任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第二部 『笑顔を守る』

第十話 それは珍しいこと。

「はっくしょぉん。……くしゃみが、止まらないなぁ」

ぺんこうは、風呂上がりにくしゃみを連発していた。それは、年末から続いていた。

「……まさか…なぁ。…明日から三学期が始まるというのに、
 こんなことでは、駄目だ、駄目だ!」

気合いを入れて、明日の準備に取り掛かるぺんこう。
一方、大阪へ帰ってきた真子は、結局、本部では宿題をせず、若い衆と遊びまくったのが尾を引いて、宿題に追われていた。



「天地山、楽しかったで。ありがとな」
「傷、もう大丈夫なん?」
「来年も行きたいなぁ」
「これ、おかんが、お世話になったからって」
「…ありがとう。気を使わせてしまったみたいだね」

三学期。
真子のクラスでは、ホームルームが始まった。
宿題を集め、三学期の主な行事を言い終えたぺんこう。

「…ということだから。今日はこれまで」

なんだか早かった。生徒達は、何故、早く終わったのか不思議に思いながらも、帰り支度をし始める。
休み気分はまだ、抜けていない…。

「先生さよなら!」
「おう、さよなら」

真子と野崎が、最後まで教室に残っていた。何やらこそこそと話している様子。
ぺんこうは、少し気になり、二人に歩み寄った。

「……まっすぐ、帰りなさい」
「びっくりしたぁ。先生、驚かさんといてぇな」
「二人とも、家にちゃぁんと帰ってから、出掛けなさい。
 お互いに、家が近いでしょ?」
「制服での寄り道。これがええねんって!」
「…よくないですよ」

野崎とぺんこうのやりとりを見ていた真子。ぺんこうの口調に元気がないように感じられていた。でも、いつものような表情で話すぺんこうを見て、気のせいだと思っていた。

「ほな、さいなら、先生」
「遅刻しないようにね、特に、真北さん」
「はーい。気を付けます!!」

真子は、しっかりと返事をして、野崎と帰っていった。ぺんこうは、二人の後ろ姿をいつまでも見つめていた。そして、深いため息をついて、足取り重く職員室へ向かう。他のクラスは、まだ、ホームルームを行っていた。

案の定、真子と野崎は、制服で、寄り道していた。と言っても、最寄り駅の近くにあるファンシーショップやCD屋だった。大阪中心部は、真子にとって危険。それは、野崎も理解していること。
もちろん、二人の近くには、こっそりとくまはちの姿も見え隠れしているが……。


「……なるほど、風邪なのか……」

帰宅したぺんこう。職員室で、ぺんこうの様子が気になる先生から、その症状は風邪だと言われ、やっとこさ自覚したのだった。自覚すると更に悪化するのが、風邪の嫌味なところ。ぺんこうは、重い体を無理して動かしながら、着替え、そして、軽く食事をして、薬を飲み、ベッドに潜り込んだ。


次の日の朝。

「申し訳ありません。…真北に頼んで下さい。はい。
 ありがとうございます。明日は必ず……」

ぺんこうは、寝屋里高校へ電話を掛け、風邪で欠席することを伝え、終礼などは、真子に頼むようにお願いまでしていた。

「あ、あかん……」

男一人暮らし。こういうときが一番困る…。

あの頃は……。

遠い昔を思い出しながら、ぺんこうは、深い眠りに陥った……。




AYビル。
真子は、制服姿で受付の明美と話し込んでいた。ぺんこうが風邪で休み、そして、むかいんに特製料理を作ってもらうために、急いでやって来たのだった。

「へぇ、それが、むかいんさんの特製料理なんだ」
「そうだよぉ。むかいん特製だから、だれも作り方知らないけど、
 これを一口飲むだけで、元気が出るんだからぁ」
「むかいんさんの愛情がたっぷり入ってるんだね」
「うん」

真子は、かわいらしく微笑んだ。

「じゃぁ、ぺんこうさんにお大事にと」
「言っておくね。みんなに心配かけすぎって」
「それも、そうね!」
「ふふふ。じゃぁね!」
「あぁ、真子ちゃん!」

去ろうとした真子を呼び止めた明美。

「今月の予定は、まだ聞いてないんだけど…」
「あれ、そうなの? まさちんに言っておくから」
「なるべく早くね!」
「OK! ほなねぇ!」

真子は、まさちんと地下駐車場へ向かっていった。

「まさちん、今月の予定、まだだって?」
「あっ。忘れてました。…予定立ってませんよ」
「…そうだっけ。ま、いつもの通り、適当にしててね」

真子とまさちんが駐車場へ降りてきた。その後ろをこっそりと誰かが付いてきていた。
それは、サーモ局の木原だった。
木原は、真子を追いかけていた頃の癖で、AYビル一階にある喫茶店に時々顔を出していた。
マスターとも顔なじみとなっている木原は、この日も、喫茶店でのんびりと時間を潰していた。
勘定を済ませていた時、受付で制服姿の『真北ちさと』が『真子ちゃん』と呼ばれて振り返ったところを見かけたのだ。気になって、真子の後を付いてきた。
車の影に身を潜める木原。真子とまさちんは、木原の気配に気が付いていないほど、ふざけながら車に向かって歩いていたのだった。

「早く行かないと、ぺんこうが大変だよ。ったくぅ一人暮らしだから、
 誰も面倒みないでしょぉ」
「それは、言い過ぎですよ、組長」
「でも、珍しいね。ぺんこうが風邪でダウンするなんて。
 あっ、かなり前にもあったような…」
「あいつは、健康の塊みたいな奴ですから」
「心配だなぁ」
「組長……。急ぎますよ」

真子とまさちんは、車に乗り、そして、去っていった。車の影に身を潜めていた木原は、考え込んでいた。

「組長…?? あの男、確かに真北ちさとにそう言ったな。
 真北ちさと…阿山真子………ふっふっふ。…なるほどな。
 そういうことか…」

木原は、何かに気が付いた。木原の自信に満ちた背中から、何かしら恐怖を感じ取れた。



真子がぺんこうの頭の下から、そっと氷枕を取り出した。その時、ぺんこうが目を覚ます。

「お嬢様」

目の前の真子の姿を見て、ぺんこうは驚いたように言った。

「ん? ぺんこう、ごめん。起こしちゃったね。具合はどう?
 風邪だって聞いたから、つい、来ちゃった」
「鍵を開けたままだったんですね」
「閉まってたよ。へへへ。ぺんこうの家の鍵、持ってるもん。
 だけど、やっぱり、一人暮らしはだめだね。看病する人
 だれもいないでしょ?ところで、何も食べてないでしょ、今朝から」
「起きるのがつらくて……。何も食べてません」
「と思ったから、むかいんにね、作ってもらったの。
 元気が出るし、風邪もすぐに治るからね。はい」

むかいんに頼んでいた特製料理を温め、ぺんこうに差し出した真子。しかし、ぺんこうは、それを目の前にしても、ぼぉっーとしていた。

「ぺんこう、どうしたの? 食欲ない?」

氷枕を手にした真子が、そんなぺんこうを見て、首を傾げて尋ねてくる。その仕草に見覚えがある、ぺんこうは、真子の言葉に反応するかのように、

「いいえ、いただきます」

スプーンを手に取り、食べ始めた。
二口ほど、口に運んだ時、ぺんこうが静かに言った。

「夢を……見ていたんですよ。組長に初めてお逢いした
 あの日から、そして、俺がこのように風邪をひいた時、
 このように、これを持ってきて下さった組長の夢を……」

ぺんこうは、手を止める。そして、何か懐かしむような表情に変わる。真子は、微笑んだ。

「それで、お嬢様、だったんだ。びっくりしたけど、別に気にとめてなかった。
 ……ぺんこうにたくさんあの時教えてもらった。学校で教えてもらえない事も」

真子も懐かしむような表情になる。

「組長に、先生になれとうるさく言われて」
「教員免許を無理矢理取らせて」
「先生になって、そして、今があるんですよね」
「やくざをするより、先生に向いてるんだもん、ぺんこうは」

ぺんこうは、再び手を動かして、むかいん特製料理を食べ始めた。

「ゆっくり休んで、早く治してね。みんな心配してたよ。
 健康の塊みたいな先生がぁ〜って」
「ふふふ。そうですか……。お休みなさい」
「お休み」

ぺんこうは、薬を飲み、静かに布団に潜り、眠りについた。


真子は、まさちんを強引にソファに座らせ、少し鼻歌混じりで食器を洗い始める。
まさちんは、そんな真子を見つめながら、テレビをつけた。リモコンで、音をかなり小さくして、くつろいでいた。洗い物が終わった真子は、鞄から宿題を取り出し、勉強を始める。その様子を見たまさちんが、すっと立ち上がり、出かける支度をし始めた。

「どこいくの?」
「用事を思い出しましたので、出かけます。ぺんこうの薬も買ってきますので」
「うん。気をつけてね、いってらっしゃい」

夜十時半。
真子は、ぺんこうの様子をそっと見に行った。
ぺんこうは、薬が効いているのか、真子が覗きに来たのも気づかないで熟睡していた。

氷枕の氷を替えているときにまさちんが帰ってくる。

「お帰り。薬局開いてなかったんでしょ?」
「ぎりぎりのところで間に合いましたよ。それと一度家に戻って、
 くまはちと真北さんに言っておきました。今日は、帰らないと」
「なんで、わかるのかなぁ。帰る気ないって」
「組長のことなら、なんでもわかりますので」
「ほんと?」
「はい。だから、明日の時間割も持ってきましたよ」
「ほんとだ。ありがとう!!」

真子は、まさちんから荷物を受け取った。



夜中二時過ぎ。
真子はソファで眠っていた。
まさちんは、真子の布団をかけ直し、ぺんこうの様子を見に行く。ぺんこうは、目を覚ました。眠っていても人の気配に敏感なぺんこうは、まさちんの気配に気が付くほど、かなり体力を回復した様子。

「組長は?」

開口一番に、真子のことを気にする。

「ソファで眠ってるよ。客用の布団ぐらい用意しておけよ」
「悪いな、必要ないと思って用意しなかったよ」
「明日も大事をとって、休めよ。組長命令だ」
「わかってるよ。しかし、今回のはひどかったよ。
 長年のつけがいっぺんでやって来たって感じだ」
「なんか悪いことしたんじゃないのかぁ?」
「まさちんとは、違うよ」
「言ってくれたなぁ? ……だいぶましになったな」
「あぁ」
「お休み」
「お休み」

ぺんこうは布団に潜り、眠った。まさちんも部屋から出て、真子の様子がよく見えるところに腰をおろして、目を閉じた。



次の日の朝、真子は、ソファの跡をほっぺにつけたまま、ぺんこうの家から登校していった。まさちんが、真子をマンションの踊り場から見送っていた。真子は、まさちんに手を振って、ほっぺの跡を気にしながら、元気に走って行った。

そして……。

真子のクラスメート数人と、そして、真子と野崎が手にコンビニの袋を抱えて、とある町の道を歩いていた。あるマンションの301号室のチャイムを押す徳田。

「おう、なんだ、徳田か」

出てきたのは、すっかり風邪が治って元気になったぺんこうだった。

「先生、元気そうやん。よかった」
「調子はどうですか?」

安東、松山が言った。

「なんだ、安東もいたのか。加藤、中山、飯塚まで。先生、明日出勤するのに。
 まぁ、中に入れ入れ。むさ苦しい男の一人暮らしの家だけど、あったかい
 飲み物はあるぞ」
「おじゃまします!」

そう言って、生徒達は、家の中へ入っていった。ぺんこうは、野崎の姿を見て、驚いた。

「野崎もいたのか……って、ことは……」
「こんにちは、先生、おじゃまします・・・」

真子は、一生懸命に普通を装っていた。

「くっ、くぅ、……真北さんもですか……」

ぺんこうも、普通を装って、真子を迎えた。なんだか、変な雰囲気の二人だった。
真子のクラスメートは、二日も休むぺんこうの様子がかなり気になっていたのだった。
それもそのはず。
天地山からの帰り、徳田達は、ふざけて、ぺんこうを雪の中に押し込み、雪まみれにしていたのだった。雪で濡れたまま帰宅したぺんこう。それが原因で、体調を崩したのか…と徳田達は、思っていたのだった。二日も休んだ理由を知って、一安心している徳田達とテーブルを囲んでぺんこうは楽しく語り合っていた。

ぺんこう、輝いている!

真子は、優しい眼差しでぺんこうを見つめていた。





「資料を用意しろ!」
「映像を撮ってこい!!!」

あちこちの報道関係があわただしく動き始めた。一体何が起こっているのか?!
木原が自分のデスクの引き出しから、無造作に入れられていた写真を撮りだした。
その写真こそ、あの阿山真子と真北ちさとが同一人物だという決定的な証拠写真だった。木原の表情は、なぜか、勝利に満ちた顔だった。

「もう、騙されないでぇ、阿山真子。覚悟しとけよ」

木原は、不気味に微笑んでいた……。

「……木原さんのあの笑みが出たぞ」
「あぁ、そうだな。…これは、かなり大変だぞ」
「しかし、なんで、木原さんは、ヤクザのことになると、あぁ燃えるんですか?」
「……ヤクザが嫌いなんだよ、人の命を何とも思わへん奴らがな」
「…それで、いっつも危険な目に遭ってまでも…」

木原の仕事仲間が、心配ながらも木原の気迫に押されて、阿山組関係の資料を集めていた。





AYビル。
次々と報道関係らしい者が集まって来た。突然の事で、受付の明美とひとみは、首を傾げていた。警備員の山崎も、何が起こるのか予想ができなかったが、万が一の場合を想定して、警戒をしていた。
地下駐車場の階段から、真子が現れた。見慣れない人の多さに、驚きながらも、いつもの通り、受付で明美とひとみと話し込んでいた。まさちんの姿を見たので、真子は、エレベータホールへ向かった。

「あっ、真子ちゃん、これ!」
「ん? ありがと」

明美は真子を呼び止めて、いくつかの封筒を渡した瞬間だった。今までロビーにたむろしていた報道関係者が一斉に真子に近づいてきた。スポットライトが当てられ、眩しがる真子。テレビカメラが向けられ、シャッターの音が響き渡った。

「阿山真子さんですね?」
「阿山組五代目だというのは、事実ですか??」
「東北での抗争は、どうなりましたか!!」
「大阪で暮らしているのは、事実ですか??」

たくさんの質問、たくさんのカメラ、マイク……。いきなり向けられた真子は、手で顔を隠していた。
囲まれて動けずにいる真子。
警備の山崎もあまりの人数に為すすべもなく…。まさちんは、サングラスを掛け、報道陣をかきわけながら、真子に近づき、ガードする。その様子もカメラに収められていた。しかし、どんどん押し寄せてくる報道陣の前で、身動きが取れなかった。

「おらぁ、なにしとんねん!!」
「どかんかい!」
「邪魔じゃ!」

いきなりドスの利いた声が響き渡った。
阿山組系須藤組、川原組、藤組の組員が報道陣をかきわけて、真子の所へやって来た。そして、真子をガードしながら、エレベータホールへ向かっていった。
ホールの入り口で報道陣がこれ以上入れないように、立ちふさがる。組員越しにカメラを真子に向ける報道陣。それを横目にしながら、待機していたエレベータに乗り込む真子とまさちん。真子の姿が見えなくなると、くやしそうなため息を上げた。


エレベータの中でため息をつく真子。

「いきなりでしたね、組長」
「組長だの、東北の抗争などと質問されたけど…。
 一体、私の何を知りたいんやろ…。はふぅ〜」
「…帰りはどうしましょうか」
「きっとまだ、いるはずだから、直接地下に」
「わかりました」

案の定、真子の帰宅時間にも報道陣がロビーで待っていた。

「えぇ。まだ」
『そうですか。では、直接駐車場へ行きます』
「はい。お気をつけて。…こちらで引き留めておきます」

明美は、まさちんと内線で話した。真子とまさちんは、地下駐車場へ直接行き、そして、AYビルを去っていった。駐車場の管理人は、真子が去っていったのを明美に連絡した。明美は、近くにいる報道関係者の一人にこっそりと真子が帰ったことを伝えた。その一人から次々と報道関係者に伝わり、報道関係者は、素早くAYビルを去っていった。

「はや……」

人気がすっかり無くなったロビーを見つめた明美が、呟いた。



寝屋里高校。
その日の終礼が終わった。
職員室に戻ってきたぺんこうは、

はぁ、ったく…この人たちはぁ…。

またしても職員室の窓付近にたむろしている教師達に呆れながらも外を覗いてみた。
校門前には、報道関係者が多数集まっていた。

「一体、何やろか」
「さぁ」

不思議な顔をして、首を傾げている教師達とは別に、ぺんこうは、心当たりがあった。
今朝、まさちんから、昨日のAYビルでのことを聞いていたぺんこうは、受話器を取り、どこかへ連絡する。

『今向かってる』
「まだ、教室に居るから。早くな」
『あぁ』

ぺんこうは、電話を切り、窓に歩み寄った。
報道関係者は、校門を出ていく生徒をじっくりと見つめていた。手に何かを持っている。ぺんこうは、目を凝らして、報道関係者の手元を見つめた。

写真…?

手には、一枚の写真が。報道関係者達は、その写真と生徒達を見比べていた。
一人の報道陣が校内に向けて指をさしていた。
真子が校門を出て来た。
その瞬間、一斉に報道陣が真子を囲んでいく。真子は、囲まれたことに驚いていた。

今は、真北ちさとだぞ…。

「真北さんでしたよね?」
「暴走族を撃退した真北さん、ちょっとお話を!!」
「…阿山真子と同一人物だということですが…」
「なぜ、偽名を?!」
「高校生だったんですか?!」

訳の分からない質問が飛び交っていた。戸惑う真子。
真北ちさとに質問?!
思わず立ちすくんでしまった。ぺんこうが、真子の所へ駆けつけようとした時だった。真子達の集団目掛けてかなりのスピードで車が近づいてきた。

「うわっ!!」

轢かれそうになった報道陣は、思わず横に飛び退いた。その車は、真子の前で停まる。
真子は、急いで飛び乗った。

「ぺんこう、サンキュウ!」

真子は、職員室の窓から様子を伺っていたぺんこうに気が付き呟いた。

「お怪我ありませんか、組長」
「うん。囲まれただけだから。それより、まさちん、
 真北ちさとと阿山真子が同一人物っていう声が聞こえたんだけど、
 どういうこと? …そりゃぁ、本当のことやけど、なんで、そんな事を言うんやろ…」
「本当ですか? これは、大変な事になりそうですね。
 …真北さんに伝えておきましょう」
「そうだね。これは、真北さんに頼んだ方がいいよね」

次の日、早速、報道関係に警視庁から取材に関する勧告書が配られた。警察沙汰は、ごめんという報道関係者は、この事に関する報道を控えた。しかし、AYビルには、毎日のように報道陣が詰めかけていた。阿山真子と真北ちさと同一人物説は、ひとまず置いて、阿山真子に関する報道に絞ったのだった。真子は、困っていた。組のことではなく、自分のことなのに…。

「…ったくぅ〜。…まさちん」
「はい」

そして……。

AYビルの大広間にかなりの数で集まる報道関係者達。その中へ、サングラスをかけた真子がまさちんに付き添われ、壇上に用意された机についた。
真子が自ら記者会見を行うと言ったのだった。それは、毎日の様にたむろする報道関係者と一般市民のトラブルが増えてきた事が原因。
たくさんのフラッシュの中、真子は、毅然とした姿勢をしていた。進行役として、まさちんが口を開いた。

「連日、AYビルに集まる皆様と一般市民のトラブルが発生した事は
 既にご存じだと思います。一般市民へのトラブルを避けるために、
 会見を開かせていただきます。それでは、質問をお聞きします」
「えー、まず、阿山真子さんが、阿山組の五代目 組長だということに
 対してですが、お答え下さい」

やわらかな質問だった。咳払いの後、真子が口を開いた。

「それは、事実です」

フラッシュが激しく光った。

「では、東北で、千本松組と阿山組系の抗争の事ですが、
 今年に入って、全く動きがなくなったのですけれど、
 それは、千本松組の組長が、重傷を負ったという話と
 何か、関係があるのでしょうか? 聞いたところによると、
 阿山真子さんが、終止符を打ったという事ですが、
 その辺りをはっきりとお願いします」

しばらく口を開かない真子は、ゆっくりと応えた。

「確かに、付近の住民のみなさまに、多大なご迷惑をお掛けしておりました。
 本当に申し訳ございません。重傷を負ったという話はお聞きしてないのですが、
 確かに終止符を打たせてもらいました」
「ところで、先日、阿山さんが、真北ちさとと名のって
 学校に通っているということで、その学校へ行ったのですが
 警視庁から、勧告をもらって、結局の所、事実はわからず」
「そのことで、私、阿山組にも、通告書が来ました。その女子高生の
 真北ちさとさんと私が同一人物だということで、報道関係が
 たくさんたむろして、迷惑をかけていたという内容も含めて
 このように、会見の場を作らせてもらいました。同一人物というのは、
 全く関係ありません。なぜ、そのような話になっているのか、
 こちらが知りたい程です」

冷静に応える真子。

「大阪に暮らしているとのことですが」
「その通りです」
「なぜですか? 東京に、あのような本部があるというのに、
 この大阪にいるということは、このビルのような大きな組織を
 作ろうとしているのですか? その際、大阪では、抗争が
 見られなかったのですが……」

その質問を遮るかのように、まさちんが口をはさんだ。

「申し訳ないですが、時間ですので、これにて失礼します」

真子が、席を立ち、まさちんがガードをしながら、大広間を出ようとしていた。たくさんのフラッシュが光り、カメラが、真子を追っていた。

「組長として、何か一言お願いします!」
「素顔を見せて下さい!」
「もう少し、話を!!!」

真子は、全く振り向かずに去っていった。まさちんが、振り返った。まさちんから醸し出される雰囲気に、一同、息を飲み込んだ。

これ以上騒ぐと、何をするか、わからないぞ……。

まさちんは威嚇していた。

「…威嚇されるとなぁ」
「そうだよな。今は大人しいけど、阿山組だもんな」
「これ以上は、騒がない方がええかもな」
「何をされるかわからんしな」
「そうだよな」
「しかし、阿山慶造の娘が五代目を継いでいたのは、本当
 だったんだな。噂は聞いていたけどな」
「確か、あの娘、やくざ嫌いで有名やなかったんか?」
「大人しくて有名だったよな」
「…騙されたか? あれは、阿山真子やないんとちゃうか」
「ダミーか…。くそっ。阿山組にしてやられたか…」
「しゃぁないか。元々、興味なかった事やしな」
「先代の時に懲りてるからなぁ。あの事件な」
「確か、先代じゃなくて、ガキが犠牲になったやつな…」
「…それでまさか、報道関係に仕掛けてくるとはな…」
「それも、先代の姐さんが…な…」

報道関係者は、片づけをしながら、話し込んでいた。阿山組の過去を知っている者が多いらしい。そのような話をしながら、徐々に大広間を出ていった。



誰もいなくなった大広間に、ポツンと一人、残っている者がいた。
それは、あの、木原だった。

「同一人物では、ない・・・か。茶番劇だよ、ほんまに。
 他の奴は騙せても、俺は、ちゃんと聞いたからなぁ。
 真北ちさとに向かってあの男が言った言葉をな…」

木原の報道魂が燃え始めていた。
その頃、真子は、ビルを後にしていた。なぜか、不服な顔をしている真子にまさちんが言った。

「これで、大丈夫でしょう。真北さんと組長のダブルですから」
「なにか、気になるんだよ。なぜ、同一人物という話が
 出ていたのか、私が組長ということがばれているのか」

真子は、考え込んでいた。なんとなく胸騒ぎを感じていた。
何かが起こる……。




とある暗い部屋で男が一人テレビを観ていた。
阿山真子の会見が映し出されている画面。テレビの灯りが男の口元を照らしていた。
口元が不気味にゆっくりとつりあがっていた……。



(2005.10.12 第二部 第十話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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