。

「喰ってやるぅ〜」

真子が言った。

「喰ってるのは、私の方ですよ」

ぺんこうは、真子を見つめていた。真子もぺんこうをじっと見つめる。

「…まだ、あかんのぉ?」

真子が、尋ねた。

「この状況がそうさせるだけなんですが…」
「そうなの?」

ぺんこうは、にっこりと笑った。

「えぇ。…それが、男と女の関係で、男というものですよ」
「教育…終了?」
「教育では…ありませんよ。…あの人への仕返しです」
「まだ戻ってへん!!」

真子はふくれっ面になった。真子の膨らんだ頬を押さえるぺんこう。そして、そのまま、キスをする…。

「最初の男が、私だと知ったら、あいつ、怒るでしょうね」
「あいつ?」
「組長の好きな人ですよ。あいつが、どれだけ抑えてるか、知ってるだけに…。
 …くっくっく…俺、悪い男だなぁ」
「なんで、まさちんが、出てくるんよぉ」
「…私は、組長の好きな人としか言ってませんよ。まさちんなんて、一言も…」
「あっ…」

ぺんこうは、笑いを堪える感じで、俯いていた。

「組長が、あいつを心配する感じは、私やむかいん、くまはちに向けるものとは
 違ってますからね。あいつの事で相談しに来た時も、そうでしたよ。
 私は、その時から、組長の気持ち、知ってましたから」
「…だから、免許取った日、喧嘩したん?」
「そうですよ」
「…私が原因だったんだ…。知らんかった…。もしかして、
 いつもやり合う理由って私が絡んでるの?」
「8割は」

ぺんこうは、仰向けになった。真子は、俯いて、照れたように枕に顔を埋めた。

「ったくぅ〜」

そんな真子の仕草に微笑むぺんこう。

「体…大丈夫ですか?」
「ん? …大丈夫だと…思う」
「やりすぎましたね」

ぺんこうは、真子の方へ振り返り、真子の腰の辺りを優しくさすっていた。

「ぺんこうは?」
「私は、頑丈ですから、何なら、一晩中でも…」

真子は、ちらりとぺんこうを見た。ぺんこうの顔が、目の前に迫っていた。
真子は、ぺんこうの首にしがみつくように腕を回し、キスをする。
そして、ニタァっと笑った。

「どっちかが、倒れるまでっていうの…どう?」
「…組長の新たな一面…発見しましたね…」
「負けへんでぇ〜」
「私こそ」

そう言った二人は、布団に潜り、もそもそと動き始めた。

「組長…弾けましたね…」
「ぺんこうこそ」
「そんな方だとは、思いませんでした」
「何がぁ!!」
「抑えてて正解です」
「何を??」
「色心!」
「ほっとけ!!」

そんな言い合いをしながら、真子の初めての夜は、明けていく…。




時計の針は、朝の四時を廻っていた。

ホテルの一室にある風呂場から、水の音が聞こえていた。
音が止まった。

『髪、顔、体…そして……流す!!』

ザバァッ!

「ぷはぁ」

真子とぺんこうは、一緒にお風呂に入っていた。体を洗い、泡を流した二人は、お互い笑い合っていた。

「懐かしいね」

湯に浸かりながら、真子が言った。ぺんこうも同じように真子と湯に浸かる。

「走ったら滑りますよ」
「走らないって。……少し、筋肉付いたくらい?」

真子は、じっくりとぺんこうの体を眺めていた。一緒に寝たものの、暗がりの中だったため、よく見てなかったようだった。

「…胸が膨らんだくらいですね…」

ぺんこうも、真子の体をじっくりと眺めていた。

バシャッ!

真子は、ぺんこうの顔を目掛けてお湯を掛けた。
ぺんこうも、負けじと真子にお湯を掛ける。
お湯の掛け合いをする二人。永遠に続くかと思われたときだった。
ぺんこうが、突然、真子の腕を掴み、真子を背中越しに抱きしめる。
真子は、ぺんこうにもたれかかるような感じで、じっとしていた。
ぺんこうの腕と脚が、真子の体をそっと包み込む。 ぺんこうは、真子の肩にちょこんと顎を置き、真子の耳元で呟いた。

「真子…愛してます…」

真子は、ぺんこうの腕にそっと自分の手を置いて、目を瞑った。

「ありがとう………芯…」

真子は、ゆっくりと振り返り、そっと口づけをした……。






夜が明けた。
真北は、携帯電話を握りしめたまま、一睡もせず、深刻な表情で朝を迎えてしまった。




桜が目を覚ました。

「桜!」

目を覚ました途端、目に飛び込んできたのは、心配顔の水木と、桜の弟・西田だった。

「あんた……っ…西田」
「よかった…」

西田は、いつもの桜だったことに安心した様子。

「…俺、連絡してきます」

そう言った西田は、病室を出ていった。

「おい、西田!! …ったく、あいつはぁ。お前なぁ、心配して
 俺より先に駆けつけたのは、西田やぞ。もう少し考えたれや」
「ほっといてんか。この世界の常識やろ」
「あのなぁ。…まぁ、ええわ。…で、何が遭ったんや? お前をここに運び込んだ
 二人は、未だに連絡取れないで、行き方知れずやぞ」
「えっ?」

桜は驚いた声を挙げた。

「だから、言ったやろ。怪我するで…って。で、あいつか?
 お前に刃を立てたのは…ぺんこう…なんだな?」
「ちゃう。…うちや…」

桜が静かに言った。

「お前、自分で自分に…か?」
「…うち…五代目を怪我させてしもたんや…。うち…知らんかったんや…。
 ぺんこうが、緑やったなんて…あの恐ろしい奴やったなんて…」

桜は、泣いていた。

「あんた、知っとったんやな…」
「あぁ。初めて見た時に、すぐな…」
「うち、気ぃつかんかった…。初めて見たのが、教師面やったからな…。
 すごく柔らかい眼差しの…」
「それが…今のあいつなんや」
「そうやな…うち…それを…壊してしもた…。うちが悪いんや…」

桜は泣き崩れてしまう。水木は、そっと桜を抱きしめた。

「あんた…堪忍な…。堪忍な…」
「お前は気にするな…俺に任せとけ…」
「…うん……」

水木は、そっと桜を寝かしつけ、優しく布団を掛けた。

「絶対安静なんやからな。動いたら、橋先生に抑制されるからな」
「うん…寝とく…。あんた…五代目…探してんか…」
「解っとる。ほなな。これ以上泣くなよ。傷に響くかんな」

水木は、桜に優しい眼差しを送って、病室を出ていった。

廊下には、真北の姿があった。

「どうや?」
「あかん…。精神的にきとりますよ」
「…悪かった。まさか、あいつにあの感情が残っていたとはな…」

真北は、怒りを抑えたように言った。

「真北さん、勘違いされとりますよ」
「勘違い?」
「桜、責任感じて、自分で刺したそうですわ」
「自分で? 桜さんがか?」

水木は、ゆっくり頷いた。

「組長を斬りつけてしまったみたいですよ。そして、ぺんこう自身の何かを
 目覚めさせてしまったみたいです。…すんません…」

水木は、深々と頭を下げていた。

「…頭、上げろ」

そう言われても、水木は、頭を上げなかった。

「すんません!!!」

そんな水木の胸ぐらに手を伸ばし、頭を上げさせる真北。その目には、怒りが現れていた。

「お前らの癖…なおしておけよ…な」

真北は、水木を壁にぶつける感じで手を離し、その場を去っていった。

「…これは…やばい…な……」

水木は、その場にしゃがみ込んでしまった。




高級ホテルの一室。

ぺんこうは部屋の鏡を見ながら、服を身につけていた。シャツを手に取り、羽織ろうとした時、自分の腕にあざが付いていることに気が付いた。目を懲らすと、指の形に見える。
そのあざに、そっと触れ、そして、思い出した。
真子を初めて貫いた時に掴まれた場所だった。

それほど、俺……。

目を瞑り、息を整える。気を取り直し、シャツを羽織った。服の上から、先程のあざの場所を優しく撫で、服を整える。そして、ベッドから少し離れたところに落ちている携帯電話を手に取り、電源を入れた。

「あらら…」

電源を切っていても、留守番サービスに繋がるようになっているのか、伝言の数がかなりあった。ほとんどが真北からだった。どの伝言も、心配そうな声で語られていた。
真子が髪の毛を拭きながら、ぺんこうに近づいてきた。

「どしたん?」
「真北さん、思いっきり心配してますよ。…これは、怒られますね…きっと」
「ボッコボコのギッタギタにされる? 二人の関係を知ったら」
「冗談言ってられませんよ…きっと…。あっ、でも…」
「でも?」

ぺんこうは、旅行の時の真北の言葉を思い出したのか、

「大丈夫でしょう。連絡もしないで過ごした方を怒るだけですね」

自信ありげに応えた。

「…えらい急に自信もった言い方してぇ〜」

真子は、ぺんこうにしがみつくように首に手を回した。

「…服…早く着て下さい」
「…はぁい。…って、今日は一日ここに居るんじゃないん?」
「…そうしましょうか」
「ね!」
「…ですから、服!」

真子は、ふくれっ面になりながら、ベッドの側に落ちている自分の服を手に取り、身につけた。その間、ぺんこうは、真子に背を向けて、携帯電話で、どこかに連絡を入れていた。

「すみません。少し体調が悪いので、本日の出勤は、無理です。はい、
 お願いいたします。…えぇ。明日はきちんと出勤致します。…はい。
 青野は…? …そうですか。無事に…わかりました。ありがとうございます。
 では、宜しくお願いします」

服を着終わった真子は、カーテンを開けた。

「こぉんなに高いところだったんだね。夜だったから、解らなかった」
「最上階なら、時間も稼げますからね」
「何を企んでるん?」
「逃げること」
「あっそう。…で、休んで良かったん?」
「えぇ。まぁ、試験の問題も出来上がってますから」
「まだ…戻ってないんだなぁ」
「戻りたくありませんね」
「ぺんこうぅ〜」
「今日一日だけですよ。…明日からは、また、元の生活です」
「…うん」

小さく呟いた真子は、ぺんこうに寄りかかっていた。ぺんこうの腕が真子の体を優しく包み込む。
携帯が鳴る。
どうやら、真北からの電話らしい。

「…どうしましょうか」
「出なくていいよ。場所がわかっちゃうから」
「そうですね」

二人は、悪戯っ子のように微笑み合っていた。




「ちっ…まだ、出ないんか…。出れないってこと…ないよな…」

橋総合病院駐車場に停めている車の中で待機している真北は、電話を切った。そして、別のところに連絡を入れた。

「健、調べてくれるか?」
『おはようございます。…って、何をですか?』
「組長とぺんこうの居場所」
『昨夜は、ぺんこうから、組長の居場所を聞かれたんですが…。
 一緒に居るんじゃないんですか?』
「連絡取れないんだよ」
『桜姐さんと何か遭ったようですね。組長の居場所は、桜姐さんの
 都会マンションでしたから』
「で、解るんか?」
『ですから、その点滅は、そこに止まったままですよ』
「居るわけないだろ…」
『ほな、発信器は、そこに置きっぱなしってことですね。…ぺんこうを
 追いましょうか? …携帯が、一点を示してますが…』
「どこや?」
『市内の高級ホテルですよ』
「…わかった。ありがとな」

真北は、電話を懐に入れ、ため息を付いた。

「…冷静で居られるかな…俺……」

真北には、ぺんこうの考えが手に取るように解っていた。息を整え、精神統一した後、車を発車させた。




真子とぺんこうは、ホテル内のレストランで食事を済ませ、再び部屋へ戻ってきた。
『起こさないでください』
ドアにプレートが掛かっていた。

「一日、ここでくすぶってるつもり?」

真子が、言った。

「いいえ、ドライブに出掛けましょうか?」
「そうだね。…遊園地…どう?」
「そうしましょうか。…体調はよろしいんですか?」
「そのままそっくりぺんこうに返すよ!」

そして、二人は、ホテルをチェックアウトした。




「十分前に、チェックアウトされてます」
「そうですか。ありがとうございます」

真北は、フロント係に一礼して、玄関へ向かって歩き出した。

「あっ」

真子が声を出した。

「…探し当てたか…」

ぺんこうが呟いた。そして二人は、気配を消しながら、真北が去っていくのを見届ける。
チェックアウトをしたものの、忘れ物を取りに、部屋へ戻っていたのだった。
ゆっくりと地下駐車場の階段を下りていく二人。そして、車に乗り込み、駐車場を出ていった。
真北が向かった方向と反対の方向へ車を走らせるぺんこう。しかし、その行動は、真北にばれていた。
真北の車には、健が同乗していた。小さなコンピュータを手に、健は、何かを探っていた。

「どうします、真北さん」
「後を追うに決まっとるやろ」
「わかりました…」


そうとは知らずに、真子とぺんこうは、遊園地へやって来た。

「到着ぅ〜」

二人は同時に言って、車から降りる。

「今日は、恋人同士?」

真子が言うと、

「一夜を共にした……が付きますよ」

ぺんこうが明るく応えてきた。

「では、行きますよ」

ぺんこうが言うと同時に、真子がぺんこうに腕を組む。そして、二人は遊園地のゲートをくぐっていった。
そんな二人の後ろ姿を眺める真北と、真北に目をふさがれている健。

「入らないんですか?」
「どうせ、車に戻ってくるやろが。ほっといてやれ」
「ったく、二人には、いつも甘いんですから……す・み・ま・せ・ん!!」

真北は、健の目を塞ぐ手を思いっきり握りしめていた。



真子とぺんこうは、まるで恋人のように、はしゃぎながら、いろんな乗り物に乗っていた。
お互いの肩書きを忘れて……。


夕暮れ近く。
真子とぺんこうが、たっぷり堪能して、ゲートから出てきた。

「楽しかったね」
「えぇ。しかし、無茶しすぎですよ」
「なんでぇ」
「足、ふらふらしてましたよ。…まぁ、2、3日は、そういう状態が
 続くでしょうから」
「…誰のせい?」

真子は、意地悪そうに微笑んだ。
ぺんこうは、何も言えずに、照れたように目を伏せる。

「…家に戻ったら、いつもの二人…か」

真子は、寂しそうに言った。

「ほんの少しの逃避行…ってとこですね。素敵な時間でした…」

ぺんこうは、人目もはばからず、真子にそっと口づけをする。

「ボッコボコのギッタギタにされたいんか…」

その声に振り返るぺんこうは、サァァァッと血の気が引いていくのが解った。
その声の主こそ、真北だった。
もちろん、真北の手は、健の目をふさいでいる……。

ぺんこうは、開き直ったのか、フッと笑みを浮かべて、真北を睨み付けた。
真北もぺんこうを睨み返す…。

「…ぺ、ぺんこう…」

焦ったようにぺんこうを呼ぶ真子の手を引っ張って、ゆっくりと歩き出すぺんこう。
真北の横を通り過ぎた時、呟いた。

「俺の思いは…遂げましたから…」

真北は、その言葉に目を見開いた。
ぺんこうは、真子を助手席に乗せ、ドアを閉める。そして、背を向けて立ちつくす真北を見つめた。健は、二人の雰囲気におろおろとするだけ。
真北が、懐に手を入れた。そして、振り向き様に、ぺんこうに銃を向けた。

「ま、真北さん!!」

真北の側に居る健が、真北の腕を抱え込んだ。しかし、真北は、健を蹴り上げ、銃を向け直し、ぺんこうへゆっくりと歩き出した。
ぺんこうは、ひるみもせず、真北を睨み続ける。

「…一発でしとめないと…あなたが、怪我…しますよ。…まぁ、刑事の銃は
 一発目は空砲でしょうから…」
「撃ってみようか?」

真北は、ぺんこうの前にやって来た。
銃口は、ぺんこうの額に突きつけられる。
ぺんこうは、それでも、真北を睨んでいるだけだった。

「恋人…とられて、黙ってられませんよね…。…そして、先代が、
 あなたにしたように、ボッコボコのギッタギタにするおつもりですか?」

ぺんこうは、怪しく微笑んだ。
二人の様子を車の中から見守る真子。
なぜ、車から降りないのか…。

『あの人を試すチャンスですから』

真子を助手席に座らせ、ドアを閉めた時に、ぺんこうは、真子に呟いていた。

「もしも…となっていたら、…どうするんだよ。俺だけでなく、
 周りは、黙ってないぞ…それとも、何か? …逃げるつもりか?」
「…大丈夫ですよ。あなたとは違いますから」
「…撃つぞ、ほんまに」
「……そんな度胸もないくせに、言わないで……!!!」

ズキューン!!!

銃声が、響き渡った。

真子は、顔を覆っていた。
健は、目をギュッと瞑っていた。
ぺんこうの目は見開かれ、そして、首には、うっすらと血が滲んでいた。

「お前、桜さんに、突き立てたんだろ? …いい加減にしろよ。後始末は、
 また、俺やないか…。…ほんとなら、どてっぱらと、そこにも
 ぶち込んでやりたいんだがな…」

真北の目線は、下に向いていた。

「…真子ちゃんの気持ちを大切にしたいしな。…桜さんには、謝っておいた。
 お前は、二度と、顔を合わせるんじゃないぞ。わかったな」

真北は、そう言って、銃を懐になおした。そして、そのままきびすを返して、健を呼んで、車に乗り、去っていった。
真子は、慌てて車から降り、ぺんこうに駆け寄っていく。

「…ほんとに…殺るつもりだったんだな…」

ぺんこうは、一点を見つめたまま、立ちつくしていた。

「…ぺんこう…」
「…許さねぇぞ、あんにゃろぉ〜。…組長、今夜もとことんまで
 付き合って下さい!!」

ガツッ!!!

「あほぉ。今度こそ、ほんまに、腹に風穴空くで!!!」

真子は、ぺんこうに蹴りを入れていた。

「ったく、もぉ〜」

真子は、ハンカチで、ぺんこうの首筋の傷をそっと抑える。

「組長…。ありがとうございます」
「帰ろ」

真子は、ぺんこうに微笑んでいた。ぺんこうは、そんな真子の笑みに応えるように微笑み、真子を車に乗せ、そして、運転席に乗り込んで、出発させた。

夕日が顔に当たっていた。
真子は、ぺんこうに目線を移す。
ぺんこうの目が潤んでいるように見えた。

「ぺんこう?」
「はい、どうされましたか? やはり、はしゃぎすぎましたね」
「違う……。その…」

ぺんこうは、優しい笑顔で真子に振り向いた。
その表情は、今まで観たことがない程、優しくて、そして、温かく、心臓を高鳴らせてしまう程だった。
真子は思わず目を背けた。

「組長」
「な、なに??」

名前を呼ばれて、ちょっぴり焦ったように返事をする真子。

「ありがとう…ございました」

ぺんこうは、そっと告げた。

「いつでも……いいからね、ぺんこう」

真子は呟くように応え、自分の応えの大胆さに照れたのか、真子は顔を真っ赤にしてしまう。

「…次は……」

そう言ったっきり、ぺんこうは、何も話さなくなった。

次は、私じゃなく、あいつに…。

言いそうになった自分に苛立ちを感じた。
真子の気持ちを知っているのに、どうして…。
そういう気持ちもあった。
ふと気付くと、沸き立つ何かは、納まっていた。
あれが何だったのか、自分でも解らない…。

車は自宅に向かって走っていく…。
同じような車は、もう一台。

「真北さぁん」

真北の車の助手席に乗っている健が声を掛けた。

「何や?」
「…こわ…」
「はよ、言え!」
「…どうして、ぺんこうのそこを撃たなかったんですか」
「じゃかましぃ! …そんなことしたら、俺が組長に嫌われる。
 健、これ貸すから、お前がやれ」

真北は、懐から銃を取りだし、健に渡した。

「嫌ですよ。私も、組長に嫌われたくありませんから。それに、ぺんこうには
 …俺、弱いんですよ」

銃を真北に返す健は、ふくれっ面になっていた。

「お前、まだ、尾を引いてるんやな」
「俺は悪くないんですからぁ」
「だから、お前のその目が悪いんだ」
「真北さぁん〜」

健の嘆きが響く中、

「人のこと、言えんもんなぁ、俺……」

真北が呟いた。



(2006.5.6 第四部 第三十話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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