任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第二部 『笑顔を守る』

第二十八話 受験生・真子の過ごし方

帯電の装備をした真北と橋が、真子を愛用の病室に運んでいく。
病室に真子を運んだときには、既に真子の体から発する電気は、消えていた。
まさちんも真子を心配して、付いて来るが、

「あほ! まさちん、お前はぁ〜」

橋がまさちんを見て怒鳴りつけた。無理して体を動かした為、まさちんの傷口が開いてしまったのだ。

「俺は、大丈夫です。……組長…は?」
「電気は消えたようだ。安静させとけば、大丈夫やろ。
 ったく、無茶してからにぃ」

橋は、真子の病室にあるソファにまさちんを寝かせ、手当てを始めた。

「ここの傷がふさがるのは、難しいと言ったやろぉ。
 11発中、4発喰らったとこやで。通常の人間なら
 死んどるとこやねんぞ…。そうならんのは、真子ちゃんの
 能力を受けたからこそかもしれへんけどな…」
「…すみません…」
「…っと…。まさちんの病室は、無茶苦茶になってるしなぁ。
 …真子ちゃんの事心配して、しょっちゅうここに来ることを
 予測して…。ここに移すけど、ええか?」
「お願いします」
「…真北?」

真北は、橋に呼ばれるまで、真子を見つめたまま放心状態だった。

「あ、あぁ」
「あぁじゃなくて…。大丈夫か?」
「あぁ。なんとか…な」
「しかし、どうするんだよ」
「…悪かったな…」

橋の言葉に、謝る真北。橋の言いたい事が解っている真北は、ポケットに手を突っ込んで、口を尖らせていた。
病室を壊した事に対する『どうするんだよ』だったのだ。
こんな状況なのに、何を心配しているんだか…。それは、この状況に対する悩みを隠す橋独特の態度だった。

「まさちん…。なんや、寝とるんか。ったく、まさちんは
 自分の事よりも、真子ちゃんのことを一番に考えるんやからぁ」

そして、真子のベッドの横に、ベッドを一つ設置し、まさちんは、そこで眠っていた。
眠る真子とまさちんを見つめる真北と橋。

「ええんか?」
「あぁ」
「お前心配しとったやろ。二人の間に別の感情が…って」
「あぁ。まさちんの手の早さは、昔っから聞いてただけになぁ」
「組長に組員が手を出したら、どうなるかくらい俺にもわかるで」
「なのに、組長にだけは…」
「昔の話やろ? 手の早さ」
「あぁ」
「…真子ちゃんと出逢って、変わったんやろ?」
「…わからん」
「真子ちゃんは、未だ、子供やしな。範囲に入ってないんとちゃうか?」

真北は、橋の鳩尾に肘鉄。

「入ったら、手を出すって言うのか?」
「さぁなぁ」

真北は、橋を睨んでいたが、橋は、ただ、笑っているだけだった。
真北をからかっていたのだ。


それから三日間、真子は、眠り続けていた。その間、まさちんは、真子の側に座って、真子を見守っていた。

「おはよぉ〜、まさちん」
「組長…!」

まさちんは、声にならなかった。

「よかったぁ〜。意識が戻ってぇ」
「えっ?!」
「…私が、病室に…って、何か遭った??」
「組長…?? 今日は…何日ですか?」
「まさちんの意識が戻ったって。だから、私、ビルから…。
 あれ? なんで、まさちん、ベッドに横たわってないん?
 寝てな、駄目でしょぉ!!」
「いや、その…私の意識が戻ったのは、四日前ですけど…」
「へ?! …一体、私に何が遭ったの?」

まさちんは、真子との会話で、何かに気が付いた。そして、優しく微笑み、真子に言った。

「組長は、私の代わりに仕事を張り切り過ぎたみたいですよ。
 …慣れない事をするからです。過労で倒れたんですよ」
「過労で?」
「えぇ。この四日、ずっと眠っておりましたよ」
「そうなんだぁ。…張り切り過ぎたんだ…って、四日って
 事は、…休み終わってるやん!!! 学校ぅ〜!!」
「えぇ。だけど、橋先生の許可をもらってからでないと」
「そうだよねぇ〜。って、まさちん、起きあがって大丈夫?」
「はい。私の体は、頑丈にできてますので。ご心配なく」
「…なんか、立場が逆だね」

真子は恐縮そうな顔をしていた。

「気になさらないで下さい」

まさちんは、更に優しく微笑んでいた。真子も、まさちんに微笑んでいた。



「消えているんだよ。この部分が……。どういうことや?
 光が合わさったからなのか? だからか?」

橋には珍しく、焦った口調。

「…本当に、更に詳しく調べる必要があるな…」

落ち着いた雰囲気で、真北が応えると、

「そうやな」

橋は落ち着きを取り戻した。

「じゃぁ、組長と帰るぞ。まさちんの事よろしくな」
「…ええんか? 真子ちゃんの記憶…失ったままで」
「どう説明すればいいんだよ。そっとしておくよ」
「わかったよ…。まさちんも、すぐ退院できるしな」

真北は、橋の事務室を出ていった。そして、真子愛用の病室の前にやって来る。病室から、真子とまさちんの会話が聞こえていた。

「組長、おめでとうございます」
「まさちんは、ゆっくりするんだよ!」
「ど、どういうことですか?」
「だって、まさちんは、私のそばに来てから
 ずっと、私のことばっかり考えてたでしょ?
 だから、この際、のんびりとのんびりと!」
「組長、休暇は、以前頂きました」
「それとこれとは、別だからね。そうだなぁ、この際、好きなことしてよね。
 退院するまでに、何をするのか考えててね! わかった?」

まさちんは、真子の言葉にきょとんとしている。

「組長、それって、もう、私のことを必要としていないのですか?」
「そうだよ。だって、組の仕事も私一人で出来たし。それに…」

まさちんはショックを受けたのか、呆然としている。

「うそうそ!うそだって。そんなことないよ。
 …まさちん、ほんとに、自分のしたいことしてないから。
 そう思っただけなの」
「組長……」

真子の優しさが嬉しかったのか、まさちんは、それ以上、言葉がでなかった。

「でも、組長」
「なに?」
「私のしたいことは、組長のお側にいることです。
 組長をお守りすることが、私の生き甲斐ですから。
 ……組長、ありがとうございます」
「まさちん……」

真子は、とびっきりの笑顔をまさちんに送った。

「入らへんのか?」
「橋…入りにくいよ…」
「…ったくぅ」

橋がドアを開けた。

「あっ。橋先生に、真北さん」
「組長、帰りますよぉ」

真北は、静かに言った。

「じゃぁねぇ、まさちん。ゆっくり休んでね! 橋先生、
 私以上に厳しくしてくださいね。絶対、体動かすから」
「任せとき。真子ちゃんも、無理したら、あかんで」
「はぁい。じゃぁ、帰ろ!」
「お気をつけて」

まさちんは、元気に手を振る真子を見送っていた。真子は何度も振り返りながら、真北と帰っていく。

「…橋先生…。俺…これからどうしたらいいんですか?」
「…いつも通りでええねんって」
「組長、益々素敵になって…俺の範囲に……」
「なんや。真北との話聞いとったんか?」
「聞こえてましたよ」
「そぉかぁ。…どうするかは、自分で考えろよなぁ。先の事も忘れずにぃ」
「……難しいですよ」
「怒られるのは、まさちんやで。それも真北にな…」
「そうですよね…」
「…真北を怒らせるなよ」
「はい」

橋は、まさちんにベッドに戻るように促し、横たわるのを確認した後、病室を出ていった。

「先が楽しみやなぁ」

橋は、一体何を楽しみにしてるのだろう…。



夜中にふと目を覚ました真子の目は、右目が青く、左目が赤く光っていた。
手も同じように光っている。
真子は、恐怖を感じ、布団に潜った。記憶は戻っていたのだった。
まさちんの病室での出来事に対して、周りが何も言ってくれないということは、自分に対して、かなり危険な事だったのだと感じていた。

「…どうしよう……」

真子は布団の中で丸まりながら、悩んでいた。




梅雨が終わり、夏がそこまでやって来てるような雲一つ無い天気がめちゃんこ良い日。
まさちんが退院する日だった。

「ほんまにええの?」
「はい。充分休養致しましたから」
「でも、無理したらあかんよぉ」
「組長、最近、関西弁が増えましたね」
「そりゃぁ、野崎さんと過ごす時間が多いから。気ぃついたら、こうなってた」
「そうですか。ところで、勉強の方、進んでますか?」
「めっさテスト多いねん。大変やわぁ。テスト勉強で受験勉強できへんくらいやで」
「組長、無理しないでくださいね」
「大丈夫だよぉ」

真子は、まさちんに合わせてゆっくりと歩きながら駐車場へやって来た。少し遅れて、真北と橋が出て来る。

「あぁあぁ、やっぱり始まったかぁ」

真子とまさちんは、じゃれ合っていた。そんな二人を少し安心した表情の真北で見つめていた。

「大丈夫やろ、もう、心配ないで」
「あぁ。大丈夫だよな」

真北と橋は目で言葉を交わしていた。
ふと微笑む真北の眼差しに父親としての思いを感じる橋は、まさちんに振り向く。

「ええか、まさちん。いつものように体を動かしたらあかんで。
 まだ、完全回復とちゃうからな」
「わかっております。散々怒られましたから」
「ほんまや。真子ちゃんもそうやったけど、まさちんも
 同じ様に、こっそりと…なぁ…。真北、お前もか?」
「そんなことないぞ」

そう言った真北は、あらぬ方向を見ていた。橋と真北のやりとりを見て、大笑いしている真子だった。
…それも、退院したばかりのまさちんを叩きながら……。




真子の自宅。
真子は、勉強中。
真北は、珍しくリビングでくつろいで、お茶をすすっていた。
むかいんはキッチンで何やら考え中。
まさちんは、部屋の自分の机に向かって、『阿山組日誌』(=まさちんの日記)を眺めていた。日付は三月の始めで終わっていた。

「俺が入院していた間、何か変化なかったのかなぁ」

ブツブツ言いながら、何故かページをめくっていく。

「ん??」

まさちんは、七月のページで目が停まった。

「…組長はぁ〜」

七月のページの始めに真子の字を見つけた。

『まさちん復帰!! 真子は、勉強に集中します!』

まさちんは、微笑んでいた。そして、ふと目をやった所に書類を見つけた。それは、まさちんが入院していた間、真子が行った仕事の内容をまとめた物だった。まさちんはそれを読み始める。

「敵わないな…」

真子は、まさちん以上に細かく仕事をしていたのだった。
本当に真子は底知れぬ何かを持っている…。

真子が部屋を出ていって、一階に下りていく。まさちんは、そっと部屋から顔を出し、真子を見送っていた。

「ここぉ」
「…これはですね…」

真子は、リビングにいる真北に解らないところを尋ねていた。
真北は、真子にヒントを与えながら、真子がちゃんと理解して自分が解くような方向で教えていた。この方法が、真子の成績の良さに影響を与えるのだろうか?? もちろん、真子が野崎に教える時も、この方法を用いている。

「なるほどぉ」

真子は理解したのか、納得して、その場で問題を解いていた。

「明日からですか」
「うん…。期末テストぉ」
「今回もオール5ですね?」
「プレッシャー与えないでよぉ」
「組長には、与えないと、直ぐ油断するでしょ?」

真子は、ふくれっ面。そんな真子を見つめる真北は、優しく微笑んでいるだけだった。


そして、期末テストが始まった。
真子は、当たり前のようにスラスラと解いていた。数学の教師が、真子の姿を見て、悔しそうな顔をしていた。真子は、全問解いた後、数学の教師を見つめ、ニッコリと笑っていた。


「…またかよぉ〜」

職員室では、数学の教師は、答え合わせをしている最中。隣の席のぺんこうが覗き込んでいた。答案の端っこに『100』と書いていた。

「またですか」
「真北さんには、完敗ですね。実力テストもかなりの
 良い点数だったもんなぁ。しっかし、こんな生徒って、
 滅多にいませんよ。一体、どんな育ち方をしてるんでしょ」
「親が親ですからねぇ」
「あっ、刑事でしたっけ。それも敏腕の。先日お逢いしたときは、
 ほんと、厳しい雰囲気でしたよ」
「そうですか」

ぺんこうは、慣れている。

「…にしても、親友の野崎さんも、かなり
 成績が上がりましたね。驚異的ですなぁ」
「教え方ですよ」
「…って、山本先生…。私の教え方が悪いような言い方せんといて下さいよぉ」
「そんなつもりは…」

ぺんこうは、笑っていた。

今回も、オール5…か…。

真子の成績表を眺めるぺんこうは、本当に嬉しそうな顔をしていた。

「真北は、勉強が好きですから」
「そのようですね」

数学の教師も嬉しそうな顔をしていた。



夏休みが始まった。
真子は、勉強とビルの仕事を両立しながら、毎日を過ごしていた。

「八月十日から、二十日は、本部です」
「そだね。今年の法要は、出席できなかったから。お父様も怒ってるかなぁ」
「真北さんが出席してましたから、大丈夫ですよ」
「…私より、真北さんの方が好きみたいだからね!」
「そんなことはありませんよ」
「本屋ビルは、どこまで進んだ?」
「現在、内装が終わって、システムチェックに入ってるそうですよ」
「…ちょっと覗いてみよか」
「連絡取ります」
「駄目。こっそり行くの!!」
「……意地悪…」

そう言ったまさちんの脚に蹴りを入れる真子。

「いて…組長、そこは…」
「ご、ごめん…」

真子が蹴った場所は、二発の弾が撃ち込まれた傷跡だった。

「って、大丈夫ですよ!」
「…ったくぅ〜!!!」

まさちんは、真子をからかっていた。真子は、そんなまさちんの脇腹をこしょばしはじめる。

「く、組長ぉ〜止めて下さいぃ〜!!」



真子とまさちんは、AYビル隣の本屋ビルに来ていた。システムチェックしているエンジニアの後ろから覗き込んでいた。エンジニアは、少し緊張した様子で、仕事を進めている。

「組長、エンジニアが緊張しますから…」
「はぁい。見学していい?」
「どうぞ。ご案内致します」

それは、完全復帰して、以前より更に張り切っている須藤だった。

「組長、勉強の方は、どうですか?」
「なんとか、頑張ってますよ。一平くんは?」
「一平は、四苦八苦してますよ」
「たまには、息抜きもしないとぉ」
「組長もですよ」
「…息抜きしっぱなしですから…!!」

まさちんが横やりを入れたのに対して、真子が肘鉄を喰らわしていた。

「相変わらずですね」

須藤は、真子とまさちんのやりとりを見て、微笑んでいた。



阿山組本部。
真子は、墓参りを済ませ、笑心寺でしょうた達と遊び回っていた。真子は、しょうた達と遊ぶ時は、自分が、阿山組の組長ということを忘れ、子供に戻っているようだった。いや、実際、そうなのかもしれない。子供の時に、子供のように振る舞えなかった、振る舞うことがなかったからだ。まさちんは、少し離れた所から、真子達を見守っていた。そんなまさちんにしょうたが声を掛けた。

「まさちん兄さんも遊ぼうよぉ」
「私は、ちょっと…」
「鬼ごっこだよぉ。まさちん兄さんが鬼!」
「えっ?! いきなりですかぁ??」
「みんな逃げろぉ!!!」
「わぁ!!!!」

真子の声で一斉に逃げ回る。まさちんは、しょうた達を追いかけていた。そして、一人一人を捕まえて、高く掲げる。しょうた達は、すごく喜んでいた。




本部・まさちんの部屋。

「ったくぅ、無茶するからだよぉ」
「すみません…」

まさちんは、滅多に使わない筋肉を使った為、あちこちが筋肉痛になっていた。

「まだ、完全じゃないでしょ? 回復も遅いんだよ!
 …歳を考えないとぉ」

と、まさちんをマッサージしながら、真子が茶化す。

「…組長…一言多いですよ…」
「あったり前のことでしょ! はぃ、湿布貼るから服脱いでぇ〜」
「自分で貼りますから」
「こんな場所貼りにくいでしょぉ! ほら、早く!」
「し、しかし……」

躊躇うまさちんを無視して、真子は、まさちんのTシャツをはぎ取った。そして、うつぶせにして、背中と腰に湿布を貼っていった。

「はい、おしまい!」

パシッ!!

素敵な音が響き渡った。
まさちんの背中には、真子の素敵な紅葉のプレゼントが付いていた。

「組長っ!!!!」
「へっへっへ!!」

更にもう一発お見舞いしようとしたが、まさちんに阻止された。

「同じ手には引っかかりませんよ!!」
「ほな、蹴り!」
「それも無理です!」

まさちんは、真子の攻撃をことごとく阻止していた。弾みで真子を押し倒してしまった。

「……私の勝ちですね」
「まだぁ!!」

真子は、もがいていたが、まさちんの強力な押さえ込みをどうすることもできなかった。
その時だった。
ドアの方向から、かなり恐ろしいほどの殺気を感じ、真子とまさちんは振り向いた。
そこには、真北が鬼の形相で立っていた………。



「すみません……」

まさちんは、項垂れる。

「じゃれ合いも、姿を考えろ!」

真北の怒りは納まっていない。

「…すみませんでした…」

まさちんの上半身は裸。そんな姿で、真子を押し倒していたものだから、真北は、思いっきり勘違いをしてしまったようだ。

「ったく……。組長も来年は成人なんだからな」
「反省してます…」
「…で、組長にマッサージしてもらうって何を考えてるんだよ」
「……その痛がっているのを勘付かれて…。組長に脱がされました」
「年甲斐もなくはしゃぐからだ」
「真北さんまで〜」

まさちんは、ふくれっ面になっていた。

「三十路もそこまで来てるんだろ? …自覚しろよぉ」
「……そうでした…。忘れてました」
「ったくぅ」

真北は呆れたように項垂れる。まさちんは、頭を掻いて、反省していた。

「まさちん」
「はい」
「…真子ちゃんに手を出したら、例えお前でも、俺が許さんからな…」
「わかっております…」

真北の凄みに流石のまさちんも恐れてしまった。そして、真北は、部屋を出ていった。

「…橋先生の言うとおりやな…」

まさちんは、橋の言葉を思い出していた。



純一を筆頭に若い衆が、本部に帰ってきた。玄関先でまさちんの部屋を追い出された真子と逢う。

「お帰りぃ」
「組長!」

若い衆が真子を見て一斉に頭を下げていた。真子が不機嫌になったことに気が付いた純一は、その場を誤魔化すように真子に話しかけた。

「組長も今度ご一緒しませんか?」
「どこに?」
「カラオケですよ。喫茶・森の近くに出来たカラオケ屋さん。
 マスターの親友が経営してるので、毎日通ってるんですよ」
「売り上げの協力に??」
「はい。かなりの曲数が揃ってますよぉ」
「…私、唄…知らないけど…。学校で習うやつしか」
「えっ?!」

純一は、驚いたと同時に、真子の部屋を思い出していた。

「そう言えば…組長の部屋には、クラシックしかありませんね…」
「うん…。だけど、あれは全部ぺんこうのだもん」
「わかりましたぁ。CDお持ちします。どんな曲がお好みですか?」
「…わかんない」

真子の事がまた、少し解ったような気がした純一達だった。

「俺のお薦めあります!」
「俺も!」
「直ぐにお持ちします!」

若い衆が、急いで自分の部屋へ向かった。

「だったら、部屋に行く!」
「…組長、山中さんに怒られます!」
「大丈夫だよぉ」

そう言いながら、純一達の部屋へ向かう真子だった。そして、若い衆お薦めの唄を聴き入っていた。

「あぁ、これ、聞いた事あるぅ」

真子は、無邪気にはしゃいでいた。そんな真子と過ごす若い衆は、真子とはすっかり『友達感覚』に陥っている。真子も、同じ年代の者と過ごす感覚になっていた。

純一達の部屋が賑やかで、その中に真子の声がしていたことに気が付いた山中だったが、敢えて何も言わずに、部屋の前から去っていく。


暫くして、純一達の部屋から出てきた真子の手には、たくさんのMDが。
それは、若い衆が、真子が気に入ったと言った曲をダビングして、真子に持たせたMDだった。


「ねぇ、まさちん、ちょっとぉ」

まさちんの部屋の前で、真子が呼ぶ。
慌てて顔を出すまさちんは、真子が、手にしているMDを見て、首を傾げた。

真子は、自分の部屋に戻って、まさちんに品評会をし始める。
この曲は、誰の曲で…という風に、説明をしていたが、

「えぇ〜。まさちん、全部知ってたんだ…」
「どれも有名ですから」
「…私が、無知だったんだね…」
「それで…カラオケに行かれるんですか?」
「いつかね。今はほら、受験生だし…」
「明日、息抜きに行かれてみてはどうですか?
 純一達は、毎日行ってるんでしょう?」
「うん…。いいの??」

真子は期待に満ちた眼差しで、まさちんを見つめる。

「でも、唄えない…」
「聞くだけでもよろしいかと。雰囲気を楽しんでください」
「…まさちんも行くでしょ?」
「行きましょう」



そして、次の日。
少しドキドキしている真子を連れて、阿山組軍団が、カラオケ屋『DONDON』にやって来た。

「へぇ〜ここがカラオケ屋さんなんだぁ。へぇ〜」

真子は、キョロキョロしていた。

「おぉ、純ちゃん、今日もかぁ」
「今日は、大切な方も一緒ですよ」
「初めまして。いつも純一達がお世話になってます」

真子は、店長に深々と頭を下げた。

「初めまして。店長です。いつもありがとうございます。って、どなた?」
「阿山真子と申します。今日は、カラオケボックスの雰囲気を
 楽しみにやって来ました」
「…阿山真子…って、組長さん?!」

店長は、驚きのあまり、壁にへばりついていた。

「お前ぇ〜。真子ちゃんに失礼やぞぉ。やぁ、真子ちゃん」
「マスター。お店は?!」
「今日は定休日。そんな日は、ここでお手伝いですよ。
 お前、真子ちゃんは、真子ちゃんだから、普通にしろ」
「はぁ?!? っで、でで、でもぉ…」
「教育しておくから。さぁ、楽しんでください」
「はぁい!」

真子は、純一達と部屋へ入っていった。純一達の楽しそうな雰囲気にいつの間にか、真子も笑っていた。まさちんは、真子の隣に座って、曲の説明する。

「まさちんも、何か唄ってよ」
「…私、ですか?!」
「唄いなさい!!」
「…解りましたぁ」

真子の命令(?)でまさちんは、カラオケの本を手に取り、曲を入れた。
そして、まさちんの番が回ってきた。
まさちんの選んだ曲は、外国で有名な曲。唄声も発音も凄く綺麗だった。誰もが驚いていた。
まさちんが歌い終わった後、部屋中に拍手が響き渡る。

「その曲知ってる!! まさちん、よく口ずさんでたぁ!」

真子が叫ぶ。
まさちんは、照れたような表情で、真子の隣に座った。

「組長はどうですか?」
「私は、唄った事ないから…」
「…これなら唄えますよ、きっと」

まさちんは、真子のためにリクエストをした。

「組長、唄うんですか!!」
「待ってましたぁ!」

まさちんがリクエストした曲の前奏が流れた。真子とまさちんがマイクを持った。
真子は、前奏を聴いて、解ったのか、歌い出す。
その曲は、まさちんの車の中でよく流れている曲だった。
真子は、自然と覚えていたのか、まさちんに匹敵するくらい上手く唄っている。
真子の歌声に、純一たちは、うっとりとしていた。もちろん選んだまさちんも驚いていた。
歌い終わった真子に誰もが、盛大な拍手を送っていた。
真子は、嬉しそうな顔でまさちんを見つめていた。まさちんは、そんな真子に軽くウインクで応える。
真子の楽しみがまた、増えた。

「真子ちゃん、すごい上手いねぇ〜。また来てよぉ」

それは、カラオケ屋の店長だった。マスターにびっちりと教育されたのか、真子を普通の女の子として扱っていた。

「カラオケって、楽しいね。聞いてるだけでも楽しいのに、
 唄うと更に楽しいね!! 店長、また来ます! それと純一達を
 宜しくお願いします。騒動は起こさないですから」
「大丈夫ですよ。心強い味方です」

真子の笑顔に吊られたような感じで店長が応えた。
そして、真子達は、『DONDON』を去っていった。




夏休みも終わり、真子達受験生は、勉強にスポーツに、遊びにと忙しかった。真子には、プラス、ビルの仕事だったが…。

「組長、チェックお願いします」

その日は、本屋ビルへ商品が搬入される日。棚に納められる商品をひとつひとつチェックしていた真子は、とあるコーナーで留まっていた。そこは、学習コーナー。なんと、棚に並んでいた参考書を手に取り、勉強にのめり込んでいた。

「組長? 大切な時間を割いてまでほんとに申し訳ないと思いますが、
 今は、阿山真子ですよ。真北ちさとではありませんから。これ、お願いします」
「ん? あっ、ごめんなさい」

真子は須藤に言われるまで、すっかり仕事を忘れていた。そして、真子は、参考書を元に戻し、須藤の後を付いていく。

「…ここは、この方がいいかな?」

真子は、陳列担当と相談しながら、仕事をこなしていった。


真っ赤な紅葉が美しい季節がやって来て、あっという間に………。



(2005.12.8 第二部 第二十八話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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