任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第四部 『新たな世界』

第四十四話 緊急事態発生!

真子は、この日、山中に怒られて一日中、喫茶・森に行けずに、本部に居た。
たいくつそうに、いつものくつろぎの場所でのんびり過ごしている時だった。

「失礼します。組長、お手紙です」

龍野が真子に手紙を持ってきた。

「ありがと」

龍野は真子に手紙を渡すと一礼して、去っていく。

「純一から??」

封筒の裏には、純一の名前が書いてあった。
真子は、何も考えずに、封を開けて読み始める。

「…なんだよ…これ…」

真子の顔色が徐々に変わり始めた。




真子は、部屋に戻り、着替えを済ませた。そして、机の引き出しから便せんを取りだし、何かを書き始める。



阿山組本部の駐車場では、カラオケハッスル組の西沢が、車を念入りに洗っていた。水分を拭き終えた時だった。

「西沢さん!」
「組長! おはようございます」
「ちょっと行きたいところがあるんだけど、運転頼めるかなぁ。…内緒で…」

真子の媚びるような目…。
そりゃぁ、組員誰もが、真子のその目に弱い。なので…、

「かしこまりました!」

西沢は、元気良く返事をして、後ろのドアを開けた。
真子は、車に乗り込んだ。西沢は、嬉しそうな顔をしながら運転席に乗り込み、そして、車を発車させた。




大阪・AYビル
まさちんは、真子の代わりに組関係の仕事、そして、くまはちは、AYAMAの仕事に精を出していた。

「これは、暫く保留ですね」

須藤組組事務所の応接室でいつもの如く、須藤に書類を渡しながら、タバコを吸うまさちん。

「いい加減に、禁煙せな、組長に嫌われるで」
「大丈夫ですよ」
「えらい自信やなぁ。…それより、組長は本部で、大丈夫なんか?
 嫌がってたんとちゃうんか? 一人にしててええんか?」

須藤は矢継ぎ早に質問する。

「…須藤さん、どうされたんですか?」
「一平がな…心配してんねん。同窓会の一件以来、更に大変な事態に
 なってしもたやろ。…あいつ、どこから情報を仕入れるんやろな」
「…疑うは、身内かなぁ…ってね」
「……よしの…やな…」

応接室の外で待機しているよしのは、中から聞こえてきた須藤のドスの利いた声に、目を見開く。そして、ゆっくりとその場を離れ、南と交代し、事務所を出ていった。

「ったく、ほんまやねんな…」

よしのが事務所を出ていったことは、須藤にばれていた。

「そりゃぁ、一平君に、かかれば、よしのも弱いでしょ」
「まぁな。…一平も全て知らないと、気が済まん奴やからなぁ」
「…組長のこと、好きなんですね」
「まぁな。…あの笑顔に参ったらしいな」

まさちんは、ため息を付いて、くわえタバコのまま、ソファにもたれかかった。

「どうした?」
「…組長の幸せ…考えてる…」
「幸せ…?」
「あぁ。…一平君と付き合っていく方がええのかなぁ…ってね」
「無理言うな。五代目とは、友達関係やぞ。恋愛は避けとるで」
「それは、須藤さんが、言ったからでしょ?」
「そうやなぁ。…って、まさちん、その言葉から考えると、お前、まさか…」
「あん?…まぁなぁ。須藤さんの思われる通りですよ」
「ったく、お前は、組長の前やと、態度変わるんやからなぁ」

まさちんは、タバコをもみ消す。

「組長、知ってますよ。俺の姿は」
「そうかいな。で、お前は、いつ本部に行くんや?」
「明日ですよ」

まさちんは、嬉しそうに言った。

「ったく、お前のことが、わからんわい。…一体、どれが、本当のお前や?」
「俺にもわかりません。では、失礼します」
「ありがとな」

まさちんは、笑顔で応接室を出ていった。

「……よしのを連れ戻せ!!」
「はっ!」

まさちんが、事務室を出ていった途端、須藤の怒鳴り声が響き渡った…。




千本松組が使用している建物の近くに車が停まった。その車から真子が降りてきた。

「組長!」

真子は、車から降りた足で、運転席に廻り、慌てて窓を開ける西沢に笑顔を向けた。

「…これ…」

真子は、一通の封筒を西沢に手渡した。

「組長、これは?」
「もしもの時だよ。すぐに戻れるとは考えてないんだ。
 だからね、もし、みんなが私を捜し始めたら、この通りに行動してね」
「戻れないって、組長、やはり、私も…」
「駄目。約束は守らないとね」
「組長…」
「西沢さんは、関係ないから。私をここまで見送っただけ。
 これからのことは、知らない…わかった?」
「…嫌です」
「西沢ぁ〜」

真子は、西沢を睨む。

「早く、去れ!」

西沢は、暫く躊躇ったが、真子の気迫に負け、言われるまま車を発車させた。
真子は、西沢の車が見えなくなるまで見送った。



西沢は、ルームミラーで真子を見つめながら、去っていく…。

「組長……」

西沢は、唇を噛みしめた。



「ふぅ〜。これからだなぁ。ったくぅ」

真子は、ため息と呆れが混じったような声で、壊れかけた門をくぐり抜け、荒木が居るだろう建物へ向かって歩いていった。




西沢の車が、阿山組本部へ戻ってきた。

「お帰り。何処行ってた?」

門番が、西沢に声を掛ける。

「車の調子を見てただけだよ。バッチグー」

西沢は、引きつった笑顔で、そう言って、車を駐車場に停め、部屋へ向かった。




とある建物の一室では、荒木と真子が睨み合っていた。

「今流行ってるゲームだよ。あんたとこでも作っているだろ。
 扉を開けないとどんなことが起こるかわからない…」
「…一人で来て、そして、そこで指示が出る…見事にクリアしたら…って
 ことなのか。……次は何だよ…」

真子は、堂々としていた。
次の『ゲーム』は既に用意しているのか、荒木は、そんな真子を見てにやけている。
そんな二人を見つめるのは、傷だらけの純一だった。

「そこの橘と勝負だな。どちらかが倒れるまで」
「橘??」

真子は、荒木の指さす方を見た。
そこには、2メートルはあるかと思われる大男が、真子を見下ろして笑っていた。
真子は、その男を見上げた。

突然、橘は、真子目掛けて腕を勢いよく付きだす。
真子は、咄嗟に避けていた。それが合図となって、真子と橘は、戦い始めていた…。




龍野が、真子のくつろぎの場所へとやって来た。

「あれ?」

居ると思われた真子の姿が、そこには無い。キョロキョロと真子を探す龍野。そして、真子の部屋を覗く。

「失礼します……お出かけしたんですね」

真子の部屋着が、ソファに置かれていることに気が付いた龍野は、そのまま、部屋の戸を閉めた。



ドカッ!! バァァン!!!!

「うぐっ…」

真子がふと気を緩めた時、橘の強烈な拳が真子の腹部に命中し、真子は、ドアまで飛ばされてしまった。
真子は、ドアの側で座り込む。しかし、すぐに立ち上がった。腹部の痛みで顔が少し歪んでいた。
真子は純一を見た。純一は、荒木に顔を殴られた様子。

「くっくっく。どうやらあんたは、そんな戦いの時でも、周りを観る余裕があるようだな」

なかなか、勝負が付かない真子と橘。真子の気を逸らすために、荒木が、純一を殴りつけたのだった。

「条件を変更しよう。そうだなぁ。あんたは、攻撃ができない。
 そして、どちらかが倒れるまで続けてもらおう。橘、遠慮はせんでええぞ」
「…ちょっと…待てよ…おやじ、それじゃ、組長が…」
「そんな条件でも、こいつは、倒れないだろうな。やれ!」

その言葉と同時に橘は、先程よりも鋭い拳を容赦なく真子に入れていた。真子は、腹部の痛みを堪えながら、その拳を避けていた。

ドカッ! パラパラパラ…。

壁にもたれるように逃げた真子に向けて、橘は拳を放った。
真子は、咄嗟にしゃがみ込む。
橘の拳は、壁に突き刺さった。
拳を壁から抜いた橘は、容赦ない鉄拳を真子に向ける。
真子は、ことごとく避けていた。
真子の息が上がった。体力が、まだ、回復していない様子。
橘も息が切れ始めた。
真子が、橘の拳を避けていくうち、荒木の側に来てしまった。荒木は、そっと片手に木刀を持った。
荒木の行動に、真子は気付いていない。
荒木は、橘の拳より先に真子の膝の後ろをその木刀で殴りつけた。

「!!!!!」

真子は、バランスを崩し、そして、橘の拳をまともに受けてしまった。

「組長!!!!」

!!!!!!

真子は、中央にあったデスクに左脇腹からぶつかった。
少し鈍い音が聞こえた。
真子は、そのまま気を失ってしまった。

「ゲームオーバー〜」

荒木は、ふざけたような口調で言った。純一が、東堂の手を払いのけて真子に駆け寄った。

「組長? 組長!!」

純一の必死の呼びかけに気が付く真子は、痛々しく微笑む。

「じゅ…純一…ごめん…、負けちゃった」
「組長、申し訳ありません…。申し訳…」
「純一、何も言うなよ…。っつ…」

純一の言葉を遮るように言って、真子は、ゆっくりと体を起こし、荒木を睨む。

「…まだだ…」

その時、真子の口の端から、血が滴り落ちた。

「組長、もう、いいです。もう…。…おやじ、もういいだろ? 組長だけでも…。
 おやじ………お願いだから…」

荒木の顔色が急に変わった。

「…初めて聞く言葉だな。『お願い』だ?くっくっく。そうだなぁ〜。
 純一、お前、この女が、好きなんだよな…ここで、抱いたら、許してやるよ。
 そして、お前も、その女と一緒に阿山組に帰れ」

純一は、荒木を睨んだ。そして、真子を見た。真子は、どうやら肋骨が折れている様子。痛々しく純一を見つめる真子の口は、血で真っ赤になっていた。

「……く…組長…」

純一の手は震えていた。
それは、荒木の言葉に対しての怒りなのか、真子を助ける為に抱こうとしているのか、それを堪えているのか、解らない。
荒木は、そんな純一を見逃さなかった。

「お前は、女一人守ることもできないんだな!
 俺の『阿山組組長を殺せ』の命令も
 実行せず、阿山組の組員になるくらいだもんな。
 そんなにこの女が大切なのか? そして、阿山真子、
 こんな男になぜ、そこまで……」

荒木の怒りは頂点に達した瞬間、橘を押しのけ、純一を押しのけて、真子の前に立ちはだかる。そして、持っている木刀で真子を滅多打ちし始めた。
真子は、急所を守ることしかできず、ただ、打たれるだけ。

「おやじ、止めてくれ!!! 止めてくれぇ〜」

純一は、目の前で血だらけになっていく真子を見つめるだけしかなかった。

「どうだ! あっ? 無抵抗で受ける暴力の怖さがわかるだろ? あっ?
 俺が、あの時どれだけ恐ろしかったか、わからないだろう? この俺の、
 この顔に残った傷…お前だけは、許さない…。くさい飯を食いながら、
 俺は、このときを待っていたんだ!!」

そう叫びながら、荒木は、真子を殴り続けた。

ガッ!!

「!?!??!!!」

真子が、荒木が振り下ろす木刀を左手で受け止めていた。
どこにそんな力があるのか、荒木が引っ張っても、真子の手からは木刀は放れなかった。

「…それくらい……知ってるよ……」
「!!!!!」

荒木の怒りは、爆発した! 真子の左脇腹にケリを入れる。
再び鈍い音が聞こえた。

「うぐぅぅ〜〜っ……」

真子は、口の端から血を流しながら、気を失った…。
木刀を沿うように、真子の手が、ゆっくりと離れていく。

「くみちょぉ〜〜っ!!!!!!」

純一の叫び声が遠くに聞こえていた。

「ったく、しつこい奴だな。流石だよ。おい、このアマを
 例の場所に連れて行け」
「はっ」

荒木組の組員が二人、血だらけで横たわる真子の両脇を抱え、引きずって部屋を出ていった。

「組長……」
「純一…お前の軽率な行動が、悲劇を生むんだよ。
 …肝に銘じておけ!」

荒木は、東堂に顎で合図をする。
東堂は、項垂れる純一を奥の部屋へ連れていった。
荒木は、血の付いた木刀を壁に向けて放り投げた。

「くそっ!」

荒木は、荒れていた。




真子は、地下の一室に連れられて来た。その部屋の中央に放り投げられる真子。床に倒れた弾みに、口から血を吐き出す。

「親分、どうするつもりだろな」
「さぁな。こんなに傷だらけじゃ…抱く気も起こらないな」
「そうか? 俺は、起こるぞ」
「まぁ、親分の計画通りだと、このあと、思う存分…な」
「あぁ…そうだな」

そう言って、組員達は、部屋を出ていった。
真子は、うっすらとした意識の中、二人の会話を聞いていた。

「…計画…?」

真子の意識は遠のいていった。





地下室のドアが開く。そこには、片手に布団と救急箱を持った純一が立っていた。

「組長!」

純一は、真子に駆け寄った。
体を丸くして横たわる真子。口からは血を流していた。
純一は、真子の脈を取る。

生きている…。

「よかった……組長!!」

純一は、真子を抱きしめた。
ふと我に返った純一は、布団を敷き、真子を寝かしつけた。そして、怪我の手当てを始めた。
口の血を拭い、額の傷を消毒し、そして、真子の右手を取った。荒木の殴打から体を守った時に出来たのか、青く腫れ上がっていた。
その手に、そっと唇を寄せる純一だった。




手当てを終えた純一は、真子の額に浮かぶ汗を優しく拭く。
額に手を当てる。
熱は出ていない。
しかし、真子の表情は、苦しそうに歪んでいる。

「組長……」

純一は、必死だった。
そして、朝を迎えた。



「んーー……!!!」

真子は、痛さで目を覚ました。

「組長…。よかった」

純一の安堵の声。

「純一…ここは…。い、痛い…」

真子は、自分がおかれている状況を把握していないのか、話し続けようとした。

「組長、喋らない方がいいです」

真子は、周りを見渡した。ひびが入った冷たいコンクリートの壁が真子を囲んでいた。自分の下に布団が敷いてある。そして、口の中に血の味が…。少しずつ、何が起こっていたのかを思い出していく。

確か……。

「ここは、別の部屋か?」
「はい。地下室です」
「…これは…?」

真子は、自分の頭に何かが巻かれていることに気がついた。それは、包帯…。

「手当しておきました。…組長、本当に申し訳ございません。
 おやじに言っても、組長をここから出すことを許してもらえなかったんです。
 …おれも、阿山組に返してもらえないようです…」
「…仕方ないよな…。負けちゃったもんね…」

真子は起きあがろうとしたが、体のあちこちの痛さで起きることができなかった。

「動かない方が…」
「…どれくらい気を失っていた?」
「丸一日です。かなり殴られましたから…」
「…そうだよね……私が悪いか……。まさか、あの時の事を…」

真子は、言葉を詰まらせてしまった。
荒木が真子を殴りながら言っていた事。
それは、天地山で襲われた後、千本松組に殴り込みに行き、荒木をボコボコにしたあの事件。
当時は、阿山組と千本松組は、抗争中。
その抗争を沈めた真子だったが、その方法は、結局、『暴力』だった。

「組長は、悪くありません。あいつが…」
「純一、前も言ったと思うけど、あんたの父親だろ?
 いくらなんでも、そんな言い方…」
「…俺は…あんな奴の血が、この体に流れていると思うだけで
 …腹立たしい」
「わかるけど…、だけど…」
「いざというときは、おやじを助けますよ」

純一は、真子の言葉を忘れていなかった。
あの事件の後も、真子と同じ会話をした。
純一の言葉を聞いた真子は、少し安心したのか、微笑んでいた。

「もう少し、眠っていて下さい。痛みも少し和らぐと思います」
「純一、ありがと…」

真子は、目を瞑った。純一は、真子にそっと布団を掛け、傍らに座り込む。
その純一の目は、潤んでいた。






「帰ってこない……」

朝。西沢は、門の前で、真子を待っていた。

「西沢、誰か待っているのか?」

門番が声を掛ける。

「あ?…ん? …いいや、何も」

西沢は慌てて、奥へ入っていく。門番は、西沢の行動に首を傾げていた。



「おはようございます……???」

龍野が、真子を起こしに部屋へやって来た。

「居ない…」

龍野は、首を傾げながら、真子の部屋から去っていった。





何かを殴る音が響いていた。

「ぐはっ!! ごぼっ…」
「やめてくれ!!!」

純一が叫ぶ。
橘は、無表情で、拳を何かにぶつけている。
橘が拳をぶつける先…それは、真子だった。
真子は、小さなトゲがたくさん付いた鎖で両手を縛られ、上から吊されていた。その真子の体をサンドバックのように殴る橘。

「うぐぐぐぅ……ごぼっ……」

真子は、血を吐き出した。

「橘…やめてくれ!! どうしたんだよ!」

橘の腕には、緑色のあざがいくつか付いていた。
真子は、その腕に気が付く。

サイボーグ…?

真子を殴り続ける橘を停めようと手を差し出す純一は、荒木に羽交い締めされた。

「よく観ておけよ。お前の行動が、引き起こした結果をな。
 お前があんなことを言わなければ、今頃、こいつは、
 こんな目に遭ってないんだ。俺の言うことを聞けないなら、
 もっと、もっとこいつを痛めつけてやる。…おい!」

真子は、気を失った。

ザバァッ!!

東堂は、荒木に言われて、近くに置いてあった水が入ったバケツを手にし、真子に気付けの水をかけた。しかし、真子は、気を失ったまま…。

「ふっ…。やはり、橘だと、すぐだな」
「組長!! …組長!!!!!」

意味ありげな言い方をした荒木は、真子を助けようとする純一を強引に引っ張って、東堂と去っていった。
橘も、後を付いて去っていく。
真子が監禁されている部屋のドアが閉まり、鍵がかけられた。

その音は、乾いた感じがした。

真子は、力無くぶら下がっていた。その口から、ポタリポタリと血が滴り落ちる…。



「組長……」

部屋に監禁されている純一は、真子の血みどろの姿を思い出し、自分の不甲斐なさを悔やんでいた。
隣の部屋からは、荒木と東堂の話が聞こえてきた。

『あれだけやれば、抵抗できないだろうな』

荒木が、言う。

『どうでしょうか。阿山真子ですよ』
『まぁな。もう少しいたぶるか…』
『いたぶらなくても、あの姿のままなら、抵抗できないでしょう?』
『…足の鎖くらい取らないと、やりにくくないか?』

にやけた言い方をする荒木。それに応えるかのように東堂も言う。

『どんな体勢でも、できますよ』
『東堂、お前が一番か?』
『よろしいんですか?…血だらけの女を抱くのは、あまり好きじゃありませんが、
 阿山真子なら、別ですよ。この世界じゃ、特級品ですからね…』
『この世界では、まだ…だからなぁ〜。くっくっくっく…』

純一は、二人の会話に耳を傾けていた。

「…組長に…手を出すつもり…か…それだけは……」

純一は、部屋を抜け出す準備を始めた。




真子が監禁されている部屋から、つぶやくような歌声が、途切れ途切れに聞こえていた。
傷だらけ、血だらけで、吊された真子が、口ずさんでいた。
うっすらと意識が残っている真子は、気を紛らわすためなのか、自然に唄を口ずさんでいたのだった……。





まさちんが、東京駅に到着。
迎えに来た阿山組組員と一緒に車に乗り、本部へ向かっていった。

「組長は、純一たちと遊びまくってるんやろ?」
「それが、純一、暫く外出しておりまして…」
「外出?? じゃぁ、組長は?」
「純一の代わりに喫茶店で働いてますよ」
「はぁ〜?!」
「山中さんが、カンカンに怒ってまして…」
「ったく、組長はぁ。本部に来ても、ゆっくりせえへんねんからぁ。
 今日もか?」
「恐らく」

そんな会話をしながら、本部へ到着するまさちん。
玄関をくぐって、真子の部屋へと向かって歩いている時だった。
川原と出会う。

「あれ? 今日は…?」

まさちんが、川原に尋ねる。

「お休みですが…」
「ほな、組長は、部屋か?」
「龍野が言うには、おられないようですが…。二日前は、喫茶店に行くことを
 山中さんに怒られて、本部に居たはずですが…」
「組長は、どこなんや?」


心配になったまさちんは、若い衆に真子の行方を問いただす。

「何? 組長の姿が見えない???」
「はい。もう二日になります。一体どこへ…」
「駅からの連絡では、駅にも見えていないということです」
「じゃぁ、天地山の可能性は、ないな…。大阪にも帰ってない」

真子を探す者達で、本部内は、慌ただしくなっていた。
その様子を西沢が、落ちつきなく観ていた。
まさちんは、若い衆に色々と問いただしている。その様子を観た西沢は、自分の車に向かって突然、走り出した。
ドアを開け、ダッシュボードに入れた真子から手渡された手紙を取りだし、慌てて封を開け、手紙を読み出した。

『私と最後に接触した人物と尋ねられたら、私が出掛けると聞いていたから、
 車を洗って、待っていた。何処に行くかは聞いていない。と応えること』

「…って、組長ぅ〜解って…」
「西沢」
「ま、ま、ま、まさちんさん…」

突然、声を掛けられて、焦る西沢。

「お前が、組長と最後に逢った人物らしいが、その後、組長は、
 どこに行ったのかわかるか?」

わちゃぁ〜。このまんま…。

「いいえ…その、私は、組長にお逢いしてません。あの日、私は、
 この車を洗っていただけなので。組長が、お出かけすると
 お聞きしてましたので、念入りに洗っておりました」

…あれ? これでいいのかな…? 間違ったっけ…???

「どこに行くかは、聞いてなかったのか?」
「はい」
「そっか。ありがとな」

まさちんは、少し心配そうな表情で、その場を去っていった。
西沢は、まさちんを見届ける…。

「組長、いくらなんでも、…嘘は……。しかし、まさちんさんのこと…
 解ってたんだろうか…この通りだった…」

西沢は、握りしめる手紙を広げる。次の言葉を読もうと思ったのだった。

『あとは、自分で考えてね。…頑張って、嘘をつくんだよぉ!!』

「って、組長…いくらなんでも、こんな嘘は…付きたくありませんよ…」

西沢は、悩んでしまった。



幹部達が集まる部屋に山中、北野、まさちん達が、雁首揃えて考え込んでいた。

「組長、一体…何処に……」

その後ろで、まさちん達の様子を見ていた若い衆。静まり返った中にいきなり叫び声が起こった。

「うわぁ〜〜!! 申し訳ありません!!!」
「どうした、西沢!?」

北野が西沢に尋ねた。
西沢は、震える手で、ポケットから手紙を取りだし、北野に渡した。北野は、その手紙を読み叫んだ。

「山中さん!!!!」

山中が、北野から手紙を奪い、そして、山中の手からまさちんが、手紙を奪い、それぞれ、読んだ。

「どういうことだ!」

三人が同時に西沢に叫んだ。

「…あの日、組長を…お送りしました。…純一を迎えに行くと言って…。
 ご指定の場所まで…お送りしました。…そして、このことは、誰にも言うなと…。
 俺…俺……どうしたらいいのか…悩んでました。組長は、すぐに戻ると
 おっしゃったのに戻られません…。だから…だから……」
「バカヤロ!! なぜ黙っていたんだ!」

山中が、西沢の胸ぐらを掴んで、怒りを露わにする。

「申し訳ございません!!!」

西沢は、涙で顔がぐしゃぐしゃになっていた。そんな西沢の胸ぐらを山中から奪い取ったまさちんは、叫ぶ。

「西沢、場所は、どこだ? 案内しろ!」

西沢の腕を引っ張って、真子の居場所へ向かおうとした。
そのまさちんの前に立ちはだかる山中。

「山中さん、……どいて下さい」

山中の表情は険しかった。

「…出動だ」

まさちんは、山中の言葉に驚きの表情を見せた。

「しかし…、それは…」
「……仕方ないだろ…」

まさちんは、唇をかみしめた。そして、何かを決心したのか、頷いた。

「解りました…。くまはちに連絡……取ります」

阿山組・本部内が、異様な雰囲気に包まれた……!!




大阪・AYビル・AYAMA社。
くまはちは、真子の代わりに、AYAMAで、精を出して働いていた。

「くまはちさぁん、これは、どうですか?」

八太が、テレビ画面を指差しながら、くまはちに尋ねる。

「まだまだぁ」
「またですかぁ。くまはちさんにかかると、先に進みませんよぉ。
 真子ちゃん、未だですかぁ?」
「私が組長から任されたので、組長の意見と思って下さい」
「ちぇっ」

八太は、ふくれっ面。くまはちは、八太の表情を観て、微笑んでいた。
ここにも組長の影響を受けてる人物…発見!

その時、くまはちの携帯が鳴る。

「…なんだよぉ。忙しいねんぞぉ」

相手が、まさちんだとすぐに解ったくまはちは、ふてくされたっように電話に出た。

『緊急事態や…すぐに本部に来い』

くまはちは、まさちんの声の調子で、何が起こったのか把握する。

「…組長、無事か?」
『行方不明や。…純一を迎えに行くと言ったっきりな…』
「な…にぃ〜?」

その途端、くまはちの雰囲気が、がらりと変わった。
その様子をAYAMAの社員は、見つめていた。
電話を切るくまはちに声を掛けることすらできない社員。

「八太さん、悪い…急用だ。あとは、頼むよ」

くまはちは、怒りを抑えながら、八太に言う。

「わかりました。お気をつけて」
「…ありがとう」

くまはちは、サングラスを掛けながら、AYAMA社を出た。そして、電話で、虎石と竜見を呼ぶ。
三人は、新幹線に乗って、東京へ向かっていった。



(2006.6.17 第四部 第四十四話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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