第三十一話 真子の変化に、周りの異変 「……」 「………」 「………で?」 夜。 真子の自宅・リビングは、少し重苦しい雰囲気が漂っていた。 真北、くまはち、そして、ぺんこうの三人が、雁首揃えて話し合っていた。 もちろん、真子とぺんこうの行動について。 ぺんこうから、事情を全て聞いた後、真北とぺんこうは、睨み合ったまま…。 「…で、って、お前なぁ…」 真北が、ふてくされたように言う。 「私、部屋に戻りますよ。明日は、早いですから」 そう言って、ぺんこうは、席を立ち、リビングを出ていった。 「……はふぅぅぅぅ〜〜。……くまはちぃ〜」 「私に当たらないでくださいね。すでに、一発ぶちかましてるんですから。 もうよろしいかと…」 「…まぁ、な…。ただ、真子ちゃんが、ぺんこうを落ち着かせる為にと いうだけで、…そこまで…なぁ」 真北は、困っていた。 急に訪れた真子の大人の世界。 心の準備が出来ていない真北だった。 「では、組長には、私からお話しするということで、よろしいですか?」 「あぁ。その方が、ええやろ。俺からよりも、くまはちからの方が…な」 「かしこまりました」 「…真子ちゃんは?」 「熟睡されてます。色々とあって、お疲れになられたのかと……!!」 真北は、くまはちの腹部に拳を入れた後、立ち上がり、リビングを出ていった。 「ったく…。いつかは、くる事だと申したのにぃ〜」 珍しくくまはちが、嘆く…。 真北は、真子の寝顔を見に来ていた。 いつも以上に、素敵に思う真北は、 「フッ…。これが、父親の気持ちなんかな…。大切な娘を取られた気分…か」 そう呟いて、口を尖らせ、ポケットに手を突っ込みながら、自分の部屋へと入っていった。 ぺんこうは、ベッドの上で、自分の両手を眺めていた。 その手は、ゆっくりと自分の目を覆う。 俺……堪えられるかな…。 朝。 真子は、珍しく早く起きた。 「んー!!! 今日も頑張るっ!」 真子は、ガッツポーズをして、ベッドから飛び降り、部屋を出ていった。階段を下りている時、体に何かを感じる。 「はへ?!?」 あと二段というところで、脚の力が抜けた。 「……!!! ぺんこう。おはよ」 階段から落っこちそうになる真子は、誰かに支えられていた。 出勤しようと玄関へやって来たぺんこうだった。 「ですからぁ、2、3日は、足腰にきますよと申したでしょう?」 ぺんこうが、真子を支えた手で、抱きかかえながら、優しく言った。 そして、真子を床に下ろし、頬に軽くキスをする。 「あっ…」 「……何も見てません!!」 ぺんこうと一緒に出勤しようと玄関に出てきたむかいんは、二人の姿を見て、慌てて目を反らす。 「一緒に行くんや。むかいん、おはよ!」 「おはようございます。後かたづけ、お願いいたします」 「うん」 二人は、靴を履き、玄関を開ける。 「組長、無理しないように」 「はぁい」 二人は、微笑み合っていた。 「行ってきます!」 「行ってらっしゃぁい!!」 真子は、二人を笑顔で見送った。 「さてと」 真子は、ふらふらとしながらリビングへと入っていく。 むかいんとぺんこうは、駅に向かって歩いていた。 ぺんこうは、むかいんの怪しい目に気が付き、振り返る。 「なんや?」 「昔の思い、遂げたんやろ?」 「ん? 何の事か、さっぱりわからんな」 「検討つくやろ。丸一日連絡が途絶えた二人が過ごす事なんてな。 …で、これからは、どうするんや?」 「今まで通りだよ」 「今まで通り…ねぇ。…二人の雰囲気、変わってるぞ。それに、ところ構わず キスする癖、出てるぞ」 「…あっ…」 ぺんこうは、頭を掻いていた。 「真北さんに見られたら、それこそ、撃ち抜かれるで」 「そうやな。…気を付けな…な」 二人は、駅の改札を通ってホームへ上がっていった。 真子は、朝ご飯を食べ終え、綺麗に片づけをし始めた。 「おはようございます」 朝のトレーニングを終えたくまはちがリビングへやって来た。 「おはよぉ。今日の予定は?」 「AYAMAの仕事ですね。企画書の方には目を通しておきました」 「どうだったん?」 「組長には、ちょいと無理かと…って、大丈夫ですか?」 真子の足が突然、カクンとなり、真子が、しゃがみ込んだ。もちろん、くまはちは、素早く駆け寄る。 「ん…なんとか…ね」 くまはちは、真子を抱きかかえ、リビングのソファに座らせ、真子の前に立ち、ゆっくりと語り始めた。 「組長」 「はい?」 「…ぺんこうとの事ですが…」 「…ん?」 「…実は、私、親父に言われていることで、組長には、まだ、お話していない 事があります。…組長と生涯を共にする男のことです」 「…結婚…ってこと?」 「はい。組長だけでなく、相手の男も守らなければなりません。 それが、例え、この世界の者でも…違っていても…。 そのことを考えて、組長は、ぺんこうと…」 「くまはち」 「はい」 くまはちは、真子の自分を呼ぶ言葉の強さに、ピシッと立つ。 「…私は、考えてないよ。結婚なんて」 「組長」 「…だって、子供が出来て、その子供が、この世界で生きていくなんてこと 考えたくない…。それに…まだ、私が思う世界になっていないから…。 ぺんこうとは、約束してた」 「存じてます。新たな世界を築き上げた後…という約束」 「うん。…だけど、今回は、ぺんこうの昔の感情…」 「あの人を狂わす…」 真子は、静かに頷いた。 「狂ったみたいだったけどね」 真子は、笑っていた。 「…笑い事ではありませんよ。それで、真北さんは、久しぶりに始末書を 書いたらしいですよ。…これ以上、真北さんを怒らせてはいけません」 真子は、ふくれっ面になる。 「停めるのは、私の役目なんですからぁ」 くまはちは、困ったような感じで言った。 「その時は、よろしくね!」 「…それで、組長…」 「ん?」 「これからは、どうなさるおつもりですか?」 「…大人の世界?」 くまはちは、ゆっくりと頷く。 「みんなの見る目が変わるの?」 「多少なりとも…」 「くまはちも?」 「私は、今まで通りです。組長命令は、絶対ですから、逆らえません。 …抱けと言われれば、抱きます」 「くまはち…」 くまはちの真剣な眼差しに、真子は、戸惑ってしまった。 「…それは、言わない。…自分が目指すものが、達成するまでは。 …達成した時は、言うかもしれない。…優しくしてよ」 真子は、にっこり微笑んだ。 「はい。…今日は一日家でお休みになられた方が…」 「大丈夫だよぉ。膝がガクガクだけど」 そう言って、真子は背伸びをした。 「知らなかったぁ。こうなるなんて」 「ぺんこうの奴…優しくしろって…」 くまはちは、呟いた。 「なに???」 「いいえ、何も。食器は私が…」 「駄目ぇ。絶対に割るからぁ。くまはち、怪力やろぉ」 「大丈夫ですよ」 「割るって」 真子とくまはちは、お互い退きもせず、言い合っている。そこへ、まさちん登場。 「おはよぉうございますぅ…」 「…まさちんが洗え!!」 真子とくまはちは、同時に叫ぶ。 「はい!!! ……はい?!」 疑問ながらも、自分の食事を終えてから、まさちんは、食器を洗い始めた。 まさちん運転の車の中。 真子は、後部座席で熟睡中。ルームミラーで真子をちらりと見るまさちんは、嘆く。 「ったく、珍しく早起きするからですよぉ。こんな時間から寝るなんて…」 時刻は、朝の8時半。 「ええやないかぁ。お疲れなんやから」 「ったく、丸一日かかって、ぺんこうを説得するなんてなぁ。 ぺんこうもぺんこうやで。自分のことは、自分で解決しろって」 「まぁ、しゃぁないやろ。ぺんこう自身も自分に目覚めた血を抑えるのが 必死やった言うてるし」 「…まぁな。…で、緑って呼ばれていた頃って、ほんまに、凄かったんか?」 「むかいんと同じくらいと言えば、解るか?」 「むかいんのことも、ようわからんで」 「真北さんと先代が、手を妬く程」 「なるほどなぁ」 まさちんは、再び、ルームミラーで真子を見る。 「…なんか、組長、雰囲気変わってへんか?」 「えっ?」 くまはちは、突拍子もない声を上げる。 「変わらないぞ」 「そうかなぁ…」 「…お前が疲れてるんちゃうか!」 くまはちは、何かを誤魔化していた。 真子とぺんこうの一夜の事は、まさちんだけには、知らされていなかった。 どうなるか、想像が付く為…。 車は、AYビル地下駐車場へと入っていった。 「組長、到着ですよぉ」 「…ん…。はぁぁい。…ふわぁ〜」 真子は、寝ぼけ眼で車を降り、背伸びをした…が、座り込む。 くまはちが、予期していたように、真子に駆け寄った。 「大丈夫だって。寝ぼけただけだよぉ」 真子は、その場を誤魔化していた。そして、しっかりと立ち上がって、歩き出す。 その後ろ姿に、まさちんは、何かに感づき始めた…。 真子が、AYAMAの仕事をしている間、まさちんとくまはちは、組関係の仕事に精を出す。 「なぁ、くまはちぃ」 「あん? …どれだ?」 くまはちは、書類を凝視するまさちんに振り返る。 「ちゃう。…組長のことやねんけどな…」 「AYAMAで張り切りすぎたら、帰りは、厄介やな。早めに 切り上げた方がええやろな」 「…お前、何か隠してるやろ」 「何を?」 「組長…ぺんこうと…」 くまはちは、ギクリとする。 「…やっぱり、ぺんこうの事が一番やったんやな…」 まさちんは、ショックを受けたのか、机に額をゴツンとぶつけた。 「あっ、まさちん…」 「…腰つきも…変わるわなぁ…」 「…お前の考えがわからん…。仕事せぇや」 くまはちは、机に突っ伏すまさちんの襟首を掴みあげ、体を起こす。 まさちんの落ち込みは、激しそうで……。 橋総合病院。 桜は、危険な状態に陥っていた。傷の悪化。 再び手術をしている桜。手術室の前には、水木だけでなく、水木組組員たちが、集まっていた。 「…兄貴、姐さんの報復は、どうされるんでっか!」 「一体、どいつが…」 組員達は、躍起立つ。 「静かにせぇや。ここは、病院やぞ」 水木の言葉に、組員達は、口を慎む。 「報復は、せん」 水木の言葉に、組員達の表情が強ばった。 「兄貴…なぜ?」 「組長命令や。これ以上、血を見たくないんやと」 「しかし…」 「うるせぇ!」 水木は、いつになく苛立っていた。組員達は、怒りを壁にぶつけていた。 桜は、手術が終わり、ICUに移される。 ガラス越しに、桜を見つめる水木は、何かを考えていた。 「…どうや?」 真北が、静かにやって来た。 「…わかりまへん…。…桜が自分で自分に立てるなんて…信じられへん。 真北さん、ぺんこうから…何か聞いてませんか?」 「あいつが、俺に言う訳ないやろ」 「しかし…」 「…橋に任せておけ」 「はい」 「仕事は、ええんか? …組長が、心配してる。元気な顔を見せてやってくれ」 「…まず第一に考えるのは、組長のことなんですね」 「大切な娘だからな。それに、もう無茶はして欲しくないんだよ」 「だったら、なぜ、この世界に…?」 「真子ちゃんの意志だよ。だから、お前、組員のこと、しっかりと 見張っておけよ。相手が、あいつだと解ったら、あの日の二の舞に なりかねんやろ? …俺は、もう、停められないぞ」 「解ってますよ。あの日のことは、脳裏から離れてませんから。 西田のことも…」 沈黙が続く。 「…水木」 「なんでしょう」 「誰彼構わずに、手ぇ付ける癖…治せるか?」 「…難しいですね」 「治した方が…ええかもな」 「それだけは、治らないでしょう? 抑えるなんて、無理ですよ」 「解るけどな…。桜さんにも言っててくれ。まさちんと手を切るようにと」 「それは、桜の気持ち次第ですよ」 「…お前は、もう、いいのか?」 「桜…とですか?」 真北は、軽く頷いた。 「そんなこと…ありませんよ。5日の間に、桜の気持ち、解りましたから」 「お前ら、無茶してたからな。…もう、してないよな?」 「それは、どうでしょうか…ね」 水木の軽い口調が怒りに触れたのか、真北が、ぎろりと睨んできた。 「冗談ですよ」 水木が短く応えた。 「…冗談が、この事態を招いたんやで。もっと考えて、物を言えよな」 「真北さんにも、冗談…通じないんですね。ぺんこうもだそうで」 「育ってきた環境が、お前らと反対だからな」 「…これが、俺達の世界ですから」 「俺の大っ嫌いな…な」 今度は水木が、真北の言葉尻に、怒りを覚えた。拳を握りしめ、真北を睨み上げるが、真北は、落ち着いた表情をしていた。 「…真北さん」 「あん?」 「あなたが、狂う時って、どんな時ですか?」 「…真子ちゃんの頭に弾丸が撃ち込まれた時…かな」 「あの…事件…」 「俺自身は、どうなってもいいんだよ。…真子ちゃんだけが、大切さ」 「ぺんこうは?」 「知らないね。…あいつは、俺が嫌いだからな」 そこへ、真子とまさちんが駆けつけてきた。 「水木さん!」 「組長」 「桜姐さんのこと、聞いて…。どうなんですか?」 「今は、なんとも言えないと…」 真子は、ガラスにへばりついて、中の様子を見つめていた。 拳が握りしめられる。 「…ごめんなさい…。私、考えつかなかったの…。自分に刃を立てるなんてこと…」 「組長…。ご心配なさらないでください。桜は、頑丈な奴ですから。 命が助かったのは、組長のおかげなんですから」 「…水木さん……ありがとう……。でも…、無理しないでね」 「ありがとうございます」 真子は、その場に座り込む。 「だから、組長、走ると体に負担がかかると言ったのにぃ」 まさちんが、そっと手を差し出す。 「大丈夫だよぉ。もぉ」 真子は、ゆっくりと立ち上がる。 真子の姿を見つめていた水木は、何かに気が付いた。 「組長、何かありました?」 「ん? なんで?」 「その…物腰が……」 真北は、慌てて水木の口を塞ぐ。 「組長、そろそろ帰宅なさった方がよろしいかと。まさちん、頼んだよ」 「わかっております。行きますよ、組長」 まさちんは、そう言って、真子を抱きかかえ、水木に一礼して、ICU前を去っていった。 「…水木」 「なんですか?」 「…言うなよ」 「…まさちんに…ですね」 「あぁ」 「まさちんも気付いてますよ。…それに、この世界で生きてる者ならば 誰もが解りますよ。…慣れてますからね」 「…水木…」 「はい」 真北は、大きく息を吐き、そして、目を瞑った。 「真子ちゃんを困らせることは…もう、やめてくれ。 これ以上、厄介事を増やさないでくれよ。俺が、困るからな」 「真北さん…」 真北は、ICUの桜を見つめ、そして、その場を去っていった。 真北の眼差しに、何かを悟った水木は、 「厄介事って…桜の怪我は…厄介事なのか?」 呟いた。 先程の怒りは納まっていない。更に怒りが沸々と沸き上がってきた水木は、去っていく真北の後ろ姿を睨み付けていた。 「…真北…許さねぇ…」 水木は、拳を握りしめた。しかし、急にそれを弛め、何か閃いたように急に笑い出した。 「くっくっくっく。はっはっはっは! てめぇの狂う姿が、 目に浮かぶで…。真北ぁ、…これは、いい…。久しぶりに、やるか…」 水木は、不気味に微笑んでいた。 三日後、桜の容態が安定し、一般病棟に移された。意識も回復し、少しだけ会話が出来るくらいまでになっていた。 「あん…人は?」 「幹部会です。すごく、安心なさっております」 桜に付き添っているのは、西田だった。 「そうかぁ。…五代目は?」 「元気そうですよ。姐さんのことを心配なさっております」 「そうかぁ。…はよ回復せんとな…。五代目に…謝らな…な」 桜の表情は、少し曇っていた。 AYビル・会議室。 幹部会を終え、すぅっかり元気になった真子と少し元気を失っているまさちんは、会議室を出ていった。真子は、その足でAYAMAに向かう。 会議室には、水木達、幹部が、残っていた。 「…水木。桜さん、どうや?」 須藤が尋ねた。 「回復に向かっとるよ。ありがとな」 「しかし、一体…何処の者や?」 「それについては、組長も調べておるそうですよ。血を見ないように 気を使っておられますがね」 「報復…か。お前んとこの組員、大丈夫か?」 「抑える方法、いくらでもあるからな」 水木は、怪しく微笑んでいた。 「…お前、なんか、変やぞ」 須藤は、凄く心配顔で水木に言った。 「…そうか?」 会議室のドアが、勢い良く開いた。 「水木さぁん、早く!! AYAMAの仕事!!」 「そうでしたぁ。すみません。すぐ行きます」 真子に促された水木は、真子と一緒にAYAMAの会社へと向かって行った。 二人を見送る須藤達。 「…組長、なんか、素敵になってへんか?」 須藤が、呟く。 「お前も、そう思ったか」 谷川が、同意するように言った。 「…やっぱし、まさちんの奴…」 それぞれが、何かを考え込む……。 幹部達には、桜が怪我をした本当の事は、知らされていなかった。もちろん…真子とぺんこうのことも…。 「組長、今夜は、久しぶりに、うちの店でどうですか?」 水木は、AYAMAの会社に向かうエレベータの中で真子に言った。 「行きたいのは、山々だけど、桜姐さんのことを考えると…」 「大丈夫ですよ。桜、回復に向かってるんですから。その前祝いとして」 「う〜ん」 「桜、喜びますよ」 「なら、行く!! いつものん、宜しくねぇ」 真子は、嬉しそうに微笑んだ。水木も素敵に微笑み返す。 エレベータは、AYAMA社のある階に到着。 真子と水木は、楽しく話しながら、二人並んで、AYAMA社へ入っていった。 夜。水木の店。 水木は、他の客を相手にしながら、真子とまさちんの会話を聞いていた。 主従関係に見えない二人の姿を見て、ふと、真北の言葉が脳裏を過ぎる。 『育ってきた環境が反対』 確かにこの二人と、自分は、その通りだ。しかし、今は…? 水木は、真子を見た。 「おかわり、どうですか?」 「うん。よろしく!! まさちんは、これまでぇ。酒弱いでしょ?」 まさちんの微笑む真子の頬は、ちょっぴり赤くなっている。 「そのまま、組長に、お返しします」 「ぶぅぅ」 水木は、素早く、二人の飲み物を用意し、差し出した。 「新たなメニューですよ」 水木は、優しく微笑んでいた。 その表情を見て、真子は、すごく和やかな雰囲気を醸しだし、とびっきりの笑顔を向ける。 「よかった…。いつもの水木さんだ。…元気に…なったんだね」 「…おかげさまで」 水木も、真子に応えるかのような素敵な笑顔を見せていた。 「だけど、まさちんは、元気ないね。…やっぱり、桜さんと…」 まさちんは、真子の口を塞ぐ。 「人の気も、知らんとぉ」 まさちんは、呟きながら、真子の体を沿うように目線を移動する。 真子の手が、まさちんの脇腹に伸びる。 「ふぎゃん!! やめてくださいぃ!!」 「ったくぅ。…まさちん、もっと飲めぇ〜! 水木さん、どんどこよろしく!」 「かしこまりました」 二人のやり取りに、何かを確信した水木は、真子に言われるまま、アルコールをまさちんに差しだし、真子にも薦め、そして、時が過ぎていく……。 水木は、表に閉店の札を掛け、入り口に鍵を掛ける。そして、カウンターの二人に目をやった。 「ったく」 水木は、カウンターで寝入るまさちんをそっと後ろのソファーに寝かしつけた。 「まさちん、起きろよ。まさちん」 まさちんの体を揺さぶっても、まさちんが珍しく目を覚まさない。 起きないか…。 水木は、まさちんが起きないことを確認した。そして、同じようにカウンターで寝入る真子に目線を移した。 「組長、風邪、ひ・き・ま・す・よ」 真子の耳元でそっと呟く水木は、真子に口づけをする。 「ふふふ。こんなんやったら、襲われてもしゃぁないで、組・長」 水木は、怪しく微笑み、真子を抱きかかえ、店の奥の部屋へと入っていった。 店の奥には、一部屋あり、隅の方にベッドが置いてあった。そのベッドの上に真子を寝かせる水木。 自分は隣に寝転んだ。 水木は、真子の頬をそっと撫で、唇を寄せながら、真子の胸元に手をやり、ブラウスのボタンを上から順序よく、ゆっくりと外していく。 全てのボタンが外されたブラウスを襟元から広げると、真子の両肩が、露わになった。真子の背中に手を回し、ブラジャーのフォックを外した水木は、真子の肌と下着の間に手を滑り込ませる。そして、ゆっくりと膨らみを掴んだ。 「ん……ん?」 真子が目を覚ました。 「み、み、水木さん?!」 真子は、自分の上に乗っかかる人を見て、驚いた。 起きようとしたが、体に力が入らない…。 「あ、あの…!!!!!」 真子の言葉を遮るように、口づけをする水木。 「…ったく、目覚めるのが、早すぎますよ」 水木の唇が、真子の唇に触れる。 「えっ?」 「本来なら、組長の中に入り終えてからやねんけどなぁ」 「中……って?」 水木は、にやりと笑って、真子の着ている物をすべて剥いでいった。 「水木さん、ちょっとぉ!」 真子は、水木の腕を掴んだ。 「…すぐ…終わりますから」 水木の雰囲気が、いつもと違う。真子は焦った。 「み…ずき…さん?」 真子は、抵抗するが、いつもの力が入らない。 「ま、まさちん!!」 「無駄やでぇ。店で寝とる」 「…水木さん、一体…」 「一人に抱かれるのも、二人に抱かれるのも、一緒やろ」 水木は冷たく言い放つ。 真子は、目を見開いて驚いた。 「桜を病院に運んだ後、丸一日、連絡が途絶えてましたよね。 一体、緑の野郎と、何をしておられたんですか? 行き先は、 高級ホテルでしたよね。…あの日を境に、組長、一段と素敵に なられましたよ。普段通りに過ごされているけど、私には 解りますよ。…こうして、体のラインを観れば…ね。 男を知った女の体ですよ。…私の気持ち、御存知ですよね?」 水木は、真子の顎を掴んだ。 真子は、顎を掴む水木の腕を握りしめた。しかし、力が思うように入らない。 「それ以上は、力、入らないでしょう?」 水木は、怪しく微笑んでいた。 「…飲み物に…何を入れた?」 「筋弛緩剤と睡眠薬を少しずつですよ」 「水木さん、それ、犯罪…」 「この世界では、当たり前のことですよ、五代目」 水木は、真子の両腕をベッドに押さえつけた。しかし、真子は、脚を使って抵抗した。 その脚も、水木の脚で押さえられてしまう。 「駄目…ですか?」 「駄目ですよ」 「…大切な一般市民に、迷惑を掛けると言えば…?」 「水木さん!!」 「桜の怪我を知った、うちの若いもんが、躍起だってましてね。 相手は、まだ、知れ渡ってないんですよ」 水木は、真子の耳元に口を当てた。 「相手が、誰か解れば、即、行動に出ますよ…」 「…だから…?」 「それを抑える為の条件ですよ」 「…それは、無理ですよ。それに…!!!!!」 水木は、素早く真子を俯せにし、後ろから、両肩を押さえつけた。そして、右膝を、真子の脚と脚の間に割り込ませ、脚の付け根に当て、再び耳元でささやいた。 「…子の不始末は、親がする…これは、当たり前のこと…ですよね? 桜は、自分が悪いと言っているが…俺は、そう思わない。あの桜が 自分を追い込むなんてことは、滅多にしない。言葉巧みに、お二人で 桜を責め立てたんだろう?」 「そんなことは…。まさか、桜姐さんが、自分に刃を立てるとは 思いもしなかった…。でも、桜姐さんが、ぺんこうに迫っていたこと、 知っていたでしょう? いくら言っても…止めてくれなかった」 「その条件として、組長は、何を? …桜と寝る…でしたよね。 その相手が、私に変わったと思えばいいんですよ」 「水木…てめぇ…」 「本性が、現れましたね…。そうやって、相手を呼び捨てする時は 組長の本性が現れる時…。えいぞうを呼ぶ時でわかりますよ。 …さぁ、どうしますか? 条件をのむか、それとも、迷惑をかけるか…。 わしらの手…御存知…ですよね? ぺんこうだけでなく、 勤め先もやばいかもしれませんね…」 「…断る」 真子は、体に力を入れた。 「…断ると、どうなるか…。ぺんこうを襲えば、自然と、ぺんこう自身に 眠っていたものが目覚めますよ…」 水木の言葉で真子は、力を抜いた。 これ以上、目覚めさせたくない…。 「…いい子だな…」 「一度、抱けば、それで終わりだ…。ぺんこうの事は、終わりにしてくれ」 水木は、自分が着ている服を脱ぎながら、真子に話しかけた。 「一度? …俺の事をあまりにも知らなさすぎですよ。そんな簡単な条件で 事を終わらせるとは、この世界を知らなさすぎです。まぁ、しゃぁないかぁ。 そんなことは、教えられてなかったやろからなぁ。俺が教えたる。 この世界では、金、力…そして、女なら、体…。当たり前のことやで。 っつーことで、五代目の体…頂きやで。まぁ、初めてやないから、大丈夫やろ?」 そう言っているうちに、水木の感情が、少しずつ高ぶっていく…。 「俺はなぁ、男であれ、女であれ、体を頂くことにしとるんや。 期間は、三日。それも、私の感情が高ぶった時に直ぐという条件だ。 そして、抱かれている時に、一度でも、拒む素振りを見せれば、 一日延びる…」 「それは、相手に分が悪い…」 「悪ぅないで。そこまで体を張ってもらわな、やりがいないやろ?」 水木は、服を全部脱ぎ終わり、真子の体を仰向けにする。 「しかし、今回は、相手があんた…五代目だ。そんな軽い条件なんて すぐにクリアするだろうな。そうだなぁ、10日というのはどうだ?」 「10日?」 「明日から、10日間、私の誘いを断らない、そして、拒まない。 この事は、誰にも悟られてはならない。もちろん、まさちん、ぺんこう、 真北さん…そして、くまはちにもだ。特に、真北さんにばれたら、 厄介だな。…ぺんこうの時もそうだったんですよね? …確か、 発砲したとか…?」 水木は、真子の頬をそっと撫でる。真子は、その手を掴み、そして、静かに言った。 「明日からなら、なぜ、今、こうしてる?」 「…俺の抱き方を知ってもらいたいんや…」 「…水木!!!!!!!」 水木は、真子に激しく口づけをし、胸元の二つの膨らみを強く掴んだ。真子は、両手で水木を押し、距離を取ろうとするが、水木は、全く動かない。それどころか、真子自身の体の力が、どんどん抜けていく。 真子は、体をひねって、必死で抵抗するが、水木の巧みな手の動きからは、逃れる事ができない。 水木の容赦ない攻撃に、真子は、自然と水木の肩を掴んでいた。 その手に力が入る。 水木の手が、体が、真子の脚と脚の間に滑り込む。 両足を持ち上げられる真子。 い、いや……ぺんこう…助けて……ま、まさちん!!!!! 水木は、真子の中へするりと入って来た。真子の体が反り始める…。 真子は、水木に背を向けて、力無く寝ていた。 水木は、ベッドから下り、ほのかに赤く光る物を口にくわえていた。それを指に挟み、部屋のドアを開けた。口元が少しつり上がる。 店にあるソファには、まさちんが、熟睡中。 時計を見た。 夜中の三時を回っていた。 水木は、ベッドに戻ってきた。手にしていた物を、もみ消し、真子の隣に寝転び、真子の肩に手を掛け、自分の方へ体を向けさせる。 「ぺんこうは、ここまで、激しくはなかったろう?」 真子は、水木を睨んだ。 「もう…いいだろう、今日は…。明日から、10日…」 真子は、体を起こしたが、力が入らず、倒れてしまう。 「薬の効き目は、朝までですよ。それに、腰辺りは、へろへろでしょう?」 「平気だよ」 「ふふふ。その、強がりは、どこまでもちますか…ね。ぺんこうとの時は、 数日、足腰にきてたようですが…」 水木は、真子の後頭部に手を回し、真子の顔を自分に近づけた。 「言っちゃぁ、なんやけど、まさちんが桜と寝た分も加えさせて もらいますよ。…あんたは、まさちんの親…なんだからね。 責任は、取ってくれよな」 「それは、二人の仲だから、何も言えないだろ?」 「ふふふ。だから、私とのこの関係も…誰にも何も言えんな。 …ゲームですよ…AYAMAとは、別の」 「水木……」 水木は、体を動かして、真子の上に乗り、そして、怪しく微笑み、激しく真子を抱き始めた。 「…今夜は、別ですよ…五代目…」 真子は、唇を噛みしめ、布団を握りしめた。 まさちん…!!! まさちんは、真子に呼ばれて目を覚ました。 「ん…?」 まさちんは、自分がソファに寝転んでいる事に気が付き、慌てて起き上がった。 「すみません、組長、水木さん」 真子は、一呼吸おいた後、まさちんに微笑んだ。 「ったく、お酒に弱いのに、飲むからぁ」 「すみません」 「帰るよ」 時計は、朝の6時を指している。 「水木さん、すみません、こんな時間まで」 真子は、にっこりと微笑んでいた。 「今日の予定は?」 「AYAMAの仕事ですよ。ですから、水木さんにもお願いしないと…」 「解りました。では、お気をつけて」 優しく微笑む水木。 真子は、ゆっくりと歩き出すが、足下がふらついていた。 「組長?」 真子に手を差し出すまさちん。 「ったく、組長、明け方まで飲んでましたね?」 「ん…まぁ、ね」 「組長こそ、弱いんですから。では、失礼します」 まさちんと真子は、店の入り口のドアを開けた。 「組長、楽しみに…してますよ」 水木は、そう告げて、にやりと微笑んだ。 真子は、ちらりと水木を観ただけで、そのまま、店を出ていった。 「…組長?」 真子の行動に疑問を持つまさちんだったが、深く考えずに、真子を追って出ていった。 「…大切な娘が、ボロボロになる姿を見たら、どうするだろうなぁ。 真北さんよぉ」 水木が、壊れ始めた…。 (2006.5.7 第四部 第三十一話 UP) Next story (第四部 第三十二話) |