任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第五部 『心と絆』

第九話 水木組、完全復活っ!!

「…水木組、復帰。まさちん、よろしく」

真子が突然、口にした言葉。
真子が休暇をするために、その準備をしていた時だった。
ほとんどまさちんが行っていた為、準備といっても、たまっていた書類に目を通していただけ。
いよいよ明日から、真子はAYAMAの仕事に専念する。
暫く普通の暮らしをする…。
そんな時だった。

「しかし、組長…」
「もう充分やろ。もうすぐ一年経つんだね…」

ぺんこうとのあの日から…そして、水木との…。

真子は、目を瞑る。
まさちんには、真子が何を考えているのかが、解っていた。

「解りました。では、水木に、連絡入れます。仕事の方は?」
「謹慎中にしてたこと、そのまんまって伝えててね」
「…御存知だったんですか?」
「ふふふ。私は、誰?」
「阿山組五代目組長です」

まさちんは、深々と頭を下げる。

ボカッ!

「!!!!」
「ったくぅ、それやめろって言ったやろぉ」
「すみません…」

真子は、拳を握りしめていた。その拳は、まさちんの頭に当たった様子…。

「ほな、帰ろっか」
「はい」
「むかいんとこよって、軽く済ませてから、くまはちっとこね」
「って、組長ぅ〜」

真子は、ニッコリと笑って、事務所を出ていった。




むかいんの店
夕食時のため、かなりの客で混雑していた。
その中に、理子の姿が…。
真子が入り口に立ったのが解った理子は、手を振っていた。
ちょうど、席は二つ空いている。

「お疲れぇ」

理子は、目の前に座る真子に元気良く挨拶した。

「毎日来てるやろぉ。むかいん、嬉しそうやもん」
「ええやん、毎日来ても」
「たまには、おばちゃんとも食べやぁ。寂しがるで」
「解ってるよぉ。まさちんさんも一緒に来ればええのにぃ」
「私も言ったんやけど、厨房に入っていった。…むかいんの
 邪魔してへんかったら、ええんやけどなぁ〜」

真子は、厨房に目をやる。



真子が心配しているとおり、まさちんは、むかいんの邪魔をしていた。

「理子ちゃんと、その後どうなんや?」
「三番テーブルできた」
「組長の親友に手ぇ出すのは、どうかなぁ〜」
「追加よろしく」
「それにしても、いつなんや? くまはちから聞かなかったら、
 俺、知らんかったで。いくら、なんでも、組長の親ゆ……」

まさちんの目の端に、何か光る物が…!

「料理長!!! ここは、職場です!」
「ん? あっ、つい…」

むかいんが手にする包丁の先が、まさちんの頬まで、あと1ミリというところに…。
まさちんが、少しでも動けば…ブスリ…?
まさちんの言葉に対して、関心を持たないような素振りで仕事をしているように思えたが、こめかみがピクピクしていることに気が付いていたコック達。

何かが起こる…。

そんな予感がしていた様子。
むかいんは、仕事に戻る。

「仕事の邪魔するんやったら、出ていけよ。車で待機しとけ!
 俺、あがるから、理子ちゃんと一緒に送るで」
「そうしとく。…食事終えたら、くまはちのとこ行くってさ」
「…そうやろな。ったく、くまはちは…」

お前まで守るとはな。…解っていたことやけど。

むかいんは、敢えて言わなかった。

「ほな、頼んだで。二人のラブラブには、何も言わないよ。
 組長じゃないけど、俺だって、嬉しいんや」

まさちんは、素敵な笑顔を向けて、厨房を去っていった。

「だったら、からかうなって…」

むかいんの嬉しそうな表情を見て、コック達は安心する。

料理長、まさちんさんだけには、絶対、マジに怒るからなぁ〜。



まさちんは、地下駐車場の車で待機していた。
少しつまらなさそうな表情をして、運転席の座席を倒し、のんびりしていた。

「遠慮するんじゃなかったな…。でも、組長にとって…
 …ただの女性…阿山真子の時間だもんな…。俺が一緒だと…なぁ」

まさちんは、目を瞑った。




「お疲れさまです」
「いつもありがと。あとよろしく」
「お気になさらずにぃ〜」
「うるさい!」

コック達からも、からかわれるむかいんだった。

「真子ちゃんも、お気をつけて!」
「ありがと。お疲れさまです! ほなね!」

真子は、笑顔でコック達に挨拶して、むかいんと理子と一緒に地下駐車場へ向かっていった。



エレベータの中
真子と理子は、むかいんそっちのけで、しゃべくりまくる。
賑やかなエレベータ内。その賑やかさは、地下駐車場へ到着しても続いていた。

「あとは、いいよぉ。すぐそこだもん」
「駄目ですよ組長。車までお送りします」

むかいんは、力強く言った。

ここでも、狙われる…。

真子が一人で居られる場所は、天地山の頂上だけだった。



まさちんが待機する車まで三人は歩いてきた。

「寝てるよ…」

真子が呟く。
そして、フロントガラスをノックした。まさちんは、慌てて起き上がり、車から降りた。

「お待たせ。むかいん、ありがと」
「くまはちに無茶するなって伝えてくださいね。組長命令に背いて
 体を動かしてるでしょうから」
「むかいんも、そう思うでしょぉ。いくら言っても無理なんやもん。
 ほな、理子ぉ、気を付けてねぇ〜。むかいん、よろしく!」
「真子も無茶したら、あかんよぉ。くまはちさんにもよろしね」
「ありがと。むかいん、泊まりは駄目だからね!」

真子の言葉に、引きつった表情をするむかいんだった。
真子は、微笑みながら、車に乗り、そして、去っていった。
むかいんと理子は、真子を見送り、仲良く歩き出した。

「…理子ちゃん、組長に…言った?」
「あかんかった?」
「いえ、その…」

少し照れたような表情をするむかいんを見て、理子は微笑んでいた。

「で、今日はどうする?」
「組長にばれましたから…」
「真子は関係ないやろぉ〜。むかいんさんの意志」
「お世話になります」

理子は、滅茶苦茶嬉しそうに微笑んでいた。




まさちんの車の中。
真子は、後部座席から身を乗り出して、まさちんと楽しく話していた。

「絶対、泊まってくるだろうね」
「どうしてですか?」
「だって、理子のお母さん、隔週で金曜日は夜勤だもん」
「大変ですね、ネット関係の仕事は」
「そだね。寝る暇もないからね、ネットは」
「くまはちの様子をみたら直ぐに帰りますよ。私は組長の体調が心配ですから」
「ありがとぉ。暫くは半分だけだから…五代目でない阿山真子。疲れも
 出ないって。それよりも、心配なのは、まさちんの方だよぉ。無茶しないでね」
「…ありがとうございます」

まさちんは、真子から目をそらすような感じで、運転に集中していた。
そんなまさちんの仕草が気になる真子。

「どしたん?」
「いいえ、何も」

ルームミラー越しに見た真子の表情があまりにも素敵に見えた為、まさちんの鼓動が激しくなりそうなそんな感じだった。
衝動を抑える為の行動。
それは、鈍感な真子には気付かれない…はず…。



車は、橋総合病院に到着した。
真子とまさちんは、くまはちの病室に向かって歩き出す。



橋の事務室。
この日一日、外科患者は来なかった。

…暇…。

もちろん、事務室には、真北とくまはちの父・猪熊が居た。
明日、東京に帰る予定の猪熊は、この日一日、くまはちと話し込んでいた。
それも、ほとんど喧嘩腰…。
まぁ、それが、猪熊親子の会話だが…。

「どっちも素直じゃないんだからなぁ」

真北が言った。

「そのまま、お前に返すよ」

橋が応える。

「五代目に、休暇まで取らせて…あいつも幸せですよ。
 父親は俺なのに、あんな表情を見せたことない…。
 なんだか、寂しいな…」

猪熊は、日が沈み、そろそろ暗がり始めた庭を楽しく歩く真子と車椅子に座っているくまはち。
そんな二人の側を歩くまさちんを見つめていた。真北がそっと窓に歩み寄る。

「…あの笑顔が生きているのも、真北さんのおかげですね。
 姐さんが亡くなった頃は、本当に心配だった。姐さんに似た
 あの素敵な笑顔が消えるんじゃないかと…とても…」
「私じゃありませんよ。あの時のくまはち、そして、むかいん、ぺんこう、
 まさちんたちですよ。あの笑顔の為に、男達が奮闘しましたからね」
「慶造の寂しい声が聞こえそうですよ」
「そうだな。慶造の奴、いっつも言っていたもんな。真子ちゃんが笑顔を
 見せてくれないってな。…真子ちゃんの前でも、肩書きを捨てなかった。
 そこが、あいつの馬鹿なところなんだよな」
「…私が、そうさせたんでしょうね…。あいつが五代目の笑顔を大切に
 したがるのに、私は、慶造の本当の姿を…解ってあげられなかった…」

少し涙ぐむ猪熊。
そんな猪熊の肩をそっと叩く真北。

「慶造と真子ちゃんは違うんだ。慶造は慶造。真子ちゃんは真子ちゃん。
 それに、真子ちゃんには、ちさとさんの優しさも加わっているんだから」
「…そうですね。…姐さんの血も…」

猪熊の脳裏に過ぎるちさとの優しい微笑み。そして、姐姿…。
日本刀を持って、報道関係者に単身で乗り込んだ姿…。



くまはちは、病室に戻ってきた。自分で車椅子からベッドに移る。真子は、くまはちにそっと布団を掛けた。

「ありがとうございます」
「ほな、明日も、橋先生の言うことをしっかり聞いて、無茶はしないこと。
 それと、おじさんに反抗しないこと!」
「組長、それは、無理ですよ」
「駄目だよぉ。いつも言ってるでしょぉ」
「解ってるんですが…難しいですよ」
「…それでも…」

真子の言いたいことが解るくまはちは、真子の言葉を遮って言う。

「組関係の仕事は、全てまさちんに?」
「えっ、あっ、うん」
「大丈夫ですか?」
「…心配だけどね…。くまはちは、気にしないでいいからね。
 その…水木組復帰だから…」

真子は呟くように言った。

「そうですか。…組長、無理はしないでくださいね」
「うん。ありがと。ほな、帰るねぇ! お休み」
「お気をつけて。お休みなさいませ」

真子とまさちんは、笑顔でくまはちの病室を出ていった。
くまはちは、笑顔で真子を見送った。
ドアが閉まった途端、ため息をつき、右腕を見つめる。

「…復帰…できるのかな…」

寂しそうに呟いた。



真子とまさちんが、廊下を歩いている時だった。

「五代目」

真子に声を掛けてきたのは、猪熊だった。その猪熊の後ろには、付き人が立っていた。付き人は、真子とまさちんに一礼する。

「お世話になりました。明日、帰ります」
「もう、お帰りになるんですか? くまはち、寂しがりますよ」
「これ以上、ここに居たら、私が甘えそうで…」
「いいのに」
「五代目」
「はい」
「息子のこと、宜しくお願いします」

猪熊は、深々と頭を下げた。

「お、おじさん、頭上げて下さい!! 私に、そのようなことは…」

床に一滴の涙が落ちた。
猪熊の目から、あふれ出た涙だった。
真子は、咄嗟に猪熊を抱きしめた。
真子の小さな体では、ごつい体格の猪熊の頭を抱きかかえるしかできない。真子の腕が、猪熊の目を塞ぐ。

「おじさん、安心してください。くまはちのことは、私が、
 守りますから」
「五代目…立場が反対ですよ。あいつが…」
「それが、私…阿山組五代目の意志ですから。誰も、失いたくありません。
 父が、私に残してくれた…大切なみんなを…」
「五代目…」

猪熊は、真子の言葉に顔を上げる。
真子は、優しく微笑んでいた。

「休暇は、敵を…欺くためです。くまはちが居ないと、
 私が行動できませんから」

真子は、猪熊の耳元で静かに言う。
その言葉は、猪熊にしか聞こえていなかった。
猪熊は、その言葉に驚く。

やはり、姐さんの隠れた血が強い…。

猪熊は、そっと真子の手に手を添え、離れた。

「ありがとうございます。では、呉々も、無茶だけはなさらないでください」

力強く真子に言う猪熊。

「その言葉、耳が痛いなぁ。おじさんもだよ。全国、全世界に渡りすぎです!」
「御存知だったんですか?」
「まぁ…ね」

真子は、ちらりと舌を出す。

「参りました」
「明日、お見送り致しますよ」
「あっ、その…反対方向へ行きますので…」
「ったくぅ〜。山中さんに言っておきますから」
「言わないで下さい。隠居生活も楽しんでます。旅行ですよ、旅行」
「もう、騙されません。私は大人です!」

真子は、ふくれっ面になった。その表情に懐かしさを感じる猪熊だった。

「益々姐さんに…ちさとさんに似てきましたね、五代目」
「ほんと?…それなら、逢いたいときは鏡を見たらいいのかな?」
「そうですね。それよりも、真北さんには気を付けて下さいね」
「どして?」
「真北さんは、ちさと姐さんに『ホの字』なんですからね。
 間違っても手を出されると…」

真北のきっつい目線を廊下の先に感じた猪熊は、口を噤んだ。

「宿泊先まで、お送りいたします」

まさちんが言った。

「いや、いい。こいつが居るからね。ありがとう、では、失礼します」
「お気をつけて!」

真子は、猪熊に笑顔で手を振っていた。
猪熊も、真子に応えるかのように、手を振って、去っていった。

「真北さぁん、終わったん?」

背後の気配に振り返る真子。
真北は、真子が振り返ると同時に笑顔に変わる。

「いいえ、今夜は、帰れませんよ」
「まったぁ〜? いつになったら、帰ってくるんよぉ」
「すみません。例のこと、片づけた途端、別の事件が…ね」
「原さんに任せておきぃや」
「原が、例のことを片づけてくれたんですよ」
「…そっか…ごめん」

真北は、真子の頭を無茶苦茶撫でる。

「真子ちゃんは、悪くないんですからね。それよりも、
 組関係は、大丈夫ですか?」
「ちょっと心配…」

真子は、ちらりとまさちんを見上げる。まさちん、ふくれっ面。

「AYAMAの仕事、頑張るのは良いけど、無理だけはしないでくださいね。
 きちんと休むこと」
「解ってます」
「明日、猪熊さんを見送りますから」
「…おじさん、なんでいっつも私の前では、無理するんだろうなぁ。
 あの頃もそうだったよね…関西との抗争の後…。そして、父の…」

真北は、真子を抱きかかえる。

「それは、真子ちゃんが無茶苦茶心配するからです。
 関西との抗争の時も、そうだったでしょう?」

少し心配げな真北の言葉。

「猪熊さんと小島さんの大怪我を見て、泣きわめいて、
 二人の怪我が治るまで、心配しまくって…」
「…だって、怖かったし…心配だったんだもん…」

真北は、真子の頭を優しく撫でる。

「真子ちゃんのその笑顔を失いたくないからですよ。
 真子ちゃんの周りに居る者は、みんなそうなんです。
 真子ちゃんだって、そうでしょう? 素直にならないと」
「…うん…。でも…その言葉、そっくり真北さんに返すね」

真子は、にっこりと微笑んでいた。

負けた…。

真北は、真子の微笑みに参った様子。

「でも、手は出しませんよ」
「なにがぁ?」
「何もありませんよ!」

真北は、抱きかかえた真子をそのまま、まさちんに渡して、去っていった。
まさちんは、突然手渡された真子を抱きかかえて、硬直。
真子の顔を覗き込む。
眠っていた。

「ったくぅ〜何か言ってから、渡して下さいよぉ。驚くじゃありませんか」

真北の後ろ姿に話しかけるまさちん。
真北は、後ろ手に手を振って、歩いていった。
まさちんは、真子を抱きかかえたまま、駐車場へ向かって歩き出した。
月が明るく、街を照らしていた。


その日、むかいんは、帰ってこなかった。





次の日・AYビル会議室。
真子がAYAMAの仕事だけに集中し始めたその日から、水木組が復帰した。
久しぶりの幹部会に顔を出した水木。
以前の時より、凛々しい表情をしていた。

阿山真子を守っていく

その強い意志の現れだった。

「で、その後は?」

須藤が、水木に尋ねた。

「進展なし。まぁ、これ以上、悪化せぇへんやろな」
「それにしても、一人で抑えるなよ」
「しゃぁないやろ。AYAMAの仕事の分を回したら、そうなっただけや。
 そん変わり、谷川おらんようなったから、ミナミ大変やぞ」

水木が、谷川をちらりと見る。

「考えてた以上に忙しなったんや。まさか、グッズがここまで上昇するとは
 思わんかった。…軽い気持ちやったんやで」

少しやつれた表情の谷川が言った。

「…軽い気持ち…五代目に付き合う時は、あかんで。軽い気持ちでやると
 後々が大変や。…身に染みて解った」

真子とのゲーム。
水木が身に染みた真子の恐ろしさのこと…。

「それが、五代目や」

須藤が静かに言う。
会議室に集まった幹部達が、一斉に同じ所に目線を移す。

「…なんで、寝てるんや?」
「さぁ」
「そんなに疲れることあるんやろか?」
「…まさか、五代目に…?」

須藤、川原、藤、谷川が見つめる男…それは、会議中に居眠りこいてるまさちんだった。
谷川の一言に反応したのは、水木だった。

「水木…お前なぁ…」

須藤が、鋭い眼差しで水木を睨む。
水木は、須藤をちらりと見て、フッと笑う。

「当然の反応やろ」
「…いい加減にせぇや、われ」
「あかんか?」
「あかん。…お前、何をしたんか、解っとるやろ? なのに、まだ、
 そんなこと考えるんか? …あの時、ほんまに撃ち殺せばよかったな」
「できんくせによぉ」
「なにぃ〜?」

須藤が立ち上がり、机を乗り越え、向かいに座る水木の胸ぐらを掴みあげる。

「お前は、その手で命を奪ったことはないからな。…だから、五代目の
 意志を素直に受け入れることできたんやろ?」

水木が、須藤の手を掴みながら言った。

「そういうお前は、あれだけ、反対してたのにな、お忍びで来た五代目を
 案内するわ、家に泊めるわ、俺達を懐柔させることを手助けするわで、
 今までの姿を疑わしく思わせる行動ばっかし取っとったやろが!」

須藤は、勢い良く手を離す。

「てめぇなぁ、これ以上、五代目を困らせるようなことすんなよ。
 五代目の…本能を目覚めさせるようなこと…すんなよ…」
「好きな女抱いて、どこが悪いんや?」
「…ゲームのコマにするとこや! それに、あんな手口で…」
「この世界で生きてる女なら、それくらい、序の口やろが!」
「てめぇんとこと一緒にすんな!」
「桜のこと、悪く言うなよ…いてまうぞ…」
「そのまま、そっくり、返しますよ…水木さん」
「ま、ま、まさちん!!!」

寝ていたはずのまさちんが、恐ろしいまでの雰囲気を醸し出して、水木と須藤の側に立っていた。
力強く握りしめられている拳が、今にも、動きそう…。
少しでも身動きすれば、目にも留まらぬ速さで何がが飛んできそう…。

「…好きな女…抱くこと、悪くないですよ。だけどね、あんたの行動は、
 …万死に値すること…お忘れですか? これ以上、あのことを口に
 するようなら、…俺…あんたに何するか、解りませんよ…」

怒りを抑えながら、ゆっくりと言うまさちん。
ギロリと睨む目…。

「だったら、早く、寝ろよ」

水木が、静かに言った時だった。

「まさちんやめろって!!!!」

まさちんの右腕に谷川、左腕に藤、腰に右から川原、左からは須藤が、水木に殴りかかるまさちんを停めていた。
水木は、まさちんを挑発しただけの様子。
ニヤニヤと笑って、その様子を見つめていた。

「水木、からかうのも、ええ加減にせぇよ」

須藤が、ドスを利かせて言う。

「…なぜ、手ぇ出さないんや?」

水木が、まさちんに真剣な眼差しで尋ねる。

桜とは、寝たのにな…。

「…抱きたいさ。抱きたいけどな、出来ないんだよ。この俺がな…。
 水木…。あんたよりも、女に手が早いと言われる俺が…出来ないんだよ。
 情けないだろ。いっつも側に居る。二人っきりで居る時間は長い。
 なのに…な。…あんたとのゲームの日々だって、気が付けなかった。
 組長の無理にな…」
「側に居すぎるからやで。ほんの一週間離れただけで、八つ当たり。
 まさちん、お前は、心から愛する女性を閉じこめる男やな」
「閉じこめる?」
「あぁ。そんなんじゃぁ、組長がかわいそうや。…抱かなくて正解」
「抱くと…消えてしまいそうな感じだよ…。側に居るだけでいいんだ。
 あの笑顔、拳、蹴り…いつでも楽しめるからね」

まさちんは、凛とした表情で、水木を見つめていた。

「まさちん、お前…」

水木は、口を噤む。

どこまで、我慢できるんや?

「それに、お忘れですか?」

まさちんが静かに口にした。

「俺は……この手で…」

そうだった。
薬漬けされていたとはいえ、真子の命を…。

「…ところで、なぜ、こんな状況に? 確か、ミナミのことで
 話し合っていたのでは?」

その場の雰囲気を変えるかのように、まさちんは、服を整えながら、幹部達に尋ねる。

「それは、お前が眠りこけてたから、その原因をだな、
 それぞれが、言ってただけや。そしたら、こいつが…なぁ」

須藤が、呆れたように応えていた。

「…すみません」
「お前が眠りこけるのが、珍しくてな」

谷川が言う。

「最近、寝る時間が増えてしまって…。体力的に弱ってきたんでしょうね」
「たまっとるだけやろ」

水木が、ボソッと言う。

「みぃずぅきぃぃぃ〜」

まさちんは、再び拳を構える。

「もう、お前に殴られるんわ、ごめんやで。俺、痛いの嫌やし」

水木は、まさちんの拳を避けるような仕草をしていた。

「水木、完全復帰やな…」

須藤が呟いた。
痛いのを嫌がる水木。
阿山組と須藤達関西との抗争の終止符を打った、えいぞうの拳。水木だけが、受けていなかった。

『俺、痛いの嫌やし。それに、俺、これ以上血を見るのんも嫌やしな』

阿山組系の傘下となるために、杯を受けに向かった日、東京へ出発前に、須藤に言った言葉だった。

…これ以上血を見たくない…

緑に腕を斬り落とされた時の西田の姿、桜の狂乱。
それを思っての言葉。
お忍びで来た五代目を優しく迎えたのは、自分こそ、真子が築き上げる世界の手助けをしたいからだった。
真北よりも、その思いは、強い水木。
そんな水木の心を知っているのは、その腕に抱かれた真子だけだった。

「谷川さん、これが、終わったら、AYAMAに御願いします。
 組長が、次のグッズを考えているんですよぉ。…で、大丈夫ですか?」

まさちんの言葉を聞いた途端、顔色が変わる谷川だった。

「自分で動くようにとの伝言ですよ」
「…解ってるよぉ…」

谷川は、ふてくされる。

「御願いしますよ。名誉挽回」
「……やだな…」

谷川が呟く。

ドス…。

「五代目の期待の応えろよ…なぁ」

水木の左拳が、谷川の腹部に突き刺さっていた。

「…あかん…別の意味で、厄介な奴に変貌や…」

須藤が、まさちんの耳元でボソッと呟いた。

「そうですね…」

まさちんは、ポリポリと頭を掻いていた。



(2006.8.5 第五部 第九話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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