第十七話 優しさは、空の青。 河川敷の土手に座り込んでいる真子とまさちん。真子の顔に真子は顔に陽の光が当たっていた。二人は、何も言わずに、ただ、座っているだけだった。 河川敷では、いろいろな人が行き交っている。 ぺんこうは、自宅で、落ち着きなく、うろうろとしていた。ソファに座ったと思ったら、立ち上がり、部屋の中をうろうろとして、再びソファに座る。この繰り返しをしていた。 真北から、真子の無事を知らされたものの、どの面下げて真子に逢えばいいのか、悩んでいたのだった。 チャイムが鳴った。 ぺんこうは、急いで玄関まで駆けていった。ドアを開けると、そこには、徳田、中山、安東、そして、野崎が立っていた。 「先生ぃ〜」 「お、おおう。何や?」 「何やって…冷たいなぁ。真北の事聞きにきたんやんかぁ。 無事に見つかってんやろ?」 「あ、あぁ。入れ入れ」 「お邪魔しますぅ」 ぺんこうは、徳田たちに、飲み物を出し、そして、座った。部屋の中を探検していた安東と野崎が、何かを手にして、やって来た。 「先生、これは?」 「……うわぁ〜っ!! こらぁ、触るなっ!!」 「何なん?? …うそ…これ、真北??」 野崎が手にしていたのは、写真立てだった。真子とぺんこうが写っていた。 「なんか、先生若いぃ〜。…でも、怖いなぁ」 「そりゃぁ、まぁ、それを撮った場所は、阿山組の本部だからなぁ。 俺が教員免許を取った記念に写したやつだよ」 「…なんで、飾ってるん?」 安東が、尋ねた。ぺんこうは、少し照れたような顔をして応える。 「それを見れば、自分が教師だということを思い出すんだ」 「へぇ〜。やっぱし、教師を忘れることあるんや」 徳田がからかうように言った。 「時々な。組長を見てると、忘れてしまうなぁ」 「そうやろなぁ。時々、組長って呼んでたし、真北も確か…、 ぺんこうって先生のことを呼んでたよなぁ」 「…知ってたのか?」 「気になってた」 「…そうか…。…気を付けていたんだけどなぁ」 「なぞは、解けたけど…、なんでぺんこう?」 「いつも鉛筆持ってたから」 「そっか。真北の家庭教師してたんやっけ」 「ああ」 ぺんこうは、珈琲を口にした。 「……だから、先生、真北は?」 中山が、思い出したように言った。 「あぁ、そうだったそうだった。組長は、無事に帰ってきた。みんな、心配かけたな。 …ありがとな。そして、今、病院にいるよ。…疲れから、目が見えないようだけどな…」 「…真北に逢ったんですか?」 「……まだだ…。…どんな顔で逢えばいいのか…。わからないんだよ…」 「先生……」 からすが鳴いた。陽の光が、赤くなってきた。まさちんが、真子に声を掛けた。 「そろそろ戻りましょう」 「もう少し。……ねぇ、まさちん」 「なんでしょうか」 「あのね、私がさぁ、組長じゃなかったら、まさちんや、 真北さんは、こうして、私のこと、心配してくれた?」 「組長、私も、真北さんも、そして、ぺんこうやくまはち、むかいんは、 組長が組長になる前からお側にいるんですよ。だから、組長じゃなくても、 組長のことが、とても、大切です」 まさちんは、すぐに答えた。 「……ありがと、まさちん」 真子は微笑んでいた。 「……もしね、私がやくざの家に生まれていなかったら、 どんな人生を送っていたと思う?」 「う〜ん、普通の暮らし、平凡な家庭で温和に育って、 心優しい女の子になっていますよ」 「……じゃぁさぁ、もし、そうだったら……こうして、まさちんとも逢えたかなぁ」 「う〜ん、逢えたかもしれませんし、そうでないかもしれませんね」 真子は、俯き加減で続ける。 「私……このままでいいのかなぁ」 「組長……。陽が落ちました。帰りましょう」 夕日は、すっかり落ちていた。 「うん」 真子は、そう言って立ち上がった。まさちんは、真子の服に付いた土をはたく。そして、真子を支えながら車に向かって歩き出す。まさちんは、真子の目になり、優しく車に乗せた。運転席に付いたまさちんは、そっと呟いた。 「組長」 「なに?」 「組長は、今のままが一番いいんですよ。私は、 そんな組長をお守りするのが生き甲斐ですから」 「まさちん、ありがとう。…帰ろっか」 真子は、まさちんに笑顔で応えた。二人の乗った車は、河川敷を走っていった。 「早よぉ、先生!!」 次の日、ぺんこうのマンションの玄関先に、ぺんこうを呼んでいる徳田達が、居た。 しびれを切らしたのか、徳田が、ドアを開け、中へ入っていった。 「だ、だからぁ……」 「一歩踏み出さな、先に進まへんっていっつも言ってるのは、 先生やろぉ。行くでぇ〜」 「…わ、わかったよ。行けばええんやろ!」 昨日、真子の無事を知った徳田達は、早速、真子の見舞いに行こうということになった。しかし、ぺんこうは、何故か躊躇していた。学校内でのボディーガードが出来なかった事に対して、かなり落ち込んでいたぺんこう。そんなぺんこうを強引に連れていく徳田。そんな徳田自身も阿山真子に対して、かなり失礼な事をしてしまった。それを気にしていたのだった。徳田達に囲まれたまま、橋総合病院に向かうぺんこう。足取りは、少し、重かった。 「組長、業務連絡してきますから」 「うん。早く帰って来てね」 「もちろんです!行って来ます」 「行ってらっしゃいぃ〜」 庭の散歩から帰ってきた真子は、まさちんの方を見て微笑んでいた。ドアが閉まるのを確認してから、真子は、窓に近寄った。手探りで窓を開ける。 やわらかな風が顔に当たっていた。真子は、うっすらと光を見ることができるまで、回復していた。体力もかなり回復し、視力も戻ると言われて嬉しいはずの真子だが、まだ気になることがあった。 ため息を付く真子。 「どうしようかなぁ」 橋総合病院の外。 まさちんは、携帯電話で業務連絡をしていた。 業務連絡というのは、組の仕事のこと、そして、真子の病状。仕事で忙しい真北に連絡をする。 「ったく……」 電源を切り、懐に電話を入れた時、病院の玄関に向かって歩いてくる団体に気が付いた。 なんだ??? その団体は、病院に向かったり、引き返したり、向かったり、引き返したり……と何度も何度も繰り返していた。不思議に思い、その団体に目を凝らすと、見知った顔ばかりがあった。その団体こそ、ぺんこう、そして、徳田達。引き返すのは、病院を前にした途端、 「やっぱし、駄目だ…!」 そう言って帰ろうと踵を返すぺんこう。 向かってくるのは、 「ここまで来たんやから!」 と踵を返したぺんこうを徳田達が引き戻している。何度も繰り返す中、 「あっ、真北のお兄さんや」 安東が、まさちんの姿にいち早く気が付き、思いっきり手を振って駆けてきた。 「…安東さん???」 「お兄さん! お久しぶりです!」 「お元気そうで。今日は…?」 「真北さんのお見舞い!」 「えっ?」 安東に続いて、徳田がぺんこうを引っ張って、まさちんに近づいて来る。 ぺんこうは、気まずそうに目を反らしていた。 「真北は、元気にしてるんですか?」 「えっ?…一体、どういうこと? このことは、知らないはず…」 「先生に聞いたで。…その…真北が、阿山真子やってことも」 「…ぺんこう…貴様ぁ〜」 まさちんの雰囲気が、徳田の言葉でがらりと変わった。そして、ぺんこうの胸ぐらを掴み上げ、 「…なんで、話したんだよ…!」 怒りを押さえ込んだように言った。 「うわぁ!!! あかんって!! お兄さん、先生を責めたら、あかんって!!!」 徳田達が、今にも殴りかかりそうなまさちんの腕を掴んで、叫ぶ。 「かっこええ!!!!」 その場の雰囲気を壊すような安東の感動した叫び声。徳田達は、その声にずっこけていた。 「…あのなぁ、安東、そんなことは、あとでええねんって。 お兄さん。実は、俺達、先生を問いつめてん。薄々感づいていたんや。 真北の正体に。そんで、登校日の朝、学校に向かう先生の様子が、 終業式の時に観た雰囲気と…いつもの先生の雰囲気と違ってたんや。 それで、気になって先生に聞いたんや。…終業式での事件、知ってたから」 徳田が静かに話す。 「ごめんなさい、まさちんさん」 「野崎さん…」 「先生が、あまりにも可哀想やったから、本当の事話した方がええって、 うちが言ってん」 「…組長の、気持ちを考えてか?」 まさちんは、ぺんこうを睨みつける。ぺんこうは、まさちんから目を反らしていたが、いきなり、まさちんの胸ぐらを掴み上げた。 「ぺ、ぺんこう…!」 その勢いに、思わず驚く。 「組長の正体を知っても、こうして、徳田達は、組長の事を すごく、心配しているんだよ。…徳田達の知っているのは、 真北ちさとだけで、阿山真子は知らないんだ…そう言って、 …反対に、俺を励ましてくれたんだよ」 まさちんは、ぺんこうの腕を払い、反対に胸ぐらを掴み上げた。 「組長に、どう説明したらいいんだよ!」 ぺんこうは、まさちんの腕を払い、再び胸ぐらを掴み上げた。 「…真北ちさとの見舞いに来てるんだよ!」 「ま、真北ちさとの…見舞いに?!」 まさちんは、ぺんこうの……(以下繰り返し)。 「ほんまやな、野崎の言うとおりや」 「な、先生とまさちんさんって、楽しいコンビやろ。 真北さんから、いろいろと聞いてたんや」 「…組長から??」 お互いの胸ぐらを掴み上げるまさちんとぺんこうは、同時に叫び、野崎を観た。野崎は、頷き、呟くように、 「お笑いコンビって…」 そう言った。 「野崎……、コンビって、こいつとか?」 「はい」 「くぅぅぅぅ〜〜!!!!」 胸ぐらを掴み上げる手をぷるぷる震えさせて、勢いよく放すまさちんとぺんこう。そんな二人を観ていた徳田達は、大笑いしていた。 「お兄さん。案内してください」 「……本当に、組長のことを…」 「真北ちさとが阿山真子だと言われても、俺達が知っとるのは 真北だけやもん。笑顔の素敵な真北だけやから」 「……ありがとう」 まさちんは、すごく優しい眼差しで、徳田達をそれぞれ見つめていた。そして、安東を観た……。 「…す、素敵やわぁ〜。益々惚れ惚れするやぁん!!」 安東の目は、爛々と輝いていた。 「やめとけやめとけ、安東。こいつは、そんなにいい奴と違うからな」 「…うるさいっ!」 ぺんこうの言葉に対して、まさちんが言った。 まさちんの案内で、真子の病室に向かっていった。病室が近づくにつれ、ぺんこうの顔が強ばり始める。まさちんとふざけ合っていても、やはり、真子に逢うことを躊躇っていた。 そんなぺんこうの心情を悟っているまさちんは、ぺんこうの隣を歩きながら、 「大丈夫だって。いつものぺんこうで居たらいいんだよ。 いつも通りでさぁ」 そっと言った。 「…そのいつも通りを忘れてしまうほどなんだよ……」 「組長に逢えば、いつも通りを取り戻すよ」 「…だと、いいがな……」 真子の病室の前に着いた。 緊張するぺんこう。そして、少しソワソワしている徳田達。 まさちんの手がドアをノックした。 「お疲れさまでしたぁ」 「あぁ。ほんと、疲れたよぉ。…原ぁ、お茶ぁ〜」 「はい、どうぞ。…ほんと、お疲れのご様子ですね」 「ったりまえだろぉ」 真北は、原が差し出したお茶を飲んだ。真北は、寝屋里高校での事件の整理に追われ、そして、やっと今、終わったところだった。 「まさちんさんからの連絡は?」 「あったよ」 湯飲みを置く真北は、大きく息を吐いた。 「いつもと変わらず。まさちんから離れようとしないってさ」 「目の方は?」 「少しだけ回復」 「そうですか…」 原の質問に、真北は短く応えるだけ。 その様子で、原には解る。 どれだけ、真子のために休む暇なく動き回っていたのかが…。 そして、どれだけ、真子に逢いたいのか…。 真北達は、刑務所から脱走した五人のうち、逃げていた二人を追っていた。一人は黒田。黒田は、真子に殴られ続け、内臓破裂で重体。その時、真子に蹴られた崎は、脳挫傷でほとんど寝たきり状態になっている。そして、残りの一人を捕まえるのに、休まず、動き回っていた。 一件落着といきたいところだが、問題は残っていた。 「ところで、真北さん」 「あん?」 「今回の事件、学校中に知れ渡ったのではありませんか?」 「あぁ。校長先生の話だと、生徒達はほとんど帰って少なかったから、 知っているのは、ほんの一部だろうって。だけど、その前の真北ちさとを 阿山真子として襲った事件のこともあるから、また、同じ事をされたのだろうって 言ってるから、大丈夫だとね」 「…だけど、いつまでも、誤魔化せますか?」 「わからん」 「いっそ、本当の事を言った方が、よろしいんでは? せめて、同じクラスの子達には…」 「それは…組長に聞いてからだよ…」 「はぁ」 真北が、立ち上がり、ポケットに手を突っ込んで口を尖らせた。 「真子ちゃんによろしく言っててくださいね」 「ん? あ、あぁ。じゃ!」 真北は、そう言って、出ていった。 「じゃ!って、…真北さん、どうするつもりなんだろう」 真北は、橋総合病院に向かって車を走らせていた。 病室のドアをノックする音が聞こえた。真子は、少し警戒した様子で振り返る。 「はい、だれ?」 「私です」 「まさちん。お帰り」 「ただいま帰りました」 まさちんは、そう言いながら、病室へ入ってきた。まさちんに続いてぺんこうも入ってきたことは、真子には見えていなかった。しかし、まさちん以外の人の気配を感じたのか、真子が尋ねた。 「…誰か来た?」 「だれでしょうか?」 「う〜ん、真北さんでは、ないし、橋先生でもなさそう。 う〜ん、う〜ん……誰だろう」 真子は、考え込む。そんな仕草をする真子を見て、ぺんこうは、堪えていたものが、こみ上げて来る。 「降参!」 と真子が言うやいなや、 「私です。組長」 と声を出した。 「えっ? ぺんこう?」 「はい」 ぺんこうは、真子にそっと近づき、そして、力強く抱きしめた。 「ぺ、ぺんこう…」 「申し訳ございませんでした。私の…私のせいで…、組長に…」 「ぺんこう。ぺんこうは悪くないよ。私が悪いの。 だから、そう、泣かないでよ、ぺんこう」 ぺんこうは、真子の肩に顔を埋めて泣いていた。そんなぺんこうの頭を優しく撫でる真子。 それは、いつもと逆の光景。 「私が、あやふやな気持ちでいたから、あんなことになったんだから。 …もう少しでぺんこうの命も…」 「…組長、能力を使ったのですか?」 まさちんは、そっと真子に尋ねる。 「…あの日の事、覚えてない…ただ、ぺんこうが危険な 目に遭ったことだけしか、覚えてないんだ…」 ぺんこうは、真子から離れ、涙を拭きながら言った。 「無事でよかったです。…視力も戻るとお聞きしましたよ」 「うん。光がわかるんだ。…もう…大丈夫だから!」 真子は、思いっきり背伸びをする。しかし、ため息をついて、寂しそうな顔をした。 「どうしました?」 「…気になることが…あるんだ…」 「学校のこと、ですか?」 真子は、まさちんの質問にそっと頷いた。 「…迷惑掛けないようにって、偽名まで使っていたのに、 結局、迷惑掛けちゃったね。やっぱり駄目だったね。 私が…五代目組長阿山真子が学校に行くこと、 無理だったんだなぁ。…それに、両方ともやっていく自信が …無くなっちゃったっ!」 真子は、寂しく微笑んだ。そんな真子を見たぺんこうは、ドアまでそっと歩き、廊下で待っていた徳田達を手招きして中へ呼ぶ。徳田の他に、中山、野村、安東、飯塚、そして、野崎が入ってきた。ドアの閉まる音に真子は、驚き、 「誰か、入ってきた? ドア、閉まってなかったの?」 尋ねた。 「おっす、真北さん」 「えっ? 野崎さん?」 「ちわーっす!」 徳田達もそれぞれ挨拶した。 「えっ?」 「元気そうやん。みんなと言っても、一部やけど、お見舞いに来たで。もー。 すごい心配したやんか!」 真子は、驚き、まさちんの腕を引っ張った。 「どういうこと? ねっ、まさちん」 「お見舞いですよ」 戸惑う真子に優しく応えるまさちん。 「しかし、驚いたなぁ。真北が阿山真子やったってこと」 「ほんまやで。先生を問いつめたらそう言ったし」 「先生の口から?」 真子は、焦っていた。 「事件は、みんな知ってるで。登校日やったな。うちらで先生を いじめたのは。そしたら、先生がゆっくりと話してくれたんやで」 野村が言った。 「話した…の?」 「はい。私の事も話しました」 「ひどいよ…ぺんこう」 真子の肩の力が落ちるのがわかった。 今まで隠していた事が、公になっている。それも、ぺんこうの口から。 唇を噛みしめる真子を優しく見つめるまさちん、ぺんこう、そして、クラスメイト達だった。その目線に気づくこともできない真子は、これから先の事を考えていた。 学校に行かない…。 橋総合病院に到着した真北は、車から降りそして、病棟を見つめた。 真子ちゃん…。 見つめる先には、真子の病室がある。ふぅぅっと長いため息を付いた後、建物に向かって歩き出した。もちろん、向かう先は、橋の事務室。 「…浮かない顔やなぁ」 真北が事務室に入った途端の橋の第一声。 「当たり前やろ」 「犯人は捕まったんやろ」 「…組長の目は、いつ治る?」 「ゆっくり体を休めて、悩み事が無くなれば…かな」 「…そうだよな…」 「学校の事か?」 「あぁ。どうしたらいいかなぁ」 真北は、口を尖らせる。 その様子を見た橋は、真北の気持ちを痛いほど理解していた。 「恐らく、正体がばれた可能性があるだろ…。 今回ばかりは、二人居る! なんて、できないだろうなぁ。 …やっぱし、ちゃんと話した方がいいのかなあ」 「知った人には、正直に言うってのは、どうだろ」 「…そうだなぁ。…組長と相談…かな」 「真子ちゃんなら、病室に戻ってるで。この時間だからな」 「あぁ」 「真北!」 事務室を出ようとした真北を呼び止める橋。 「お前がしっかりせなあかんやろ」 真北は、苦笑いをして、事務室を出ていった。 「何を落ち込んでいるんですか、組長。なぜ、みんなが、 こうしてお見舞いに来てくださったんですか? 事実を知った みんながこうして来たということは、がっかりするようなことですか?」 「そうやで。みんなも始めは驚いとったけど、 なんやぁ、そうなんや、って感じやったで」 野崎が言った。 「組長なんやもん。命狙われて当たり前やん」 安東が言った。 「でもな、俺らが知っとるんは、真北ちさとやで。阿山真子ちゃうもんな」 中山が明るく言った。 「遠慮せんと、学校に来いや」 飯塚が言った。しかし、真子は、みんなの言葉を理解できず、浮かない顔をしていた。 「なんや、しんきくさい顔やなぁ。みんなの表情が見えへんから、 心配なんやろ?」 「違う。…ありがとう…だけど、なんか、みんなを 騙していたみたいで、すごく悪いなぁと思って…」 「そんなことあらへんで。その方が安全やん」 安東の言葉で、真子は、遂に涙を流してしまった。 「ありがとう。みんな、ありがとう・・・」 泣きじゃくる真子をみて、もらい泣きをする安東と飯塚。まさちんとぺんこうは、そんな真子を見て、安心したのか、お互い、顔を見合わせて微笑んでいた。 「あぁ、俺、阿山真子に謝らな」 そう言ったのは徳田だった。 「なんで?」 野崎が言った。 「ほら、先生撃たれて入院したとき、俺、阿山真子に ひどいこと言った。ごめんな」 「あの時、傷を思いっきり握られた。痛かったよ」 「ほんまに、ごめんな。真北も撃たれてたのに」 「でも、当然の事だから。逆の立場だったら、 私も徳田くんと同じ事してるよ」 「…って、真北の親父さん、刑事やったよな」 中山が唐突に言う。 「うん…刑事だよ」 「…やくざと刑事…やっぱし、裏で繋がってるんやぁ〜!!」 「あ、あの、その…そんなことは、ないよ!!その…、 これは、極秘だから、言えないんだけど…。その…あのね…」 真子は、真北の事をどう説明していいのか混乱していた。 「組長の育ての親ですよ」 「育ての親ぁ?!」 「真北さんは、組長が生まれる前から、組長の父と懇意にして いたんですよ。ま、そこまでの経緯は、わからないんですけど、 お二人は、やくざ、刑事を忘れて、普通の友人として、過ごしていたんです。 そして、組長が生まれた。しかし、いろいろと忙しい組長の父に代わって、 組長を育てて来たんです。そして、今があるんですよ」 ぺんこうが、淡々と話す。 「へぇ〜。でも、なんかすごいなぁ。ドラマやん」 安東が、変に感心していた。 「だけどね、真北さんは、刑事だということを隠してたんだよ。 だって、ほら、一応私達は、刑事と敵対関係やん」 「うんうん」 「それで、私に嫌われるんじゃないかなぁって思ってたんだって」 「へぇ〜」 真子の病室に向かって廊下を歩いていた真北が、真子の病室の賑やかさに驚いて、ドアもノックせずに病室へ入ってきた。病室に入った真北は、目の前の光景にめをパチクリ……。真子のクラスメイトが真子と楽しく話し込んでいる。その中にぺんこうも含まれている事に、真北は更に驚いてしまった。 「噂をすればってやつですね」 真子が明るく言った。 「これは?」 真北が尋ねると、 「組長が、真北さんのことをみんなに言ってました」 まさちんが、明るく応えた。 「組長?」 真北はまさちんの言葉に対して、怪訝な顔をした。 「俺達、秘密を知ってますよ。先生を問いつめた」 徳田が言うと、 「ごめんなさい。だって、先生、かわいそうやったから、 うちが、言った方がええって、言ったんです」 野崎が真北に訴えた。 「ったく、保護者の俺をさしおいて、こんなことになってるとは思わなかったよ。 しかし、安心した。俺も、考えていたことだから。組長、よかったですね」 真北は、真子に優しく言った。 「真北さん…」 真子は、真北の思いも寄らない言葉に喜ぶ。 「それと、組長、安心して下さい。あいつら、 もう組長の命を狙えませんから」 真北が力強く言った。その言葉にまさちんもぺんこうも安心する。 これで、組長は、無事に学校へ行ける。 そして、徳田達は、帰っていった。病院の玄関先で、真子は、嬉しそうに手を振って見送っていた。 「組長、よかったですね」 まさちんが言った。 「うん」 「早く、退院するように頑張って下さいね。夏休みは、あと一週間しかありませんよ」 「そういう、ぺんこうこそ、大丈夫なの?」 「何が、でしょう」 「ちゃぁんと教師できるの???」 真子は少し厳しい顔をしていた。 それは、親が子を叱るような雰囲気だが、 「できますよ。組長が守って下さった教師です。 これからも、しっかりと続けていきますから」 真子に負けず劣らず、力強く応えるぺんこう。 「ふふふ。安心した。う〜ん。あとは、目が治るように頑張るのみかぁ。 よっしゃぁ〜っ!!」 真子は、思いっきり気合いを入れて、叫ぶ。 「それには、ゆっくりと体を休めることやで」 「…橋先生?」 「真子ちゃん、よかったな」 「ん? あぁ、真北さんから、聞いたんですね?」 「さっき、わしんとこ来て、泣いとったで」 「誰が、泣いたってぇ〜こらぁ!!」 真北が、口を塞ぐように後ろから橋の頭を抱え込んだ。 「痛て! なにすんねん!!」 「うるさぁい!」 「えっ?! 何、何が起こってるの?ねっ、ね!」 「じゃれ合ってますよ」 ぺんこうがそっと応える。 「昔に戻ったようですね…うぐっ!」 まさちんの言葉に、真北は、ギッと睨み付け、そして、まさちんの腹部に蹴りを入れた。 まさちんは、服の汚れを叩きながら、 「なんで、俺だけ蹴りなんですか」 呟くように言った。 真北と橋のふざけ合う姿は見えていなかったが、真子は、その場の雰囲気がとても楽しいのか、笑っていた。 真子に、笑顔が戻った瞬間だった。 (2005.11.14 第二部 第十七話 UP) Next story (第二部 第十八話) |