任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第五部 『心と絆』

第十四話 光るもの

星が瞬く素敵な夜。
真子とまさちんが、寝転ぶ自宅の庭に足音が聞こえてきた。

「…ったく…。まさちん、起きろ」

眠っていたまさちんは、眠たそうな目を開ける。
足が四本。
まさちんは、その足を見上げていく。

「……??……???…!!!!!! 組長!!!」

見上げた足…それは、真北とぺんこうだった。その二人に気が付いた時、胸に重みを感じたまさちんは、自分が置かれている状況を把握する。

起きあがれない…なぜ???

「二時間も寝転んでたらなぁ…。それも、ここに。そんな格好で…」

真北が、そう言いながら、しゃがみ込み、まさちんの顔を覗き込む。

「すべて、ご覧になっておられた…とか??」

真北は、ニヤリと微笑むだけ。

「熟睡してるわりには、自然と動くんだな…身に付いてるんか?」

真北が顎で差す真子の姿。
まさちんの胸に耳を当てて、まさちんの上で眠る真子。
真子には、まさちんの上着が掛けられている。

「横に置いていた上着を手にとって、真子ちゃんに掛けていたぞ」
「…そうでしたか…」
「で、どうする? このまま、ここで眠るか?」

真北は、微笑んでいる…が、目は怒っていた。
まさちんは、真子を抱きしめている手をそっと離す。その仕草で、真北は、真子を抱きかかえる。

「ったく、手を付けるか、付けないか、はっきりしろぉ〜。
 男だったら、そのままいけよ。あほ」

真北は、ふざけた口調でまさちんにそう言って、真子を抱えたまま家へ入っていった。
庭には、寝転んだまま起きあがれないまさちんと、まさちんを見下ろすぺんこうが残っていた。

「見てたんだろ?」

まさちんは、徐々に体を動かし始める。

「まぁな。俺の部屋から、ここは、丸見えだからな」

ぺんこうは、まさちんの隣に腰を下ろす。

「星…か。美しいな」
「そうだろ。ここでもこれだけ綺麗に見ることできるやんで」

まさちんは、ようやく体が思うように動くようになったのか、起きあがり、ぺんこうと同じように座る。
足を投げ出し、両手を後ろについて、空を見上げた。

「怒ってたんか?」

まさちんが、静かに尋ねる。

「いいや」

ぺんこうが、静かに応えた。まさちんは、フッと笑う。

「気持ち…打ち明けた…。だけど、そのあとは…な。
 他の女なら、ベッドイン…」
「お前にしては、おかしいよな」
「あぁ。…ぺんこう」
「ん?」
「あれから、どうなんや? 女とは…」
「寝てない。見向きもしないし、興味もないな…。教師しながら、
 組長のことばかり考えている。…いつ、あの世界から、
 かっさらっていこうか…ってね」
「いけよ…。組長、喜ぶ」

短く言う、まさちんに、

「そんなこと、ないさ」

ぺんこうは、そう言いながら、寝転んだ。



真北は、真子の部屋に入り、真子をベッドに寝かしつける。
そして、優しい眼差しで真子を見つめ、そっと頭を撫で、部屋を出ていった。



まさちんも、庭に寝転んでいた。

「いつになったら、組長の夢…叶うんだろうな…」

まさちんの呟きは、更に続く。

「叶えさせてあげたいよ…。でも、もう…」
「叶う…叶うさ…。叶えさせるよ…絶対に」

ぺんこうが、力強く言った。

「ぺんこう……」

まさちんは、隣に寝転ぶぺんこうを見つめる。
ぺんこうは、まさちんの目線に気が付き、振り向いた。二人は、微笑み合う。
和やかな雰囲気の中、ぺんこうは、夜空を見た。

「しっかし、気持ちいいなぁ、こうやって寝転ぶのはぁ」

ぺんこうが、その場の雰囲気を変えるように言った。

「くまはちの手入れが良いからなぁ〜。ほったらかしにしても、
 綺麗なんだよな。…流石だな」

まさちんが、明るく応えた。

「くまはちこそ、何でも出来る奴だからな。うらやましいよ」
「そうだな」

珍しく意見が一致した二人。
そんな二人を照らすように、星は、更に輝いていた。





AYビル。
地下駐車場から真子とまさちんが、上がってきた。

「はぁい! 真子!」
「ライさん、早すぎ!」
「そう言う真子こそ、10分前ですよ」
「待たせるのは、よくないでしょ?」

真子は、笑顔でライと話し込む。そんな二人を遠巻きに見つめるまさちんは、ふてくされていた。その横を須藤とよしのが通り過ぎる。

「まさちんの奴、今日は荒れるで」
「そうですね。覚悟しておきましょう」

須藤とよしのは、こっそりと言いながら、エレベータホールへと向かっていった。

「…組長、私は、事務室へ向かいますよ」

まさちんは、業を煮やして真子に声を掛ける。

「…あっ、ごめん。ほな、今日は…」

真子は、ライを見る。

「夕方になります。…五時に、ここです」

ライが応えた。

「わかった。組長、あまり、ライさんを困らせないように」
「はぁい。では、行ってきます!」

真子とライは、まさちんに背を向けて歩き出す。

「行き先は?」
「内緒ですよ!」

ライは、真子の肩に手を回しながら、まさちんに振り返り、ウインクをして玄関から出ていった。
陽の眩しさに目を細める真子の横で、ライは、ちらりと木陰に目をやる。そこには、カイトが立っていた。
ライに一礼して、スゥッと姿を消した。

「今日は、何処に行くん?」

真子は、無邪気な表情でライに尋ねる。ライは、にっこりと笑って、応えた。

「ミナミ」

真子は、ずっこける。

「あの…ミナミって、あのミナミ?」
「えぇ。真子が大切にしている街のひとつ。確か、水木さんが管轄ですよね?」
「はぁ、まぁ…ね」
「いつもは、真子、五代目として、歩いてる。だけど、今日は、
 阿山真子という一人の美しい女性として…そして、
 私の大切な人として歩きましょう」

ライの言葉に、真子は驚きっぱなし。

「ったくぅ〜何を言うのかと思ったらぁ〜。ライさんには、いつも負けるよぉ」
「真子と勝負しているつもりありませんよ。真子が楽しいと思うことを
 一緒に楽しみたいだけです。たくさんのお店、廻りましょう。AYAMAの
 ゲームもです」
「ほな、ライさんがエスコートだよ」
「まっかせなさぁい」

まるで恋人同士のように、二人は、語り合い、地下鉄の乗り場へと向かって階段を下りていった。




ダン!!!!!

会議室。
幹部会を開いている所…で、まさちんが、机を思いっっっきりたたきつけた音が響き渡っていた。
ギロリと睨み付ける相手は、谷川、須藤、そして、水木…。
冷や汗が頬を伝っている…。

「だ、だから、まさちん…そんなに怒るなや」
「落ち着けって。組長は、普通の暮らししとんねんやろが…」

谷川、須藤がそれぞれ言う。

「…で、行き先は?」

水木が、静かに尋ねた。

「…知るかっ! ライの野郎…内緒と言いやがった…」

まさちんは、机の上に置いた拳を握りしめる。須藤達は、その拳に目をやる。

…机…叩き割るなよ……。

その拳は、フッと緩んだ。

「次の議題は…。あの事件以来、川原と藤は、復帰してない…か」

まさちんは、幹部会を進行し始めた。その姿に一安心する須藤達だったが、何か物足りない…。

やはり、もっとからかいたい…。

須藤達は、書類に目線を移しながら、そう思っていた。

「で、川原と藤の代わりは?」
「わしが指揮をとってる。軽傷の組員が、なぜか張り切ってるんだよ」
「二人の具合は?」
「かなり良くはなっとるけどな、あいつら、お前や水木みたいに
 頑丈ちゃうし、回復も遅いで」

須藤が、言う。

「なんか、人を化けもんみたいに言わんとってや」

水木が応える。

「ギプスもせぇへん、縫合も少しだけやったのに、お前の回復
 人並み外れとったやないか」
「あのなぁ〜。ぶり返すん、やめれ」
「本当の事やないか」

水木は、席を立ち、須藤に歩み寄る。

「喧嘩売っとんか?」
「買うな!」
「買ったる!」
「じゃかましぃ!!!!」

またしても、まさちんが怒る…。

ところが、須藤と水木の口喧嘩は、納まらなかった。

「あほらし…」

谷川が、呟きながら、別の書類に目を通し始める。
AYAMAキャラグッズ新商品リスト…
という見出しの書類。ため息混じりに谷川は、書類をめくっていった。





「真子、これ、どうですか?」

ライの声に振り返る真子は、微笑んでいた。
ライと真子は、百貨店のアクセサリー店で、色々とアクセサリーを手にとって見ていた。
ライは、あまり飾らない真子を飾り立てようと何故か躍起になっている。
真子が断っても、後に引かないライ。
頑固で通る真子は、どうしても、ライに負けてしまう。
ライが奨めるアクセサリー。それは、一匹のかわいい猫を中心に、猫の肉球が鎖になっているブレスレット。真子は、じっくりと見つめる。その表情は、ゆっくりと笑みを現す。

「かわいい!」
「では、これ下さい」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」

ライの言葉に店員が反応して、すぐさま包み始める。

「お待たせ致しました」
「ありがとう」

ライは、素敵な笑みを店員に向け、商品を受け取った。そして、真子と店を後にした。




ライと真子は、ミナミの商店街を歩き始めた。たくさん行き来する人波に身を任せるように歩いていく二人は、有名な橋の所へやって来た。二人は歩みを停め、橋の下を見下ろす。

「ここね…思い出だらけの場所。…あの日以来、ここに来るのは、
 すごく、怖かったんだけど…。どうしてだろう。今は怖くないや」

真子は橋の欄干にもたれかかりながら、笑顔でライに言った。

「…大学祭の打ち上げで楽しんだ後、殴られて…刺されて…落とされたんだ」

さらりと言う真子は、目を瞑る。その時のことを思い出している様子。
真子の目が見開かれた。
ライが、真子の頬に軽く唇を寄せていた。

「そんな残酷なこと、さらりと言わないでください」
「ごめん…」
「嫌な思い出、あるところに、連れてきて…すみません」
「それだけじゃないよ。水木さんと変わった出逢いをした場所でもあるもん」

明るく言った真子。再び、何かを思いだした様子…。
水木とのゲーム…。
再び目を瞑った真子をそっと抱き寄せるライ。
真子の耳元で、優しく語り始めた。

「ソーリー真子。嫌な思い出のある場所を真子との素敵な時間を過ごすのに
 選んでしまって…。辛いこと、思い出させる為に、真子との時間を過ごして
 いるのでは、ありません。真子の心、和ませる為に…そう思って…」

ライの腕の中で、真子は、ライを見上げる。

「大丈夫だよ。ライさんと一緒に居ると、辛かった事が、まるで嘘のように
 こうして、語ることできるんだもん。…なんでだろうね。不思議だなぁ」

真子の言葉、そして、笑顔に、ライは、心を和ませる。

「私が和んでしまいましたよ。真子の笑顔で!」

ライも素敵な笑顔を真子に向けた。そして、先程買ったブレスレットの箱を開け、真子の右腕に付ける。
真子は、嬉しそうに、ブレスレットを見つめた。

「ありがとう。嬉しい」
「知らなかったですよ。まさちんさんも真北さんも、真子にプレゼント
 していないなんて。誕生日やクリスマスは、どうしてたんですか?」
「誕生日は、気が付いたら過ぎてるし、クリスマスは、天地山だもん」
「私との時間では、いつも、それを付けて下さいね!」
「ずっと付けてるよ。みんなにも見せようっと」
「駄目ですよ」
「なんで?」
「他の男からもらった物を身につけているところを見たら、怒りますよ」
「どうして??」
「嫉妬ですよ」
「なんで、嫉妬するんだろ…」

男の気持ちに疎い真子だった。
ライは、話を切り替える。

「次は、どこ行きますか?」
「…ライさんのお薦めの場所」
「私は、あまり詳しくありませんよ」
「たっくさんの取材受けてたやん。その中で、いいとこなかった?」
「たくさんありますよ。では、とびっきりの場所にしましょう」

ライは、時計を見る。

「その前に、お昼にしましょう」
「そうだね。じゃぁ、あの店!」

真子が指差した場所。
そこは、以前、理子と遊びに来たときに入った店…阿山組系の店だった。
ライは、真子に誘われるまま、店へと入っていった。



カイトは、ミナミの商店街を歩いていた。
真子とライが、料理店へ入っていくのを見つめていた。

「…ライ様ぁ〜そこに入るなんて…困りますよ…。そこは、リストから
 外しておきます。…思い出の場所になりますから…ね」

カイトは、真子とライが入った店の前を素通りし、何処かへ歩いていった。




真子とライの座るテーブルに料理が置かれていった。

「いただきます!」

真子とライは、同時に言う。そして、食べ始めた。
暫くして、店の外が騒がしくなる。店員や他の客が、店の外に顔を向けて、外の様子を伺っていた。
サイレンの音が響いている。

「何か遭ったのかな…」

真子の表情に、五代目がちらりと顔を出す。
ライは、真子の表情に気が付き、声を掛けようとするが、店の前を横切る人物を見て、表情が曇る。
カイトだった。

『邪魔するな…』

ライの目が、そう語っていた。
カイトは、ライを見つめる。

『ここを外しましたよ』

カイトは、目で語り、去っていった。
ライは、笑顔に戻る。

「若者の喧嘩でしょう」

ライが言う。

「…困るよ…。後で水木さんに伝えておこうっと」
「真子」
「ん?」
「…私との時間では、五代目…捨ててください」

ライは寂しそうに真子に言った。

「…ごめんなさい…。でも、気になるから…」
「解りました。真子とのデートの場所は、阿山組が絡んでないところに
 致しましょう。私が、軽率でしたね」
「ライさん……」

真子は、箸を置いて、俯いてしまう。
ライは、真子の仕草に慌ててしまった。

「真子、真子! ごめんなさい。困らせるつもりありません。
 顔を上げてください。笑顔…見せてください…」
「ライさん…ありがとう。ライさんの優しさが、すごく…伝わってきて…
 それにどう応えていいのか、解らなくなってしまったの…」
「笑顔で…応えてください」

真子は、素敵な笑顔をライに向けた。

「それで、充分ですよ、真子」
「あっ、そうだ」

真子は、話を切り替える。

「今度、むかいんの店で、食べようよ。ライさん、まだでしょ?」
「そうですね。二人では、まだです。いつかきっと」
「むかいんも喜ぶよ。ここよりも、ずっと違うから」
「…あの、真子……」
「ん?」

ライは、真子の後ろを指差していた。真子はゆっくりと振り返る。
そこには、コックが一人立っていた。

「真子様、ひどいですよ…」
「!!!!」

そのコックこそ、むかいんの下で修行して、この店を構えることになった人物だった。

「料理長と比べたら、それこそ、天と地の違いですよ…」
「ご、ごめんなさい!! そんなつもり、ないの! ごめんなさぁいぃ!!」

慌てふためく真子を見て、ライは、楽しそうに微笑んでいた。





夜。
ライの宿泊先のホテルのラウンジに、ライが入ってくる。そして、いつもの席に座り、ワインを飲み始めた。
窓ガラスに映るカイトの姿。

「いきなり7件もか…」

ライが呟く。

「予定では、8件でしたよ」
「悪かったな。真子が薦めるとは思わなかったんだよ。
 …むかいんの弟子が開く店なら、当たり前の行動だったな…」

ライは、カイトにグラスを差しだしワインを注ぐ。

「ありがとうございます」

カイトは、ライの隣に座り、ワインに口を付けた。

「果たして、奴らは、どう出るかな。想像できない手口だからな…。
 ちゃんと残してきてるのか?」
「えぇ。優しい手がかりを…ね」

カイトは、懐から、一枚の紙を取り出し、ライの前に差しだした。

『もくてきは、あやままこ まずは、まわりから崩す
 まこに、ひつようないものをころす。まこにはいらない』

「爆破して、残るのか?」

ライは、冷静に尋ねる。その言葉に、暫し考え込むカイトは、

「……残らないかも…」

静かに応えて、あらぬ方向を見つめた。
そんな仕草を見て優しく微笑むライ。

「お前らしいな」
「恐れ入ります」
「そこで言う言葉か? ふっふっふ」

ライとカイトは、微笑み合っていた。
ライは、カイトのグラスにワインを注ぎ、自分のグラスにも注いだ。そして、静かに飲み始める。
窓の外に見える夜景は、とても美しく輝いていた。




AYビル・会議室。
須藤、水木、谷川、そして、まさちんが深刻な表情で、話し込んでいた。

「そんな芸当ができる組なんて、ないよな…」

須藤が、疲れ切った表情で言った。

「組事務所を狙うなら解るが、なぜ、店舗なんや…」

水木が、不満そうに言った。

「知らんわい」
「兎に角、けが人がいないだけでも、よかったやないか。
 けが人おったら、組長が…な…」
「そうだよな…」

水木と須藤は、同時にため息を付く。

「で、その組長は? まさちん」
「…今日は、ライとデートの日」

まさちんは、冷たく言った。

「まさちん、しっかりと捕まえておかな、ライに取られるで。
 こないだだって、ミナミでデートやったらしいやないか。
 それも、滅茶苦茶お似合いのカップル、光ってたらしいで」

水木は、ミナミの警戒に当たっていた組員から、真子とライのデートの様子を聞いた様子。
にやにやと笑って、まさちんをからかうように語り始める水木。

「その後は、大阪城、姫路城、そして、自然の多いところばかり。
 組長、滅茶苦茶喜んでるらしいやないか。それに、右腕の…」
「うるさい!」

水木の言葉に、まさちんは、短く言う。

「…水木、えらい知っとるな…」

須藤が、感心するように尋ねる。

「まぁな。取りあえず、ガードや。組長だけでなく、ライの方も
 危ないんやろ。そんな二人が、二人っきりっつーのが、そもそも…」

まさちんの鋭い眼差しで、口を噤む水木だった。

「で、今日は?」

須藤が尋ねた。

「…下で食事中」

ふてくされたように言うまさちんに、須藤達は、笑いを必死で堪える。
まさちんが、ギロリと睨み付けたのは言うまでもない。



その頃、真子とライは、むかいんの店で食事中。
むかいんの料理で笑顔満面の真子を、ライは、優しい眼差しで見つめていた。



まさちんの仕草を見ていた須藤達は、笑い出す。
内線が鳴った。
側にいた谷川が応対する。

「会議室。…あん?…ほんまか…それ…」

谷川の顔色が徐々に変化する。
谷川は、そっと受話器を置くと、まさちんたちが、ゆっくりと歩み寄ってきた。

「どうした?」
「…組事務所が襲われたよ…。例の方法でな……それと…」
「他に何か?」

須藤が静かに尋ねる。

「ミナミの店舗もやられ始めた…」

まさちんは、会議室のドアノブに手を掛ける。

「まさちん!」

水木が声を掛ける。

「なんや?」
「何処行くんや? …まさか、組長に言うんちゃうやろな…」
「…あかんのか?」

まさちんと水木は睨み合う。

「取りあえず、俺は、事務所に戻る」

そう言って谷川が会議室を出ていく。
それに乗じてまさちんも素早く出ていった。

「まさちん!!! あほんだら!!」

水木の叫び声が、廊下に響き渡る。

まさちんと谷川は、エレベータに乗っていた。

「まさちん」

谷川が静かに言う。

「何か?」
「組長に言うのか?」
「報告はせんとな…」

まさちんは、俯き加減に応える。

「普通の暮らし…してるんだろ、今…。組関係のことは…」

エレベータは、2階に到着する。

「谷川さん」
「ん?」
「そのことは、俺が一番…解っていること…気にしていることだよ。
 でも…報告しないと…、前のようになるだろ?」

まさちんは、谷川に微笑んだ。

「まさちん…」

エレベータのドアが静かに閉まる。
まさちんは、むかいんの店の方向を見つめ、ため息を付く。

「しゃぁないか…」

そう呟いた途端、歩き出す。



むかいんの店。
むかいんが、料理を運び終え、厨房に戻るところだった。
まさちんに気が付き、手を挙げる…が、まさちんの表情を見て、何かを悟り、まさちんに歩み寄ってきた。

「組関係は、あとにせぇ」
「緊急や」
「それでも、許さねぇぞ…」

むかいんは、まさちんの耳元で静かに怒る。しかし、まさちんは、真子が居るであろう特別室へ向かって歩き出す。むかいんが、まさちんの腕を掴むが、まさちんは、それを振り切った。

「やめろって」
「うるせぇ!」

まさちんは、そう言って、特別室のドアを開けた。
突然ドアが開いたことに驚いた真子は、振り返る。

「どしたん?まさちん。…その顔は、組関係だね……」

まさちんの表情を見て、まさちんが何の用事でやって来たのか直ぐに解る真子。

「組長…すみません…。停めたんですけど…」

まさちんの後ろに居るむかいんが、困ったような表情で言った。

「組長、街が…荒れ始めました」

まさちんは、ゆっくりと語り出す。

「街…が?」
「キタの店舗だけでなく、組事務所も襲われ始めました…」
「なんだって?!」

真子は、まさちんの言葉が信じられないという表情をしていた。
その雰囲気は、『五代目』だった…。

「真子…?」

真子は、すっかりライとの時間を忘れているのか、立ち上がった。

「ライさん?」

立ち上がる真子の腕をライが掴んでいた。
掴まれた腕には、ライからもらったブレスレットが付いている。ライは、その部分を強調するかのように、真子を掴む手に力を込めた。そして、ゆっくりとまさちんを睨み付けるライは、静かに言った。

「まさちんさん。今は、真子の時間です。その事件は、あなた方で
 解決してください。真子を危険に曝さないで欲しい」

まさちんの心に、ライの言葉が突き刺さる。

真子が望む普通の暮らし、そして、真子を守る事…。

まさちんは、拳を握りしめ、そして、何も言わずに、部屋を出ていった。

「まさちん!」

ドア越しに真子の呼ぶ声が聞こえていた。
まさちんは、むかいんの店を出ていく。

「まさちん」

むかいんの呼びかけに歩みを停め、ちらりと振り返るまさちん。

「…お前の言う…通りだよな。…俺、どうかしてるよ。
 ライの意見…正しいよな。じゃぁ、あと頼んだよ」

まさちんは、そう言って、エレベータホールへ向かって行った。その後ろ姿は、なぜか、寂しそうに感じた。
むかいんが、特別室のドアを開けようとした時だった。
真子がドアを開けて出てきた。

「組長。まさちんなら、気になさらないようにと…」
「気になるよ。私は、…阿山組五代目だろ!」

そう言って、真子は、まさちんを追いかけて走っていった。
むかいんは、ドアが開いたままの特別室に目をやった。ライが項垂れていた。
むかいんの目線に気が付いたのか、顔を上げ、寂しそうに微笑むライ。

「どうしても、勝てないのですね…。真子の心に居る人物たちには…」

ライはそう言って、立ち上がり、むかいんの横を通り過ぎる。

「ライ!」

むかいんは、ライを呼び止めた。
歩みを停めるライに、むかいんは、優しく語り出す。

「今日は、事態が事態だけに、仕方ない行動を取りましたが、
 あなたと過ごしている時の組長は、一番輝いてますよ。
 だから、これからも、宜しくお願いします。…組長の願いを
 …叶えてください」

むかいんは、深々と頭を下げていた。ライは、むかいんに振り返る。

「ありがとう、むかいんさん。…ごちそうさま。おいしかったです。
 真子が自慢するだけあります。また、来ますね」

素敵な笑顔を向けるライは、そっとその場を去っていった。

「ライ…本当に、組長のことを……」

むかいんは、呟いていた。




ライは、宿泊先のホテルへ向かうタクシーの中で、終始無言だった。
心は、張り裂けそうな程、痛んでいた。

真子…どうして…。

ライは、自分との時間を中止してまで、五代目の雰囲気を醸し出した真子の事が気がかりだった。
いつの間にか身に染みついている極道の雰囲気。

それは、一番嫌っている事なのに…。
そんな真子のことを思うと、心が張り裂けそうだった。




ライは、宿泊先のホテルに着き、部屋に入っていった。
上着を脱ぎ、ネクタイを解いて、ソファの背に掛け、体をベッドに投げ出した。

「真子を…救うには、あの方法しか…ない…か」

ライは、両手を天井に向けて差し出した。

「やはり、俺には、無理…なんだな…」

ライは、両手を体の横に、力無く落とし、目を瞑った。





夜。
街の灯りが、輝いている景色を見下ろしながら、ライは、いつものラウンジのいつもの席に着いて、ワインを飲んでいた。
窓に映るライの表情は、どことなく寂しさが漂っている。
その表情が一変する。

「…俺の時間だ…」
「申し訳ございません」

ライの後ろに歩み寄ったのは、カイトだった。

「何の用だ?」

冷たく言い放つライに、カイトは、優しく応える。

「ライ様が、気になりまして…。激しい哀しみが伝わってきましたので…」

カイトの言葉に、軽く笑いを浮かべるライ。

「…あぁ、悪かった…。今日、真子にフラれたよ」
「真子様に?」
「真子の時間に、まさちんが、入ってきた…。組関係のことでな…。
 そのことに、すぐ、反応したんだよ…真子は……」

ライは、グラスのワインを一気に飲み干す。そして、グラスを力強くテーブルに置いた。

「真子をあの世界から救うには…手ぬるいことをしてられない…。
 仕方がない…俺が動く。カイトは、続けてくれ。俺は、俺の方法で、
 真子を救うことにした。だから、お別れだ…」
「…ライ様…、本当によろしいんですか?」

ライのお別れの意味を把握するカイトは、驚いたように声を上げる。

「あぁ」
「…やはり、私にお任せ下さい」
「カイト……」

ライは、カイトの眼差しに何かを感じたのか、フッと笑った。

「任せるよ。……まずは…幹部たちからだな…。川原、藤は、既に終わっている。
 次は、組事務所を襲ったあの谷川だ」
「御意」

カイトは、空になったライのグラスにワインを注いだ。そして、もう一つのグラスにも注ぎ、それを手にした。
甲高い音が鳴った。
二人は、それぞれ飲み干した。
ライは、目を瞑り、一息ついて、目を見開いた。
その目は、赤く光っていた。そして、不気味に口元をつり上げる。
それに反応するかのように、カイトの目は、紫に光っていた…。



(2006.8.13 第五部 第十四話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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