任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第五部 『心と絆』

第四話 抑えた感情が、浮き立つ時

サイレンの音が突然響き渡る橋総合病院。
橋をはじめ、看護婦や医者が、慌ただしく病院内を駆けまわる。
次々と運ばれてくる患者。
どの患者も見覚えのある顔ばかり。

「川原組組員と藤組組員?」

病院内を慌ただしさが気になった真子は、くまはちの病室から廊下へ出て、様子を見に行った竜見から、運ばれてきた患者が誰かを聞いて、顔色が変わった。

「キタで一般市民を襲い始めたところを停めに入ったらしいんですよ」
「…真北さんたちに任せて大丈夫かな…」

真子の眼差しが、五代目を醸し出す。

真北さん達に任せる。
それは、真北の仕事=警察に任せるということだった。
しかし、状況を聞いただけで、最悪の事態になっていそうな予感がする真子。
病室のドアが開いた。

「やめろって、くまはち!」
「うるせぇ。俺は、もう大丈夫だ」

くまはちが起きあがり、病室を出てきた。
そんなくまはちを、まさちんとぺんこうが、必死になって引き留める。
そんな事で、引き下がるようなくまはちではない。
二人の手を振り払って、真子の前にビシッと立つ。

「組長、ご指示を」
「くまはち、お前…組長に……」

組長に何を言うんだよ…。

五代目の雰囲気。
まさちんやぺんこうよりも、先に感じ取ったくまはちだった。
まさちんは、廊下に出て、初めて、真子の五代目の雰囲気を肌で感じた。まさちんまでも雰囲気を変える。

「お前ら…真北さんに任せておけよ…」

ぺんこうが、そう呟いても、もう遅い。
真子の雰囲気に感化されるくまはち、まさちんたちは、真子の指示を待つ。
真子が、ぺんこうに振り向いた。

「…真北さん達に怪我してもらいたくないからね」

真子は、にっこりと微笑む。

「それでしたら、私も…」
「ぺんこうは、ここで待ってて欲しい。…真北さんのことは、
 私達で守るから。…だから…安心して…」

真子の表情でぺんこうは、真子の優しさを感じる。

「行くよ」
「はっ」

真子が一歩踏み出した。
まさちんたちは、真子を追うように、歩いていく。少し遅れてぺんこうが、付いていった。



「わかった」

玄関先で、真北は携帯の電源を切り、懐になおしている真北に近づく真子達。
真北が、振り返る。

「真子ちゃん…」
「……行くよ」
「待って下さい。これは、我々の仕事です」

真北は、真子の前に立ちはだかり、歩みを停めた。

「一般市民が襲われて、そして、藤さん達までも怪我したんだよ。
 黙ってみてられないでしょ」
「くまはち、お前、休暇を…」

真子の後ろにいるくまはちを観る真北。

「休暇は返上しましたよ。…橋先生の許可もいただきました」

玄関まで来る途中で慌ただしく患者を診る橋に許可をもらえるわけがないはずなのに、くまはちは、真北の言葉を遮って、力強く言った。

「しかし…」
「私達が、奴らを抑えるから、その間、真北さんは、一般市民を
 守って欲しい。…いくらなんでも私達は、そこまで手は回らない。
 それに、一般市民を守るのは…真北さんたちの仕事でしょ?」

真子の言葉に、真北は躊躇う。

真子ちゃんを危険な目に…遭わせたくない!!

「何を躊躇ってるんだよぉ。ほら、行くよ!!」

真子は、真北の腕を強引に引っ張って、駐車場に向かっていった。
真子、真北は、まさちんの車に、くまはち、虎石は、竜見の運転する車に乗り込んだ。
病院の玄関には、ぺんこうが、真子達を見送っていた。
そのぺんこうに向かって軽く手を挙げて、去っていく真子。

「…俺も、阿山組組員なんだけどなぁ〜」

ぺんこうは、寂しそうに呟く。

「その前に教師だからな…」

最後の救急車が到着した。





大阪で有名な大通り。普段は、車がひっきりなしに走っている道路だが、その道路は、一部、通行止めされていた。
キタからミナミにかけて、赤色回転灯がたくさん光っている。
野次馬として、集まり始めた人々も、あまりの惨事に驚き、その場を去っていく。


警官達が、キタで大暴れしたチンピラたちをミナミの繁華街に通じる入り口で阻止。
衝突する二つの塊。
チンピラたちは、何処へ向かおうとしているのか…。
先に進めず苛立ち始めたチンピラは、周りに群がる見物人に、矛先を変えた。
警察達の中に、原が居た。

「お前ら、いい加減にしろ!!! 落ち着け!」

原がチンピラたちに叫ぶ。
怒りの真北にそっくりな眼差しで、チンピラ達に怯むことなく、立ち向かおうとしたその時だった。
原の眼差しが、緩んだ。

「真北さん。…真子ちゃんまで…。半分、一般市民を保護しろ!!
 恐れるなぁ!!」

原は、真北の姿を見て、そして、真子達、阿山組組員達が、チンピラたちを抑えに入った姿を見て安心したのか、市民の保護へ指示を出す。



チンピラ達と格闘する真子達。
まさちんから連絡も受けた須藤組、谷川組が、合流し、次々とチンピラ達を抑えていく。
その様子を見せないように警官達は、一般市民の視野を遮るように立っていた。



騒ぎが収まった。

チンピラたちは、地面に倒れていた。
一息ついた真子は、格闘中にちらりと見えたチンピラ達の腕が気になり、そっと袖をめくりあげた。
そこには、緑色のあざが付いている。

「…真北さん、サイボーグ打ってるよ、こいつら」

真子は真北に静かに告げた。

「サイボーグを??」

真子の言葉に真北は、力無く横たわるチンピラの腕を一人一人確認していた。

「…本当ですね。一体、何が…?」



見物人の中に、金髪で白地にストライプが入ったスーツを着た男が立っていた。
カイトだった。
見物人の間から、警官の向こうで繰り広げられた光景を見つめている。そして、その視線は、真子の姿に集中する。
周りに居る組員達に指示を出しているような真子。
怪我がひどいはずのくまはちが、真子に何かを言っている。
諦めたような表情で、くまはちに何かを言う真子。
地面に力無く横たわるチンピラたちを警察が連行していく中、真子は、真北と原に何かを言って、組員達と去っていった。
真北と原が真子達を見送っている。

「第二作戦開始だ」

カイトが、後ろに隠れるような感じで立っていた黒服の男に静かに指示を出す。
男は、会釈をして、何処かへ連絡を入れた。
ニヤリと笑ったカイトは、その場をゆっくりと去っていった。




真子達は、暴れた連中が、青虎組の末端組織の者だと解っていた。
なぜ、そのような行動に出たのか、それを確かめる為に、青虎組組事務所へ向かったのだった。
その青虎組組事務所の前で、話し合っていた時だった。

「…あれは、阿山組系…ですね?」

虎来が、真子に言った。

「えぇ。…虎来さん達は、中へ入って下さい。私達で…」
「それは、出来ませんなぁ〜。我々、青虎組を狙っている様子ですよぉ」

その通り。
青虎組組事務所に向かって阿山組系末端の組と思われる男達が、日本刀片手に襲いかかってきていた。
中には、銃を持っている者も居た。
その銃口が、虎来に向けられた…!!!




銃声。

男が、力無く地面に倒れる。
体を起こそうとするが、力が入らず、すぐに倒れてしまう。
男は意識があるのか、目線は、目の前に歩み寄った男に向けられた。

「大成功っと。ほんと助かるよなぁ。ここまで研究設備が整っていると
 今まで1年はかかったと思われる研究もわずか1ヶ月か」

そう言って、不気味に微笑む男こそ黒崎竜次。
竜次は、銃を片手に持っていた。
もう一つの手で、地面に横たわる男の腕を掴みあげる。
手を離すと、ストンと地面に落ちた。

「これなら、血を見ずに、気にせずに出来るってことだ。っくっくっく…」

竜次は、不気味に笑いながら、その場を去っていった。




青虎組組事務所の前から去っていく阿山組。
誰も居なくなった時だった。
カイトが、近くを通り過ぎた。

「ここでも、阻止か…。真子様の力は、凄いですね。
 しかし、離れた場所での行動は、阻止できないでしょう。
 落ち込むのも時間の問題ですね…。ライ様、もうすぐですよ」

カイトの姿が、その場でスゥッと消えた。




阿山組本部。
どこからともなく、変な音が聞こえてきた。

ドッカァーン!!!!! ゴォ〜〜!!

「な、なんだ?!」
「火事だ! 組長のくつろぎの場所です!!!」
「なにぃ?!」

突然の火災に、冷静な行動に出て、急いで火を消す組員達。
門番は、いきなりの攻撃に、慌てて門を閉め、辺りの様子を観に、外へ飛び出した。

鎮火…。

真子のくつろぎの場所は、黒こげになっていた。
真子がいつも居る場所が、一番激しく燃えていた。

「こんなことって…」
「一体誰が……」
「桜の木は無事でよかったよ…。…怪我人は居ないか?」
「みんな無事だ」

組員達に怪我人が出なかったことは喜ばしいことだった。
しかし…。

「許さねぇ。…誰が狙ったのか、直ぐに調べろ!…出動する…」

山中が、真子のくつろぎの場所を見つめながら、静かに指示を出す。
山中に怒りのオーラが現れ始めた。
山中が、怒る…。





AYビルの前にある、木々豊かな場所。
そこに設置してあるベンチに腰を掛けて、片手に持ってる小型の画面を見つめているライ。
何やら、ニヤニヤしていた。

「オーマイガッ!!」

画面を閉じて、ため息を付くライ。画面の裏には、AYAMAという文字が刻まれていた。

「難シイデス、真子ォ」

呟くように言ったライだった。




AYビル・真子の事務室。
真子は、今回の事件を振り返っていた。

サイボーグの出所は、一体何処だ?

真北さんの情報からだと、サイボーグは、数年前に全部回収されたはずだった。しかし、真子は、自分に使用されたことがあった。
それから考えると、闇で出回っていることは、確かだった。
真子に使用された時は、警視庁に保管していた物をあの男が、こっそりと持ち出していた。

「まさか…生きているのか?」

真子は、自分の考えが恐ろしかったのか、頭を抱え込む。

「組長!!!」

まさちんが、慌てたよう駆け込んできた。

「どしたん?」
「…組長、本部が襲撃されました」
「はぁ?!?! 被害は?」
「怪我人は居ません。しかし、建物が一部損傷したそうです。
 その、…組長のあの場所が…」
「…ほんと?」

真子の表情が曇る。

「組員達が、殺気立っているようです」

まさちんの言葉で、この先に起こす行動が解った真子は、

「…直ぐに本部へ向かうよ」

素早く口にした。

「はい」

真子とまさちんは、急いでAYビルを飛び出していった。





阿山組本部。
組員達は、特殊部隊の装備を始めた。
その中で、純一だけは、反対していた。山中に駆け寄る純一。

「山中さん! 組長に怒られます!」
「…組長が狙われたも同然だ! もし、あの場所でくつろいで居たら?
 …組長の命が亡くなっていたかもしれないんだぞ」
「でも、特殊部隊の出動は!!」
「これは、我々の問題だ。東京方面は私に任されているんだ。
 やられたら、やり返す。しかし、犠牲は少なくな。
 …純一、覚悟を決めろ。相手は、お前の親父だぞ」
「…違う…違う!!! 親父じゃない!!」
「これは、仕方のないことだ!」

山中は、純一に背を向けて、去っていった。



阿山組特殊部隊が、車に乗り込む。
本部の門が開いた。

「出動!!」
「おう!!」

特殊部隊が出動した。
阿山組の本部から、次々と車が出てきた。
あまりの数の多さに近所の人達は、家の中から、その様子を見つめるしかできなかった。
先頭の車に乗っている山中は、怒りを必死で抑えている。

「山中さん、向かいからタクシーが来ます…。
 …って、降りてきたのは、組長です!!」
「な、なに?」

山中が、身を乗り出して、前を見た。

「うわぁ、組長!!!」

運転手は、前に立ちはだかる真子をみて、急ブレーキを踏んだ。

間に合わなかった……。

ボンネットに両手を付き、立ったままの真子を数メートル引きずってしまった。
車が停まった反動で、真子の姿が、ボンネットから消える。
まさちんが、タクシーから降りて駆け寄って来た。


轢いてしまった……。

運転手が恐る恐る目を開けた。
後ろに続く車から、組員達が降りてくる。先頭の車に乗っていた組員も降りた。
真子は、立っていた。

「よかった…」

轢いてしまったと思った組員は、安堵感を覚えた。

「どちらへ、お出かけ? こんな大勢で。…その戦闘服は?」

真子は、にっこりと微笑んでいた。

「こ、これは……」

何も言えない組員達。そこへ、山中がゆっくりと車を降りて真子の前へやって来た。

「組長」
「…言ったよね。出動させないでって。まさか、忘れたとか?」
「覚えておりますよ。ついこの間のことですから」
「なのに、これは、何?」

真子が指さしたところは、本部前に通じる道路を阿山組の特殊部隊の車が埋め尽くしている光景だった。

「…本部が襲われたんですよ」

山中が静かに言う。

「怪我人は居なかったんでしょ?」
「組長のあのくつろぎの場所を狙われたんですよ? もし、そこに
 組長がおられたら…。それから予測すると、組長を狙ったのと
 同じ事なんですよ。我々は、組長を狙われて…」
「私は、何も無かったんだよ? こうして、無事なんだから。
 なのに、もし…ということで、こんな行動を起こすわけ?」

山中の言葉を遮るように真子が言った。

「やられたら、やり返す…。これが、我々なんです」
「やられたら……やり返す…??……!!!」

真子の拳が、山中の頬にぶち当たった。
突然の衝撃に、驚く山中。

「く、組長…」
「…まだ、そんな風に、命を粗末にするようなことを…
 なぜ、なぜ…わかってくれないの? いつになったら、
 そんな考えを止めてくれるの? 山中さん…」

理解してくれたと思ったのに…。

真子は、哀しみを通り越して、怒りが沸々と沸き上がってくる。
真子の拳は震えている。
青虎組の前で銃弾を受け止めた真子の左手。そこに巻かれている包帯が赤く滲み始めた。
真子の拳に気付かない山中は、静かに語り出した。

「…極道は、そういう世界で生きているんです。そんな世界で
 長く過ごしてきた私達にとっては、組長の望む世界では、
 生きていけません。…組長も、それは、ご存じのはず…」
「よく知ってるよ」

真子は、山中の言葉を遮って、静かに応えた。

「……だけどね、感情にまかせて、行動に出たら
 いつかきっと…自分に跳ね返ってくるだろ? …言ったじゃない。
 私は、大切な者を…失いたくないって…。私の為に、命を
 粗末にしないで欲しいって…」
「わかってますよ。だけど、今回ばかりは…」
「駄目だ。これは、私の命令だ!」

山中に発言の余裕を与えようとしない真子。

「…命令には従えません。もしもの時を考えたら…」

山中は、反発する。

「じゃぁ、もし、私があの場所に居て、命を落としていたら、
 このように、すぐに、出動するってこと?」
「当たり前ですよ。…我々の大切な人を狙ったんですから」
「…そんなことを、当たり前って言わないでよ…、山中さん…」

真子の目は、哀しみに包まれた。



「ま、真子ちゃん…」

真子と親しく話す近所のおばちゃんが、自宅の窓から、この様子を心配そうに見つめていた。
その表情が、急に変わった。
階下に見える道路を埋め尽くすように停まっている車。
その車の横を何かから逃げるように走り出し、本部へと入っていく阿山組組員達。
おばさんは、目線を組員達が逃げる方向とは反対の方へ移した。
真子が、組員達を殴り倒しながら、本部へと向かって歩いていた。
先頭の車の横では、山中が、気を失って倒れている。北野が山中を介抱しながら、真子を見つめていた。

仲良しのまさちんに引き止められた真子は、まさちんの腕を振りきり、組員達を次々と殴り倒していく。
まさちんは、真子を観ているだけで、停めようとしない。

真子ちゃん…。

おばさんは、急いで下に降り、外へ飛び出した。そして、逃げ惑う組員の流れに逆らって歩き出す。

「真子ちゃん!!」

組員を殴り倒した真子は、その組員の胸ぐらを掴んだまま、その声に振り返る。
その目は、哀しみに包まれていた。

「真子ちゃん、もういい。止めなさい…。みんな、反省してるから
 …反省してるから…。ね、真子ちゃん」

優しく語りかけるおばさん。しかし、真子は、首を横に振り、次の組員に目を移す。
真子と目が合った組員は、恐怖からか銃を真子に向けた。
その銃を蹴り飛ばす真子。

「…私に向けるとは…な……」
「く、く、く…ひぃぃぃぃ〜っ!!!!」

真子は、組員を一発殴って気絶させた。そうやって、真子は、どんどん組員を気絶させながら本部に近づいてきた。

「真子ちゃん、やめなさい!! 真子ちゃん!!!」

おばさんの声で我に返るまさちん。

「組長ぉ〜〜〜!!!!!!」

まさちんの叫び声が辺りに響き渡る。
真子は、停まった。
ゆっくりとまさちんに振り返る。
まさちんは、勢い良く駆けて来た。

ガシッ!

まさちんは、力一杯、真子を抱きしめる。

「組長、もう、止めて下さい…組長……」
「…止めない…。今度ばかりは、…許さない…」

まさちんは、真子を離さなかった。真子は、まさちんから離れようと必死になる。

「…離せ…私は、まさちんを…殴りたくない…」
「組長が、やめるまで、離しません…」
「まさちん……」

真子は隙を見て、まさちんの腕からすり抜けた。
まさちんは、真子を捕まえようと手を伸ばし、抱きしめる。
真子は、まさちんから、離れようと体をひねり、離れた瞬間、拳を差し出した。
まさちんは、真子の拳を抱きかかえるように捕らえる。

ドッ!

真子の蹴りがまさちんの脇腹に入った。
その攻撃を予測できなかったのか、まさちんは、まともに蹴りを喰らっていた。
その勢いでまさちんは、門の前に停まっている車にぶつかる。

「うぐっ……」

真子の怒りは納まらない…。

「手を…出すな…」

真子は静かにまさちんに言った。



真子に対する恐怖に組員達は、真子を阻止するために、門を閉め始めた。真子は、閉まり始める門に手を掛け、それを押し開け入っていく。

「組長……」

真子に蹴られた脇腹を押さえながら、まさちんは、真子を追っていく。



おばさんが、心配そうに本部の門の所から、中の様子を伺っていた。
中からは、うめき声、真子の怒鳴り声、逃げ惑う足音が聞こえてくる。

「真子ちゃん……」

おばさんの周りに、いつの間にか、近所の人々が集まっていた。




本部に入ってきたまさちんは、眉間にしわを寄せた。
組員達が横たわっていた。誰もが気を失っている。
気付いた組員は、呻きながら、体を起こそうとしていた。
玄関から中へと入っていく。
そこにも組員が横たわっていた。
廊下の先に目をやる。
真子が向かっていったのが解る程、組員が横たわっていた。
まさちんは、横たわる組員の容態を確認しながら、廊下の先へと向かって歩み続ける。
まさちんの足は、真子のくつろぎの場所近くで停まった。

組長…。

くつろぎの場所で、桜の木を見上げている真子の姿に気付いた。目線はゆっくりと、真っ黒に焦げ、荒れた庭に移された。

「組長…?」

まさちんが、ゆっくりと近づく。

「…ほんとだね…。私が、ここに居たら、きっと……。でもね、まさちん。
 それでも、みんなが、私の為に、出動することは許せない…許せないよ…」
「暴力を反対する組長が、みんなに暴力を向けてどうするんですか?
 …これ以上は、止めて下さい」

震える声で、まさちんが言う。

「組長」

まさちんの声に、真子は全く反応しない。まさちんは、真子を見つめる。

「…止めないのなら、私が、組長を…」
「いいよ…殴ればいい。…どうせ、暴力には、暴力でしか
 説得できないんだから」
「…優しさの暴力だって…あります」

バシッ。

まさちんは、真子の頬をひっぱたく。
真子は、動じなかった。
まるで、まさちんの平手打ちを待っていたかような顔をしていた。
真子の頬を、一筋の涙が、伝っていく。

「誰よりも、哀しんでいるのは、解ってます。
 ですが、その哀しみをぶつけるなんて……」
「…謝らないからね…。今回のことは…。絶対に」
「いいですよ。組長が、しなかったら、私がしてましたから」

まさちんの声は、とても優しく真子の心に響いていた。

「…まさちん……」
「はい」
「ありがと…」
「…ここだって、直ぐ、元通りになりますよ」
「…そだね……」

まさちんは、そっと真子に近づき、真子の頭を自分の腕に包み、自分がひっぱたいた真子の頬を優しく撫でる。

「すみませんでした。…大丈夫ですか?」

真子は、そっと頷いた。

「後始末はどうされますか?」
「……知らん」
「ったく、組長はぁ〜」

まさちんは、優しく微笑んでいた。真子は、俯き加減で泣いていた。
まさちんの手が、真子の目をそっと塞ぐ。
まさちんは、振り返る。そこには、組員達が二人の様子を見つめて立っていた。

『介抱してやれ』

まさちんの口の動きで、組員達は、表や廊下で倒れている組員達を介抱し始めた。




真子は、廊下から、くつろぎの場所を眺めていた。
その後ろ姿を見つめるまさちん。

「組長の笑顔を奪うような奴は、俺が許さない…」

まさちんの拳が震える。
そのオーラは、真子と出逢う前の荒んだ時期と同じ雰囲気を醸し出していた。



(2006.7.24 第五部 第四話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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