任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第四部 『新たな世界』

第四十六話 心の絆

道病院。
道は、レントゲン写真を見つめていた。そして、呆れたような口調で、同じように写真を見つめる人物に話し始める。

「…肋骨3本骨折、4本ひびぃ〜。…真北さんが、真子ちゃんの傷を
 増やしてどうするんですか」
「申し訳ない…。そんなに重傷だったとは、知らなかった。
 あれじゃぁ、気が付かないよ。大きめのコートで包帯を隠すとは…。
 体調が優れていないのは、わかったけど…傷まではなぁ…」

真北は、項垂れた。そんな真北を見つめる道は、少し微笑んでいた。
ところが急に、真北は何かを思い出したのか、急に顔を上げ、部屋を出ていった。

「噴火…前…かな?」

そう思いながら、道はカルテに何かを書き込み始めた。




真北は、真子が眠っている病室へ入っていった。
真子は、抑制されている。そして、その側には、まさちんが、座っていた。真北の姿を見た途端、立ち上がり、一礼する。

「どうや?」
「今のところは、痛み止めが効いているのか、静かです」
「そうか…」

真北は、ポケットに手を突っ込んで、口を尖らせる。そして、まさちんを見つめた。

「山中が来るまでもない。ここでまさちんに詳しいことを訊こうかな。
 …一体何が起こったんだよ。建物の爆発と、組長の重傷」
「…俺も詳しくは知らないんですが、…千本松組が絡んでいることは確かです。
 そして、組長は、純一を助けに、単独であの建物に……」
「その組長を助けに、お前達があの騒ぎを起こしたのか?」

まさちんは、それ以上何も言えなかった。

「…組長が、拷問を受けていたというのは、事実なのか?」
「それは、道先生が傷の状態から、考えられる…とのことです…」
「そうか…」

沈黙が漂う。
まさちんは、静かに語り始めた。

「組長が、あの建物の中で何をされていたのか、
 知っているのは、純一だけです。しかし純一は何も言いません。
 …言わなかったんです。組長を病院に…とだけ言って…。
 純一も、組長に口止めされているかもしれません…」

真北は、布団をめくり、真子の傷の具合を見つめる。
両手首の包帯、手の甲に残る青いあざ、口元に残る血の痕…。
真北は、包帯の巻かれた真子の頭を優しく撫でながら、椅子に腰を掛ける。

「…どうみても、その通りだな。ふぅぅぅ〜っ…」

真北は、ため息を付いた。

「これは、組長に聞くしかないなぁ。…まぁ、恐らく、話そうとはしない
 だろうけどな。それに…銃器類の応酬…。…新たな世界の…闇…か」

真北は、ベッドに両肘をついて、頭を抱えてしまった。

「…山中の野郎…」

真北は呟いた。





真北は、真子のことは、まさちんに任せて、警視庁へ戻っていった。
パソコンのスイッチを入れる。
パソコンが立ち上がる間、真北は電話に手を伸ばした。

「よぉ〜」
『なんや、えらい暗い声やな。何かあったんか?』
「真子ちゃんがな…重傷なんだよ」
『…何が遭った?』
「真子ちゃんの単独行動だよ。組の若いもんを助けるためにな…、
 無茶したみたいでな…。肋骨骨折、内臓破裂寸前…胃の中は
 血だらけ…。助けてくれよ…。道先生は、専門じゃないだろう?」
『そうだけどな、あいつも外科医だよ。あいつに任せておけって』
「…お前が言うなら、そうしとくけどな…」
『なんか、ふっきれへん言い方やなぁ。ったく。真子ちゃんのことや。
 大丈夫やって』
「だけどな…こないだの事もあるやろ…」

真北は、なぜか、憔悴しきっていた。

『他に、何かあるんか?』
「…いいや、もういいよ」

真北は、静かに受話器を置いた。
突然電話を切られた橋は、受話器を見つめる。

「…よっぽどか?」

橋は、呟いて受話器を置く。



真北は、パソコンの画面に目を向ける。

『アクセス』

「…健の奴…。今度は何やぁ?」

真北は、健の似顔絵の部分をクリックする。

『ミナミで、谷川が手を妬いてます。水木組が謹慎している
 ことを知った輩が、厄介なことばかりしてますよ。
 組長、まだ、戻ることできないのでしょうか…?』

「…谷川ぁ〜。任されてるのになぁ〜。やっぱし、向いてへんか…」

真北の悩み事が増えてしまった…。




山中が、警視庁へやって来た。
取調室へ案内され、椅子に座る山中は机に突っ伏す。
そこへ、真北がやって来た。山中は、慌てて姿勢を正す。

「…あほが…」

ドアを閉めるなり、真北は、怒りを抑えながら、山中に言う。

「仕方ありませんよ。あなたの大切な娘は、危険を省みず、
 周りの心配をよそに、無茶ばかりなさるんですから」
「しかしな、真子ちゃんが、嫌がる物をあからさまに使うのはなぁ。
 阿山組返り咲きやないか」

真北は、山中の前の席に着く。

「組長の身に危険が及んだ時だけですよ」
「…かなり前から、計画してただろ…? 弾痕から、最新鋭の武器が
 使われたとの情報があるんだけどなぁ。どうや?」
「…おっしゃる通りですよ」
「理由は?」
「…大学生の頃、大学祭の打ち上げでをミナミで行ってましたよね」
「あぁ」
「その時の事件が遭ってからですよ」
「それは、真子ちゃんをこの世界から遠ざけるとかで、お前が勝負したろ。
 それで、終わったんじゃなかったのか?」
「それとは、別に進めておりました。…これは、本部だけでなく、まさちんたち
 そして、関西幹部も承知しております」
「…なるほどな。それで、ここ数年、川原組と藤組の末端で、銃器類を
 押収したという噂が流れていたんだな。可笑しいと思ったんだよ。
 銃器類を禁止した阿山組系の組に、そんな噂が流れるのはな…」

真北は、椅子にふんぞり返り、机の下に足を投げ出す。

「他に方法…無かったんか?」
「…俺には、この方法しか思いつきませんでした。…真北さん、あなたなら、
 どうされますか?」

山中は、静かに尋ねた。

「…昔の感情に戻るだけだよ」
「刑事…真北…ですか」

真北は、目を山中に向ける。
その目は…刑事…。

「…それよりも、山中…お前、何か遭ったのか?」
「ん?」
「雰囲気が…違う…。それは、まさに、真子ちゃんへの…」
「その通りですよ。私まで感化されて、昔の感情に戻ってしまいましたよ」

山中は、真北の言葉を遮って、語り出す。

「大阪での出来事を聞いて…お嬢様は、そんな年齢なんだなと、
 改めて思いました。…あんな形で、大人になって欲しくはなかった…」
「俺も…だよ」
「ぺんこうは、兎も角、水木にまで…。それも、ぺんこうの為に…な」
「あいつは、そんな気…微塵も無かったようだがな…。昔の感情…か」

真北は、両手で顔を洗うようにこすり、その手で、髪の毛を掻き上げる。

「俺が、阿山組に来たからか…それとも、芯の奴が、阿山組に来たからか…。
 どっちにしろ、俺達は、真子ちゃん…阿山家にとっては疫病神だな」
「…また、それを…。先代が聞いていたら、どやされますよ」
「『お前は、幸運を運んできたんだよ!』…か。…山中…お前は、
 どう思う?」

真北は、静かに尋ねた。

「さぁ…な。…私にとっては、厄介者ですけどね」
「ったく…血を見ることが好きなんだな、いつまで経っても」

山中は、微笑んでいた。

「組長は?」
「…あっ…いや、その…怪我が悪化してな…。お前、知ってたか?」
「まさちんに聞くまで知らなかったんですよ。重傷を負っていたとはね。
 それを知っていたら、組長を阻止してましたよ。…すみません」
「気にするな。…俺も、知らなかったんだからな。…それで、傷が…ね」
「ほんと、真北さんらしくない…」

沈黙が続く。

「それよりも、真子ちゃんに、どう説明するんや?」
「全てをお話しますよ。…私の事も…含めてね」
「そうか…。頼んだよ」

真北は、少し安心したような表情で、山中を見つめる。

「帰っていいぞ」
「詳しくは、未だ…」
「いつものことや。真子ちゃんが絡んでいることだからな、
 例の任務の方でもみ消しているよ。…しかし、住民に
 知られていること…念頭に置いておけ」
「解りました。…いつもすみません。では、失礼します」

山中は立ち上がり、ドアへ向かって歩き出す。

「真子ちゃん、2、3日かかるらしいから。それからにせぇよ」
「では、3日後に、道病院へお伺いします」

山中は、ドアを開けて、出ていった。
静かにドアが閉まる。

「…この調子が続くようじゃ、俺の立場もやばいな…」

真北は、机の上に足を投げ出し、腕を組んで目を瞑り、大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出した。





道病院。
まさちんは、真子の側に付きっきりだった。
真子の抑制ベルトは、外されている。時々、額に滲む汗を優しく拭うまさちん。
真子の表情が歪む。真子が、体中の痛みで目を覚ました。

「んー……くく…く…」
「組長!」

真子のうなり声に反応したまさちんは、声を掛けた。

「ま…さち…ん…痛いよぉ…」

まさちんは、ナースコールを押した。

『どうされました?』
「早く来て下さい!!」

真子は、痛さが我慢できないのか、のたうち回っていた。まさちんは、慌てて真子を押さえつける。

「組長、動かないで下さい。傷口が開いてしまいます。我慢してください。
 もうすぐ、道先生が来ますので」
「…うん………くくぅ〜」

真子は、まさちんの言うとおり、じっとしていた。しかし、苦痛で顔がかなり歪んでいる。そんな真子をまさちんは優しく介抱していた。
真子の手が、まさちんの腕を掴む。
その手の震えから、真子の体調を理解するまさちん。
優しくその手を包む込むまさちん。

「大丈夫ですから…」

道が病室に駆け込んで来る。

「道先生!!」
「真子ちゃん、痛み止めだ」

道の言葉に、静かに頷く真子。道は、真子に痛み止めを打った後、容態を診る。真子は、薬が効き始めたのか、落ち着き、まさちんの腕を掴んだまま、眠り始めた。

「しかし、これ以上は、痛み止め使いたくないんだよなぁ。参ったなぁ。
 俺じゃぁ、どうすることもできないよ。かといって、転院させるのは
 かなりの無理があるしなぁ」
「道先生は、橋先生とライバルなんですよね。腕も同じでしょう?」
「ライバルといっても、今じゃ、専門が違いすぎるよ。俺は、脳神経外科医。
 神経系なら、大丈夫なんだけどなぁ…。やっぱり、これは、橋の専門だよ…。
 外科の方は、かんなり昔だからな…。容態診ても…さっぱりだよぉ」
「何、弱気になってるんだよぉ〜」

そう言いながら、病室に入ってきたのは、橋だった。その姿に驚く道。

「お前が、来るなんて聞いてない!!」
「呼ばれた…というより、勝手に来た。真北から、真子ちゃんの容態を聞いてな、
 俺の出番だと思ったんだよ」
「いいのか? お前の方は」
「大丈夫だよ。いつまでも俺が前線にいたら、若いもんが、育たへんやろ?」
「ったく…。でも、助かったよ。この手の傷には、俺、慣れてないんだ」
「確かに、お前は、ここまでひどいん久しぶりやろ。学生以来か?」
「まぁなぁ。頭の方は、慣れてるんだけどな」

橋と道の会話は、段々とエスカレートしていく。
専門用語が飛び交う中、側に居るまさちんは、きょとんとしていた。そして、静かに眠る真子をじっと見つめていた。

「なんや。これやったら、大丈夫や。真子ちゃんは、やわじゃないからなぁ」

橋は、真子の診察をし、カルテを診て、一安心した様子だった。

「真北の言い方からやと、真子ちゃん、めっさ悪いと思っとったんや。
 こないだの事件での怪我で、体力がまだ、回復してへんかったからなぁ。
 ……傷の治りやったら、真子ちゃん早いで」
「そうか。なら、安心した。ただ、痛みが激しいみたいなんだけどな」
「それも、もうすぐ落ちつくで。それより、神経系は、問題ないのか?」
「ないよ。…お前の考え、よくわかるよ。関西弁で」
「そぉかぁ?」
「あぁ」

眠る真子に目をやる橋。
真子は、まさちんの腕を掴んだまま、穏やかな表情で眠っていた。
橋は、にっこりと笑う。

「この様子やったら、真子ちゃんは、あと二日程で、痛がらへんようになるで」
「やっぱり、普通の扱いはしない方がいいんだな。…あの能力の持ち主は…」

道は呟く。

「まぁな。ほんま、傷の治りの早さ。尋常じゃないで。恐らく、内臓の方は、
 これよりも良くなってるはずや」
「…真北さん、俺のこと信用してないのかな」
「何か、憔悴していたみたいやけど、まさちん、何か遭ったんか?
 組の若いもんを助ける為に単独行動に出た言うてたけど…。
 この傷診とったら、…拷問うけたみたいやないか」
「…橋先生も、解るんですか?」
「すぐ解るで」
「詳しくは解らないんですよ。当の本人は、眠ってますし、助けに行った
 若いもんは、何も言わずに、別の場所ですから…」

まさちんは、真子の手に指を絡めて、力強く握りしめる。
そんなまさちんの姿に心情を察した橋は、まさちんの肩を軽く叩く。

「傷は、大丈夫や。…心配なのは、真北の方やろ?」
「そうですね…。色々と厄介な事になってますから…」

まさちんの声から、凄く不安そうな感じが伝わっていた。




真北、そして、山中。真子を大切に思う者達の表情は、それぞれ、全く同じものだった。
この事態を、どう納めるかが、勝負だ…。

千本松組との出来事と銃器類のこと。
どんな結末となるのやら…。





「ふぅ〜……。重傷か」

山中が、受話器を置いた途端、ため息混じりに呟いた。そして、天井を見つめ、そっと目を瞑る。
何か思いついたのか、山中は、突然立ち上がり、部屋を出て行った。

「…何だ、お前ら」

山中の部屋の前には、組員や若い衆が、集まり、何やらこそこそと話していた。
山中の姿を見た途端、山中に詰め寄った。

「山中さん、俺達が、こんなこと言える立場じゃないことくらい、解ってます。
 ですが、これだけは、言わせて下さい」
「組長に、すべて…お話してください。御願いします」
「すべて…?」

山中は、深々と頭を下げる組員達に尋ねる。

「銃器類の事です。組長の為を思って、再び手にしたということです。
 組長、御存知無いはずです。怪我を圧してまで、山中さんに詰め寄った。
 それを考えると、恐らく、再び…。ですから、御願いします!」
「山中さんが、おっしゃらないのなら、我々が…」
「…てめぇらは、何も言うな! そうなると、鉄拳を受けるのは、お前らだぞ。
 忘れたか? 組長に内緒で何かを行った者が、どうなったのか…」

山中の言葉に、沈黙が続く。
誰もが思い出していた。

真子の事を思い、この世界から遠ざけるために、内緒で行った事。
大学祭の後…。
真子は、怒りと共に、山中と真剣にて、勝負した…。
真子が眠っている頃、関西幹部が行ったこと…。
真子に打ち明けた途端、幹部達は、真子の鉄拳で重傷を負った…。

「……それでも、構いません。俺達は、覚悟の上です」
「山中さんが、おっしゃらないのなら、我々で」
「これ以上、何も言うな。俺の言うことが…聞けないのか?」
「組長に内緒で行うことに関しては、例え、山中さんでも…」
「お前ら、粋がってんじゃねぇぞ!!!!」

組員達の後ろから、北野が怒鳴りつけた。

「北野さん!」
「山中さんは、すでに、そのおつもりだ」
「北野、てめぇ」

山中は、組員越しに北野を睨み付ける。

「…ったく、北野まで…。…その通りだ。北野の言うとおり、俺は、組長に
 全て打ち明けるつもりだ。心配するな。そして、お前らには、鉄拳を
 振るわないように言うから。何も率先して、組長の鉄拳を受ける必要ないよ。
 今回の純一の事は、組長の単独行動が招いたこと。…ったく、あの性格は、
 先代そっくりなんだからな…。先代も、俺や真北が居なかったら、いっつも
 こんな感じだったよ…」

山中は、慶造が健在だった頃を、思い出していた。

「山中さん……」
「俺達、嬉しいんです」
「何がだ?」
「山中さんの真の姿を、知って…。俺達、山中さんは、組長に対して、
 敵対心を抱いているとばかり思っていましたから…。それは、違って
 いたんですね…」
「お前らが、うれしがる程じゃない…。勘違いするな」

山中は、ドスを利かせ、威嚇する。
しかし、その威嚇は、組員に通用していない様子。

「…北野ぉ、ちょっと来い。お前らは、ここから、去れ」

山中は、そう言って、部屋へ入っていった。北野は、集まった組員達に去るように合図した後、山中の部屋へ入っていった。

「なんでしょうか」

北野は、少し微笑んでいた。

「お前やろ、あいつらをたきつけたのは」
「あっ…その……」
「ったく。お前は、健と違って、別の意味で厄介な奴だなぁ。
 …わかっていたけどな」
「すみません」
「何を…企んでいる?」
「…あなたの、イメージアップですよ」
「それだけは、やめれ。俺は、このままでいいんだよ。憎まれ役で…」
「私、耐えられませんから」
「何がだ?」
「山中さんの、寂しそうな目…。組長にきつく当たるたびに感じる寂しさ。
 いくら、先代の遺言だからと、何もそこまで…」
「仕方ないだろ。先代には、かなりお世話になっているんだからな」

北野の言葉を遮って、山中が言った。

「あなたこそ、なぜ、先代に…もう、この世に存在しない人物ですよ?
 それに、我々が今、一番思わなければ行けないのは、五代目…阿山真子です。
 五代目の父だからと、お世話になったからと…これ以上は…」
「それが、この世界だろ。亡くなった者へ対しても…この世に存在しなくなっても
 大切に思う…それは、当たり前のことだろ」
「ですが、もう、よろしいかと…」
「…それは…真北に、要相談だな」

北野は、ため息を付く。

「あなたまで、真北さん…なんですね。それは、先代の受け売りですか?」
「そうだな」
「阿山組を仕切っているのは、真北春樹…本当に、この言葉はぴったりですね。
 先代の頃から、そうでしたね。…一体、真北さんは、阿山組の何ですか?」
「さぁな。それだけは、…俺にもわからん」
「山中さん……」

沈黙が続いた。
ドアがノックされ、組員が入ってくる。

「失礼します。純一から、電話です」

その言葉に、山中は、直接自分で受話器を受け取った。

「山中だ」
『山中さん…ご心配をお掛けして、申し訳ございません』
「お前は、無事か?」
『私は大丈夫です。それより、組長の事…お話しなければなりません…。
 恐らく、組長の事ですから、誰にも何もおっしゃってないかと思いまして…』

そして、純一は、淡々と…時には、涙声で、一連の事を話し始めた。
山中の頬に、一筋の涙が伝っていた。

「そういうことだったのか…。解ったよ。…お前の思うとおり、組長は
 重傷で…今、病院だよ。暫くは痛みが続くだろうから、面会できないとね」
『そうですか…。解りました』
「ご苦労だったな。その事は、お前が直接、組長に伝えた方がいいだろう。
 だけどな、動けるまでは、かなり時間がかかるぞ。それを考えて行動しろよ」
『かしこまりました』
「そこから、出られるのか?」
『あさってだけ、外出許可出てます』
「なら、本部に来るな。直接、病院に行って、組長に伝えろ。
 あさってくらいなら、組長、痛みが退いているだろうからな」
『では、あさって、道病院へお伺い致します』
「組長には、俺から、伝えておくよ。安心しろ」

そして、電話は切れた。

「山中さん…」
「純一の野郎…成長したな」
「成長?」
「荒木を説得したらしい。話し合いにこぎつけたぞ」
「そうですか…でも、あの荒木が大人しく、話し合いをするとは思えない…」
「それは、どうかな。積年の恨みを晴らせた者は、変わるもんだぞ。
 それより、心配なのは、荒木が、組長の意見をすんなり受け入れるか…だな」
「…そうですね」

軽くため息を付く山中と北野だった。





道総合病院・真子の病室。
まさちんが、真子の布団をかけ直し、そっと頭を撫でてから、病室を出ていった。

「よぉ」
「…くまはちっ!」

ドアを閉めた途端、真横から声を掛けられ、驚くまさちん。

「虎石の具合は?」
「大丈夫だよ。ありがとな。骨折もそれほどでもないから、直ぐにでも
 動きたがってよぉ。あいつにも、困ったもんだよ」
「そのまま、そっくりお前に返すよ」

まさちんは、微笑んでいた。

「組長の様子は?」

くまはちは、深刻な表情で、まさちんに尋ねる。

「痛みもかなり和らいだみたいだよ。…ったく、無茶ばかり…」
「そこが、組長だからな。…でも、今回の事件は厄介だぞ」
「世間にも知れ渡ったらしいしな…。これは、組長、傷は治らない方が
 いいかもなぁ。…真北さんだって、かなり…きてそうだしな」
「あぁ」

二人は、窓際に歩み寄り、外を見つめる。

「…まさちん」
「あん?」
「組長に、どう応えるつもりや」
「…何も…考えてないよ。…夢だって、言い張るか」

まさちんは、一瞬、軽く口元をつり上げる。

「言い張れたらな…。しつこいくらいに訊いてくるだろうな」
「だろうなぁ」

まさちんは、ポケットに手を入れながら、壁に背を向けて、もたれかかる。

「またしても…失態…だな」

まさちんは、静かに呟いた。

真子を守ると決めているのに、それが、なかなか実行できない。
思いが強くなればなるほど、真子は、危険な目に遭ってばかりいる。
今回も、一緒に付いていれば、このような事にはならなかったかもしれない。

まさちんは、座り込んでしまった。

「どうした?」
「なんかな…俺、組長の側に居ていいのかと思ってな…。
 俺が組長の側に居るから、組長は、どんどん危険な世界へ
 引きずり込まれてしまうのではないのかな…」

寂しげに言うまさちん。

「…くまはち、どう思う?…俺が、悪いのか?」
「…それは、わからないな」

くまはちは静かに応えた。そして、続ける。

「まぁ、俺が観ている限り、組長は、お前が来てからすごく楽しそうだぞ。
 …俺や、むかいん、ぺんこうと過ごしていた日々も楽しそうだったけどな、
 それ以上だよ。…なんでだろな。悔しいよ」
「くまはち…」

まさちんは、くまはちを見上げた。くまはちは、目だけを座り込んでいるまさちんに向けていた。

「お前が落ち込むと、組長が心配する。悩み事はいつでも
 聞いてやるがな、組長の前では、お前らしさを見せてくれよ。
 組長に負担…掛けたくないからな。…お前の笑顔が、
 組長の笑顔を益々磨くんだよ」

まさちんは、くまはちの言うことが解らないのか、首を傾げ、不思議そうな表情をしていた。

「わからんのなら、…蹴るぞぉ」
「くまはちの口から出る言葉とは思えなくてな…。不思議に思ってるんだよ」
「不思議…か?」
「あぁ。…阿山組に古くから居る者にとっては、俺は、厄介者と
 思われているんじゃないのかなって…そう思っていた。
 だけど、俺は、さほど、気にせずに過ごしている」

まさちんが語り出す。

「誰に何を思われても構わない。俺のこの体や心は、
 阿山真子の為にあると自負しているからな。…でもな…、
 組長自身はどう思っているのか…それが、解らない。
 いつまでも、組長は、一人っきりだと思っているようだからな…」

まさちんは、真子が眠っている病室を見つめた。

「俺と居て、楽しいのかな…。組長の負担に…なってないかな…。
 俺には、何でも打ち明けて欲しいよ…」
「それは、組長の周りにいる誰もが思っていることだよ。血よりも強い絆…。
 組長は、理解しているはずなんだけどな…。まだ、吹っ切れないのかな」

くまはちも真子の病室を見つめていた。
そして、二人は、同時にため息を付いた……。



(2006.6.19 第四部 第四十六話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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