任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第四部 『新たな世界』

第五十六話 男・小島栄三、本領発揮!?

AYビル・まさちんの事務室。
まさちんは、たっぷりと与えられた仕事を全て終えた様子。
大きく息を吐きながら、受話器に手を伸ばした。そして、掛ける相手は…。

『もしもし』
「くまはち、組長は? 与えられた分、全て終えたよ。そろそろ
 退社時間だろ。夕飯は、むかいんのところかな?」
『悪い。先にここで、済ませたよ。組長、謝ってる』
「そうか。ほな、迎えに行くで」
『今夜は徹夜になるみたいだ』
「あほ。無理させないでくれよ。病み上がりだろうが!」
『…って、言われること解ってるから、組長、元気に
 体操を始めた…。…駄目ですよ、組長!!』

電話の声が遠くなった。
どうやら、くまはちが、真子を制止している様子。
まさちんは、二人の姿を想像したのか、微笑んでいた。

『先に帰れって』
「……わかったよぉ。徹夜ってことは、事務所に泊まりか?」
『そうなるかなぁ』
「ほな、仮眠室の用意してから、先に帰るよ」
『よろしく』

まさちんは、電話を切った。

「ったく、仕事好きなんだからぁ」

そう言って、まさちんは、真子の事務室に足を運び、仮眠室の用意を始めた。
用意を終え、仮眠室から出てきたまさちんは、ふと、真子のデスクに目をやった。
デスクの上に置いてある電話メモに目が停まる。
そっと手を伸ばし、それを手に取ったまさちんの表情が一変した。

「まさか、組長…」

まさちんは、メモをそっとポケットに入れ、真子の事務室を出ていった。



まさちんは、地下駐車場へ降りず、一階の玄関から、外へ走って出ていった。
向かう先は…駅。
真子の企みに気が付いたのか…?

「!!!! …なんだよ、お前ら」

まさちんは、切符売り場の前で、数人の男達に囲まれた。それは、水木組組員達。

「どちらへ?」

静かに尋ねるのは、西田だった。

「……デートだよ」

まさちんは、切符を買おうと札を出しながら、呟くように応えた。

「その…まさちんさんに、おりいって、お話があるんですが…」
「悪い。今は無理だ。行かなければならない所がある」
「その…今すぐに御願いしたいんですが…駄目ですか?」
「駄目だ」
「…兄貴のことで相談なんですが…」
「水木さんのことで?」

まさちんは、財布をポケットになおし、西田達に振り返る。
真剣な眼差しで、まさちんを見つめる西田達。そして、まさちんたちは、場所を移した。




広島・ビル建設中の土地。
五人の男、一人の女といい加減そうな男一人、そして、銃を前に差し出しながら歩いている九人の男。
静かな場所は、緊迫な雰囲気に包み込まれていた。

「いきなり、あれは、ないやんなぁ」

一人の女が、呟いた。

「まぁ、避けるのは簡単ですが、その後が問題ですよ」

いい加減そうな男が言う。

「高山さん、もう少し動けますか?」
「まだ、大丈夫だ」

五人の男の中の一人=高山が、言う。その高山を囲むように居るのは、高山の右腕である地島、その弟分の土川、そして、二人の男だった。

「ほな、一斉に、散るよ! …せーの!」

一人の女=真子のかけ声と共に、高山と地島、土川、そして、真子は、右側に、二人の男といい加減そうな男=えいぞうは、左側の鉄骨の影に隠れた。
九人の男は、真子達の突然の行動に戸惑い、右往左往する。
真子達が、立っていた場所までやって来た男達は、ごつい体格の男を中心に、三人が、真子が身を隠した場所へ、背の高い男と四人は、えいぞうが身を隠した場所へ走り出す。



「高山さんは、ここに」

真子は、高山に声を掛け、立ち上がる。
しかし、その真子の進路を遮るように立ちはだかったのは、地島だった。

「あいつらは、俺に任せておけ。土川、親分と阿山さんを
 頼むぞ。…何があっても、これ以上、傷つけるなよ」
「はっ」

建物の壁を後ろに、高山と真子の前に立つ土川。

「四人居る。一人では、無茶だ。一人は、あのごっつい男だよ」
「…フッ…まぁ、見てな」

そう言って、地島は、去っていった。鉄骨の隙間から、地島の後ろ姿が見えた。
その地島の向こうから、ごつい体格の男を先頭に三人の男が、銃を片手に駆け寄ってくる。
地島の姿を見た途端、歩みを停め、戦闘態勢に入る男達。
それに応えるかのように、地島も戦闘態勢に入った。

一人の男が、銃を放った。
地島は、銃弾を簡単に避け、男達に迫っていった。



ドサッ!

えいぞうの回し蹴りが、男の後頭部に決まり、男は、前のめりに倒れた。
そのえいぞうは、別の場所に目をやる。
鷹地一家の組員二人が、敵の男をそれぞれ、倒した所だった。そして、次の敵に目標を移した。
残った敵は、背の高い男とそれと同じくらいの体格の男だった。
どちらも簡単には、倒せそうにない雰囲気。
敵の男は、銃口を向けてくる。えいぞうは、足下に倒れる男の側に銃が落ちていることに気が付いた。
銃弾が放たれる瞬間、横に転がるように銃弾を避け、落ちていた銃を手に取り、素早く、銃弾を放った男に向けて引き金を引いた。
えいぞうの放った銃弾は、男の銃を持つ腕に当たった。
立ち上がったえいぞうは、背の高い男に銃を向けていた。
銃を向け合う二人の周りの時は、まるで時が止まったかように静まり返っていた。



地島の蹴りが、二人の男に炸裂。
身構えることもなく、二人の男は、その場に崩れ落ちた。
その瞬間、地島は、更にもう一人の男の足を払う。倒れる男にひじ鉄を食らわすが、男は、素早く避け、立ち上がる。
地島の回し蹴りが、立ち上がる男に向けられる。
男は、蹴り放った地島の足を受け止めた。しかし、地島の攻撃は、休むことなく、地面に付いた足で、男の腹部に蹴りを入れた。
両足が地面を離れた地島は、背中で着地する。そして、はねるように起き上がった。蹴りを入れられた男は、壁に背中からぶつかり、その場に崩れ落ちた。

「すご…」

身を隠している真子が呟いた。

「あんたとこの地島ほどではないさ」

高山が、フッと笑う。その表情が変わり、真剣な眼差しで真子に尋ねた。

「…なんで、私を助けに来た?」
「失いたくない…。これ以上、知っている者を哀しませたくもないから」
「それは、あんたとこの地島の為か?」
「…私が来なければ、まさちんが来ていたはずだ。そして、無茶をする。
 そして、恐らく……!!!!!」

真子は、異様な雰囲気を察知し、振り返った。
そこには、高山を狙ってきた九人の男とは別の敵…黒服に帽子をかぶっている男達が三人立って、不気味な笑みを浮かべて、真子達を見つめていた。
真子の頬を一筋の汗が伝う…。

やばいかな…。



銃声が鳴り響く。

「はぁ?!???」

えいぞうと銃を向け合っていた背の高い男が、体中から血を吹き出して、その場に崩れ落ちた。
その様子を見ていた鷹地一家の組員も驚きを隠せない。
三人は、辺りの気配を探る。

「…水木ぃ〜。ええかげんにせぇよ」

見覚えのある気に、えいぞうは、呆れたように声を挙げる。
あちこちの鉄骨の影から、水木を始め、水木組組員が四人、懐に銃をなおしながら出てきた。

「なんで、ここにおるんや?」
「ガードやないか」
「あのなぁ。それは、俺の仕事や」
「まさちんを阻止してやったのになぁ」
「ビルちゃうんか?」
「駅に向かってたで。西田が阻止しとる」
「それは、おいといて…」

えいぞうは、物を横に置く仕草をする。

「どういうことや?」
「ガードや言うとるやろ」
「お前は、組長の前に…」
「出てへんやろ?」
「はぁ、まぁ、そうやけど……!!!!!」

えいぞうは、真子が居るだろう方向に素早く振り返った。

「話は後や」

そう言って、えいぞうは、走り出した。



「土川さん!!」

真子と高山を守るように立っている土川。その左腕からは、血を流していた。
じりじりと迫ってくる三人の男。
目深にかぶる帽子の横から、ちらりと見える髪の毛は金髪だった。

「外人?」

真子が、そう思った時だった。

「ぐわっ!」

地島の声が、響き渡った。
真子は、鉄骨の隙間から、地島の様子を伺った。
地島は、真子達の様子に気を取られた瞬間、背の高い男から、強烈な拳を腹部に受け、柱に飛ばされ、背中を強打し、床に倒れてしまった。
顔をゆがめながら、立ち上がろうとする地島の側頭部に蹴りを入れる男。
地島は、真横に飛んでいき、そのまま、気を失ってしまった。

「地島さん……。……えいぞぉぉぉーーーう!!!!!!」

真子の叫び声が、ビル内に響き渡る。
その声に引き寄せられたように、えいぞうが、駆けつけ、背の高い男を二発の蹴りで、倒し、倒れる地島に駆け寄った。

「大丈夫か?」

気が付く地島は、蹴られた箇所に手を当てながら、えいぞうを見る。

「俺は、まだまだだな…。それよりも、あっちが…」

地島が顎を差す所。そこには、真子達以外の気配がする。
えいぞうは、立ち上がり、その方向を見つめた。

「新たな敵か?」
「狙いは、阿山真子だ」
「なにぃ〜?」

えいぞうの雰囲気が変わる…殺る気だ…。
その雰囲気がひしひしと伝わってきた真子は、更に叫ぶ。

「来るな、えいぞう。地島さんを頼む」
「無茶言わないでください。そいつらは、組長を狙ってます」
「…なんで、外人なんだよ!」
「知りませんよ」
「ほな、私が、やる!」
「そいつらは、私の獲物です」

えいぞうが、三人の男達の後ろに立った。男達は、一斉に振り返る。
そのスキを真子は見逃さなかった。
素早く土川の横から、飛び出し、二人の男の足を同時に払う。
突然の出来事に、残された一人の男が、えいぞうに背を向けた。
えいぞうが、そのスキを見逃すわけがない。

ガツッ!

「なんで、そんなもん、持ってるんよぉ!!!」
「あっ…その、あいつらの物ですよ」

えいぞうは、手に持っていた銃で、男の頭を殴り倒していた。
真子の言葉に焦りながらも、横たわる一人の男に銃口を向けながら、もう一人の男の腹部を踏みつけるえいぞう。真子は、呆れた仕草をしながら、振り返り、土川の腕にハンカチを巻いて、止血をした。
そこへ、地島が、頭を抑えながら、やって来た。

「無事か?」

地島が言った。

「あんたは、無事じゃなさそうやなぁ」
「これくらい、軽いさ」

地島はそう言いながら、倒れる男の懐から、何かを取りだした。
それは、パイナップルの形をした手榴弾だった。
それを見たえいぞうは、踏みつける男の懐に手を入れ、丸い物を取りだした。そして、銃を向ける男に、目で合図する。
男は、ゆっくりと懐から、手榴弾を出し、えいぞうに手渡した。

「今度こそ、正体を打ち明けてもらわな…なぁ」

えいぞうの言葉も虚しく、銃を向けられた男は、横たわる二人の男に素早く銃を向け、頭を撃ち、そして、すぐに自滅した…。

「くそっ!」

えいぞうは、何かに気が付き、真子に目線を移した。
えいぞうは、胸をなで下ろす。
男達が撃ち殺される瞬間を、目の当たりにしてしまったのでは…?と思ったえいぞうだったが、真子の目は、高山によって塞がれていた。

「…何が起こったのか、解るよ。…大丈夫だから」
「それでも、この場を去りますよ」

えいぞうは、高山から、真子の目を塞ぐ役目を代わり、真子を抱きかかえて、その場を去っていった。



真子達が去った後、建設現場に駆けつけたのは、真北が手配した刑事達だった。
真子達は、建設現場から少し離れた所にある鷹地一家が懇意にしているホテルへと入っていった。
ホテルの最上階にある部屋に案内され、二部屋に分かれて入っていった真子達。高山が入った部屋では、駆けつけた医者によって、地島と土川の手当てが行われ、そして、高山の手当てをしなおしていた。もう一つの部屋では、真子が、頭から冷たいシャワーを浴びていた。
えいぞうが、バスルームへ入ってくる。

「組長、着替えはこちらに置いてます」
『ありがとう』

カーテンの向こうから真子の声が聞こえてきた。
えいぞうは、真子の着替えを置いて、バスルームから出ていった。
暫くして、シャワーの音が止まり、カーテンが開いた。



真子が、バスルームから出てきた。そして、ソファに腰を掛ける。絶妙なタイミングでえいぞうが、真子に温かい飲み物を差し出した。

「ココアです」
「…ありがとう」

飲み物を受け取ろうと差し出された真子の手は震えていた。
えいぞうは、コップを横に置き、真子をしっかりと抱きしめる。

「震えてますよ」
「…うん…ごめん…」

真子は、えいぞうに抱きつき、胸に顔を埋めた。
暫くして、真子の震えが止まる。えいぞうは、そっと真子から手を離した。

「こうなるから、やめるようにと申したんですよ」
「あの三人は、予想外だったんだもん…」
「でも、これで、はっきりしましたね。例の組織が、組長を
 狙っているということが…」

えいぞうは、真子にコップを手渡す。真子は、ゆっくりとココアを飲み始めた。

「何が目的かな…。阿山組って、そんなに有名?」
「日本の極道で知らない者はいないでしょう。そうなれば、
 海外でも、言わずと知れ渡るでしょうね」
「阿山組は知れ渡るとして、私のことも?」
「10年以上になりますよ、五代目を襲名してから…。
 そのうち、5年くらいは、周りに知られないように
 振る舞っておりましたが、今では、知れ渡ってますよ」

真子は、ココアを飲み干す。体が火照ったのか、頬を赤らめていた。
えいぞうは、真子の額に手を当てる。

「熱、ぶり返さなければいいんですが…」
「高山さんの具合は?」
「医者が来られたようで、そろそろ診察も手当ても終わった頃だと
 思います。今夜はどうされますか?」
「帰るよ。その前に、高山さんの様子を…」

真子は、そう言って立ち上がるが、膝はまだ、震えていた。えいぞうが、真子を支える。

「…ありがとう。……大丈夫だから」

真子は、気を集中させ、五代目の雰囲気を醸し出した。その雰囲気を察して、えいぞうは、真子から手を離す。そして、二人は、向かいの部屋へ入っていった。



高山は、ベッドに潜り、真子に顔を向けていた。

「無事で良かった」

高山が真子を見て、呟く。

「それは、こちらの台詞ですよ。…土川さんの具合は?」
「軽いものでした」

真子とは反対側のベッドの向こうに立っている地島が言った。そう言う地島は、頭に包帯を巻いていた。

「地島さんは、寝てなくて大丈夫ですか? 頭を打った時は、
 安静にしていないと…」
「医者に許可もらってますから」

地島は、優しく微笑んだ。
その微笑みに真子は、安心する。

「すごかったですね、地島さんの蹴り」
「それ程でもありませんよ。あいつに比べたら、まだまだです」
「…まさちんに…うちの…地島に似た蹴りですね」

真子の言葉に、地島は、思い出したように笑みを浮かべた。

「政樹に習ったものですよ。猪熊さんにも言いましたが、私は、
 武道より、頭脳で勝負してきた男です。なので、格闘の方は、
 これといって、得意じゃなかった。それを政樹が教えてくれた。
 …私は、素手より、武器を使ってましたからね。弾が切れた時を
 考えて、政樹が教えてくれたんですよ」
「そうなんだ…。そりゃぁ、似てるはずだね、えいぞうさん」
「はぁ。まぁ…」

えいぞうは、不思議そうな表情をして、真子と地島の会話を聞いていた。

「…それにしても、あの時と比べたら、あんたは、強くなったな」

地島の言う『あの時』。
それは、真子をおとりにして、阿山慶造を亡き者にしようとした時のこと。
真子に向けた銃口。
そこから、放たれた銃弾は、真子を守るように飛び出したまさちんに当たった…。

地島は、その時を思い出したのか、目を瞑る。
真子も同じように目を瞑り、

「あの頃と…変わりませんよ。私は弱い人間です。だから、こうして
 命の大切さを訴えてるんですから」

そう言った。
地島は目を開け、真子を観る。
真子も目を開けていた。
真子の微笑みは、とても柔らかく、そして、なぜか、力強く感じられた。
高山が、真子に手を差し伸べる。

「本当に、無茶しないようにな」

真子は、高山の手に自分の手を重ね、そして、真子独特の笑顔で言った。

「ありがとうございます。高山さんも、先を急がないでください」
「あぁ」

高山の目から、一筋の涙がこぼれていた。
暖かな雰囲気に包まれる部屋。

「今日は、ここでゆっくりなさってください。お疲れでしょう。
 そして、明日は、こいつに、観光案内させましょう」
「地島さんの方がゆっくりしないと…」
「こいつは、頑丈ですから。明日には、けろっとしてますよ。
 小島さんもご一緒にどうぞ」
「私よりも、詳しく案内してもらいましょう。ね、組長」
「…一件落着なんだね」

真子は、えいぞうに振り返る。

「えぇ。あとは、高山さんの問題ですからね。我々が関与することは
 ありませんよ」
「…じゃぁ、連絡しないと」
「その辺りは、くまはちが、ちゃんとしてますよ」
「…二人で示し合わせたやろ?」

真子は、ギロリとえいぞうを睨む。えいぞうは、慌てて目を反らした。
そんな二人のおかしな雰囲気に、和む高山たちだった。



夜…。
真子は、くまはちに連絡を入れる。

『AYAMAの仕事を徹夜していることになってますから』
「くまはち、無茶したらあかんよ」
『駿河さんも協力してくださってるので、裏は大丈夫ですから』
「ほな。明日の夕方ね」
『かしこまりました。楽しんで下さいね』
「うん。お土産は、もみじまんじゅうね。AYAMAに向かうから」

そう言って、真子は、嬉しそうに微笑み、携帯電話の電源を切り、えいぞうに渡す。

「組長、本当によろしいんですか?」
「ええやん。ベッドは、二つやし。…で、襲うつもりなん?」
「滅相もございません。…しかし、真北さんにばれたら…」
「ばれないって。わからんやろて。ほな、明日、早いから、
 寝るよぉ。お休みぃ〜」

真子は、布団に潜った。

「お休みなさいませ」

えいぞうは、部屋の電気を切り、窓際にある電気スタンドのスイッチに切り替えた。
真子の寝息が部屋に聞こえてきた。
困った表情をするえいぞう。
静かに部屋を出て、携帯電話のスイッチを入れた。

「私です。その…ご相談が…」

消え入るような声で、相手に言うえいぞう。

『……問題発生か?』

相手が静かに応えてきた。
えいぞうが電話を掛けた相手こそ、真北。

『そっちでの行動は、連絡が入ってる。ちゃぁんと手配した
 連中が向かったはずだけどなぁ』
「えぇ。姿に気付いたので、素早く……」

えいぞうの声は、いつになく深刻。それに気付いた真北は、

『真子ちゃんに何か遭ったのか?』

そう尋ねてきた。
えいぞうは、次に発する言葉を考えた。
しかし、真北の怒りが見えたのか、言葉を選んで、口を開いた。

「実は…組長と同じ部屋で寝ることになり…」

そう言った途端、想像通りの事が…。

『こるぅぅらぁ、栄三っ。高山の言葉でも、断る……』
「…もちろん、断りましたよ。でも、組長は……」
『気にするな…だろ?』
「はい。その通りです」

真北のため息が聞こえた。

『…真子ちゃんは、大丈夫なんだな? 現場の状況から考えると
 真子ちゃんじゃなく、お前の行動だろう?』
「……はい…」

水木の姿を観たことは、敢えて口にしない。

『真子ちゃんには、怪我は無いな?』
「大丈夫です」
『同じ部屋で寝ることになって…栄三、手を…』
「…出すわけないでしょうが!!!ったく!」

真北の言葉を遮って、静かに怒鳴るえいぞう。

『解ってるって。…次は、ちゃぁんと部屋を取れよ』
「はい。申し訳ありません」
『帰りは、予定通りか?』
「はい。明日の夕方です。AYAMAに直接向かいます」
『その足で、報告せぇよ』
「はい。その後はくまはちに」
『解った。せいぜい、気ぃつけろよぉ』
「はい。失礼します」

電源を切るえいぞうは、目の前の人物を見つめる。それは、地島だった。

「いちいち許可がいるのか?」
「当たり前だろ。真北さんにとって、娘だからな。それに俺は、
 これでもボディーガードだ。本来なら、ここで、待機だよ」
「それを許さないのが、阿山真子か。この世界では、常識破りだな」
「それが、俺らの親分さ」

えいぞうは、素敵な笑みを向けた。

「他に部屋、取るか?」
「いいよ。組長に怒られる。ほな、お休み」

えいぞうは、部屋へ戻る。地島は、えいぞうが部屋に入ったのを見届けて、高山の泊まる部屋へ入っていった。



えいぞうは、布団を抱きかかえて眠る真子を見つめていた。

「21年目で、拝めるとはなぁ。一生無理だと思った姿だよ」

えいぞうは、真子に布団をかけ直し、そっと頭を撫でる。

「俺も男ですよ、組長。自重していただかないと…ほんとに
 襲いますよぉ〜」

えいぞうは、真子の耳元で呟いた。

ドカッ!

「?!???!!!」

真子の蹴りが、えいぞうの腹部に決まる。寝ていると思われた真子。起きていたのか??
真子は、寝息を立てて、嬉しそうな表情で眠っている。

「ったく、この悪戯っ子め!」

えいぞうは、真子の幼い頃を思い出しながら、微笑む。

「…素敵な女性ですよ…組長」

えいぞうは、しばらくの間、真子の寝姿を見つめていた。
そして、ゆっくりとバスルームへ向かっていく。
シャワーの水の音が、聞こえてきた。

「くそぉ〜。これも意地悪されてるのかなぁ〜。
 ……あかん…手ぇ出しそうや…。あかん…。あかんで…」

自分に言い聞かせながら、シャワーをお湯から水に切り替えるえいぞう。

シャワーの水の音は、かなり長い間、続いていた。

……俺……堪えられるかなぁ……。



(2006.7.4 第四部 第五十六話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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