任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第二部 『笑顔を守る』

第二十一話 隠しきれない姿

トントン……トントン……。

それは日曜日の朝七時。
真子の部屋に不気味な音が響き渡っていた。

「組長、起きて下さい!」
「…起きてるよぉ」

まさちんが、真子の部屋に入ってきた。真子は、パソコンの前に座り、画面を見入っていた。

「…組長、まさか、徹夜してませんよね?」
「…昨日、寝過ぎで眠れなかったの。夜が明ける前から」
「ったくぅ、体調が良くなったからって…」
「大丈夫大丈夫。で、くまはちは?」
「休暇を満喫するんだと言って既に出掛けました」
「何処に??」
「さぁ」
「ご飯出来たん?」
「えぇ」
「ほな、食べるぅ〜」

真子は、立ち上がり、部屋を出ていった。そして、まさちんとふざけ合いながら、リビングへ降りていくと、むかいんが、朝食の用意をして待っていた。
毎朝、食卓は、色とりどり。
その色とりどりの中、むかいんの笑顔も輝いている。

「おはようございます。調子はどうですか?」
「おはよぉ〜。もう、元気だもん!」

むかいんの笑顔に吊られるように、真子は微笑んだ。

「いっただきまぁぁす!!」
「どうぞ」

真子は、元気に食べ始める。

「そだ。むかいん、今日は一緒に行く?」
「ご一緒してもよろしいんですか?」
「当ったり前やん! 向かう場所は一緒やもん」
「では、ご一緒させていただきます」
「…ほな、今日は、むかいんの事を根ほり葉ほり……」
「私の昔の事は、話せませんよぉ」
「駄目ぇ〜」

真子は、ふくれっ面になる。まさちんは、真子のふくれっ面をまじまじと眺めていた。



まさちんが運転する車で、真子とむかいんは、AYビルへ向かう。
真子は、まさちんの母にもらった猫がでっかく編まれたセーターを着ていた。車の中では、やはり、むかいんは真子に根ほり葉ほり聞かれていた。笑って誤魔化すむかいんだったが、真子の巧みな言葉運びについつい……。




須藤家。
一平は、テレビゲームに熱中していた。ハイスコアを目指して頑張っている時…。

「一平!」

母が部屋に入ってきた。びっくりした一平は、ゲームオーバー。

「あぁ〜!!! あと200点〜!」
「ごめん。驚かすつもりはなかったの。これ、お父さんに届けて。
 全くぅ〜。今日の会議にいる大事な書類なのに、忘れていくなんて、
 あの人、大丈夫かしら?」
「大丈夫やないんちゃうかぁ。ったくぅ、親父のあほぉ。行って来るで」
「悪いなぁ、よろしくぅ!」

一平は書類を片手に駅に向かって歩いていく。改札の手前で、ポケットから定期券を取り出した。定期入れには、真子とツーショットの写真が入っていた。一平は、定期券の出し入れの時は、必ずそれを見て、嬉しそうに微笑んでいる。
写真の中の真子の首には、一平がプレゼントしたネコのペンダントが光っていた。




AYビル。

「じゃぁ、またねぇ〜!」
「ありがとうございます」

むかいんは、地下駐車場から直接自分の店の階に向かってエレベータに乗った。真子は、もちろん……。

真子は、ビルの駐車場に続く階段から、弾むように現れる。

「おっはよぉ〜!!」
「おはよ! でっかい猫やなぁ」

いつものように、受付で時間潰し。明美が真子の着ているセーターを見て驚いたように声を発した。

「かわいいでしょぉ〜。でかいでしょぉ。まさちんの
 お母さんからもらったの!!かわいいでしょ??」

真子は、すんごく嬉しそうにはしゃいでいた。

「はしゃぎすぎ!」

ひとみがツッコミを入れる。

「そして、また、つけてるしぃ〜」

真子の首には、ネコのペンダントが光っていた。真子は嬉しそうに微笑む。

「昨日寝込んでたって聞いたのにぃ。心配したよぉ」
「ありがとうございますぅ! この通り、元気になりましたぁ〜!!」
「ったく…知恵熱と違うんかぁ??」

ひとみが、真子をからかうように言った時、まさちんがやって来る。

「首根っこ掴まれる前に、退散しまぁす!!」
「またねぇ〜!!」

案の定、まさちんは、片手を上げて、真子の首根っこを掴もうとしていた。真子達が受付を去っていったと同時に、ビルの玄関から、一平が入ってくる。そして、受付にやって来た。

「すみません。須藤ですけど、父に届け物です」
「須藤さんの事務所は、三十八階でございます。奥のエレベータを使ってください」
「ありがとうございます」

ひとみに言われた通り、一平は、エレベータホールの奥へと歩いていった。そこには、真子とまさちんがエレベータを待っていた。真子は、まさちんと話し込んでいたので、一平の姿に気が付いていない。そして、到着したエレベータに、三人は乗り込んだ。

「何階ですか?」

まさちんが尋ねる。

「同じ階です」

一平が応えた。
その声に聞き覚えがある真子は、一平を見て、少し驚く。一平の持っていた書類を見て、ピンときたのか、真子が一平に尋ねた。

「あなた、須藤さんのご子息?」
「はい。一平といいます。あのぅ…」

エレベータが到着した。

「案内してあげて」
「はい」

まさちんが、一平を須藤組の事務所まで案内した。入り口に立っていた組員がまさちんに気が付き挨拶をする。

「おはようございます。お待ち下さい」

組員は、中へ入っていった。暫くするとよしのが出てきた。

「なんでしょ」

よしのは、少し離れた所に立っている真子に会釈した。真子は、軽く手を挙げてそれに応える。

「須藤さんのご子息が来られたので、案内を」
「おはようございます、よしのさん。これ、父に」
「これは、ボン。お疲れさまです。こちらへ」

一平は、よしのに言われて事務所の中へ入っていった。その時、真子をちらっと見た。

えらいでかい猫やなぁ、真北さん、喜ぶかなぁ。

そして、その胸にぶら下がっている猫のペンダントに気が付いた。

「あ、あれ??」
「まさちんさん、すんません」

一平の声と重なるようによしのが言った。

「じゃぁ」

まさちんは、真子と去っていく。

「おやっさん! ぼっちゃまです」
「よしのさん、さっきの女の人、誰?」

一平は、事務所に入りながら、よしのに尋ねる。

「阿山真子五代目組長ですよ」
「阿山、真子? あの人が…」




真子は、事務所のソファに腰をかけ、

「須藤さんの息子さんだったとはねぇ」

ため息を付きながら、呟くように言った。

「さっきの男の子ですか?」
「そう。真北ちさとのボーイフレンド」
「ほんとですか?」

真子は、まさちんに差し出されたオレンジジュースを飲みながら、頷く。まさちんは、目を丸くして、少し驚いた様子で真子を見つめた。

「…ぺんこう知ってたなぁ〜。だから、あんなこと言ったんだ。
 …なんで教えてくれないんだろぉ」
「あんなこと、とは?」
「学校での恋愛は、駄目ですよって。真北ちさとで恋愛をするということは、
 相手を騙してる事になるって…」
「ぺんこうの奴、そんなことを言ったんですか。恋愛のれの字も知らないような
 ガリ勉野郎がぁ」
「…すごい言い方ぁ〜。ほんまに、まさちんは、ぺんこうのこと、嫌いなんだねぇ〜。
 その割に、気が合ってるやん」
「…組長、言って良いことと悪いことがありますよ」
「良いことでしょ?」

真子は、ニヤニヤしていた。

「…一平くんに、ばれたかなぁ」
「大丈夫ですよ」
「なら、いいけどぉ」
「…ところで、例の会議、手はず通りに運びますか?」
「運ばせるよ…。任せなさいって!」

真子の目には自信が溢れていた。
例の会議とは、真子が新事業を始めようとしていることに関するものだった。



コンピュータ管理の行き届いたハイテクであらゆるジャンルが揃っているという本屋を作ろうと企画し、実現に向けて進行中。
企画は真子で、須藤がそれぞれの出版社に声を掛けて、企画を進めていたのだった。
そして、AYビルの隣では、その本屋としてのビルが建設中。もちろん、松本組が手がけていた。大小問わず、全世界のほとんどの出版社がこの企画に参加。
しかし、中でも納得しない出版社があった。
小さいながらもこつこつと素敵な本を出版している地木元出版、一時期、大ブレークを起こしたが、今は、小康状態の出版小池、あらゆるところに進出し、手広く活動する追田社がその出版社だった。


真子は、須藤の秘書ということで、会議に参加していた。会議は、静かに始まったかに思えたが……。


「…須藤、中止しろ。これは、無かったことに」

真子が、静かに言った。

「しかし、組長!」

須藤が立ち上がった。

「く、組長?!」

追田社を始め、地木元、小池は、秘書だと思っていた女性が、実は、組長と呼ばれている事に驚いていた。

そう言えば、阿山組の組長は、女……。

「組長、口出しはしない約束ですよ」

谷川が言った。そんな言葉を無視したように、真子は、同じ参加している松本に言った。

「中止だ、松本」
「は、はい」

松本は、会議室を出ていった。真子は、机の上を片づけ始める。暫くすると、『中止』という声が響き渡り、そして、工事の音が止んだ。

「…やくざ、やくざとしか言えないような人達に、何を言っても無駄ですよ。
 当初、須藤さんも言ってましたよね。やくざがつきまとうって。だけど、これは、
 一般市民としての意見だと言ったら、納得して、そして、ここまで、進めてきたんですよね」

真子は、静かに立ち上がり、そして、ドアに向かって歩いていく。
ドアを開け、会議室を出るとき、振り返り、

「本当は、乗り気でしょ、お二人さん」

優しく微笑んだ真子は、会議室を出ていった。
会議室からは、須藤達の嘆きの声が聞こえてきた。そして、地木元と小池が慌てたような声で、何かを話し始めた。
真子が事務所へ戻ると同時に、追田が、会議室から出てきた。そして、何か呟くようにエレベータホールへ向かっていく。



「はぁい、待ってたよぉ」

真子の事務所には、木原が待っていた。

「…何もしてないよね、木原さん」
「なんだよぉ、その疑いの眼はぁ」
「木原さんだから、何か仕掛けてそうだもん」
「仕掛けるわけないやろぉ。センサー付いてるのに」
「…知ってた?」

木原が見通した通り、AYビルには、盗聴器や盗撮に対するセンサーが設置されていた。撮影など、許可がない機具に対して、センサーが反応する仕掛け。木原は、その事を充分理解している。

「あぁ。で、本当に、いいんかぁ??」
「そうですよ、組長。本当に、よろしいんですか?」
「……しゃぁないやん。ああなんやしぃ。でもさぁ、本当は、こんな手…
 使いたくなかったんだけどね。あのままだったら、追田さんに何されるか
 わからなかったし、それに、人の弱みにつけ込むような人って許せないもん」

真子は、そう言ってオレンジジュースを口に運ぶ。

「…許せないもん! ってかわいく言う人間が、こんな手、使うとはねぇ〜、恐い恐い!」
「…怒るよ、木原さん!!」
「ごめんなさぁい! ほな、まっかせなさぁぁい!!」

木原は、自信たっぷりに言い切った。

「…燃えてるよ、まさちん。木原さん、燃えてる〜」
「…こういう仕事、好きなんですよ、きっと」
「わかる??」

木原は微笑んでいた。


次の日。
あらゆる報道関係の新聞や番組に、この本屋の突然の中止が大きく取り上げられていた。そして、中止の原因を作った追田が、毎日のように報道陣に追いかけられ、そして、参加しようとしていた出版社から、抗議の電話が殺到!
追田は、社長室で頭を抱えて、この事態を悩んでいた。

「くそっ……!!」

追田は、何かを企んでいるような表情に変化していく…。




『まさちん、今度こそ、出席するんだろ?』
「きつく言っておきましたから。出席しますよ」
『ったく、いつになったら、幹部会に出席するんだよ』
「ですからぁ〜」

まさちんは、電話の相手に困っていた。
相手は、東京の阿山組系の組幹部。常に幹部会に出席するようにと真子に言っているものの、真子は、嫌がっていた。真子の代わりに幹部会には、まさちんが出席している。
まさちんも今度こそは…と躍起になっていた。
その頃、真子は……



寝屋里高校の中庭。
いつものように真子とぺんこうが話し込んでいた。

「万が一のことも考えて、この八日間の講習に参加して下さいね。
 絶対ですよ。これ以上休みますと、ほんとに、高校四年生に……」
「っと待った! この日は、駄目。無理だよ。休みだから、予定に入れてるのにぃ」
「そちらの予定を断って下さいね。…で、どのような予定ですか?」
「…年に一度の幹部会。今度こそ出席しろって…」
「…そ、それは…断れませんね」
「いいよ、別に、出席したくないし」
「駄目ですよ。この日の講習はお休みください」
「先生が、そんなこと言うかぁ〜」

ぺんこうは、困った顔になる。

「そだ。ぺんこう、知ってたでしょぉ」
「何を、ですか??」
「一平くんが、須藤さんの息子だってこと」
「…えっ? 組長、ご存じなかったんですか????」
「う、うん…名字訊かなかったもん」
「…組長が知らなかったってことが驚きですよぉ。だから、恋愛は
 駄目ですよって言ったんです」
「…遅いよぉ。テストが終わった次の日、映画に行く約束したもん」
「組長〜」
「大丈夫だって。真北ちさとが行くんだから」
「ですけどね……」

ぺんこうの悩みが増えていった……。



「くまはちぃ、明日は、絶対に着いて来ないでよぉ」
「駄目です」
「…気になって仕方ないやん」
「しかし…」
「……怒るよぉ」

テスト終了の日の夜。
お風呂上がりの真子は、リビングでくつろいでいるくまはちに話していた。
…というより、命令しているというか…睨みを利かせているというか……。
実は、次の日、真子は、一平と映画を観に行く予定。真子には、いっつも見えないところでガードしているくまはちの存在が、少し気になっていたのだった。
せめて、真北ちさとの時くらいは、普通の女の子で居たい。
真子の気持ちを知っているくまはちだが、真子の身の安全を考えると、せざるを得なかった。

「…怒られても、私の仕事ですから」
「ったくぅ。わかったよぉ。行き先教えるから、所々に居たらいいでしょ?
 ずっと着いて歩くことないし。それでいい?」
「行き先の変更は、止めて下さいね」
「わからないって。その場次第でしょ」
「……わかりました」

くまはちは煮え切らない返事をした。


そして、次の日。
真子と一平は、自宅の最寄り駅で待ち合わせをして、電車に乗った。案の定、一つ隣の車両には、くまはちと竜見が、真子を見守るように乗っていた。真子は、気にしながらも、一平と楽しく話し込んでいた。

「今日の映画な、すっごいらしいで」
「アクション??」
「アクションもあるし、お笑いもあるみたいやで。真北さん、笑い転げなや」
「うん」

真子は、少しぎこちなかった。
それは、一平が、須藤の息子だということを知ってしまったからだった。だけど、いつもと変わりない一平の明るさに、真子はいつものように接し始めた。


「オレンジジュース?」
「うん」
「オレンジジュース二つ」

一平は、真子の好みの飲み物を当たり前のように買っていた。両手にコップを持って、脇にパンフレットを挟み、真子と一緒に映画館内へ入っていく。その二人の様子を虎石がしっかりと見守っていた。

「かなりお客さんがいるね。で、すんごい良い席だね」
「まぁね、親父がね……」

一平は言葉を濁した。

「そだね。…あっ」

真子は、何故か返事をしてしまった。
この映画館の館長と須藤は、親密な関係。須藤は、あらゆる面で館長の手助けをしている。そのことを真子が知っているのは、当たり前。頭の中で、須藤の事を考えると自然と出てくる返事だった。

「親父が…、会社の人からもらったって」
「ふ、ふ〜ん。そうなんだ。おじさんにありがとうって伝えててね」

何かしらギクシャクした会話。

「ええって。親父にそんなこと言わんでも」
「でも、やっぱり、こんな良い席は…」
「うん。伝えとく」

一平は、素敵な笑顔で真子に応えた。
そして、映画が始まった…。



映画館から出てきた二人は、映画の感想を話しながら、道路沿いの歩道を歩いていた。人の流れが途切れた時だった。向かいから、いかにもやくざという雰囲気の男が五人歩いてきた。それは、須藤とよしの、みなみ、須藤組の組員二人。
よしのが、一平に気が付いた。

「おやっさん、一平ぼっちゃんです」

須藤は、よしのが指さした方向を見た。一平も、須藤に気が付いた。

「お父さん」

その言葉に真子は、立ち止まった。須藤達の姿を見た真子。

「げっ。見られたら、バレバレか…」

真子は、呟きながら、こそっと一平の陰に隠れた。

「一平、デートやったんか」
「おやじ、何してんねん」
「いつものことだよ。街の様子の見回りだよ」

須藤は、一平のうしろの女の子が気になるのか、

「一平、その子は?」

と尋ねる。

「あぁ、隣のクラスの…」

その時だった。角から、車が一台すごい勢いで飛び出してきた。車の窓が開いた途端、銃口が須藤達を捕らえていた。

「危ないっ!」

須藤が一平をかばうようにしゃがみ込んだ。

「真北さん! うわっ!!」

一平は、真子を気にしながら、身をかがめていた。
真子は、咄嗟に車の後ろに回り込んでいた。
サイレンサー付きの銃から、かなりの銃弾が飛び出し、車は去っていった。
それは、一瞬の出来事だったので周りの人たちは、荒い運転の車だと思っているのか、何事も無かったように、歩いていく。
一平は、須藤を見た。須藤の右腕からは、血が流れていた。

「一平、怪我ないか?」

そう言った須藤だったが、声に元気が無い。

「おやじ、血が…」
「おやっさん!」

よしの達が、須藤に駆け寄った。

「あほんだら! お前ら、追いかけろ!」

よしのが叫ぶと同時に、真子が叫んだ。

「よしの、車を回せ! 急げ!」

よしのは、突然の真子の言葉が理解できないのか、きょとんとした表情をしていた。そんなよしのに真子は更に言う。

「早くしろ!」

真子の言葉に、なぜか自然と体が動くよしの。真子は、須藤に近づき、様子を診た。

「真北さん、怪我は?」
「私は大丈夫。それより、須藤さん、腕に二発、背中に一発当たってる。
 一平君、ここをしっかり押さえて」

車が勢い良く真子達に近づいてきた。真子は、車を確認し、再び指示を出した。

「よしの! 私がここを押さえてるから、須藤さんを背負って、車に乗せろ。
 早く! 橋総合病院に!」

よしのは、真子に言われるがまま行動する。車が出発する前に、心配そうに車を覗き込む組員達に須藤は力を振り絞って命令した。

「みなみ、事務所で待機していろ」

みなみは、深々と頭を下げ、車を見送った。


「おやじ……」

一平が、かなり心配顔で須藤を見つめる。真子は、車に備えられている電話を取って、とある番号を押した。

「くまはち、須藤さんが、撃たれた。相手の車は黒塗りの…。ナンバーは……」

その会話に疑問を抱く一平とよしの。電話を切った真子を見つめる須藤は、

「だから、一平、この子と付き合うなと言ったんだよ」

力無く言う。

「喋らない方がいい」
「すんません…。組長……」

須藤の傷口を優しく押さえる真子に須藤は呟くように言って、気を失った。一平とよしのは、かなり驚いた顔で真子を見つめる。

「真北さんが、阿山真子?」

一平の呟きに、真子は、気まずい顔になる。なぜか、一平と目を合わすことが出来なかった。



橋総合病院。
手術室の前では、真子と一平がイスに座っていた。二人は、何も話さず、じっと座っているだけだった。よしのが、ジュースを二つ買って来て、一平に手渡した。それを静かに受け取る一平は、真子に一つ渡す。

「ありがとう」

真子が言った、その後すぐに、一平が口を開いた。

「おやじ、気づいていたんや。真北さんの事。ほら、駅前で、
 兄貴と逢ったときにおやじの車で俺、帰ったやん。そん時に気ぃ付いたんやと思う」
「私、一平君の名字、聞いたことなかったね。ビルで一緒に
 エレベータに乗ったあの日に知ったんだ。それまで、
 本当に、知らなかった。気にも止めなかった…」

二人は、それ以上話すことなく、沈黙が続いていた。
よしのは、複雑な心境で二人を見守っていた。一平から、この日のデートの事を聞いていただけに……。

デートの相手が、まさか、父親の親分とは…。



手術中のランプが消えた。手術室から、ベッドに乗せられた須藤が出てきた。病室へ向かうそのベッドに一平とよしのが付き添って行く。
少し遅れて橋が出てきた。

「橋先生、須藤さん、どう?」

真子が、そっと尋ねた。

「大丈夫や。大した傷やないで。よかったな。しかし、
 真子ちゃん、わしを頼ってやって来るんやからぁ〜」
「公にできないやん」
「真北には、伝えとくからな。この場合は、しゃぁないやろ。
 だけど……真子ちゃん、無理したらあかんで。わかってるよな」
「わかってる……」

そう呟いた真子だったが、須藤を心配する一平の顔を思い出し、家族の笑顔を消すような事をした奴は許さないという顔をしていた。その表情に気付いている橋だが、真子を停める術を知らない。
ゆっくりと歩き出す真子の背中を見つめるしか出来なかった。

真子は、橋総合病院の玄関にやって来た。そこには、くまはちから連絡を受けたまさちんが待機していた。

「くまはちが、今、捜してます」
「あぁ。兎に角、ビルに」
「かしこまりました」

真子が醸し出す『五代目組長』の雰囲気。
橋は、真子とまさちんが去っていくのを心配そうに見つめていた。

「のんびりしてられへんやん。真北に連絡!!」

橋は、急いで自分の事務所に戻り、真北に事情を伝える。
電話の向こうの真北は、怒りそのものという口調なのか、橋は、受話器を耳から離していた。

「俺は、お前を停めること出来るけど、真子ちゃんは無理や」
『ったく…解ったよっ。ありがとな。…須藤のことはよろしく』
「慣れてる。……お前こそ、無理するなよ」
『お前の世話には、ならんから、安心しろ』

真北の言葉に、橋は項垂れた。

まぁ、いつものことだが…。

そう思いながら、そっと、受話器を置いた。



くまはちがとある事務所の前にやって来た。口元が不気味につり上がっているくまはち。
これから、この事務所で起こる出来事、想像できる…??



(2005.11.24 第二部 第二十一話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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