任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第五部 『心と絆』

第五話 呟かずには、いられないっ!

真子の自宅・真子の部屋
ドアがノックされた。

「組長、よろしいですか?」

まさちんがドアを開けた。しかし、部屋の明かりが消えている事に気が付き、真子が眠っていると思ったのか、そっとドアを閉める。そして、リビングへと降りていった。
リビングには、真北、そして、くまはち、ぺんこうが座っていた。

「どうだ?」

真北が尋ねる。

「眠ってます」
「…そうか…。しかし、山中から聞いた時は驚いたぞ。なんで
 まさちんは、止めなかったんだよ」

真北が不機嫌そうに言った。

「あの速さは尋常ではありませんよ。誰も止められなかったでしょう。
 あの…赤い光に支配された組長よりも、すごかったですから」
「…あの時よりも、更に凄かったのか?」

ぺんこうが驚きを隠せないような口調で言った。

「あぁ。すみません…組長を叩いてしまいました…」
「その場合は仕方ないだろ」
「はぁ……」

まさちんは、落ち込む。

「兎に角、くまはちのライに関する情報は別として…、
 誰かが、阿山組を挑発しているとしか思えないんだよな。
 今更、誰が、そんな無謀な事を行おうとしてるのか。
 その辺りに、ヒントが隠されているだろうな」

真北が、髪を掻き上げた。

「ところで、ライの行動は?」
「毎日、ビルの前のベンチでAYAMAのゲームをしている
 だけなんですけど…。その様子が、なんだか怪しくて…」
「ゲーム?」
「あの形状から推測すると、恐らく、ソフトはまだ、一つだけ
 ですから……ニューワールド…だと…」
「それは、あまりにも過激だからと組長が発売中止にした物だろ?
 なんで、持ってるんだよ…ライが」
「…そうなんですよ…そこが怪しくて…。ビルにしょっちゅう出入り
 しているから、AYAMAの社員とも親しくなっているかも
 しれません。だから、入手できたかと…」
「ニューワールドって?」

AYAMAの仕事に関しては、全く触れていない真北が尋ねる。

「ゲームセンターにある射撃ゲームを基に作られたRPGですよ。
 敵を次々と倒していく…。って、確かそんな内容だったような…」
「それだけじゃないよ。隠れワザに、ドーピングがある。薬で
 自分のパワーをアップするんだ。そして、敵対する組織に
 自分の仲間を送り込んで…襲撃する……」

真北たちの話を聞いていた真子が、リビングに入ってきて、説明を続ける。
真北にニューワールドの説明をしていた真子は、何かに気が付いた。

真子の脳裏に一連の事件が過ぎる。
キタ、ミナミで暴れるチンピラ、そして、敵対する組に殴り込む仲間、そして、襲撃……。

「…ニューワールドの内容そのもの…?」
「…そのものって、一連の事件がですか?」
「うん…。じゃぁ、誰かが、そのゲームの内容を盗んで、そして、
 一連の事件を起こしたっていうの? …って犠牲になったのは、
 全部阿山組だよ…。やっぱり、阿山組に対する挑戦??」

真子の発言に真北達に緊張が走った。それぞれが、あらゆる方向を見て、何か考え込む。
その様子を見た真子は、急に笑顔を見せた。

「取り敢えず、ライに逢って、それとなく探ってみるね。
 思い過ごしだったらいいんやけどさぁ」
「そうですね。だけど、真子ちゃん。あまり、危険なことは、
 避けて下さいね。危険を感じたら、直ぐに…」
「ご安心を! 大丈夫だから」

真子は、笑顔でサムズアップをして、リビングを出ていった。
真子が出ていった後、リビングは、怪しい雰囲気に包まれていた。

「…こんな時でも、笑顔か…」

真北が呟いた。

「それが、組長ですから」

まさちんが続いて呟く。

「少しは、落ち着きましたよ」

ぺんこうが言った。

「だけど、俺は、気になるよ…」

くまはちは、真剣な眼差しで真北達を見つめていた。
真北は、目を瞑りながら、

「…くまはち、無理するなよ…」

静かに言った。
その言葉を耳にした途端、まさちんとくまはちは、それぞれ、ゆっくりとリビングを出ていった。
真北とぺんこうが残ったリビング。ぺんこうが口を開いた。

「益々、染まっていきますね」

ぺんこうの言葉に、怒りの目でぺんこうを睨み付ける真北。しかし、その目は、突然、瞑られる。

「…真子ちゃんを、かっさらってくれ…」

真北が呟いた。

「ま、真北さん…?!」
「…俺が、堪えられない…。これ以上、真子ちゃんの哀しい目をみたくない…。
 無理する時に見せる、笑顔もみたくない…させたくない…」

真北が、ぺんこうに弱音を吐いていた。

「ど、どうされたんですか?」

ぺんこうは、驚く。

「…俺が、完全でないことくらい、解っとるやろ…」
「はぁ…」
「…俺…暴走しそうや…」
「真北さん…」
「言っとくがな…慶造と知り合う前の俺じゃないぞ…。真子ちゃんを守る
 男として…だよ」

ぺんこうは、少し落ち込んだような真北を見つめる。

「あなたが怪我をしたとき、組長、狂いますよ」

静かに言うぺんこうにちらりと目を向ける真北。

「…そうだよな…。…お前は、暴走するなよ」
「戻りません。…何度も言わせないで下さい」
「あぁ」

真北は、ゆっくりと立ち上がり、リビングを出ていった。

「ふぅ〜。…ったく…あまり言われると戻りそうや…」

ぺんこうは呟いた。

しかし、もしもの時は…。

ぺんこうは、自分の考えを否定するように首を振る。そして、部屋の後かたづけをして、チェックをした後、リビングの電気を消し、出ていった。
自分の部屋に戻り、次の日の用意をした後、ぺんこうは、ベッドに身を沈めた。





AYビル・受付前。
珍しく、まさちんが、話し込んでいた。しかし、まさちんの目線は、玄関先に居る真子に向けられている。

「気になるんですか?」

ひとみが、まさちんに語りかけた。

「えぇ」

組長と一緒にいるライが…ね。

まさちんは、それ以上言わなかった。
真子は、ライに笑顔で手を振って、AYビルに入ってきた。
受付前に居たまさちんに駆け寄り、真剣な眼差しで口を開く。

「ライと、自然一杯の所に行ってくるから」
「組長…やはり、ライと二人というのは…」
「大丈夫だよ。主人公は、旅先で、知り合った人に心情を打ち明ける。
 その人は、主人公に涙する…。そして、心を改める…っていうのが、
 エンディングだもん」

真子は、あっけらかんと言い放つ。

「心配です…」
「まさちん。ありがとう。でも、私が動かないと…先に…進まないでしょ?
 だから…大丈夫だから…」

不安げな顔をしているまさちんを見つめる真子。
その表情で、真子の意志の堅さを悟るまさちんだった。




次の日。
真子は、ライの運転する車に乗って、ライの言う自然の素敵な場所に向かって行った。
いつまでも心配そうに見送るまさちん。

「組長…どうか…ご無事で…!!!」





AYビル・まさちんの事務所
まさちんは、ぼぉぉぉぉっとしていた。
真子がライと出掛けてから、まだ、一日しか経っていない。真子を見送ってから、まさちんの表情は、呆けている。
そんなまさちんの目の前で手を振るくまはち。

「あかん……。しゃぁないか」

くまはちは、呟きながら、まさちんをほったらかしにして、組関係の仕事をこなしていった。
くまはちの携帯が鳴る。

「なんやぁ?」
『開口一番に、その口調はないやろぉ〜』

電話の相手は、健だった。

「で、どうや?」
『ライは、世界的有名な研究者や。だから、警護もすごいんちゃうか?
 世界のあちこちで、狙われているみたいやな』
「なんか、やばいことを研究してるんか?」
『組長の能力のことを主に研究してるよ。その能力に対する反対者が
 狙ってるようだな』
「そうか…。…組長にかけるしかないか…。くそっ」
『くまはち、無茶するなよ。組長が戻るまでに、詳しく調べておくからな。
 だから…、別のことに精を出せよぉ』
「…そうやなぁ。ライのことは、お前に任せて、俺は真北さんの仕事を
 手伝うかぁ」

電話の向こうで健がずっこけた。

「健?」
『ほんまに、好きやな、体動かすのん。…まだ、怪我は完治してへんやろ?』
「動いとかな、傷も治らへんやろ。ほな、よろしくな」

くまはちは、電源を切って、携帯電話を懐になおした。
まさちんを見るくまはち。
まさちんは、ギロリと睨んでいる。

「なんや?」
「…無茶すんなよ」
「解ってる。…真北さんが心配なんや。真北さんの身に何かあると
 組長が心配するからな。そんなことのないように、しとかんと…」
「お前は、忙しい奴だなぁ。真北さんまで守る必要あるんか?」
「あぁ。阿山家にとっては、大切な…失ってはいけない人物だからな。
 お前は、組長を守ることだけに専念してくれよ」

そう言って、くまはちは、まさちんの返事を聞かずに、まさちんの事務室を出ていった。まさちんは、呆れたように、閉まるドアを見つめる。

「わかってらぁ〜それくらい」

まさちんは、デスクの上の書類を手に取る。
その途端、

「……組長…」

まさちんの心は、何処かへ飛んでいく………。


その頃、真子とライは、大自然が豊かな湖の側で語り合っていた。
真子の笑顔は、湖の水面に負けないくらい、輝いていた。





阿山組本部
山中が、真子のくつろぎの場所を見つめていた。
ため息をつく山中。

「…これじゃぁ、組長が戻ってきても、くつろげないな…」

山中に駆け寄る純一。

「山中さん…すみません…」
「あん?」
「…狙ったのは、…やはり、俺の親父…です」
「そうか…」

山中は、何も言わなくなる。純一は、何かを堪えるかのような表情をして、くつろぎの場所を見つめた。

「純一」
「はい」
「覚悟…できてるんか?」
「……できてます…。まさか、また…」
「あぁ。組長に停められても、これだけは…な」
「山中さん…」

落ち込む純一をその場に残し、山中は去っていった。
純一は、ゆっくりとくつろぎの場所に降り立った。
未だに黒こげのままの庭。
純一は、握りしめる拳に力が入る。

「くそっ!!」

純一の苛立ちの声は、本部内の組員に届いていた。
それは、あの柔らかい表情をした純一の顔に、怒りの表情が現れた瞬間でもあった。
純一は、きびすを返して部屋へ戻り、引き出しから何かを取りだし、それを懐に入れる。
そして、本部を出ていった。


懐に隠したもの。
それは、真子を襲ったあの日、手にしていたドスだった。
純一の心には、何か途轍もないものが、秘められていた。

「親父のやろう……」

純一は、千本松組組事務所に乗り込んでいく。

「純一さん!!」

橘が、純一の醸し出す雰囲気に感化されて、事務所から飛び出してきた。

「親父に訊きたいことがある」
「…阿山組を襲ったことですか?」
「あぁ」

純一は、橘を睨み上げていた。





AYビル・まさちんの事務室
くまはちは、うんざりしていた。

「…組長ぅ〜。早く帰ってきて下さいよぉ」

くまはちが、嘆く。
電話が鳴った。くまはちは、受話器を取る。

「なんだと…? …お前ら、動くな! 解ってるだろな!」

くまはちが、いきなり怒鳴る。
その怒鳴り声に、呆けていたまさちんが、我に返った。

「何が起こったんだよ」
「……本部を狙った犯人が、解った…」
「どこの組だよ」
「千本松組…」
「はぁ? 純一が懐柔すると…」
「…その純一からの、情報なんだってよ…」

まさちんの言葉を遮るようにくまはちが言った。

「……組長が知ったら…」

まさちんの表情が一気に曇った。

「戻られるのは、明日の朝だよな…」
「ビルまで送るそうだからな…」
「…何もされてなければ…いいけどな…」

くまはちは、意味ありげな言葉を発した。
まさちんは、その言葉に反応し、くまはちの胸ぐらを掴み上げる。

「どういうことだよ!」
「い、いや、…その…」
「…そんなこと…俺が、許さないぞ…」
「お前、何を考えてるんだよ」
「へ?」
「あのライの事だよ。組長に術をかけるとか、何か不思議なことをしてなければ、
 いいと言ってるんだよ……勘違いしてないか?」
「あっ、そ、その…なんだな、…そうだよな」

まさちんは、自分が考えていた事を誤魔化すかのような表情をして、くまはちから、手を離した。

「それよりなぁ〜。仕事、溜まってるぞ、まさちん。ええんか?
 そんなに溜めて…」

まさちんは、自分の机の上に目線を移す。
真子が出発した日と比べると、かなりの量になっていた。

「やばいな…」
「一人で、しろよ」

くまはちは、冷たく言った。その言葉に、まさちんは、少し焦りの色を見せる。
いきなり、仕事のスピードを上げるまさちん。
くまはちは、そんなまさちんをチラッと見ただけで、自分の仕事を始めた。あちこちに連絡を入れて、情報を収集し始める。





竜次が、荷物をまとめていた。竜次が居る部屋は、争ったような形跡があった。まとめた荷物を手に持ち立ち上がる竜次は、足下に目をやった。

「勘は取り戻せた。感謝してるよ。…これが、本来の俺なんだよ」

竜次は、不気味に微笑んで、歩き出す。
地面には、黒服を着た男達が横たわっていた。
それぞれが、血にまみれている。
そのうちの一人が、必死に体を動かし、受話器を取った。

「(カイトさん、竜次さんが…)」
「(竜次様が、どうした?)」
「(…かき乱して、そちらに出国されました…)」
「(な、なんだと? …そっちは、どうなんだ!!)」
「(滅茶苦茶です…。ライ様に、戻ってもらわないと…これ以上は…)」

カイトは、ホテルの部屋で、本国にある組織が、滅茶苦茶にされたと連絡を受けていた。
受話器から一定の音が聞こえ、そっと受話器を置く。

「竜次様は、一体、何を考えて…。ライ様…一度戻らなければ…」

カイトは、電話に目線を移す。
カイトが求めるライは、湖に面したバルコニーで、真子と一緒に夕食を摂っていた。
二人は、楽しく会話をしている。
二人の会話は、真子の能力・青い光の話へと変わっていった。
真剣な眼差しで真子の話を聞くライ。
その話は、真子の気持ちへと変わっていった。
この世界で生きることのつらさ…。

「阿山組四代目の娘に生まれただけで…。自分はそんなに
 凄いことは何もしていないんだけどね…」

真子は沈んだ表情をしていた。

「だけど! ここでは、そんな肩書きは全くなかった。
 それが、嬉しかった。…私が望んでいた普通の暮らし…」

真子は、ライと一緒に、大自然で過ごした日々を振り返り、明るい表情になった。
その姿に、ライは魅了された。

「真子、真子ガ望ムナラ、イツマデモ、ココデ…」
「今の世界からは、抜けられないんだ…みんなを放っておけない。
 私がしっかりと観ていないと、何をするかわからないから」

真子は、諦めたような表情で言い切った。

「マコ…」

ライは、急に立ち上がり、真子を後ろから抱きしめた。

「ラ、ライさん?!」

真子は、ライの急な行動に驚いていた。

「真子、哀シスギマス…。ドウシテ、自分ヲ、犠牲ニシテマデ
 周リノコトヲ、守ロウト、スルンデスカ? ナゼ、自分ノ事ヲ、
 一番、大切ニ…シナイノ…デスカ?」
「…わからない…。でもね、みんなだって、私の事を一番に
 考えてくれるんだもん…。真北さんだって、まさちんだって…。
 ぺんこうも、くまはちも…むかいんも…。本部のみんなも…。
 それに応えるのは、当たり前のことだから…。だから、
 無茶なこともしてしまうんだけどね」
「真子…真子ハ、コレカラ、自分ノ事ヲ、先ニ考エテ
 クダサイ。…私ノ願イデス」
「ありがとう」

真子は、後ろから抱きしめるライに振り返る。
ライは、俯いて泣いているようだった。
真子の目線に気が付いたライは、真子を見つめる。

真子は、優しく微笑んだ。

その微笑みは今まで観たことがなかった。
組員に見せる笑顔でもない、友達に見せる笑顔でもない。
優しい真子が見せる本来の笑顔…。

「えっ?」

真子の目が見開かれた。
ライの唇が、真子の唇へ、そっと近づき、触れ合った。





まさちんは、そわそわしていた。

「落ち着けよぉ」

そわそわするまさちんを見て、苛立ちを見せるくまはち。
電話が鳴った。
まさちんは、一鈴鳴り終わる前に受話器を取る。

「もしもし!」
『まさちぃん! 今ね、サービルエリアに居るんやでぇ。
 もうすぐ、帰るよ。ビルの前まで送ってくれるって』
「かしこまりました。待ってます。お気をつけて」

まさちんは、久しぶりに聴く真子の声に、顔が緩んでいた。受話器を置いたまさちんは、ホッと息を吐く。

「……あほ」

くまはちが呟いた。



それから、三時間後。
真子を乗せた車が、AYビルのロータリーへ入ってきた。まさちんは、車から降りてくる真子に走り寄り、感極まったのか、真子をヒシッと抱きしめた。

「…組長!…ご無事で!!!」
「ま、まさちん…。どうしたん?」

突然の真北の行動に、驚いた真子。
そんな二人を見守るように側に立っていたくまはちは、真子に微笑んだ。

「組長と離れていた事が、まさちんの重荷になっていたようですよ。
 仕事も手に付かない状態でしたから」
「…ったく、まさちんはぁ。それより、本部の様子は?」

五代目の雰囲気を醸し出す真子。

いきなり…なぜ?

まさちんとくまはちは、真子の変化を肌で感じ取った。そして、真子に報告をしながら、事務室へと向かって行った。





ライは、ホテルの一室に戻っていた。

「…くそ、あいつを一人にしてたからか…」
「申し訳ございません」

カイトは、深々と頭を下げる。

「…俺一人で戻る。便を直ぐに用意しろ。…カイト、お前は、ここに
 残って、竜次を見張れ。…真子の前に現れるようなら…」

ライの表情が、一変する。
恐ろしいまでの雰囲気を醸しだし、荷物を手に取り、ホテルを出ていった。カイトは、ライを見送った後、何処かへ連絡を入れた。




国際空港。
ライは、搭乗口へ向かって歩き出した。
そのライの口元がつり上がる。
ライが歩いている目の前に向かってくるコートを着て、サングラスを掛けている男に気付いていた。
その男は、とても怪しい雰囲気を醸し出していた。
その男も、ライの姿に気が付いたようだった。

二人は、真っ正面で立ち止まった。

「…よう、どうだった? 彼女の味は?」
「…あんたとは、違うよ。味わってないさ…。それよりも、
 本国…滅茶苦茶にしてくれたようだな…」

ライは、男を睨んでいた。
ライに睨まれる男こそ、久しぶりに日本へ戻ってきた竜次だった。

「知ったことか…。俺には、必要ないことだからな」

竜次は、ライの言葉に冷たく言い放つ。

「そうだよな。…あんたに必要なのは、彼女だけだもんな。
 …誰のお陰で、そこまで、回復したと思ってるんだよ。
 それで、俺は、彼女を必要としなければならなくなっただろうが…。
 …これ以上、ひっかき回すなよ」
「知らねぇなぁ」
「今度は、これが、お前を襲うことになるからな…」

ライは、竜次に拳を突き出す。

「…それは、ご免だな…。くっくっく…」
「手を出すなよ」
「それは、無理だな…。俺のコレクションだからな」
「そうか…。一段と美しくなってるぞ。じゃぁな」
「あぁ」

ライは、拳を下ろすとき、竜次に何かを手渡した。そして、お互い背を向けて、去っていった。





飛行機の中。

「阿山…真子…か…。何も知らないって顔だったな…」

ライは真子の写真を見つめていた。

「ライ様、連絡が入っております」

黒服の男が、ライに声を掛ける。

「ん? 解った…」

ライは、席を立ち、コックピットに入る。ライは、別の国の言葉で何か深刻な話をし始めた。





ライと同じように深刻な顔をして、一人の人物を睨み付ける者が居た。

「なんで、こんなに溜まってるんよぉ〜ったくぅ〜」

それは、真子。
デスクの上に、なぜか山積みになっている書類を見て、ついつい……。

「すみません…」

真子の言葉に恐縮するまさちんだった。




竜次は、とある屋敷の前に車を停めた。

黒崎

じっくりと建物を見つめる竜次。

「久しぶりやな。…綺麗に使ったみたいやな。ライの野郎」

竜次は、門をくぐろうとした時、背後に何かを感じ、歩みを停める。

「竜次様」
「…カイトか。お前は、残っていたんだな」
「ライ様より、お世話するように言われました。お疲れさまです」
「俺の見張りと違うのか?」
「滅相もない…。それよりも、耳寄りな情報が…」

カイトは、竜次に歩み寄り、静かに告げた。

「千本松組が、行動に出たようです。狙いは、真子様です」
「何? …なぜ、そうなっているんだ? 彼女を狙うんじゃなくて、
 周りを崩せと言っただろ?」
「やはり、真子様の世界を嫌うようで…」

竜次は、深く考え込み、そして、カイトを見つめた。

「新たな情報、待っている。…いつ、行動に出るのか、調べてくれ」
「御意」

カイトの姿は、その場でスゥっと消えた。

「いつ見ても、驚く能力だな」

そう呟きながら、竜次は、玄関の戸を開け、家へ入っていった。



竜次は、テーブルの上に鞄から取りだした小さな箱を置いていく。
そして、ふと、別の場所へ目をやった。
ライフルの棚。
竜次は、棚を開け、中からライフルを取りだし、手入れを始めた。
その表情は、今から楽しみが待っているかのように、嬉しそうだった。

「まずは、助けてやるか…」

竜次が助けようとしている相手は…誰?



(2006.7.25 第五部 第五話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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