任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第四部 『新たな世界』

第四十七話 ゆ・ら・ゆ・ら〜

真子は、まさちんと軽く会話ができるくらいまで、回復した。
まさちんは、いつもの通り、真子に映画の話をしていた。面白可笑しく話すまさちん。真子は、ときどき、微笑んでいた。しかし、その笑みの中には、何が不安が隠された感じがしている…。
映画の話が終わり、暫く沈黙が続いた時だった。

「ねぇ、まさちん」
「はい。何でしょうか。…もう、映画の話は終わりですが…」
「あのね……」

真子は、言いだしにくい感じだった。しかし、意を決したのか、話を続けた。

「なぜ…あれ程の銃器類がまだ、阿山組にあるんだよ。
 すべて処分するようにって、言ったはずだろ? なのに、
 …私と純一を助ける為に…あのようなことを…。
 ねぇ、まさちん。どうしてなの?」

真子は、寂しそうな目で、まさちんを見つめた。

「…そ、それは……」

まさちんは、返答に困っていた。

「…それには、私がお答えいたしましょう」
「…山中さん…」

真子が見つめる先。
そこには、覚悟を決めた山中と付き添ってきた北野が、病室のドアを開け、静かに立っていた。



まさちんはドア付近に立ち、深刻な面もちでベッドに座る真子を見つめていた。北野は、まさちんの隣に立ち、ベッドの横にある椅子に腰を掛け、真子を優しく見つめる山中を観ていた。
山中は、ゆっくりと口を開き、静かに語り始めた。

「組長……覚えておられますか? 組長が大学生の頃、
 祭りの打ち上げとかで、ミナミで飲み会をした後の…」
「忘れないよ。私が退院した後のみんなの異変。
 今でも忘れない…忘れられないよ。その事で、山中さんとの勝負…。
 …あの時、みんなの気持ちを知って、私…嬉しかった。
 …だけどね…」

真子は、口を噤む。

「…その後なんです。組長には本当に申し訳ないと思いながらも
 …我々は特殊部隊を再結成致しました。あの時のように、
 我々の大切な人の命に関わるような事態が起こった場合は、出動すると…」
「…誰が…決めたの?」

真子は、静かに尋ねる。

「私たち幹部です」
「幹部が? …それ、真北さん、知ってるの?」
「いいえ、真北には、内緒にしております。例の仕事に差し支えることになりますし、
 それに、真北の立場も…」
「そうだよね…。だけどね…、山中さん……。私は、自分の命くらい、
 自分で守ることできる!それに、あんな物を使ってまで……みんなが
 危険な事をしてまで……私は、守って欲しくない!」

真子の声が激しくなった。
まさちんは、真子の事が気がかりだった。何か変化があれば、すぐに対応できるようにと、気を引き締めた。
真子は、山中を真剣な眼差しで見つめる。

「…今回で、終わりにして。そんな部隊は!! …このままだと、
 いつかきっと…平気で人の命を……命の大切さを忘れてしまう!
 …私が、あれだけみんなに…命の大切さを……」

真子は、悔しさのあまり、唇を噛みしめた。

なぜ、解ってくれないんだよ……。

真子は、叫びたかった。

「…解っておりますよ。我々、やくざには、到底無理だと言われていた事。
 しかし、組長は、そんな我々に、命の大切さを教えてくれました。
 親分の為に命をかけるのではなく、生きろと。私たちは、嬉しかった…」

いつにない、山中の声。
それは、とても優しく、そして、温かい。

「…でも、よく考えてみて下さい。その組長は、我々のために、
 命の危険を省みず、いつも、何をしておられますか?」

ふと過ぎる、昔の想い。
山中は、それをグッと堪えながらも、真子に訴え続ける。

「そんな組長を危機から救うことに、何の躊躇いがいるのですか?
 どんな事をしても組長をお守りする…当たり前の事です」

山中の言葉は、とても力強かった。そんな山中の言葉に、真子は驚き、山中を見つめる。
山中の眼差し。
それは、真子が遠い昔に感じた、優しさ溢れるもの。そして、その中に力強さもある。

「…そうだよね、そうだよ…。命の大切さ、それを忘れて
 粗末にしているのは、私の方だよね…」

真子は、何かに吹っ切れたような表情をして、俯き加減に言った。

「みんなのことを考えていると私…気が付いたら、
 いつもみんなに心配かけているよね…。
 ……私には、身内がいない…父も母も…いないから、
 私がこの世から居なくなっても哀しむ者はいないと思っていた…。
 だけど……居たんだね…たくさん…たくさん…」

真子の目は潤んでいた。

「血は繋がっていなくても、心の絆があります。我々はみんな、
 組長のことが大切なんです」

山中の言葉に、真子は、更に驚いた。

「…私、本当は、…組長にこの世界で生きて欲しくなかったんです…。
 血で血を争うような…命を粗末にするような…この世界に…」

真子は、山中を見つめる。
山中は、真子の目をしっかりと見つめ、そして、続けた。

「…組長の気持ちを…なぜ、五代目として生きることを選んだのか、
 …その気持ちを知って…私は…組長を守っていこうと決心しました。
 …私が五代目になっていたら、恐らく、この世界は、変わらずに
 血で染まった世界が…続いていたでしょう」

山中は、優しく微笑んだ。

「私の気持ちは、…あの頃と、変わっておりません。組長に対して、
 きつく当たっておりました…。でも、それは、組長の為…。
 あなたが、強く生きていく為に…先代がおっしゃったことなのです」
「お父様が…?」
「真北には、親代わりとして、そして、私には…敵対心を…と…。
 恐らく真子が五代目を継ぐだろう。継ごうとするだろう…
 もし、そうなったら、私は、お嬢様に、敵対心を向けるように…
 周りには敵もいる、油断するな…そう気付かせる為に…」
「そうだったんだ…。山中さん……ありがとう…。…お父様も…馬鹿だね…」

真子は、フッと笑った。しかし、その目は、五代目に変わる。

「だけどね、もう、止めて下さい。あんな事」
「…隠していて申し訳ありませんでした」

山中は、深々と頭を下げる。
そして、顔を上げ、真子に優しく微笑んだ。
真子も、山中の笑顔に応えるかのように、微笑む。

「北野、帰るぞ。組長の元気な姿を見たことだしな」

心に秘めていたことを全て打ち明けて、安心したのか、山中の声は、少し弾んだ感じがしていた。

「はい」

北野は、元気に返事をして、ドアを開けた。
病室を出ようとした山中は、何かを思いだしたような顔をして、振り返り、

「純一から、連絡ありましたよ。そして、今回の事件、すべて聞きました」

真子に言った。

「ったく、組長はぁ。無茶しすぎですよ。純一、組長のことをすごく
 心配していましたよ。それと、何かお話があるとかで、こちらに
 直接来るようにと言ってあります。よろしかったですか?」
「うん。ありがと。…純一、元気だったんだ。よかったぁ」
「それと、組長」
「何?」
「特殊部隊は命の大切さを忘れてませんよ。現に今回、
 命を落とした奴はいません。それと……解散は、しませんから」
「えっ?」

真子は、驚いたように声を挙げる。

「再びこのようなことが起こると出動します」
「…出動させないように、気を付けるよ!」

真子は、山中に笑顔で応えた。
その笑顔は、力強かった。
そんな真子の笑顔を観て安心したのか、北野とそのまま去っていった。
山中の姿が見えなくなった途端、真子は、激しく泣き出した。

「組長!」

まさちんは、慌てて真子に駆け寄る。

「…うれし涙だから。みんなの気持ち、改めてわかった…。
 私が馬鹿だったんだね。まさちん。私、みんなのこと
 考えているつもりでいた。私の言動には問題がなかったんだけど
 …行動に問題があったんだね。…みんなに…感謝してるよ…」

真子は、涙を拭いながら、まさちんに笑顔を見せた。

組長が…輝いている…。

まさちんは、真子の笑顔を見て、嬉しそうな表情になる。

「組長…」
「…だから、まさちん…お腹空いた…」

まさちんは、ずっこけた…。

「組長…いきなり何ですかぁ〜。もう少し我慢して下さい。
 すぐに食事が運ばれてきますから」
「病院食じゃなきゃ…駄目??」
「あっ…でも…う〜ん……」

まさちんは、悩む…。

組長の怪我は、胃の中も…。病院食でないといけないはず…。
だけど…食欲が出ている…それに、回復に向かっている……。

「ふふふふ!」

真子は、笑い出した。

「組長、何が可笑しいんですか???」
「だって…ほら……ふふふふ…はっはっは……痛っ……」

真子は、肋骨が折れていることをすっかり忘れて大笑いしてしまった。

「組長!! だから…!!!!」

まさちんが、慌てて介抱する。

「まさちんの…困った顔…久しぶりに観たんだもぉん…はっはっは…
 いてててて…。でも…可笑しいぃ〜…痛いけどぉ…ふっふっふ…
 あっはっはっは!!! いててて!!!」
「組長、駄目ですよぉ、笑っては!! 大丈夫ですかぁ!!!」
「痛いぃ〜ぃいいひいっっひいひっひっひ」

痛さと愉快さ、そして、安心感から、真子の笑いは止まらなかった。
その笑顔に、真子らしさが戻っていた。
それは、ちさとが生きていた頃の真子と全く同じ…いいや、それ以上の素敵な笑顔だった。


この日、真子は、笑いすぎて、傷を増やしてしまい、橋と道に、思いっきり睨まれ、怒られたのは、言うまでもない。





阿山組本部。
真子は、正装して玄関へやって来た。
玄関には、組員達がずらりと並んで出迎えている。真子の姿を見た途端、一礼する組員達。その組員達の先には、山中が立っていた。
真子は、山中を見つめる。
山中も、真子を力強く見つめていた。

「組長、決して無理なさらないでください。怪我はまだ完治しておりませんので…」

山中は、静かに真子に伝える。それに応えるかのように、真子は真剣な眼差しで山中に言った。

「絶対に…出動させないでください。…今日は、山中さんも
 出席するんですから。……武器は持っていかないこと。
 ……隠し持つのも、駄目だからね」
「わかっております。話し合いですから、組長の命には、
 関わらないことですので」
「それは…わからないよ。……さっ、行こうか」

真子は、そう言って、まさちんが出迎える車に乗り込み、そして、真子を先頭に、阿山組幹部の者が一斉に本部から出発した。



門が開くと、本部前には、慌ただしい雰囲気をいち早く察知した、報道陣がかなりの数、たむろしていた。

『今、阿山組組長が乗っていると思われる車が門から出てきました。
 その後を追うように、次々と幹部が乗っていると思われる車が出てきます。
 やはり、噂は本当のようです。その昔、約10年前になりますでしょうか。
 東北の千本松組との抗争が再び勃発し、そして、それを抑える為に、
 平和主義の阿山真子が話し合いの席を設けたとのことです。先日の廃屋ビルでの
 爆発事故と何らかの関係があると思われる今回のこの二大組織の行動。
 結末は一体、どうなるのでしょうか……』

テレビから流れる映像と声を道病院の道の事務室で、真北、橋が、見つめ、そして、耳を傾けていた。

「ったく、あの怪我でぇ。内臓の方は、かなりええとして、
 肋骨は、まだやぞ。こないだ、大笑いしとったから、それで
 更に一本…。…五代目の…貫禄か?」

橋は、ボケッとしている真北に尋ねた。

「そうだな」
「お前、大丈夫か?」
「ん? やばいに決まってるやろ。これにかかってるんやからな。
 阿山真子が成長すればするほど、厄介事が増えていくってな。
 危険なこともエスカレートしてるだろうって、言われてしまったよ。
 確かにな。…でも、今回は、それを上回る出来事になってしまった。
 俺の立場、ほんまにやばいんだよ。…俺…刑事やめようかなぁ〜」
「おいおい。お前は刑事でも、やくざでもないんとちゃうんか?」
「まぁなぁ。…でも、真子ちゃんに仕事を証した時点で刑事に戻った…」

真北は、ソファに寝転んだ。

「…起こすなよ」

真北は、そのまま寝入ってしまった。
橋は、近くにあった、膝掛けをそっと真北に掛け、テレビのスイッチを切る。

「寝てないんか…」

橋は、そっと真北の頭を撫でた。





真子達、阿山組と荒木が率いる千本松組が、とある一室に集まり、話し合いを始めた。
真子は、真剣な眼差しで、荒木に訴えている。
その荒木の横には、深刻な面もちで、純一が荒木を見つめていた。





道が、手術から戻ってきた。仕事を一段落終え、お茶を……。

「どうして、寝てるかなぁ」

道が見つめる先。
そこは、事務室にある二つのソファに、大の男が寝ている姿…。

「こいつぅ、滅多に休まない仕事休んで、思いっきりくつろいでるな…。
 外科の重傷患者が来たら、任せてやろうかな…」

道は、にやりと微笑みながら、急須に茶葉を入れ、お湯を注いだ。

「俺もぉ〜」
「私もぉ〜」

お茶の良い香りに誘われた二人が、目を覚まし、全く同じ格好で手を挙げていた。

「解ったよぉ。ったく、お疲れさまぁ〜で、お前が俺に入れるべきだろが」

そう言いながら、道は、コップを三つ用意して、お茶を注いでいた。



お茶をすする音が響く事務室内。

「流石、ええ茶、使こてるな。…もうかってるやろぉ」
「お前のとこよりは、少ないって」
「さよかぁ。…で、調子はどうなんや?」
「医者が忙しかったら、駄目だろ。患者は少ない方がいい」
「俺は、多い方がええなぁ。腕がうずくからな」
「橋…お前、進む世界間違ってないか? 時々思うよ。お前の発言聞くと」

道は、お茶を飲み干した。

「真北さん??」

道は、真北が、コップを手に持ったまま、一点を見つめて何かを考えている事が気になったのか、声を掛けた。

「…無事に…戻ってくるかなぁ…」

真北は呟いた。

「無理やろな」

橋の言葉に、真北は、ギロリと睨み付ける。

「もしもの為に、俺が、こうして、ここに残ってるんやろが。心配すんな」
「そうだけどな…」
「やば…お前、真子ちゃんの能力んこと、考えてるやろ…」

真北は静かに頷き、ため息をついた。

「打ち明けて…くれるかな…」
「それは、わからんな…。でも、もう、使こたらあかんって、きつぅぅく
 言うたしな。…こないだの…俺の病院での事件の時の診断は、原田に
 任せてしもたけどな…。…原田の見解やと…以前より…強くなってる
 みたいやな…。やはり……」

橋は、それ以上言わなかった。
コップを握りしめる真北の手が、わなわなと震えていたからだ…。





真子達が、話し合いをしている一室。
しかし、そこには、真子達、阿山組の者しか居なかった。

決裂。

荒木達は、退室していた。

「…わかっていたけどね…。やっぱし駄目かぁ〜」

真子は、姿勢を崩し、ため息を付いた。

「組長、痛みは?」
「大丈夫…少し和らいだ。…しかし、荒木って、案外いい人かもね」
「組長…人が良すぎます」
「いいやん。うちの意見〜」

真子が、軽い口調で言った時だった。
表で銃声が響き渡った。

「…銃声?? まさちん!」

真子は、自分の怪我のことをすっかり忘れているかのように、立ち上がり、銃声が聞こえた方へ走っていった。
まさちんや山中は、慌てて真子を追う…。



表へ出た真子が観た光景…それは、荒木を守るように立つ東堂が、左腕から血を流し、銃を片手に辺りを警戒している様子だった。

「何が、起こっている? まさか…」

真子は、山中に振り返る。
山中は真子の言いたいことが解ったのか、首を横に振る。
その時だった。

「危ない!!」

純一の声が、聞こえた。
真子たちは、その声に振り向く。

純一が、荒木を押し倒した。
その純一の胸から、真っ赤な物が吹き出す。

「ぐはっ!」
「純一ぃ〜!!!!」

荒木が、目の前で真っ赤に染まる純一を観て、叫んだ。
荒木の上に純一は、ゆっくりと倒れた。
その純一をしっかりと支える荒木に、純一は、か細い声で言う。

「…だから…おやじに…言ったんだよ……」

純一は、笑顔を荒木に向ける。

「純一!」

純一に駆け寄る真子。純一は、ゆっくりと真子に目線を送り。そして、微笑んだ。

「組長……結局は、…おやじが…大切なんです…くみちょ…う…」

真子に怒りのオーラが現れた。
両手を握りしめ、木陰のヒットマンを睨んだ…途端、ヒットマンが、木陰から倒れるように出てくる。

「まさちん…」

ヒットマンの後ろから、まさちんが、服を整えながら出てきた。
突然、山中と北野が、懐から銃を取り出し、発砲した。
それぞれが銃口を向けたところからは、ヒットマンが次々と倒れるように出てくる。

「…武器は駄目だと言っただろ……」

真子は、山中と北野を睨んでいた。

「あーあ……すみません…。その、今回も……」
「ったくぅ〜」

真子の拳が緩んだ。
真子が大きく深呼吸をする。そして、右手に気を集中させた瞬間、右手が青く光り出した……。
純一の傷が、スゥッと消える…。

「…純一!」

荒木は純一を抱きしめた。その姿を見た真子は、何も言えず、佇んでいた。

「…命の大切さ…それは、よくわかっている。だけどな、あんたの言うように、
 今までのしきたりを変えるようなことは、俺にはできない」

純一が、ピクッと動いた。

「…こうして、目の前で息子の命が消えるとわかっていても、何もできない……。
 あんたのその不思議な能力…あんたは、それを持っていても、命を大切に
 するんだよな…。いいや、それを持っているからこそ、大切にするんだろうな…」
「お…や…じ……」
「純一……」

気が付いた純一の顔を見つめる荒木の顔は、優しい父親の顔をしていた。
あの強面=やくざそのものの顔ではなかった。
しかし、それは、すぐに消えた。

「…純一、お前は、もう、俺のところに戻ってくるな。
 …二度と俺の前にその面を見せるなよ。わかったな。
 お前のような人間は、俺の息子とも思わないよ」

荒木は、きつく純一に言った。
突然の言葉に純一はとまどいを見せ、そして、荒木から離れる。

「おやじ……」
「行くぞ。…阿山真子。…こんな奴だが、息子を頼むよ」

荒木は、真子にそっと言う。

「荒木……」
「あのビルでのことは、謝らないがな」

荒木は、真子を睨み付け、そして、東堂たち組員とその場を去っていった。

「ばかやろぉ!!!」

純一の叫び声が響く中、荒木達、千本松組の連中は、去っていった。
純一は泣き崩れた。

「…純一。えらい…えらいよ」

泣き崩れる純一に近づき、優しく頭を撫でる真子。
その手は、停まらなかった。

「…組長、俺、子供じゃないんですよ」

気を落ち着かせた純一は涙を拭いながら、真子に言った。

「ん? 私の言ったこと、守ったからね。父親を守った。だけどね……」

純一を撫でていた真子の手は、拳に変わり、純一の頭を軽く叩く。

「だから、組長!!」
「これは、約束を破ったことに対してだから。命を粗末にした。
 だれが、体を張って守れと言ったんだよ!!」
「組長……申し訳ありません!!」

純一は、真子に深々と頭を下げていた。真子は、立ち上がった。

「まぁ、これで、荒木も人の親ってことがわかったね。
 …思ったとおり、いい人だった」

真子の顔は、清々しかった。
そんな真子を見ていたまさちん、山中、北野達は、半ば呆れ返っていたが、真子の楽しく笑いながら、純一とじゃれ合う姿を見て、ホッとしていた。

……何かを忘れていた。

「組長!! 傷の具合は!!」

山中が叫ぶ。
その声に、真子は、純一とじゃれ合っていたことを止め、そして、その場にしゃがみ込んだ。

「…忘れていましたぁ〜!!! 痛いぃ〜〜!!」
「組長!!」

その場にいた阿山組組員全員が、真子に駆け寄った。

「大丈夫、大丈夫!! …大丈夫だから!!」

笑顔の真子は、駆け寄る組員達にそう言いながら、まさちんに付き添われ、車に乗り込んだ。





道病院。

「………」
「………」

橋と道が、真子のレントゲン写真を無言で見つめている。

「………使こたか…」

橋が、静かに言った。

「この一本だけだな、残っているのは…」

道が言った。

「あぁ……」
「………」
「………。真北…どうする?」

橋が、言う…。

「どうするって…俺の怒りは鎮まっていないよ」
「まぁ、それだけ、真子ちゃんは、大人になった…ということだよ。
 落ち着けよ、真北」

橋の言葉に、真北は、ぴくりと反応し、橋を睨み付けた。

「落ち着いてられるか!! なぜ、こんなことになっているんだよ!
 ったくぅ〜。俺の知らないところで、銃器類は使う、能力を使う。
 本当に、俺は、今の立場が、やばくなってきとるやないかぁ〜」
「お前の仕事のことは、わかっている。しかしな、100%全てをお前に
 うち明けないといけないのか? 100%知っていないといけないのか?」
「それ以上だよ! 俺の目の前で、仲間が死んでいったんだ。
 その仲間の為に…ちさとさんの意志の為に俺は、こうして、
 今まで、真子ちゃん…阿山組を通じて頑張ってきたんだ」

真北の声が震える。

「真子ちゃんの築いた新たな世界に対して、俺は、
 どれだけ嬉しかったか……。なのに、どういうことだ?
 銃器類を手に、組長奪還。死人が出なかっただけでも
 不思議なくらいの攻撃…」

真北は拳を力強く握りしめた。

「俺は、これから先、どうすれば、いいんだよ!! 俺に一言
 …相談くらいしてくれても…いいのにな…」

真北は、寂しそうに言った。

「真北……」

橋は、真北の心境が痛いほど解っていた。
しかし、今の自分には、どうすることもできない…医者が関与することなのか…??
それとも、…友人として…??

「…組長の体調は?」
「暫くは安静だな。光を…能力を使ったあとだしな」
「…わかったよ…。体力が戻った頃に、また…来る。
 …俺が落ち着いた頃…な」

そう言い残して、真北は、事務室を出ていった。
静かにドアが閉まった…。

「…とうとう頂点に達したか…」

橋が、カルテを片づけながら言った。

「大変なことが起こりそうだな」

道が、橋からカルテを受け取りながら言った。

「真子ちゃんの回復、遅れたほうが、ええなぁ〜」
「そうだな…」

二人は、お互い苦笑いをしていた。




その頃、真北は、車を運転して、とある場所へ向かっていた。
荒い運転。
真北にしては、珍しかった。

…まるで、何かを忘れたいような感じ……。

真北は、堤防の近くで車を停め、そして、ゆっくりと降りてきた。
ドアを閉めた真北は、懐かしそうにその場所を眺め、土手を上っていった。

河川敷では、親子がピクニックをしてたり、ウォーキングをしていたり、クラブ活動中なのか、体力造りに走っていたり…。

「あの頃と…変わらないな」

真北は、フッと微笑み、土手に腰を下ろした。
河川敷に居る人々を見つめる真北。

真北の脳裏に過ぎる、ちさとの最期の姿。

ちさとを見送ったその日に、向かった空港。
ちさとの命を奪った銃弾を放った男…黒崎は、すでに飛び立った後…。
そして、その日の夕暮れ……。

「あの時も、ここで、こうして…心を落ち着かせていたっけな…。
 今日は、なんで、ここに…来たんだろな…」

真北は、足下の草をちぎって、投げた。そして、その場に寝転ぶ。

雲が流れる……。

携帯が鳴った。
真北は、懐に手を入れ、携帯を手にする。
しかし、表示画面を見た途端、そのまま、懐に電話をなおし、目を瞑る。

「知るかっ!」

電話の相手は、警視庁…。
真北は、荒れている……。


『真子と…あの人を…御願いします』


「!!!!!!」

真北は、突然起き上がった。

「ちさとさん……」

真北は、両膝を立てて、項垂れた。

「…そうだよな…頼まれたんだよな…」

大きく息を吐く真北。

「いくら、真子ちゃんが大人になったからと言って…真子ちゃんだけに、
 任せっきりにしてしまったらな…。慶造と同じように、暴走しまくりやな…。
 …俺がもっとしっかりとせな…あかんわなぁ…」

真北は、遠くを見つめる。

「あっ…そうや……。そういや、そういうこともあったよなぁ。
 …ふっふっふ…これは、一つ…仕掛けるか…!」

真北は、何かを企んだように微笑み、立ち上がった。そして、懐から携帯を手に取り、先程かかってきた警視庁へ連絡を入れた。

「…わかりました。すぐお伺いします」

真北は、急いで車に乗り込み、警視庁へと向かっていった。



『裏に、かなり巨大な組織が関わっている可能性がある。
 真北、これ以上、この件には、首を突っ込まない方がいい。
 お前には、もっと、違う仕事をしてもらいたいからな』

警視庁に戻った真北は、上層部から報告を受け、忠告された。




ゆ・ら・ゆ・ら〜。

真北は、デスクに戻り、パソコンを目の前に、何かを考えているのか、椅子の回転を利用して、体を左右に揺らしていた。

『アクセス』

パソコン画面の中央に、健の似顔絵が点滅する。

「あいつは、アクセスしすぎやな…。ったく」

クリックする真北は、健からの極秘情報を目に、驚いた表情をする。
真北は、慌てて健に連絡を入れた。

「健、これ以上、その件には、手を出すな。上からの命令や。
 お前まで、危険にさらしたくないからな。…わかってるよ。もうええ。
 暫くは、その件から離れる。…あぁ。ありがとな。…組長?
 大丈夫だよ。…荒木とのことは、進展しなかったけどな、
 まぁ、しゃぁないやろ、それが、荒木や。…心配するなって。
 …あぁ。…そうやな。我慢しろよぉ。……わかったよ。送る」

真北は、微笑みながら受話器を置いた。

「ったく、こっそりと写真を撮れって…しゃぁないかあ」

真北は、パソコンの電源を切った。



(2006.6.21 第四部 第四十七話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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