任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第五部 『心と絆』

第六話 突然、嵐がやって来る!

AYビル・真子の事務室
帰ってきたばかりの真子に、まさちんが明日のスケジュールを伝えていた。

「…明日の朝9時から、AYAMAでの会議です。
 新企画について、駿河さんが、発表するようです。
 そして、10時には、幹部会。これは、かなり長引きそうです。
 本屋の件もありますし、例のサイボーグで暴れた組員の件、
 更に、本部での襲撃事件…。どれもこれも、内容が濃いものばかりです。
 お昼は、むかいんのところに予約してますから。そして……」
「…気が進まないな…」

窓の外を見たまま、休みボケの真子が呟いた。

「組長……」

まさちんは、スケジュール帳から目を離し、真子を見つめた。
まさちんの目線を感じたのか、真子が振り返る。

「こればかりは、避けることはできません。
 組長が、五代目を続ける限り…」
「…わかってる…わかってるよ、それくらい。でも……」
「組長のお望みになられる世界は、そのような世界ではありません。
 しかし、これを乗り切らないと、お望みの世界は、いつまでも、
 ちゅうぶらりんのまんまですよ」

まさちんは、いつになく真剣な眼差しで真子に言った。

「…まさちん……」

真子の胸に、まさちんの言葉が突き刺さる。

乗り切らないと…。

真子は一点を見つめたまま、考え込んでしまった。

あちゃぁ〜いいすぎたかな…。

まさちんは、反省しつつも、更にスケジュールを伝え始める。
真子の顔には、うんざりした表情が現れ始めた。





真子の自宅最寄り駅
ぺんこうが、改札を通り、駅前の商店街の人々と笑顔で挨拶を交わして、家へ向かって歩き出す。
公園の前を歩いていた時だった。
後ろから迫る車に、身の危険を感じた。
素早く公園の中へ入ると同時に、ぺんこうが歩いていた所に、一台の高級車が急停車した。

「危ねぇなぁ、ったくぅ。組長、お帰りなさい」

ぺんこうの言葉に、後部座席の真子が笑顔で、手を振っていた。
運転席のまさちんは、窓越しに、鋭い眼差しを向けてきた。
真子が窓を開ける。

「ただいまぁ。ぺんこう、お疲れぇ〜!」
「どうでした、ライと過ごした一週間はぁ…って!!」

車は急発進。
突然の行動に驚きながらも、ぺんこうは、ニヤニヤしていた。

「何もそこまで、自棄(やけ)にならんでもなぁ〜」

ぺんこうは、呟きながらてくてくと家に向かって歩いていく。
ふと、目線を玄関に向けるぺんこう。
真子が、笑顔で待っていた。そして、嬉しそうに、ぺんこうの手を引っ張って、ライの話を始めた。
真子とぺんこうの話が聞こえているまさちんは、ふてくされながら、ドアを開けて、中へ入った。

ガチャ…。

まさちんは、鍵を閉め、ドアにもたれて立っていた。
ドアの向こうでは、真子とぺんこうの会話が微かに聞こえてくる。

…………。

何を思ったのか、まさちんは、鍵を素早く開け、ドアを開けて、ぺんこうの姿を見た途端、素早く蹴りを入れた…が、その足は、ぺんこうに受け止められていた。
ぺんこうは、まさちんを押すように家の中へ入り、ドアを閉めた。

「…八つ当たりすんなよ…」

ぺんこうは、まさちんの膝の後ろを蹴り、廊下に押し倒し、胸ぐらを掴みあげる。

「俺が、落ち着いてなかったって?」

まさちんは、静かに尋ねる。

「どうみても、そうやないか! 連絡もなし、姿も見ない。
 お前にとっては、初めてのことやろ? 組長が入院してる時は、
 二日に一回の割合で、病室に行っていた。天地山に居る時は、
 夜に連絡があった。お前が実家に帰っていたときは、毎日
 連絡して、時々声を聴いていた。しかし、今回は、ちゃうやろ?
 全く連絡なし。で、…妬いてるんか?」

まさちんは、何も言えず、ぺんこうを見つめていた。

「何か言えよ」
「俺にも…わからん…組長のこと好きなのにな、楽しい話も笑顔で
 聞きたいのに…なのに、なんか、八つ当たりしてる…組長にも」

玄関のドアが開いた事で、二人は振り返った。
そこには、真子が、目を見開いて立っていた。
まさちんとぺんこうの体勢。
それは、ぺんこうが、まさちんを押し倒し、今にも…という感じに見えていたからだった。

「…二人は、そういう仲だったんだ…なんだぁ、そうだったんだぁ。
 いつからなんだろぉ〜。気になるけど、何も聞かないよぉ〜」

真子はそう言いながら、二階へ上がっていった。
まさちんとぺんこうは、体勢を整えて、座り込む。

「ったく、お前は…」

ぺんこうが呟いた。

「…気づかれてないよな」
「恐らくな…」
「…はふぅ〜」

まさちんは、ため息を付いた。

「いつもの通りに振る舞えなくなってることくらい、解ってるよ。
 それも、あの日からな…。…俺も、真北さんもだよ。だけどな、
 それを気にしてたら、この生活もおしまいやで。組長は、普通の生活が
 できなくなるんだよ。…俺だけじゃない。お前も頼られてるんだぞ」
「…わかってるよ…」
「しっかりしろぉ〜」

ぺんこうは、まさちんの頭を無茶苦茶に撫でて、自分の部屋に向かって行った。
まさちんは、髪の毛を整えながら、玄関に鍵を掛け、階段をゆっくりと昇っていく。自分の部屋に入ったまさちんは、直ぐにベッドに寝転んだ。

「妬いてる…か。俺がこんな感情を持っているとは、驚きだよ」

まさちんは、俯せになり、そして、枕に顔を埋めた。

「抱きてぇ〜!!!」

まさちんの本音…?





黒崎邸
ライフルの手入れをする竜次。その竜次の側には、カイトが立っていた。

「明日…か」
「ご指示を」
「…お前の能力…使ってくれるか?」
「どのように使えばよろしいでしょうか」
「銃器類を使えないように抑えてくれ。お前なら、容易いだろ?」
「えぇ」

ライフルを片手に立ち上がり、荷物を持つ竜次は、カイトに目で合図して、部屋を出ていく。そして、黒崎邸の門をくぐり抜け、何処かへ出掛けていった。





千本松組組事務所
橘が、誰かを捜すような感じで、歩き回っていた。その眼差しが、急に優しくなる。

「坊ちゃん…」

橘が見つめる先には、純一が立っていた。
窓から外を見つめるその後ろ姿には、どことなく寂しさが漂っている。それに気付いた橘は、そっと近づいた。

「…橘…」

振り返る純一の目は、一瞬、哀しみに包まれていた。それは、橘を見た途端、鋭い眼差し…荒木と同じ様な、人の命を何とも思わないという目に変わってしまう。

「明日、久しぶりに暴れるけど、橘、体なまってないか?」
「私は、いつでも動けるように鍛えてますので。そうでなければ、
 おやっさんをお守りできませんから」
「フッ…そうだったな」

純一は、再び外を見る。

「阿山真子は、銃器類なんて、持って来ないだろうな。
 長年、この世界で生きているのに、いつまでも甘いからな…。
 ここらで、この世界の本当の姿を見せてやらないと…な」

そう言って振り返った純一は、唇の端を不気味につり上げる。
橘は、苦しそうな表情をする純一を見て、心を痛めていた。

坊ちゃん…。





先日、阿山組本部の真子のくつろぎの場所に砲弾を撃ちこんだのは、千本松組だということが解り、そして、なぜ、そのような行動に出たのか真相を聞くために、話し合いを…と思っていたが、なんと、二つの組の橋渡しの大役を任された純一が、本来の姿に戻ってしまった。

…阿山組組長の暗殺…

呼び出し状を本部へ持参し、冷たい言葉を吐いて去っていった。
その純一の姿に、誰もが何も言えなかった。
やはり、それが本当の姿だったんだ…。
そう思った組員達は、意を決した。



そして、決行の日…。



「まさちん、約束は…守ってね」

真子は、何処かへ向かう車の中でまさちんに力強く言う。

「解っております」

決して、人を傷つけない…。

真子との約束を思い出すまさちん。
真子が乗る車を守るかのように、前後に高級車が走っていた。
誰もが、深刻な面持ちをしてる。
真子は、前を走る車を見つめていた。
そこには、山中が乗っていた。
まだ、自由に動けない体。それを圧してまで、向かう先。隣に座る北野に深刻な表情で話しかけている山中は、ちらりと目線を後ろの車に向ける。
真子と目が合った。

「山中さん…大丈夫なのかな」
「山中さんは、頑丈ですから、大丈夫でしょう」
「…殴りすぎ…たかな?」

真子は、恐縮そうに言う。

「たまには、よろしいかと」
「まさちんが、言うなら、安心した。…で、何も持ってないよね?」
「はい」

まさちんは、そう言いながら、懐にそっと手を当てる。
懐には、冷たくて重い塊が入っていた。




高級車が次々と到着する場所。
そこに集まったのは、真子達阿山組だけでなく、かなりの数の千本松組組員が立っていた。
真子達を迎えるかのように立っている千本松組組員。
真子達も、負けず劣らず、その場に立ち、千本松組組長・荒木と話し始める。


修羅場になりそうな雰囲気を漂わせるその場所を凝視する男が居た。


「カイト…準備はいいか?」
「いつでも、どうぞ」

カイトは、微笑んでいた。

「銃器類を手にした時が合図だ。…あの様子じゃ、阿山組も
 持ってきてるだろうな。…そっちは、いい。荒木の方だけにしろ」
「彼女には、怪我させませんよ。竜次様の大切な真子様には…ね」

竜次が、ライフルを構えた。そして、引き金を引く。


竜次の放った弾は、真子に銃を向けていた純一の銃に当たる。
それが合図となり、純一の後ろに立っていた千本松組組員の一人一人の致命的な場所を狙い、撃ち始めた。

突然の出来事に戸惑いながら、銃を構え、あらゆる方向へ銃口を向ける千本松組組員。しかし、引き金は、何か固定されたように動かない。慌てふためく暇もなく、千本松組組員の体に銃弾が撃ち込まれていく。

それは、一瞬の出来事。
千本松組組員が全員倒れた。



真子達も、驚きのあまり、警戒を強め、阿山組組員は、隠し持っていた銃を一斉に手に握りしめ、辺りの気配を探り始めた。


突然の事に戸惑う純一は、背中に強烈な痛みを感じる。
その痛みは、一瞬にして、腹部に突き抜けた。
目線を腹部に移すと、そこからは、噴水のように血が噴き出していた。
手を当て、血を確認する純一は、真子の叫び声が聞こえた途端、地面に倒れてしまった。

「いやぁ〜〜〜っ!!! 純一ぃ〜っ!!!!!!!」

真子は、立ちつくし、頭を抱えて、叫んでいた。

「組長!」

真子に、血を見せないようにと、まさちんの左手が真子の目を塞ぐ。
反対の手には、銃が握りしめられていた。
くまはちも真子の守りに入り、辺りの気配を探りはじめた。

「退避しろ!! 全員、退避!」

まさちんは、辺りの気配を探りながら、真子に代わって指示を出す。
阿山組組員は、一斉に車に乗り込んだ。

真子は、目の当たりにした惨事に硬直していた。

「組長! …くそっ!」

動こうとしない真子の体を抱きかかえるまさちん。真子を車に乗せ、辺りを確認しようと体を車から出した時だった。
まさちんにライフルの銃口が向けられた。

「!!!!」

竜次のライフルが掴まれ、別の方向へ向けられる。

「カイト、てめぇ〜」
「目的以外の行動は、謹んで下さい。本日は、彼女…真子様を
 お助けするために、こちらに来たんですから」

その言葉に、竜次は、ライフルを下ろした。

まさちんは、竜次とカイトの気配に気が付かずに、車に乗り込み、そして、去っていった。


その光景を見ながら、竜次は、フッと笑みを浮かべた。

「彼女を助ける…そうだったな。……まだ、息のある奴は、
 始末しておくよ。あいつら、彼女に銃を向け、殺そうとしたからな…」

感情の無い眼差しを真子達が居た場所に向けていた竜次は、振り返る。

「カイト、ありがと。あとは、俺一人で充分だ。…帰国しろ。
 ライ一人では、無理だろうからな」
「解りました。…では、これにて。あまり御無理なさらぬように。
 あなたは、病み上がりだということをお忘れなく…」

カイトは、一礼して、その場で姿を消した。

「…紫の光の能力…か。奥が深いんだな、その能力は」

そう言って、竜次は、ライフル片手に横たわる千本松組組員に近づき、動く気配のある者を撃ち抜いた。

「くっくっく…何を考えてるんだよ、こいつらは。
 あれは、俺の…コレクションなんだよ…」

竜次は、そう呟いて、ライフルを肩に掛け、真子達とは、反対の方向へゆっくりとした足取りで去っていった。



純一は、微かに残る意識の中、その男の姿を観ていた。

「…あいつは……うぐっ…!」

純一は、血を吐いて、気を失った。

暫くして、救急車のサイレンの音が近づいてきた。





阿山組本部
真子は、焼けた跡が生々しいくつろぎの場所を見つめていた。
目を瞑ると脳裏に過ぎる純一の血で染まる姿…。
真子は、唇を噛みしめた。

「組長…」

影から真子を見守るまさちんとくまはち。
そんな二人に静かに、声を掛けてきたのは、

「…組長から、目を離すなよ」

山中だった。

「山中さん…」
「…まさか、こんな事態になるとはな…」

山中の真子を見つめる目には、哀しみと悔しさが入り交じっている感じが溢れていた。

「山中さん、何か、隠してませんか?」

山中の言葉が気になったのか、まさちんが、尋ねた。

「……やはり、組長に内緒で、作戦を実行するのは、
 最悪の事態を招くんだな…。…五代目をさしおいて、
 そのようなことをした事……。罰が下ったか…」
「山中さん…?」
「取り敢えず、純一達千本松組組員は、道先生の病院に
 収容してあるよ。…重体の者が多いがな…」

山中は、怪しげな言葉を言い、話を切り替えた。

「ありがとうございます」
「…組長に伝えておいてくれ」
「わかりました」

山中は、静かに去っていった。後ろ姿を見つめるまさちんとくまはちの心境は、複雑だった。

「まさか、今回のことは、山中さんと純一の作戦?」

まさちんが、呟く。

「作戦って、もしかして、純一の野郎、組長に銃口を向けて、
 そのすぐ後に、荒木を撃つつもりだったのか?」
「さぁな。…事態はほんとに、最悪な方へいったな…」

まさちんは、大きく息を吐いた。

「くまはち、あとは俺がいるから、お前は、ゆっくりしとけよ。
 …親父さん、来たんだろ?」
「気を使うな。親父は、山中さんと話に来ただけだ。
 俺には関係ない」

くまはちは、冷たく言い放つ。

「お前の親父やろ。大切にしたれよ。居なくなってからでは、遅いぞ」
「解ってるよ。…ありがとな。お前も休め。先は長くなりそうや」

くまはちは、そう言って去っていった。そして、廊下の先にいる竜見と虎石に何かを告げ、廊下を曲がった。
まさちんは、ゆっくりと真子に歩み寄る。

「組長」
「…まさちん。ありがと」
「はい?」

真子は、振り返り自分の目に手を当てる。そして、その手をゆっくりと下ろした。
まさちんは、真子の仕草で、真子の言いたいことが解ったのか、優しく微笑んでいた。
真子は、その微笑みに、安心したような表情をする。

「部屋に…戻るね」
「お疲れさまです」

まさちんは、部屋へ戻る真子の後ろをついていく。

「くまはちの親父さんが、来ているそうですよ。ご挨拶はよろしいんですか?」
「私が会いに行くと、おじさんが落ち着かないから、駄目。逢わないの!」
「恐れておられますね?」
「あのくまはちを殴り倒すくらいなんだよ。恐れて当然!」

真子は、まさちんにニッコリ笑った。

落ち着いた…かな?

まさちんは、真子の笑顔を見て、一安心。



真子の部屋の前。
真子がドアノブに手を掛けた時だった。

「…まさちん…山中さん、ちゃんとしてくれたのかなぁ」

俯き加減に真子が言った。
真子の言葉に、まさちんは、山中の言葉を思い出す。

「千本松組組員は、道先生の病院に収容してあるそうです」
「…してくれたんだ…」
「えっ?」
「…何か遭ったら、頼りにしろって、道先生が言ってたでしょ。
 取り敢えずだけど、純一達をお願いしたんだ…。容態は?」
「重体の者が多いと…」
「そうだよね…」

真子は、ドアノブから手を離し、何かを我慢している様子。

「組長…」

まさちんは、真子の表情が気になり、呼びかけた。

「…まさちん…。お願いがあるんだけど…」

真子は静かに語り出す。

「はい」

真子の手に招かれるように、まさちんは、耳を向ける。

『今から、黒崎さんの家を尋ねたいんだけど…』

真子の言葉に、まさちんの表情が曇る。

「組長、そこは、今、誰もおられないはずです。それに、今からですか?」
「…いいから。確かめたいことが…あるんだ」
「解りました」

まさちんは、真子の言葉に驚きを隠せないが、組長の『命令』ならば、従うしかない。

大丈夫だよな…。

「夜、みんなが寝静まった頃に出発するから」
「かしこまりました」

まさちんは、一礼する。

「よろしく」

真子は、短く言って、自分の部屋へ入っていった。
ドアが閉まるまで、頭を下げていたまさちんは、隣の自分の部屋へ入り、ベッドに寝転んでため息をついた。

「五代目…か…。組長、一体、何を考えておられるんですか?
 話して下さい…全てとは言いませんから…」

まさちんは、目を瞑り、眠り始めた。



くまはちが、玄関へやって来る。

「虎石、竜見。暫くゆっくりしとけ」
「兄貴、どちらへ?」

竜見が尋ねながら、くまはちと同じように靴を履く。

「ちょっとな」
「兄貴の『ちょっとな』は、こっそり動く事ですから、ご一緒します」

虎石も同じように靴を履き、くまはちを追いかける。

「誰が、組長を見守るんや?」
「まさちんさんがおられますよ」
「あてにすんな。だけど、ほんまに、ちょっと出掛けるだけや」
『その通りだよ。一緒に行かない方がいい』

玄関から声がした。
その声の主を見た途端、くまはちの表情が、強張る。

「親父…。逢いたくなかったから、出掛けるのにな」
「そうだと思ったよ。五代目から離れてどうするんだ?」

くまはちに恐ろしいほどの雰囲気を醸しだし、語りかけるのは、くまはちの父だった。虎石と竜見は、深々と頭を下げる。

「いつも、息子が世話になっているね。感謝してるよ」
「もったいないお言葉です!!」
「こんな奴だけど、頼んだよ」
「こちらこそ、大変お世話になっております。感謝しております!」

竜見と虎石は、声を揃えて、頭を下げたまま、ハキハキと応えていた。

「俺は、帰るから、外出することないだろ?」
「えぇ」
「五代目、大丈夫だったのか?」
「はい」
「笑顔…失わせるようなことは、絶対にするなよ。わかったな…」
「解ってますよ」

くまはちは、父を睨み付ける。その眼差しに反応するかのように、猪熊は、くまはちの腹部に拳を入れ、去っていった。

「…ったく…」

くまはちは、腹部をさすりながら、去っていく猪熊の背中を睨み付けていた。

「兄貴…」
「親父は、俺を見ればいっつもこうだ。慣れてるよ。
 …出掛ける必要なくなった。だがな、組長の場所を
 綺麗にせなあかん。竜見、虎石、手伝ってくれるか?」
「はい。兄貴の手入れを早く身につけたいので」

虎石が言った。

「ご指導、御願いします!!」

竜見が深々と頭を下げる。

「ほな、頼むで」
「はい!!」

くまはちの言葉に、素敵な笑顔で返事をする二人は、くまはちの後を追って、焼けた痕が残る真子のくつろぎの場所へと向かっていった。




なんとか、見栄えが良くなった庭。
焦げた部分は、自然の力に頼るしかない。
くまはちは、庭を一望する。そして、桜の木を見上げた。

がんばってくれよ。

くまはちは、心で語りかけていた。




くまはちは、久しぶりに竜見と虎石の二人と一緒に風呂に入り、部屋でくつろいでいた。
ふと、何かの気配を感じ、部屋を出て、気配の主を追いかける。
その主は、裏手の駐車場から感じられた。
そこは、真子がこっそりと外出する際、良く使われていた場所。
くまはちは、嫌な予感したのか、その場所へ駆けだした。

「組長! まさちん!!」

まさちん運転の車が、スゥッと走っていった。後部座席には真子の姿が!
くまはちは、走り出し、車を追いかけたが、追いつかず、車が小さくなるまで、見送るしかできなかった。

「…一体…何処へ? 何も言わずに出掛ける時…考えられるのは、
 二つだが…。遊びに行く雰囲気に見えなかった…まさか…」

くまはちは、自分が感じた予感を優先に行動することにした。

「くそっ。虎石、竜見!!」

くまはちは、二人を呼びながら、玄関へ来る。虎石と竜見は、直ぐに姿を現した。

「兄貴、どうされました?」

くまはちの表情で、次の指示を予想する二人。

「組長とまさちんが、こっそりと出掛けた。嫌な予感がする…。
 追いかけるぞ。行き先を探索。そこへ向かう」
「はっ」

くまはちたちは、素早く着替え、そして、深刻な表情をして車に乗り込み、阿山組本部を出ていった。若い衆たちは寝静まり、真子とくまはち達の行動は、夜の番をしている者しか知らなかった。
騒ぎにならないように、くまはちは自分が戻るまで、真子とまさちん、そして、自分の行き先は、誰にも言うな、騒ぎ立てるなと念を押していた。
そんな大事な事を内緒にできない夜の番をしている若い衆は、こっそりと山中だけには、告げてしまう。

「…わかった。くまはちの言う通りにしておけ。昼間のこともある。
 これ以上、騒ぐと、本当に…真北の鉄拳が…。しかし、もしもの
 こともある。待機はしておけ。ありがとな」

若い衆は、一礼して、山中の部屋を去っていった。

「ったく、組長…。まさちんと一緒ということは、大阪での行動だと
 考えてよろしいんでしょうか…。それでしたら、私達本部の者は、
 誰一人、お供できませんね…。組長…あなたは、一体、何を
 お考えなんですか? …私にも一言、ご相談下さっても……」

山中の思い、真子に届いているのか?




朝焼けが、美しく輝き始めた頃、真子を乗せたまさちん運転の車は、豪邸の前に停まっていた。

「飛ばしすぎ」

真子は、そう呟きながら、車から降り、豪邸の門の前に立つ。

黒崎

豪邸の表札に書いている文字。一瞬、真子の背中に冷たいものが走った。

「組長、御無理なさらない方が…」
「大丈夫」
「組長、ここで確かめたいって…。確かあの日以来、誰も住んでいないはずですよ」

真子は、門の間から、中を凝視していた。

「住んでいないはずだよな…。なのに、人が住んでいたような雰囲気があるんだよ…」
「…そういえば…」

まさちんは、門の向こうに広がる芝生に人が歩いたような跡があることに気が付いた。
門に手を掛けると、すぅっと開く。
真子は、何の躊躇いもなく、中へ入っていった。

「組長!」

まさちんは、真子を追いかけて入っていった。




黒崎邸の門から、一人の男が、中の様子を見つめていた。
肩にライフル銃を掛け、サングラスを掛けた男・竜次だった。

「…誰だ?」

門から玄関まで何かを探るように歩く不審な男女に気が付いた竜次は、懐から銃を出す。
見慣れない形の銃。
その銃口を男の方に向ける。

「女は、思う存分、遊ばないと…なぁ」

引き金を引いた。



(2006.7.27 第五部 第六話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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