任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第一部 『絆の矛先』

第二十話 夢に向けて、出発!

阿山組本部。
猫の置物がたくさんある部屋。ベッドカバー、カーペット、カーテン、テーブルの天板…あらゆるものまで猫の模様、猫の足跡の模様が付いてある。
もちろん、ここは、真子の部屋。
部屋のドアがノックされ、ドアが静かに開いた。
掃除道具を片手に入ってくる人物こそ、純一だった。
真子の部屋の掃除を任されている。カーテンを開け、部屋の空気の入れ換えをする為に、窓を開ける。窓の外には、池がある裏庭が広がっている。池には水が張ってあり、鯉が泳いでいるのが解る。

さてと。

純一は、掃除を始める。
部屋には、いくつか写真が飾ってあった。
笑顔が輝く女性の写真。
純一は、時々、その写真に見入ってしまうことがあった。
見入った後、愁いに満ちた目に変わる。そして唇を噛みしめ………。

掃除を終えた純一は部屋の窓を閉め、カーテンを引く。掃除道具を持って、部屋を出て行った。
その表情は、やはり、寂しげに感じた。




雪の降る二月。
阿山組本部の玄関先で、若い衆が話し込んでいた。その中には、大阪の川原組組長の川原の甥っ子である川原竜矢が居た。川原は、背が高く、モデル系の顔つきをしていた。夢はモデル。しかし、父が阿山組系の組長であるため、気が付くと、自分の夢どころか、やくざの世界に入っていた。

「おい、純一、どこに行っていたんだよ。山中さんが探していたぞ」
「ありがとう」

少し疲れた様子で、外から帰ってきた純一に声を掛けた川原。

「純一さんって、いつもこの時間に出掛けてるよな。
 何してるのかな」

一人の若い衆が言った。

「山中さんに頼まれた仕事じゃない事は…確かだな」

川原が応える。

「純一とは、あまり話したことないし、それに、純一自身、
 俺達との接触を避けたがるからさ…」
「親分から聞いたけど、純一さん、門の所に倒れていたんでしょう?
 家出少年……とか?」
「かもしれないな」

川原たちの会話は、純一の耳に届いていたが、純一は気にも留めずに、山中の部屋へ向かっていった。


大阪〜


「組長、忘れ物はありませんね」
「うん」
「受験票は?」
「持った」
「筆記用具は?」
「ある! 忘れても、ぺんこうに借りる!」
「頭の中は?」
「空っぽ!」

暫く沈黙……。

「大丈夫ですね!」
「……どこがだよ……」
「…冗談ですよ。本当に、頑張って下さいね。お、落ち着いて、問題を……」

なんとなく慌てた雰囲気のまさちんは、真子の目線に気付き、

「組長、何か?」

と尋ねた。

「なんかさぁ、まさちんの方が、落ち着きを失っているみたいなんだけど…。
 まさちんが受けるんじゃないんだよ…」
「そ、そ、そうでした……」

何故か、真子の受験に落ち着きを失っているまさちんに、真子は優しく微笑む。まさちんは、真子の微笑みを見て、少し落ち着きを取り戻した。

「では、いってきます!」
「お気をつけて」

真子は、元気よく出掛けていく。まさちんは、真子の姿が見えなくなるまで見送っていた。その横をすぅっと通り過ぎるくまはち。

「下見がてら行って来るよ」
「あぁ。頼んだよ」

くまはちは、真子に気づかれないように後を付けて行った。

受験会場に向かう電車の中、真子は周りをぼんやりと眺めていた。参考書を広げた学生がたくさん乗っていた。その学生達は、真子と同じ駅で降りていく。そして、寝屋里高校へ向かって歩いていった。


寝屋里高校入学試験会場。
受験生達が、次々と校門を通りすぎていく。玄関先には受験番号別の会場を案内する看板があり、受験生達は、自分の番号のある教室を確認してから、校舎へと入っていく。真子も自分の番号を確認して、教室へ向かっていった。
教室に入ると、早めに到着している他の受験生達が席に着き、最後の追い込みに入っていた。

そこまで必死にならないと…いけないのかな…。

そう思いながら、自分の番号が書かれている席に着いた真子は、受験票と筆記用具を出し、取り敢えず、周りに合わせるような感じで参考書を広げ、パラパラとめくりはじめる。次々と受験生が教室に入り、そして、席に着く。
ふと、何かを思ったのか、真子は、鞄からファイルを一冊取り出した。
それは、組関係の書類が挟まっているもの。
受験の日にまで、真子は組関係の事を気にしているらしい……。
試験開始時間まであと十五分。
教室に、一人の教師が入ってきた。
受験生達は受験体制に入る。
真子の受験会場に入ってきた教師は、なんとぺんこうだった。
偶然なのか、ぺんこうが、頼み込んだのかは定かではないが…。
真子は、ぺんこうの姿に気が付いていなかった。それ程集中して、書類を見ていたのだった。

「よろしいですか? まずは、机に上には、受験票と筆記用具だけ置いて、
 その他のものは、鞄になおしてください」

その声で、やっとぺんこうに気が付いた真子。真子が顔を上げたと同時に、ぺんこうと目があった。二人は、微笑み合う。

「では、問題用紙を配りますので、手に取ったらすぐに名前を
 書いて下さい。そして、開始の合図と共に、始めて下さい」

問題用紙が配られ、受験生達は、名前を書いていた。

「時間は四十分。終了の合図があったら、解答用紙を裏返して待機していてください。
 もし、早めに終わって時間が余ってしまっても、教室を出ずに、そのまま座っていて
 くださいね。それでは、開始」

用紙がめくられる音と共に、問題を解いていく受験生達。字を書く音だけが、教室内に響いていた。ぺんこうは、壇上から、手元にある受験生の資料を見ながら、一人一人の顔をチェックしていた。真子の番になった。ぺんこうは、真子の受験票の写真をじっくりと眺め、そして、楽しそうに問題を解いている真子に目をやった。
久しぶりに見る真子の顔。
少し、大人になったように思えていた。

がんばれ、組長!

思わず心の中で、叫んでしまった。




寝屋里高校の近くに、高級車が一台停まった。
運転席からフロントガラス越しに校舎を見つめているのは、まさちんだった。

ここに通うのか…。
そして…。
あいつが働く学校…か。

大きく息を吐き、ハンドルに顔を埋めた。


最後の科目が終了した。受験生達は、安堵のため息を付き、片づけに入る。そして、それぞれ、教室を出ていった。ぺんこうは、用紙をまとめながら、最後の受験生が出ていくのを待っていた。

「結果発表は、いつですか?」

ぺんこうに声を掛けたのは、教室に最後まで残っていた真子だった。

「三日後ですよ。郵送されますし、こちらにも張り出されますから。
 ……お疲れさまでした」
「ありがとう。ぺんこう」

真子は、嬉しそうに微笑んでいた。

「久しぶりに観たよ。ぺんこうの教壇に立つ姿。
 すっかり教師だね」

真子の言葉に、ぺんこうは、少し照れたような表情を見せる。

「帰りは、まさちんですか?」
「迎えに来るって、言って聞かなかった」
「ということは、門の近くですね?」
「だと思う」

人の気配を感じ、真子は、受験生の表情になった。

「それでは、失礼します」
「お気をつけて」

真子は、ぺんこうに手を振って、教室を出ていった。
ぺんこうは、荷物を持って、壇上から、教室を一望し、気合いを入れて、出ていく。
その後ろ姿は、輝いていた。



真子の姿が校舎の影から見えた。まさちんは、真子を見るやいなや車から降り、真子に向かって駆けていった。

「お疲れさまでした。どうでした? 結果は??」
「あのね…。すぐには出ないの。三日後だって」
「そうですか。…ところで、ぺんこうの姿は??」
「ちゃんと教師をしていたから。試験監督だった」
「そうですか…。でも、この高校、新しいんですかねぇ」
「創立して二十五年くらいって言ってたっけなぁ」
「今日は、真っ直ぐ家に?」
「息抜きしたいなぁ」
「映画は駄目ですよ」
「わかってるって」

真子は苦笑い。まさちんは、何かを感じたのか、ふと校舎の二階の窓に目線を移した。校門に面したところに、職員室がある。その窓からぺんこうが真子とまさちんを見ていたことに気が付いた。

「ぺんこう…」

真子もぺんこうの目線に合わせて、見上げた。
ぺんこうは、まさちんに、あっかんべーをしていた。真子は、そのぺんこうの姿を見て、笑い出す。まさちんを見ると、まさちんも同じように、あっかんべーをしていた。

「何してるの、二人して…」

呆れる真子。

「帰ろっか」
「はい」

真子は、ぺんこうに手を振りながら、門を出て行った。まさちんも、軽く手を挙げて、真子に付いていく。

「相変わらずなんですね」

ぺんこうは、微笑む。そして、真子とまさちんは、車に乗って、去っていった。それと同時に、少し離れたところで身を隠していた、くまはちが顔を出す。くまはちの姿にも気付いていた、ぺんこうは、軽く手を挙げて、合図を送った。

これからも宜しくな。

くまはちも、軽く手を挙げて、返事をする。

気にせんと、教師に専念しろ。

そして、くまはちは去っていく。

あいつも、相変わらず…だな。

ぺんこうの眼差しが変わる。
教師としての眼差しになり、そして、自分の席に着いた。




合格発表の日。
真子とまさちん、くまはち、むかいんの四人が、揃って寝屋里高校に来ていた。
他の受験生達も、友達や、親と一緒に、今か今かと待っている。教師が四人、ボードを持ってやって来た。そのボードにこそ、合格者の受験番号が書かれているもの。
ボードが高々と掲げられた。受験生達は、一斉に、ボードに目をやる。

「やったぁ〜!!」
「きゃぁ!」
「受かったぁ〜!!」

自分の受験番号を見つけ、嬉しさのあまり飛び上がっている者や、ボードに自分の番号が見つからず、がっくりと肩を落として帰る者など、たくさんの表情が、そこにあった。
その中で、真子達は、冷静に番号を探していた。そこへ、忍び寄る一人の男。真子達の後ろから、そっと声を掛けた。

「来なくてもいいって言いませんでしたか…?」
「ぺんこう!」

真子は、驚いたように振り返る。

「人混みで危険だから、来ないようにって、言ってたろ!」

口調が変わるぺんこう。その眼差しは、まさちんに向けられていた。

「…組長命令」

静かに応えるまさちん。

「どうしても、この雰囲気を味わいたかったんだもん」

真子が言った。

「そうでしたか。…ところで、見つかりましたか?」
「……受験番号、何番だったっけ」

真子の言葉に、一同、ずっこけた。

「そう言えば、番号聞いてませんでした…」

まさちん、くまはち、むかいんは、声を揃えて言う。

「まさちん、くまはち、むかいんまで……はぁぁぁ…」

ぺんこうは、大きなため息を付いた。

「0085でしょうがぁ〜、まったくぅ」
「流石、ぺんこう! 私の番号覚えていた!」
「当たり前ですよ」

そう言って、ぺんこうは、ボードの一部に目をやった。真子は、ぺんこうの目線の先を見つめる。

「…0…0…8……5……あった…」
「おめでとうございます!」

まさちん、くまはち、むかいんは、真子に向かって深々と頭を下げていた。

「こらこら……」

真子は、まさちん達の行動に焦っていた。周りのみんなに変な目で見られるかもしれないと考えたからだった。

「トップでしたよ。五教科合計498点でした」
「うそ…なんで?? マイナス2点は何よぉ」
「数学ですよ」
「数学ぅ〜?? どこが間違っていたんだよぉ」
「数学98点ってのが、おかしいんですよ。数学の問題は、
 高校一年生で習うところが出題されていたんですから」
「それは、いいとして、どこなのよぉ」
「計算経過の一部です。省いていたでしょ?」
「…あっ……」

真子は、思い当たる節があったのか、あらぬ方向を見つめていた。

「それにしても、あの問題を解くなんて、組長、すごいですね。
 数学の教師が、驚いていましたよ」
「だって、受験勉強で、ほとんどやったところだったんだもん」
「それも、間違って…ですよね!」
「あはっ」

真子は、かわいく笑って、ちょこっと首を傾げた。

「…なんで、高校一年生の問題が出るんだよ」

やっと何かが違うことに気が付いたむかいんが尋ねる。

「受験生って、ほとんどが同じ事を勉強しているだろ。
 点数では、ほんとは、決めにくいんだよ。そこで、数学の教師が
 意地悪問題を作ったってわけだ。生徒達は、数学が解けないことで
 落ち込んで帰っていく。難しいんだ…ということでね。
 なのに、それを解いた生徒が、組長の他にも三人居たんだなぁ、これが。
 先生が驚いていたよ」
「なるほどなぁ。むずかしいわなぁ」
「…組長…おめでとうございます」
「ありがとう、ぺんこう」
「合格した受験生に送られた封書には、いろいろな書類が入っていますから、
 真北さんに、渡して下さいね。入学説明会など、親御さんにとっては、
 大切なものですから」
「うん。わかった。今日は、真北さん、仕事で出張中なの。明日になるかなぁ。
 電話で伝えていた方がいいかなぁ。でも、仕事中なのに、悪いよねぇ。どうしようか…」
「真北さんから、電話がかかってきますよ」

ぺんこうが、優しく言った。

「そうだね。きっと心配して、かけてくるよね!」

真子は、素敵な笑顔で言った。
真子とぺんこうの二人の間に、なぜか不思議な雰囲気が漂っている。
そんな二人の間に入るに入れないまさちん達。ふと周りを見ると、人気がほとんど無くなっていた。


真子とぺんこうの二人を見つめる人物が居た。それは、寝屋里高校の校長先生だった。二人の様子を伺いながら、その周りに居る男達も観察するように見つめていた。


「じゃぁ、帰るね。またねぇ!!」
「お気をつけて。入学式、楽しみにしていますよ!」
「うん!」

真子は、受験の日の時よりも、元気に手を振って、学校を出ていった。まさちん達も、軽く手を振って、帰っていく。
嬉しそうな表情で見送るぺんこう。真子は、いつまでもぺんこうに手を振っていた。車に乗り、そして、去っていく。それでも真子は、手を振っている。

ったく、組長はぁ〜。

ぺんこうは、笑っていた。
受験生達が、時々、高校へやって来て、自分の結果を見つめ、帰っていく。その中を、静かに歩いて、校舎に戻るぺんこうは、校長先生に気が付いた。

「校長先生」
「…山本先生の素敵な生徒さんは、どうだったかな?」
「喜んでいましたよ」

ぺんこうは、輝くような笑顔で校長先生に応える。

「しかし、山本先生は、二つの顔をお持ちなんですね」
「えっ?」

ぺんこうは、校長先生の言葉に驚いた。
それは、自分が、教師とやくざの二面性を持っていると言いたいのか??

「教師の山本の時の顔と、あの子の前での顔ですよ」
「顔…ですか??」
「あの子…阿山真子さんだったかな? えっと、真北ちさとさんでしたね。
 真北さんを見つめる山本先生、素敵な顔だった。初めて見る顔でしたよ」
「初めて見る、顔、ですか?」
「優しさが、溢れる顔ですよ」
「そうですか?」
「えぇ。楽しみですね、真北さんの通う日が」
「はい。私もすごく楽しみにしています」
「真北さんの事を話す山本先生って、すごく輝いて見えるんですよ。
 これからも、宜しくお願いしますよ」
「はい。頑張ります。校長先生、組長共々、お世話になります」

ぺんこうと校長先生は、世間話をしながら、二階の職員室へ向かって階段を上がっていった。



その夜、案の定、真北から電話が掛かってきた。

『もちろん、全教科満点で合格ですよね?』

真北の言葉は厳しかった。

「マイナス2点だった。数学の問題で、計算経過を一部飛ばしたから、
 点数引かれてしまったの…。ごめんなさい…」
『ぺんこうから、聞いてますよ。高校一年生の数学問題を
 どうして、98点も取れるんですか…』
「それは、その…」
『…合格おめでとうございます』

受話器を持つ真子の表情には、嬉しさが満面に現れていた。真子の様子を見ていたまさちん達は、それに吊られて微笑む。

「ありがとう。真北さんにそう言ってもらうのが一番嬉しい」
『これからですよ、大変なのは』
「うん。通知の中に、たくさん書類があったから、真北さん、帰ってきたら、
 じっくりと目を通しておいてね」
『わかりました。明日には、帰ることできますから』
「気を付けて帰ってきてね」
『組長も、お出かけするときは、まさちんと一緒にお願いしますね』
「わかってます」
『では、お休みなさい』
「お休みぃ。お疲れさまぁ」

真子は受話器を置いて、振り返った。

「真北さん、すごく喜んでいたよ」
「そうでしょう。私たちよりもすごく心配なさっていましたから」
「楽しみだぁ」

真子は嬉しさのあまり、その場でくるくると廻っていた。まさちんが慌てて真子を停める。

「回転はいけませんって…」
「そうだった…ごめん」

アットホームな真子の家。
あの日以来、真子を狙ってくる輩は居ない。
このまま平凡な日々が続けばいいのにな。
そう思いながら、真子は卒業式までの日々を、組長として過ごしていた。


卒業式。

「卒業証書授与……」

体育館では、卒業生一人一人に卒業証書が配られていた。娘の晴れ姿を見ている真北は、少し目が潤んでいた。真北の横には、まさちん、くまはち、むかいんが座っていた。

卒業式も終わり、生徒達は、卒業記念に写真を撮り始めていた。そんな中、真子は真北と一緒に校長先生の姿を探していた。生徒達に紛れて、一緒に写真を撮っている校長先生を見つけた。

「校長先生!」

明るく声を掛ける。

「真北くん。それに…」

校長は、真子と真北の姿を見て、お辞儀をしていた。

「本当にお世話になりました。…とても楽しい日々を
 送ることができました。これも、校長先生のおかげです。
 こんな私を……。校長先生、ありがとうございました」

真子は、深々と頭を下げる。

「寝屋里高校に、トップで合格したんだってね。私は嬉しいよ」
「マイナス2点は、悔しいですけどね!」

校長先生は、微笑んでいた。

「無事に…とは、いかなかったけど、卒業おめでとう」

真子に負けないくらいの輝く笑顔で、校長先生が言った。

「ありがとうございます」
「校長先生、ほんとうに、いろいろとお世話になりました。
 組長も、楽しい日々を送ることができて、嬉しかったと…」

真北が、校長先生にお礼を言う。

「これからも、思う存分、楽しんでくださいね」

校長先生は、真子に優しく微笑んだ。真子は、真子独特の笑顔で、校長に元気に返事をした。

「はい!」





真新しい制服を着た真子。鏡の前で嬉しそうに立ち、いろんなポーズをしていた。
そんな真子を見つめるまさちん。

「組長、髪型はどうされるんですか? そのままですか?」
「…やっぱり、駄目??」

あの事件から、真子は、ずっと髪の毛を伸ばしていた為、腰の辺りまでの長さになっていた。
黒いストレートヘアー。いつもは、一つに束ねるだけだったが…。

「なんか、こう…その制服と合わないような……」
「そっかぁ……」
「やっぱり、高校生は、お下げ髪でしょう」

まさちんは、何かを思いだしたような顔をして言った。

「お下げ…か」

真子は、長い髪を二つに分け、そして、手慣れたように三つ編みをし始めた。

「これでどう?」
「うん。高校生ですね!」
「へっへぇん!」

真子は、まさちんの前で、かわいらしくポーズをとった。
一瞬ドキッとするまさちん。そんなまさちんにはお構いなく、真子は再び鏡で自分の姿を見始めた。

「高校生かぁ」

ふと呟くまさちんは、いつまでも、制服を着ている真子を見つめていた。




もうすぐ春。
梅の花が咲き、桜の花がつぼみ始めた頃だった。

本部にある真子のくつろぎの場所では、大きな桜が、ほのかにピンクに染まっていた。もうすぐ、この桜も満開になる。
そして、それが過ぎた頃に……。

「やっと、目的を実行できるか…」

純一が、本部の桜の木を見つめて、静かに呟いた……。





桜の花が見事に咲き、空気がピンク色に染まる頃……。

「これより、寝屋里高校の入学式を始めます……」

寝屋里高校で、入学式が始まった。真新しい制服を着た新入生達は、少し緊張した面持ちで、会場に集合していた。その生徒達の中に、真子の姿もあった。
まさちんに見せていたように、二つのお下げ髪姿で……。
後ろの方では、生徒達の親や親戚の人々が綺麗に着飾り、わが子の晴れ姿を見つめていた。
もちろん、その中には……。

「はははは…。ぺんこうの奴、キリッとした顔をして…。教師面してさぁ」
「教師だろ」
「そっか」

まさちんとくまはちが、こそこそと話している。

「…静かにしろ」
「すみません…」

渇を入れたのは、真北だった。
真北は、舞台の上のぺんこう、そして、会場に座る真子の姿をしっかりと目に焼き付けていた。
たくさんの生徒の中から、我が娘を見つける真北。流石である…。

入学式が終わり、生徒達は、各教室に向かって、会場を出ていった。

「父兄の皆様には、これから大切なお話を行いますので、
 しばらく、そのままでお願いいたします。お子さまの方でも、
 大切なお話をしておりますので、その時間に合わせて、終了する予定で
 ございますので……」

壇上で、司会進行役の先生が、親御さんに向けて、いろいろな話を始めていた。

「真北さん、俺達は、外で…」
「あぁ。見失うなよ」
「わかってます」

まさちんとくまはち、そして、むかいんは、会場を出ていった。少し堅苦しそうに歩いているまさちんとくまはち。そんな二人を見て、むかいんが言った。

「なんか、緊張してないか? まさちんも、くまはちも」
「…そりゃぁ、学校って、慣れないからなぁ」

くまはちが、ふてくされたように言う。

「俺も…。長いこと学校に来てないから…」

まさちんも、くまはち同様、ふてくされたような口調だった。

「むかいんは大丈夫なのか?」
「あぁ」
「ふ〜ん」

三人は、会場となっている建物から出て、高校の門へ向かっていく。

「なんか…信じられないな」

むかいんが、ふと呟いた。

「何が?」
「ん? 組長が生徒で、その担任がぺんこうだってことが」
「そりゃぁ、ほら、裏で…なぁ、くまはち」
「あぁ」

なぜか、少し無口なくまはちだが、むかいんは続ける。

「普通の暮らしと教師かぁ。ま、俺は調理師だけどな。
 組長には、感謝してもしきれないなぁ」
「そうだよな。だけどさぁ、むかいんは、組長の言うとおりに
 みんなの心が和むような料理を作ることで、組長にお礼してる
 ようなもんだよ。俺なんて…なにも……」
「まさちんといることで、組長は、嬉しいと思うよ」
「それなら、いいんだけどな。で、高校でも真北ちさとで、
 俺は、真北ちさとの兄、お前らは真北ちさとの父の関係者としての
 居候か? それも、刑事としての…」
「そうなるみたいやな」

沈黙が続く。
暫くして、親御さん達が、ゾロゾロとやって来た。校舎を見上げたり、中へ入っていったり……。落ち着かない親御さん達とは、正反対に、まさちん達は落ち着いた雰囲気で、その場に立っていた。
そこへ、真北がやって来る。

「まだ、終わってないみたいだな」
「えぇ。でも、そろそろ出てくるかと思います…。ほら」

真北の言葉に応えたまさちんが指さした方から、生徒達が出てきた。それぞれが、重そうに荷物を持っていた。その中に、真子の姿をいち早く見つけたまさちんは、真子に駆け寄っていく。そして、真子の荷物を手に取った。

「あぁ、まさちん、ありがと。ったくぅ、なんで入学式早々、
 こんなに荷物がたくさんあるんだよぉ」
「それだけ勉強がたいへんってことですよ」

同じように真子に歩み寄る真北が言う。

「あれ、真北さん、来てたの? 仕事は??」

真北は、前日の仕事が長引き、もしかしたら、入学式に出席できないかもしれない…そう嘆いていたのだが…。

「娘の晴れの入学式に出席しないとね。う〜ん。やはりいいですねぇ。
 まさちんには、聞いていましたが、その制服、似合いますね」
「でしょう? うふふ、ありがと。さて、帰ろっか」

職員室の窓からは、先生達が、校門の様子を観ていた。その中に、ぺんこうの姿もあった。真北は、異様な目線に気が付いたのか、顔を上げる。ぺんこうと目が合った真北は、軽く手を挙げて、合図する。ぺんこうも真北に合図していた。
ぺんこうに背を向けた真北は、安心したように、笑みを浮かべた。

「帰りますよ」

そして、真子達は、学校を出ていった。
真子は、まさちんに荷物を持たせたまま……。


「真北さん、仕事だと言っていたのになぁ。やっぱり娘の
 晴れ舞台には、出席するんだなぁ。父親だなぁ」

呟くぺんこうは、真子達の姿が見えなくなるまで、窓から外を眺めていた。
真子とまさちんは、じゃれ合いながら歩いている。そこへ、真北が何かを言った。二人は、シュンとなりながらも、足取り軽く歩いていった。
ぺんこうは、振り返る。

「さっきの方の娘さんですか。あの入試問題の数学を98点で合格した生徒は。
 先が思いやられますね。もちろん、運動神経も抜群だそうで」

目の前に、数学の教師が立っていた。

「ビックリした……。見てたんですか?」
「まぁねぇ。気になるじゃありませんか。あの問題をスラスラと
 解いてしまう生徒ですよ? もしかしたら、学校内が荒れるかも…」
「えぇ。ちょっとした豆台風かもしれませんよ」

ニッコリ微笑んで言ったぺんこうの表情を見て、数学教師は、ちょっぴり顔色が変わった。

「…もしかして…厄介な生徒なんですか?」
「別な意味で厄介かもしれませんね」

さらりと言い放つぺんこうに、

「????」

数学教師は首を傾げた。
そんな数学教師を気にせずに、ぺんこうは、席に着く。そして、これからの学校生活を想像して、更に笑みを浮かべていた。

まさか、こんな日が訪れるとは…。

真子の家庭教師をし、そして、大学に復学した頃から考えていた事。

真子の夢を叶える。
そして、あの人の夢も…。

それが実現した事に対する喜びもある。
しかし、その喜びも、束の間のものだった。



(2005.8.7 第一部 第二十話 UP)



Next story (第二部 第一話)



組員サイド任侠物語〜「第一部 絆の矛先」 TOPへ

組員サイド任侠物語 TOPへ

任侠ファンタジー(?)小説「光と笑顔の新たな世界」TOP


※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


Copyright(c)/Dream Dochan tono〜どちゃん!著者〜All Rights Reserved.