任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第二部 『笑顔を守る』

第二十五話 血、再び


「それで?」

冷たく尋ねるのは、寝屋里高校の教師・山本芯。通称ぺんこう。

ここは、寝屋里高校の校長室。
そこに訪れたのは、冷静にぺんこうを見つめる真北だった。

「あの…その……お二人とも…」

オドオドとした口調で、真北とぺんこうを交互に見やるのは、校長先生。二人の雰囲気に、恐れていた。

「……お前の思いだよ」

真北が静かに言う。

「御存知のはずですよね。…私の思いは昔から変わってません。
 あの日、強く申しましたよね……」
「お前のことだ。また迷い始めたのかと思ってだな…」
「それで、心配して、ここまで足を運んだと言うんですか?」
「あかんか?」
「私の職場まで、来ないで下さいっ!」
「家に行っても入れてくれないだろがっ!」
「当たり前です!!!」

思わず立ち上がるぺんこう。

「山本先生、落ち着いて下さい!!」

校長が、震える声で、ぺんこうに言う。

「あっ!!! す、すみません…思わず…その………」

ぺんこうは、静かに腰を下ろす。

「しかし、私としても安心しましたよ」

校長は、笑みを浮かべながら、ぺんこうに言った。

「本当に、ご心配をお掛けしました」
「心配しましたよ、本当に。でも、真子さんの思いを大切にする
 山本先生を手放したくなくなりましたよ」
「校長…」
「山本先生。これからも、生徒達を宜しくお願いしますよ」
「はい! 私こそ、お世話になります。ご期待に背かないよう、
 目一杯がんばります!!」
「でも、程々にしてくださいね。体調が心配ですから」

そう言って、校長は真北をちらりと観る。

「……何度も申してますように、体調管理は、自分で出来ますから」

怒ったような口調で応えながら、ぺんこうも真北に目線を送った。
気まずそうに、二人から目を反らす真北だが、なぜか、笑みがこぼれていた。




真北とぺんこうは、二人揃って職員駐車場へと歩いていく。
そこには、二人の車が停まっていた。

「……組長……戻ったんですよね」

心配げに尋ねるぺんこう。

「それは、毎日観てるだろ? それで解らんか?」
「その……時々寂しげに…」
「って、それは、お前のことで未だ悩んでるからだろうな。
 まだ、伝えてないんだろ? 復帰のこと」

真北に言われ、初めて気付いたのか、閃いた表情に変わるぺんこう。

「そうでした…」
「ったく……」
「それと、組長の進級と進学の事でご相談が……」
「ん? それは、真北ちさとの父として、教師の山本が相談なのか?」
「そうなります」
「何かが……間違ってるぞ」
「えっ? …………。……………。……!! あっ」
「言い直せ」
「すみません」

そう応えたぺんこうは、息を整え、そして、教師として、真北に言う。

「真北ちさとさんの進級なんですが、出席日数が足りません。
 それと、進学の話が未だ、進んでないんですよ。それらのことを
 御家族で相談して頂けませんか? 難しい問題だと思いますが…」
「そうだよな…。進学は娘に任せたんだが、出席日数の事は……」

真北は考え込む。
ポケットに手を突っ込み、口を尖らせる。そして、一点を見つめていた。
こんな真北に、何を言っても耳を傾けない。
真北が言葉を発するのを待つぺんこう。

「まぁ、その辺りは、俺に任せてくれ」
「………また、そちらの力ですか……」
「仕方ないだろが。…これ以上、ここに負担を掛けられない」
「解ってますが…」
「それに…」

真北は、ぺんこうを見つめる。

「はい?」
「お前の職場を荒らしたくないんでな」
「……真北さん……それには、及びませんよ。ここは安全です」
「何度も危険な目に遭って、教職を辞めようとまで考えたのに?」
「うっ……」

真北の言葉に、返す言葉が出てこないぺんこうは、項垂れた。

負けた……。

「ぺんこう」
「はい」
「家庭訪問」
「???」
「出席日数のこと、そして、お前のこと」
「…その方法がありましたね。解りました。そのように致しましょう」

ぺんこうが応えると同時に、真北は自分の車のドアを開けた。ぺんこうも自分の車のドアを開ける。

「あっ、そうだ、ぺんこう」

真北がぺんこうを呼び止める。

「はい」
「お前の事、真子ちゃんが尋ねるまで内緒な」
「はぁ? ………ふふふ……そうですね」

何か企んだように笑みを浮かべたぺんこうは、運転席の乗り込み、そして、エンジンを掛けた。アクセルを踏み、真北に一礼して、学校から出て行くぺんこうを見送った後、真北も学校から去っていった。




真子の自宅。
リビングのソファでくつろぐ真子は、帰宅した真北に振り返る。

「お帰りぃ〜」
「只今帰りました。組長、調子はどうですか?」
「ん? なんとも無いよぉ。ありがとぉ〜」
「それなら安心ですね。でも…」
「解ってまぁす。少しでも変だと思ったら、病院に…でしょう?」
「その通りです。嫌がらずに」
「はぁい」
「返事は短く」
「はい! …っと、真北さん」
「はい」
「あのね、明後日なんだけど、時間……ある?」
「ん?」
「山本先生がね、私の進学と進級の事で家庭訪問したいと仰ってて…。
 やはり、真北さんも一緒の方が良いと思って…」
「そうですね。親も同席するべきでしょう」
「うん………」
「どうしました?」

少し寂しげな表情になる真子が気になるのか、真北は、真子の隣に腰を掛け、顔を覗き込んだ。

「……ぺんこうの…教職の話なんだけど……その後、何か言ってきた?」
「いいえ、私には何も…」
「そっか…」
「ぺんこうが、私に相談するわけございませんよ」
「でも…ぺんこうの就職先には、真北さんが…」
「まぁ、そうですが……でも、ぺんこう自身、何も言わないのなら、
 私が口を出す事もできませんよ」
「真北さんでも…無理なんだ……。私……どうしたらいい?」
「そうですね…。ぺんこうに任せる…というのは、どうですか?」
「辞めようとしてるのに?」
「…それは、難しい問題ですね……」
「どうしたらいいかな……」

真子は真剣に悩み始めた。…が、それは……。



その日、真子の家にぺんこうが家庭訪問と称して訪れていた。
深刻な表情で、リビングのソファに腰を掛ける真子、そして、ぺんこう。その傍らには、真北とまさちんが座っている。

「ぺんこう、それで、例の問題…」

真子は、真剣な表情でぺんこうに話しかける。真子は、ぺんこうの目を見ることができなかった。

「…その問題ですが……」

ぺんこうは、そこまで言って黙り込んでしまった。横に座る真北は、微かに肩を震わせている。

「真北さん?」

真北の不振な動きに気付いた真子は、真北の顔を覗き込んだ。

「教師、続けます」

真北に何か言おうとした真子に、ぺんこうが明るく言った。
真子は一点を見つめたまま、動かない。
耳にした口調。
それこそ、いつものぺんこうの声だった。
悩み事もなく、すっきりした顔。真子の家庭教師として初めて逢った時のあのぺんこうの声に、真子は驚いたように振り返る。

「ぺ、ぺんこう……」
「ご心配をお掛けして、申し訳ございませんでした。
 やはり、私は、この仕事が好きです。だから、このまま、
 続けます。組長が卒業しても、続けます」

その声は、弾んでいた。それに応えるかのように真子の心も弾み出す。

「ぺんこう!」

真子は、嬉しさのあまり、ぺんこうに飛びついた。ぺんこうは、真子をしっかりと受け止める。真北は、この様子を父の顔で見守っていた。…が、まさちんは、眉間にしわを寄せて、不機嫌極まりない表情になる。
ぺんこうと真子の様子を見て……。
リビングは和やかな雰囲気に包まれていた。

「校長先生が、組長と私の様子を見ていたそうなんです。
 それで、私は、結論を促されてしまって……」
「様子って?」
「体育の授業の時、中庭で私をひっぱたいたあれですよ」
「そうなんだ。校長先生に見られてたんだ」
「それで、私、悩みました。続けるのか辞めるのか。辞めたら、何をすればいい?
 組長が進学するなら、その大学の講師として、働く? そして、組長が卒業したら
 その後は? ……結局、教職を続けるだろうなぁ。組長のボディーガードには
 まさちんがいるから、私の居場所は、無いんじゃないのか? って。その時、
 思い出したんですよ。組長との約束を。子供達に喜怒哀楽を教える。
 そしたら、私…、辞める気が失せました」
「そうだよ。私のように、感情を失った子供がいたら、取り戻させる。
 ぺんこうは、それが、一番得意なんだし、それに……教師が一番
 合ってるんだから。私の目には狂いがないから。だって、ぺんこうは教壇上で、
 光ってるんだもん、ものすごく。ずっと続けなよ、教師を!」

真子の笑顔が輝いている。

「続けますよ。組長、ありがとうございます!」

そう応えると同時に、

「ところで、進学のことなんですが…」

話を切り替えるぺんこう。

「それは、ちゃんと進級してから。だって、出席日数足りないんでしょ?
 …心配だもん」
「大丈夫ですよ」

確信した言い方をしたのは、真北だった。

やはり、例の力を使ったんですか……。

ぺんこうは、言いたい言葉をぐっと堪えて、笑顔を浮かべていた。

「まさちん、補習の期間、送迎を頼んだよ」
「わかっております」

真北の言葉に、即、返事をしたまさちんだった。

「大丈夫だよ。いらない」

真子は、口を尖らせる。

「ダメですよ。まだ、完璧ではないでしょう?
 体力が回復したように見せても、わかります」

真北、ぺんこう、まさちんが、声を揃えて言った。

「何も、三人揃って言わなくてもいいやん!」

真子は、ふくれっ面になっていた。
和やかな雰囲気が久しぶりに戻った。真子は嬉しかった。

みんなを信じる…。



そんな雰囲気を壊すかのような事態が、直ぐそこに迫っていることに、この時は、未だ誰一人として、気が付いていなかった。
組関係の事をすっかりと忘れていたまさちん。そして、真子。
それを促したのは、くまはちだった………。





銃の手入れをしている男二人。
まるで自分の体の一部のように扱っていた。懐になおし、そして、立ち上がる。

「狙いは、一人だ…」
「御意」

男達の前に、でかい態度で座っている男がいた。いかにも『やくざ』と言わんばかりの表情。
この男。
名前は、厚木多聞。あの厚木総会の副会長である。再び、厚木総会が活動を開始したらしい。
狙いは、一体…誰なのか?





真子が参加する補習の期間が始まった。真子は、まさちんの送迎で通っていた。

「がんばってくださいね!」
「おー!」

真子は、元気良くまさちんに返事をして、笑顔で手を振りながら校門をくぐっていった。まさちんは、しっかりと見送る。ふと職員室の窓を見るとぺんこうが見下ろしていた。

「…なんか、むかつくなぁ〜」

まさちんは、ぺんこうを睨んでいた。ぺんこうもまさちんを睨む。そして、まさちんは…。

「いぃぃぃ〜だ!!」

そんな顔をして、車を発車させた。

「ガキがぁ」

そう呟きながらも、ぺんこうは、なぜか、微笑んでいた。

「さてと!」

気合いを入れて、ぺんこうは、クラブ活動の生徒が待っているグランドへ向かって行く。まさちんも、AYビルの真子の事務所にあるパソコンで色々な情報を収集していた。

「…なに?」

ある情報欄で目が停まっていた。




まさちんは、帰宅後すぐに、真子の部屋へと向かっていく。
ドアをノックし、返事も聞かずに入っていく。

「なぁにぃ??」

まさちんが入ってくる事を予期していたのか、真子は、机に向かったまま、言った。

「…組長、実は、大変な情報を手に入れました」
「大変な情報??」

真子が振り返る。

あっ………。

まさちんは、真子の表情を見て、話すことを躊躇ってしまった。
その表情こそ、高校生そのもの。組長の威厳は全く感じなかった。

「だから、何??」

真子が促すように声を掛けてくる。

「…その…組関係のことなので…」
「資料は?」
「こちらに…」

真子の言われて、渋々資料を手渡すまさちん。真子は資料を読み始める。

「…会長さんは、確か、あの日以来…再起不能だと聞いたけど…。
 …まさちんの怖さに…」
「…組長…言いすぎですよ…」
「…本当の事やん。だけど、なんで、今頃になって
 こんなことが…?…それも、まだ…」

真子の表情が、『組長』へと変わっていく。

「ったく…銃器類が好きなんだなぁ〜。弾切れたらただの玩具なのにね」

その資料には、厚木総会が起こしたと思われる事件の数々が記載されていた。事件には、必ずと言って良いほど銃器類が使われていた。その様子は、まるで、阿山組四代目と暴れ回っていた頃と同じだったのだ。

「ったく…。阿山組が銃器類を体の一部として扱っていると言われてたのは、
 厚木総会が主に動いてたからだよね…確か。…まぁ、お父様は、それを
 承知で動いてたんでしょ? …真北さんに内緒で。…それが今になって…」

真子は頭を掻いて困り出す。そんな真子から、まさちんは資料を取り上げた。

「お知らせしない方が良かったですね…」
「まさちん…」
「この件に関しては、私が…」
「…駄目だって」

まさちんの言葉を遮るように、真子が言う。

「まさちんは無茶するからぁ。ほら、あの時のように
 また暴れるつもりでしょぉ。まさちんには、任せられないからね」
「…そ、そんな…組長……」
「取り敢えず、資料をもっとかき集めておいて。そして、みんなで考えましょ。
 緊急幹部会ね。えっとぉ、私の補習は明後日の午前で終わるから、
 その日の午後からにしようか」
「お疲れでは…」
「直ぐの方がいいでしょ? だけど、補習にはちゃんと出ないと
 …私が怒られるし…」
「わかりました。そのように手配致します」
「よろしく」
「はっ。失礼いたしました」

まさちんは、深々と頭を下げて真子の部屋を出ていった。

組長に言わない方が良かったか…。
いつものように……。

と思った時だった。
背後にドアが開く気配を感じた事に気付いたが、

「うわぁ!! 組長!!」

まさちんは、突然のことで、身構えることができず、前のめりに倒れてしまった。
真子がまさちんに蹴りを入れた。
まさちんが手にしていた資料が宙を舞う……。

「…ったくぅ、私の前では、その態度止めろって言ったやろぉ。
 特に、家にいる時はって……。今度やったら、これだけじゃ済まないから、
 覚えときや!」
「…すみません!!!」

真子は、それだけを伝えて部屋へ戻っていった。まさちんは、ため息を付きながら、散乱した書類を拾い始める。そこへ、真北がやって来た。散乱した書類を手に取り、まさちんに渡す。

「ありがとうございます」
「…ったく…。お前にも困ったもんやけど、組長にも困ったもんだな」
「今のは、私が悪いんですよ」
「そんな主従関係があるもんか…」
「それが、組長ですから」

まさちんは、書類を全部拾い上げて、笑顔で言った。

「あぁ、そうだな。…お休み。明日もよろしくな」
「お休みなさいませ」

真北とまさちんは、それぞれ自分の部屋へ入っていく。


阿山組日誌。
『久々に蹴られてしまった。自然体と言われても
 俺には難しいことなんだけどな。まだまだか』

やはり、まさちんの日記になっていた……。



補習最終日。
まさちんの車が校門前に停まると同時に、真子が元気良く車から降りてきた。

「組長、最終日、頑張って下さいね!」
「ありがと、まさちん。今日は、午前だけだから、間違えないでね!
 午後から、ビルに行くから。じゃぁ、資料よろしくっ!」
「わかっております」

まさちんは自信たっぷりの顔で応える。真子は、まさちんに手を振って、見送った。車が見えなくなった後、真子は、気合いを入れて校門をくぐっていった。



AYビル。
まさちんは、会議用の資料を揃えていた。

「あちゃぁ。これ忘れてた」

まさちんは、足りない資料に気付き急いで揃え始める。
時計の針は、十一時半を指していた。

「やばい、間に合わないっ!」

まさちんは、資料を整頓してから、事務所を慌てて出ていった。
受付前を通った時だった。

「一時頃だから」
「かしこまりました! 気を付けてくださいね!」

まさちんは、ひとみに笑顔で話を交わして、地下駐車場の階段へ向かって歩き出した。

「なんとか、間に合うかな」

まさちんは、時間を計算しながら、階段を下りていく。ひとみは、まさちんを見送っていた。その時、見かけない男が二人、階段の側に立ってまさちんを見ていることに気が付いた。

「誰? …う…そ…!!」

ひとみは、目を覆いたくなる瞬間を見てしまう。
その男達は、階段を下りていくまさちんの背後に銃口を向けていた。
まさちんは、階段の踊り場でふと振り返った、その時……。

「!!!」

銃声がAYビルに響き渡る……。



「銃声?」

厨房で仕事中のむかいんのところまで、銃声が響いたのか、顔を上げた。

「銃声のようですね…」
「…くそ!」

コック達の言葉で、むかいんは時計をちらっと見た。時間を見て、むかいんは、何かに気が付いたのか、厨房を飛び出していった。

「料理長…顔が……」
「うん…」

コック達は、むかいんの雰囲気が変わったことに気が付いていた。



「一階で銃声だ! 行くぞ!」
「はっ!」

須藤組組事務所に連絡が入った。
須藤は、未だ入院中、よしのは、須藤に付き添っている為、みなみが中心となっている。そのみなみの声で組員達が、一斉に一階へ向かって駆けていった。




男達は、銃を懐になおしながら走り去っていった。警備の山崎が、その男達を追いかけて行く。ひとみは、カウンターを乗り越えて階段へ駆けていった。

「まさちんさん!!! ひぃぃ〜っ!!!!」

ひとみは声にならない悲鳴を上げた。
まさちんは、身構えることなく、男達の銃弾に襲われ、倒れていた。
階段の踊り場が、まさちんの血で真っ赤に染まっていく。そんなまさちんの目線は、駐車場に向けられていた。

組長を…迎えに行かないと……体が…う…動かねぇ…。

ひとみが、まさちんの名前を呼びながら、まさちんの血を止めようと傷口を必死で押さえていた。そんなひとみも、まさちんの血で真っ赤に染まっていた。

「まさちんさん!!!」

須藤組の組員が、みなみを先頭に駆けつけてきた。

「捜せ!!」
「はっ!」

みなみの言葉で須藤組組員たちは、まさちんを撃った男達が逃げた方向へ走っていった。

「よしのさん、大変です。まさちんさんが撃たれました。今、捜して……えっ?」

みなみが、よしのに連絡を取っていた時だった。その腕を掴まれた。みなみは、目線を移すと、まさちんが腕を掴んでいた。

「…やめろ……ここだけの…話……広めるな……」
「まさちんさん?」

まさちんは、最後の力を振り絞って、みなみにそう告げ、気を失った。

『みなみ、どうした? まさちんさんが撃たれたって?』
「は、はい…ここだけの話…広めるな…と言われました…」
『…何考えてるんだよ!! 兎に角、待ってるから。あとは、頼んだぞ』
「はい…」

みなみは電話を切った。そして、立ち上がる。すると、目の前にむかいんが立っていた。

「動くな。わかったか…事務所で待機しておけ」
「む、むかいんさん…?」

むかいんが、報復に向けて動こうとしていた須藤組を威圧して、抑えていた。
いつもにこやかなむかいんしか見たことがない、みなみは、むかいんの醸し出す雰囲気に驚く。
それは、自分と同じ、やくざな雰囲気だった。
それも、まさちんやくまはちに劣らない程の…。

なぜ…?



救急隊員が駆けつけた。まさちんに応急手当をし、素早く運んでいく。むかいん、そして、ひとみも救急車に同乗した。

「橋総合病院へお願いします。担当医は、橋先生です」

むかいんが救急隊員にそう告げた。そして、救急車は、けたたましいサイレンと共にAYビルを出ていった。
みなみは、見物人を押しのけるようにして、現場から事務所へ向かっていった。事務所の電話を手に取り、連絡を入れる。

「…待機しておけと言われました」
『真北さんか?』
「いいえ、…その…むかいんさんです」
『それなら、仕方ないな。待機しとけ。でも、運ばれるのは
 ここ、橋総合病院だろ。…状況を聞くよ』
「すんません、兄貴」
『気にするな。後はよろしくな』

みなみは、再びよしのに連絡を取っていた。よしのは、須藤の病室へ戻ってくる。

「まさちんが撃たれたって?」

須藤が尋ねた。

「はい。みなみからの連絡です」
「待機とは?」
「まさちんさんが、広めるなと言ったそうです。そして、
 行動開始しようとしたみなみに、むかいんが待機しろと言ったそうですよ」
「…むかいんがか…。これは、厄介だな」
「厄介?」
「…組長の行動を予測すると、これは、俺達は動かない方がいいかもな。
 真北さんに任せる方がいいな…」
「なぜですか? …その、あのむかいんの言葉に…?」
「忘れたのか? むかいんもやくざだぞ」
「あっ……」
「そのむかいんがそんなことを言うとなると…。厄介だな」
「厄介って…???」

よしのは、須藤の言う『むかいんの厄介』が解らなかった。
笑顔を絶やさない料理長・むかいんが、自らこの世界に関わってきた。そんなむかいんまでが、加わると、血を見るのは明らかだった。なぜなら…
むかいんの包丁さばきは凄腕だからな。



(2005.11.28 第二部 第二十五話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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