任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第四部 『新たな世界』

第五十五話 真子の気持ちが起こす行動

真子の自宅・リビング。
真子と真北は、くまはちのことについて、真剣に話し合っていた。
真北が真子に内緒でくまはちに仕事をいいつける。しかし、くまはちは、真子の為と言って、真子に怒られることを承知の上で、真北からの仕事を請け負っている。
そんな話をしている最中に、真北の携帯にくまはちから連絡が入った。

『…鷹地一家の高山親分を襲った連中を取り押さえたのですが、
 自爆しました。申し訳ございません…』

橋総合病院で治療中との締めくくり。
真北が携帯の電源を切り、真子に振り向いた時だった。

「だから、言ったのぉっ!!!!!!!!」

家中の窓ガラスがびりびりと震える程大きな声で叫んだ真子。
その声で、部屋で阿山組日誌を書いていたまさちんが、リビングへ駆け込む。
リビングでは、真子が、珍しく真北をまくし立てていた。
慌てて真子を制止するまさちん。
真子が真北を睨み上げていた。

「だって…だって…これ以上、怪我させたくない…。
 いくら、不死身の体だからって…怪我をしても
 治せる程、凄腕だからって……刺されたら痛いんだよ。
 撃たれたら、痛い…血も出るんだよ…。そんなことを
 繰り返していたら…いつか…いつかきっと…」

真子の両目から、滝のように涙が流れていく。

「みんなが、私を傷つけたくないように、私は、みんなを
 傷つけたくない…。大切な…みんなを…」
「真子ちゃんの気持ちは、解ってる。だけど、今回は
 くまはちが自分から言ってきたことです。どうしても
 確かめたいことがあると…。昨年、話し合いに来た
 高山が、なぜ、今頃になって、真子ちゃんを狙い始めたのか。
 それを確かめに、自ら向かったんですよ。私は、停めました。
 これらは、私に任せろと…」
「それも、駄目」

真子は、涙声で言う。

「私の仕事です。それぞれの組が行動に出る前に阻止する。
 私の…仕事です…。ですから、取り上げないで下さい。
 御願いします」

真北が、頭を下げている。

「真北さん、どうされたんですか?」

まさちんは、真北の行動に驚き、真子から手を離してしまった。真子は、解放されたことで、素早く、真北の胸に飛び込んだ。

「!!!!」

真北は、真子の突然の行動に驚く。

「嫌だ…。真北さんまで、失いたくない…。私を一人にしないで…」
「真子ちゃん??」
「組長??」

真北とまさちんは、真子の言葉に驚くと同時に、疑問を抱く。
真子の言葉に対して記憶が甦るまさちんと真北。二人は、同時に真子の額に手を差し出した。
右側をまさちんの手の甲、左側を真北の手の平が真子の額にぴったりと当てられている。

「……やっぱり!!!!」



39度6分。
真子は、ベッドの上で、熱を計られた。真北が、真子にそっと布団を掛けながら、少しふくれっ面で真子を睨む。

「可笑しいと思いましたよ。まくし立てるので」
「…何か、困らせてしまった?」

真子は、か細い声で真北に尋ねる。

「最後の一言だけですよ」
「…ごめんなさい…」

真子は、布団を頭まですっぽりとひっかぶる。
まさちんが、氷枕を手に真子の部屋へやって来た。真北が、真子の頭の下の枕と交換する。

「真子ちゃん」
「はい」

真子は、布団から、そっと顔を出す。

「一人にはしませんよ」
「真北さん…」
「お一人では行動しないでくださいね」
「まさちん…」
「私達は、いつまでも、側に居ますから」

真北とまさちんが真子を見つめる眼差しは、とても優しく温かいものだった。
真子は、照れたように布団をひっかぶる。そんな仕草を見て、二人は、微笑み合っていた。

トントン。

「失礼します。具合はどうですか?」

そう言いながら、真子の部屋へ入ってきたのは、例の物を乗せたお盆を片手に持ったむかいんだった。

「組長、張り切りすぎなんです。いつもより温かくしてますよ」

むかいんは、サイドテーブルの上にお盆を置く。

「ありがとう」

布団の中から真子の声が聞こえてきた。

「明日は、一日お休みください。真北さんは、休暇取ってますから」

むかいんは、そう告げて、真子の部屋を出ていった。

「あんにゃろぉ〜」

真北のこめかみがピクピクする。
真子と真北の一悶着は、まさちんと同じ部屋に居たむかいんも知っていた。
真子の言葉から、想像すると、真北は、折角取った休暇を鷹地一家を調べることで費やそうとしているのでは? そう思ったむかいんの言動だった。
ゆっくりと起き上がる真子にそっと手を差し伸べ、真子の体を支えるまさちん。そして、むかいん特製を真子に手渡す。

「真北さん、休みだったんだ。だから、家で書類を山積みにして
 仕事してたんだ」
「デスクワークは、苦手なので、たまる一方で…」
「でも、明日は、しないでしょ?」

うるうる目で見つめる真子。
もちろん、今でも、真北は、そんな目に弱い…。

「全てお休みにします。真子ちゃんもですよ。組関係は、
 こいつに任せて、AYAMAは、くまはちに任せるように」
「くまはちの具合は?」
「くまはちは、無事なんですよ」
「えっ? じゃぁ、まさか…」
「竜見が、くまはちをかばったそうです。その竜見も軽傷ですから、
 心配なさらないようにとのことですよ」
「よかったぁ〜。じゃぁまさちぃん、明日、よろしくね…」

真子は、ゆっくりと布団に潜り、眠りに就いた。

「むかいんの奴、深く眠るようにしたな?」
「そのようですね。…で、くまはち、大丈夫なんですか?」
「あぁ。嘘じゃない。…明日、頼んだぞ」
「かしこまりました。ぺんこうが帰ってくるまでに、戻ります」
「そうしてくれよ。あいつにすねられるのは、御免や」

まさちんは、真北の言葉に微笑んでいた。そして、二人は、静かに真子の部屋を出ていく。

ドカッ…。

廊下で妙な音が…。
まさちんが、廊下で、腹部を抑えて座り込んでいた。
真北がすぅっと自分の部屋に入っていった。

だから、なんで……。

まさちんは項垂れた。




明け方の4時。
真子の自宅・リビングに灯りが付いていた。
橋総合病院から帰ってきたくまはちが、まだ起きていた真北に、報告をし終わった所だった。
くまはちの右手には、包帯が巻かれていた。

「それにしても、軽いものでよかったよ」

真北が、ため息混じりに言った。

「ご心配をお掛けしました」
「俺より、真子ちゃんな」
「すみません…まさか、あの時に組長が側に居られたとは…」
「お前のことで、言い合ってしまったよ」
「後ほど、話しておきます」
「言わんでええ。もう、知ってる」
「はぁ…。その…体調の方は?」
「むかいんの特製が効いてるから、朝には、けろっとしてるはずだよ。
 しかし、まさか、熱が出ていたとはなぁ〜。気ぃつかんかった。
 久しぶりに、突っかかってくるもんだから、可笑しいとは思ったけど、
 俺との一線からのことだと勘違いしていたよ」
「可笑しいですね。無茶はしておられないはずですが…」

くまはちは、右手をさする。

「痛むのか?」
「かゆくて…」
「…あんましかくなよ」
「はい」

くまはちは、手を離す。

「知恵熱だろうな」
「何かお考えなのでしょうか…」
「…まさちんの事やろな。…鷹地一家が絡んで…」
「そうですね」

沈黙が続く。

「寝なくて大丈夫か?」
「仮眠程度で大丈夫です。真北さんこそ、お疲れでは?」
「ん? 休暇や。だから、これ以上は疲れないよ。それよりも、
 お前は、真子ちゃんの代わりにAYAMAの方を頼むぞ。
 真子ちゃんも、今日は一日家に居るからな」
「では、お二人ですね。…ぺんこうが戻る前に、帰宅します」
「あのなぁ〜。お前まで、まさちんと同じこと言うな!」

真北は、拳を振り上げた。




くまはちは、ゆっくりと二階へ上がってきた。足音を立てないように廊下を歩き、自分の部屋のドアを開けようと手を伸ばした。

「くまはち」

くまはちは呼び止められ、いきなり襟首を掴まれ、向かいの部屋=真子の部屋へ連れ込まれてしまった。

「く、く、く、くく…組長、いきなり、なんですか! 怒られますよ!」
「ええの。話あるんやから」

真子は、ドアを閉め、ドアとは反対側の窓際まで、くまはちを引っ張っていった。

「いや、だから、その…組長」
「内緒事なの」
「まさちんのことですか?」

真子は、静かに頷く。

「すでに知ってると思うけど、鷹地一家の事…」
「組長に言わずに行動してしまい…申し訳ございませんでした」
「怪我は、軽いって聞いたから、安心した。…次にこんなことしたら
 ほんとに怒るからね。…真北さんにではなく、くまはちに」

真子のふくれっ面を見たくまはちは、恐縮そうにする。

「そのことはおしまい。それでね、鷹地一家の高山親分の右腕と
 呼ばれている地島さんのこと」
「地島…?」
「あの……地島さん……」
「…まさか、あの男が? 顔が違ってますよ。あの地島は、
 もっと恐ろしい表情をしてます。人の命を何とも思っていない
 …途轍もなく…恐ろしい…」
「うん。覚えてるよ」

真子は、一瞬震えた。くまはちが、気付く。

「組長」
「大丈夫。…嫌な予感がするの…。高山さん、襲われたんでしょ?」
「えぇ。以前、何度か襲ってきた連中と同じ輩です」
「それなら、まだ、諦めてないよね」
「恐らく…」

真子は、既に結論を出している様子。もちろん、くまはちは、察していた。

「明日は、一日ゆっくりしとかないと、熱がぶり返すから、
 くまはち、三日後、広島に向かうよ」
「組長、それは、私一人で…」
「…まさちんに知られたくない。だから、えいぞうを連れていく。
 くまはちは、AYAMAの仕事をしてて欲しい。そして、私が
 AYAMAに居るように見せかけといて。まさちんが知ると、
 それこそ、大変だと思うから…」
「…騙すことできますでしょうか…」
「大丈夫。組関係の方で、他に見向き出来ないようにしとくから」
「わかりました。えいぞうに連絡しておきます」

真子は、目を瞑り静かに言う。

「それまでに、敵が動かなければいいんだけど…」
「抑えておきます」
「うん。絶対、まさちんに知られては駄目だよ。まさちんのことだから、
 まさちんのお父さんの事件の時みたいに、私に黙って、一人で
 何かをするかもしれへんし…」
「だからといって、組長が、まさちんに内緒で行動を起こしたと
 解ったら、まさちん、怒りますよ」
「……そんなこと、させへん」

真子の目は『親』の目だった。くまはちは、その目を見て、納得する。

「決して、無茶はしないでください。…御願いします」

くまはちは、深々と頭を下げる。

「大丈夫!」

真子は、サムズアップをする。

「心配なのは、えいぞうさんかなぁ。…走らないように念を押しておこうっと」

真子は、くまはちに微笑んでいた。

「もう少しお休みください」

くまはちの言葉は優しかった。

「そだね。…真北さんからも聞いてると思うけど、AYAMAの方、
 よろしくね。…試作品の手直ししていたんだ。リビングに
 置きっぱなしになってると思う。残り1ステージだから。
 それを明日の会議で駿河さんに報告してね」
「はい」

真子はベッドに腰を掛け、布団に潜る。そして、くまはちを手招きし、耳元で呟いた。

「恐らく、そこで聞き耳立ててると思うから、誤魔化しててね」
「解っております。それでは、お休みなさいませ」
「お休み」

くまはちは、真子が寝入るのを確認した後、部屋を出ていった。
案の定、まさちんが、廊下で二人の会話に聞き耳を立てていた。くまはちを見るやいなや、眼差しが変わる。

「何を話してたんや?」
「組長に内緒で行動したことを報告」
「それにしては、組長に引きずられたみたいやったなぁ」
「…これだけは、お前に言えないな」
「お前…まさか…」
「組長命令には、逆らえない。…抱けと言われたらなぁ〜」

『抱けと〜』の部分だけ、まさちんの耳元で意地悪そうに言うくまはち。そして、リビングへと降りていった。
まさちんの両腕が、わなわなと震えている。唇の血の気が引くほど、噛みしめている。
いきなり、項垂れてしまった。

「…無理だよ…俺には……」

そう呟いて、部屋へ戻っていくまさちん。そのまま、布団にすっぽりと潜り、体を丸くした。



「ちょっとやりすぎ…かな」

くまはちは、そう言いながら、真子に言われたAYAMAのゲームの手直しを始めた。
その表情は、凄く楽しそうだった。




それから、三日後。
まさちんは、AYビルの事務所で、眉間にしわを寄せ、少しふくれっ面になりながら、組関係の仕事をこなしていた。デスクの横には、ファイルの山、山、山!!!
真子から言われた分の資料を集めたら、こうなってしまった様子。
これは、2、3日…いや、それ以上は、かかりそうな予感…。

「組長の…意地悪…」

ブツブツ言いながらも、仕事をしているまさちんだった。


一方、くまはちは、AYAMA社の社長室にある真子のデスクに座り、仕事をしている『フリ』をしていた。まさちんが、何時来ても、誤魔化せるように、準備万端。電話を眺めながら、今か今かと待ち遠しそうな表情をしていた。

そして、真子は……。


えいぞうと共に、新幹線から広島駅へ降りてきた。

「市内の繁華街です」
「…今からは、ちょっと早いかなぁ」
「そうですね。店は全部閉まっているでしょう。夜まで時間を
 つぶしますか?」
「どこで?」
「広島見学」
「…初めてだから、そうしよう。案内してや」
「事細かく致しましょうか?」

えいぞうは、案内人の真似をして、真子を誘導した。
真子は、楽しそうに微笑みながら、えいぞうと改札を出ていった。



真子とえいぞうは、広島市内の有名どころをあちこち見学し廻っていた。えいぞうは、現地案内人のような感じで、真子に説明していく。

「広島と言えば、もみじまんじゅうです。今は、色んな味が
 ありますよ」

店の前にやって来る二人。真子は、ショーウィンドウに並ぶまんじゅうをじっくりと眺めていた。色んな味があるので、どれがいいか、悩んでいる様子。

「ねぇちゃん。全部食べてみたいんやったら、全部入ってるやつ
 あるで。どうや?」

店員が、真子に勧める。

「ほな、そうする。えいぞうさん、いい?」
「はい。おねぇさん、それ、2箱御願いします」
「ありがと。じゃぁ、これおまけしたる」

店員が、2箱を袋に詰め、別に4つまんじゅうを入れる。

「いただきます!」

真子は、笑顔でそう言って、袋を受け取った。




真子とえいぞうは、ベンチに座り、1箱開けた。
嬉しそうに覗き込む真子。そして、一つを手に取り、包みを開ける。
それを二つに割り、一つをえいぞうの口に放り込む。
残りの方を自分の口に入れ、もぐもぐと食べる。

「…えいぞうさん」
「はい」
「初めて食べるんだけど、こんな味なの?」
「えぇ。これは、抹茶味ですよ。普通味は、これです」

えいぞうは、普通味の包みを開け、真子の口に放り込む。
もぐもぐと食べる真子。そして、飲み込む。

「なるほどぉ〜。まんじゅうだ」
「まんじゅうですよ」
「……そっか。次は?」

二人は、目的を忘れている様子……。

空になった箱を袋に入れ、立ち上がる真子とえいぞう。
目的を思い出した様子。

「まだ、早いと思いますがそろそろ行きますか」

えいぞうが言う。

「手遅れになる前に、向かう方がいいって」
「くまはちの報告では、店の奥の更に奥の部屋でしょう?
 簡単に通してもらえるとは……」

えいぞうは、真子に話しながら、一点を見つめていた。
真子は、その目線につられるように、目をやった。
二人が見つめる先。そこには、柔道でもやっていたのかと思われるほど、ごつい体格の男と、その男よりも頭一つ高い男…いかにも同業者さんっぽい二人が立って、真子とえいぞうを睨んでいた。

「お迎えのようですが…」

えいぞうが、真子の耳元でこっそりと言う。
真子達を睨んでいた二人は、一歩踏み出し、真子達に近づいて来る。そして、目の前までやって来た。

「おい、女。…あんた、阿山真子じゃろ」

ごつい体格の男が、真子の腕をつかもうと手を差し出した。

ガッ!

「……何や、われ…自分から名乗るのが…筋ちゃうか?あ?」

男の手が真子に触れる寸前、えいぞうに阻止される。
えいぞうが醸し出す雰囲気…いつもと違っていた。
男を睨み付けるその眼差しこそ、この世界に長年生きている証拠…。真子は、ため息を付く。

「えいぞうさん。そこまでせんでも…」

真子は、そう言いながら、えいぞうの腕を軽く叩く。
えいぞうが掴む男の腕。かなりへこんでいる。男の表情は、少し苦痛で歪んでいる様子。真子が言わなければ、男の腕は、折れていたかもしれない。
えいぞうは、男から、手を離した。

「……って、えいぞうさん」
「はい?」

えいぞうの声が、裏返る。

「誰? 健のリストにないよ」
「ほんとですか?」
「うん…。ちょっと、最近、健の情報、おかしいよ。何かあるん?」
「いつもと変わりませんよ」
「やっぱし、健でも追いつかないほど、事態は悪い方へ…?」
「やはり、相手は、上を行くようですね」
「でも、これ以上、健に無茶して欲しくないしなぁ」
「大丈夫ですよ。その方が喜びますから」
「えいぞうさんが、そう言うなら、頼もうっと。…で?」

真子は、男達を指差す。

「私のリストにも存在しませんよ」
「じゃぁ、誰?」

真子は、笑顔で男達に振り返る。その表情に男達は戸惑っている様子。
ふと我に返る男達。

「ちょっと付き合わんか?」

男達は、懐に手を入れ、銃をちらつかせる。

「はふぅ〜。何がなんだか、さっぱりわからへん。
 私が、阿山真子って、どういうこと?」

背の高い方の男が、上着のポケットから、写真を取り出す。それには、本部の門をくぐる瞬間の真子が写っていた。

「えいぞうさん」
「強化させます」

二人の短い会話には、『本部の周りの警戒』の意味が隠されていた。
以前よりも、警戒を緩めている阿山組本部の周辺。
それには、ご近所へ迷惑を掛けないように…真子の意志が強く働いていた。

「…でも、これは、お一人で出掛けるのが悪いかと…」
「ええやんかぁ」
「強化させるよりも、お一人での外出はお控え下さい」
「やだよぉ」

真子は、ふくれっ面。

「あのなぁ…。付き合わんかと訊いとる。どないや?」

ごつい体格の男が、こめかみをぴくぴくさせながら、真子を睨み付けた。

「お付き合いなんて、言われてもなぁ。私には、すでに!」

真子は、えいぞうと腕を組み、寄り添う。

「ふざけるな!」

ごつい体格の男の怒りが頂点に達したのか、懐から銃を出し、真子に向けた。
そこまで危険が及んでも、真子とえいぞうの雰囲気は、全く変わらず、『一般市民』だった。
引き金に指がかかる…。

「…てめぇら、何しとんじゃ」

その声に振り返る四人。そこには、鷹地一家の地島と弟分が、恐ろしいまでの雰囲気を醸し出して、こちらを睨んでいた…。

「ええ加減にさらせよ。わしらの庭で勝手なことばかりしよって。
 なめとんか?」

地島の醸し出す雰囲気に恐れたのか、ごつい体格の男は、銃を懐になおし、そして、背の高い男と去っていった。

「…この人は、知ってるよ」

真子は、えいぞうに言った。

「私のリストにもございます。…鷹地一家の地島…」

えいぞうは、真子に微笑む。

「お初にお目にかかります。鷹地一家の地島と申します。
 こいつは、私の弟分、土川(つちかわ)です」

弟分・土川は、深々と頭を下げる。

「阿山組五代目が、こちらにおられると連絡が入りましたので
 お迎えに参りました」
「…なんで、ばれてるん?」
「この辺り一帯は、我々の庭。それに、そちらの方は、かなり
 有名ですからね。小島栄三さん」

その言葉に、真子は、えいぞうをにらみつける。

「ったく〜。私よりも、顔が広いのはいいけど、こっそりと
 動けないやんかぁ〜。くまはちも顔が知れ渡ってるし…」

真子は、呆れたように頭をかく。
その表情が、一変する…五代目を醸し出した。

「高山さんが、怪我をなさったとお聞きしまして…。もし、時間が
 ございましたら、お逢いしたいのですが、よろしいですか?」
「えぇ。ご案内致します」

地島は、丁寧に、真子とえいぞうを案内し、二人を近くに停めていた車に乗せ、そして、繁華街へ向かって行った。
車の中で、真子は、助手席に座る地島に尋ねる。

「先程の二人は?」
「親分が襲われた次の日に、この街に現れた得体の知れない輩です。
 しかし、我々には、一目置いている様子なので、あのように
 すぐに手を引きましたよ」
「すごいね。やっぱり、広島は、鷹地一家だね」

…組長、うちっとこもすごいんですが…。

えいぞうは、敢えて口にしなかった。

「阿山組ほどではありませんよ」
「…そう言われても…嬉しくありませんよ」

地島は、ルームミラーで、後部座席の真子をちらりと見る。窓の外を流れる街の様子を眺めているのか、楽しそうな表情をしていた。隣に座るえいぞうに、窓の外の何かを尋ねている。えいぞうは、優しくそれに応えた。

真子の笑顔が輝いていた。

「観光でしたら、ご案内致しますよ」
「ありがとうございます。でも、今は…ね」

真子は、ルームミラー越しに、地島に微笑む。地島は慌てて目を反らした。




車は、スナック・イーグルの前に停まった。既に店は開いていた。

「いらっしゃいませ」

ミキが元気に客を迎えた。その客が、地島だと解った途端、一礼し、奥の部屋へ通じるカーテンを素早く開け、そこに居る用心棒の男に一言告げる。地島の後ろには、真子とえいぞうが、並んで歩いていた。その後ろを土川が、客の様子を見渡しながら付いていく。

「10分で、店を閉めろ。今日は、臨時休業にしておけ。そして、
 すぐに、ここから、去れ」

地島は、ミキにそっと告げる。

「わかりました」

ミキは、すぐに行動に移る。まだ、客は、3人しか居ないので、優しく語りかけながら、客を店の外に追い出していた。
客が、全て出ていったのを確認した用心棒の男は、静かにカーテンを開け、四人を招き入れた。




奥の部屋。
ドアをノックする地島は静かに口を開く。

「失礼します。お連れしました」
『入れ』

その声と同時に、地島は真子とえいぞうを部屋へ招き入れた。

「失礼します。おかげんはいかがですか?」

真子は、ソファに腰を掛けている高山に挨拶をする。

「わざわざ、こんなむさ苦しい所へ足を運んで下さり、
 ありがとうございます。この通り、起き上がるまで
 回復しました。これも、先日頂いた、猪熊さんの薬の
 おかげですよ」
「あまり、表沙汰にしないでいただきたい。極秘ですから」
「わかっておりますよ。どうでした? 広島観光は」

高山は、真子をソファに座るように促す。真子は、それに応えるように高山の前に座った。そっとお茶が差し出された。

「もみじまんじゅう、おいしいですね。色々な味があって」
「あれ?観光なさってると情報が入ったんだが…違いましたか?」
「あっ、はぁ…まぁ…」

真子は、ぽりぽりと頭をかく。その仕草に真子が何かを調べていたということを察した高山は、地島に目線を移し、笑顔で言った。

「明日、案内さしあげるように」
「かしこまりました」
「車の中でもお断りしたのですが、今は、その…」
「大丈夫ですよ。今のところは」
「ありがとうございます。…それと、先日は、猪熊が、無礼を
 働いたようで…。申し訳ありませんでした」

真子は、深々と頭を下げた。

「無礼は、私の方ですよ。猪熊さんが、勘違いするような
 状況に陥っていたんですからね。それよりも、お礼を…。
 猪熊さんが、居なければ、今頃、私どもは……」

話の途中、真子と高山は、何かの気配を感じ、気を集中させる。それは、えいぞう、地島、そして、弟分の土川、高山の側に居た二人の男もそうだった。

「…地島、組長を頼む」

えいぞうは、地島にそっと告げ、戦闘態勢に入った。

「えいぞう!」

すでに、えいぞうの耳には、真子の声が届いていない様子。真子達が居る部屋に向かって、たくさんの足音が聞こえていた。カーテンの所に居る用心棒は、既にやられた様子。

「阿山さん、こちらに」

地島が、守るように真子の前に立った。
真子は地島の腕を掴み、前に出る。

「私は、大丈夫。自分のことは、自分で守れるから。それよりも、
 高山さんの体では、まだ、無理だ。あんたは、あんたの親分を守りな!」

真子が、言う。その言葉に、フッと笑う地島。

「あの時と、変わらないんだな」
「何が?」
「どんな危険な状況が迫っても、相手のことしか考えない…。
 政樹が、あんたに命を張るのも解る気がするよ」
「…今は、そんな思い出話を語る程、余裕はないよ!!…で、この部屋は、
 行き止まりなんか?」
「神棚の下に、抜け道がある」
「…あほぉ、それを早く言わんかい!! 行くよ!」

真子は、地島を押すように神棚の下へ歩み寄る。
地島は、真子を守るように、そして、土川と二人の男は、高山を支えながら神棚の下へ。
土川が、隠し扉を開ける。そこには、通路があった。土川が先に入り、そして、高山、二人の男が、扉の向こうに消えた。

「えいぞう、行くよ」

えいぞうは、時間稼ぎの細工をドアにしていた。真子は、地島に守られるような感じで、扉をくぐる。そして、えいぞう、地島と扉をくぐり、ドアを閉めた。
神棚の下は、壁に戻った。
その瞬間、部屋のドアが、揺れた。
敵と思われる男達が、ドアに体当たりをしていた。
ドアが開いた途端、部屋中が煙に包まれた。
いきなりの状態に、敵の男達は、驚くが、怯む様子は見せなかった。煙が納まりつつある中、男達は、何かを話ながら、壁を叩いていった。そして、神棚の下の壁が、違った音を立てたことで、そこに隠し通路があることを察する。

ガッ! ドカッ!! バラバラバラ…。

先程、真子に声を掛けてきた体格のごつい男が、壁を蹴破った。穴が開いた壁を更に壊し、通路を発見した男は、体を入れた。

「こっちだ」

男の声と同時に、ごつい体格の男と一緒にいた背の高い男の他、7人の男が、次々と穴をくぐって、真子達が逃げたであろうと思われる方向へ走っていった。





繁華街から少し離れた人気のない静かな所。
ビル建設中の土地が広がっている場所に出てきた真子達は、歩みを停めた。
高山の息が少し上がっていることに気付く。

「高山さん、これ以上は動かない方がいい」

真子が、高山に声を掛ける。

「それよりも、あんたたちは、ここから去った方がいい。
 あいつらの狙いは、私だけだから」
「あんたを置いて、逃げるなんて出来ない。…あんたを守るために
 私は、ここまで、来たんだからな」

真子の本音だった。

「なぜ、私にそこまで…。それに、あんたが、私を守る必要は…」

真子は、高山に振り返った。その眼差しは、哀しみに包まれていた。

「まさか…」
「来ました」

高山の言葉を遮るように、えいぞうが、呟く。
その声に一斉に振り返る真子達。
そこには、九人の敵の男が、それぞれ銃を構えながら、ゆっくりと歩いてくる姿があった…。



(2006.7.3 第四部 第五十五話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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