任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第五部 『心と絆』

第十八話 解き放たれる心

橋総合病院・ICU前。
橋は、真北を見つめながら、白衣のポケットに手を入れ、何かを取りだした。
それを見つめる橋。
人の気配で慌てて、それをポケットになおす。

「橋先生…」

その声は、ぺんこうだった。

「今は、なんとも言えないよ」

橋は、真北を見つめたまま、応えた。

「…まさちんたちは、向かったんですね」
「あぁ。ぺんこうも、行くのか?」

橋は、静かに尋ねる。

「…約束がありますから…。私は、教師です…」

そう言うぺんこうの心の中は、葛藤していた。
そんなぺんこうを見て、ぺんこうの葛藤に気付いたのか、橋は白衣のポケットから、先程見つめていた物を取りだし、ぺんこうに手渡し、そして、何も言わずに去っていった。

「…これは…真北さんの…」

ぺんこうは、その昔、真子の家庭教師をし始めた頃に、見たことがある。
真北に、なぜ、阿山組に居るのかを問いただした時に、真北が凛とした表情で、この手帳を見せ、自分の身の上を話してくれた。
ぺんこうは、そっと手帳を広げる。

特殊任務に就く証、その隣には、真子とぺんこうのツーショットの写真が挟まれている。
それは、ぺんこうが教員免許を取得したときに撮ったものだった。
ぺんこうは、真北の本当の気持ちを理解し、衝撃を受けた。
ふと気になる物を見つける。
写真の後ろへ隠すように挟まれている一枚の用紙。ぺんこうは、何気なくそれを手に取り、広げた。

『真北春樹の身にもしものことが遭った場合は、
 山本芯を代行とし、山本芯の指示に従うこと』

そして、用紙の下の方に書かれている文字。

「芯、頼んだぞ…か。…わかりました」

ぺんこうは、ガラスの向こうに眠る真北を見つめ、用紙を畳み手帳に挟む。そして、手帳を閉じ懐に入れ立ち上がった。
その脚で橋の事務室へやって来る。

「橋先生、ヘリポートお借りします」
「ヘリポート???」
「えぇ。車で向かうには、時間が掛かりますので、ヘリで」
「…お前は高所恐怖症ちゃうんか?」
「それだけは、あの人に似ませんでしたよ」

ぺんこうは、ニヤリと微笑む。

「そうか。発着許可しとくよ」

ぺんこうは、橋に一礼する。

「…ぺんこう」

橋は、静かに名前を呼んだ。

「はい」
「真北のようになって戻ってくるなよ」
「解ってますよ。私だけじゃないですから。強面の男が向かってますからね。
 それも、喧嘩好きの男ばかりが…。では」

ぺんこうは、そう言って、事務室を出ていった。
車で自宅に向かいながら、用紙に書かれている番号を押す。

『はい』
「…山本芯と申します。真北春樹の代行です」
『ご用件は?』
「ヘリを一機、橋総合病院の、ヘリポートへ」
『かしこまりました。…高所恐怖症の真北さんは、絶対に言わない事ですね』
「あのね…。宜しくお願いします」

ぺんこうは、電話を切る。そして、アクセルを踏み込み、スピードを上げた。





AYビル・須藤組組事務所
戦闘準備を終えた組員達が、待機していた。そこへ、まさちん、えいぞう、そして、健がやって来た。

「待ってたでぇ〜」

須藤たちが、言う。

「くまはちは?」
「自宅に戻った。自分なりに準備しとんねんやろ。…っつーか、帰した」

水木が言った。

「帰した??」
「あの傷…体では、無理だろ。いくらくまはちでも…な」

水木の言葉に反応するかのように、まさちんが静かに語り出す。

「考えたのですが、向かうのは、私達だけで」
「なんやて?」
「…あまり大人数で向かうとそれこそ、周りに知れ渡ります。
 それに、今後の事を考えると、再び、敵対する組が動きます。
 備えが必要です。ですから、須藤さん、水木さん、そして、
 谷川さん、川原さん、藤さん。あなたがたは、いつもと変わらない
 振る舞いを御願いします」
「待てや、まさちん。お前らだけで、何が出来る言うんや?
 相手はライなんやろ…それも、組長と同じ特殊能力を持つ…。
 赤い光やろ? その恐ろしさは、まさちん、お前が一番よう知っとるやないかっ!」

水木は、まさちんの胸ぐらを掴みあげる。
まさちんは、冷静だった。

「…あんたの気持ちは、よく解っている。もしも、俺や、えいぞう、
 健までが、真北さんのようになった時…組長を大切に思ってくれる
 人物が居なくなる…。それを思っての行動だ」

まさちんは、静かに言った。

「俺よりも、お前だろうが…。組長を守っていくのは…」
「これからのことを考えて…だよ」

まさちんは、ゆっくりと水木の腕を掴み、自分の胸ぐらから放す。水木は、その手で拳を作り、壁をぶん殴った。

「…だったら、何名か連れて行け。俺の若いもんをな…」
「水木さん…」
「俺んとこのも、連れていけ」
「俺んとこもや」
「須藤さん…、谷川さん…」

その言葉に、水木組、須藤組、谷川組そして、藤組、川原組の若い連中が、前に出て、まさちんに一礼する。

「解った…頼むよ」
「はっ」
「ほな、わしらは、いつも通りっつーことで。ほら」

水木は、自分が装備していた武器をまさちんに渡した。

「お前に扱える代物とは思わんけどな、頼むで。俺の愛する女性を
 無事な姿で連れ戻してくれよ」
「わかってらぁ〜。だがな、組長の心は、俺で満たされているぞ」
「この自信過剰がぁ!」

笑いが起こる須藤組組事務所内。

「行って来るよ」
「あぁ」

そう言って、まさちんを先頭に、えいぞう、健、そして、それぞれの組から有志で出てきた若い衆は、組事務所を出ていく。
エレベータ内で、健は、真子の行き先を探り当てる。

「点滅は、猛スピードで、動いてるよ。その先は…」
「あの湖か…」

地下駐車場に到着したまさちんたちは、車に乗り込み、そして、出ていった。
それぞれの重装備を見た市民は何事かという表情をして、それぞれの高級車を見送っていた。しかし、ロビーなどでは、いつもと変わらない時間が過ぎていた。
AYビルから高級車が次々と出ていくが、周囲は至って、変わらない雰囲気を醸し出していた。





真子の自宅。
ぺんこうが、豹柄のスーツを身につけ、長い何かを手に持って、玄関から出てきた。そして、門の前に止めてあった車に乗り込み、去っていった。玄関先には、くまはち、そして、くまはちを止めに来た虎石と竜見が、呆然としていた。

「…兄貴…ぺんこうさんが…」
「…もう、俺には、…停められないよ…。くそっ!!」

くまはちは、拳を床にぶつけた。そして、意を決したのか、ゆっくり立ち上がり、くまはちは、ドアを開けようとする。
しかし、くまはちの右腕を虎石、左腕を竜見が、捕まえた。

「はなせ!!」
「…俺達に、脚を折って欲しいんですか? 俺達に…」
「竜見…」
「兄貴が行けば、組長に負担を掛けます。そんなこと、したくありません」
「虎石……。解ったよ…俺は、行かない…。でもな、ここで待ってられない。
 …俺は、俺が出来ることをする。…橋総合病院へ戻る。…真北さんが、
 心配だしな」

くまはちは、素敵な笑顔で二人に言った。その笑顔でゆっくりと手を離す二人だった。





ライの車は、あの湖の側の別荘前に停まった。車から降りたライは、助手席に周り、ドアを開け、真子をそっと抱きかかえる。そして、別荘に入っていった。


中央の部屋のドアを開ける。
そこは、ライの寝室。
ライは、そっと真子をベッドに寝かしつけた。

真子……。

ベッドの側に腰を掛け、真子を見つめていた。そっと伸びる手は、真子の頬を慈しむかのように優しく撫でていた。
そっと唇を寄せるライ。

「早く目を覚ましてください。私のこの腕で…真子を強く抱きしめて
 あげますよ…。その時の…真子の声を聴きたい…きっと甘くささやいて
 くれるんだろうな。真子の周り…もう、誰も居ませんから…。
 誰も、真子を助けには来てくれませんよ。くまはちも、真北も…そして
 まさちんも…。ぺんこうは、教師…むかいんは、料理長。そんな二人が
 真子のために、手を血で染めないでしょうから」

ライは、真子の胸に顔を埋める。

「真子の肌は、美しい…。何も彫っていないからね…。そんな女性の
 体に興味があるんですよ。…だけど、日本には、私を満たしてくれる
 女性は居なかった。私の思いに応えてくれる…女性は…。
 真子だけですよ…私の気持ちに、揺らいでくれたのは…そんなに、
 私の事…好きになってくれたんですか? 真子……真子……」

ライの唇は、真子の耳元に移動する。そして、呟いていた。
ライの右手は、真子の体を沿うように、左肩から、腕を伝って、腰へ、そして、太股へと移動していった。

「早く、目を…覚まして下さい……」

真子の見つめるライ。その時、真子が目を覚ました。
ライは、嬉しそうに微笑み、そして、言った。

「お目覚めですか?」

ライの言葉に反応するかのように、真子が勢い良く起き上がる。そして、真子の両手は、ライの胸ぐらに素早く伸びた…。





橋総合病院
ぺんこうは、片手に日本刀を持って、ICU前にやって来た。
ぺんこうは、真北を見つめる。

「あなたの代わりに、行って来ます」

ぺんこうは、そう呟いて、サングラスを掛けた。そして、日本刀を前に指しだす。
封という文字が、引き裂かれた。
きらりと光る日本刀の刃。

タン!

すぐに鞘に納めたぺんこうは、きびすを返して、屋上へ向かっていく。
そこには、真北の特殊任務のマークが機体に付いているヘリが一機到着していた。
ヘリ乗っている二人の男が、ぺんこうの姿を見て、一礼する。
ヘリの側には、橋が立っていた。

「橋先生。真北さんを御願いします」
「絶対に、戻ってこいよ」
「状況によりますよ」
「…その手を血で染めたくないというあいつの願いも虚しく…か」
「私に代行を頼む時点で、願いを諦めたようなもんですよ。
 そこが、あのひとの、悪いところです」
「そうやな。自分に無理ばかりする…。お前も、真子ちゃんもそっくりや」
「そりゃぁ、あの人に育てられたら…ね」

ぺんこうは、ニッコリと微笑んでいた。

「くまはちが、後で来ると思います」
「そうか。向かわなかったのか」
「向かわせなかったんですよ」

そう言って、ヘリに乗り込むぺんこう。

「では」
「あぁ」

ぺんこうは、ヘリの扉を閉める。ヘリは、直ぐに空高く舞い上がった。
ぺんこうは、橋にサムズアップをしていた。
橋もそれに応えるかのようにサムズアップをする。

「戻ってこいよ。ぺんこう!!!」

橋は、叫んだ。




ヘリの中。
操縦士がぺんこうに声を掛けた。

「あなたが、噂の…」
「噂?」
「えぇ。真北さんが、昔っから、よく話してくださったんですよ。
 自慢の弟だとね」
「はぁ? 自慢の弟??」

ぺんこうは、操縦士の言葉に驚いたような声を挙げた。

「俺に似て頑固だけど、立派に夢を果たした…ってね。あなたのことを
 話す真北さんって、本当に優しい眼差しをされるんですよ」
「そんな素振りは、全く見せない人ですよ」
「まぁ、自分に冷たく当たるともね…」
「馬鹿正直ですからね」
「そんな自慢の弟と、大切な娘が一緒に過ごしてくれたら
 どれだけ嬉しいか…とも。…まさか、こんな事態になるとは、
 思ってもいませんでした」

ぺんこうは、操縦士の言葉に驚く一方だった。

「本気だったのか…組長をかっさらえ…って……」

ぺんこうは、手にする日本刀を力強く握りしめ、目を瞑る。

「…望み通り、かっさらってやろうやないか…」

呟くぺんこう。
その頃、ぺんこうが、かっさらおうとする真子は、ライの手で、危機に陥っていた。
真子の左腕は、血で真っ赤に染まっている。そんな真子をベッドに押し倒すライの右手には、銃が握りしめられていた。銃口を真子の左肩に当てるライの表情は、無表情だった……。





「点滅が消えた…」

健が車の中で真子の行き先を探っていた時に言った。

「目標は、すぐそこだ…」

怒りを露わにしたまさちんは、車の外を流れる美しい湖を見つめていた。

組長…どうか、ご無事で…!!!!

まさちんの心の声は、真子に届いたのだろうか…?



血だらけで、ベッドに横たわる真子の上には、ライが四つん這いになり、不気味に微笑んでいた。
意識が薄らぎそうな真子の右腕に付けている猫のブレスレット。
チェーンが切れたのか、スルリと床に落ちた…。その衝撃で猫の目の点滅も消える。

「美しい……真子……」

ライの手が、真子の胸元に……。





AYビル。
須藤は、よしのと共に隣の本屋ビルの視察へ足を運ぶ。
客層のチェックや案内コーナーなどのチェック、問い合わせの内容をまとめたものに目を通したり…。グッズコーナーに居る女子高生から意見を聞いたり…。
いつもと変わらない時間を過ごしていた。

AYAMA社・会議室では、谷川と水木が一緒に新作の話と、キャラクターグッズの話をしていた。
駿河と八太は、今、真子の身に起こっている事件のことは、全く知らない様子。
意見を述べた後、フッと意識が飛ぶ水木。

組長…無事に戻ってきて下さい!!

水木は、目を瞑り、膝の上で拳を握りしめる。

「水木ぃ、疲れたんか?」

そんな仕草に谷川は気が付いていた様子。

「ん? いいや。…やっぱし、俺には合わんと思ってな」

水木は、苦笑いする。

「そんなことありませんよ、水木さん。水木さんの御意見は、本当に
 役に立ちますから。そちらの世界のお話…ですけどね。その…。
 真子ちゃんは、絶対に言わないので……って、水木さん?!」

真子の名前を聞いて、再び意識が飛んでいった水木。谷川は、頭を抱えてしまった。

ったく…。



川原と藤は、橋総合病院へ戻ってきた。そして、未だに起きることが出来ない組員達を見舞い、そして、自分たちは、自分の病室へと入っていった。

「…俺達、いつ退院できるんや?」

藤が呟く。

「さぁな」

川原が、ベッドに身を沈めながら応えた。

「本部に知らせたんか?」
「あぁ。あいつが、伝えてるやろな」
「動くかな」
「動かんやろな。こっちでのことやから。それに、山中さんや。これを機に
 代替わりするんちゃうか?」
「それはないやろ。あれでも、山中さんは、違った意味で、組長を護る人や」
「…だからや。これ以上、組長を危険な目に遭わせたくないやろうからな」

藤は、窓際に歩み寄り、空を見上げた。

「憎たらしい空やな」

空は澄み渡り、青々としていた。




橋は、屋上のヘリポートで、暫く空を見上げていた後、ゆっくりと歩き出し、病院の建物へと入ってくる。そして、ICUに入っていった。
ゆっくりと真北の側に歩み寄り、容態をチェックし、変化のないことを確認した橋は、大きく息を吐く。
椅子に腰を掛け、真北を見つめた。

その表情は、とても切なかった。

看護婦達は、そんな橋の表情を見るのが初めてで、どのように声を掛けて良いのか、悩み、遠巻きに二人を見つめるだけだった。

「真子ちゃんに突き放されて正解なのか? 原刑事に聞いたぞ。
 驚くほどの阿吽の呼吸…。危険な状況に陥っている時に、
 息がぴったり合った行動を取っていたってな…。
 いつもなら、それで済んだんだろうな。…でも相手は、
 特殊能力の研究者だ。俺達の知能では、追いつかないほどの、
 人間なんだ。…油断したんだろ…」

橋は、真北の右腕を握りしめる。

「真子ちゃんの行き先は、解っている。真子ちゃんを大切に思う男達が、
 向かっていった。お前よりも、強い思いを抱く奴らがな」



まさちんたちは、湖の別荘の前に到着した。ゆっくりと音を立てないように別荘の前に停まる車から、重装備をしたまさちんたちが、静かに降りてくる。その人数は、30近く。全員が、別荘を見つめていた。



「お前が託したもの…ちゃんとぺんこうに渡したからな。予測してたんだろ?
 ぺんこうは、あれを見た途端、すぐに行動に移ったぞ。流石、お前が自慢
 するだけの弟だな。…まさか、お前が、あんな形で弟を側に置いていたとは
 思ってなかったよ」

橋は、昔を思い出しているのか、遠い目をしていた。



真北の自慢の弟は、その頃、ヘリで、湖に向かっていた。
下界の景色を見つめながら、何かを考えているようだった。



橋は、目を瞑る。

「あんな事件がなかったら、今頃、真子ちゃんとぺんこうは、どう過ごして
 いたんだろうな…。真子ちゃんの母姿…考えられないな…。大人だと
 言っても、俺にとっては、まだまだ子供だよ…真子ちゃんは」

橋は、目を開けた。その目から、一筋の涙が頬を伝う。

「あの時…お前が、阿山組の前で事件に巻き込まれて行方不明になったと
 聞いた時も、俺は、こうして、滅多に見せない感情を表に出して、泣いて
 いたんだぞ…。お前は、そのこと、知らなかっただろ? 俺、言わなかった
 もんな。…だから、俺は言ったんだぞ…二の舞は御免だと…こんな哀しい思いは
 二度としたくないんだからな…。解ってるんか? 真北…」

橋の切ない声は、ICUに微かに響いていた。
その時だった。

「…真北…???」

真北の目から、涙が溢れ、そして、一筋流れていた。

知ってたよ……。

その涙は、そう語っていた。
橋は、真北の手を両手でしっかりと握りしめ、ベッドに肘を付いて、自分の額に祈るように当てる。

「…これ以上…これ以上、俺の仕事を増やさないでくれ!!!!」

橋は、涙声で叫んでいた。




湖の側の別荘に、銃器類で重装備をした男達が、静かに入っていった。
一つ一つの部屋をチェックするようにゆっくりと忍び足で奥へと入っていく。


一つの部屋から、微かな声が聞こえてきた。
まさちんたちは、その部屋の前に身を潜める。
耳を澄ませて中の様子を伺うまさちんたち。
真子の力無い悲鳴が聞こえる。まさちんは、それに反応するかのように、体を動かした。

「!!!!」

まさちんは、側にいるえいぞうに、肩を掴まれた。
えいぞうは、首を横に振る。

『これで、真子は、俺のものだ……』

その声を聴いた途端、まさちんの脳裏に色々な事が過ぎる。
ぺんこうと真子の抱き合う姿、そして、水木とのゲームのこと…。
気持ちが飛んで行きそうだと言った真子との一夜。
そして、真子の言葉…。

続きは、ケリがついてからだ……。

「まさちん!!!」

えいぞうが呼び止めるよりも先に、まさちんは、行動に出ていた。
ドアを蹴破り、そして、水木から受け取った機関銃を向け、部屋の中央にあるベッドの上で、真子の体に手を付けているライ目掛けてぶっ放していた。

ライの体は、銃弾を浴び、真っ赤な物を辺りに散らしながら、ベッドの向こうへと飛んでいった。

ベッドに俯せで横たわっている真子の背中は、ライの血で真っ赤になっていた。
まさちんは、素早く真子に駆け寄り、背中の血をシーツで拭う。そして、真子の体を見つめる。
左腕が、血だらけ…。
傷口から血が噴き出している。
真子は、全く動かない…。

「組長!」

真子は、その声に反応するかのように、ゆっくりと振り返った。

「…まさちん!!!!」

真子は、まさちんにしがみつくように抱きついた。
上半身だけ裸…。
ライの手に堕ちる寸前だった。まさちんは、力強く真子を抱きしめる。

「よかった……」

背後の気配に、まさちんは、自分の上着を脱いで、真子を優しく包み込むようにして、抱きかかえる。

「すぐに、手当てをします」

真子は、まさちんの腕の中で頷くだけだった。
ライの寝室を出ていくまさちんは、心配して駆け寄るえいぞうや、健、そして、若い衆を睨み付ける。
真子の姿を見せたくないからだった。

「そんな邪険に扱うなよぉ」

えいぞうが、呟くように言った。

「うるせぇ! 見せられないだろが…その…なんだな……」
「見ようとするわけないやろが!!」

そんな言い争いをしながら、別荘を出てくるまさちんたち。健が急いで、車の後部座席のドアを開ける。まさちんは、そっと真子を寝かしつける。真子の顔は痛みで歪んでいた。

「組長!」
「大丈夫……。こんな状況でも、言い合うんだね…」

真子は、笑顔を少し浮かべた。そんな真子を見て、安心するまさちん、そして、えいぞう達。
健は、近寄るみんなを押しのけるようにして、遠ざけ、車のドアを閉めた。
車の外では、えいぞうと健の言い争う様子が……。そんな様子を伺いながら、まさちんは、真子の左腕を上着からそっと出す。

「いて……」
「すみません…痛み止め…先に飲みますか?」
「飲めないよ…」

真子の言葉に、まさちんは、真子を包み込む自分の上着のポケットから、小さな箱を取り出す。その中には、注射器が入っていた。すでに液体が中に入っているようす。

「それは?」
「痛み止めですよ」

まさちんは、そう言って、真子の左肩に打ち込む。少しずつ痛みが退いていく。真子の表情が緩やかになった。

「変な薬ちゃうやろなぁ」
「橋先生からですよ。万が一と言って、渡してくれました」
「そっか」

はらりと上着がはだけ、真子の胸が露わになる。
まさちんは、素早く上着を掛け直し、真子の左腕の治療に集中する。



車の外では、えいぞうが、若い衆に指示を出していた。

「兎に角、中の様子を探ってくれ」

水木組の若い衆が5人、銃を片手に再び別荘へ入っていく。



その時、ライの寝室は、微かな赤い光に包まれ始めていた。
ベッドの向こうに仰向けで倒れているライ。
体中に銃弾の痕があり、そこからは、血が噴き出していた。
目は、瞑られていた。
ライの手が微かに動く。
すると、ライの目が、見開かれた。
その時、寝室へ若い衆が入ってきた。

「ベッドの向こうだよな」
「あぁ。死体は見たくないよな」

そう言いながら、ベッドに近づいた時だった。

「うわぁ!!」

ベッドの向こうに死んでいると思われたライが、立ち上がる。そして、その体が真っ赤に包まれた。
前に差し出される両手から、途轍もない気が発せられたのか、若い衆は、飛ばされるかのように寝室から飛び出した。
ライは、ゆっくりと寝室を出てくる。そして、体を起こそうとしている若い衆に再び手をかざす。

「ぐわぁ〜っ!!!!」

若い衆は、窓から飛び出していった。
いきなりの事で、身を構えるえいぞうたち。しかし、その中を押しのけるように治療を終えた真子が、別荘に向かって歩き出していた。

「組長!!!!!」

まさちんの呼び止める声は、虚しく湖に響き渡る。





ヘリの中に、湖の眩しさが反射する。

「あの湖ですよ」
「別荘、見えるか?」
「あの木陰にちらりと見えるのが、そうじゃありませんか?」

ぺんこうは、別荘に目を凝らす。
窓から漏れる灯り。それは、赤いものだった。

「赤い…光…?」

ぺんこうの脳裏を過ぎる赤い光に支配された真子の姿。

「急げ!!」
「は、はい!!」

ぺんこうのドスの利いた声にすぐさま反応する操縦士は、なんとか頑張ってヘリの速度を上げる。
ぺんこうは、別荘から目を離さずに、見つめていた。

「何処に着けましょうか…」

操縦士が、別荘に近づくに連れ、着陸場所を考え始める。
ぺんこうの目に湖側のバルコニーが映った。

「あのバルコニーや」
「しかし…!」
「ギリギリまで高度を落とせ。飛び降りる」
「飛び降りるって、山本さん、かなり高いですよ!!」
「三階くらいの高さは、大丈夫や。行けよ!!」
「は、はい!!」

真北さんより、怖いかも……。

そう思った操縦士は、バルコニーの近くまでヘリを飛ばす。
窓から見える光が、赤いものから、オレンジ色の物に変わった。

「やばいか…。くそっ! …あなたたちは、着地できるところで、
 待機していてください。…何が遭っても動かないように…」

ぺんこうは、操縦士二人に淡々と話した。そして、日本刀を握りしめ、扉を開け、バルコニーへ飛び降りた。
華麗に着地するぺんこうを見届けた操縦士たち。

「…ほんまに飛び降りた…」
「一体、何者…??」

そう話しながら、ヘリを着陸出来そうな場所へと移動させる。


ヘリが去っていくのを横目で見ていたぺんこうは、バルコニーに置いてある椅子を手に取り、部屋に通じるガラスを割った。
赤く光るライの後ろ姿を見たぺんこうは、日本刀を鞘から抜き、そして、ライの後から一太刀浴びせた!!!

「ぐわぁ!!!!」

ライは叫び、そして、前のめりに倒れる。ゆっくりと振り返るライは、日本刀を振り下ろした格好で立っている男を見つめ、驚いた表情をする。

山本……? …いや、血に飢えた…ヒョウ…。

窓ガラスを割って入ってきた人物を見つめる真子達は、その人物の名を呼んだ。

「…ぺんこう……」
「お前ら、俺を置いていくなんて、どういうつもりだよ」

ぺんこうは、体勢を整え、足下に転がるライを蹴り始める。
ぺんこうが、蹴りを入れるたびに、ライの背中の斬り口から、血が噴き出していた。
ライは、気を失った。

ぺんこうは、ちらりと真子達に目をやり、駆け寄った。

「ご無事で…って、まさちん、えらい格好やな」
「…うるせぇ!」

まさちんは、傷口が開いたのか、腹部に血が滲んでいた。そして、口元は、血を吐いたのか、真っ赤に汚れている。

「…剣の山本返り咲き…か…」

えいぞうが、呟くように言った。

「なにそれ」

真子が、尋ねた。

「山中さんと、並ぶとまで言われる剣の達人ですよ。そんなあだ名が
 付いていたんですよ、当時は。…で、ぺんこう、封印解いたのか?」
「事態が、事態だからな」

ぺんこうの表情は、やくざだった。

「…なんで…?」
「私も、阿山組組員ですよ」
「…そうだよね…だけど…」

真子の目つきが変わる。その目が移る先は、床に横たわるライの姿。それにつられるようにぺんこうは、目線を移す。
ライの体が、赤く光り出した。

「…ライは、赤い光の持ち主だから…。それも、私以上の
 途轍もないくらい凄い光だから…」

真子が言うよりも先に、ライの体に異変が起こる。
背中をばっさりと斬ったはずなのに、その傷口が、すうっと消えた。そして、ゆっくりと立ち上がる。
顔を上げたライの目は、人とは思えないものだった。

「…今のは、効きましたね…。だけど、私は、不死身です。
 痛くもかゆくもありませんね…」
「…化け物か、あいつは…」

ぺんこうが、日本刀をライに向けた。

「くそっ…」

ぺんこうをはじめ、まさちん、阿山組組員達は、戦闘態勢に入った。



(2006.8.27 第五部 第十八話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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