任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第四部 『新たな世界』

第五十一話 同窓会の喜劇

10月・第3日曜日。
真子は、それ程派手ではない服装で、二階から降りてきた。玄関では、既に用意を終え、靴を履き終えた男が三人、待ちくたびれたように、座り込んでいた。

「遅いです!!」

まさちんとぺんこうは、声を揃えて同時に、二階から降りてきた真子に言った。

「ほんま、息ぴったりやね、くまはち」
「えぇ。…では、組長、二人に任せますので、私は先にビルへ」
「うん。理子ん家(ち)寄るから、少し遅れるね」
「お気をつけて」
「くまはちもだよ!」

くまはちは、真子の笑顔に見送られながら先に家を出て、自分の車に乗り出発した。
真子は、いつまでも、くまはちの車に手を振っていた。

「行きますよぉ」

ぺんこうが声を掛けた。

「はぁい。…って、まさちんの運転なん?」
「いいえ、まさちんの車で、私の運転です」

ぺんこうは、車のキーをくるくる回しながら、力強く言った。

「ほな、安心やね。では、しゅっぱぁぁつ!」

真子は、素早く車に乗り込んだ。
ぺんこうは、運転席、まさちんは、助手席。そして、真子は、後部座席に座る。車は、近くの公園を右折し、理子の自宅へと向かっていった。

ピンポーン!

呼び鈴を押した真子は、スピーカーから声が聞こえてくるとばかり思い、顔を近づけていた。…が、理子は、玄関から、勢い良く飛び出してきた!

「真子ぉ!!!」

飛び出した途端、真子に抱きつく理子。

「真子だぁ、真子だぁ!!」
「な、な、な、なに?!?!!!」

思いっきりはしゃぎまくる理子に驚く真子だった。

「ったくぅ〜」

突然抱きつかれた真子は、理子を思いっきり抱きしめた。

「ごめん…心配掛けて」
「ううん、ええって。真子やったら、ええねん」
「ありがと」
「…それは、うちの台詞や。だって、あの時な…」

真子と理子は、話し込み始める。

「あの…、そろそろ…」

車で待っているまさちんとぺんこうは、同時に呟く。

「あっ…。忘れてた…」
「あのね…組長…」

呆れる二人をよそに、真子は、後部座席のドアを開け、理子を招いた。そして、真子も乗る。
車は、AYビルへ向かって走り出した。



AYビル・受付前。
真子は、いつもの如く、受付で話し込む。

こんな日にまで…。

まさちんは、呆れて、物が言えない。
理子は、真子の新たな一面を観た気持ちで、嬉しそうに微笑んでいた。

「ここでは、組長かと思ってた」

理子が、呟いた。

「エレベータに乗るまでは、理子ちゃんの知っている組長ですよ」

まさちんが、応えた。

「…だけど、長いので、…いつも、こうなります!!」

まさちんは、真子の後ろに忍び寄り、襟首を掴みあげた。

「ふぎゃん!!」
「組長ぅ〜。…うがっ!!」

真子の襟首を掴みあげているまさちんは、襟首を掴みあげられた。

「お前なぁ、いっつも、こうなんか?」
「そうだよ。こうでもせな、組長、明美さんたちの仕事の邪魔を〜」
「だからって、掴みあげることないやろが」
「お前も掴みあげてるやないかぁ!!!」

まさちんは、肩越しにぺんこうを睨み付ける。
ぺんこうも、負けじと睨み付けた。
受付前に、恐ろしい雰囲気が漂い始めた…。
しかし、その雰囲気よりも、更に怖い雰囲気を醸し出す者が居た…。

「あ〜の〜なぁ〜〜」

真子だった。
まさちんは、慌てて真子から手を離す。それと同時にぺんこうは、まさちんから、手を離す。
二人の胸ぐらを掴みあげる真子。

「いぃいぃ加減にぃ〜」
「…は、私の言葉です!!!」

真子の言葉を遮って、まさちんとぺんこうは、同時に叫ぶ。

「ふっふっふ…はっはっはっは!!!」

そんな三人を観ていた理子は、お腹を抱えて笑い出した。その声で我に返り、同じ言葉を呟く三人。

「あっ…同窓会……」
「まさかと思うけど、同窓会の間、ずっとそんな調子なん?
 うち、笑い死にしたないで!!」
「い、いや、その、それは、ないって。御免、理子」
「ええって、おもろいもん。でも、早く行こ。むかいんさんが
 心配してるで」
「……ラブラブ…」

真子は呟く。そんな真子の頭をコツンと叩く理子は、少し照れていた。

「もぉ〜。真子とまさちんさん程とちゃうで!」

理子は、真子だけに言った。

「そ、それは、ない!!」

なぜか、焦る真子だった。そして、四人は、エレベータで、むかいんの店の階へ上がっていく。
店の前には、安東が立っていた。

「野崎さんと真北さん……って、まさちんさぁぁぁぁぁん!!」

安東は叫ぶ。その声に、思わずぺんこうの後ろに身を隠すまさちんだった。


むかいんの店・特別室。
ウェルカムドリンクを飲んでいる真子と理子、そして、安東。先に到着していたくまはちは、まさちんとぺんこうの間に割り込むように立っていた。

「お前ら、今日だけは、絶対にやめとけよ」

くぎを刺すようにくまはちは言う。

「ねぇねぇ、真北さん。まさちんさんの隣に座ってええかな?」

安東の目は爛々と輝いている。

「ええよぉ。でも、気ぃつけやぁ。…手、つけられんようになぁ」
「うち、それでもええでぇ〜」

安東は、何か期待したような表情で、真子に言った。

「安東、やめとけ。危険すぎや」

ぺんこうは、すかさず声をかける。

「なんやとぉ〜。組長の同級生に手ぇ付けるわけないやろ」
「そうやんなぁ、他の者には、つけるよなぁ」
「…お前に言われたないなぁ」

まさちんは、すんごく嫌みったらしい眼差しをぺんこうに向けた。
一瞬、ぺんこうの脳裏に、真子との一夜が過ぎる…。
慌てて頭を振って、何かを忘れようとするぺんこう。
なぜか、くまはちの拳が、まさちんの腹部に入っていた。
特別室のドアがノックされ、むかいんが入ってきた。

「組長、申し訳ございません。須藤さんから、直ぐに来て欲しいと
 内線入りました」
「へっ? 須藤さん、来てるん? しゃぁないなぁ〜」

真子は、立ち上がった。

「組長、まさちんか、くまはちに頼めば…」

ぺんこうが、言った。

「私が、出ないと駄目だろうからね。…時間までには、戻ってくるから。
 まさちん、くまはち、行くよぉ」
「はぁ」

真子の行動に少し驚いているまさちんとくまはちの返事は、すっとぼけた感じだった。




むかいんの店に、団体さんが到着。店長に案内されながら、特別室へと入っていく。

「先生早いやん」

その団体さんは、真子のクラスメートの徳田たちだった。
駅で待ち合わせをして、ビルへやって来た様子。

「まぁな」
「あれ? 真北は?」
「急な仕事が入ったみたいでね、今、38階」
「仕事かいな。ったく、こんな日に、真北は、仕事好きやな」

そう言いながら、徳田は、席に着く。

「先生、呼んだ方がええんちゃうか?」
「時間までには終わらせるって言ってたから」

ぺんこうは、時計を見ながら徳田に応えた。

「一緒に来てんやでぇ。そしたら、一平くんのおじさんから
 呼び出されたんや」

理子がふくれっ面になりながら、言った。

「一平に言ったら、おじさん、怒られるやろな」

徳田が、笑いながら言った。

「みんな集まったんやったら、始めるで」

ぺんこうが、仕切る。

「先生、真北おらんかったら、意味ないやろぉ」
「ほんまや。意地悪やなぁ」
「いくら、長年の付き合いやからって、それは、ひどいやろぉ」
「主役は、真北やねんから」

口々に、ぺんこうを責める徳田たち。ぺんこうは、ふれくされてしまう。

「わかったよぉ。すぐ来るように、連絡するわい」

ぺんこうは、部屋を出ていって、厨房の隣にある部屋の電話を手に取り、連絡を入れた。



真子の事務室の内線が鳴り、くまはちが出る。

「はい」
『…くまはち、未だか?』
「なんや、ぺんこう、…すまんな、長引きそうや」
『まさちんじゃ、あかんか?』
「あかんな。…まさちん残して、組長と俺が行ったら、誰か怒るやろ」
『安東…か』
「だから、俺が残るで。すぐに行くように言うから」
『よろしく』

くまはちは、受話器を置いて、デスクに座る真子に目をやった。
真子は、くまはちを見て、事態を把握する。

「…ええんか、くまはち」
「はい。組長、楽しんでください。ミナミの件でしたら、
 私がやってたことですので、大丈夫ですよ」

くまはちは、そう言いながら、真子に近づき、真子が手にしている書類を受け取った。

「ほな、頼むよぉ。終わったら、くまはちも来てね」
「ありがとうございます」
「まさちん、行こか!」
「はぁ」
「ほなねぇ〜、くまはち」
「あまりはしゃぎすぎないように。…知恵熱出ますよ」
「程々にしまぁす!」

真子は、くまはちに、微笑み、そして、まさちんと事務室を出ていった。
くまはちは、真子を見送った後、書類を見つめる。

「…って、ほとんど終わってるではありませんかぁ」

くまはちは、何かを書き込んだ後、須藤組組事務所へ向かっていった。



須藤組組事務所

「珍しいな、くまはちが来るなんてなぁ」
「組長は、同窓会ですから」
「げっ……そうやったんかいな。…悪いことした…。帰ったら、
 一平に怒られるやないか」
「大丈夫ですよ」

応接室に通されたくまはちは、書類を須藤に渡しながら、話していた。

「組長のクラスメートに徳田っておるやろ」
「えぇ。組長と学級委員をしていた少年ですね。すごくしっかりした
 正義感が強くて、優しい彼…あっ、一平君と幼なじみでしたね」

須藤は、くまはちの口から出る言葉に驚いて、手を止めた。

「…??? どうされました?」
「いや、その…な…組長の周りに対しても、そこまで、通やとはな…。
 流石というか、驚いたというか…。…まぁ、それが、くまはちやもんな」
「はぁ、まぁ…」

くまはちは、返事に困る。須藤は、書類に目を通し、そして、まとめた。

「OK。ありがと。先に進めるよ。くまはちも、行くんだろ?」
「えぇ。では、失礼します」

くまはちは、机の横に置いていた別の書類を手に取り、今度は、AYAMA社へ向かって行った。



「おはようございます」

くまはちは、元気良く挨拶をしながら、事務所へ入っていった。

「おはようございます。…あれ??? 真子ちゃん、同窓会で、
 くまはちさんもご一緒だとお聞きしてますよ」

応対に出た桜山が、優しく言った。

「えぇ。後で行きますよ。恐らく既に盛り上がっているでしょう」
「くまはちさん、避けてません?」
「えっ?!」

騒ぐの嫌い…それは、AYAMA社の社員にも有名のようで…。

「それはありませんよ。組長が楽しそうにしている姿を
 観るのは、嬉しいですからね。これとこれです。
 組長、張り切ってしまって、明後日の分まで、サインして
 しまいました」
「勢い余ったんですね。お預かりします。ありがとうございました」
「では」

くまはちは、笑顔でAYAMA社を出ていく。そして、むかいんの店へ……。

「店長、よろしいんですか?…その、あの騒ぎ方……」

店の入り口に立った途端、思いっきり騒がしい声が、特別室から聞こえていた。

「今のところは、他のお客様は、来ておりませんので、
 料理長のお許しでてます」
「むかいんが、怒らなければ…」
「料理長も、あの中です…」

くまはち、目が点…。


くまはちが、特別室をちらりと覗く。
むかいんは、理子とラブラブ状態。(普段でもできるやろ…)
まさちんは、隅の方で安東と二人っきり。(知らんぞぉ〜。)
真子は……、ぺんこうを交えて徳田達と和気藹々と話していた。
真子が、くまはちに気が付いたのか、手招きしている。
その手に誘われるようにくまはちは、真子の席へ歩み寄った。

「お疲れさまぁ。ありがと」
「組長、ほとんど終わらせていたんですね」
「うん。勢い余った」
「そうだと思いましたよ」

くまはちは、優しく微笑んでいた。

「くまはちさんって、やっぱし、かっこええなぁ。憧れるで」

徳田が、くまはちの微笑みを観て、感心したように言って、そのまま、くまはちと話し込み始める。

「…くまはち…珍しい…」

真子とぺんこうは、同時に呟いた。そして、二人は微笑み合い、二人っきりで話し始めた。

「ぺんこう、ありがと」
「何でしょう?」
「…すごく…楽しいもん」
「礼を言うなら、徳田にですよ。私は、それに賛成しただけですから」
「賛成しなかったら、この日は、無かったでしょ?だから」

真子は、素敵に微笑んでいた。
そんな真子の頭を撫でるぺんこう。

「うわぁ、先生と真北って、やっぱし、ラブラブなんやぁ!」
「えっ?! な、なに?!へっ?!??」

中山が、真子とぺんこうの雰囲気を観て、突然叫んだ。その言葉に、驚く真子。

「ちゃうちゃう! いい子いい子してただけやぁ!」

ぺんこうは、言い訳する感じで、叫び出す。

「いいや、絶対、何かある!」
「在学当時から、不思議な雰囲気あったもんなぁ」
「そうやで。先生、告白せぇや!!」

クラスメート達は、次々と二人をからかい始めた。…その中で、わなわなと拳を震わせる男が居た。その男は、つかつかとぺんこうに歩み寄り……

ガッ!

「お前なぁ〜」

まさちんだった。ぺんこうの胸ぐらを掴みあげ…。

ガッ!

「なんで、お前に掴みあげられるんや」

ガッ!

「知るかっ!」
「知らんのやったら、近づいてくんな!」
「なにぃ〜」
「なにぃ〜は、俺の台詞や!」

いつもの如く…始まった。
真子は、頭を抱えている。くまはちは、全く気にせずに、徳田と話し込んでいる。
やはり、登場するのは…。

バッ!!

「この席で、何しとるんや……ええ加減に…せぇよ」

クラスメート達には背を向けて、まさちんとぺんこうの胸ぐらを掴み、自分に引き寄せ、こっそりと呟くのは、むかいんだった。その様子を観た真子は、少し離れたところにポツンと一人で座っている理子を見つめる。

『ごめん!』

真子は、両手を合わせて、理子に謝っていた。理子は、真子に微笑む。

いいって。楽しみにしてたもん。

理子の微笑みは、そう言っていた。
むかいんに怒られた二人は、落ち込んだように、シュンとして、部屋の隅に座っていた。

しかし……。

足下では、軽く蹴り合っていることは、誰にも気付かれていない様子…?




賑やかな、AYビル・むかいんの店特別室。
客が、増えてきたことから、少しだけ大人しくなり…

『二人を停めるのは、お前やで』

むかいんは、くまはちに、そう告げて仕事に戻っていった。

「ほんまかいな…なんだか、悪いなぁ」

真子は、そう言いながら、腕を組む。

「ええって。うち、むかいんさんの笑顔を観ることできる
 場所で逢うだけでええもん」
「でも、二人っきりの方が、楽しいやろぉ。…ったく、
 仕事好きなんだからぁ〜むかいんはぁ」

真子、ふくれっ面。

「よし。理子、予定のない日、いつ?」
「えっ、いつでも、暇やで。週休二日やし、土日はね」
「……まさか、土日、長時間、ここ?」

真子の言葉に、一瞬、凍り付く理子は、ゆっくりと頷いた。

「ぷっ!!」

真子は、吹き出す。

「ええやろぉ。真子みたいに、まさちんさんと毎日って逢えないんやで。
 長いことおってもええやろぉ〜」

理子、ふくれっ面。

「そやけど、どっかにデート行きたくないん? 秋やったら、
 紅葉が綺麗やろ。……ん?」

真子は、何かに気が付いた。

「むかいんって、外に出ると言ったら、食品買いに行くくらいと
 違ったっけ…。…こりゃ、やっぱし、外出! ハイキング!!」

なぜか、張り切る真子。
そんな真子が珍しいのか、理子は、不思議なものを観る感じで、真子を見つめていた。

「真子…変わった?」
「ほへ?!」
「なんか、明るい。…以前よりも、輝いて見える。大人びてる」
「えっ?!」

真子は、一瞬、ドキッとする。脳裏に過ぎる、ぺんこうとの一夜…。そして……。
真子は、頭を抱えて、テーブルに突っ伏す。

「ま、真子?!」

真子の突然の仕草に驚いた理子は、小さな声で呼ぶ。
その小さな声に反応したのは、まさちんとくまはち、そして、ぺんこうだった。
三人は慌てて立ち上がり、真子を見つめる。
真子は、理子に微笑みながら、顔を上げている。
ホッと一安心の三人は、同時に座り、ため息を付いた。

「ぺんこう、ええんか?」
「何が?」

まさちんが、静かに尋ねる。

「生徒達と話さなくて」
「ええよ。こいつらは、こいつらで楽しむからな」
「そうやけど、この後やで。ほら」

まさちんが、徳田に目をやる。ぺんこうは、それにつられて目をやると、徳田と目が合った。

「先生、そろそろ時間やろ。この後やねんけど、みんなで
 ボーリング行こかぁ、言うてんねん。先生は?」
「俺は行くで」
「真北は?」

徳田の言葉に反応するのは、まさちんだった。

「あかんやろ…」
「嫌や、うち、行く!!」

少し離れた場所に居た真子が、手を挙げながら、駆け寄ってきた。

「徳田くん、二人も一緒になるけど、ええ?」
「そのつもりやで。まさちんさんとくまはちさんも交えた方が
 楽しいやろ。…むかいんさんは、無理やろうけどな」
「…誘いたいのは山々やけど、…やっぱり、行かないやろなぁ。
 ……そや!」

真子は、何かひらめいたのか、にやりと笑って、理子を見つめていた。

「なぁるほどぉ」

まさちん、ぺんこう、そして、くまはちと徳田は、真子の企みに気が付いた様子。


そして……。


ガッコーン!!!

「いえーーーい!」

ストライクを取ったのは、真子だった。真子と手をぶつけ合うのは、同じチームになっている徳田、加藤信輔、青山すみれの三人だった。

「やっぱし、ばらけさせて正解やで。…見物や」

徳田は、嬉しそうに微笑んでいた。
真子の右隣のレーンでは、くまはちが、ストライク。
くまはちと同じチームには、近藤孝、飯塚里美、上田優子の三人が、真子の左隣のレーンのまさちんと同じチームには、もちろん、安東、中山秀信、吉沢つかさの三人。
ぺんこうのチームには、寝屋正治、福山達郎の二人。そして…むかいんのチームには、理子、野村昌樹、小島尚子の三人と分かれていた。

「どういうこと?」

真子が、徳田に尋ねる。

「だって、運動神経の塊の真北と先生達が同じチームになったら、
 俺ら、絶対負けるに決まってるやん」
「……って、私、ボーリングは、初めてやねんけど…」
「うそ!!!」

真子の言葉が聞こえたクラスメートは、驚いた声を発する。

「遊びに行くたびに、真北の意外な一面、発見するで」

徳田が、少し呆れたように言った。

「それで、先生にフォームを聞いとったんや。なのに、いきなり
 ストライクって、やっぱし、先生って、すごいんやなぁ」
「ほめんといてんかぁ」

一つ向こうのレーンで、ボールを持って構えているぺんこうが、言う。
ボールを投げる。
もちろん、ストライク!

「ちっ!」

と言いながら、ボールを投げるのは、まさちんだった。

「むかいんさんって、スポーツ万能なん?」

むかいんがターキーを取って、理子と手をたたき合って喜んでいる姿を見た徳田は、真子に尋ねる。

「どうだろう。私、料理姿しか、観たことないよ」
「しかし、むかいんさん、野崎に弱いんやなぁ。野崎の一言と
 真北の助言で、こうして、楽しんでるんやもんなぁ」
「私も、ここまで弱いとは思わなかったよぉ。意外だった」
「あんまし、話せぇへんのん?」
「理子の話は、してくれへん」

真子は、『は』の部分を強調した。

「徳田君、ありがと」

真子は、突然そう言って、徳田に、微笑んだ。
一瞬、鼓動が高鳴る徳田。

「…真北、その笑顔は、一平だけにしたってや。俺まで惑わされるで。
 で、なんで、お礼なん?」
「こうして、楽しい時を過ごせるのって、徳田くんのおかげだもん。
 …誰も、声を掛けてくれなかったから…」
「ったくぅ、暗くなんなよぉ。なんの為に、真北と名乗って、
 高校に通ってたんや。こうして、楽しい時を過ごす為やろ」
「うん。…だから、ありがとうって」

真子は、照れたように、顔を伏せた。

「徳田ぁ、真北を泣かすなよぉ」

加藤の言葉に、くまはちとまさちんが反応。
真子は、嬉しそうに微笑みながら、加藤と徳田、そして、青山と同じチームの者とじゃれ合っていた。
ぺんこうは、在学中によく見られた光景なので、慣れた感じで真子達の戯れに耳を傾けながら、ボールを投げる。

「ったく、あの二人は〜」

少し離れたところで、むかいんが呟いた。



受付から少し離れたところに、集まる真子達。まさちんが、精算を済ませて、近寄ってきた。

「ありがとうございましたぁ」

クラスメート達は、声を揃えてお礼を言う。

「どういたしまして」
「まさちん、経費は駄目だからね」
「解ってますよ…ったく……それでなくても……」

ブツブツ言いながら、財布の中の札を数えるまさちんを見つめる真子は、悪戯っ子のようだった。

「さて、次はカラオケ!!」

もちろん、徳田の声に反応するのは、クラスメート。
躊躇う真子の右腕をくまはちが、左腕をまさちんが、掴んで挙げていた。

「ちょ、ちょっと!!」

小声でまさちんに言う真子。

「ご安心下さい」

まさちんは、優しい眼差しで真子を見下ろしていた。
その目を見て、真子は、本当に安心する。

「ありがと」

徳田が先頭で、カラオケ屋へ目指して歩いていった。
…っつーか、ボーリング場と同じビルにあるカラオケ屋さんなのだが…。
真子達が、去った後、ボーリング場のあらゆるところから、男達が、出てきた。そして、真子達を追う感じで、ボーリング場を出ていった。





AYビル・会議室。
幹部達が集まって、幹部会。

「川原さん、昨日はありがとうございました」

会議が始まる前、川原を観たまさちんは、開口一番に言った。

「かまへんって。気にすんなよ。俺んとこの管轄やないか。
 しっかし、あれだけの数は、俺の予定外やったで。組長の護衛
 っつーただけやのに、組員の8割が、向かったんやからなぁ。
 まさちんとくまはち、そして、ぺんこうとむかいんが居ると
 言ったのになぁ」
「まぁ、おかげさまで、楽しむことできましたよ」

まさちんは、にっこりと微笑む。

「で、組長は、AYAMA?」

川原が、まさちんに尋ねた。まさちんは、その言葉に反応して、ちらりと須藤を観た。

「す、すまん…一平と…一緒や」

須藤が、照れたように小さな声で言った。

「そうですか……」

消え入るような声で川原が言う…訳…。
まさちんが、睨んでいる…。

「では、会議始めますよ」

まさちんの声には、怒気がはらんでいる…。
その頃の真子は、一平と映画を観て楽しみ、そして、茶店で茶をしばいていた。
少し離れたところには、常に、くまはちが、見え隠れしているが…。



真子の自宅。
真子はリビングで、AYAMAの試作品を検討しながら、時々、左腕に付けているブレスレットを見つめ、嬉しそうに微笑んでいた。
にっこりと笑っている猫が付いたシルバーのブレスレット。

『たまには、こんなんもええんちゃう?』

デートの帰り際に、一平が真子に渡したプレゼント。

「嬉しそうにぃ〜」
「いいやんかぁ」
「粋なものをもらいましたね。…何も言いません」

真子に声を掛けたのは、真子の後ろから画面を見つめ、試作品について助言しているぺんこうだった。

「でも、ぺんこうに初めて買ってもらったものの方が
 嬉しさは強いよ」

真子は、にっこり笑って、ぺんこうに振り返る。優しい微笑みを真子に向けながら、真子の頭を撫で、真子の後ろから、コントローラーを持つぺんこう。

「やはり、こちらの方が、よろしいかと思いますよ」
「ほんまに??」

真子は、ぺんこうにもたれながら、画面を見つめ、資料に何かを書き込んでいく。

「これも、組長には、向いてませんね…」
「…そういうぺんこうが、やりたいだけちゃうん?」
「よく御存知で」

ぺんこうは、真子の肩越しに微笑んでいた。真子もにっこりと微笑む。

「仲むつまじい光景で」

その声に振り返る真子とぺんこう。

「ま、真北さん!!」

真北の姿を見た途端、コントローラーを真子に渡し、真子から素早く距離を取るぺんこう。

「お帰りぃ〜」

真子は、真北に微笑む。

「試作品ですか?」
「うん。…だけどね、私向きじゃないって」

真北は、真子の言葉を聴きながら、資料をパラッと観る。

「そのようですね」
「真北さん、チラッと観ただけでわかるん?」
「はぁ、まぁ…って、真子ちゃん、資料を観ただけでは、解らないんですか?」
「う、うん…」
「何作目ですか?」
「かなりやってると思うけど…。あがぁぁぁ!! もう、あかん!
 真北さんとぺんこうで、やって!」

真子は、ネクタイを弛めながら画面を見入る真北に、コントローラーを手渡す。

「は、はぁ?!」

驚きながらも、真子と代わる真北だった。
そして……。

「ちゃいますって、そこは、こうですよ!!」
「こういうやり方があるんやろが。ほっとけ」
「ほっとけません!」
「ったく、俺が、真子ちゃんに任されたんや」
「明日早いんでしょうが。後は、私がやりますよ」
「原に任せておけばええねん。…俺にさせろ」
「あきまへん!!!」
「くぅ〜!!!」
「むむむむ…!」

コントローラーを取り合う真北とぺんこう。そんな二人の後ろ姿をソファに腰を掛けて、楽しむ様な感じで見つめる真子が呟いた。

「それ、二人でできるやつちゃうん?」
「!!!!!!」

真北とぺんこうは、同時に資料に目を移し、同時に呟く。

「ほんまや…」
「で、私、就寝時間やから、寝るよぉ。ほんとに、頼んでいいの?」
「えぇ」
「ほな、よろしく。お休みなさい」
「お休みなさい」

真子は、真北とぺんこうに笑顔で手を振って、リビングを出ていった。
暫く沈黙が漂う中、真北とぺんこうは、画面を見入っていた。

「なんか、このパターン、以前にも…」

ぺんこうが、静かに言う。

「そうだな。…またしても、真子ちゃんにしてやられたか…」
「そんなつもりは、なかったはずですよ。あなたが、帰られてから
 そう考えたのでしょうね」
「だろうなぁ。…いっちょ、のりますか」

真北は、ぺんこうに微笑む。
ぺんこうは、フッと笑って、そして、素敵な笑顔で、真北に言った。

「そうしましょう」

そして、真北とぺんこうの不思議なコンビは、空が白々とし始めるまで、AYAMAの試作品を半ば、喧嘩腰に検討していた。



「ありゃりゃ。二人が寝入るなんて、珍しいね」
「初めて見る光景ですよ」

リビングでの二人が気になっていたのか、珍しく早起きをした真子。部屋を出た途端、向かいの部屋から出てきたむかいんと一緒にリビングへと入り、目の前の光景を見て、心を和ませていた。

「これは、喧嘩腰に、検討してましたね」

むかいんが言った。
真子は、資料を手に取り、目を通す。

「その通りみたい」

真子は、むかいんに資料を見せる。そこには、二人の文字が、殴り書きされていた。上から、線で消され、隣に書き直されているところもあった。

「ったく。二人して、頑固だから」

真子は、優しく微笑みながら、寄り添って寝入る二人にタオルケットをそっと掛け、むかいんと静かにキッチンへ。キッチンへ通じる扉が、静かに閉まった時だった。

「…どうします?」
「起こされるまで、このまま…かな」
「ったく、いつになったら、気付くんでしょうか…私達の勘の鋭さに…」
「気が付いてるさ」

真北は、フッと笑う。それにつられて、ぺんこうは、微笑み、そして、呟いた。

「思い出しますよ…」

あの頃を…。

ぺんこうは、そのまま、寝入ってしまった。
真北は、ぺんこうの呟きに、嬉しさを感じ、そっとぺんこうを引き寄せ、眠り始めた。


「気付かない訳ないやん」
「しぃ〜」

真子とむかいんは、朝食の用意をしながら、静かに会話を交わしていた。

「痛てっ!」
「大丈夫ですか?」
「ごめん。久しぶり持つと…」

真子の傷口に優しく唇を寄せるむかいんは、傷が浅いことが解ると、そっと絆創膏を巻き、真子の頭を撫でながら、微笑んだ後、真子と調理担当を代わった。

「組長は、食器並べて下さい」
「はぁい」

少しふくれっ面になりながら、食器を並べ始める真子だった。

「そだ。ちゃんと、理子と紅葉を観に行くんだよ」
「仕事が…」
「休みなさい」
「しかし…」
「駄目!」
「組長ぅ〜」

むかいんの嘆く声が、リビングの二人の耳に届いていた。
笑いを堪えながら、寝た振りをする二人は、同じ事を思う。
これは、むかいんの負けやな。

『真北さん、ぺんこう! 起きてやぁ。早出ちゃうん??』

真子の声がリビングに聞こえてきた。

「ふ、ふわぁい、起きます」

ぺんこうが、返事をして、真北と同時に起き上がり、リビングへと入っていく。
おいしそうな香りが、漂っていた。



(2006.6.26 第四部 第五十一話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


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