任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第二部 『笑顔を守る』

第十四話 真子が本部で…?

カシャッ!

シャッターの切る音が聞こえた。ファインダー越しに、真子が迫ってくる。

「こらぁ、木原さぁん!! なんで写してる!!!」
「ええやろぉ。真北ちさとの元気な姿撮りたいねん!」
「うるさぁい!!!」

真子は、下校中、校門を出たところで、待ちかまえていた木原に見つかり、写真を撮られてしまった。反抗しながらも楽しそうな真子、そして、木原。ほんの数ヶ月前までは、全く違った二人の態度。そこへ、ぺんこうがやって来た。

「木原さん、いい加減にしてくださいね」
「先生ぃ〜、いいやないですかぁ。事件も解決したし」
「…我々の間では、解決しても、生徒達の間では、解決してませんよ……」

ぺんこうがこっそりと、木原に耳打ちする。木原が、ふと目をやったところに、真子のクラスメートが木原を睨みながら近づいてきた。

「おっさん、まだ、撮るんかぁ〜???」

徳田が、鞄を振り上げながら木原に駆け寄った。

「わ、わかった、か、帰るよ!!!」

木原は、慌てて去っていった。真子は、苦笑いをして、木原を見送った。

「真北、大丈夫か? 何もされてへんか?」
「うん。ありがとう、徳田くん」
「だから、あかんって言ったやろ。一緒に帰った方がええって。
 一平ぃ〜。ちゃんとしろよぉ、お前の彼女やろぉ!!」
「はぁ?!?!?!!」

徳田の後ろにいた一平と真子、そして、ぺんこうが驚いたような声を上げた。

「俺達は、そんな仲やないで、な、真北さん」
「えっ?! は?! …はぁ」

真子は、何がなんだかわからないという顔で取り敢えず返事をした。

「じゃ、先生、さよならぁ」

徳田は、そう言って、中山、安東、野崎、そして、一平と真子と帰路に就く。

「気ぃつけやぁ!」

ぺんこうは、真子達を見送った。今の光景が嬉しかったのか、安心した様な表情で職員室へ向かっていく。
職員室の窓から、一人の教師が、この光景を不気味な笑みを浮かべて見下ろしていた。



「新任のあの黒田先生、なんか、頼りなさそうやなぁ」

安東が言った。

「そっか? 俺は、すごいと思うで」
「なんで」
「ほら、能ある鷹は爪隠すっつーこと」
「そうかなぁ。そんな風に見えへんかったで、な、野崎さん」
「ようわからん。うちは、どうでもええけどな」
「やっぱしさぁ、真北さんのお兄さんみたいに、不思議なベールに
 包まれてる感じが、かっこええねんって」
「そうかなぁ。結構、ドジなところもあるけど」

真子が安東の夢を壊すような感じで言った。

「それでもええねん! なぁ、今度いつ逢えるん?」
「遊びに来る?」
「あかん…それは、できへん。照れるやん」
「そうは、見えないけどなぁ〜」
「言ってくれるな、真北さん!!!」
「ごめんごめん!」

真子達は、駅に着き、それぞれの方角へ向かって帰っていった。
賑やかな生徒達。楽しい雰囲気。
真子は、とても嬉しそうに微笑んでいた。真子達に遅れて、くまはちと竜見が、改札を通った。



「山本先生」

職員室に戻ってきたぺんこうに声を掛けたのは、安東達が噂をしていた新任の黒田だった。

「わからないところでも?」

少し先輩面をしたぺんこうが黒田に近づいていった。

「先程、校門で何かあったんですか? 他の先生に尋ねても
 教えてくれなくて…」
「…いいえ、何もありませんでしたよ」
「そうですか」
「それより、どうでしたか、初日は」
「緊張のしっぱなしで、疲れました」
「明日からは、もっと疲れますよ」
「脅かさないで下さいよぉ、山本先生ぃ〜」
「経験者は語るってことですよ」

ぺんこうは、素敵な笑顔を黒田に送った。黒田は、本当に参っていた。




「ほほぅ。気が付かないのか…」
「はい。しかし、やはり、阿山真子には近づきにくいですね」
「それは、承知の上だ。阿山真子には、常に山本が付いているからな…。
 次の手を考えているよ。今、交渉中だ。二段に構えておけば、次の手も
 考えられるしな…。頼んだよ」
「はっ」

暗がりの部屋で話す二人の男。一人の男は、出ていった。入れ替わるように誰かが入ってきた。部屋の明かりが付いた。

「ったく、いっつも電気を消して、何をしてるんだよ」
「…うるさいなぁ。明るいところは、体に悪いんだよ」
「もう、大丈夫なんだろ?」
「あぁ」
「……お前、何を考えている? 今出ていった奴は、確か…」
「…昔の名残でいろいろと相談しにくるだけだよ」
「そっか。じゃぁ、俺は、暫く家を離れるからな」
「…また、ですか」
「仕方ないだろ、これも仕事だからな」
「あぁ、そうだな。気を付けてな、兄貴」
「お前もだ、竜次」

そう言った男は、あの黒崎だった。その黒崎が、『竜次』と言ったこの男。
何やら恐ろしいことを企んでいる様子。
その事に気付かず、黒崎は、部屋を出て行った。





「進学か、就職か。悩むとこやなぁ。考えてなかった。
 必要かなぁ、やくざに大学は…」

真子とぺんこうが、学校の中庭で話し込んでいた。

「必要と言えば、必要ですし、そうでないと言えば、そうでないですね。
 組長、勉強は、楽しいですか?」

真子は頷いた。

「もっと、もっと勉強したいのなら、進学ですね」
「でも、組長のままでしょ?」
「うっ……そうですね……」

二人は、悩んでしまった。そして、いつの間にか、二人は、一緒に校門を出て、帰路に就いていた。

「先生は、高二の時は、どうだったの? 同じように悩んでた?」
「真面目な生徒でしたよ。教師を目指して勉強してましたから、
 悩むなんてことなかったですね。行きたい大学も決まってました」
「で、なぜ、阿山組に? 私の家庭教師に? …私訊いたことなかったよね??」
「えぇ。……秘密です」
「…けち。……でも、やっぱり、なりたかったんでしょ?」

真子は、ぺんこうに優しく微笑んでいた。

「えぇ。感謝してます、組長」

ぺんこうは、そんな真子の笑顔に応えるかのように微笑んでいた。真子は、嬉しそうに笑みを浮かべながら、照れたように、ぺんこうから、目を反らしていた。

「山本先生!!」
「えらい遅いな、黒田先生」

真子とぺんこうのところへ駆け寄ったのは、新任の黒田だった。

「やはり、大変でしたぁ。生徒達の質問責め! そのあとに、明日の
 準備にかかったもんですから、こんな時間に」
「ま、がんばれよ!」

真子は、黒田に話しかけるぺんこうの姿を見て、きょとんとしながら、

「…ほんとに、先輩面してるね、先生……」

思わず口走る。

「うるさい!」
「真北さん、だよね?」

黒田が、真子を見て言った。

「そうですよ。…あれ? 自己紹介してませんけど…」
「この学校で知らない人は居ないでしょう。あの阿山真子を
 怒鳴りつけたんですからぁ。…やはり、別人なんですか?」
「別人です」

真子とぺんこうが力強く言った。

「そうですよね、山本先生。やくざの組長さんがそれもあんな巨大な
 組織の組長が、ボディーガードもなしに街の中なんて歩きませんよね。
 ましてや、こうして、学校になんて、それも、一人でねぇ〜」

真子とぺんこうは、黒田の言葉に対して、表情が強ばる。

「黒田先生、なんだか、やくざに詳しそうですね」

真子が、黒田に尋ねる。

「極道映画が大好きなんでね、少しは詳しいですよ」
「なるほど…!」

真子とぺんこうは、ホッとした表情に変わる。
ぺんこうは、黒田の言動に驚いていたが、特に怪しいところはない、真子の正体がばれた訳ではないので、大丈夫だと判断していた。そして、三人は駅の改札を通ってそれぞれの方角へ向かっていった。
少し遅れて、虎石が改札を通っていく。




真子の自宅。
真子はリビングのソファに座り、ぼぉぉぉぉっっとしていた。
そこへ、まさちんが入ってくる。

「…組長、そろそろ……??? 組長?」

まさちんが声を掛けても、上の空。目の前で手を振ろうが、拳を振り上げようが、踊ろうが……何をしても、真子は、ぼぉっとしている。

「組長、まさか…熱が?!」

そう言ったと同時に、真子が、

「無い…」

どうやら、まさちんに気付いていたらしい。

「どうされたんですか? ぼぉっとして…」
「……大学……」
「そろそろ考えないと駄目な時期らしいですね。本当に高校生は
 大変だと………。…ん?」
「進学……するべきなのかな…」
「ほへ?!」
「……どうしようかなぁ…」

真子の呟きに、まさちんは、首を傾げる。

「進学か就職か…。…どっちにしろ、組長は組長のままだけど、
 …どうしたものか…。進学すべき…なのかな…」
「えっ? 進学ではないのですか? 私はてっきり、勉学に励むものだと…」

まさちんは驚く。

「組長が、学校に行きたいのは、みんなと楽しく遊んだり、
 学んだりするだけでなく、勉強好きの性格から、大学まで行くと
 思っていましたけど…。…まさか、考えておられないとは……」
「う〜ん。全く考えてなかった」

真子が軽くため息を付いた。

「何か、目標をもっていれば、すぐに決めることできたと
 思うんだけど、目標持ってなかったからなぁ」
「…目標なら、ありますよ!」
「何々?」

真子は、期待に満ちた目でまさちんを見つめた。

「日本一のやくざのドン」
「はぁ?? ……あのねぇ、そうじゃなくて……」
「やはり、どちらかに決めた方がよろしいかと。学生か、やくざか……」
「ま、まさちん…」

まさちんの真剣な眼差しに驚く真子は、言葉を失っていた。そんな真子を見たまさちんは、優しく微笑んだ。

「組長、学びたいと言ってますよ! 心の中はそうでしょう?」
「……まさちん……」
「う〜ん、そうですねぇ〜。組長は、何を学びたいんですか?
 それによって、進む道が決まるのではありませんか??」
「そうだよねぇ〜。う〜ん…なんだろう……」



真子が、学校の図書室へやって来た。そして、ぎっしりと並んでいる本を眺めていた。
どれから読めばいいのか、悩む真子。

「しゃぁない。端から行こうか」

本を読めば、何か学びたくなるのでは? そう考えた真子は、端っこの本を手に取り、読み始めた。



「…分厚い本も、ものの十分で読み終えるんですから…」
「速読術を身につけていますからねぇ」
「速読術を? …ちゃんと頭に入っているのでしょうか?」
「もちろんですよ。今度、本の感想を聞いてみては如何ですか?」
「そうですね。訊いてみましょう」

図書室長が、真子の行動を気にして、担任のぺんこうへ相談にやって来ていた時の会話。あまりにも、突然の行動に、ぺんこうも驚いていたのだが…。

家に帰っても、本を読みまくる真子。すっかり、組の仕事を忘れているようだった。

「組長、あさってですからね。忘れてませんよね?」
「う、うん……」

自宅の部屋で本を読む真子に、声を掛けるまさちん。真子は、まさちんの話を聞いているのかいないのか、よくわからない曖昧な返事をしていた。

「それで、何か、興味に惹かれるものありましたか?」
「う〜ん」
「…駄目だ……。失礼しました。それでは、お休みなさいませ」
「うん…」

まさちんは、そっと真子の部屋を出ていった。そして、自分の部屋の机に向かった。引き出しから取り出すのは、『阿山組日誌』。何かを書き込んでいた。


「終わった。……わからん…」

図書室の本を全部読み終わってしまった真子。本棚の前で腕を組んで、悩み始めた。

「何か、興味を持ちましたか?」
「あっ、室長さん。ありがとうございました。…う〜ん、なんだか、
 わからなくなってしまいました」
「そうですか。これだけあれば、悩みも更に増えてしまうでしょう」
「そうですね」
「真北さんの得意科目は、何ですか?」
「どれも平等にがんばってますから。あっ、でも、数学は嫌いです」
「なら、数学関係のものは、除外ですね。山本先生から聞いたんですが、
 体を動かすことが好きだとか。反射神経も抜群だとか」
「えぇ。格闘技は、得意ですね…」
「海外に興味は?」
「あまり、沸かなかったですね。でも、外国語は好きです」
「実験は?」
「好きですね。いろいろな変化があって、規則もあって」
「う〜ん。なんだか、相談にのれないかなぁ」
「…ただの欲張りですかね、私は。あっ、その本は?」

真子は、室長が手にしていた本に気が付いた。

「あぁ。修理から帰ってきた本ですよ。読んでみます?」
「どんな内容ですか?」
「不思議な光の話ですよ。傷を治したり、凶暴になったりする
 不思議な光を持つ人間のお話です。実話だということですが、
 私は、信じられませんね。そんなことが実際にあるのなら、
 医者はこの世にいらないでしょ?」
「傷を治す光?」

真子は、かなり興味を持った。そして、室長からその本を借り、家に帰って、じっくりと読み始める。

「青い光と、赤い光…か……」

真子は、ベッドに大の字に寝ころんだ。そして、いつの間にか眠ってしまった。



「組長、組長??」
「ん? ふにゃ?」
「そろそろ起きてください。出発する時間が迫ってますよ」
「出発? どこに?」
「…ったく、やっぱり、記憶になかったんですね…。本部ですよ。先代の法要!」
「あぁぁぁっ!! は、はい!! ごめんなさい!!」

真子は勢いよく飛び起きた。そして、出掛ける準備をして、階下に降りていった。


富士山は、思いっきり綺麗にはっきりと見えていた。
頭を雲のてっぺんからちょこっと出し、裾野も広がり……。
真子は、うっとりと眺めていた。




「転入生を紹介する。崎美香さんだ」
「崎と申します。宜しくお願いいたします」

深々と頭を下げて上品に挨拶をしたのは、真子のクラス二年F組に転入してきた少女。
見た目は、『くノ一』かと思うほど、ポニーテールがよく似合い、すらっと背の高い美形の顔立ちをしていた。
クラスの男の子達が、一瞬、つばを飲み込むほどの顔立ち。
にっこりと笑う崎は、誰かを探すような雰囲気で教室を見渡していた。




阿山組組本部。
真子は、本部のくつろぎの場所で、のんびりとしていた。
急に起きあがった真子は、なぜか、周りを気にしながら、こっそりと本部を出ていった。

真子、一人で何処へ行く!!!



真子が、本部の門の所まで忍び足で歩いてきた。

「誰も居ませんねっと」

真子が、門を出ようとした時だった。

「組長、どちらへ?」
「ひぃぃっ!」

真子は、驚いて、振り返った。
そこには、門番の若い衆が二人居た。門番は、常に居るのだが、姿を隠している。
その方が、敵の目を欺きやすいということで…。
誰も居ないと思った真子は、まんまとはまってしまったのだった。

「…まさかと思いますが…、お一人でどこかへ?」
「う…う〜ん……」

真子は、何も言えなかった。

「組長!!!!!!」

まさちんが、叫びながら駆けてくる。

「…姿が見えないと思ったら…こちらでしたか」
「組長! やはり、こっそりとお一人でお出かけするおつもりでしたか…」
「一人で?? どちらへ??」

まさちんは、威嚇する。
真子は、恐縮そうな顔をして、上目遣いでまさちんを見上げていた。

「その…。純一のとこ……」
「はふぅ〜〜……。……組長」
「は、はい…。…うぎゃぁん!!」

まさちんは、真子の襟首を掴んで、駐車場に向かっていった。この二人の行動を観ていた門番は、目をぱちくりとして驚いていた。

「…まさちんさん、組長の襟首を掴んでた…」
「…組長にあんなことするなんて…まさちんさんって…」

そう言ってる間に、まさちんの運転する車が、門に近づき、門番の前で停まった。

「っつーことで、喫茶・森に行ってから、ドライブしてくるよ。
 山中さんに伝えておいてくれ」
「かしこまりました」
「いってきまぁす!!!」

真子は、門番ににこやかな顔で手を振っていた。

「いってらっしゃいませ!」

門番は、深々と頭を下げて、真子達を見送った。そして、一人が奥へと走っていった。



「…まさちんが一緒なら、大丈夫だ。ご苦労さん」
「失礼しました」

門番が、山中に報告し、去っていった。

「…ったく、いつになったら、ゆっくりとしていただけるのか。
 組長は、本当に、ここが嫌いなんだな…」

山中は、ため息を付いた。



「組長、お一人での行動は、謹んで下さいと…」
「だって、まさちん居なかったもん」
「すみません…」
「それに、本部に居るときくらい、まさちん、好きな時間を作って欲しくってね」
「好きな時間は、充分ありますから」
「でも、ゆっくりしてないでしょ?」
「大丈夫ですよ。組長が真北ちさとの時間の時に、ちゃんと時間作っておりますよ」
「組の仕事は?」
「ご心配なく」
「そうなんだ。なら、安心した」

真子は、微笑んでいた。まさちんも真子の微笑みに応えるように微笑んでいた。

「しかし、わざわざ純一に会いに行くために、喫茶・森に向かわなくても、
 仕事から戻った純一に会えば…」
「仕事で疲れてるのに、悪いやん。それに、もう一つ!
 マスターに会いに行くの! いろいろ話を聞いて欲しいんだもん」
「そうでしたか。気が付きませんでした」

車は、喫茶店前の道路沿いにあるパーキングに停まった。
車から降りた真子とまさちんは、喫茶・森へ入っていく。


客足の途切れる時間帯だったので、真子はマスターと楽しく話し込んでいた。
マスターも、真子と話すのが楽しいのか、色々と愉快な話を真子にしていた。
まさちんは、店の隅の方に座って二人の様子を伺っている。

「まさちんさん、突然来られたので、驚きましたよ」

純一が、休憩がてら、まさちんの側に寄ってきた。

「門番が気が付かなかったら、組長、一人で来ていたよ」
「またぁ。組長はどうして…」
「マスターと話がしたかったそうだ」

まさちんは、アップルジュースを飲んでいた。

「…まさちんさん」
「ん?」
「それ、…好きなんですか?」
「ん? あぁ、これ? 昔はよく飲んでいたよ。この世界に入ってからは、
 全く口にしなかったけどな。最近、無性に飲みたくなったんだよ」
「そうですよね。以前は、珈琲だったような…」
「…俺のことはどうでもいいだろ! それより、どうなんだよ。その後は」
「えっ? …相変わらずってとこです」

静かに応える純一。

「明日は?」
「休暇いただいてます」
「そっか。……組長、そろそろ時間ですよ」
「ははは! …はぁい。まさちん。マスターありがとうございました。
 また、色々と話を聞かせて下さいね」

真子は笑顔で言った。

「いつでも来てね、真子ちゃん」
「うん。じゃぁ、またね!」
「気を付けて」
「純一、川原さん、がんばってよ!」
「任せて下さい!」
「ばっちりです!」

純一と川原は、力強く言い切った。その言葉を聞いて、真子は安心したのか、笑顔で店を出ていった。
店の中から、真子とまさちんの楽しそうにふざけ合う姿を見ていたマスターが、

「仲がいいなぁ、あの二人は」

呟くように言った。

「そうですね。うらやましいくらいですよ」

純一が応える。

「…やっぱり、純一は、真子ちゃんが好きなんだな」
「ま、ま、マスター!!!」
「そう慌てなくてもいいだろう。純一が真子ちゃんの事を話す雰囲気で解るよ。
 な、川原くん」
「えぇ。すごくね」
「…川原ぁ〜、お前ぇ〜!!!」
「そう照れるなよ!!」
「うるさぁぁい!!!!」

純一は、照れたように叫んでいた。そこへお客がやって来た。

「いらっしゃいませ!」
「純一さぁん、どうしたのよぉ、叫んでぇ」

その客は、常連さんだった。もちろん、女性。純一目当てのお客の一人だった。

「何もないですよぉ。いつもので?」
「お願いします!」

純一の顔つきが、変わった。
営業用スマイル。
マスターは、そんな純一を観て、優しく微笑んだ。
純一のことを真子から詳しく聞いていただけに、気になっていた。

「この世界に向いていないんだ。…優しすぎるんだよ、純一は。
 だから、その優しさを、活かせると思う。マスター、純一のこと、
 宜しくお願いします」

そういう真子ちゃんもその世界に向いてないよ。

マスターは、そう言いたかったが、なぜか、口には出来なかった。



喫茶・森を後にした真子とまさちんが向かった先は……遊園地だった。
なぜか遊園地を指名した真子。しかし、入園したものの乗り物には乗らずに、ただ、ブラブラと歩き回っているだけだった。ベンチに腰を掛け、いろいろな人達の顔を見ていた。
まさちんが、オレンジジュースを手に持って戻ってくる。

「お待たせしました」
「ありがとう」

真子は、静かに飲んでいた。あちこちに移る真子の目線が気になったまさちんは、

「何を観てるんですか?」

そっと尋ねた。

「人」
「人、ですか?」
「うん。いろいろな表情があるなぁって。怖がりながらも乗ってみたり、
 きゃぁきゃぁ叫んだり…。そして、降りた後の顔は、すごく、すっきりしていて
 …楽しそうで。子供も大人も、みんな、みんな、楽しそうだなぁって。
 そして、そんな人達をしっかりと見守っている人……」

真子の眼差しは、優しくなっていた。

「…その見守ってくれる人がいるから、みんな、楽しく過ごせるんだなぁって
 …そう思ってた」
「そうですね。その人の素敵な笑顔を観ることができるなら、
 その人をしっかりと見守ってやらなければ…そう思いますよ」

まさちんは、真子を見つめ、力強く言う。
真子は、俯き加減だったため、まさちんの目線に気が付いていなかった。

「そうだよね…。この雰囲気を壊したら、いけないよな…」

真子は、オレンジジュースを飲み干し、側にあったゴミ箱へ空のコップを入れた。

「ねぇ、まさちん」

まさちんに背を向けたまま、真子が呼ぶ。

「はい」
「私、もっともっと、みんなのこと知りたいな」
「みんな…とは?」
「みんなだよぉ」

そう言って振り返る真子。

「はぁ? みんな…ですか?」
「そう! みんなは、一体、何をしたいのか、それを知らないといけないよね」
「何をしたいか…?」

まさちんは真子の言っている意味を理解できなかった。

「大切なものは、失いたくないから。もっともっとしっかりしないとね」
「組長……」
「あぁ、ほら言った!! ここでは、言うなって」
「あっ、すみません」
「ふっふっふふ」

真子は、微笑んでいた。

「な、なんですか!!」
「なぁんにもないよぉ!!」

そう言って真子は、歩き出す。まさちんは、黙って真子の後を付いていった。
真子は、手を後ろに回して、足取り軽く歩いていく。そんな真子の姿をただ、見つめているまさちんだった。

「帰ろっか!」
「はい」

真子の笑顔は輝いていた。




本部内が、慌ただしくなってきた。

「おられたか?」
「おられません!!」
「表は?」

誰かを捜している様子の組員達は、顔を見合わせ、表へ向かって走っていった。



真子は、近所の公園に来ていた。
ベンチに腰を掛け、公園で戯れる子供達を見つめていた。そして、ゆっくりと立ち上がり、公園を出ていった。

「あれ? 真子ちゃん?」
「こんにちは」
「…どうしたの、こんなところで…。一人?」
「えぇ、まぁ」

真子に声を掛けたのは、真子が五代目を襲名した頃、やくざ反対派の住民の代表をしていた富田だった。なのに、今は、優しく声を掛けてくる程。

「…怒られないのかな? 一人で出歩いて!!」
「たまには、いいんじゃないですかね?」
「たまに、ならね」
「ふふふ」

真子と富田は笑い合っていた。

「気をつけるんだよ」
「ありがとうございます」

真子は、お辞儀をして、富田と別れた。富田は、真子の後ろ姿をいつまでも観ていた。

「母親に似てくるんだなぁ」

そう呟く富田だった。



純一が、血相を変えて本部の門まで走ってきた。門番に声を掛ける純一。

「知らないだとぉ!!!」
「昨日の事もありますので、しっかりと見張ってましたよ!」
「なら、どうして、姿が見えないんだよ!!!…!!!」

純一は、表に居る近所のおばさんの姿を見て、近づいた。

「おばさん、組長を見かけませんでしたか?」
「純一ちゃん。どうしたの」
「組長の姿が、どこにも…」
「真子ちゃんなら、三十分前に公園の方へ向かって歩いて行ったよ。
 一人だったけどね」
「そうですか。ありがとうございます」
「純一ちゃん、そう慌てなくても、大丈夫よ。ほら」

このおばさんも、反対運動をしていた住民の一人だったが、いつの間にか、真子だけでなく、組員とも仲良く話すようになっていた。そのおばさんが指をさした方向から、真子が一人でのんびりと歩いて来ていた。純一は慌てて駆け寄る。

「組長!! お一人では出掛けないようにと…」
「へへへへ!」

真子は笑って誤魔化していた。

「すみません、おばさん」

純一は、おばさんに頭を下げていた。

「また、黙って出掛けたのね、真子ちゃん」
「へへへ!」
「へへへ…ではありませんよ!! 山中さん、かんかんに怒ってますよ!
 まさちんさんもすごく心配してるんですからぁ!!!」
「わかったって、もぉ!!」

真子は、純一に怒られながら、本部へ入っていく。その様子をおばさんは暖かく見守っていた。
そんな和やかな雰囲気とは裏腹に…再び、門番は……。

「…組長に怒鳴りつけるなんて、純一さんって……」
「……こわい…」

山中より先に、真子には、まさちんの雷が落っこった……。

「ごみんなさいぃ〜〜っ!!!」



(2005.10.26 第二部 第十四話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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