任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第四部 『新たな世界』
大人の世界の話が含まれます。
お子ちゃまには、まだ早いですよぉ〜!!


第三十四話 真子と水木の勝負 3

8日目の朝。
水木は、組員達に知れないような感じで、真子を水木邸から連れ出した。

「今夜は、俺のマンションで…な」
「あぁ」

助手席に座る真子は、一点を見つめていた。

「どうした?」
「…何も…。事務所に…寄ってくれよ」
「わかっとるで…」

水木の車は、AYビルへと向かっていった。




AYビル。
真子が事務所に顔を出すと、そこには…。

「おはよぉ〜」

ちょっぴり疲れたような声で、真子が挨拶をすると、

「こういうのを朝帰り……って…何度目ですか?」

まさちんが怒った口調で尋ねてきた。

「しゃぁないやん。みんなで楽しく飲み明かしたんやもん」
「そして、そのまま…二日酔いのまま、ご出勤ですか。
 その勢いで、組関係を…………組長?」」

まさちんは、真子の様子が、いつもと違うことに気が付いた。
いつもなら、真子を叱りつけるような言葉を吐くと、蹴りが飛んでくる。
しかし、蹴りは飛んでこないし、拳もない。ついでに、怒りの眼差しもなかった。
まさちんは、気になり、真子の額に手を伸ばしたが、

パシッ!

その手を真子に払われた。

組長?

「ごめん…少し……寝る」

そう言って、真子は事務所の奥にある仮眠室へ入っていった。

「…かしこまりました」

まさちんは、そう応えたが、真子が怒る気配も見せない。
暫く立ちつくすまさちん。
そして、仮眠室を覗いた。
真子は倒れ込むように、ベッドで眠っていた。

ったく……。

呆れたような表情をして、まさちんは、真子を楽な姿勢にする。そして、優しく布団を掛けて、仮眠室を出て行った。
ドアを閉め、真子のデスクの上に目をやる。
書類の山…。

仕方ないか。
昼まで起きないだろうな…。
水木ぃ〜、仕事…増やしてやるっ。

そう決意した途端、まさちんは、いつも以上に力量を発揮し、いつも掛かると思われる時間の三分の二で終わらせた。
もちろん、水木の仕事を増やす形で…。
だか、その水木は……。


水木組組事務所。
水木は、真子をビルに見送ったその足で、事務所に来ていた。
昨夜の事を楽しく話す組員達に優しく声を掛けて、組長室へと入っていった。
ソファに腰を掛け、大きく息を吐く。
そこに、西田がお茶を持って入ってきた。

「おはようございます。兄貴、今日の幹部会は?」
「休むと言ってくれ」
「えっ?」
「組長を連れ回した…ツケが……来そうやろ」
「兄貴………」

お茶を水木の前に差し出した西田の手は震えていた。
その手を掴まれる。

「!!!」
「……西田……お前…。再発か?」
「いや、……大丈夫です……。兄貴……?」

西田の手を握りしめる手に力がこもる水木。

「大丈夫ですよ、兄貴。俺も夕べ…飲み過ぎたから…」
「ったく。心配させんな。体調管理は気をつけろと
 橋院長に言われてるだろが。今日は……桜んとこ
 行っとけ。仕事はするなよ」

その口調は、とても優しく、西田は明るい笑顔を見せて、組長室を出て行った。

それもこれも……原因は……。

鋭い眼差しに変わる水木。
ふと、何かを思ったのか、水木は立ち上がり、組長室を出て行った。
そして、車に乗り込み、何処かへ向かって走らせた。




水木の車が、寝屋里高校前に停まった。
そこから見上げる場所は、職員室。
窓に人影が映った。その人物が窓を開けた。
水木は、その人物を凝視する。
窓を開けた人物こそ、ぺんこうだった。



窓を開けたぺんこうは、門の近くに停まっている黒塗りの高級車に気付いた。その高級車から醸し出される雰囲気に、気付いたものの、

「山本先生!」

背後で生徒に声を掛けられ、慌てて窓を閉めて、振り返った。


生徒と話を済ませたぺんこうは、再び窓の外を見つめた。
そこには、すでに、高級車は無かった。

…水木さんの…車だよな。
桜さんに……何かあったのか?

そう思った途端、受話器に手が伸びる。
連絡先は……。

『…なんや?』

受話器を通して、不機嫌な声が聞こえてきた。

「…すまんな、まさちん」
『だから、用件は?』
「………えらい不機嫌やな。…組長、そのまま仮眠室か?」
『ご名答。…で?』
「桜さんの事……気になってな」
『…………気になるんやったら、自分で見舞いに行けや』
「行けるもんやったら、…行ってるだろが…」

声が震えた。

『す、すまん……順調に回復に向かってるから、安心せぇや』
「それなら…ええわ」

ぺんこうは、そっと受話器を置いた。
大きく息を吐き、目を瞑る。
何かに集中していた。





午後十二時。
AYビル・真子の事務室。
まさちんは、真子が眠る仮眠室に顔を出す。
真子が丁度、起き上がるところだった。

「お目覚めですか?」

真子が振り返る。

「おはよぉ……朝ぁ?」
「組長……」

真子の言葉に、まさちんは肩の力を落とした。

「お昼ですよ。ご飯はどうされますか?」
「仕事残ってるんやろ?」
「全て終わりましたよ」
「それに目を通すから、ここで食べる」
「では、むかいんに連絡しますよ…っと、須藤さん所に
 行きますから、そのまま、むかいんの所へ……と
 その間、少し時間が掛かりますが…」
「みなまで言わんでもええから、行っておいでぇ〜」

真子はデスクに着きながら、まさちんに手を振っていた。

「はぁ……では、行って参ります」

と、まさちんが口にした途端、靴が飛んできた。

「!!! これは、履く物ですよ!!」

まさちんは、上手い具合に受け止めていた。
真子の靴を手渡した時、脛を蹴られた。

「っ!!!! 組長っ!」
「態度っ!」
「すみません……では、さぼらないようにして下さいね」

まさちんの言葉に、真子が拳を振り上げた。
そんな真子の仕草に安心したのか、まさちんは、優しく微笑んで、事務所を出て行った。
真子は、ため息を付きながら、背もたれにもたれかかった。

「…あと……二日半………今夜も……か」

真子は目を瞑り、気を集中させた。
その仕草と雰囲気は、誰かに似ていた。



事務所で、昼食を終えた真子とまさちんは、午後の幹部会を短めに終わらせる。
真子の体調が悪いと思っている、まさちんの判断だった。しかし、幹部会に姿を見せた水木を見た途端、真子のオーラが変化した。まるで、水を得た魚のように、笑顔が輝く。

まさちんは、嫉妬した。

「水木さんへの仕事があるんですが、それは…」
「悪いなぁ、まさちん。しといてんか」
「はぁ?」
「どぉせ、お前の嫌味が含まれた内容やろが」

図星…。
まさちんは、何も言えなくなり、仕方なく、

「解りました」

ふれくされたように、応えた。

「ほな、まさちん、今夜も楽しむからなぁ」

そう言って、水木は、真子と一緒に事務所を出て行った。

「って、組長っ!!」

まさちんが呼ぶとドアが開き、真子が顔を出す。

「ごめん、まさちん、明日と明後日の分の仕事、
 作っといたから、それ仕上げてから、報告してな」
「!!!」

真子の言葉に驚き、まさちんは、デスクに目をやった。

山積み…。

「ほな、よろしくぅ〜」
「組長っ!!!!」

まさちんの伸ばした手は、空を掴むだけだった………。




エレベーターに乗った真子と水木。ドアが閉まった途端、水木が真子を抱き寄せ、唇を寄せる。
真子は、それに応えるかのように、水木の唇に吸い付いてきた。
真子の行動に驚いたものの、それは、水木の感情を更に高ぶらせるものとなる。

幹部会を休み、夕方に真子を迎えに来た水木は、ゲームの終わりを告げるつもりだった。
朝方に観た、ぺんこうの姿で、自分の考えが間違っていることに気付いた。
確かに、真北の言葉に怒りを覚え、感情のまま、ゲームを始めたのは、自分自身。
気になる真子を手元に置きたいのは、本音。
しかし、それは、許されないことだと解っている。
ゲームを口実に、毎日、このような行動をするのは…。

自ら引き起こした行動の、先が見えた。
真子と水木だけの秘密。
真子は、決して、周りに打ち明けることはしないだろう。
だからこそ、この日、真子に終わりを告げ、水木は自ら………そう思っていたのだが、真子の笑顔を観た途端、その思いは断ち切られ、ゲームを続けることを選んだ。
抱き寄せ、唇を寄せた水木。
その水木の行動に応える真子。

二人は、車に乗り、AYビルを後にした。
水木は、運転しながら、真子を抱き寄せる。そして、その手で、真子の胸の脹らみを掴み、優しくもみ上げる。
真子が、水木の首に唇を寄せてきた。

「五代目…どうされたんですか? …まさか、我慢できん…とか?」

水木が尋ねると、真子の腕が、水木の体に絡みついていた。
赤信号で、車が停まる。
水木は、サイドブレーキを掛け、真子の両頬を両手で挟み、そして、唇を寄せた。
右手を真子の太ももに当て、そして、足の付け根からズボンのボタンへと動かした。
歩行者信号が点滅した。歩行者が、駆け足で横断歩道を渡っていった。
水木は、真子の唇から離れ、

「続きは、着いてからや…」

そう呟いて、サイドブレーキを下ろし、アクセルを踏んだ。
真子の頭が、ゆっくりと水木の太ももに降りていく。
水木は運転しながら、左手で真子の頬を撫で、指先は真子の唇に触れさせた。そして、真子の体温を感じながら、襟元、そして、一番上のボタンを一つ外した指で、真子の脹らみを沿うように、少し尖った部分に触れた。
その途端、水木の感情は、更に高ぶった。





8日目・夜。
水木は、自分のマンションに入った途端、真子を強引に寝室へと連れ込んだ。
真子をベッドの上に放り投げた途端、素早く服を脱ぎ、ベッドに横たわる真子に覆い被さった。
車の中での真子の行動が、水木の何かに火を付けたらしい。
真子の服を剥ぎ取り、露わになった胸の脹らみに吸い付く。
その唇は、真子の体を這うように、下半身へと移動する。唇の動きと同じように真子のズボンを脱がせ、素っ裸にする。そして、真子の両足を持ち上げ、唇を寄せる。

「んっ!!」

真子の声が、水木の感情を、最高潮まで高鳴らせ、水木は、感情が高ぶるまま、真子を激しく激しく貫き始めた。




一台の車が、水木のマンションの地下駐車場へやって来た。
停まった車から降りてきたのは、桜と西田だった。

「西田、はよっ!」
「はいっ!」

二人は、エレベータへと向かって走っていった。



真子の体が、激しく上下に動いていた。
水木の動きが今までの中で、一番激しい事に気付きながらも、真子は、その動きに応えるかのように、声を挙げていた。




桜が血相を変えて、西田と共に、エレベータから降りてきた。

「姐さん、走っては…」
「そんなんかまへん!」

桜は、703号室の前に立ち、西田の持つ鞄から、鍵を取りだした。




「はぁ…はぁ…」

寝室のベッドの上で、荒い息を整える水木。水木は、自分の下にいる真子を見つめ、そして、激しく口づけをした。しかし、真子は、嫌がる素振りを見せ、手で水木の顔を払いのけようとする。水木は、その手を掴んだ。

「あれだけ、俺の動きに応えておきながら、それは、ねぇよなぁ。
 拒むと、組長、一日延びることになりますよ? 解っているでしょう?」

その言葉で真子は水木を睨み上げた。

「延びれば、その分、疲れるのは、組長ですよ? すでに…」
「…わかってるよ…」

水木の言葉を遮るように、真子が応えた。

「今日は朝までですよ…。大丈夫ですか? 体…もちますか?」

水木は、怪しく微笑んでいた。

「好きに…すればいい…」

水木は、にやりと笑った後、再び真子に激しく口づけをした。
そのまま、真子の胸元、そして、下半身へと顔を移動させる。
仰け反る真子の布団を掴む手が震えていた。



ガチャッ…。

「あんた!!!」

そう叫んだのは、桜だった。勢い良く部屋の奥へ走り、寝室のドアを開けた。

「…また、女と寝とんのか!!」

その声に反応し、布団の中から顔を出す水木。

「…なんや、桜。ええとこやぞ。帰れ」
「ええとこやろな…そやけど、あんたの下に居る人にとっては、
 そう思てへんやろ。椿から聞いたで。組事務所での事。
 あん時は、威厳で、言うこと聞くしかなかったらしいんやけどな、
 相手が相手やろ…。…あんた、何考えてるんや?」

水木は、ベッドの上に座り、桜の後ろに控える西田を睨み付けた。

「椿、あんたは、向こう行っとり」

西田は、一礼して、その場を去った。桜は、寝室へ入っていき、水木の側に寝転ぶ真子の顔を覗き込んだ。

「…五代目…」

桜は、真子にそっと手を伸ばした。しかし、真子は、布団の中に潜り込んでしまう。

「五代目?」
「そういう仲なんや。俺と親密な…な」

水木は、布団の膨らみをなで回していた。

「…あんた、席、外してんか」

桜の声には、怒気がはらんでいる。
その後の桜の行動は、夫である水木には解る。
水木は、渋々ベッドから下り、ベッドサイドに掛けているガウンを羽織って、寝室を出ていった。
桜は、そっとベッドに腰を掛け、布団をめくった。
真子は、背を向けて丸くなっていた。
その背中には、無数の赤いあざと爪の痕が付いていた。その傷にそっと手を当てる桜。
真子の体が一瞬、強張る。

「五代目…無茶したら…あかんって」
「…桜…姐…さん…。傷の具合は、もう、よろしいんですか?」
「五代目?」
「病院を勝手に抜け出したら…橋先生に怒られますよ。すぐにお戻りください」
「あほ言わんときや。五代目のこと聞いたら、ゆっくり寝てられへんやないか。
 あん人、どんな条件突きつけたんや? 五代目が体張ることないやろ?」
「一般市民を守りたいんやったら、俺の女になれとな」

水木が戻ってきた。

「あんた…」
「もちろん、組長は断るに決まっとるやろ。だけどな、そのままほっといたら、
 組員が、一般市民に手を出すぞ…。大切にしたいんやったら…な…」

桜の表情が強張る。

「期間は10日間。…後は、知ってるやろ? あと二日なんだがなぁ、
 桜にばれたことで、一日延びたかな」
「…あんた、ええ加減にしぃや。親に手をあげて…」
「子の不始末を親がする。当たり前のことやろ」
「子の…不始末…?」
「桜、病院に戻れや」

水木は、そう言いながら、ベッドに潜り込み、真子を抱きしめた。真子は、水木に唇を寄せた。

「桜姐さん、すみませんね…。こういう仲になってしまって」

真子は、桜に微笑んだ。しかし、その笑みには、感情が含まれていない…。
桜は、真子の微笑みで、全てを察した。

「わかったわ、あんた。好きにしぃ! 西田、帰るで」

桜は、そう言って寝室を出ていった。ドアが閉まる音を聞いた水木は、真子の上に四つん這いになり、真子を見つめ、にやりと笑った。

「桜、俺のこと、ようわかっとるわ。あと二日や。…気が逸れとったけど、
 …組長の口づけが、火ぃつけたで」

水木は、真子をうつ伏せにし、背中越しに、胸元へ手を回し二つの膨らみをきつく掴む…。そして、背中に激しくしゃぶりつく…。

「はぅ…うっ…う…」

真子の声が、寝室に響いていた…。



桜は、俯き加減で後部座席に座っていた。

「姐さん…」
「10日間って…。今までで一番きつい条件やんか…。あん人、よっぽど
 五代目を見込んどんねんな…。五代目も…あほやで…。大切なもんを
 あん人に捧げるなんてな…。もっと他の方法…あったやろて…」

桜は、堪えきれずに、涙を流してしまった。




俯せになっている真子の息は、かなり上がっていた。

「…まだやで…」

真子の隣に、座る水木は、真子の背中をなで回しながら呟く。真子は、目だけを水木に向けていた。

「…来いよ…」

真子の言葉に、挑発されたように、水木は真子を仰向けにし、両腕をベッドに押さえつけた。

「…激しいのが、好きか? それとも、ぺんこうのように優しくがええか?」

真子は、水木を睨み付ける。次の瞬間、真子は寝技を使って、水木をベッドに押し倒し、上にまたがった。

「激しいのが、いいのか…」

水木の手が、真子の首の後ろに素早く伸び、真子を自分に引き寄せた。

「タフやな…」

そう呟いた水木は、真子の唇に吸い付き、背中に回した手で、真子の肌を引っ掻いた。

「うぐ……」

痛さで仰け反る真子。水木の手は、そのまま、真子の割れ目に滑り込む…。




9日目。
朝日が、寝室のカーテンの隙間から射し込んでいた。差し込む光は、ベッドの上に俯せで寝る真子の肌を照らしていた。水木は、くわえタバコで、寝室へと戻ってきた。

「組長、今日は予定あらへんのやろ? 一日どうや?」

真子は、目を開け、ベッドに腰を掛ける水木に目をやった。

「ずっと…か?」
「くっくっく…冗談や。そんなよれよれ声で、言われても説得力ないで。
 それに、今朝まで、やりっぱなしやったろ? わしが疲れたわい」
「…私は…大丈夫だよ」

そう言って、真子は体を起こしたが、全身に激しい痛みを感じ、力無く横たわってしまった。

「ぐっ……」
「今日は、一日寝ていた方がええやろ。夜までに体力を回復してもらわなな。
 残りわずかや。それとも、延ばすか?」

そう言って、水木は、真子の頬に軽くキスをして、寝室を出ていった。

「くそ……」

悔しさを現した真子は、拳を握りしめたまま、眠ってしまった。
水木は、タバコを指に挟んだまま、ソファに深く座り、一点を見つめていた。

「このままじゃ、俺…やばいよな…」

水木は、目の前のテーブルを蹴った。

「あほ…」

水木は、タバコをもみ消して、腕で顔を隠すようにして、座ったまま眠ってしまった。




AYビル。
まさちんが、真子が用意した仕事をしていたが、

「ったく、ここ一週間ばかり、組長は、当てつけがましく水木さんと
 行動してるよなぁ〜。水木さんと何か企んで、俺と姐さんへの
 仕返しなんやろか…。それにしても…姐さん…退院まだかな…」

まさちんは、考え事をしているため、仕事は、先に進んでいない。

「…って、今日は一日、水木さんと一緒なのかぁ?」

真子に関するまさちんの思考回路には、『大人の世界』のことは入っていなかった。





「やっぱしとめな…。…ったく、急ぎぃや。五代目、倒れる!!
 いくら条件あっても、それだけは、できへんやろ!!」

素直に引き上げた桜だが、真子の雰囲気が異様に思えた為、再び病院を抜け出して、マンションへと向かっていた。



昼過ぎ。
水木は、何かを忘れたいかのように、アルコールを飲んでいた。
寝室のドアが開く。

「…飲み過ぎは…体に悪いよ」

ブラウスを羽織っているだけの真子だった。ゆっくりと水木の側へ歩いてくる。しかし……。

「夜まで寝とけと言ったろが…」

前のめりに倒れる真子を支える水木。真子の体温がかなり高くなっている事に気が付いた。

「…ゲームオーバーやな、組長。これ以上やったら、組長が壊れる」

真子は、水木の手をはねのけて、自分の脚で体を支えた。

「どうしたんだ、急に…。あと、一日半だろ?」

真子の言葉は、力強かった。しかし、力無くその場に座り込む。

「何も、そこまで体を張ることないやろ。そんなに、ぺんこうが大切か?
 大切なものを捧げてまで、ぺんこうを元の生活に…目覚めたものを
 再び眠らせる為に…」
「……大切だよ。私を助けてくれたから…」
「まさちん…よりもか?」

真子は、ゆっくり頷いた。

「…一体…何を考えてるんや!」
「何も…。…高ぶらないのか、水木…」

真子は、水木を睨んでいた。その眼差しに水木は、感情を高ぶらせ、真子を押し倒した。

「うっ…」

真子は、再び全身に痛みが走り、顔をしかめ、体を丸くした。

「…組長?」

それは、この8日間に見せた真子の姿、表情ではなかった。水木は、真子から手を離し、じっと見つめた。

「…どうした…早く…しろよ…水木ぃ〜」

息を切らしながら、真子は、水木に言い放つ。
水木は、真子に手を伸ばした。
真子の腕を掴む。
真子は、痛がった。

「…うぐぐぐ……くそっ…」

真子が呟く。

「組長、体…」
「大丈夫だ」

そう言って、水木に抱きつこうと手を伸ばす真子。その手は、激しく震え出した。

「熱が…」

水木は、掴む真子の手が、焼けるように熱いことに気が付き、慌てて額に手を当てた。

「組長!!!」

真子は、気を失った。
水木は、慌てて立ち上がり、寝室から布団を手に取り、真子をくるむ。そして、部屋を出て行った。
エレベータが一階から上がってくる。

「早く…来いよ!」

エレベータが7階に到着した。

「…あんた…」
「桜…」

エレベータには、桜と西田が乗っていた。真子と水木の駆け引きを停めに来た様子。ところが、桜は、水木の腕の中で、荒い息をしながら眠る真子を見て、事態を把握した。
急いで駐車場へ降りていく。そして、西田運転の車で、マンションを猛スピードで出ていった。
後部座席では、桜の腕の中で、真子が激しく震えている。助手席に座る水木は、静かに一点を見つめているだけだった。

「五代目!」

桜の声と同時に、水木は、腕を掴まれた。

「…水木…どうしたぁ〜? まだ期間は…終わってない…ぞ…」

水木は、ゆっくりと振り返った。
自分の腕を掴んだのは、桜の腕の中で震える真子だった。真子の体の震えが、真子の腕を伝ってくる。そして、真子の目は、五代目を醸し出していた。

「……何処…向かっている…」
「橋先生んとこや。五代目、これ以上は、あかん。体壊すどころか、
 精神も何もかも、あかんようになるで…」

桜が応えた。

「…それでも…いい…だから…桜姐…さん…、後…1日半
 …待って欲しい…。西田ぁ…引き返せよ…。うっ……はぁ、はぁ。
 ……水木…どうしたぁ…あ?」

水木は、自分の腕を掴む真子の手をそっと握りしめた。

「…俺の…負けや…。くそっ…。組長、なんで、そこまで、無茶するんや…。
 そんなに…あいつが、大切なのか? 大切…なのか…?」

水木は呟いた。

「あかん…椿、スピード上げんか! 五代目が、もたん!!」
「はい!」

西田は、更にスピードを上げた。
桜は、真子の手を取り、水木の腕からそっと引き離し、そのまま、真子をそっと抱きしめる。

「五代目…あんた、強いわ…何もかも…強すぎるわ…」

真子は、桜の優しさが伝わってきたのか、微笑み、大きく息を付いたまま、気を失ってしまった。
車は、橋総合病院へ到着した。





『橋先生ぃ〜、急患ですよ』

夜勤明けの橋は、病院の敷地内にある、自宅に戻り、就寝中、病院からの内線で起こされた。

「なんやぁ、外科ちゃうんやろぉ」
『真子ちゃんですよ』
「真子ちゃん?!!! 直ぐ行く」

橋は、飛び起きた。


白衣を着ながら、事務室へ向かってきた橋は、事務室前の西田に気が付く。

「椿ちゃん、どした? …まさか、桜さん、まぁた、抜け出したんか?」

西田は、深々と頭を下げた。

「ったく」

橋は、事務室へ入る。

「なんや、水木…」
「橋先生、はよ!! 真子ちゃんが…」

桜は、橋の言葉を遮るように、促した。

「あん?…どうしたんや?」

橋は、布団にくるまれ、診察台の上に寝かされている真子を見て、慌てて駆け寄る。

「なんで、震えてる…熱高いやないか!!」

橋は、布団をめくった。

「!!!」

真子は何も身に付けていない。そして、その体に残る物を見て、橋の診察する手が停まった。

「…水木…お前……ゲームしとったんか…? 相手…真子ちゃん…を?」
「……あぁ……」

ドカッ!

橋は、振り向きざまに、水木を殴りつけた。水木は、そのまま、後ろへ倒れる。

「真北に言われたやろ。ゲームは、やめろって。詳しいことは後で訊く」

橋は、真子の診察を始めた。怒りを抑えていることが、わかるくらい、震えながら…。




橋の事務室のソファには、水木と橋が二人で、膝をつき合わせるように座っていた。

「なんでや?」

橋は、怒りを抑えながら、水木が真子とゲームをしていたことを問いただす。

「許せんかったんや…。真北さんの…あの態度…」
「態度?」
「そうや。桜が大怪我したこと、…厄介事や言いよった。一体誰のせいや?
 桜が怪我したのは。すべて、ぺんこうが絡んでるんやろ。あいつが、西田の
 腕を切り落とした。そして、今回の事件や。なのに…厄介事やとぉ?
 俺らの気持ちも知らんと。…だから、真北の狂う姿を見たかったんや。
 組長をゲームの相手にしてみたら、狂う…そう思ったんや。初めてやないから
 かまへんやろ。それに、…男の気持ちや…」

水木が、一気に話した。

「…そうか…。お前の気持ち、わからんでもないがな…。これは、あかんやろ。
 で、何日目や?」
「9日目や」

水木は、静かに応える。

「…桜さんより、ひどいやないか」
「…冗談やったんや…服脱がして、脅すつもりやったんや…だけどな…。
 組長の体見て…、ライン見て…抑えられなかった…。気ぃついたら、
 条件言うて、ゲームを始めていた…。色んな感情が沸き上がって…」

気が付いたら、貫いていた…。

水木は、自分の手を見つめた。

「今後のこと、考えてたんか?」

水木は、首を横に振る。

「…日が経つにつれ、考え始めた。…だから、俺…。やめようと思った。
 だけど…、組長自身が、壊れ始めて…」
「…だから、真北が真子ちゃんの本能を恐れているんや」
「それは、やくざの血…」
「それもある。そのやくざに含まれるもの全てや…」
「…目覚めさせてしまったのか?」
「さぁな。それは、俺にもわからん。ただ、お前のゲームを受け入れたのは
 五代目としてやろな」
「そうやな…」

その時、西田が、橋の事務室へ駆け込んできた。

「橋先生、組長が!」

橋は、西田の言葉に慌てて事務室を出ていった。


真子愛用の病室から、桜の声と、力無い真子の声が聞こえていた。
橋が駆け込む。

「真子ちゃん!」

桜は、真子の後ろから抱きつくような感じで、真子を引き止めていた。

「桜姐さん…、離してください…。行かなければ…。あと1日半…。
 そうしないと…そうしないと…」
「行ったらあかん…。五代目、もうええねんって」

真子は、自分を呼ぶ声に反応し、入り口に目をやった。
橋が立っていた。
真子の目は、橋の後ろにいる水木に向けられている。

「…水木ぃ〜、来いよ…。まだ、だろぉ? …高ぶらないのか?」

真子の目は、恐ろしいほどの何かを醸し出していた。
それは、怒りではなく、哀しみに近いものだった。
水木は、恐ろしくなった。
ゆっくりと後ずさりをしながら、真子の病室を出ていった。

「…逃げるのか、水木!!!!」

真子の叫び声が、廊下に響き渡っていた。

「五代目…」

桜は、真子の言葉に、手を離してしまった。弾みで、真子は、前のめりに倒れる。
ゆっくりと起きあがり、入り口に歩き出し、水木を追おうとする真子を抱きかかえた橋。それに気付き、真子が振り返る。

「橋…先生…。…もう、大丈夫ですから…。帰り…ます…」
「あかん」

真子は、橋の白衣の襟首を掴み、引っ張り上げる。

「離せよ…。離せ!! おろせ!!!」

橋の腕の中で暴れながら怒鳴る真子。真子の突然の変貌に、橋は驚き、そして、呟く。

「真子…ちゃん…」

ドス…。

橋の拳が、真子の腹部に入っていた。
真子は、気を失った。

「ったく…。俺は知らんぞ」

橋は、真子を寝かしつけ、抑制した。

「桜さんも、寝とかな」
「しかし、これは…うちのせいや…。ぺんこうを目覚めさせた、うちの…」
「桜さんは、悪ぅない。…ぺんこうが、その道を歩んでいたのも、椿ちゃんが
 腕を落としたのも、真子ちゃんが、こうなったのも、みんな、あいつが
 悪いんや…あいつが、引き起こしたんや…」

橋は、苦しそうに眠る真子を見つめながら、必死で怒りを抑えていた。

「…行かないと…水木さんが…手を……下す…。…ぺんこうが…」

真子の寝言が、桜の胸に突き刺さる…。

「橋先生…」
「…桜さんは、病室に戻っとき。あとは、俺が…」
「どうするんですか?」
「……真北に連絡やろ」
「そう…ですね…」
「…何が起こるかは、それ次第や。いろいろと覚悟しとかなな」
「そうやな……頼んます……」

桜は、西田に支えられるように病室を出ていった。
橋は、真子を抑制するベルトを確認した後、病室を出ていった。




橋は、ため息を付きながら、受話器を手にした。

「…俺や。今どこにおる?」
『出張先から、そっちに向かってる。何や?』
「家に戻らず、こっちに向かえ」
『なんや? 急用か?』
「そうや。待っとるで」

受話器を置いた橋は、デスクに肘を付いて、頭を抱え込む。

どう…伝えたら…えんや…。




虫の声が聞こえるほど静かになった夜。
桜の病室。
西田が、付き添っていた。

「椿…」
「はい」
「…連絡したか?」
「誰に、ですか?」
「まさちんや」
「…しかし、それは、真北さんに相談してからと、橋先生が…」
「そうやったな…。でもな…」

桜は、目を瞑った。


その頃、真北の車は、大阪市内に入ったところを走っていた。



水木は、車を走らせていた。
何かから逃げるかのようにスピードを上げていく。
たどり着いた所は、組事務所。
組員達が出迎えることに応えず、水木は組長室へと入って鍵を閉めてしまった。

「親分…???」

不思議に思いながらも、組員は組長室の前から去っていった。

くそっ…。

水木は、ソファに腰を掛け頭を抱える。

「…酒……持ってこいっ」

水木の言葉に、

『はっ、すぐに』

組員は元気よく応えた。





真夜中。
真北の車が、橋総合病院の駐車場へ入ってきた。
車から降りてきた真北は、出張帰りで、少し疲れた表情を見せながらも、その足で、橋の事務室へと向かっていった。

「なんだよぉ。夜中に」

橋の事務室のドアを開けた途端、嘆くように言った。

「悪いな」

橋は、標準語…。

「…桜さんのことか?」

桜の容態が悪化したと、真北は、この時、考えた。

「…それに、関わることや。…来い」
「はぁ? 少し、休ませろ」

橋は、真北の言葉を聞かずに、真北の腕を掴み、事務室を出ていった。
真北は、橋が向かう方向に覚えがあった。

「おいおい、何処行くんや」

橋は、ある病室の前で歩みを停める。
真子愛用の病室だった。

「…なんや?」

不思議がる真北の腕を掴んだまま、橋は、病室のドアを開け、中へ入っていった。
ベッドには、真子が抑制されて眠っていた。

「…真子ちゃん…襲われたのか?」
「それに近いやろな」

橋の言葉に、真北は首を傾げた。
真子は苦しそうに眠っている。
一体、何が……。



(2006.5.14 第四部 第三十四話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


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