任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第五部 『心と絆』

第一話 狙いは…。

真子の自宅・まさちんたちの部屋。
この日の仕事を終えたまさちんが、荷物をまとめていた。そこへくまはちが、やって来る。

「おっ! いよいよ、家出か?」

まさちんは、くまはちをギロリと睨み付ける。

「組長を迎えに行くんだよ」
「言わんでも、わかっとるわい。…それよりも、素直に
 帰るって言うと思うか?」
「思わん。俺も、暫く、休むつもりや」
「そうやなぁ、お前も働き過ぎやもんな。疲れたぁ〜って顔
 してるで。珍しく」
「そうか?」

まさちんは、慌てて鏡で自分の顔を確認する。

「変わらないと思うけどなぁ〜」
「元気の源を長いこと見てないからやろ。心が疲れてるんや」
「なるほどね……」

まさちんは、なぜか、納得する。

「真北さんは?」
「橋先生と喧嘩腰に言い合って、やっと退院。その途端、仕事や」

くまはちは、着替え始める。

「仕事好きやな」
「まぁ、しゃぁないやろ。自分が狙われてしもたしな」
「そうやな」

くまはちは、着替え終わり、くつろぎ始めた。まさちんは、荷物をまとめ終わり、服を着替え始めた。

「大阪まで、送ろうか?」
「頼んでええんか?」
「あぁ」

まさちんが、着替え終わると同時に、二人は部屋を出て行った。ぺんこうの部屋の前を通るとき、くまはちは、声を掛ける。

「ぺんこう、まさちんを送ってくからな。あとよろしく」
『はいよぉ、気ぃつけろよ』

そして、二人は、家を出ていった。



天地山。
朝から雪がちらついていた。真子はと言うと、未だに眠っていた。流石に、朝が苦手なだけある…。そして、天地山ホテルのロビーでは、一人の男が、少しやつれた表情で、仕事を行っていた。

「お気をつけて、いってらっしゃいませ」

支配人・原田まさは、スキーに出掛けるお客様を見送っていた。客が観ていない場所や客の居ない場所で、まさは、疲れた表情を見せていた。

「支配人。お疲れでしたら、お休みなされた方がよろしいですよ?」

まさの体調が気になる従業員のかおりが、まさにそっと声を掛ける。

「ありがとう。でも、大丈夫ですよ。夜更かしがこのように
 体調を崩す原因になっていることは、わかってますから」

まさは、素敵な笑顔でかおりに応えた。

「夜更かし…って…支配人…」

かおりの脳裏に過ぎる、照れくさい事。
支配人、毎晩、真子ちゃんと一緒……。

かおりは、項垂れたまま、その場を去っていった。
まさは、時計を見る。

「そろそろお嬢様が起きる時間かな?」

まさは、エレベータホールへ向かって歩き出す。
その時だった。
玄関の自動ドアが開いた。まさは、客を迎える準備をして、振り返る。
入ってきたのは、まさちんだった。

「よぉ〜…!!?!??!!!」

まさちんが、まさに声を掛けようとした途端、胸ぐらを掴まれ、そのまま、引っ張られるようにエレベータホールへと連れて行かれた。

「し、支配人?!??」
「ま、まさぁ〜!!!」

従業員とまさちんは、同時に叫ぶ。まさは、エレベータホールへ向かいながら、かおりに声を掛けた。

「かおりちゃん、俺、今から休憩。明日まで。よろしく」
「は、はい!」
「な、な、なんや、どうしたんやぁ?! まさぁ〜!」

まさちんの声が、エレベータの中に消えていった…。

「何が遭ったのかな? 支配人、ちょっと変…」
「そうだよな。何があるんだろ…」

かおりたちが、まさの珍しい行動に、話し込んでいた。



エレベータの中。
まさちんは、まさの腕を払うように下から腕を振り上げた。

「なんやねん」
「悪い! もう、俺、限界だ」
「限界?」
「あぁ。お嬢様が、一晩中、放してくれなくてな…。力強く
 握りしめるもんだから、俺、寝てないんだ」
「…一晩中…握りしめる……」

まさちんは、まさの言葉を繰り返す…。



八階。
真子が泊まる部屋のある階にエレベータが到着した。

「な、なんだよ!!! まさちん、放せって!!」

エレベータのドアが開いた途端、まさが、叫んでいた。
なんと、まさちんが、まさの胸ぐらを掴んで降りてきた。
まさちんは、怒りの形相……。
な、なぜ??

「…まさぁ〜。てめぇ〜…よくも……って、ふぎゃん!!!」

ドカッ!!!

まさちんは、足を蹴られた。

「まさちん!!!」
「く、く、組長!!!」

タイミング良くエレベータホールに来ていた真子だった。
真子は怒りの形相…。
な、なぜ??

「なんで、まささんの胸ぐらを掴んでるんよぉ!!! まささんはね、
 ずっと私のことを心配して、夜も休んでないんだよ!
 まさちんが来るの、遅いんだもん!! なのに、どうして、まささんにぃ〜」
「く、組長、それには!!!」

真子の蹴りが炸裂するが、まさちんは、ことごとく受け止める。

ドッ……。

「では、お嬢様、私は、休暇を取ります」
「ありがと、まささん。まさちんが、来たから、気にせずに
 ゆっくりと休んでね」
「ありがとうございます。では、失礼します」

まさは、服を整え、真子に優しく語りかけた後、自分の部屋へ向かって歩いていった。

「まさちん、ゲレンデ行こう!」

真子は、地べたに座り込むまさちんに声を掛けた。

「まさのやろぉ〜。拳なんて、いらねぇっつーんだよ」

まさちんは、まさの後ろ姿を睨んでいた。

「だから、まさちん!」
「は、はい!」

真子の声で、慌てて立ち上がり、真子に接する時の表情に変わる。

「雪が、激しく降ってますよ。ですから、ゲレンデは無理です」
「えぇ〜。滑りたいのにぃ〜」
「今日は、一日降るかもしれませんので、私が、映画の話を
 いたしますよ」
「ほんと?」

真子の目は爛々と輝く。

「ほな、部屋に戻るよぉ!!」

真子は、落ちているまさちんの荷物を持って、まさちんの手を引っ張って、部屋へ戻っていった。




真子の部屋。
真子は、ソファに腰を掛け、まさちんが、部屋へやって来るのを待っていた。まさちんの居る隣の部屋と通じるドアが開き、まさちんが、入ってきた。

「お待たせしました」
「あれから、どんなん観たん?」
「アクション、ラブストーリー、コメディー…全て観てますよ。
 どれからにしますか?」
「笑えるやつがいい!」

真子は、笑顔でまさちんに言った。

「安心しました」
「ん? 何が?」
「…その…先日の夜中の電話ですよ。怖い夢を見たとお聞きしましたので…」
「みんな、起きてたん?」
「電話の音で、目を覚ましますよ」
「そっか。…ごめん」
「気になさらないで下さい」

まさちんは、真子の前に座る。

「それからなんだよ、まささん、毎晩添い寝してくれた。
 ったく、いつまでも子供扱いするんだもん。だから、私も
 甘えて、しっかりと手を握りしめて眠ってやった!」
「……手…ですか」
「ん? どしたん?」

真子は、まさちんの言葉が気になったのか、首を傾げて、まさちんに尋ねた。

「いえ、その…まさが、あまりにもやつれていたのと、いきなり
 私の胸ぐらを掴みあげたので、何が遭ったのかと思ったら、
 組長が、毎晩、寝かしてくれないと言って、そして、力強く
 にぎりしめるものだから…と言うので…私、てっきり……」

まさちんは、言葉を濁す。
まさちんが、急に言葉を切ったので、真子は、気になった…途端!

「ば、ばか!!」

パシッ!!!!!

真子は、耳まで真っ赤になり、まさちんの頬をひっぱたいた。

「も、もぉ!!! 出てけ!!」

真子は、まさちんの腕を引っ張り、隣の部屋へ追いやった。まさちんの目の前でドアがいきおいよく閉まった。

『く、組長?!』

ドア越しにまさちんは、声を掛ける。
真子は、ドアにもたれて座り込む。

「何を考えてるんよぉ〜もぉ〜。まさちんはぁ〜。まささんが、
 私に、そんなことするわけないでしょぉ。…ったくぅ〜」

真子は、頬を赤らめながら、まさちんに言った。

『組長の能力……。す、すみません。俺…私、おかしいです…』
「疲れてるんだよぉ。今日はいいから、ゆっくり休みぃ!」
『組長…申し訳ございません』

暫く沈黙が続く。
真子がもたれるドアのノブが廻った。
ドアがゆっくりと開くと同時に、真子がまさちんの部屋の方へ倒れ、まさちんの足にもたれかかった。
まさちんを見上げる真子は、悪戯っ子のように、微笑んでいた。

「どすけべ」
「すみません」

まさちんは、照れたように微笑んでいた。そして、真子に手を差し伸べ、そっと抱きかかえ、真子の部屋へと入っていった。


その日一日中、まさちんは、映画の話を面白可笑しく、真子に話していた。
真子は、たいくつすることなく、楽しい時間を過ごしていく。



まさは、自分の部屋で寝てる…と思われたが、実は、真子が来てからというもの、AYAMAのゲームに夢中になっていたのだった。
真子にもらったAYAMAゲームのキャラクターグッズ。
そのキャラクターが出ているゲームを真子に頼み、持ってきてもらい、そして…

『ラストステージ! このまま進めるぞぉ!』

テレビ画面に映るキャラクターが、話しかけてくる。まさは、座り直し、気合いを入れて、ラストステージに挑戦し始めた。

「もぉ少しなんだもぉ〜ん」

仕事熱心なまさまで、巻き込むくらいのAYAMAのゲーム。
まさが、そこまで、入れ込んでしまうとは、真子自身も思っていない様子……。




真子の自宅。
強引に(?)退院した真北が帰宅した。
くまはちは、真北の部屋まで、お茶を持ってやって来る。

「失礼します」
「あのなぁ〜。真子ちゃんが居ない時だからって、
 それは、やめれって」
「しかし…」
「で、真子ちゃんは、天地山で、のんびりか?」

くまはちは、真北にお茶を差し出しながら、

「はい」

返事をした。

「怖い夢…観なくなったのか?」
「毎晩、まさが、添い寝していたそうですよ」
「ったく、いつまでも子供扱いするんだからな、あいつも」
「えぇ。真北さんに似て……すみません」

真北は、くまはちをギロリと睨んでいた。

「そうや、例の奴らな、形を潜めたぞ」
「ほんとですか?」
「あぁ、今まで、調べていた時は、必ず、数名の姿を見かけたのにな、
 昨日辺りから、ぷっつりと…な。これは、何かあるぞ」
「…次の作戦を練っているとか…」

真北は、ちらりとくまはちに目をやり、お茶に手を伸ばす。

「無茶だけは、すんなよ」
「わかっております」

真北は、お茶をすすり、そして、一息ついた。

「まさちんが、疲れ切っていたのは、本当か?」
「えぇ。私も驚きました。天地山でも思いっきり寝入ってしまった
 様子です。まさも驚くほどです」
「あいつ、影で何かしてるな…」
「それは、ないと思います。私、見張ってましたから」

くまはちの言葉に何かを思う真北。

「真子ちゃんからか?」
「はい。鷹地一家と接触しないように」
「真子ちゃん、気にしてるんかな。…まだ…」

真北が、大の字に寝転んだ。

「なぁ、くまはち」
「はい」
「もし…真子ちゃんの身に何かが起こった時…お前、どう出る?」
「この身を盾にして、お守りいたします。それが、私の…」
「そうだよな…」

真北は、目を瞑った。

「真北さん…、まさか、また…?」
「あぁ。何か不安でな…。何か…こう、恐ろしい事が起こりそうな…
 そんな感じがするんだよ…。一連の厄介な連中。気になるしな」
「真北さん」
「ん?」
「あなたは、無茶しないで下さい。これ以上、あなたの身に何かが
 あったら、組長だけでなく、あいつも…狂いますよ」

くまはちの言葉に、薄目を開ける真北は、フッと笑う。

「あいつは、大丈夫や。もう、戻らないっつーたしな。
 あいつの意志の堅さは、俺以上のものだからな。…問題は、
 真子ちゃんだよ…」

真北は起きあがり、真剣な眼差しで、くまはちを見る。くまはちは、姿勢を正した。

「そん時は…頼むぞ」
「真北さん、また、それを…」
「ふふふ。聞き飽きたか?」
「はい」

真北は、笑っていた。その笑いが、急に止まる。

「おい」
「はい」
「真子ちゃんの添い寝…まさちんか?」
「いいえ。まさちんが、隣の部屋で寝るようになってからは、
 落ち着いているそうです」

真北は、頭の中で何かを計算している。

「まさちんが行って一週間か。…そろそろ帰って来ないと…」
「はい。仕事たまりそうですね…」
「呼び戻そうか?」
「大丈夫です。組長もまさちんも、ここんとこ休んでませんから。
 今のところ、私一人で充分です」
「そうか。…なら、くまはちに仕事…頼めないな…。真子ちゃんの作戦か…」

真北は、軽くため息を付く。

「どのような仕事でしょうか…」
「あちら関係」
「なんなりと!」

くまはちの目が輝いたのは、言うまでもない。

「ったく、俺以上に、仕事好きやな、お前は。…でな……」

真北は、深刻な表情で、くまはちに仕事を依頼していた。




天地山ホテルの真子の部屋。
バルコニーに真子とまさちんの姿があった。真子は、濡れた髪の毛を下ろしていた。
まさちんは、浴衣を着ている。
どうやら、二人はお風呂上がりの様子。
真子は、夜空の星を見上げていた。そんな真子の横顔を観ているまさちん。

「綺麗だなぁ〜」

思わず、呟くまさちんだった。
その声は、真子に聞こえていなかった様子。
しかし、真子は、急に振り返る。

「明日、帰るよ!」
「く、組長、急に何を言い出すかと思ったら…」
「ん? 充電完了! 頑張るでぇ〜!!!」

真子の意気込みにまさちんは、力強く応えた。

「解りました」
「気持ちいいね」

真子の声は、とても穏やかだった。

「湯上がりですから。…でも、風邪ひきますよ?」
「大丈夫でしょ」

真子は、にっこりと微笑んだ。

「ほんとに、もうすぐ四月なん?」
「そうですよ」
「思われへんなぁ」
「今年は、珍しく、雪が多いそうですからね。でも、ここだからこそ、
 この景色なのかもしれませんね」

まさちんは、夜空を見上げる。

「何もかも、白紙に戻る感じ。…ここに来ると、いつも
 元気をもらう。そして、心が和むんだ。すると、明日も
 頑張る! そういう気になる。どうしてだろうね」

静かに、それでいて、何かを思い出すかのように、真子が言うと、

「大自然が、そうさせるんでしょう。…大自然の前では、
 人間って、ちっぽけなもんですからね」

まさちんが応えた。

「くやしいけど、そうだよね」

真子は、まさちんにもたれかかる。
真子に触れる場所から、まさちんは、真子の体温を感じていた。

「そろそろ部屋へ戻らないと、体が冷えてますよ」

まさちんの手は、自然と真子の肩を抱き、そして、冷えた体をさすって温め始める。

「まさちんも冷えてるよ」

真子は、まさちんを見上げ、とびっきりの笑顔を向けた。
まさちんも、真子の笑顔に応えるような笑顔をする。
そして、二人は、部屋へ戻っていった。



真夜中。
まさちんは、寝返りをうつ。

「…あかん…寝られへん。…困ったな…」

先程のバルコニーでの真子の姿が目に焼き付いて離れない様子。



真子は、俯せになる。

「…眠れないよぉ〜」

真子は、湯上がりに見たまさちんの浴衣姿を思い出し、その姿が目に焼き付いて離れない様子。

「ったく。様になりすぎなんやから〜。まさちんのあほぉ〜」

真子は仰向けになり、目を瞑る。


いつの間にか眠っていた真子は、朝、起こしに来たまさちんが、部屋のカーテンを開けたことで、目を覚ました。

「おはようございます! 今日は、すんなり起きて下さいましたね…!!!」

ドカッ!

寝起き一番、まさちんに蹴りを入れるのは、真子の日課になっている様子。

いつになったら、素直に静かに起きて下さるのやら…。

そのたびに、思うまさちんだった。




大阪。
えいぞうは、自分の店の前で、誰かを待っていた。

「おい、健!まだか?」
『もう少しぃ〜』
「はよせぇよ、間に合わへんやろが!!」

店の裏口から、健がおめかしして出てきた。その姿を見たえいぞうは、呆れたように項垂れる。

「あほ…」

そして、二人は、車に乗って、新大阪駅へ向かっていった。



えいぞうと健は、入場券を買って、改札を通っていく。

「今回は、長かったですね」

健は、真子に逢うことを楽しみにしているという表情でえいぞうに話しかける。

「そうやな。まぁ、年明けてから、仕事しっぱなしやったからな。
 心身共に疲れてたやろな。組長も、まさちんも」

二人は、ホームへと上がってきた。
真子が乗っている新幹線は、まだ到着していなかった。待っている間、健は、胸元から小さなパソコンを取りだし、何かを打ち込み始めた。えいぞうは、横から、こっそりと画面を覗き込む。
えいぞうは、呆れたようにため息を吐いた。

「あのな…」
「俺のんやから、ええやろぉ」

健のパソコンのデスクトップ、アイコンには、真子の笑顔が輝いていた。
新幹線がホームへ入ってくる。
ドアが開き、真子とまさちんが、楽しく話ながら、降りてきた。
えいぞうと健は、二人に歩み寄る。

「お疲れさまです」

えいぞうが、一礼する。

「組長、楽しかったですか?」

健は、おしりをフリフリしながら、真子に言う。真子は、そんな健の仕草に微笑んだ。

「楽しかったよぉ。リフレッシュもしたから、これからも頑張るよぉ。
 いつもありがとう。…まだね、雪が残っていたよ。やっぱし気持ちいいね!
 今度、健も一緒に行こ!」
「是非是非!! ご一緒させて下さい。組長のスキー姿を
 観たいです!」
「そう?」

少し照れたように真子が言う。

「…健…。写真を撮って、また、懐に入れておこうって考えてないか?」
「な、な、何を言うんですか、兄貴ぃ!」

慌てたように言葉を発する健に対して、えいぞうとまさちんが呟く。

「図星だな…」
「図星ですね」

そんな二人をよそに、真子と健は楽しく可笑しく話をしながら歩き出す。そんな二人の会話に耳を傾けながら、深刻な話をし始めた。
真子は、後ろの二人の会話が気になりながらも、健とふざけ合いながら、改札を出て、車に乗り込んだ。



車の中。
真子とまさちんが後部座席に座り、健は運転席、えいぞうは助手席に座っていた。
健は、後ろの真子を気にしながら、安全運転をする。

「くしゅん…」

真子が、くしゃみをした。まさちんが、そっと真子の額に手を当てる。

「微熱ですね」
「やっぱし、夜風が悪かったかなぁ〜」
「家に帰ったらすぐに、寝て下さいね」
「うん」

健とえいぞうは、後部座席の二人の会話に耳を傾けていた。
暫くして、静かになる。
信号で停まった時、健とえいぞうは、振り返った。

「珍しいな、こいつまで寝入るなんてなぁ」
「ほんとですね。まさちんは、疲れが取れなかったんかな?」
「こいつは、たまる一方やろな。組長が休めと言っても、休まないやろし。
 このままやったら、ほんまに、倒れるやろな」
「気を付けておきます」

健は、真面目に応える。その仕草で、えいぞうは、フッと笑う。

「健、まだ怒っとるやろ」
「当たり前です!! 兄貴、金輪際、組長と同じ部屋では、寝ないでください!」
「…ちゃぁんと土産やったやろが。あれでは、不満か?」
「組長一人なら、不満じゃありませんよ。…兄貴が一緒に写ってる写真なんて
 俺は、いらないですよ!」
「寝顔を撮る予定やったけどな、カメラ向けた時に過ぎったんや…真北さんが」
「そうなっても大丈夫なように、真北さんへの情報は欠かしてないんやからぁ。
 少しくらいは、多めに見てくれますよぉ」

健はふくれっ面になっていた。

「少しくらい…は…やろ?」
「そうですけどねぇ〜」

真北さんが聞いていたら、絶対に鉄拳を振り下ろしそうな会話をしながら、真子が乗る車は、自宅へと向かって走っていった。
後部座席の二人は、仲良く寄り添って眠っている…。





AYビル・地下駐車場。
1階受付から通じる階段を三人の男が下りてきた。男達は、笑顔で会話をしながら、自分たちの車に乗って去っていった。

カチャ…。

地下駐車場内に、微かだが、音が響いた。



エレベータに乗った真子とまさちん。
この日の組関係の仕事を全て、まさちんが終えてしまい、そのことで、少しふてくされている真子。
まさちんは、真子の表情が気になり、優しく声を掛ける。

「組長、お疲れですか?」
「ん? ちゃう…。ちょっとね」

真子は、そう言ったっきり黙ってしまう。

「今日は、早かったね」

真子が、静かに尋ねた。

「もう、慣れましたから」
「…やっぱし、私にはむいてないのかなぁ。この仕事。
 いっつもまさちんにしてもらっているやんか……」
「そんなことはありませんよ。組長は、むいてます。
 いろんな知恵をお持ちですから」
「そうかなぁ」
「組長、もしかして、今まで私に任せていたのは、そんなことを
 考えておられたんですか?」
「ん?」
「私は、てっきり、嫌がっているもんだとばかり……」

エレベータが地下駐車場へ到着した。二人は、のんびりと車へ向かって歩いていく。
車に乗ろうとしたときだった。
周りの異様な雰囲気を感じる二人。

「……まさちん」
「…組長…。逃げて下さい!!」

まさちんの叫びと同時に、銃弾があちこちから真子とまさちん目掛けて飛んできた。
素早く避ける二人は、二手に分かれて逃げ始めた。
まさちんは、懐から携帯電話を取り出し、どこかへ電話を掛ける。

「須藤さん、ヘルプです。地下駐車場」
『敵は?』
「わからん。かなりの数」
『川原と藤にも言って向かう』
「御願いします」

まさちんは、携帯の電源を切り、気を集中させ、真子の気配を感じる方向を見つめた。
柱の影から、男達が銃を片手に、その方向へと走りだしていく。

「くそっ…組長!!」

まさちんが叫ぶ。

『大丈夫だ! 表に出る!』
「わかりました、すぐに追いつきます!!」

まさちんが走り出す。

「うわっ!」

まさちんの足下で、何かが弾ける。

「てめぇら……」

真子を追いかけたと思われた数人の男達が、歩みを停め、まさちんに向かって発砲した。
そのことで、まさちんの何かに火がついた。
まさちんは、戦闘態勢に入り、発砲した男達に目にも留まらぬ早さで、蹴りを入れる。

男達は、五人。

まさちんの蹴りで、一人の男がその場にうずくまる。
別の男が、まさちんに銃を向ける。引き金が引かれる瞬間、側に居る男を盾にするまさちん。
まさちんの盾となった男は、腹部に銃弾を浴び、その場に倒れた。まさちんに銃を向けた男が、まさちんに殴りかかる。
まさちんは、その腕を取り、曲がり得ない方向へ折り曲げた。にぶい音と共に、男は、後頭部を蹴られ、前のめりに倒れ、顔面を地面で思いっきりぶつけ、動かなくなる。

まさちんの目標が、残り二人の男に向けられる。

二人の男は、一瞬怯んだ。
そのスキに、まさちんは、一人の男の腕を取り、その手に握りしめられていた銃を取り上げた。
鈍い音が聞こえる。
男の腕は、見慣れない感じに折れていた。そして、腹部に拳をお見舞いする。
目にも留まらぬ早さだったため、最後の一人は、あっけに取られていた。ふと何かの気配を感じ、目線を移すが、目の前が真っ暗になる。
男は、その場に崩れ落ちた。その男の後ろには、まさちんが、銃を片手に持っていた。どうやら、男の後頭部を銃で殴りつけた様子。
倒れる男達に、持っていた銃を放り投げるまさちん。

「ふぅ〜」

一息ついたまさちんは、真子が向かった方向を見つめ、走り出す。

「!!!!」

角を曲がろうとした時だった。目の前を何かが過ぎる。まさちんは、寸での所でそれを避けていた。
まさちんの腹部に目掛けて、目の前を過ぎった物が、突き刺さる。

「あまいな…」

まさちん目掛けて突き出されたのは、日本刀だった。
まさちんは、脇腹に抱え込むようにそれを受け止めていた。
男は、日本刀をまさちんから抜こうとするが、素早く柄を掴まれ、日本刀を取り上げられた。まさちんは、峰打ちをして、その男を気絶させ、日本刀を持ったまま走り出した。




まさちんは、建物の影に人の気配を感じ、日本刀を向けた。相手も同じように日本刀を向けていた。

「く、組長…」
「まさちんかよぉ。驚かすなって」
「すみません…組長!! お怪我を…」

まさちんは、日本刀を向ける相手が真子だと解った途端、気を緩め、真子を見つめた。
真子は、日本刀を左手に持っている。ふと気になり、真子の右腕に目線を移した時、真子の指先から滴り落ちる赤いものに気が付き、素早く真子の右腕にハンカチを巻いた。
真子は、安心したような表情でまさちんを見つめ、そして、言った。

「ありがとう。ところで、奴らは?」
「六人仕留めました。残りは七人です」
「なら、あと一人か…。私は、六人倒した」
「……組長…」

まさちんは、真子の言葉を聞きながら、何かの気配を感じ、目線を移した。
そこには、残りの一人が銃を片手に立っていた。
ゆっくりとその敵に向かい合った真子とまさちんは、お互い、目で合図する。
次の瞬間、敵は引き金を引いた。
銃弾は、まさちんの右肩に当たる。そのまさちんの影から、真子が日本刀をやり投げのように投げた。

「う…ぐっ………」

真子が投げた日本刀は、男の腹部を突き抜けていた。その場に力無く倒れる敵。
真子は、まさちんの右肩の傷を押さえていた。

「ごめん、まさちん…治せないや…」
「…使わない約束ですよ。…それに、これくらいは、
 痛くもかゆくもありませんから」
「ったく、無茶するなって、いつもいつも言ってるやろ!」
「すみません」

真子に怒られるまさちんだった。

「組長! 組長!!」
「組長、ご無事ですか!!」

大勢の足音が聞こえてきた。須藤組、川原組、藤組の組員達が駆けてくる。

「大丈夫だよ、ありがとう」
「…組長ぉ〜、残していてくださいよぉ〜」

せっかく応戦に駆けつけた組員達は、辺りを見渡し、既に、戦い終わっている状況にがっくりしていた。

「…遅いんだよ!」

真子は、微笑んでいた。

「っつーーー……」

真子が、突然声を挙げる。

「組長!」
「ん? あぁ、ちょっとね…」

暗がりで見にくかった為、まさちんは、真子の額の傷に気が付かなかった。
左の額から、血が流れ始めたことに気が付いた真子は、傷口を押さえながら、平気な顔で言う。
まさちんは、真子を抱きかかえ、駐車場に向かって勢い良く走り出す。
須藤達もそれに続いて走っていった。
遠くでサイレンの音が聞こえてきた。
敵の男達は、痛さで動けずにその場でもがいている。
そこへ、警官達がやって来て、男達を連行していった。




橋総合病院・真子愛用の病室。
何事も無かったようにスヤスヤ眠る真子の傍らにはまさちんが、右腕を三角巾で吊って座っていた。そして、病室には、もう一人。
少し怒った表情をして、まさちんを睨んでいる真北が立っていた。

「それで?」
「二手に分かれて…。ですから、組長が一人の時の状況は全くわかりません」
「なんで二手に分かれたんだよ!!」

真北は、静かに怒鳴る。

「追いかけましたよ! だけど、あの状況では、二手に分かれるしか
 ありませんでした。すぐに組長の場所は解りました。銃声で」
「あの5人の場所か。しかし、敵もあほだよな。お互いに撃ち合うなんてなぁ。
 そして、顔面に靴跡。まさちんが居た場所では、六人とも、素敵な骨折と銃痕。
 …ったく、お前はぁ〜。いつになったら歯止めが効くんだよ」

真北は、頭を掻いていた。

「すみません…。六人いっぺんに掛かってきたので一人の腕を取って、
 そして、その腕にある銃で……それから、こう…ボキッっと…」
「……説明はいい…。それより、心当たりは?」
「ありません。ここんとこ、平和ですから」
「そうだよな。例の奴らも居なくなって、俺の仕事も減ってきたんだけど、
 …また、増えそうだなぁ〜。参ったなぁ」

真北は、本当に困っているようだった。

また、真子ちゃんに心配を掛ける事態になりそうだな…。

真北は、軽くため息を付いた。
まさちんは、真子を見つめたまま、真北の言葉を聞いていた。
そして、左手でそっと真子の頭を撫でる。

「…真子ちゃん、能力使わなかったのか?」
「使えなかったようです。その…傷で…」
「傷があっても使えるはずなのにな」
「出血がひどいと無理のようです」
「なら……」
「真北さん、それは、あまりにも非道すぎますよ」

まさちんは、真北の言葉を遮るように言う。

「俺は、まだ、何も言ってないのにな」
「冗談にもほどがありますよ。組長が能力を使えないのなら、
 いっそのこと、ずっと怪我をしていて欲しいなんて…」
「……ごめん…」

素直に謝る真北。

図星かよ…。

「ま、兎に角、探ってみるか」

真北は、病室のドアを開けた。

「真北さん」
「あ?」

振り返る真北。

「決して、無理なさらないでください」

真北は、『大丈夫だ』っという風に右手を挙げて、ウインクして、病室を出ていった。

「はふぅ〜」

真北がドアを閉めても、暫くドアを見つめていたまさちんは、ため息を付いて、椅子の背もたれにどかっともたれかかり、上を向いて、一点を見つめていた。





ライは、ホテルのラウンジで、ワインを飲んでいた。
階下に広がる街の灯りを見つめる。そして、窓に映る自分の姿。その後ろに一人の男が立った。

「失敗したな」
「申し訳ございません。奴ら、使えませんね。まさか、意味を
 間違えるとは…。阿山組を狙えが、真子様を狙えになるとは…」
「だから、言っただろ。下っ端を使っても無駄だと」

ライは、ワインを飲み干した。
カイトは、ライのグラスにワインを注ぐ。
ライは、そばにあるもう一つのグラスをカイトに差し出した。
カイトのグラスへ、ワインが注がれる。

「彼女は、傷つけるなよ。…今回、傷を付けた奴は?」
「既に…」
「……そうか。流石、カイトだな」
「恐れ入ります」

二人は、階下に広がる街の灯りを見つめる。

「早く、彼女に会いたいな」
「もう暫く、お待ち下さい。次こそは…」

ライは、カイトの言葉を聞いて、不気味な笑みを浮かべ、ワインをグラスの中で回し始める。

「青い…光…か」

白いはずのワインが、街の灯りで、青く光っていた。
ライは、そのワインを一気に飲み干した。



(2006.7.21 第五部 第一話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


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