任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第四部 『新たな世界』

第五十八話 真子、新たな遊びを覚える。

夜・真子の自宅。
お風呂場から、お湯に誰かが浸かる音が聞こえてきた。微かに歌声も聞こえてくる。
一階へ降りてきたぺんこうが、その声を耳にして、微笑みながら、キッチンへ入っていった。

「組長、ご機嫌だな」

ぺんこうは、明日の朝食の準備をしているむかいんに話しかける。

「いいことあったんだろな」

むかいんにも、お風呂場で唄う真子の声が聞こえていた様子。

「明日、早出か」

ぺんこうは、珈琲を煎れながら、むかいんの用意している料理をつまむ。

「腹減ってるんやったら、作るで」
「つまみたくなっただけや。減ってへん」
「いいことって、例の鷹地一家に居る地島のことか?」
「えいぞうの話では、人見知りすることなく、仲良く過ごしていた
 らしいぞ。えいぞう自身が驚いたってさ」
「そっちか」
「そっちって、ぺんこう、お前なぁ、えいぞうと同じ部屋で
 泊まったことを言ってたんか?」
「それは、えいぞうが、ゆっくり眠れなかったやろな」
「だろうなぁ。あぁ見えても、あいつも、組長一筋ぃ〜やからな」

むかいんは、準備を終え、後かたづけに入る。ぺんこうは、椅子に座って、むかいんの姿を見ながら、話し続ける。

「まさちんを騙したことや。組長、まさちんをいじめるのが
 楽しいみたいやからなぁ」
「いつから、そうなったんやろな」
「さぁなぁ」
「お前と一悶着あった時からやろな」

ぺんこうは、むかいんを睨み付ける。むかいんは、鋭く突き刺さる目線を感じたため、振り返ることができず、ぺんこうから目を反らすような感じで、冷蔵庫の扉を開けた。



真子は、湯船のふちに顎をおく感じで、湯に浸かっていた。一点を見つめ、何かを考えている様子。



『中途半端じゃ、この世界は成り立たないぞ』

真子の脳裏に過ぎる言葉。
真子は、軽くため息を付いた。


むかいんは、キッチンのチェックを終える。

「おっしゃぁ。あとは、よろしくな」
「…組長、いつもより長くないか?」
「そういや…いつもより、倍の時間…」

ぺんこうは、風呂場に通じる内線を掛ける。
…応答がない…。
むかいんとぺんこうは、顔を見合わせ、慌てたように風呂場へ駆けだした。

風呂場のドアを開けるぺんこう。

「組長!!!」

ぺんこうは、バスタオルを手に風呂場に入っていく。
なんと、真子は、湯に浸かりすぎて、のぼせていた……。
ぺんこうは、湯船から真子を抱き上げ、バスタオルを体に巻き、風呂場から急いで運び出した。



「…ったく…。何をしていたんですか!」
「考え事……」

真子は、ソファに寝転び、顔にタオルを乗せられ、ぺんこうにうちわで扇いでもらっていた。
むかいんが、冷たいタオルを持って、真子に近づき、真子の顔の上のタオルを交換する。
真子の顔は、まだ、赤かった。

「少し、ましになりましたか?」
「…う…ん……」
「むかいん、あとは、俺が」

ぺんこうが、静かに言う。

「…むかいん…ごめんね…」
「すみません、組長。お先です」
「う…ん。気にしないでねぇ〜」
「ぺんこうに、襲われないように、気を付けてくださいね」

ぺんこうの鋭い目線が、むかいんに再び、突き刺さる……。
むかいんは、ぺんこうから、目を反らしながら、真子に笑顔を向けて、リビングを出ていった。

「何を考えておられたんですか?」
「…私…中途半端に生きているのかなぁって…」
「中途…半端?」
「五代目を襲名して、極道の世界で生きながらも、普通の暮らしを
 望んで、偽名を使ってまで、学校に通って…そして、卒業してからも
 AYAMAの仕事もして…」

真子は、顔の上のタオルを手に取りながら、起き上がった。

「…極道一筋で生きるなんて…私自身が…怖い…。逃げてるわけじゃないよ。
 だけど、極道一筋で生きてきた人間にとっては、そう思われるみたいで…」
「……先日お逢いした、鷹地一家の高山に言われたんですか?」

真子は、首を横に振る。

「地島さんに言われた。私が五代目を襲名したこと、驚いたって。
 この世界を嫌っているはずなのに、何故、襲名したのか…。
 …その理由がわかっていても、やはり、許せないって…。
 普通の暮らしをしながら、この世界を納めていこうとするのは、
 邪道…。この世界で命を張っている者たちに、失礼だと…」

真子は、ぺんこうをじっと見つめ、ゆっくりと口を開く。

「…そうなの?」

ぺんこうは、真子の横に腰を掛け、優しい眼差しで見つめ、そして、応えた。

「その地島の言う通りです。ですが、組長。あなたが歩んできた道は、
 あなたが、作ったものです。周りがなんと言おうと、それを
 跳ね返して、今まで生きてきたのではありませんか?
 極道の世界では当たり前だと言われてきた命を張ること…。そして、
 銃器類を使って、簡単に人の命を奪うこと…。組長は、それらを
 禁止しました。その命令を、組員達は、忠実に守っている。
 …まぁ、銃器類は、ちょっとしたことで、破られましたけどね」

ぺんこうは、優しく微笑む。

「だけど、命の大切さ…。それは、阿山組組員だけでなく、全国の
 親分さんが理解してくださったのでしょう?」
「うん」
「そのように、極道の世界も変わっていくんです。普通の暮らしを
 しながら、納めてもいいんです。それが、組長…阿山真子ですから」
「…いいの?」

真子は、すごく不安そうな目で、ぺんこうを見つめる。

「ったく…」

ぺんこうは、そう呟いて、真子を力強く抱きしめた。
真子は、ぺんこうの胸に顔を埋める。

「ふふふ…解ったよぉ〜」

真子は、ぺんこうの心の声を読み取った。真子は、更に強く、ぺんこうに抱きついた。

「もう少し、このままでいい?」
「えぇ」
「…押し倒したい?」
「よろしいですか?」
「………駄目」
「解ってますよ」

ぺんこうは、くすくすと笑いながら、真子の頭を撫でていた。

「…湯に浸かりながらの考え事は、控えて下さいね」
「はぁい」

リビングのドアが開く音がする。
二人は、その音で振り返った。
ドアの所には、仕事帰りの真北が、顔を引きつらせて立っていた…。




真子が、コップにお茶を注ぐ。それをお盆に乗せ、リビングへ持ってきた。
ソファで向き合って、深刻な表情で座る真北とぺんこう。
真子は、真北の前にお茶を出し、笑顔で言った。

「お疲れさま」

真子は、部屋着を着て、頭にはタオルを巻いていた。

「…ったく、湯に浸かりながらの考え事は…」
「控えます。ご心配をお掛けいたしました」

真子は、頭を下げる。

「あのような姿で抱き合っていたら、勘違いしますからね…」
「反省してます。…勇気をもらっていただけです…」
「次に、あんなことを起こしたら…、ほんとに、こいつを撃ちますよ」
「それだけは、止めて下さい…」

真子は、はにかんだ笑顔で真北に言った。
ぺんこうは、真北を睨んでいる……。

「ぺんこう、忙しくないんか?」
「学年末テストへ向けての準備はもう、終わってます」
「来年は、受験生の担任か…。思い出すよなぁ〜、真子ちゃんの時を」

真北は、お茶をすすりながら、真子を見つめる。

「真子ちゃん、髪の毛乾かさないと、風邪引きますよ。
 もう、気分は良くなったんですか?」
「まだ、ぼぉっとしてる…」
「そこに座っててください」

真北は、リビングを出ていき、そして、手にドライヤーを持って入ってきた。そして、何も言わずに、真子の頭に巻いているタオルを取り、真子の肩に掛け、優しく真子の髪の毛を乾かし始めた。

「AYAMAの仕事、どうですか?」

真北が、尋ねる。

「谷川さんがね、凄いことを考えたんだよ」
「どんなことですか?」
「ゲームのキャラクターで、グッズを作ること。文具とか、おもちゃとか。
 以前からね、キャラクターグッズのことは、他のもので考えていたんだけど、
 著作権がからむから、大変だったんだ。だけど、AYAMAのゲームの
 キャラクターなら、著作権は、こっちにあるから、少し手間が省けるって」
「益々忙しくなりますね」
「うん」

真子は、嬉しそうに返事をした。

「ねぇ、ぺんこう」
「はい」
「生徒達とは、遊びに行かないの?」
「行ってますよ。時々、ゲームセンターにも寄ります。AYAMAのゲームも
 いくつか置いてありましたよ。かなり人気がありそうです。生徒達も
 楽しいと言ってましたよ」
「こんなゲームがあったらいいとか、言ってなかった?」
「射撃のやつは、実際に撃った感じが伝わるというのが売り文句ですよね?」
「うん」
「感心しながら、楽しんでましたよ。それで、高得点の人物ですが、
 桁が二つも違うもんだから、悔しがってましたよ。1位と2位で
 差が付きすぎだとね」
「誰だろうねぇ〜」

真子は、とぼける。

「ぺんこう、冷たいタオル交換」
「はい」

ぺんこうは、真北の言葉を素直に受け取り、冷たいタオルを用意する。

「では、明日もAYAMAですか?」

真北が、尋ねた。

「暫く続きそうだから、組関係は、まさちんに任せるつもり」
「不安ですよ」
「…私もだけどね」
「鷹地一家の件、お疲れさまでした」
「ありがと」

真北は、ドライヤーの手を止め、ブラシで真子の髪の毛をとく。

「えいぞうと一緒に行動だと聞いて、気が気でなかったですよ」
「真北さんまで、そんなこと言うぅ〜。えいぞうさんの力量は、
 真北さんの方が、よく知ってるやんかぁ」
「まぁ、そうですが…。あの日以来、いい加減さに磨きがかかってますから」
「ひどい言い方やなぁ〜。えいぞうさんの私に対する態度くらい、
 知ってるでしょぉ」

真子は、ふくれっ面になる。そのふくれっ面に、ぺんこうが、冷たいタオルを当てた。

「…やきもちか?」

真北が、ぺんこうの表情を見て、茶化す。
ぺんこうは、ギロリと真北を睨み付けた。

「図星か…」

更に凄みを効かせて睨むぺんこう。

「ぺんこう…怖いって…」
「すみません!!!」

真子の言葉に慌てて謝るぺんこうだった。
真北は、笑い出した。

「乾きましたよぉ」
「ありがとう。久しぶりだね。真北さんに髪の毛を乾かしてもらうのは。
 小さい頃は、毎日してくれたことだけどね!」

真子は、真北にニッコリと微笑んだ。真北の表情が滅茶苦茶緩んだのは、言うまでもない。

「氷枕して寝ますか?」

ぺんこうが、尋ねた。

「その方がいいかなぁ」
「そうですね。では、用意できましたら、持っていきます」

そう言って、ぺんこうは、冷凍庫の扉を開ける。

「私が持っていく」

何かを考えたのか、真北が言った。

「真北さんは、組長を部屋まで御願いします。お一人では、恐らく
 足下ふらついていると思いますから、危険です」
「わかったよ」

真北は、真子を抱きかかえた。

「大丈夫だよぉ。歩けるから」
「たまには、よろしいではありませんか」

優しく微笑む真北だった。

「じゃあ、御願いします」
「では、参りますよ、お姫様」

真子は、真北の首にしがみつくように腕を回し、真北の肩越しに、ぺんこうを見つめ、微笑んだ。ぺんこうは、温かい雰囲気を醸し出して、二人を見送っていた。




真子の部屋。

「では、真子ちゃんは、なぜ、五代目を襲名したのですか?」

ベッドに横たわる真子に尋ねる真北は、深刻な表情をしていた。

「…みんなが、私と同じ思いをしないように…。命の大切さ、
 理解してもらいたくて…」
「それなら、何を悩むことがあるんですか?」
「悩むというより…、そんな考えもあるんだなぁと思ったら、
 深く深く考え込んでしまったの…。まさか、のぼせるとは
 思わなかったんだもん…」
「ったく、あいつに、肌を見せないで下さい!!」
「ま、真北さん?!??」
「うげっ…!」

真子の驚いた表情で、真北は、自分の発言に気が付き、慌てて口を塞ぐ。そこへ、ぺんこうが、氷枕を持って入ってきた。

「遅くなりました。どうですか?…って、真北さん、どうされました?」

真子に声を掛けた時、真北の態度がおかしかったことに気が付いたぺんこうは、首を傾げながら、真北に尋ねる。

「ん…何もない…気にするな。ほな、真子ちゃん、夜中に
 様子を診にくるから、ちゃぁんと寝とくように」
「はい。では、お休みなさい。ぺんこう、ありがとう」
「お休みなさい」
「組長、お大事に。お休みなさいませ。良い夢を!」

真北とぺんこうは、静かに真子の部屋を出ていった。ぺんこうは、ふと、真子の部屋の前にあるまさちんたちの部屋のドアを見つめる。そっとドアノブに手を掛け、強くドアを開けた。

ゴン……。

妙な音を聴いたぺんこうは、そのまま、ドアを閉め、自分の部屋へ向かって歩き出した。真北は、ぺんこうの一部始終を見届け、同じように部屋へ向かう。



まさちんたちの部屋。
ドアの前では、まさちんが、額に手を当てて、仰向けに倒れていた。

「…あほ…」

くまはちが呟いた。



真子は、布団を抱きしめるような感じで寝返りをうち、目を瞑る。

まだ…ぺんこうの腕に抱かれた感覚が残っている…。

真子は、あの日を思い出しながら眠りに就いた。



真北とぺんこうは、お互いの部屋の前で立ち止まる。

「ぺんこう」
「はい」
「…いいや、何もない。ゆっくり寝ろ」
「仕事、残ってますから」

ぺんこうは、振り向きもせずに、真北に言って、部屋へ入っていった。
真北は、ドアに向いたまま、ため息を付き、ポケットに手を突っ込んで、口を尖らせる。そして、ゆっくりと歩き出し、リビングへと降りていった。
テーブルの上のコップを片づけ、冷蔵庫を開け、明日の朝のおかずをチェックした後、ドライヤーとブラシを持って、お風呂場へ行く。
服を脱ぎ、胸元の傷を触りながら、風呂場のドアを開け、中へ入っていった。
シャワーの水の音が聞こえてきた……。




ビーカーやシャーレ、試験管…試験器具がたくさん台の上に置かれ、怪しい雰囲気を醸し出している部屋。そこに一人の男が、白衣を着て、何かを造っていた。出来上がる粉状のものを小さな入れ物に詰め、ふたをし、箱に入れていく。
男が口元をつり上げた。

「待ってろよぉ〜。今度こそ、素敵なパーティーを用意したからな…。
 喜んでくれるよな…真子ちゃん…俺のコレクション…」

ちらりと目線を移した先…そこには、笑顔輝く真子の写真が…。





AYAMA社・会議室。
真子は、分厚いファイルを閉じる。
デスクに肘をつき、指を絡ませた手で、額を軽く叩いていた。

考え中…。

「真子ちゃん、やっぱし、無茶だらけか?」

駿河が静かに尋ねた。真子は、ちらりと駿河に目をやる。

「忙しくなりそうやなぁ〜と思って。谷川さん」
「はい」
「これ、製造に取りかかって下さい。なるべく早く発売したいから」
「かしこまりました。で、社長」
「…だから、それは、やめてください」

谷川の言葉に、真子は照れながら言った。

「ここでは、そう呼ぶのが、当たり前だと思いますが…」
「…真子と呼ぶのに抵抗があるなら、いつも通りで御願いします」
「では、組長」
「なんでしょう」
「あと、ゲームの中で使われている音楽についてですが、
 今、携帯電話が、世の中に広まりつつありますよね」
「うん。一人一台だと聞いた」
「その携帯電話の着信音に色々な音楽を利用することもできるんですよ。
 そちらにも、プッシュかけておりますので、近々回答がくると思います」
「…着信音?」
「そっか。真子ちゃん、携帯電話持ってないんだよね」
「うん。必要ないかと思って…」

駿河が、自分の携帯電話を懐から出し、着信音を真子に聞かせた。

「へぇ〜。プルルルだけじゃないんだ。音楽が鳴るんだぁ〜」
「相手によって、着信音を分けることだってできるで。真子ちゃんから
 かかってくる時の音は、これ」

着信音を切り替える。

「この曲、知ってる」
「有名な曲やからねぇ」
「相手によって、着信音が替えられるんだぁ〜。まさちんの携帯もかなぁ」
「あとで、設定してみぃ〜。設定の仕方はなぁ〜」

なぜか、話が逸れていくAYAMAの会議室…。




まさちんが運転する車の中。
後部座席に座る真子は、まさちんの携帯電話を手に、何やら、四苦八苦している様子。

「組長、いたずらだけは、止めて下さいよ」
「せぇへんって。…今度ね、AYAMAのゲームの音楽で、着信音を作り
 始めるんだぁ。それでね…まさちんの携帯の着信音を替えようと思って…。
 …確か、こうやるはずなんだけどなぁ……」
「…眉間にしわ…よってますよ」

真子は、まさちんの言葉で、眉間に手を当てて、しわを隠す。

「まさちん、知ってた?」
「えぇ。存じてますが、私達の持っている電話は、真北さん経由ですよ。
 一般の方のとは、ちょっとかってが違うと思いますが…」
「携帯電話って、どれも同じちゃうん???」
「車や電化製品のように、いろいろな会社や機種がありますよ」

ルームミラーで、真子の様子を見るまさちん。
真子は、ふくれっ面になりながら、まさちんを睨んでいた。

「あとで、お教えしますよ。私のは、すでに設定してますから」
「それなら、そうと早く言ってよぉ〜」

真子のふくれは、更に増す…。

「すみません」

まさちんの声は、笑いを堪えているのがわかるくらい、揺れていた。



リビングのソファで、真子とまさちんは、肩を寄せながら、まさちんの携帯電話の画面を見つめていた。まさちんが、真子に携帯電話の使い方を説明している。真子は、頭にたたき込むような感じで、真剣に聞いていた。
まさちんは、相手によって、着信音を替えていた。どれも、まさちんが良く聴く音楽だった。

「自宅からでも、誰がかけてきたのか、わかりますよ」
「なんで?」
「かけるとき、ボタン押すでしょう?」
「うん。私は、一番…なるほどぉ。そっか」
「組長も、携帯電話、持ちますか?」
「…必要だと思う?」

真子とまさちんは、考え込む。

「必要…ありませんね…」
「今まで、私への連絡って、まさちんか、くまはちの携帯だったし、
 ビルは、ビルやし、自宅は自宅だもんね…。…折角、着信音で
 楽しめると思ったのになぁ〜〜…あっ!!」

真子は、何かひらめいたような表情をした。

「…設定方法は、覚えましたか?」

まさちんは、真子の企みに気が付いた様子。
真子は、まさちんの言葉に、にやりと笑って、頷いた。

「まずは、くまはちから…」

そう言って、真子は、二階へ駆け登り、くまはちの部屋にいきなり入っていった。
くまはちは、思いっきりくつろいでいたが、いきなり入ってきた真子を見て、慌てて座り直す。

「組長!! ノックしてください!!」
「携帯電話貸して!!」
「は、はぁ…」

くまはちは、デスクの上に置いている電話を真子に手渡した。真子は、くまはちの携帯電話を手にした途端、色々と設定し始めた。

「あの…組長、一体、何を?」
「着信音変更」
「へ?!」
「できた!…えっへっへっへ…」
「く、く、組長…?」

真子は、不気味に微笑む。その微笑みに、くまはちは、恐れる…。
真子が、ボタンを押すと、何やら、軽快な音楽が鳴っていた。

「このメロディーが鳴ったら、私からねぇ〜!!」

真子は、にっこりと笑いながら、くまはちに携帯電話を返した。
くまはちは、電話の画面を見つめる。

「自宅からの電話ですね」
「うん。…って、あんまりかけないと思うけどね」
「これからは、たくさんかけてください」
「へへへ! …次は、ぺんこうかなぁ〜」
「…って、組長、もしかして…」
「まさちんから教えてもらったんだ。みんなのって
 真北さん経由だったとは、知らなかったよぉ」
「だから、電源を切っていても、居所がわかるんですよ」
「それで、あの時、居場所がばれたんだね…。なるほど…」
「えぇ」

くまはちは、真子の言った『あの時』が、龍光一門との事件のことだと思っていた。しかし、真子の言った『あの時』とは、ぺんこうとのあの日のことだったのだ。
真子は、くまはちに手を振って、部屋を出ていった。

『ぺんこうぅ〜。携帯電話貸して!!』

ぺんこうの部屋に入った真子の声が聞こえてきた。
くまはちは、真子とぺんこうの様子を思い浮かべながら、真子が変更した着信音を再び聴いていた。



この日の夜遅く帰ってきた真北の携帯電話まで、着信音を設定する真子。
真北のメロディーは、真北に似合わないほどかわいいものになっていた。
なぜか、面白がって、橋先生の電話番号や原たち、真子が知っている人々の番号まで、かわいいメロディーに変更していく。
真北は、うれしいやら、はずかしいやら…何とも言えない表情をしていた。

このまま、温まる雰囲気が続くように…。

そんな真北の願いは、この年に起こる出来事で、もろくも崩れ去るのだった……。





とある部屋のドアを開けて、入っていく男。
その部屋には、別の男が、テーブルに足を乗せて、本を読んでいた。
入ってきた男に声を掛ける別の男。

「連絡取れたんか?」
「あぁ。お前も一緒に行くだろ?」
「やめておく」
「どうして? 逢いたいんだろ?」
「木原って男、俺の顔を知っているからな」
「なぁるほど」

別の男は、本を閉じ、振り返った。
その男…黒崎竜次。
不治の病で倒れ、亡くなったはずの男が、なぜ、生きているのか…。
そして、竜次に話しかける男は、以前、木原と仲良く電話で話していた男…金髪で紺の縦縞が入ったスーツを着ているこの男こそ、真子の特殊能力の事を詳しく調べている研究者である通称・ライ。
木原が、海外で仕事をしている時、真子の能力のことを調べる研究者が居るという情報を手に入れ、ライとコンタクトを取って、親しい仲になっていたのだった。

そのライが、竜次とも繋がっているのは、なぜ…?



(2006.7.10 第四部 第五十八話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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