任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第一部 『絆の矛先』

第十九話 更に、ほのぼの…??

まさちんが、車を飛ばして、真子の通う中学校へ急いで向かっていた。車を停めた途端、飛び降り、校門を通って中庭を走っていく。
只今、休み時間。
制服を着た生徒達の中を走り抜けるまさちんは、少し目立っていた。ある生徒に声を掛ける。

「すみません、保健室は?」
「そこです」
「ありがとう」

まさちんは、指さす方向へ走っていった。

保健室の前に立ち、ドアをノックする。

「どうぞ」
「ま、ま、ま、……真北です。真北の兄です」
「お待ち下さい」

保健室の先生は、奥の部屋へ入っていく。そこには、ベッドが四つ並んでいた。その中の一つに寝ている生徒に声を掛けた。まさちんも奥へ入ってきた。

「お兄さまが、来ましたよ」
「…はい?」

その生徒は、真子だった。虚ろな目をして起きあがる真子へ、まさちんが慌てて駆け寄り、手を添える。

「起きて大丈夫?」

保健室の先生が優しく声を掛ける。

「少し休みましたので、大丈夫です」

ハキハキと応える真子に、先生は安心する。

「よかった。突然だったから、私の方が驚いてしまって…。ほら、あの事件から、
 真北さんの体調には、気を付けるようにって、校長先生に言われていたの…。
 そうしたら…」
「ご心配をお掛けして…」
「担任の先生に許可いただいたから。荷物はここ」

先生は、まさちんに荷物を手渡した。

「お世話になりました」
「真北さん、完全に回復してから、登校すること。わかった?」
「わかりました。ご心配をお掛けいたしました」

真子は、ベッドから下り、歩き出す。しかし、足下はふらついている。まさちんは、真子を支えるように手を差し伸べた。

「大丈夫だよ…」
「しかし…」

真子は、まさちんを睨み上げる。まさちんは、真子の気持ちを察したのか、そっと手を放した。ふらつきながらも歩いて保健室を出ていく真子。まさちんは、先生に挨拶をして、真子を追った。

保健室の前には、まさちんの姿が珍しかったのか、生徒達が集まっていた。授業開始のチャイムが鳴っても、真子とまさちんを物珍しそうに眺めている。真子は、そんな生徒達の目線が気になっていた。気になりながらも門まで歩いてきた時だった。
ふと、学校の外に人の気配を感じ、目をやった。

「なるほど……服装か…」
「はい? どうされました?」
「みんながまさちんのことを、珍しそうにずっと観ていたから
 一体何が…と思っていたのよ。歩いている人を見て解った。
 …まさちんの服装、派手なんだぁ」
「普通だと思いますが……。派手、ですか?」

真子は、微笑みながら、頷いていた。

「…派手、みたいだよ…」
「それよりも。組長、一体どうされたんですか?」
「えっ、…あ、そ、その…。ちょっと…。それよりも、
 なんで、まさちんが、来たのさぁ」

真子は、話を誤魔化した。

「学校から、すぐに迎えに来て下さいと連絡がありまして、保健室に
 直行するようにとのことでしたので…。…保健室いうことは、体調に問題が……」
「う〜ん。ちょっとばかし、張り切って体を動かしただけなんだけどなぁ」

まさちんが車の後ろの席のドアを開ける。真子は、乗り込むなり、横になった。ドアを閉め、助手席に真子の荷物を置き、真子の様子を伺いながらエンジンを掛け、車を発車させる。
暫く走った時だった。

「…って組長! まだ、激しい運動は控えるようにって言われていたんでは
 ありませんかぁ!!!」

まさちんが慌てたように声を張り上げた。

「そうなんだけどね…そろそろ動かしたいやん…。
 なんか、体がなまって…しまい…そうやもん。
 ……少し眠る…だけで…だい…じょう…ぶ」
「組長?」

まさちんは、真子の声が小さくなっていくのが気になり、ルームミラーで様子を伺った。丁度信号待ちだったので、サイドブレーキを引いて、急いで振り返る。

「寝てしまわれただけですか…。このところ、遅くまで起きていましたからね。
 …あまり無理なさらないで下さいね」

まさちんは、寝入る真子に優しく語りかけ、信号が青に変わったので、サイドブレーキを下ろして、アクセルを踏んだ。その運転は、優しかった。



真子は、家についても目を覚まさなかった。駐車場に車を停めたまさちんは、後ろの席から真子を抱きかかえる。真子は、寝ぼけているのか、まさちんに抱えられた途端、まさちんの首に手を回し、しがみついてきた。その仕草に、まさちんは、真子の幼い頃を思い出したのか、真子の顔を覗き込んで、微笑んでいた。

「昔と変わったのは、体重だけですね。…重くなりましたよ」

優しく微笑んだまさちんは、家の中へ入っていく。
真子をベッドに寝かせ、熱を計った。三十八度五分。少し高かった。まさちんは氷枕を用意して、再び真子の部屋へ入ってきた。
真子は、目を覚ましていた。

「…部屋?」
「熱がありますので、これを…」
「ありがと…」

真子は、氷枕を受け取って、枕と交換して、そのまま顔を埋めて眠ってしまった。部屋のカーテンをそっと閉めたまさちんは、真子を優しく見つめ、部屋を出ていった。
真子が呼べば、すぐに行動できるように自分の部屋で待機しているまさちんは、ふと何かを思い出し鏡の前に立つ。そして、自分の服装を見て、首を傾げ、タンスを開けて、服をチェックしていた。

「派手なのかなぁ」

後日、まさちんの服装は、世間一般では、『派手』だったことが判明した。しかし、それは、まさちんの生きている世界では、普通なのだが……。



なかなか体調が回復しない真子は、その日から三日間、学校を休んでいた。ベッドでゴロゴロして暇そうにしている真子。一方、まさちんは、ビルの仕事で大忙し。組関係の仕事でも忙しそうに走り回っていた。

「まさちん、全国のやくざの親分が集まる会議、もうすぐ開催されるんとちゃうんか?
 組長が出席するんだろ? いろいろ遭って一年ほど中止していた会議だからなぁ。
 五代目襲名して、初めての会議だから、他の親分衆が逢うのを楽しみにしてる
 みたいだったで」
「…そこが問題なんですよね。絶対に出席しないといけない会議でしたよね。
 ………困ったなぁ」
「なんで?」
「…組長、期末テストなんですよ。私じゃ駄目かなぁ」
「…そっか、まさちんでええやん。まさちんが組長の代行で仕事してるしなぁ。
 真北さんに相談やな」
「真北さんに? どうしてですか?」
「先代の頃からその会議に詳しかったから、訊いてみればええんとちゃうか」
「ふ〜ん、そうすることにしようっと」

水木とまさちんが、幹部会終了後に話していた。
全国の親分衆が集まるこの会議。三ヶ月に一度の割合で行われている。それは、親分同士の顔つなぎと、激しい抗争によって、傷つく者を減らすことが目的。銃器類を体の一部のように扱っていた阿山組を抑えるのが最大の目的だった。その阿山組四代目が亡くなり、会議の意味も無くなったのではないか…との声で、会議は閉鎖された…しかし、その矢先、真子が五代目を襲名したことが知れ渡り、その真子が命に関わる事件があってから、その報復に恐れた親分衆が、会議の再開を求めてきたのだった。
真子が五代目を襲名した時点で、その会議の主旨は変わるはずなのだが……。
まさちんは、会議の重大さに気が付いていなかった。



「…そんなに、大切な会議なんですか…」

自宅に戻り、真北に会議の事を話していたまさちんは、その主旨を知り、頭を抱えてしまう。

「……って、本当に、お前は、組長の事しか
 考えてなかったんだな…」
「あっ、その……。しかし今は、銃器類は、使っていませんよ」

まさちんは、話を強引に戻す。

…図星か…。

と思いながら、まさちんの言葉に応えるように言う。

「それでもな、顔つなぎは必要だよ」
「わかりますけど…」
「ま、代行としての出席は、許されているから、まさちん、
 お前が、出席したらいいよ。議事録を組長に提出すればいいしな」
「はぁ…。わかりましたぁ」

真子が、リビングに下りてきた。そっとドアから顔を出す。まさちんと真北の会話を聞いていたのか、

「…私、絶対に出席しないからねぇ、その会議」

真子が言う。

「組長、聞いておられたんですか?」
「うん…。絶対に嫌だからねぇ〜」

そう言った真子は、ドアにもたれ掛かるように倒れてしまう。

「組長!!」

まさちんと真北が慌てて真子に駆け寄り、そっと抱え起こした。

「俺が、部屋まで行くから」

真北が、まさちんに言った。まさちんは、手を離して、階段を上っていく二人を見送る。
まさちんの手が、細かく震えていた。


「組長、どうしたんですか、急に」
「…わかんないぃ」

真北は、真子をベッドに寝かせ、優しく布団を掛ける。

「まだ、完全でないのと、急に起きたので、立ちくらみをしただけでしょうね」
「違うぅ〜。……何も食べてないから…腹減ったのぉ」

真北は、真子の言葉に、肩の力を落とす。

「そうですか…」
「むかいんはぁ〜? もう帰ってると思ったんだけどぉ」
「今日は、未だ帰ってませんよ。私が作りましょうか?」
「嫌だぁ〜。むかいんのがいいぃぃぃ」

真北は、真子の言葉に、更に肩の力を落とした。

「……わかりました。むかいんが帰ってきたら、すぐにお願いしましょう。
 何がいいですか?」
「むかいんに任せるぅ」
「了解しました。それまで、寝ていてくださいね」
「うん…」

真北は、真子の様子を伺いながら部屋を出ていった。そして、少しふてくされた顔でリビングに戻ってくると、まさちんが、慌てて立ち上がった。

「組長は?」
「…お腹空いただけだってさ」
「そうですか…。よかった……」

安堵のため息が混じるような言い方に、真北は、

「…まさちん、まさかと思うが、頭の傷のことを考えていないか?」

静かに尋ねた。

「…えぇ」
「あのなぁ。あの事件のことは、気にするなって言ってるだろ。
 お前のせいじゃないんだから」
「…それは、組長を撃ったのが、あなたでないから
 言えることなんですよ」

絞り出すように、まさちんが語り出す。

「…組長を撃ったのは…この私なんですから。どんな状況でも、
 それは、事実なんですよ? 気にするなと言われても、
 簡単にそのような気持ちにはなれませんよ…」

まさちんは大きく息を吐いた。

「…だけど、そんな表情を、組長に見せると、私以上に、
 組長が心配してしまいます。…だから、俺は…、
 それを悟られないように気を付けないと…。
 …俺には、一番難しいことなんですよ」

自分の手を見つめる、まさちん。

「それを乗り越えていかないと…組長を守っていくことはできないんです…。
 組長の笑顔の為に…おれは……」

まさちんは、力強く拳を握りしめた。
真北は、まさちんの心情を理解していた。何も言わずに、まさちんの肩へ優しく手を置く真北。
その手のぬくもりから、真北の優しさがまさちんの心に伝わっていく。

真北さん……。



むかいんは、両手にお盆を持ち、階段を昇ってくる。そして、真子の部屋の前にやって来た。

「失礼しまぁす」

暗がりの真子の部屋に、むかいんは入っていく。しかし、真子は眠っていた。
むかいんは、サイドテーブルの上に、お盆をそっと置く。

「ん……。むかいぃん、お帰りぃ〜」

料理の香りで目が覚めたのか、真子はそういって、起き上がる。
むかいんは、部屋の明かりを付けた。真子は、少し眩しそうな顔をしていたが、すぐに慣れたのか、サイドテーブルの料理に目を移し、手を伸ばした。

「出来立てですから、熱いですよ」
「ありがとぉ、いただきまぁす」

真子は、ゆっくりと食べ始める。
自分の料理を食する真子の、嬉しそうな表情を見つめるだけで、むかいんは嬉しかった。

「組長、これで、体力は付くはずです。思う存分、体を動かして下さいね」
「うん。明日から、目一杯頑張るぅ。勉強もここ数日出来なかったからなぁ。
 ……って、明日、日曜日…」
「では、公園に散歩でも行きましょうか?」
「むかいん、いいの? 仕事…」
「明日は、お休みいただきましたから」
「なら、行こう!」

真子は、手にしたスプーンを高々と掲げた。むかいんは、真子に吊られて、同じように手を挙げてしまう。二人は顔を見合わせて笑い出す。

「ごちそうさまぁ。おいしかった! なんか、こう、力が沸いてきたよぉ。
 もう、すっかり治った!」
「安心しました。でも、大事をとって、今日は、ごゆっくりなさってください。
 では、明日」
「うん。久しぶりだね、むかいんとお出かけって」
「楽しみにしてます」
「私も!」

むかいんは、真子の笑顔に見送られて、真子の部屋を出ていった。階段を下りているとき、真北とすれ違う。
真北は、深刻な顔をしていた。
むかいんは、そんな真北の表情が気になっていた。何度も振り返りながら、台所へ入っていくむかいん。
リビングでは、まさちんが、項垂れていた。
真北とまさちんの様子を見て、何が遭ったのか、想像が出来た。
恐らく、あの港での事件……。



「組長、よろしいですか?」
「いいよぉ」

真北は真子の部屋に入っていく。真子は、机に向かって参考書を広げたところだった。

「もう大丈夫ですか?」
「うん。すっかり元気。むかいんの特製食べたからね。
 一体、あれは、何が入ってるんだろね。昔っから、
 むかいんの特製を食べると、すぐに元気になるんだもん」
「むかいんの愛情が入ってるんですよ」
「なるほどねぇ。……ところで、何か、深刻な話でも?」
「えぇ。その…まさちんのことです」
「まさか…また、あの事件のことで…落ち込んでるの?」

真北は頷く。

「何回言っても、無駄だよね。まさちんのせいじゃないのに。
 私のせいなのにね。私のせいで、まさちんがあんな目に遭って、
 それで、私を……。真北さん、どうしたらいい?」

愁いに満ちた目で、真子が真北を見つめる。真北は、ポケットに手を突っ込み、口を尖らせ、静かに考え込んでいた。


リビング。
むかいんは、まさちんに飲み物をそっと差し出した。何も言わずに、台所へ戻っていくむかいん。まさちんは、大きく息を吐き、俯きながら、飲物に手を伸ばした。



真子の部屋では、暫く沈黙が続いていた。

「組長も、まさちんも、気にするなと言ってもお互いに気にしてますから、
 この事に関しては、どうすることもできませんね。組長は、自分が悪いと言って、
 まさちんは、まさちん自身が悪いと言ってるんですよ。お忘れですか?
 ……私もあの事件に関わっているんですよ。一番の原因は、私にあるんです。
 まさちんを助けられなかった。組長に、そのことを黙っていた……。
 私が一番…悪いんです」

いつにない真北の寂しげな言い方に、真子は、慌ててしまった。

「真北さんは、悪くない。まさちんも悪くない!!
 これは、組同士の…この世界では当たり前の事でしょ?
 それをうまく納めることできなかった私の責任なの。
 だから、真北さん、…そんなこと、言わないで…」
「いいえ、私の責任なんです」

真北の力強い言い方に、真子は、何も言えなくなってしまい、とうとう涙を流してしまった。

「どうすれば、いいの…?」

真北は、頭を掻いていた。

「…いつもの通りでいいんですよ」
「いつもの、通り?」
「そうです。いつもの通り、笑顔で明るい組長で居てください」
「いつもの…とおり…」

真北は、ポケットからハンカチを取り出し、真子に差し出した。真子は、それを受け取って、涙を拭き、笑顔で尋ねる。

「…部屋から、出ていい?」
「…まさちんを呼んできますよ」

真北は、真子の前にしゃがみ込み、優しく微笑んで真子の頭を撫で、部屋を出ていった。暫くして、まさちんが入ってくる。

「失礼します」
「あっ、まさちん。元気になったからねって言いたかっただけなんだけど…。
 すごいよね、流石だよね。むかいんの特製。まさちんは、パワフルだから、
 まだ、口にしたことなかったっけ。…ほんと、すごいんだからぁ」

真子の口は、閉じることを知らないかのように話が次から次へと出てきていた。はじめは、落ち込んだ様子のまさちんだったが、真子の話を聞いていくうちに、徐々に元気を取り戻し、そして、いつもの二人に戻っていた。
いつの間にか、ふざけ合っている二人。
リビングでは、真北とむかいん、くまはちが、二階ではしゃいでるだろう二人の様子を思い浮かべながら、くつろいでいた。そして、

「…始まったか…」
「そのようですね」

真北は、ため息混じりに立ち上がり、リビングを出ていく。むかいんとくまはちは、この後の真子達が想像できた。

「またぁ〜、いい加減にしなさい!!」
「ごめんなさいぃ!」
「すみませんっ!!」

真北は、いつもの如くふざけ合う真子とまさちんに、お決まりの『渇』を入れた。
こうして、賑やかな秋の夜は、更けていく…。

次の日。
真子とむかいんは、近くの公園でくつろいでいた。公園はすっかり秋色に染まっている。
見事に赤く染まった紅葉が、真子とむかいんを誘うように揺れていた。



真子の通う学校では、期末テストが始まった。生徒達は、これが終われば、冬休みぃ〜ということで、張り切っている様子。
しかし、真子は、テストを受けながらも、少しだけ気になっていることがあった。それは……。


「なんじゃい。来ないのかい」
「そうらしいな」
「代行でもええやろ。あの阿山組がどんな風に変わったのか、
 気になることやしのぉ」

全国の親分衆が、とある場所に集まっていた。その敷地を囲むように、黒服を着た強面の男達が大勢立っている。緊迫した雰囲気の中、一台の車が過ぎていった。そして、門をくぐり…。
車から降りてきたのは、まさちんとくまはちだった。

「じゃ、行って来るよ」
「俺は、外で待機組だからな」

まさちんは、くまはちに軽く手を挙げて、建物の中へ入っていった。

「遅くなりまして申し訳ございません。…道に迷いました」
「そりゃそうやのぅ。ここへ来るには、迷いやすいような道にしてあるからのう」
「では、会議を始めましょうか」

全国の親分衆が、会議室へ入っていった。まさちんも同じように会議室へ向かっていく。その姿は、堂々としていた。


「では、今回の進行役の私から、自己紹介を。すでにご存じの方も
 おられるだろうが、これに初めて参加する方、代替わりした組の方も
 おられるので、初めは、自己紹介からお願いします。
 私は、九州の青野組三代目総長を務めます青野龍蔵です。取り敢えず、
 今回の議題は、顔つなぎです。それでは、右の方からお願いします」
「同じく九州福岡の鬼山組の山野です」
「四国、松山組の松山です」

全国から来た親分衆の挨拶は、長々と続いていた。それもそのはず。かなりの人数だったから。そして…。

「大阪の青虎組の虎来です」
「…阿山組、組長代行の地島です」

まさちんが最後だった。

「この度、この会議が再開されたのは、最後にご挨拶いただいた
 阿山組の四代目が亡くなり、代替わりをした五代目のご意見は、
 存じ上げておりますが、その五代目が、命の関わる事件に巻き込まれたことで、
 再び、阿山組が全国を股に掛けて暴れ回るのではないかという意見が
 ございましたので…」
「ご心配なく。五代目は、そのようなことが一切嫌いですので。
 それに、五代目よりメッセージを預かって参りました。
 ご存じのように、その事件があってから、体調が思わしくなく、
 遠出することも医者より許可がおりませんでしたので、
 今回の会議の事は、五代目も気になさっております。
 なので、手紙を預かってきましたので……」

まさちんは、真子からの手紙を懐から出した。かわいすぎるくらいのネコの封筒…まさちんは、少し気まずい雰囲気で封を開けた。

「……皆様、初めまして。阿山真子です。暫くはこの会議に
 出席できそうにありませんので、代行として地島を参加させております。
 阿山組の運営は、すべて、この地島に任せておりますので、地島の意見を
 お聞き下さい。地島の意見は、私の意見です。それでは、ごきげんよう。
 ……………」

まさちんは、手紙を封に入れ、懐になおし、そして、

「…組長…私に、どうしろと……」

まさちんは呟き、ため息を付いた。

「さて、阿山組さん、初めての参加となりますが、この会議の主旨はご存じですよね」
「えぇ」
「では、阿山組の、今後の活動は…?」
「……ふぅ〜。…先代と五代目とは、全く考えが違います。
 五代目は、命を粗末にすることが許せないとの意見です。
 銃器類は禁止しました。親分の為に、生きることを命令しました。
 これらは、今までになかった意見です。私たちは、それを大切に守っていきます。
 これを機にみなさまも考え直してはいかがでしょうか?」

まさちんは、堂々とした態度で、言った。
親分衆は、まさちんの姿に驚いていた。
一体、こいつは、何者だ?
この親分衆の中で、怯むこともなく、自分の意見を言い放った……。
これからの阿山組は、違った意味で恐いかもしれない…。



会議が終わった頃、真子のテストも終了のチャイムが鳴っていた。ため息を付いて、鉛筆を置く生徒達。集められるまで必死で見直しをしている生徒も居た。真子は、そそくさと鉛筆を筆箱にしまい込み、帰り支度をし始める。
ふと手を止めた真子は、ため息を吐いた。
真子は、今年の冬も天地山に行くことは許可されなかった。少し寂しそうな雰囲気の真子は、靴を履き替え、歩き始めた。そんな真子に声を掛けたのは、同じクラスの女生徒二人・一緒にお弁当を食べる仲間だった。

「真北さん、これから、時間ある?」
「ん?」
「予定無いんやったら、どう?」
「…何か…?」
「映画観に行けへん?」
「映画?」
「めっさおもろい映画やねん。…真北さん最近、元気ないから
 少しでも元気になるかなぁって思ったんやけど…」
「特に、予定ないよ」
「ほな、決まりぃ! 駅に二時集合!」
「う、うん」
「ほな、またねぇ」
「ありがとう」

真子は、家に帰るなり、着替えて、駅に向かっていった。約束の時間より十分早かったが、女生徒二人は、既に駅に着いていた。

「真北さぁん! ほな、行こかぁ」

三人は電車に乗り、大阪都心部へ。そして、映画館へ入っていった。この三人の様子を見つめている人がいた。

「…なぁ、なんか悩みごとあるん?」

真子に尋ねる。

「う〜ん」
「なんでもええから、言ってみぃ」
「うん…。ほら、…怪我したでしょ…」
「そうやったなぁ」
「毎年冬に楽しみにしていることがあるんだけどね、
 今年も、駄目だって言われたんだ…」
「楽しみって?」
「雪山。すごく綺麗なんだよぉ。大自然を満喫できるんだ」
「へぇ。どこ?」
「天地山」
「天地山って…あのお金持ちしか行くことできへんってとこちゃうん?
 真北さん、お金持ちなんや!」
「えっ、あっ、その…」

開演時間のブザーが鳴った。館内が暗くなったので、真子達はそれ以上話をすることはなかった。
そして、映画は始まった……。

『まさちんと観に来る時と比べると、なんか雰囲気が違うなぁ。』

真子は、そう思いながら映画を観ていた。


「おもろかったなぁ。よかったぁ。真北さんに笑顔が戻って」
「ほんまや。映画に来て良かったやろ?」
「うん。ありがとう」
「これから、どうする?」
「何しよかぁ」

真子達は、映画館の前で立ち話をしていた。そこへ、若い男が三人近づいて来る。

「おねぇさん達、何してるん? 暇なんかなぁ」
「もしよかったら、俺達と遊ばへん?」

真子のクラスメイトは、突然話しかけられて、硬直していた。

今時、そんな誘い方する男は居ないって…。

真子は、そう思いながら、大きく息を吐く。

「おねぇさん達、高校生? テストが終わって時間あるんとちゃうか?
 映画も終わったことやし、これからカラオケに行こうやぁ。時間あるんやろ?」

男達は、馴れ馴れしくクラスメイトの肩に手を掛けてくる。

「か、か、帰ります」
「そんなこと言わんと、ええやん。行こ。すぐ、そこやし」

男達は、巧みに真子達を誘って、歩き出す。

「やめてください!」

真子が、大声で言った。その声に、周りにいた人達が振り返る。男の一人が焦ったように真子の口を塞いだ。

「騒ぐなよぉ」

真子は、その男の手を掴み、そして、逆手にした。

「いててて…」
「何すんねん、このガキ!」

もう一人の男が、真子の頬を叩こうと手を挙げた…が、その腕を掴まれた。

「てめぇら。ここをどこやと思とるんや?」

それは、阿山組系川原組の川原と水木組の水木だった。

「あっ、そ、その……」
「お前らには、何度も言ってるよなぁ。それに、誰に手をあげとんのや…。
 それも、わしらの前で…なぁ、川原」
「そうやのう、水木ぃ」
「ご、ご、ごめんなさい!!!」

水木と川原は、男達に蹴りを入れた。

「連れていけ」
「はい」

水木は、組員に声を掛けた。組員達は、二人の男を囲むように連れていった。

「さてと…。お嬢さん、あんまりうろうろしたらあかんよ。
 あんな連中が多いからねぇ。かわいいお嬢さん方、
 映画を観終わったなら、すぐに帰りなさい。テストが終わったん
 だろうけど、受験勉強も大切でしょう? お送りしましょうか?」
「い、いいです!! 電車で帰ります!!」

クラスメートは、先ほどの若い男達に変わって、今度は、やくざのおじさんが声を掛けてきたので、更に硬直してしまった。
それも、恐ろしいまでの笑顔で…。
水木は、とびっきりの笑顔で話しかけてるつもりなのだが…。
クラスメートは、一礼して、手と足が同時に出ていることに気が付かずに、駅へ向かって歩いていく。真子は、二人の姿を見て、少し焦っていた。

「…駄目ですよ、水木さん。怖がっているところを更に…」
「すみません…。そんなつもりは…。笑顔で話しかけたのに…」
「…どこが…。すごく怖かったですよ」
「そうですか……」
「見回りですか?」
「ボディーガードですよ、組長の」
「あっ、そうでしたか…。誰にも言わずにこっそりと来たのに、
 誰から聴いたんですか?」
「見回りの途中で、お姿を見かけたんですよ。そして、まさちんに連絡取ったら、
 知らないっていうから…」
「これじゃぁ、帰ったら、怒られるなぁ」
「今すぐですよ。あそこ」
「あちゃぁ〜」

真子は、肩の力を落とした。水木が指を指す方向には、まさちんが立ち、真子のクラスメートに声を掛けていた。クラスメートは、知り合い=真子のお兄さんと会って、すごく安心したような顔をして、まさちんと一緒に真子のところへ戻ってきた。

「今、お聞きしました。どうもありがとうございました」

まさちんは、他人を装っていた。

「いえいえ。こちらこそ、更に驚かせてしまったようで」
「では、これにて。車で送るからね」
「やったぁ。電車賃ういた!」
「真北さんのお兄さんは、ここで何をしていたんですか?」
「信号待ちをしていたら、姿を見かけたから。来てみたら…」

まさちんの目線は、真子を見ていた。真子は、慌てて目を反らす…。
真子とまさちんの様子を観ていた水木と川原は、笑いを堪えるのに必死…。

真子とクラスメートを乗せた車が去っていく。水木と川原は、車が見えなくなるまで見送っていた。

「素早いなぁ、まさちんは」
「会議の場所から、二時間で着くか? もっとかかるやろ」
「一体、どれくらいのスピードで…。いくらなんでも会議が終わって、
 帰宅途中だったからと言ってもなぁ」
「しかし、組長にも困ったもんやのう」
「俺達が来なかったら、どうしてたんやろな」
「暴れてたんとちゃうかなぁ」
「見つけてよかったな」
「ほんまや」

そんな話をしながら、水木と川原は、再び大阪の街の見回りを始めた。
路地裏に、血だらけでボロボロになった若い男が、転がっていた…。



「ほなねぇ〜」
「ありがとうございましたぁ!」

クラスメートを最寄り駅まで送ったまさちんは、家までの間、無言だった。

「怒ってるん?」
「……………」
「……ごめんなさい…」
「…………珍しいこともあるんですね。素直にごめんなさいと
 おっしゃるなんて…。熱でもあるんじゃないですか?」

まさちんの言い方は、皮肉たっぷり。それには真子が、ふくれっ面になってしまう。家に着いても、真子のふくれっ面のまま。車のドアを思いっきり閉めて、玄関のドアも思いっきり閉めて……。自分の部屋に閉じこもってしまった。

「たまにはいいか」

いつもなら、真子のこんな態度に焦りを見せるまさちんだが、この日は違っていた。

甘やかすばかりでは、よくないだろう。

水木から電話をもらった時に、言われた事だった。

「たまには、まさちんからも、びしっと言わないと…か…。
 こんな感じでいいのかなぁ」

まさちんは、車を駐車場に停め、家に入っていった。


ところが…。

真子は、年が明けても不機嫌のままだった。まさちんへ対する目線は、冷たく……。日に日に焦りが大きくなるまさちん。しまいには……。

「組長、申し訳ございませんでした。私が悪かったです…。
 本当に、申し訳ございませんでした!!! 組長!!」

平謝り。

「まだまだだなぁ」

二人の様子を見ていた真北が笑いを堪えながら言った。

「そうですね」

くまはちも言う。

「一生無理でしょう」

むかいんが、優しさ溢れる表情で言った。水木から、事情を聞いていた真北、くまはち、むかいんが、真子を追いかけてまで、謝りまくるまさちんを笑いながら、心を和ませていた。
そうして、真子の受験の日が近づいてきた。



(2005.7.27 第一部 第十九話 UP)



Next story (第一部 第二十話)



組員サイド任侠物語〜「第一部 絆の矛先」 TOPへ

組員サイド任侠物語 TOPへ

任侠ファンタジー(?)小説「光と笑顔の新たな世界」TOP


※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


Copyright(c)/Dream Dochan tono〜どちゃん!著者〜All Rights Reserved.