任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第二部 『笑顔を守る』

第十七話 優しさは、空の青。

河川敷の土手に座り込んでいる真子とまさちん。真子の顔に真子は顔に陽の光が当たっていた。二人は、何も言わずに、ただ、座っているだけだった。
河川敷では、いろいろな人が行き交っている。


ぺんこうは、自宅で、落ち着きなく、うろうろとしていた。ソファに座ったと思ったら、立ち上がり、部屋の中をうろうろとして、再びソファに座る。この繰り返しをしていた。
真北から、真子の無事を知らされたものの、どの面下げて真子に逢えばいいのか、悩んでいたのだった。
チャイムが鳴った。
ぺんこうは、急いで玄関まで駆けていった。ドアを開けると、そこには、徳田、中山、安東、そして、野崎が立っていた。

「先生ぃ〜」
「お、おおう。何や?」
「何やって…冷たいなぁ。真北の事聞きにきたんやんかぁ。
 無事に見つかってんやろ?」
「あ、あぁ。入れ入れ」
「お邪魔しますぅ」

ぺんこうは、徳田たちに、飲み物を出し、そして、座った。部屋の中を探検していた安東と野崎が、何かを手にして、やって来た。

「先生、これは?」
「……うわぁ〜っ!! こらぁ、触るなっ!!」
「何なん?? …うそ…これ、真北??」

野崎が手にしていたのは、写真立てだった。真子とぺんこうが写っていた。

「なんか、先生若いぃ〜。…でも、怖いなぁ」
「そりゃぁ、まぁ、それを撮った場所は、阿山組の本部だからなぁ。
 俺が教員免許を取った記念に写したやつだよ」
「…なんで、飾ってるん?」

安東が、尋ねた。ぺんこうは、少し照れたような顔をして応える。

「それを見れば、自分が教師だということを思い出すんだ」
「へぇ〜。やっぱし、教師を忘れることあるんや」

徳田がからかうように言った。

「時々な。組長を見てると、忘れてしまうなぁ」
「そうやろなぁ。時々、組長って呼んでたし、真北も確か…、
 ぺんこうって先生のことを呼んでたよなぁ」
「…知ってたのか?」
「気になってた」
「…そうか…。…気を付けていたんだけどなぁ」
「なぞは、解けたけど…、なんでぺんこう?」
「いつも鉛筆持ってたから」
「そっか。真北の家庭教師してたんやっけ」
「ああ」

ぺんこうは、珈琲を口にした。

「……だから、先生、真北は?」

中山が、思い出したように言った。

「あぁ、そうだったそうだった。組長は、無事に帰ってきた。みんな、心配かけたな。
 …ありがとな。そして、今、病院にいるよ。…疲れから、目が見えないようだけどな…」
「…真北に逢ったんですか?」
「……まだだ…。…どんな顔で逢えばいいのか…。わからないんだよ…」
「先生……」



からすが鳴いた。陽の光が、赤くなってきた。まさちんが、真子に声を掛けた。

「そろそろ戻りましょう」
「もう少し。……ねぇ、まさちん」
「なんでしょうか」
「あのね、私がさぁ、組長じゃなかったら、まさちんや、
 真北さんは、こうして、私のこと、心配してくれた?」
「組長、私も、真北さんも、そして、ぺんこうやくまはち、むかいんは、
 組長が組長になる前からお側にいるんですよ。だから、組長じゃなくても、
 組長のことが、とても、大切です」

まさちんは、すぐに答えた。

「……ありがと、まさちん」

真子は微笑んでいた。

「……もしね、私がやくざの家に生まれていなかったら、
 どんな人生を送っていたと思う?」
「う〜ん、普通の暮らし、平凡な家庭で温和に育って、
 心優しい女の子になっていますよ」
「……じゃぁさぁ、もし、そうだったら……こうして、まさちんとも逢えたかなぁ」
「う〜ん、逢えたかもしれませんし、そうでないかもしれませんね」

真子は、俯き加減で続ける。

「私……このままでいいのかなぁ」
「組長……。陽が落ちました。帰りましょう」

夕日は、すっかり落ちていた。

「うん」

真子は、そう言って立ち上がった。まさちんは、真子の服に付いた土をはたく。そして、真子を支えながら車に向かって歩き出す。まさちんは、真子の目になり、優しく車に乗せた。運転席に付いたまさちんは、そっと呟いた。

「組長」
「なに?」
「組長は、今のままが一番いいんですよ。私は、
 そんな組長をお守りするのが生き甲斐ですから」
「まさちん、ありがとう。…帰ろっか」

真子は、まさちんに笑顔で応えた。二人の乗った車は、河川敷を走っていった。



「早よぉ、先生!!」

次の日、ぺんこうのマンションの玄関先に、ぺんこうを呼んでいる徳田達が、居た。 しびれを切らしたのか、徳田が、ドアを開け、中へ入っていった。

「だ、だからぁ……」
「一歩踏み出さな、先に進まへんっていっつも言ってるのは、
 先生やろぉ。行くでぇ〜」
「…わ、わかったよ。行けばええんやろ!」

昨日、真子の無事を知った徳田達は、早速、真子の見舞いに行こうということになった。しかし、ぺんこうは、何故か躊躇していた。学校内でのボディーガードが出来なかった事に対して、かなり落ち込んでいたぺんこう。そんなぺんこうを強引に連れていく徳田。そんな徳田自身も阿山真子に対して、かなり失礼な事をしてしまった。それを気にしていたのだった。徳田達に囲まれたまま、橋総合病院に向かうぺんこう。足取りは、少し、重かった。



「組長、業務連絡してきますから」
「うん。早く帰って来てね」
「もちろんです!行って来ます」
「行ってらっしゃいぃ〜」

庭の散歩から帰ってきた真子は、まさちんの方を見て微笑んでいた。ドアが閉まるのを確認してから、真子は、窓に近寄った。手探りで窓を開ける。
やわらかな風が顔に当たっていた。真子は、うっすらと光を見ることができるまで、回復していた。体力もかなり回復し、視力も戻ると言われて嬉しいはずの真子だが、まだ気になることがあった。
ため息を付く真子。

「どうしようかなぁ」



橋総合病院の外。
まさちんは、携帯電話で業務連絡をしていた。
業務連絡というのは、組の仕事のこと、そして、真子の病状。仕事で忙しい真北に連絡をする。

「ったく……」

電源を切り、懐に電話を入れた時、病院の玄関に向かって歩いてくる団体に気が付いた。

なんだ???

その団体は、病院に向かったり、引き返したり、向かったり、引き返したり……と何度も何度も繰り返していた。不思議に思い、その団体に目を凝らすと、見知った顔ばかりがあった。その団体こそ、ぺんこう、そして、徳田達。引き返すのは、病院を前にした途端、

「やっぱし、駄目だ…!」

そう言って帰ろうと踵を返すぺんこう。
向かってくるのは、

「ここまで来たんやから!」

と踵を返したぺんこうを徳田達が引き戻している。何度も繰り返す中、

「あっ、真北のお兄さんや」

安東が、まさちんの姿にいち早く気が付き、思いっきり手を振って駆けてきた。

「…安東さん???」
「お兄さん! お久しぶりです!」
「お元気そうで。今日は…?」
「真北さんのお見舞い!」
「えっ?」

安東に続いて、徳田がぺんこうを引っ張って、まさちんに近づいて来る。
ぺんこうは、気まずそうに目を反らしていた。

「真北は、元気にしてるんですか?」
「えっ?…一体、どういうこと? このことは、知らないはず…」
「先生に聞いたで。…その…真北が、阿山真子やってことも」
「…ぺんこう…貴様ぁ〜」

まさちんの雰囲気が、徳田の言葉でがらりと変わった。そして、ぺんこうの胸ぐらを掴み上げ、

「…なんで、話したんだよ…!」

怒りを押さえ込んだように言った。

「うわぁ!!! あかんって!! お兄さん、先生を責めたら、あかんって!!!」

徳田達が、今にも殴りかかりそうなまさちんの腕を掴んで、叫ぶ。

「かっこええ!!!!」

その場の雰囲気を壊すような安東の感動した叫び声。徳田達は、その声にずっこけていた。

「…あのなぁ、安東、そんなことは、あとでええねんって。
 お兄さん。実は、俺達、先生を問いつめてん。薄々感づいていたんや。
 真北の正体に。そんで、登校日の朝、学校に向かう先生の様子が、
 終業式の時に観た雰囲気と…いつもの先生の雰囲気と違ってたんや。
 それで、気になって先生に聞いたんや。…終業式での事件、知ってたから」

徳田が静かに話す。

「ごめんなさい、まさちんさん」
「野崎さん…」
「先生が、あまりにも可哀想やったから、本当の事話した方がええって、
 うちが言ってん」
「…組長の、気持ちを考えてか?」

まさちんは、ぺんこうを睨みつける。ぺんこうは、まさちんから目を反らしていたが、いきなり、まさちんの胸ぐらを掴み上げた。

「ぺ、ぺんこう…!」

その勢いに、思わず驚く。

「組長の正体を知っても、こうして、徳田達は、組長の事を
 すごく、心配しているんだよ。…徳田達の知っているのは、
 真北ちさとだけで、阿山真子は知らないんだ…そう言って、
 …反対に、俺を励ましてくれたんだよ」

まさちんは、ぺんこうの腕を払い、反対に胸ぐらを掴み上げた。

「組長に、どう説明したらいいんだよ!」

ぺんこうは、まさちんの腕を払い、再び胸ぐらを掴み上げた。

「…真北ちさとの見舞いに来てるんだよ!」
「ま、真北ちさとの…見舞いに?!」

まさちんは、ぺんこうの……(以下繰り返し)。


「ほんまやな、野崎の言うとおりや」
「な、先生とまさちんさんって、楽しいコンビやろ。
 真北さんから、いろいろと聞いてたんや」
「…組長から??」

お互いの胸ぐらを掴み上げるまさちんとぺんこうは、同時に叫び、野崎を観た。野崎は、頷き、呟くように、

「お笑いコンビって…」

そう言った。

「野崎……、コンビって、こいつとか?」
「はい」
「くぅぅぅぅ〜〜!!!!」

胸ぐらを掴み上げる手をぷるぷる震えさせて、勢いよく放すまさちんとぺんこう。そんな二人を観ていた徳田達は、大笑いしていた。

「お兄さん。案内してください」
「……本当に、組長のことを…」
「真北ちさとが阿山真子だと言われても、俺達が知っとるのは
 真北だけやもん。笑顔の素敵な真北だけやから」
「……ありがとう」

まさちんは、すごく優しい眼差しで、徳田達をそれぞれ見つめていた。そして、安東を観た……。

「…す、素敵やわぁ〜。益々惚れ惚れするやぁん!!」

安東の目は、爛々と輝いていた。

「やめとけやめとけ、安東。こいつは、そんなにいい奴と違うからな」
「…うるさいっ!」

ぺんこうの言葉に対して、まさちんが言った。


まさちんの案内で、真子の病室に向かっていった。病室が近づくにつれ、ぺんこうの顔が強ばり始める。まさちんとふざけ合っていても、やはり、真子に逢うことを躊躇っていた。
そんなぺんこうの心情を悟っているまさちんは、ぺんこうの隣を歩きながら、

「大丈夫だって。いつものぺんこうで居たらいいんだよ。
 いつも通りでさぁ」

そっと言った。

「…そのいつも通りを忘れてしまうほどなんだよ……」
「組長に逢えば、いつも通りを取り戻すよ」
「…だと、いいがな……」

真子の病室の前に着いた。
緊張するぺんこう。そして、少しソワソワしている徳田達。
まさちんの手がドアをノックした。




「お疲れさまでしたぁ」
「あぁ。ほんと、疲れたよぉ。…原ぁ、お茶ぁ〜」
「はい、どうぞ。…ほんと、お疲れのご様子ですね」
「ったりまえだろぉ」

真北は、原が差し出したお茶を飲んだ。真北は、寝屋里高校での事件の整理に追われ、そして、やっと今、終わったところだった。

「まさちんさんからの連絡は?」
「あったよ」

湯飲みを置く真北は、大きく息を吐いた。

「いつもと変わらず。まさちんから離れようとしないってさ」
「目の方は?」
「少しだけ回復」
「そうですか…」

原の質問に、真北は短く応えるだけ。
その様子で、原には解る。
どれだけ、真子のために休む暇なく動き回っていたのかが…。
そして、どれだけ、真子に逢いたいのか…。
真北達は、刑務所から脱走した五人のうち、逃げていた二人を追っていた。一人は黒田。黒田は、真子に殴られ続け、内臓破裂で重体。その時、真子に蹴られた崎は、脳挫傷でほとんど寝たきり状態になっている。そして、残りの一人を捕まえるのに、休まず、動き回っていた。
一件落着といきたいところだが、問題は残っていた。

「ところで、真北さん」
「あん?」
「今回の事件、学校中に知れ渡ったのではありませんか?」
「あぁ。校長先生の話だと、生徒達はほとんど帰って少なかったから、
 知っているのは、ほんの一部だろうって。だけど、その前の真北ちさとを
 阿山真子として襲った事件のこともあるから、また、同じ事をされたのだろうって
 言ってるから、大丈夫だとね」
「…だけど、いつまでも、誤魔化せますか?」
「わからん」
「いっそ、本当の事を言った方が、よろしいんでは?
 せめて、同じクラスの子達には…」
「それは…組長に聞いてからだよ…」
「はぁ」

真北が、立ち上がり、ポケットに手を突っ込んで口を尖らせた。

「真子ちゃんによろしく言っててくださいね」
「ん? あ、あぁ。じゃ!」

真北は、そう言って、出ていった。

「じゃ!って、…真北さん、どうするつもりなんだろう」


真北は、橋総合病院に向かって車を走らせていた。




病室のドアをノックする音が聞こえた。真子は、少し警戒した様子で振り返る。

「はい、だれ?」
「私です」
「まさちん。お帰り」
「ただいま帰りました」

まさちんは、そう言いながら、病室へ入ってきた。まさちんに続いてぺんこうも入ってきたことは、真子には見えていなかった。しかし、まさちん以外の人の気配を感じたのか、真子が尋ねた。

「…誰か来た?」
「だれでしょうか?」
「う〜ん、真北さんでは、ないし、橋先生でもなさそう。
 う〜ん、う〜ん……誰だろう」

真子は、考え込む。そんな仕草をする真子を見て、ぺんこうは、堪えていたものが、こみ上げて来る。

「降参!」

と真子が言うやいなや、

「私です。組長」

と声を出した。

「えっ? ぺんこう?」
「はい」

ぺんこうは、真子にそっと近づき、そして、力強く抱きしめた。

「ぺ、ぺんこう…」
「申し訳ございませんでした。私の…私のせいで…、組長に…」
「ぺんこう。ぺんこうは悪くないよ。私が悪いの。
 だから、そう、泣かないでよ、ぺんこう」

ぺんこうは、真子の肩に顔を埋めて泣いていた。そんなぺんこうの頭を優しく撫でる真子。
それは、いつもと逆の光景。

「私が、あやふやな気持ちでいたから、あんなことになったんだから。
 …もう少しでぺんこうの命も…」
「…組長、能力を使ったのですか?」

まさちんは、そっと真子に尋ねる。

「…あの日の事、覚えてない…ただ、ぺんこうが危険な
 目に遭ったことだけしか、覚えてないんだ…」

ぺんこうは、真子から離れ、涙を拭きながら言った。

「無事でよかったです。…視力も戻るとお聞きしましたよ」
「うん。光がわかるんだ。…もう…大丈夫だから!」

真子は、思いっきり背伸びをする。しかし、ため息をついて、寂しそうな顔をした。

「どうしました?」
「…気になることが…あるんだ…」
「学校のこと、ですか?」

真子は、まさちんの質問にそっと頷いた。

「…迷惑掛けないようにって、偽名まで使っていたのに、
 結局、迷惑掛けちゃったね。やっぱり駄目だったね。
 私が…五代目組長阿山真子が学校に行くこと、
 無理だったんだなぁ。…それに、両方ともやっていく自信が
 …無くなっちゃったっ!」

真子は、寂しく微笑んだ。そんな真子を見たぺんこうは、ドアまでそっと歩き、廊下で待っていた徳田達を手招きして中へ呼ぶ。徳田の他に、中山、野村、安東、飯塚、そして、野崎が入ってきた。ドアの閉まる音に真子は、驚き、

「誰か、入ってきた? ドア、閉まってなかったの?」

尋ねた。

「おっす、真北さん」
「えっ? 野崎さん?」
「ちわーっす!」

徳田達もそれぞれ挨拶した。

「えっ?」
「元気そうやん。みんなと言っても、一部やけど、お見舞いに来たで。もー。
 すごい心配したやんか!」

真子は、驚き、まさちんの腕を引っ張った。

「どういうこと? ねっ、まさちん」
「お見舞いですよ」

戸惑う真子に優しく応えるまさちん。

「しかし、驚いたなぁ。真北が阿山真子やったってこと」
「ほんまやで。先生を問いつめたらそう言ったし」
「先生の口から?」

真子は、焦っていた。

「事件は、みんな知ってるで。登校日やったな。うちらで先生を
 いじめたのは。そしたら、先生がゆっくりと話してくれたんやで」

野村が言った。

「話した…の?」
「はい。私の事も話しました」
「ひどいよ…ぺんこう」

真子の肩の力が落ちるのがわかった。
今まで隠していた事が、公になっている。それも、ぺんこうの口から。
唇を噛みしめる真子を優しく見つめるまさちん、ぺんこう、そして、クラスメイト達だった。その目線に気づくこともできない真子は、これから先の事を考えていた。

学校に行かない…。



橋総合病院に到着した真北は、車から降りそして、病棟を見つめた。

真子ちゃん…。

見つめる先には、真子の病室がある。ふぅぅっと長いため息を付いた後、建物に向かって歩き出した。もちろん、向かう先は、橋の事務室。

「…浮かない顔やなぁ」

真北が事務室に入った途端の橋の第一声。

「当たり前やろ」
「犯人は捕まったんやろ」
「…組長の目は、いつ治る?」
「ゆっくり体を休めて、悩み事が無くなれば…かな」
「…そうだよな…」
「学校の事か?」
「あぁ。どうしたらいいかなぁ」

真北は、口を尖らせる。
その様子を見た橋は、真北の気持ちを痛いほど理解していた。

「恐らく、正体がばれた可能性があるだろ…。
 今回ばかりは、二人居る! なんて、できないだろうなぁ。
 …やっぱし、ちゃんと話した方がいいのかなあ」
「知った人には、正直に言うってのは、どうだろ」
「…そうだなぁ。…組長と相談…かな」
「真子ちゃんなら、病室に戻ってるで。この時間だからな」
「あぁ」
「真北!」

事務室を出ようとした真北を呼び止める橋。

「お前がしっかりせなあかんやろ」

真北は、苦笑いをして、事務室を出ていった。



「何を落ち込んでいるんですか、組長。なぜ、みんなが、
 こうしてお見舞いに来てくださったんですか? 事実を知った
 みんながこうして来たということは、がっかりするようなことですか?」
「そうやで。みんなも始めは驚いとったけど、
 なんやぁ、そうなんや、って感じやったで」

野崎が言った。

「組長なんやもん。命狙われて当たり前やん」

安東が言った。

「でもな、俺らが知っとるんは、真北ちさとやで。阿山真子ちゃうもんな」

中山が明るく言った。

「遠慮せんと、学校に来いや」

飯塚が言った。しかし、真子は、みんなの言葉を理解できず、浮かない顔をしていた。

「なんや、しんきくさい顔やなぁ。みんなの表情が見えへんから、
 心配なんやろ?」
「違う。…ありがとう…だけど、なんか、みんなを
 騙していたみたいで、すごく悪いなぁと思って…」
「そんなことあらへんで。その方が安全やん」

安東の言葉で、真子は、遂に涙を流してしまった。

「ありがとう。みんな、ありがとう・・・」

泣きじゃくる真子をみて、もらい泣きをする安東と飯塚。まさちんとぺんこうは、そんな真子を見て、安心したのか、お互い、顔を見合わせて微笑んでいた。

「あぁ、俺、阿山真子に謝らな」

そう言ったのは徳田だった。

「なんで?」

野崎が言った。

「ほら、先生撃たれて入院したとき、俺、阿山真子に
 ひどいこと言った。ごめんな」
「あの時、傷を思いっきり握られた。痛かったよ」
「ほんまに、ごめんな。真北も撃たれてたのに」
「でも、当然の事だから。逆の立場だったら、
 私も徳田くんと同じ事してるよ」
「…って、真北の親父さん、刑事やったよな」

中山が唐突に言う。

「うん…刑事だよ」
「…やくざと刑事…やっぱし、裏で繋がってるんやぁ〜!!」
「あ、あの、その…そんなことは、ないよ!!その…、
 これは、極秘だから、言えないんだけど…。その…あのね…」

真子は、真北の事をどう説明していいのか混乱していた。

「組長の育ての親ですよ」
「育ての親ぁ?!」
「真北さんは、組長が生まれる前から、組長の父と懇意にして
 いたんですよ。ま、そこまでの経緯は、わからないんですけど、
 お二人は、やくざ、刑事を忘れて、普通の友人として、過ごしていたんです。
 そして、組長が生まれた。しかし、いろいろと忙しい組長の父に代わって、
 組長を育てて来たんです。そして、今があるんですよ」

ぺんこうが、淡々と話す。

「へぇ〜。でも、なんかすごいなぁ。ドラマやん」

安東が、変に感心していた。

「だけどね、真北さんは、刑事だということを隠してたんだよ。
 だって、ほら、一応私達は、刑事と敵対関係やん」
「うんうん」
「それで、私に嫌われるんじゃないかなぁって思ってたんだって」
「へぇ〜」


真子の病室に向かって廊下を歩いていた真北が、真子の病室の賑やかさに驚いて、ドアもノックせずに病室へ入ってきた。病室に入った真北は、目の前の光景にめをパチクリ……。真子のクラスメイトが真子と楽しく話し込んでいる。その中にぺんこうも含まれている事に、真北は更に驚いてしまった。

「噂をすればってやつですね」

真子が明るく言った。

「これは?」

真北が尋ねると、

「組長が、真北さんのことをみんなに言ってました」

まさちんが、明るく応えた。

「組長?」

真北はまさちんの言葉に対して、怪訝な顔をした。

「俺達、秘密を知ってますよ。先生を問いつめた」

徳田が言うと、

「ごめんなさい。だって、先生、かわいそうやったから、
 うちが、言った方がええって、言ったんです」

野崎が真北に訴えた。

「ったく、保護者の俺をさしおいて、こんなことになってるとは思わなかったよ。
 しかし、安心した。俺も、考えていたことだから。組長、よかったですね」

真北は、真子に優しく言った。

「真北さん…」

真子は、真北の思いも寄らない言葉に喜ぶ。

「それと、組長、安心して下さい。あいつら、
 もう組長の命を狙えませんから」

真北が力強く言った。その言葉にまさちんもぺんこうも安心する。

これで、組長は、無事に学校へ行ける。



そして、徳田達は、帰っていった。病院の玄関先で、真子は、嬉しそうに手を振って見送っていた。

「組長、よかったですね」

まさちんが言った。

「うん」
「早く、退院するように頑張って下さいね。夏休みは、あと一週間しかありませんよ」
「そういう、ぺんこうこそ、大丈夫なの?」
「何が、でしょう」
「ちゃぁんと教師できるの???」

真子は少し厳しい顔をしていた。
それは、親が子を叱るような雰囲気だが、

「できますよ。組長が守って下さった教師です。
 これからも、しっかりと続けていきますから」

真子に負けず劣らず、力強く応えるぺんこう。

「ふふふ。安心した。う〜ん。あとは、目が治るように頑張るのみかぁ。
 よっしゃぁ〜っ!!」

真子は、思いっきり気合いを入れて、叫ぶ。

「それには、ゆっくりと体を休めることやで」
「…橋先生?」
「真子ちゃん、よかったな」
「ん? あぁ、真北さんから、聞いたんですね?」
「さっき、わしんとこ来て、泣いとったで」
「誰が、泣いたってぇ〜こらぁ!!」

真北が、口を塞ぐように後ろから橋の頭を抱え込んだ。

「痛て! なにすんねん!!」
「うるさぁい!」
「えっ?! 何、何が起こってるの?ねっ、ね!」
「じゃれ合ってますよ」

ぺんこうがそっと応える。

「昔に戻ったようですね…うぐっ!」

まさちんの言葉に、真北は、ギッと睨み付け、そして、まさちんの腹部に蹴りを入れた。
まさちんは、服の汚れを叩きながら、

「なんで、俺だけ蹴りなんですか」

呟くように言った。
真北と橋のふざけ合う姿は見えていなかったが、真子は、その場の雰囲気がとても楽しいのか、笑っていた。
真子に、笑顔が戻った瞬間だった。



(2005.11.14 第二部 第十七話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
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 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
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